映画ポップコーンの評価
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精神病院と監獄でその人生の大半を過ごした作家、マルキ・ド・サド。 サディズムの語源となった、この反骨精神に溢れた男の晩年を描いた、フィリップ・カウフマン監督の「クイルズ」。 その退廃的で卑猥な内容から、発禁処分を受けながら、権力に屈することなく、挑発的な作品を世に送り出す。 禁じられれば禁じられるほど、書くことへの執念が燃える。 周囲の人間を少しずつ虜にしていくサド侯爵。 だが、遂に彼を監視する目的で、精神病院の責任者が新たに送り込まれ、彼は窮地に立たされる。 サドの書くことへの執念は、果たしてどのような結末を迎えるのか?-------。 これだけ主役、脇役ともに芸達者が揃う映画も珍しい。 特に、主役のサド侯爵を演じるジェフリー・ラッシュは凄い。 本当は、観る前はちょっとミスキャストかなと思っていたのだが。 退廃的で猥褻なサド侯爵を演じるなら、ジェフリー・ラッシュは、確かに上手い俳優だが、色気が足りない感じがして、もうちょっと艶のあるタイプの俳優の方がいいのでは?と。 しかし、あにはからんや、観てみたら、イイんだな、これが!! あの鬼気迫る感じは、まさにラッシュならでは。色気も意外とあったりするのだ。 ペンと紙を奪われ、書くことを禁じられたサドは、まずはワインと鶏肉の骨を使ってシーツに書く。 それも禁じられれば、自らの指を傷つけ、その血で自分の衣服に書く。 衣服を奪われれば、獄中の狂人と小間使いのマドレーヌを使って、口伝えで文章を伝える。 そして、それが原因で恐ろしい事件が起き、拷問の末、遂に地下牢に全裸でつながれれば、自らの排泄物で壁に書く。 まさに凄まじいまでの情念なのだ。 18~19世紀に言論の自由を謳うのは、かくも命懸けのことだったのだ。 サドの言動に戸惑いながらも、彼に惹かれずにはいられない若き神父は、ミイラとりがミイラになってしまうのだけど、この徐々にサドを理解して傾倒していく様子が少し弱かったような気がする。 マルキ・ド・サドを心のどこかで理解しながら、愛するマドレーヌが非業の死を遂げて、悲しみと怒りで凄まじい行動をとり、遂には発狂する。 彼がこうなるプロセスを、もう少しじわじわと描くことが出来れば、ラストがもっと効果的だったはずだ。 サディズムの定義は、他者に苦痛を与えることで性的な快感を得ることだ。 その生涯で27年以上も牢獄暮らしをした、サド侯爵の本名は、ドナシアン・アルフォンス・フランソワ・ド・サド。 代表作は「ジュスティーヌ」「ソドムの百二十日」など。 「ソドムの百二十日」は、イタリアの鬼才ピエル・パオロ・パゾリーニ監督によって映画化されたが、まことに凄まじい作品だった。 美徳を知りたければ、まず悪徳を知ることだとはサドの名言。 言論の自由が、この作品の最大のテーマだが、かなり挑発的で見応えのある映画だ。
このレビューにはネタバレが含まれています
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