THE FIRST SLAM DUNKのライムスター宇多丸さんの解説レビュー
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RHYMESTER宇多丸さんがTBSラジオ「アフター6ジャンクション」(https://www.tbsradio.jp/a6j/)で、『THE FIRST SLAM DUNK』のネタバレなし解説レビューを紹介されていましたので書き起こしします。
映画視聴前の前情報として、また、映画を見た後の解説や考察レビューとして是非ご参考ください。
宇多丸さん『THE FIRST SLAM DUNK』解説レビューの概要
①パンフレットの表紙、立ち位置からわかるネタバレがある
②公式に発表されているが、今回の主役は○○○○○○
③ファン限定などでは全くない、アニメーション作品としてそしてスポーツ映画として結構本気ですごい事をやらかしている一作
④スラムダンク興味ない人へ。「それでも必見なんだよ!」
⑤スラムダンクを3幕構成で解説
⑥1幕目、いかに特異な商業用アニメーション作品と全く異なる経緯、プロセスで出来た作品なのか
⑦2幕目、アニメーション表現としての革新性、元の漫画をどのように長編映画用に脚色したか
⑧3幕目、2022年に作られるにふさわしい作品
※○○の中に入る文章は、この記事の1番最後で公開しています。
TBSラジオ「アフター6ジャンクション」でラジオ音源を聞いて頂くか、書き起こし全文をご覧頂くか、この記事の1番最後を見て頂く事で判明します。
宇内アナウンサーとのスラムダンク雑談
(宇多丸)木曜です。宇内さん、よろしくお願いします。
(宇内梨沙)よろしくおねがいします。
(宇多丸)さっきねぇ、あの、スラムダンク見て来たんです。
(宇内梨沙)スラムダンク・・!今、とっても話題、しかもめちゃくちゃいいと評判の。
(宇多丸)話題沸騰。そうですね、ファンの皆さんすごい大絶賛されてて。ただ、皆さんこれ聞いておやっ?と思ったと思うんですけど、私、あのジャンプ弱者というか、ある時期までもちろん読んでましたよ、小学校の時とか読んでたけど、世代的にスラムダンクとかはあのリアルタイムじゃないし、リアルタイムじゃないというか殆ど読んだ事ないし、アニメも殆ど見た事ないし、大体どういう人が・・あの、なんだっけ?桜木花道が主人公、髪赤い人でしょ?とかそういうのはわかりますよ?なんだけど、そんな明るくない状態ない訳ですよ。そんな私がムービーウォッチメン当たってる訳でもないのに駆けつけてるのは、周りがすごくって。もう古川耕さんね、そうですしあとライムスターマネージャー小山内さんが、とにかく昨日目が痛いって言ってて、泣き過ぎて。泣きすぎて目が痛いみたいな感じで帰ってきてですね。で、皆さんに言われたのは、私のようなスラムダンク弱者が見たらどうなのかわからんと。私もエピソード7の時に言いました、スター・ウォーズここから見る人がどう見えるのか俺想像できないと。だから、知らないって状態って貴重じゃないですか。
(宇内梨沙)はいはい。
(宇多丸)知らない状態でどう感じるかっていうのは他の人には出来ない訳だから。
(宇内梨沙)特にファンが多いものほど、貴重な存在。
知らない状態でどう感じるか
(宇多丸)そうですね。でまぁムービーウォッチメンも例えば今週の金曜に当たるやもしれませんから、その時になって慌てて色々やるよりもうじゃぁだったら先に見とくかという事で、行って来たんですよ。で、もうもう、周りの連中「どうでした!?」「どうでした!?」ってザワザワしてる訳ですよ。ザワついてて俺が何言うかみたいな事で。一応ムービーウォッチメンやる可能性あるんであんまり詳しい事言えませんけど、結論から言っちゃえば、これすいませんね、スラムダンク弱者のお前がそういう事言う権利あるんのかみたいなイジワルな事言わないで下さいね。あの普通にお金払って観客として見た結果、私が感じた事。すごい良かったです!!!素晴らしかったです!あの〜もちろんそういうキャラクターとかわかるのかって。でもいつも言うけど、優れたエンターテイメントは初見の人もちゃんとわかるように作られているし。
(宇内梨沙)そうなんですよね。
(宇多丸)敢えて言えば普段はこの桜木さんが主人公なんですよね、っていう事くらいは知っておいた方がグッと来るという感じが。でもその全てが想像つく感じというか、それさえわかってれば、あ、こういう事ね、劇場版だからこれこれこう、なるほどなるほど、ここに焦点当てたかって。
(宇内梨沙)私も、話を聞いてエッ?待って、主人公?って思ったんですけど。
(宇多丸)あっ!ごめん!ごめんごめんごめん!あ!出た!
