映画ポップコーンの評価
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この映画「マラソンマン」は、1970年代を代表するサスペンス映画の傑作です。 何しろ監督が「真夜中のカーボーイ」のジョン・シュレシンジャー、原作・脚色が「大統領の陰謀」のウィリアム・ゴールドマン、撮影が「明日に向って撃て!」のコンラッド・L・ホール、主演が「レインマン」のダスティン・ホフマン、共演が「探偵スルース」のローレンス・オリヴィエ、「オール・ザット・ジャズ」のロイ・シャイダー、「ローリング・サンダー」のウィリアム・ディヴェイン、「ブラック・サンデー」のマルト・ケラーというように、超一級のスタッフ、役者が勢揃いしていて、もうこれだけで、映画的興味をそそられ、しかも、サスペンス映画ときてますから、映画好きにとってはたまらない映画です。 とにかく、1970年代のサスペンス映画というのは、冷静に考えてみると大風呂敷を広げた、壮大なホラ話であるのにもかかわらず、思わず背筋を正してジッと見入ってしまうものがほとんどなのです。 作品が作り手たちの思惑を超えて一人歩きし、"メッセージ性を持った社会派映画"などと高く評価されたり、1977年の「ブラック・サンデー」のように、政治色が強いと解釈され、上映禁止の憂き目を見たという事実など興味深いものがあります。 ジョン・シュレシンジャー監督が手掛けた、この「マラソンマン」も、そんな"壮大なホラ話"の一本であり、現代ニューヨークの超高層ビルの間隙をぬって、ナチスの残党が暗躍するという、大時代的な"怪奇探偵小説"の世界をサスペンス映画として展開してみせた作品です。 しかし、映画の中でナチスの残党に「この国(アメリカ)は豊かだ。だが近頃では神にも見捨てられてしまった」などと言わせているあたりが、一筋縄ではいかないところです。 しかも、マッカーシーの赤狩りで父親を失くした青年を主人公に据え、ナチスの残党と一騎打ちをさせるという設定が、かなり屈折しているなと思います。 そしてまた、そのようなところが、いいようのない翳りと、いかがわしさを、この映画に醸し出し、作品の魅力になっているような気がします。 名門コロンビア大学で専制政治という歴史学を専攻するベーブ(ダスティン・ホフマン)は、アベベに憧れ、セントラル・パークをマラソンするのが日課という生活を送っています。 一方、彼の兄シーラ(ロイ・シャイダー)は、アメリカ政府の諜報員で、ナチスの生き残りであるクリスチャン・ゼル(ローレンス・オリヴィエ)に接近し、味方のふりをして戦犯の逃亡先を探っていました。 このゼルは、第二次世界大戦中に捕虜たちから大量のダイヤモンドを賄賂として受け取っていて、終戦を迎え、ウルグアイにその身を隠したが、あらかじめニューヨークの銀行にダイヤを保管しておき、時折、兄のクラウスとシーラを運び屋にして、闇のルートで売りさばいていたのです。 ところが、クラウスが事故死したため、ゼルがダイヤの安否を確認するためアメリカにやって来ます。 その後、正体を見破られたシーラは致命傷を負わされ、ベーブのもとで絶命します。 更に、物語は密売の秘密を知っていると誤解されたベーブが、ゼルとその一味に捕らえられ、映画史に名高い、"過酷な拷問"を受けてしまいます。 この拷問シーンは、本当に痛い、ヒリヒリするほどの痛さを主人公のベーブと一緒になって、感じてしまいます。 そして、命からがら脱出したベーブは、ただ一人、兄の仇討ちを開始する事になります--------。 主演のダスティン・ホフマンは出世作の「卒業」でも、元中距離走の選手という青年を演じていて、あの時は炎天下、愛する女性を取り戻すために走ったのですが、この作品のクライマックスでは、深夜、濡れた舗道の上を絶望的なまでに、延々と疾走する事になります。 悪魔から逃れるために--------。 そんな彼の姿を捉えた、撮影の名カメラマン、コンラッド・L・ホールによる撮影は異様なほど美しく、我々観る者を圧倒してしまいます。 名優ローレンス・オリヴィエは後年、自身の出演作の中で最もこの作品が好きだと語っていましたが、ほとんど完璧とも言える演技を示していて、さすが1900年代の最高のシェークスピア役者だと言われるだけあって、その深くて味わいのある演技は最高です。 ダスティン・ホフマンが最高の役者だと賞讃し、彼と共演する事を夢見て、遂にその実現を果たした、ローレンス・オリヴィエという役者----、本当に凄い、凄すぎる本物の役者です。
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