善意だけでは癒せない、社会構造の問題を穿つ映画
2021年8月10日 23時41分
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総合評価:
5.0
明るいタイトルに反して、社会問題を告発しつつその解決の難しさが胸に迫る、切ない映画です(タイトルが合っていないのは大人の事情です)。
「犠牲者」であったり「犯罪者」であったり、分かりやすいはっきりとしたステレオタイプで人間を区分けるだけでは見えてこない「あわい」を捉えている、短いながらも迫力ある作品でした。
主人公の少年は、貧しいゆえに妹の大切にしているハトを売らなければなりません。それだけではなく、帰巣本能で家に帰ってきたハトをまた売るという、きわめてグレーな経歴を抱え込んでいます。ずるい心の持ち主ではないのに、しかしいつも間にか、ただきれいな存在ではいられなくなってしまう、何だかとても象徴的なシチュエーションです。そんな彼とその周辺の人々をめぐるこの物語は、それぞれの善意がなかなか報われません。
捨てと拾いを繰り返されて生きているこのハトには色々な象徴性を読むことができそうですし、情の深い登場人物たちの印象深いすれ違いのドラマとも相まって、良質の児童文学を読んだような気持ちになる映画でした。