(宇内梨沙)ただ、今回の作品はネタバレない方がいいって聞いてたんで私ニュースとかなんも見てないんですけど。でも、パンフレット見たら、表紙に・・。
(宇多丸)配置がね。
(宇内梨沙)並びでわかっちゃう。そこはいいと思う。
(宇多丸)あ〜これだめだだめだ!そういう事か!ごめん!俺弱者だから逆に!
パンプレットの表紙でわかるネタバレ
(宇内梨沙)答えとパンフレットがもうこの並びだったら、たぶんメディア露出してるポスターとかもこうなっちゃってる訳ですよね。
(宇多丸)大分ね。あれよりはね、スター・ウォーズこれから見ようって人に、この人とこの人が親子なんですよとかそういう事を言うよりはデリカシーがまだ・・。
(宇内梨沙)え、でもそっか!そこはね、そこはね!
(宇多丸)そうそう、皆さんボカした話ばっかりして申し訳ない。でもさそこって結構色んなさ、世界中のパロディとかで結構無頓着に出すよな?
(宇内梨沙)出てくる出てくる!パロった映像とかでそのシーンだけ切り取った映像とか出てきますもん。
(宇多丸)そのくらいスター・ウォーズに関しては世界共通認識になっちゃってるから、そのすいません、私一線を踏み越えてたら本当に申し訳ないですけど、私が言いたいのはつまり、すいませんアワアワ・・私が言いたいのはですね、門外漢でも勘所はわかるようになってたし、映画評になったら言いますけど、長編映画として一本作るんであればこれすごくうまい改変だというか、うまい視点の置き所だと思います。その理由もね、ムービーウォッチメンでやったら言いますけど。そして何よりも、アニメ表現としてすごすぎ。
(宇内梨沙)ねー話題になってますよね。
(宇多丸)特に試合の。
(宇内梨沙)3D感とかが。
アニメ表現としてすごい
(宇多丸)そうですね漫画が動く、アニメ表現の最先端でスパイダーダースというね、作品ありますけど、まさにカートゥーンが動き出す感覚というのをいち早くやってみせた、そして世界中のアニメ作家はたぶん、スパイダーダースにどう答えるんだというのを考えたと思うんですが、まぁスラムダンクは明らかにスパイダーダースへの日本からの回答という言い方をしても言い過ぎではないし、そしてバスケというスポーツの特性を活かすのに、このやり方すごく合っている上に、アニメ表現としても優れているし、なんならスポーツ映画のって文脈の中でも結構歴史的な事をやってのけているようにも感じるし、少なくとも日本のスポーツを題材にしたアニメ映画では突出した物があると思う。
(宇内梨沙)いや〜なんかその本当にこの作品って公開まで殆ど情報がなかったじゃないですか。予告も短い。で、予告の中に出てくる3Dシーンもとても短い。でそのシーンだけを見たファン達が不安視していた・・。
(宇多丸)僕あの予告の映像を見て、僕は門外漢だからこそ、純粋に映像表現としてエッ?スラムダンクのアニメ化を今更やるのかと思ったけど、この映像が挑戦じゃんっていうか、思ったよりすごい作品かもみたいな。
(宇内梨沙)たぶん皆さんは「世界が終わるまで」が世代なんで、あの時の記憶・・。
(宇多丸)すいません、世界が終わるまでの世代っていうのは、これは・・?
(宇内梨沙)あの、主題歌ですね。
(宇多丸)あ〜そうなんですか!すいません。
(宇内梨沙)みんなその時のアニメーションが、声優さんとかが刷り込まれ過ぎてて、全てに対しての変化が怖かった。
(宇多丸)随分経ってるでしょ、時間がね。同じ人に演らせるってったってね無理が・・。
(宇内梨沙)いや、でも変わらないじゃないですか思春期に吸収した物って何歳になろうが。て言うので、その印象を全部公開で覆してるのがすごいなぁって。
(宇多丸)僕は門外漢ですよ?完全に門の外にいますから。門の外にいる人間なんで、そういう意見があるのも聞いてましたけど、門の外にいると、へ〜え。そんな事で騒ぐんですね〜。門の外ですから。でも、その門の外からの人からしても、これは単純にアニメとして映画作品としてすごい作品だなと思いましたよという件を先にお伝えしておこうと思いました!
