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引用:IMDb.com

君の名は。のライムスター宇多丸さんの解説レビュー

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2020年06月29日更新
好むにしろ好まざるにしろ、絶対一見の価値は(ある)、今この時代を生きててリアルタイムでこれはとりあえず観ておいた方が、絶対いい作品だと思います。その上であーだこーだ言ってこそ、というかね。様々な見方あると思いますので、それの補助線に本日の評がなればと思っております。(TBSラジオ「アフター6ジャンクション」)

RHYMESTER宇多丸さんがTBSラジオ「アフター6ジャンクション」(https://www.tbsradio.jp/a6j/) で、新海誠監督の日本のアニメ映画で世界歴代興行収入1位となった作品「君の名は。」のネタバレなし解説レビューを紹介されていましたので書き起こしします。 
映画視聴前の前情報として、また、映画を見た後の解説や考察レビューとして是非ご参考ください。 

宇多丸さん『君の名は。』解説レビューの概要

①内省的なモノローグが折り重なる"童貞くささ"・・いわゆる"○○系"
②今までの作品と違う・・"○○力"と、徹底したチューニングの勝利。
③監督の色はそのままに、ポップ・キャッチー化している。
④盛り上がる要素がてんこ盛り故に、話の"あり得なさ度"が高め。
⑤アニメとしての完成度は異常に高い。
⑥大林宣彦版とは違う、○○を讃えてるエンディング。

※○○の中に入る文章は、この記事の1番最後で公開しています。 TBSラジオ「アフター6ジャンクション」でラジオ音源を聞いて頂くか、書き起こし全文をご覧頂くか、この記事の1番最後を見て頂 く事で判明します。 

映画『君の名は。』宇多丸さんの評価とは

宇多丸:
『雲のむこう、約束の場所』『秒速5センチメートル』などで知られる、アニメーション映画監督新海誠の、3年ぶりとなるオリジナル長編作品。1000年ぶりとなる彗星の接近を前に、田舎で暮らす女子高生と都心で暮らす男子高校生の心が入れ替わり、やがて2人の運命の秘密が明らかになる。
声の出演は、神木隆之介、上白石萌音、主題歌を音楽はロックバンドのRADWIMPS--今流れてますね--が担当したということでございます。
ということで、非常にもう、記録的・・記録的大ヒット。恐らくもう、ほんと日本映画史のトップに残っていくような記録的大ヒットになってる本作、社会現象的に扱われております。ということで注目度も高いということなのか、この映画観たというリスナーの皆様(ウォッチメン)からの監視報告、メールなどでいただいているのですが、量が・・めちゃめちゃ多い〜!!物理的にも、そして気持ち的にも重い〜!重すぎる!
『シン・ゴジラ』と並ぶ今年最多クラス。プリントした紙は500ページ近く。もうこれ自体で大著になってしまうという。10代から20代の若い人からの投稿が目立つ。ほんとに劇場もね、若い人多いです。
概ね若い人たちの意見は好意的なものでした。ただし、全体の感想は、賛否の比率で言うと、"賛"が50%、"否"ちょっと良くなかったっていう方が30%、"良いところもあれば悪いこともある"が20%。つまり『シン・ゴジラ』ね、非常に量多かったという意味では同じなんですが、『シン・ゴジラ』は"賛"(褒めてる方)が圧倒的に多かったのに比べると、かなり割れています。

「映像がとても綺麗」
「ストーリーは粗がある」

というのは誰もが触れている2大トピック。ストーリーの粗が許せるかどうかで、この映画にノれるかノれないかが分かれている様子。また、RADWIMPSの音楽の使い方についても好みの差がはっきりと出ていたということでございます。

ということで、皆さんこんな分量送っていただいて代表的なところしか紹介できないのは申し訳ないんですが、ちょっと代表的な褒めとけなし、紹介していきましょう。
褒めてる方。

