映画ポップコーンの評価
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この映画「白い恐怖」は、フロイトの精神分析学をストーリーに大胆に導入し、人間の罪の意識をキーワードに、実験的映像で心の内面を抉った作品だと思います。 人間には多かれ少なかれ、幼児体験によって、自らを無意識に規制することが、ままあるような気がします。 このアルフレッド・ヒッチコック監督、イングリッド・バーグマン、グレゴリー・ペック主演の「白い恐怖」は、原題の「SPELLBOUND(呪文で綴られた)」が示すように、そんな幼児体験によって、無意識に"罪の意識"に縛られた男が、愛する者の協力によって、それを克服していく愛の物語になっていると思います。 とある精神病院に、新院長のエドワード(グレゴリー・ペック)が赴任してきます。 女医のコンスタンス(イングリッド・バーグマン)は、彼に次第に惹かれていくが、実は彼が本物のエドワードではなく、記憶喪失者であることがわかってきます。 やがて、彼に本物のエドワード殺しの容疑がかかるが、無実を信じるコンスタンスは、彼の記憶を甦らせようと、一緒に逃亡しながら、精神分析を駆使して真実を究明していくのだった----------。 1944年のこの作品「白い恐怖」は、アルフレッド・ヒッチコック監督が、以前から興味を抱いていたという、フロイトの精神分析学をストーリーに大胆に導入した、初めての心理学映画になっていると思います。 以後、彼の作品には、「サイコ」「マーニー」など、同系統の作品がしばしば登場することになりますが、特に精神分析学が"謎解きの鍵"となる心理サスペンスという点で、「マーニー」の先駆的作品になっていると思います。 しかし、当時としては斬新に見えたであろう、このストーリー展開も今の時点で見ると、正直、少し陳腐なものに見えてしまいます。 「濡れ衣を着せられた者の逃避行」だとか、「追われながら追う」と言ったヒッチコック作品の典型的なスタイルをとってはいるものの、フロイトの精神分析や夢判断を露骨に導入し過ぎているため、謎解きが定石通りであまりにも呆気ないのです。 このことは、後の「マーニー」にも言えることで、つまり、論理では説明不可能な人間の心理を多く見ている、我々現代人にとって、この作品のストーリー展開は、あまりにも物足りないのです。 ストーリー的な難点はまだあります。 グレゴリー・ペック扮するエドワードが、自分の正体がバレて、逃亡する時、イングリッド・バーグマン扮するコンスタンスに置き手紙を書きますが、「君に迷惑をかけたくない」と言っているわりには、ちゃんと自分の居場所を明記しているのは、ちょっとむしが良すぎるのではないかという気がします。 また、その置き手紙を病院の者が発見しても、気にせずバーグマンに渡すのも、何か間が抜けているように思います。 このような、いくつかのストーリー上の問題点があることで、この作品が現代の私を含む多くのヒッチコック映画の愛好者にとって、彼のフィルモグラフィーの中で、あまり重要な作品ではないのではないか?----------と。 だが、答えはNO! だと断言できます。 この作品は、ヒッチコック自身を語る上で、実に重要な作品の一つだからです。 この「白い恐怖」のキー・ワードは、「人間の罪の意識」だと思います。 実際、作品の中にも、精神科医エドワードの著書名、あるいは、バーグマンやペックのセリフの中などに「罪の意識」という言葉が、頻繁に出てきます。 このことから考えると、それはそのままヒッチコック自身の問題でもあったのではないか? 実際、彼は幼少の頃を振り返って、「幼い時から、悪いことをして罰せられることが一番の恐怖だった」と語っています。 厳しい戒律を重んじるイエズス会の学校で学んだヒッチコックは、そんな「罪に対する恐怖」を生涯持ち続けながら、"抑制と規律"の中に生きて来たのではないだろうか。 そして、それは多分、死ぬまで続いたのだろう。 だからこそ、このような映画を作って、自らを慰めたのだと思います。 このことを暗示するように、作品の中に次のようなバーグマンのセリフがあります。 「人はしたことのない事に罪の意識を、子供の時の空想を、現実と混同する事がよくあります----、それが大人になっても罪の意識として残る事があるのです----」と。 つまり、この作品は、そんなヒッチコック監督自身の内に秘めた「心の叫び」と「願望」が、色濃く出たものであり(以降、彼は後の作品でその傾向を露骨に表現するようになります)、自らサイコセラピーを楽しんだ作品なのだと思います。 バーグマンが、ペックに自分の恋心を素直に打ち明け、初めてキスをするシーンで、突然、幾重にも続いた扉が次々と開かれる映像へとオーバーラップします。 これは深読みをすると、ヒッチコック監督自身も、バーグマンが扮する女性のような、知的でクールなブロンド女性に、自分の心の扉を開いてもらいたかったのではないかと思えるのです。 スクリーンの向こう側で、安堵の表情を浮かべるヒッチコック監督の姿が見えてきそうです。 また、この作品に関して、あまりにも有名なのは、夢のシーンのイメージ・デザインをシュール・レアリスムの鬼才サルバドール・ダリが担当していることです。 これに関しては、ヒッチコック監督のたっての希望で、ダリが起用されたにもかかわらず、出来上がった作品が、余りにも極端で複雑過ぎたために、20分ほどあったシーンを、たったの1分20秒にまでカットしてしまったという逸話が残っていることです。
フランシス・ビーディングのカソリック宗教小説の、エドワーズが、このヒッチコック映画では、マーチスン(レオ・G・キャロルが演じている)に、そして、マーチスンはエドワーズになっていますが、他は、破綻無く、一級の映画作品。 特に、夢のシーンは、素晴らしい。 スクリーンプロセスで撮影の、スキー場でのシーンは、カソリック宗教学的です。 全体としては、ヒッチコックが演出したエクセレントなキリスト教映画、と論じることが可能な作品です。
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