(中略)
映画『THE FIRST SLAM DUNK(スラムダンク)』宇多丸さんの評価とは
(宇多丸)さぁここからは私宇多丸がランダムに決まった最新映画を自腹で鑑賞し評論する週刊映画時評ムービーウォッチメン。今夜扱うのは、日本では12月3日から劇場公開されているこの作品、『THE FIRST SLAM DUNK』。
1990年から96年まで週刊少年ジャンプで連載され今も絶大な人気を誇る名作バスケットボール漫画『SLAM DUNK』を原作者の井上雄彦自らが監督・脚本を手がけ、映画化。ちょっとストーリー細かいところはちょっと置いておきますね。湘北高校バスケ部のメンバーを演じるのは仲村宗悟さん、笠間淳さん、神尾晋一郎さん、木村昴さん、三宅健太さんという事です。そして今うしろで流れてるロックバンドThe Birthday、オープニング主題歌「LOVE ROCKETS」、そして10-FEET、エンディング主題歌。10-FEETのTAKUMAくんと武部聡志さんがね、音楽担当されてて。全編にロック調の曲がめちゃくちゃ合ってましたね、素晴らしかったです。
という事で、1週遅くなりましたがこの評という事で。もちろん今最も注目作でもございますので、皆さんね、見たよという方の皆さんからのメール頂いております。メールの量、ウォッチメンからの鑑賞報告、非常に多いです!賛否の比率は、褒める意見が8割、主な褒める意見は、
映画『THE FIRST SLAM DUNK(スラムダンク)』を鑑賞した一般の方の感想
・観る前の不安を吹き飛ばす大傑作!
・試合の描写としては歴代のスポーツアニメの中でも、いや、スポーツを扱ったあらゆる映画の中でも最高峰なのでは?
・原作未読でも楽しめた
等が御座いました。また、バスケ経験者やバスケファンからは、
・試合の雰囲気やプレーヤー視点の体感描写が本当にリアルだった
といった声も。詳しい人ほどここは唸っているみたいですね。
映画『THE FIRST SLAM DUNK(スラムダンク)』の批判的な意見
一方否定的な意見は
・試合中に回想が挟み込まれる構成がうざったい
・主人公が違うじゃん。これは、こいつがネタバレしてるんで俺じゃないです。(笑)まぁ公式がね、公式がそれは出してますんでね。元の原作とはちょっとね、メインの視点が違うよ〜んとかね。
・プロモーションの仕方がよくない。旧アニメに対してリスペクトが感じられない
等の愉快なご意見がございました。
という事で、代表的な所をご紹介しましょう。博多ぷんぷん丸さんです。
本作の感動の要因は井上雄彦先生の書いたキャラクターが”漫画のまんま動いてる”という完全に新感覚の映像を目撃できた興奮と喜びにあります。映画とはスクリーンに映し出される物体の速度によって生み出されるリズムに様々な要素が乗る事により観客の感情を動かす物だと思っています。その点において本作が興味深いのは、映画の基本原理に則った上で、全く新しい映像表現を作り出す事に成功しており、しかもその監督が映画・アニメ未経験の漫画原作者であるという事です。
井上さんはアニメーションはそんなに明るくないという風にご自身でねインタビューでも仰ってますね。
そもそも『SLAM DUNK』は漫画の時点で映画的な時間感覚や速度感覚を紙の上に描く事に成功していたと思います。終盤は成長していく湘北メンバー達と同様に、井上先生の漫画表現が限界突破していくように感じ。
まさにね。私も、すいませんね、ニワカでね。ニワカがひどいと言われてますけども、読みながら本当にそう思いました。
最終回では『漫画表現のひとつの極地』ともいえるような高みへ到達しました。そして今度は『SLAM DUNK』という漫画をそっくりそのまま映画として動かせています。監督は素人で、通常のアニメ制作とは全く違ったアプローチで作ったからこそ、これほどまでに斬新な映像に仕上がったのかと思うとそれだけで胸が熱くなります。だってそれって、劇中の桜木花道そのものじゃないですか。天才でド素人な存在が中心にいたからこそ勝てた試合、映画だったんですね。原作ファンの間で賛否が分かれている様子のオリジナルストーリーに関してはまさに『リアル』『バガボンド』という作品を経たからこそ描けた人間ドラマだと思います。
こちらも私ニワカがひどいですけども。色んな作品を読んで私も同意でございます。
1バスケットボールファンとしては本作を見てバスケを始める人が増えてくれたら本当に嬉しいし、そうなってこそ本作の成功と言えるのではないでしょうか。漫画『SLAM DUNK』がなければ日本からNBAやWNBA(NBAの女性版)で活躍できる選手は生まれなかったと思います。映画でも日本のバスケ界に革命を起こして欲しい物です。
という事で。博多ぷんぷん丸さんは他にもですね細かく、クライマックスシーンのあの時間感覚の置き替え方というか、その見事さみたいな物も細かく書いて頂いています。ありがとうございます。
あとですね、きじうちさん。
中の人からのメール
私は今作『THE FIRST SLAM DUNK』にてCGアーティストとして携わらせて頂きました。
中の人!
