冷たい熱帯魚
熱帯魚店を営んでいる社本(吹越満)と妻の関係はすでに冷え切っており、家庭は不協和音を奏でていた。ある日、彼は人当たりが良く面倒見のいい同業者の村田と知り合い、やがて親しく付き合うようになる。だが、実は村田こそが周りの人間の命を奪う連続殺人犯だと社本が気付いたときはすでに遅く、取り返しのつかない状況に陥っていた。
日中はぼそぼそと熱帯魚の世話と店番、家に帰れば食卓に並べてあるレトルトものや冷凍食品を無理にでも完食。小さな水槽の中を泳ぎ回っているかのような主人公・社本信行を、吹越満が中年男性の悲哀を滲ませながら演じていました。再婚相手の妙子ばかりではなく、実の娘・美津子の顔色までおどおどと伺っているようでは父親の威厳がありませんね。 そんなパッとしない社本とは正反対なのが村田幸雄で、底抜けに明るく饒舌で経営者としても見るからに器の大きさが違います。ある日突然に社本一家に急接近してきたかと思ったら、あっという間に村田のペースに巻き込まれていきもう後戻りは出来ません。 警察官であろうと反社会的な人たちであろうと、巧みに言いくるめてしまう口の達者さには呆れてしまうばかり。邪魔する者は次々と「透明」にしていく村田にも、幼い頃に植え付けられた死後の世界への畏れだけは消せなかったはずです。映画の前半ではおどおどと村田に支配されていた社本が、別人のように豹変する瞬間も見逃さないでください。
このレビューにはネタバレが含まれています
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