引用:IMDb.com

映画『君の名は。』を鑑賞した一般の方の感想

(メール紹介)タン:
『君の名は。』ですが、まず、公開日のレイトショーと翌日のお昼、間を空けて2度、計4回も観てしまいました。
初めの感想としては、なによりも安藤雅司(宇多丸:これね、作画監督。私も後ほど言いますけど。)という才能がいかに巨大であるかを思い知らされる作品と感じました。
これまでの新海誠監督作品は鑑賞済みでしたが、やはりアニメーションとしての動きの質、純アニメーション的な感応性、そう言った部分の到達度の低さが気になってしまい、苦手な作風と認識していました。しかし、今回の『君の名は。』では、上記した気になる部分が完全に補完されており、印象としては「これを新海誠作品と呼んで本当に良いのだろうか?」と戸惑うほど素晴らしいアニメーションでした。技術的にね。4度も観てしまった理由はそこにあると思います。
そして構成に関しては川村元気さんの言葉通り、紛れもなく新海誠作品のベスト版であったと。(宇多丸:そっか、川村さんこうやって言ってるんだね。OKOK。後ほど、私もそれに近いようなことを感じたので言ってしまいましたが、なるほど。)
監督自身が、周りから求められている新海誠らしさを全開にして、てらいなく最後まできっちり押し切っているように感じられ、『シン・ゴジラ』に似た爽快感を感じました。観ていてすごく気持ち良かったです。(宇多丸:そっか、『シン・ゴジラ』も庵野さんが自らの"庵野性"を全開と。)
『君の名は。』が、これまでの日本のメジャーアニメ映画とは少し異なる、ミュージックビデオ風のエンターテインメント作品であることは誰の目にも明らかとは思うのですが、全く同じことをもう1度はできないだろうし、次作が大変そうだな、とも思ってしまいます。宮崎駿監督史で例えるのなら、商業ベースに乗った、メジャー映画化したという意味で、丁度『魔女の宅急便』にあたるのが、本作『君の名は。』であるという印象です。今後も期待して待ちたいです。

宇多丸:
ということでございました。
一方、ダメだったという方。

映画『君の名は。』批判的な意見

(メール紹介)地獄パンダ:
宇多丸さんこんばんは。「ついにこの時がきた!」と思いメールさせていただきました。
鑑賞後、周囲がすすり泣き、むせび泣く中、「新海、お前が作りたかった映画はこんなものか!」という怒りが沸きあがり、目から血の涙を流す勢いで劇場を後にしました(宇多丸:ゲキしすぎだろ!)。
正直「別にそこまで見せなくてもよいのに」というシーンの連発で、観ている間幾度となく心が挫けそうになりました。特に、終盤に出てくる手のひらに書かれたメッセージや、陸橋・階段でのシーンなど、わざわざ見せなくても鑑賞者の想像力で補えばよいところまで描かれていた点・・監督の過去作である『秒速5センチメートル』では、観終わった後に、キャラクターのその後を想像させる余韻が残っていたと思いますし、キャラクターデザインも背景に溶け込むようなタッチで、個人的にかなりハマった作品でした。
一方、本作では、鑑賞者に対して1から10まで説明するような長々とした台詞や場面描写。今売れるキャラクターデザインなどを含め「はい、ここ感動シーン。ほぼ泣いちゃうでしょ?」と言った感じ「お前らこういう設定が好きなんだろ?」といった、鑑賞者に日和った感じが透けて見えてくるようで、それがちょっと心地悪かった。「監督自身のそこはかとなく童貞感を感じさせる作家性はどこにいってしまったんだ!」と思い、ガッカリしました。

宇多丸:
「童貞の新海誠はどこにいったんだ!」っていうね(笑)。
まあファン故の(ダメだし)っていうのはあるんでしょうけど。ある意味皆さん、褒めてるところとけなしてるポイントがほんとに背中合わせっていうことはあるかもしれません。同じことを言ってるってことがあるかもしれない。

引用:IMDb.com

『君の名は。』宇多丸さんが鑑賞した解説

ということで、『君の名は。』私も・・ちょっと今週忙しかったのもあって、すいません、2回しか観れてないんですが。TOHOシネマズ六本木で2回観て参りました。ほんとに大半が若い人たちで、非常に埋まっておりました。
新海誠さん。まあラジオ聞いてる方は当然、新海誠さんアニメ1作も観たことない、聞いたこともないっていう方も一杯いらっしゃいますので、ちょっと説明させていただきますけど。『ほしのこえ』という短編で、ほとんど1人で作り上げた、まさにデジタル時代ならではのアニメ作家。新海誠さん、『ほしのこえ』で2002年、鮮烈なデビューをして以来ですね、非常に作家性が強い・・要は、アニメっていうのは共同作業でね、いろんな人が職人的な手が入ってようやく出来上がるっていうのがアニメなんだけど、本来は。デジタル時代っていうこともあって、非常に作り手個人の色が濃厚に刻印された、故に一部に熱狂的な支持者を生むような作品を作ってきた方ですよね、新海誠さん。

"赤い糸ファンタジー"