現場にいた視点から1つ申し上げますと、先日発売された書籍『re:SOURCE』にも多数掲載されている通り全編にわたり井上監督の修正が入っております。また制作終盤にはコンポジット後の、いわゆる『完成画面』に対し多くのカットがレタッチという形で陰付けなどの調整が行われております。公開直前までSNSなどでは様々なご意見が飛び交う中不安な思いも抱えつつ、絶対に届くと信じ作り続けました。そして公開後多くの好評価を受けた事にとても安堵いたしました。
このですね、『re:SOURCE』に描かれたその修正、修正、また修正。ブラッシュアップに次ぐブラッシュアップ。これが凄まじいんですね。その話私も後でしたいと思います。
一方ダメだったという方。赤いたぬきのシャアさん。
賛否は否です。私はこれを『原作に対するリスペクトのない、原作者による二次創作』だと思いました。漫画版は全巻3回買っています。
違う形で買ってるって事かな。
正直、この内容で『SLAM DUNK』と付けてほしくなかった。
やっぱり元に対する思い入れが相当強いのかな。
『SLAM DUNK』はあくまで主人公・桜木花道がバスケットマンとして成長する物語です。主人公・桜木花道のままで『SLAM DUNK』か、主人公を宮城リョータとするなら別のタイトルにすべきだったと思います。
これ、もう発表されてるんでね!もうね、宮城リョータがメインっていうのは発表されるんで!
合間合間に回想が入るのもいちいちテンションが盛り下がるし、元々は桜木花道メインの試合だし、宮城リョータの人間ドラマ部分が山王戦に関連しないので、何故このような構成にしたのかいまいち理解できませんでした。友人は、観に行った記憶を消し去りたいと悩むぐらい拒否反応を示していました。シリアスなドラマとバスケを描くなら『リアル』でやればよかったのでは。
『リアル』って作品の方ね。
絶賛の裏で、悩む原作ファンがいる事を知っておいてほしくてメールしました。
と。まぁこういう方もいらっしゃる、という事ですね。はい。
あとですね、色んな意見があって面白いなと思ったんだけど、えっとですね。たけだかずきさんは、これちょっと省略というか、要約させて頂きますが、要するに原作のクライマックスの山王戦の試合の中にあるとある描写。要するに怪我をして、それでも出場する。で、それを先生が黙認というかなんというか。あれが今回そこはブラッシュアップしてほしかったと。あれはダメだろうというふうに、みたいな事を仰っていて、あぁこれは面白い視点だななんて思ったりしました。
という事で皆さんメールありがとうございます。私も『THE FIRST SLAM DUNK』、TOHOシネマズの日比谷のIMAX、バルト9のドルビーシネマ、そしてTOHOシネマズの通常上映。3回観て参りました。
『THE FIRST SLAM DUNK(スラムダンク)』宇多丸さんが鑑賞した解説
という事で、まず最初に本日の時評の指針を先に言っておきたいと思います。どういう風に批評するか。ここまではですね、当然の事ながら元々漫画なり旧アニメシリーズなりで、『SLAM DUNK』のファンだった層が中心に盛り上がっていて、その中で、ネタバレは気をつけようとか。ていうのはやっぱりね、あそこをそう描く?とか、その角度で来たか!みたいな初見時の驚きがやっぱりファンだったら重要だ、って、これは理解できるんですけども。同時に私はですね、本作に関して特に『SLAM DUNK』ファンじゃない人、知らない人。要はちょっと前の僕ですけども、そんな層にも是非見てもらいたい。つまり、ファン限定などでは全くない、アニメーション作品としてそしてスポーツ映画として、結構本気ですごい事をやらかしている一作だという風に考えているので。
スラムダンク、興味ない人達に向けて、「それでも必見なんだよ!」
今日はそんな「『SLAM DUNK』。”これまではそんなに興味なかったけど”な人達に、本作はそれでも必見なんだよ!という事を伝えるのを第一義に、時評していきたいと考えております。故に、その為に、ある程度踏み込んだ説明がどうしても必要と判断しました。というのは、やっぱりファンの皆さんのように無条件で引き付けられ理解できる訳じゃないですから。多少はやっぱり踏み込んだ説明が必要という事で、本日は現状公表されている”プロローグ”という情報。要するにあらすじというか出だしのあらすじみたいな所よりも、ちょっとだけ具体的な中身に触れる局面、多くなってくると思いますので。
