自己同一性の問題に、真摯に切り込んだ名作
2021年8月19日 19時46分
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総合評価:
5.0
あまりにも有名な作品ですが、もしかしたら、あらすじにあるシチュエーションにゾッとできる人ほど、反面、深く考えさせられてしまうような作品なのではないでしょうか。
肉体が変貌し、思考もだんだんとおかしくなっていってしまう時、一体どこまでその人をその人と認め続けることができるのか、という問題に挑んだ名作です。
蝿男になってしまう過程は、肉体の変化のような目に見えるものとしてだけでなく、少し言葉のノリがおかしい、とか、良かれと思う気持ちが先走って配慮ができない、とか、心や振る舞いの問題としても描かれています。それは、肉体の変化とともにもはや別の精神しか持てないということなのか、それとも、肉体の変化に対する彼自身の人間らしい精神の応答なのか。
自分を自分たらしめる、その人をその人をたらしめる、同一性の際は一体どこにあるのか、などとつい考えさせられてしまう作品です。色々な解釈ができそうで、しかもとてもストレートに泣けるという、ストーリーテリングの力に溢れた素晴らしい映画です。