で、その作家性っていうのを、僕なりの言葉によって、例によってざっくりと表現してみるならば、今回の『君の名は。』もまさにそうですけど・・身もふたもない言い方をすればですけど、"赤い糸ファンタジー"ですよね。つまり、運命的な関係性を持つ相手っていうのが世界のどこかにはいると。この運命的な関係、つまり、無条件の結びつきを持ってる。そこの結びつきには理由はないってくらい、ガッ!ていう結びつきがある。それは、もちろん恋愛であったりするんだけど、単なる恋愛相手というよりは、最早、自分の生、自分の存在そのものに決定的な意味を与えてくれると思えるような、そういう相手ということですね。そんな運命の人と、時空を隔ててすれ違う、と。まあこういう話ですよね。
彼らを取り巻く"世界"の巨大さとか、無常さっていうのが、主人公たちの運命的な結びつきという非常に極めて個的な"セカイ"。その物語の切なさっていうのを際立てるための背景として、世界の酷薄さっていうのは巨大ないろんな問題があるんだけど、それを背景として描かれるというようなこと。

引用:IMDb.com

「現実の大人的な"世界"vs真実の、自分たちがいる本来ありうるべき"セカイ"

要は、「現実の大人的な"世界"vs真実の、自分たちがいる本来ありうるべき"セカイ"」的なこの対比という。
定義はいろいろあるようですが、厳密な定義っていうのは中々難しいようですが、いわゆる"セカイ系"っていうのの代表的な作家ということに一般的になってるっていうのは間違いない。
で、内省的なモノローグが折り重なって・・さっき『ババァ、ノックしろよ』のコーナーで私が試みて大失敗した、内省的なモノローグが折り重なっていって、なんか声がワッて重なって。今回もやってましたけどね。ちょっとこう、演劇的なそういう演出、台詞演出なんかも印象的だったりとかして、良くも悪くも・・これ良くもの部分もありますよ。「だからいい」ってとこもあるんだけど、まあ青くさいっていうか。まあはっきり言ってさっきのメールにもあったと思います。やっぱね、これは言い訳の余地なく童貞くさいっていう。

童貞くさい世界観

童貞くさい世界観、価値観であるってことは確かだと思いますね。要はその、リアルに男女間のグジョグジョとかそういうのを積み重ねてくると、ちょっとそこまでそんなセンチメンタルに浸ってもらえないかな?みたいな。『ブルーバレンタイン』の世界入っちゃってるかな?みたいな。まあ良くも悪くも童貞くさい。いずれにせよ、これアニメならではの抽象化がなされてこそ成り立つ作風だと思うんですね。これ実写でやられたらキツいよこれ。まあ、抽象化がすごく働いている作風だとは思います。
ただ、そういういわゆる"セカイ系"的なセンチメンタリズム・・僕今からかうような感じで言っちゃってますけど、もともと若者っていうのは普遍的に抱きがちなセンチメンタリズムだとは思うんですよ。要は、若者っていうのは昔から"セカイ系"だよ!というのもあると思うんです。それは即ち、言ってみれば全員・・大人だって昔は若者だったわけだから、大人にとっても普遍的な、例えばノスタルジーを喚起するあり得たかもしれない可能性を巡るファンタジー・幻想ということでのお話でもあるわけで。僕の定義で言うと、青春っていうのは、"可能性が開かれた状態である"という定義。これ2013年3月24日にやった『横道世之介』評をもう1回チェックしていただければ。青春っていうのが、可能性が開かれた状態だとするならば、さっき言った運命の2人っていうのは、すれ違い続ける限り、その人たちの青春は完結しないとも言える、ということです。そのすれ違う2人の背景に、美麗に描きこまれた自然とか都市の風景。これがまたこの中ですれ違う主人公たちの儚さ・切なさをリリカルに際立てるという。まあそんな感じの作風でございます。だから、浸るとたまんない!っていうね、そんな新海誠作品。

引用:IMDb.com

主役の声を務めている神木隆之介くん

僕も一応前作観ているんですけども、個人的には、神木隆之介くん--今回主役の声を務めている--も大ファンだという『秒速5センチメートル』が、1番僕、新海誠作品として濃いっていうか。1番、童貞マインド故の自虐センチメンタリズムが、ここまで・・いくとこまでいくと、甘美でしかない。もう、「打ちにいくときは秒速5センチメートル」っていうね、この感じ僕は好きだったりするんですけど。
ただ、新海誠さん自身、ここ数作・・例えば『星を追う子供』とかでは、自らのカルト的な作風故のある意味枠組みっていうか、そういうのを意図的に乗り越えていこうという試行錯誤も、ここ数作は続けている。そういう節もあったと思ったんだけど。
そこで今回の『君の名は。』ですがね。まず言えるのは、本作はやっぱり、今までの新海誠さんのフィルモグラフィーと並べるともうはっきりするのは、プロデュース力ですよね。プロデュースすげぇ。そして徹底したチューニングの勝利。チューニングって言葉、今日一杯出てきますけど、チューニングの勝利だと思います。