これから『THE FIRST SLAM DUNK』を見に行く予定があるんだよと。で、全く事前に情報を入れたくないという方は、ラジオを消して、今すぐさっさと映画館に行けー!!20日経ってんだよ!ねぇ。何やってんだお前!っていうね。まぁとにかく映画館で絶対見た方がいいんで、とっとと行って下さい。という事で。じゃぁここから、そんなに露骨な感じのアレにはしないようにしますが、具体的な所に踏み込みますんでちょっとね、ご注意くださいませ。
三幕構成で解説
でですね、今日ここから先の『THE FIRST SLAM DUNK』時評は、映画と同じく三幕構成で行かせていただきたいと思います。まず一幕目。この『THE FIRST SLAM DUNK』という作品が、いかに特異な通常の商業用アニメーション作品と全く異なる経緯、プロセスでできた一作なのか。その概要をサクッと語らせていただきます。
続いて二幕目。ここがメインとなりますが、本作の特色ですね。2点、前半と後半に分けてお送りします二幕目。まずは前半、アニメーション表現としての革新性。後半は、元の漫画をどのように1本の長編映画用に脚色したかという部分。
そしてラスト三幕目は、それらが特に素晴らしい表現に昇華・結実している所。そして今、2022年に作られるにふさわしい作品になっているんだという、もう1つの理由。技術だけじゃない、もう1つの理由、それを最後に述べてという感じの流れて行かせていただきたいと思います。
ちなみに参考資料としては劇場販売パンフのインタビュー。これも非常に参考になりましたし、先週発売になりました、本作のメイキング本『THE FIRST SLAM DUNK re:SOURCE』という、これを基にさせていただいております。こちら後ほど言いますが、このインタビューがめちゃくちゃ面白かったりするんでね。あと『ピアス』というね、この宮城リョータがメインの設定の元となった短編も初めてたぶん正式には単行本に入ったりしましたんでね。これなんかも読ませて頂いて、これめちゃくちゃ『re:SOURCE』は、必携の一冊だと思います。
2009年頃から東映アニメーションがアプローチ
とにかく井上雄彦さん、東映アニメーションからですね、2009年頃からずっと『SLAM DUNK』劇場アニメ化、その都度何本もパイロット版。要するに、こんな感じの映像ならどうでしょう?というパイロット版を送ってもらって、ずっとアプローチを東映アニメーション側は続けてきた。で、井上さんはその度に、これじゃダメだと断わり続けてきたそうなんですが、あるポイントで。要するに、ここまでアニメ映像として出来るのであれば、自分が直接関わればもっとちゃんとした『SLAM DUNK』の絵になるんじゃないかという直感を得たそうで。火曜日にですね、アニメ評論家の藤津亮太さんお越しいただいた時にですね、東映アニメーション。今年の『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』という作品でも3DCGを使って、鳥山明先生のあの絵をそのまま動かすという試みをやっていたという風に仰っていました。だから、東映アニメーションが今目指している、色んなトライをしている方向なのかもしれないですね。あの絵を動かすっていう。
まさにこの『THE FIRST SLAM DUNK』も、井上雄彦のあの絵が、そのまま動いてるという、まずは何よりそこを目指して出発した作品なのは間違いない訳ですね。で、しかもですね、結果として井上さんは、漫画のようにまずネーム作りから始めたそうなんですね。でネーム作りから始めたって事はつまりこれは実質脚本となっていきますし、先ほど言った『re:SOURCE』という本からも伺える、徹底した自分の絵、自分の演出への拘り。それを実現するための本当に細部にわたる指示、修正、また指示、修正、ブラッシュアップに次ぐブラッシュアップ。要は実質監督まで自ら務める事になったという事ですよね、はい。で、さっき言ったね、あの絵が動くという、それを端的に示すのがやはり、オープニングですよね。はい。やってみようか。もう1回「LOVE ROCKETS」をかけよう!
