五感が失われていく物語
2021年2月11日 12時47分
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総合評価:
4.0
なぞの感染症が世界を汚染していく物語です。
しかし、その感染症は致死力はありません。
その代わり五感が失われていきます。
物語の始めでは、深い悲しみに囚われ、臭覚を失います。
その後もなんらかの感情を抱いたのちに、少しずつ五感が失われていくという展開です。
人間というものは感性の生き物。
互いに交流し、想いを共有することで「生きがい」を感じるものです。
そんな中で、五感が失われていくというのは悲しく、怖ろしいもの。
最初の臭覚が失われていくところでも描かれているように「香り」は思い出に繋がるものです。
例えば、夏に小学校の近くを通ってプールの匂いを感じると、恐らく大抵の人は子ども時代を思い出すことでしょう。
五感を失うのは思い出を失っていくことに繋がっていくのです。
物語中に出てくる男女が、バスタブで戯れているとき、味覚も失われた彼らが石鹸を食べているシーンはどこか滑稽でありながらも悲しいものがありました。
臭覚も味覚もないわけなので、なにを食べても「感動」はないんですよね。
そして訪れる全ての感覚が失われていくとき。
その中で生きる人々が、どうやって互いの交流を生み出していくかは描かれていません。
どうか救いがそこにあってほしいと感じる作品でした。