「ベスト盤的だな」

やってること自体は、ある意味これまでの新海誠作品の集大成。川村元気さん自身言ってるんですよね。俺川村さんの発言のインタビュー、ちょっと見落としちゃったみたいだけど、俺もこう思ったんですよ、現に。「ベスト盤的だな」という風に思いました。
言うまでもなく、時空を隔ててすれ違う運命の2人の話ということで、"ザ・新海誠"っていう感じだし。その運命は現実世界の巨大かつ深刻な命運とも直結している。もうこの"直結している"っていうのがもう、言い訳の余地なく"セカイ系"ですし。あと、例えば絵面的に、巨大クレーターであるとか、異なる次元にいる者同士がある1点で接触を果たすとか。
例えば『雲のむこう、約束の場所』を中心にした既視感のある画とか展開っていうのがやっぱり多かったりとか。シンボリックなまでに美しく描きこまれた自然や街並みの中ですれ違う2人みたいな・・ね、電車がこう、すれ違って、とかね。まさに『秒速5センチメートル』的でもあるし。

引用:IMDb.com

新海監督の前作『言の葉の庭』

あと、学校の先生が実は、新海監督の前作『言の葉の庭』のヒロインの先生--雪野さんでしたっけ--だったとかそういうフィルモグラフィー的な連続性もあったりなんかして。要は、新海誠さん作品としての本質は、実は何ひとつ変わってないわけですよ。全然「新海誠っぺぇ!」っていう要素ばっかりなんだけど、ただ今回の『君の名は。』は、そのエッセンス(本質)はそのままに抽出しつつ、それらを丸ごとポップ・キャッチー化してるという作品ですね。
そして、まさにその狙い、非常に俗っぽい言い方をさせてもらうなら、「新海誠に元からあったウケる要素を、より広い範囲に届きやすいようチューニング(ブラッシュアップ)する」という狙い。これが、これ以上ないほど大成功したということですね。現に成功してるわけだから、もう否定しようもないということですね。まず、もう画そのもの、画面そのものが、これまでと比べてあきらかに、格段にポップですよね。キャラクターデザイン、田中将賀さん、この番組でもね、『心が叫びたがってるんだ。』2015年10月、丁度1年前くらいにウォッチしましたし。

『あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない。』

『あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない。』とかの田中将賀さんが、今回はキャラデザインだけやってる。要は、いわゆる現行アニメファン好みの、言ってみればコア層にも訴求するような。要するに今のアニメの1番ウケる感じのテイストを・・先程メールにも名前あった通り、安藤雅司さんという方が作画監督。ジブリ作品でずっと知られる方。安藤雅司さんが、言ってみればジブリ的・国民的アニメのセンスで動かす。つまり、今のアニメファンがすごく喜びそうな画のテイストをジブリ的な、国民アニメ的なテイストで動かすという、絶妙なバランスから生まれる、言ってみれば、華と品の両立というか。華と品が見事に両立した作品トーンみたいなことだと思います。
あるいはその逆もあって、ジブリ出身のスタッフの方々が結構多くて、当然。で、その画を作画監督の安藤さんが、さっき言った田中さんのキャラクターの画にぐっと引き寄せてやったりとかいうようなことを、監督自身がインタビューで仰ってたりするんですが。とにかく、まさに座組の勝利というか。要はプロデュースの勝利ですね。「こういう座組でやりましょう」という、プロデュースの勝利。ことほど左様にというか、今言ったようにですね、今回の『君の名は。』は、日本アニメの現行トップスタッフ、現行トップランカーが集結して、技術的にはほんとに最高クオリティを達成している作品だと思います。僕は何よりそこが評価の大前提だと思いますね。僕もう、劇場で観てて、「うわぁ、画すげえな、まずアニメとしてすげえな。日本型アニメのある意味到達点だなこれ。」みたいな。好みとかはともかくとして。

引用:IMDb.com

縁の下の力持ちは同じっていう可能性

先程古川さんとその話をしてて、さすがアニメライターということで、「ひょっとしたら日本のトップ興行収入のアニメを並べてみると、意外と、作画とかアニメーターとかそういうスタッフは、意外と縁の下の力持ちは同じっていう可能性あるよ」っていう。「モータウンにおけるファンクブラザーズとかそういうことありうるよ」なんてね、話もしてましたけども。あながちそれも嘘じゃない。そういう意味では新海誠という非常に個人的な作家に、日本アニメの、もう、総力戦みたいな力が加わったと。
例えばクライマックス、走るヒロインの三葉が、坂道で転んでコンクリートの上でボーンってバウンドする。あれ劇場でハッて息を呑む声があがるほどすごいスリリングな画でしたけど、あそこ、監督インタビューによれば『人狼 JIN-ROH』とか『ももへの手紙』の沖浦啓之さんが担当していると。で、コンテ通りのはずなんだけど、何倍にもエモーショナルな画になったと。なるほど、あそこの画確かに素晴らしい画だったな、とか。