鉛筆のタッチでね、湘北メンバーが、宮城リョータから順繰りに描かれていって歩き出す。このThe Birthdayの「LOVE ROCKETS」が流れ出して一人ずつこうやって。もう、ここ!これ、原作を知らなくても、あぁこれは死ぬほどワクワクするヤツだろうなっていうのはわかるし、一周した後に見たら、僕、もうここでビーン!ビーン!ですから。で、どこと?どことやんの?こうやって降りてきたら山王って見えて、で、それぞれのメンバーに色がついて、バーッと動き出した所でコートを上から見て、『THE FIRST SLAM DUNK』!っていう。
THE FIRSTの意味の解釈
なので、私はこの”THE FIRST”というのは、井上雄彦作品としての『SLAM DUNK』映画版はこれが最初です!という宣言だという風に取りました。とにかく徹頭徹尾、井上雄彦の作品として作る事を東映アニメーションもそこを目指して全ての犠牲を払ってやってるという作品ですね。とにかくオープニングでしびれました本当に。という感じだと思います。つまりこれはですね、先ほど言いましたように、井上雄彦作品として、井上雄彦先生自身が完全に納得するクオリティーのものを目指すという、通常の商業用アニメーションとは全く異なる。むしろですね、1番近いの『かぐや姫の物語』とかですね。あれももちろん商業用アニメだけど、高畑勲さんがですね、もうなんていうか色んな事を度外視して作ったアートアニメじゃないですか。『かぐや姫の物語』とかと比較するべき、のようなとんでもなく手間のかかる、異例の作り方をしている一作なんですね。でそれはとにかく井上雄彦のクオリティーに達するまでと。なので、皆さん旧アニメーションと比較してどうこうっておっしゃいますけど、そもそも成り立ちも目指してる所も、根本が全く違う作品なんだって事なんですよ。なので、あっちの方がいいとか悪いとか言ってもあんまり意味がないと思います。もちろんTVシリーズで毎週やる物としてすごい頑張ったクオリティーで。僕今回もう結構見たんですけど、そう思いますが、どっちがどうとかっていう事とは全く違うものだっていう事ですね。同時にですね、後述する物語的な脚色という点でも、原作者自らが、しかもその後の様々な作品を経て成長した、今の原作者自らによるアレンジというのは、段違いの説得力を本作にもたらしている。これはやっぱり原作者じゃない人がやってたらもうちょっとブーイングが多かったかもしれないですけど、説得力を増しているのは明らかかと思います。
2幕目、技術面と物語面
では、そうやって作られたこの『THE FIRST SLAM DUNK』の特色、すごい所。技術面と物語面の2つの面から見ていく二幕目に行きたいと思います。
先に言っておくと、本作、実は、全体として見ると、さっきから絵がすごいって言ってますが、実はですね全体として見ると絵としての密度というかテンションにはまぁまぁバラつきがあります。客席とかはもうちょいなんとかならなかったのかなとは思わなくもない所もあるが・・。すごいのはとにかく試合シーン。バスケットボールの試合シーンですね。とにかくバスケ映画としてとんでもないという事です。ここ要はですね。本来矛盾する2つの要素を同居させなきゃいけない話をしてるんですね。まずさっき言った井上雄彦のあの絵、あのタッチの再現。これ元はもちろん、当然二次元的な表現、そして静止している、まさに絵な訳ですね。それと同時に、バスケットボールという、猛烈なスピードで、とても複雑で密度の濃い異なる要素の動きが展開していく、三次元的な時空。それも井上雄彦さんとしては今回やるならばきちんと絶対に描きたいという部分、強い部分だったそうなので。このザックリ言えば、二次元的な漫画的表現と立体的空間表現の融合、要するに2つは本来矛盾している訳ですが、近年は3DCG技術の使い方、技術の進化そして使い方の進化もありまして、例えば2019年。『スパイダーマン:スパイダーバース』。革新的なアメコミのアニメ表現で世界を驚かせたりもしました。で、本作『THE FIRST SLAM DUNK』の対山王戦。この試合シーンは、まさにそうした試みの日本漫画版最前線という風に断言できます。まぁザックリ言えば3DCGの土台に漫画的な輪郭線が乗せられているという事だと思ってください。
技術だけではない、細部に至るまでの妥協なきクオリティーの追求
