グロリア
組織から命を狙われていたジャックは同じアパートに住む女性グロリアに息子フィルを預ける。その後、ジャック一家は皆殺しに。一方、グロリアはフィルをつれてアパートを脱出。子供嫌いのグロリアは、一時はフィルを手放そうとするが、結局その子を連れて逃走を続けるハメに……。タフなヒロインの活躍を描くハードボイルド・ドラマ
女ハードボイルドの決定版「グロリア」は、タフで泣かせるラブストーリーの傑作ですね。 監督は、"アメリカン・インディーズの父"と呼ばれ、性格俳優としても知られる映画作家のジョン・カサヴェテス。 ハリウッドのシステムを嫌い、独自のゲリラ的な手法での映画作りの姿勢を貫いてきたカサヴェテス監督は、従来の映画には見られなかった、即興的なカメラワークと演技指導で映画に革命を起こした人ですね。 元ヤクザの情婦グロリア(ジーナ・ローランズ)とスペイン人の少年フィル(ジョン・アダムス)の関係は、母子愛的なものだが、二人が心を通わせていく様子は、大人の恋愛以上に絆の強さを感じさせてくれます。 グロリアは元々、子供とは縁のない世界で生きてきた女だ。 それが、同じアパートに住むギャング組織の会計士一家が惨殺された現場に居合わせたお陰で、その家族の少年を預かる羽目になる。 少年の母親の必死の頼みに、グロリアは最初こう言って断る。 「子どもは嫌いなのよ。特にあんたの子はね。」 実に、ハッキリした物言いの女だ。 孤独を引き受けてタフに生きる女は、優しさの安売りなど決してしない。 だが逆に、孤独を知っているからこそ、本当の優しさを心に隠し持っているんですね。 少年の生死を分ける切羽詰まった状況で、グロリアは少年を見捨てられず、彼をかくまってやることになる。 追って来る組織のチンピラどもに立ち向かうグロリアの凄み、これが非常にシビレるほどカッコいい。 「撃ってごらんよ、このパンク!」、ピストルを構えるその足元はハイヒール。スーツはエマニュエル・ウンガロ。 疲れた顔の中年女が、かつてこれほどクールだった事はなかったと思います。 全く、ジーナ・ローランズには痺れてしまいます----------。 安ホテルを泊まり歩く逃避行の中、グロリアと少年の信頼の度は、しだいに深まっていくのだが、グロリアの態度がこれまたクールなのだ。 少年に対して、可哀想な子供扱いは一切なし。 夜、寝る前に、自分のスーツをバスルームに下げてシワを取るようにと少年に言いつけたりする。 一方、少年の方は母親に言いつけられて、それをやるという感じではなく、何か同志のサポートをしているふうに見えてしまう。 一度、グロリアが少年に朝食を作ってやろうとする場面は、私がこの映画の中で最も好きなシーンだ。 フライパンで卵を焼いてはみたが、コゲついてしまい、グチャグチャになってしまう。 すると、いきなりフライパンごとゴミ箱に投げ捨てるグロリア。 結局、朝食はミルクのみ----------。 コワモテの女の優しさが乱暴な形で出るところが、いかにもグロリアらしくて、実にグッとくるのだ。 この映画は、ハードボイルドの衣をまとった「家族の物語」だと言えると思います。 グロリアと少年フィルの関係を通じて、カサヴェテス監督が描こうとしたのは、人種や血縁の壁を超えた、新しい人間関係の可能性と、その温もりだと思います。 彼らの背後には、大都市の"残酷と孤独"が、身も心も引き裂かんと牙をむいて待ち構えている。 そして、その厳しさを描き切ったからこそ、"幻想的なラスト"が、私の心に深い余韻を残したのです。 尚、この作品は、1980年度の第37回ヴェネチア映画祭で、作品賞にあたる金獅子賞を受賞していますね。
スティーブン・スピルバーグが絶賛しなかったら 文字通りお蔵入りとなっていたらしいこの映画は、 監督のジョン・カサヴェテスの中では一番エンタメ寄りの映画だが、 文句なく面白い。 マフィアのボスの元情婦であったグロリアが自分の意図とは反することに 巻き込まれていく話であり、その時点で面白いのだが、 マフィアという男社会に対して女のグロリア、組織対個人、大人のグロリアと子供、 女のグロリアと男の子供、白人のグロリアとマノリティの子供等、 この映画の構成要素は全て対照的なもので描かれており、 それが物語の面白みを深める事に大きく貢献している。 この論法はリュック・ベッソンが「レオン」でも使っているが、個人的には やはりこの「グロリア」の方が数段うまくいっているように思える。 この映画といえばやはりグロリアが銃を構える画が有名だが、 子供をかばうようにして自分を盾にしている構図がグッとくる。 オバサンなのにカッコイイ。カッコイイといえば、グロリアの登場シーンもそうだ。 ドアを開けた時に立っているバスト・ショット。それだけなのに、カッコイイ。 もちろん、ラストでタクシーから降り、少年を抱き上げるところもカッコイイ。 日本でこれだけカッコイイ中年女優、もしくは中年女優をカッコよく撮れる監督は いるのだろうか。
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