『言の葉の庭』

あとは、『言の葉の庭』にも参加していた土屋堅一さんがいればこその日常生活芝居っていうのができたんだっていうことを監督も仰ってて。そんな感じで、とにかく華と品を併せ持つ画の圧倒的ポップさ、質の高さ、まずこれがあるわけですね。それに加えて、作品としての作りも、まあもう格段にポップですよね。新海作品のトレードマーク、さっき言った、暗い感じの内省的なモノローグが折り重なって・・今回もやってるんですよ。いかにも"セカイ系"的な、そういうことももちろんやってるんだけど、分量とか扱いどころはかなり抑え気味になってて。その代わりというべきか、例えばド頭。RADWIMPSの曲にのせて、ほんとテレビアニメのオープニングですよね。完全にテレビアニメのオープニング風に、その後の物語展開を予告したり暗示したりするような画が、テンポよくポンポンポンポンって出てくるっていう。

引用:IMDb.com

『秒速5センチメートル』

前から、それこそ『秒速5センチメートル』とかでも、J-POP--山崎まさよしですよね、あれはね。--にのせてのミュージックビデオ的編集で一気に情緒的に盛り上げるみたいなことは前からやってたんだけど、今回それがRADWIMPSだけあって、非常に、格段に今風なポップになっているし。しかも、オープニングと中盤、クライマックス、あとラストからエンドロールと、とにかく「ここぞ!」というところで、歌詞と物語が微妙にシンクロした・・要は、これ用に作ってるから当たり前なんだけど、これ用に作ったという意味で、非常に歌劇というか、ミュージカル的でもあるようなRADWIMPSの曲が印象的に流されたりもするので、全体に音楽的な勢い・テンポで盛り上げどころを一気に、半ばちょっと強引にでも持っていく感が強い。先ほどのメールにもあった通り、非常にミュージックビデオ的なテンポ感で持ってかれる作品になっていると思います。あと、前半がもろに『転校生』ですよね、大林宣彦の『転校生』な男女入れ替わりモノ。カルチャーギャップコメディとして--今回は特にそう、"都会と田舎"っていうね、カルチャーギャップ。ジェンダーとかよりそっちの方が強かったりしてますけどね--楽しませると。

新海誠作品の脱臭に成功している

で、ここまでコメディ色が強いのもやっぱり新海作品の中では初めてであるわけで。過去作の、要は内向きな、ある意味ナルシスティックな"くさみ"みたいなのを大幅カット。すごく脱臭されてるわけですよ。新海誠作品の脱臭に成功しているという。まさにこれぞチューニングの部分ですね。チューニングが上手くいってる部分。
後半は、さらにそこ・・今ね、前半『転校生』って言ったけど、そこにさらに『時をかける少女』とか、例えば『バタフライ・エフェクト』だとか、『未来の想い出 Last Christmas』だとか、的な、一種のタイムリープ、過去改変モノの要素も入ってくる。
ね、これ改めて考えてみると、前半『転校生』で後攻『時をかける少女』って、どんだけ・・この言い方は許して。「どんだけ臆面もないんだ」っていう言い方もできるけど。
あと、時を超えた間接的交流接点、間接的なタイムリープ感でいうと、『オーロラの彼方へ』なんて映画もあるけど。『オーロラの彼方へ』と、あと『イルマーレ』とか。そういう(映画)的でもあったりして。
そもそも、新海誠作品がね、そういう時空を超えた間接的交流っていうのともともと相性がいいというか、そういうテイストはあったんだけども。

引用:IMDb.com

クライマックスに向けて

さらにクライマックスに向けては『アルマゲドン』『ディープ・インパクト』的な、要は、隕石ディザスタームービー要素も入ってきたりとか。そこにポスト3.11ニュアンス・・"ポスト3.11ニュアンス"ってことで言うなら、元の『君の名は』っていう昔のラジオドラマから始まったヒットドラマ・・が元なんですよ『君の名は。』のタイトルの元はね。もともと『君の名は』っていう作品があったけど、あれは、戦災を挟んでの運命の2人のすれ違い話。なのに対して、ある意味ポスト3.11的なディザスターを挟んでの2人の運命のすれ違いっていう映画に『君の名は。』ってつけるタイトルセンスは・・いやぁ、俺すごいなぁと思いましたね。思い切ってるしさすがだなと思う。