で、これはですね、『re:SOURCE』という先ほどの本を見る限り井上雄彦さんの、細部に至るまでの妥協なきクオリティーの追求の賜物でもあるんですね。つまり同じ技術を使っても、ここまでネジを締め続けないとこうはならない。自然な動きの数々はもちろんモーションキャプチャーなども使っていたそうですが、そのまんまのデータではやはり使い物にならなかったという事みたいで。とにかく顔や体のちょっとした角度、唇の厚さとか耳の形。目線のちょっとした方向などなど、本当~に細かいチェックと修正、チェックと修正、チェックと修正・・井上さんご自身がやりまくってる。たぶん試合シーンの全てのカットには、何らかの形で井上さんが直接手を入れてるはずです。というぐらいの感じだと思います。そしてやはり、1個1個のネジ締めが、全体の印象に絶対に繋がっていく。井上さん全ての絵、セリフ、演出に意図がハッキリある人なんで。なんとなくやってる絵が1個もない人なんで。そういう風になる。だからちゃんとやればちゃんとした物になる。その甲斐あって例えば、連続する細かいパス回しの所など、ワンカットで流れで見せる事、これは漫画ではできませんからね。ワンカットで細かいパス回し、山王がヒョイヒョイヒョイと回したりするのとかは漫画よりも格段に飲み込みやすく、そしてバスケ本来のテンポ感も損なわずに描く事に成功している訳です。漫画だとどうしても説明になっちゃうんでそれは。同時にもちろん要所では、漫画、アニメならではの時間を引き延ばす表現によって、特にバスケ。リアルタイムではこう瞬時に色んな事が起こりすぎて何が何だかわかんないその諸要素。特にバスケは大変ですが、当然それもわかりやすく整理もされている。つまりですね、要はリアルさと漫画・アニメ的なデフォルメが、最良のバランスとリズムで共存・両立している。それによって、おそらく特にバスケットボールの具体的な試合描写を描いた映像作品としてはスポーツ映画史全体の中でも類例を見ない、優れた達成を成しているというふうに私は断言してよいかと思います。
リアルとデフォルメのバランス
そうやってちゃんとリアルとデフォルメのバランスが取れているからこそ、例えばクライマックスね。ちょっと言っちゃいますけど、桜木が相手のシュートを防ぐので、返せっつってポンってやります。あそこ、桜木が突然現れた感じがするのは、やっぱりその空間的にちゃんと見せてるからこそ、えっなんでここにいるのっていう感じが我々にもよりするようになっている。見事な演出になっていたりする事です。そしてそれがさらに最高の形で結晶しているのがクライマックス。あの、残り約20秒ですね。からの攻防戦、という所なんですけども、この話はちょっと後にしますね。
とにかく。あと一方ギャグ描写はちょっと抑えめ。井上さんやはり映画と漫画のメディア的な違いというの、要するに漫画だったらここまで出来る事が映画では全てフラットに同じ画面で出てしまうので。でも、ちゃんと例えば赤木が言った事にみんながワチャワチャ突っ込む所とかは引きのカットとかにして、ちゃんとそこはバランスを取ってて、やっぱり映画ならではの文法というのはまさに作りながら学んでいる、さっきのメールにあった通り桜木花道のごとく作りながら学んでる!天才!っていうね。素人だけど天才、というあたり発揮しているんじゃないでしょうか。
試合シーン
とにかく試合シーン。アニメーションになった事で、漫画では要はセリフでの説明が必要だったアクションなども、全て動きそのものでサクッと表現されている。そのためですね、ただでさえある種『SLAM DUNK』って、ドライに試合進行のみ、特にクライマックスの山王戦は試合進行のみで見せていくくだり。ひょっとしたら試合だけを描くという、『茄子 アンダルシアの夏』的なソリッドな作りというのもナシではなかったはず。そしたらそうしたで、アート映画としてはより価値が上がったと思いますが、ただちょっとね、やっぱり、待ちに待った“アイツら”の劇場用長編映画としては、ちょっとそれはあまりにもそっけない。やはり物語がちゃんと必要という事で、そこで湘北メンバーの中でも、元々の漫画では比較的掘り下げがされていなかったと言える、ポイントガード宮城リョータさんがメインになる。実はでもこれも、小柄な選手が活躍する沖縄スタイルのバスケというのが、連載当初から井上さんの頭にあって、だから”宮城”という名字にしといたと。こういうのもあるんですね。唸ってしまいますけども。という事で、そのリョータをある種の主人公として置き直すという脚色を今回している訳ですけど、これがまた大変理にかなってるし、今の井上雄彦作品としての納得度、非常に高い構えだと私は思っています。
2時間の単独の物語では、主人公の成長や変化が描きづらい
