リアルな内戦ロードムービー
このレビューにはネタバレが含まれています
2024年10月22日 19時07分
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総合評価:
4.0
アメリカの内戦をジャーナリストたちの視点で描いたロードムービーで、リアリティと臨場感と緊張感あふれる見どころの多い作品だった。
最初から最後までジャーナリストたちが目撃するエピソードで構成された物語なので、直接的な内戦の原因や、どっちが悪でどっちが正義とかはほぼ描かれない。
つまり、なぜ国内でこんな大規模な戦闘になっているのか、観客は終始わからないまま、各地で起こる様々な出来事を追体験していく。
もちろん、作り手はあえてそう描いていて、内戦の原因も含め、各地での出来事について観客にいろいろと考えてほしいのだと推測する。
だが、この説明のないあたりが「思っていた映画と違う」とか、「何が言いたいかよくわからない」などの感想が出るところだと思われる。
とくに日本人にとっては、アメリカの国内情勢を多少なりとも理解した上でないと伝わらない部分も多いと思う。
例えばリベラル層の多いカリフォルニア州と、保守派の強いテキサス州の左右両極端の州が連合を組むというありえない設定にして、観客が左右の思想関係なく映画に入り込めるようにしていたり。(あるいは、なぜ連合を組んだのか考察を促す意図もありそう。)
また、内戦の要因でもありそうな、3期目に入った大統領(本来は2期8年まで)がFBIを解体したり、記者のインタビューをずっと拒否していたりして、独裁的であることが会話の中でサラッと示されるが、これも日本人だとピンとこない人もいると思った。
このあたりを少し理解していると、左右の分断が広がり、トランプ支持者による議会襲撃事件も起きたアメリカでは、それなりに現実味を持って観られていた映画だと想像する。
とにかく、各地での内戦描写が非常にリアルに感じ、実際に内戦が起きたらこんな感じになるんだろうなの連続だった。
ガソリンスタンドの人々、内戦に無関心な町(全ての傍観者の象徴か)、廃墟テーマパークの攻防、赤メガネの軍人、そしてワシントンDC、最後の最後までイヤな緊迫感で満ちていた。
そして、A24最大の製作費だけあって、ラストのワシントンDCの攻防戦は圧倒的迫力で、銃声や砲撃の音も本物の戦場にいるようであった。
また、ベテラン戦場カメラマンのリーと、彼女に憧れて同じ道を進もうとするジェシーの物語も良かった。
駆け出しのジェシーは各地で経験を積みながら戦場カメラマンとして成長し、戦地である種の高揚感に包まれていくのと反対に、ベテランのリーは今までの経験から来るPTSDのような症状が出て、最後の方は戦場で怯えてしまう。
そしてラスト、撃たれて倒れるリーをジェシーがカメラで捉える瞬間、リーからジェシーへ戦場カメラマンとしてのバトンが受け渡されたように思えた。
その後、ジェシーは撃たれたリーよりも、捕らえられた大統領を優先する。
ジャーナリストとしてはそれが正解だが、この先、「人としての倫理観」との軋轢に悩むことになるだろう。
いつかまた、ジェシーもリーのような運命を辿るのだろうか…。