ポスト3.11ニュアンス

とにかく、隕石ディザスタームービー、ポスト3.11ニュアンスっていうのも入りーの、あと、あれも巨大落下物ディザスター回避モノではありましたけど『サマーウォーズ』的な、日常的キャラによるチームプレー要素ありーのってことで。とにかく、盛り上がる要素てんこ盛りと。クライマックス、大団円的にエモく盛り上がるという構成は、それこそ大林宣彦『時をかける少女』のクライマックスっぽくもあったりして。そんな感じで・・要は、前々週に『HiGH & LOW』がですね、パーツとしてのキャラクターの集合体、「キャラクターがもうパーツなんだ」っていう言い方したけど、その意味では今回の『君の名は。』は、皆大好き展開っていうのが、パーツ的に、モザイク化的に集められているというか。展開のパーツ化というか。皆大好き展開のパーツ化っていう感じはあると思います。いろんな観客が、それぞれの「あ、見たことある、知ってる知ってる」な好きな要素を入り口に楽しめるという、まあ良くも悪くもイマドキエンタメの潮流を感じさせなくもないという作り。

引用:IMDb.com

大林宣彦版『時をかける少女』

その上でラストは・・これちょっとネタバレなのかなとも思いますが、それこそ大林宣彦版『時をかける少女』。あとは例えば、アラン・ルドルフの『メイド・イン・ヘブン』なんて映画もありますけどね。もちろんこれまでの新海誠作品もそうだけど、運命の2人のすれ違い描写。ラスト間際で一気に畳み掛けて、さらにエモく盛り上げて、「あぁっ!すれ違っちゃった!」で盛り上げてからの・・それこそ『秒速5センチメートル』とかの結末と比較すれば、めちゃめちゃポップな着地っていうね。「サービスすんなぁ〜!」ってまさに、多分これまでの新海誠ファンで「そこが良かったのに」って人は「おい!!」と(笑)。「裏切りだー!!」と思うようなポップな着地。

『君の名は。』のエンディング

ただ、今回の『君の名は。』のエンディング、僕は逆にちょっとだけ寂しさを讃えてるエンディングだなとも思ってて。要は、さっきの理屈で言うと、青春っていうのは可能性が開かれた状態。2人がすれ違う限り青春は完結しない。だから童貞くさいって言ってんだけど・・要は、今回のあの結末は、あれで可能性の輪が完全に閉じてしまう。つまり、彼らの青春期はあそこで完全に終わるっていうことだから、「あ、ちょっと寂しい・・」っていう感じがするということだと思います。
とにかく、そういう甘さと苦さが入り混じった余韻含め、俺はやっぱり"新海誠イズム"そのものだなという風にも思うし。そうなんだけど見違えるほどポップにもなってる。作家性と商業性を、両立というよりは一致させてみせたっていうか、もともとあった作家性の中の商業的ポテンシャルを、作家性を商業的ポテンシャルのほうに発展させてみせたっていう。そしてそれが、実際に巨大な成功を収めてしまってるのだからという、もうぐうの音も出ませんっていうね。「川村元気恐るべし」としか言いようがないっていうね。
まあもちろん、さらに前提として、新海誠さん自身が意識的にそういう方向に舵をとって・・自分の作家性のくさみを減らせる人に任せたりとかしてポップにしていくという方向に舵をきったわけですから。非常にクレバーで正しい判断をされたというのが前提としてあると思います。

引用:IMDb.com

盛り上がり要素

なので、恐らくこれから僕が言うようなことも、作り手の皆さんたちは重々分かった上でのこの作りだと思うんですが。
まず、当然のようにと言うべきか、さっき言ったように、本来それぞれ単体でひとつの作品になるような盛り上がり要素・・本来お話ひとつにひとつずつ付いている唯一のでかい嘘、ありえない奇跡だったりとか・・唯一、お話にひとつずつあるでかい嘘が、今回複数てんこ盛りになっているため、お話としての"あり得なさ度"は非常に高まっております。

「あり得ないっしょ!あり得ないっしょ!」って言いながら出てきてる子がいて(笑)

僕が観た回で、出てきた観客の子が、首ひねりながら「あり得ないっしょ!あり得ないっしょ!」って言いながら出てきてる子がいて(笑)、笑っちゃったんだけど。
ね、たまたま他人同士の心と身体が入れ替わり、たまたまそれは時間を超える能力も備えており、たまたまそれが大災害にも密接にかかわっており、この大災害も、たまたま同じ場所に数千年後同じものが降ってきちゃうという、まさしく超天文学的確率で起こる災害であり、・・とかね。あと、口噛み酒を飲んで起こる、まさしく奇跡的な事態みたいな、そういうのが沢山あって。奇跡的事態の5乗ぐらいになっちゃってるというね。「どんだけ偶然が重なってるんだ」っという設定になっちゃう。
ちなみに、口噛み酒を飲むという途中の場面があるんですけど、神社で作った酒を飲む。瀧くんっていうね、男の子のキャラクターが、1人でいるのにずっと口を動かして説明台詞を言い続けてるのは非常に違和感があった。これ全体通して見てはっきり「これは演出ミスだろ」って思ったところでありますけど。