まず主人公キャラというのはですね、特に少年漫画の場合、良くも悪くもブレないキャラだったりして、2時間の単独の物語の中だと変化とか成長が描きづらいんですよね。もしくは描いたとしても不自然になってしまう事が多い。なので、その点そもそも小柄なリョータは、常にある種のハンデを持って戦っているというキャラクター。あと『ピアス』という短編が元になった、色んなその家族の葛藤みたいなのも含めてですね。この短い時間の間に新たな物語的葛藤を作りやすいし、また漫画では過去の事として語られる、事故による怪我のその前後の所。要はですね、捨て鉢になって足踏みしている自分が不甲斐なくてという、この前に進めない段階の人物像に焦点を当てるというこの視点。ひたすら直線的に上がっていく、ある意味若いという『SLAM DUNK』の原作以上に、やはりこれは『リアル』に近い。『リアル』という井上さんの作品に近いより成熟した井上作品の人間観、人生観が改めて込められているようにも思うという。まぁ『リアル』は本当にすごい作品ですが。
あとですね、これもポイント。ポイントガードというポジションは、他のメンバーを1番よく見てるポジションなので、宮城リョータの視点から色んなメンバーのエピソードにも行きやすいんですよ、ボールのごとく。得点に直接絡まなくても、そういう事ができる訳です。という事で、例えばそのリョータと対照をなすがごとく山王のですね、沢北。国内ではもはや敵なしの自分に必要な経験があるとしたら与えてくださいと神社に参るあのオリジナルシーン。ここで亀のカットが一瞬入ったりするのも面白い、というね。いずれにせよこれがある事で山王工業のラストもすごく味わいが深まってたりしてという。それぞれにそのバックストーリーが色々加わっていたりとかね、すごくダイジェストではない置き方なんかも非常に見事だとかありますが。
という事で、あと家族の話がどうこうとか、そこをすっ飛ばして行きます!とにかく、後半にいくにつれて回想が増えてって、あとはその回想の回想が入ってきたりして、あと時制もやや前後したりして若干もたれていく感じは確かになくはないんだけども、それもこれもひょっとしたらクライマックス、一気に密度が100倍ぐらい増す、あのハンパなき加速感のため、あの残り20秒の描写のためだったのかも。ここは、ごめんなさい、もう説明してる時間ないけど、あの名ゼリフを、無音演出、20秒の中、その引き伸ばした時間の中の無音演出の中で見せる。それは何故かというと、手前の回想で、セリフとして口に出してるから。映画ならではの時間差演出なんです、これは。これも見事ですね。とか、そこからの、あの有名な見開きページのね、あれ、あそこに至るまでのリズム、最高!とか、色々あります。
3幕目、2022年に作られた理由
最後!最後!本作ラストのラストに漫画にはない、あるその先を、未来を示すある展開が付いています。これこそが2022年、今であれば夢物語ではない、沢北がアメリカに行っている、これはわかる。でも沢北の相手に来るのは・・流川じゃない、彼なんです。それは最新のバスケ戦術が、そこと一致してるからなんです!あと、もちろんスリーポイントでどんどんね、点を取ってくという戦術。あれも、今のバスケのやり方ですから。『SLAM DUNK』その物が先見的だと思います。だからこその今回の脚色。宮城リョータをメインにしたという脚色。だから僕は、最後。しかもですね、井上先生は日本のバスケ選手の育成のためにずっと活動してこられた訳ですよね。その事実。その先にある訳です、あのラストが。
だから、今だったら夢物語じゃない!日本人でも、そして背が低くても、活躍しうるっていう。だから、この『SLAM DUNK』のラストにアレが来る。2022年に作られる作品としてアレが来る。アツいんですよ!もう、めちゃくちゃアツいんですよ。という事を、私はこの番組とかも通じて色々勉強して学びました。
『SLAM DUNK』原作読んでなくても全然大丈夫!
という事で、アニメーション映画としてバスケ映画、スポーツ映画として、そしてもちろん『SLAM DUNK』の映画化として。何より、井上雄彦作品として。よくぞここまで今作り上げた。下手すりゃ最初で最後、奇跡的な1本となるんじゃないでしょうか。『SLAM DUNK』原作読んでなくても全然大丈夫と断言いたします。そこからもちろん興味も出てくると思いますので、絶対に劇場で見た方がいい、歴史的一作、生まれたと思います。『THE FIRST SLAM DUNK』、ぜひぜひ劇場でウォッチしてください!
※書き起こし終わり。
○○に入る言葉のこたえ
②公式に発表されているが、今回の主役は宮城リョータ