時間差問題

でね、例えば、普通に考えたら、時間差問題。お互いの情報をやり取りする内に、3年差があれば「あれ・・?」って、当然出てくるでしょ。「え、SMAP解散すんの!?」みたいな(笑)。それについては、それぞれ記憶が曖昧になりがちっていう、タイムパラドックス的な説明が一応つけられなくもない。要は、2人が接触して事態が解決に近づくたびにこの絆の存在の安定性も揺らぐっていう、タイムパラドックス的な説明ができなくもない。でもやっぱり苦しいは苦しい設定。忘れちゃうっていう・・なんとなく濁されてる感はどうしても否めないし。

大きな疑問

第一、瀧くんの方が、事後に事態を追ってって、後から「えっ!?」って知るんだけど、3年前にそんな大きな災害があったその場所のことを忘れてる・・瀧くんだけじゃないですよね。皆、友達と近づいていって「え、でも前ここってさ・・」って(思うはず)。しかもピンポイントであの町が災害になってるんだから、名前覚えてるでしょ、とかね。
あと、ネットを介したやり取りはできてるのに、「じゃあ電話して話そう」とか、「直接会おうとか、具体的な解決に向けて力を合わせようって方向に話が全然いかないのも、非常に不自然だなという風に思ったりしました。
で、その全てを包括的に説明するために、全部が・・特にヒロイン三葉の血統というね、血筋っていうのを中心に運命付けられたこと的な暗示もされてはいるんだけど、それこそが、ザ・"セカイ系"的な、全てが都合よく主人公たちの物語、センチメンタリズムに奉仕するためだけに存在するようないびつさそのものであだて、正直「えぇ・・それでいいのか?」って感じはやっぱりしてしまいます、僕はね。

よくできてるんだ。クライマックス

ただし、今回の『君の名は。』、悔しいことにですね!よくできてるんだ。クライマックスで主人公たちが、一応現実の"世界"に直接働きかけて、汗をかいて事態の解決を図るので、いわゆる"セカイ系"的特有の閉じた感じっていうのがうまく中和されているバランスにはなっていて、非常に巧みなチューニングで、そんなに気にはならないようになっているみたいな。とかね。
とはいえ、そこで進行している事態の深刻さに対して、やっぱり主人公たちの心情的なセンチメンタリズム。要するに、深刻な事態っていうのは、あくまでセンチメンタリズムの後ろにある背景、光景でしかないっていうことには変わらないと思います。
例えば前半、入れ替わっている途中で、瀧くんが3年前の災害に気付いて、そっちの方がさっき言ったように自然ですから、「え、ひょっとしてお前がいるそこって・・じゃあ危ないぞ!」回避させようとするけどっていうのが前半の展開。つまり、ディザスター(起こる災害)をどう回避するかっていう方に焦点をあてる、割と真っ当なエンターテインメントの流れの作りにするやり方も全然あったはずなのに、本作では、やっぱあくまで、災害を挟んで2人がすれ違うってことがメインイベントなため、どうしても、どんだけ深刻なことがあってもそれは背景というか。

新海誠作品のツボ

でもそれは、本作含め、新海誠作品のツボ。「ここが良いんじゃない」っていうとこもあるから、難しいところですよね。ほんとにね。好みって言っちゃ好みの話になっちゃうかもしれないけど。
で、特に若い人は、「自分でも気づいてない、もともと持っている可能性や価値があるのでは・・あったー!」っていう、こういう話、特に若い人は当然好きだろうし。同時に、さっき言った、青春期というのは限定的なものであるという自覚からくるセンチメンタリズム、これも特に若い人が抱きやすいことだと思うし。「大人になるっていうのは、忘れてしまうことだ」と。「本当の自分の人生や意味や価値を実感できた瞬間は・・つまり人生最良のときはもう過ぎてしまっているのでは?」っていう感傷。これも皆好きなやつじゃないですか。要するに、オープニングで語られる、「何かが消えてしまったという感覚だけがある」「ずっと何かを、誰かを探している、そういう気持ちだけがある」っていう。このセンチメンタリズム、皆好きじゃないですか。つまり、「そうやって言ってる限りは自分に価値がある可能性は残ってるから」ということですけど。

無意識下には残って刻み付けられているということなのか・・

ただ、今回の『君の名は。』の場合、これがまた上手いんだ・・例えば、瀧くん。男の子の瀧くん、主人公。最後、事件の記憶がなくなった後も、無意識下には残って刻み付けられているということなのか・・そこで、例えば大林版『時をかける少女』も、無意識下に刻み付けられているってあるけど、主人公を閉じた世界に縛り付ける役目を果たしてるっていうのが大林宣彦版『時をかける少女』なんだけど、今回のこの『君の名は。』、似たようなエンディングに見えて、瀧くんは建築・都市開発的なね、そういう仕事につこうと。しかも、就活があんまり上手くいってないのに、そこに固執してなんかやろうとしてるわけじゃないですか。つまり、ちゃんと事態・・起こった事態の深刻さっていうのから学び、成長し、大人になろうとしてるって描写がある。ちゃんと"世界"に向き合おうとするって描写がちゃんと最後にあるため、閉じた(成長否定)「成長するってよくないこと」「大人になるってつまんない」とかそういう閉じた結論には、ギリなっていない。このあたりもちなみに「巧みなチューニングだなぁ、くそー!上手い!!」っていう(笑)。そうなんですよ。だから文句言おうとしても、意外とそこはちゃんと意識してカバーされてたりするっていうあたりがね、上手いなぁという風に思ったりします。

作画監督の安藤さんのインタビュー

敢えて言えば、これ作画監督の安藤さんもインタビューで仰られてて、まったくその通りだと僕思ったことなんですけど。おばあちゃん、三葉のおばあちゃんいますね。要するに、「ある種災害を避けるためなのか?」という特殊能力を代々受け継いできたのか?というあのおばあちゃん。おばあちゃんの現在っていうのもラストに入っていれば完璧だったのにって思うんですよね。要は、おばあちゃん、最終的にずっと受け継いできたものを失ってしまっているわけじゃないですか。そのおばあちゃんが今どう生きているのか、とかね。
それを入れることによって、物語とか人物たちの広がりというか、厚みがグッと広がる・・要するに、最後におばあちゃんの現在、過去から繋がるおばあちゃんの現在っていうのを入れることで、"セカイ系"的な閉じた感じっていうのがさらになくなったっていうか。「あ、完全にこれはもう大人の話にもなってる」っていう風になったと思うんで。これおばあちゃんが途中から、意外と話を聞いてくれなかったっていうだけで、バッサリいなくなっちゃうっていうか、バッサリ役目を終えてしまうのが、ちょっとやっぱストーリーのバランスとしても、描写のバランスとしても上手くないと思うので。それ入っていればより完成度も高まったと思いますね。
あと、祠の中での瀧くんの独り言(笑)。「あれは別に内面モノローグでいいでしょう」とかね。でもそれはすごく、全体で言うとはっきり分かる「ああ、こうすればいいのにな」っていう僅かな部分で、全体のアニメとしての質は異常に高いと思ってます。ストーリーのめちゃくちゃさっていうのはもちろん大前提でね。

「プロデュースってすごい!」と感心されまくった部分

ということで、「プロデュースってすごい!」と感心されまくった部分でございます。日本型アニメの、技術的、そして文脈的と言ってもいいですかね、それこそここ10年以上の"セカイ系"的な流れとかっていう。あるいは、キャラクターのデザインにある、今のアニメの流れとか。そういう技術的、文脈的な流れのひとつの現状の到達点っていうのは、これはもうほんと間違いない。アニメとしての質の高さは疑いようもないと思いますし。お話の部分も、穴があるのは重々承知の上で、でもカバーするところはカバーして、全体のポップ化っていう方向に、皆が好きな要素みたいなのに振り切ったっていうことで、狙いはもう200%達成しているわけだから、いやぁ、よくできてますよこれは。
ということで、僕自身はどっちかっていうと『葛城事件』的な世界を・・そっちの世界を生きている感覚なので、いわゆる、そんなにどっぷり浸かって感動っていうんじゃないけど、めちゃめちゃ感心はしました。ここまでウケるのはもう分かるっていう感じだと思います。

絶対一見の価値がある

とにかく、好むにしろ好まざるにしろ、絶対一見の価値は(ある)、今この時代を生きててリアルタイムでこれはとりあえず観ておいた方が、絶対いい作品だと思います。その上であーだこーだ言ってこそ、というかね。様々な見方あると思いますので、それの補助線に本日の評がなればと思っております。
ぜひぜひ、劇場でウォッチしてください!

<書き起こし終わり>

○○に入る言葉のこたえ

①内省的なモノローグが折り重なる"童貞くささ"・・いわゆる"セカイ系"
②今までの作品と違う・・"プロデュース力"と、徹底したチューニングの勝利。
⑥大林宣彦版とは違う、寂しさを讃えてるエンディング。

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