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引用:IMDb.com

新感染半島 ファイナル・ステージのライムスター宇多丸さんの解説レビュー

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2021年01月21日更新
僕はやっぱり意外と背骨はちゃんとしている、というところも含めて、さすがだなという風に思いました。まぁ、色々と言いたい部分がない訳じゃないんだけど、少なくとも正月一発目、劇場でデカい画面でドカンと景気よく見るには最高の1本ではないでしょうか。(TBSラジオ「アフター6ジャンクション」より)

RHYMESTER宇多丸さんがTBSラジオ「アフター6ジャンクション」(https://www.tbsradio.jp/a6j/)
で、『新感染 ファイナル・エクスプレス』のネタバレなし解説レビューを紹介されていましたので書き起こしします。

映画視聴前の前情報として、また、映画を見た後の解説や考察レビューとして是非ご参考ください。

宇多丸さん『新感染 ファイナル・エクスプレス』解説レビューの概要

①脚本・監督のヨン・サンホさん。元々はアニメーションの作家さん。
②今回の『ファイナル・ステージ』というこの作品は、三部作の三作目という位置づけになっている。
③最初の10分は完全に○○○○。

※○○の中に入る文章は、この記事の1番最後で公開しています。
TBSラジオ「アフター6ジャンクション」でラジオ音源を聞いて頂くか、書き起こし全文をご覧頂くか、この記事の1番最後を見て頂く事で判明します。


映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』宇多丸さんの評価とは

TBSラジオ『アフター6ジャンクション』の看板コーナー「週刊映画時評ムービーウォッチメン」。ライムスター宇多丸が毎週ランダムに決まった映画を自腹で鑑賞し、生放送で評論します。

今週評論した映画は、『新感染半島 ファイナル・ステージ』(2021年1月1日公開)です。

さぁここからは私、宇多丸がランダムに決まった最新映画を自腹で鑑賞し評論する週刊映画時評ムービーウォッチメン。今年最初に扱うのは1月1日から全国公開されているこの作品、『新感染半島 ファイナル・ステージ』。

2016年制作。2017年に日本でも公開された韓国のゾンビパニック映画、『新感染 ファイナル・エクスプレス』の続編。人間を凶暴化させる謎のウィルスが韓国を襲ってから4年後、香港へ逃げ延びていた元軍人のジョンソクは、隠された大金を回収するため、荒廃した韓国へ戻る。しかしそこには大量の感染者だけではなく凶暴な人間たちが待ち受けていた。

主人公のジョンソクを演じるのは、『MASTER マスター』や韓国実写版『人狼』などのカン・ドンウォンさん。あの、『義兄弟 SECRET REUNION』とかね、色んなのがありましたね、『1987、ある闘いの真実』とかね、素晴らしい作品がいっぱいありますけども。脚本・監督は前作に引き続き、ヨン・サンホさんが務めました。

ということで、リスナーのみなさんからの感想も多数頂いております。

メールの量は”多い”。という事で。やっぱりあれですかね、前作の『新感染 ファイナル・エクスプレス』が非常に好評だったとか、お正月一発目でね、新作公開という事で期待されていた方も多いんじゃないでしょうか?
メールの量は非常に多いです、ありがとうございます!

引用:IMDb.com

映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』を鑑賞した一般の方の感想


賛否の比率は褒める意見がおよそ半分。あとは”よくなかった”と”普通”という方が2対1くらい。
褒める意見としてあったものは、「前作とは違うがこれはこれでよし!」「前作からストーリーもアクションアップデートされており満足度が高い。」「お正月映画にぴったり!」等がございました。

一方否定的な意見としては、「本当に続編?」「前作にはまるで及ばない!」とか、「テーマもないし、どこかで見たような映像やアクションばかり。」「スローモーションもくどいし、ゾンビの描き方もご都合主義的で萎える。」等がございました。

代表的な所をちょっと抜粋しながらご紹介していきますね。ラジオネーム”季節の変わり目ソルジャー”さん。
季節の変わり目ソルジャーさんは1月1日に電話出演していただいたね、方ですね。

感想は『マッドマックス 怒りのデス半島』、つまり最高でした!

「元日のアトロク前に『新感染半島 ファイナル・ステージ』見に行きました。感想は『マッドマックス 怒りのデス半島』、つまり最高でした。1人では全員を救えない罪悪感とか、自分の子を助けたい親の気持ち。とか、本当に怖いのはゾンビよりも人間、などの極限に追い込まれた人間をあるあるで描きつつ、カーチェイスやストーリーがアップデートされていて、2020年代はこの映画が基準になるという予感をビンビンに感じました。(すごいなそれ!)

アップデートを感じた箇所ですが、女性や子供がクールに活躍する場面よりも、エンディングの”自己犠牲ではなく、みんなで助かろう、助かっていいんだ!”というシーンです。前作の『新感染 ファイナル・エクスプレス』のコン・ユ演じるキャラクターの自己犠牲というのを踏まえ、続編という次のステージに到達するためにこのラストが必要だったと思います」という風に仰っています。

まぁ、仰っている部分なるほどな、そういう読み取り方面白いなと思いましたけど。普通に見れば、『ゾンビ』のオマージュだと思いますけどね、あのエンディングのあのバランスはね。まぁでもこういう読み解き方も面白いかなと思いますけど。あとはラジオネーム”ちり”さんも、やはり同じようにですね、ラストの、前作の自己犠牲に対しての今回のエンディングという所に納得したみたいな事を”ちり”さんも書いていただいております。

引用:IMDb.com

映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』の批判的な意見

あとはですね、イマイチだったという方もご紹介しましょう。ラジオネーム”カルボナーラ”さん。
「映画の感想に関してですが、結論としては”否”です。アクション部分はよく出来ている物の、テーマ性が薄く、全く印象に残らない作品でした。作品としての出来が悪いとまでは言いませんが、今後どんな作品が出てきても今年のトップ10には間違いなく入らないです。」と。それで前作と比較して「前作はすごくこういう所が良かったよ。」みたいな事を書いていただいて。

「ところが今作は、アクション面でははるかに進歩している物の、作品を通じて表現されるテーマらしきものが殆どなく、あまりの変わりように監督が変わったのかと思いきや、同じ監督だったと知り驚きました。前作は予算のない中でいい作品を作ろうと工夫した結果テーマ性のある作品になっていたのに、今作は恐らく予算が増えた一方で中身のない作品になってしまったのではないかと思います。特に終盤の『マッドマックス』オマージュの展開は既視感がありすぎて完全に冷めてしまいました。」というようなご意見。

「ちょっと物足りなさを感じる映画でした。」

あとですね、こちらは「ラジオできるかな」でもご紹介というか特集もやっていただきました、ラジオネーム”ジョン@営農とサブカル”さん。この方もですね、「ちょっと物足りなさを感じる映画でした。」というような事を書いていただいて。

「感動的なシーンのスローモーションがクドいのは韓国娯楽映画の伝統芸能みたいな物なのでそういう物だと諦めるとして、『マッドマックス』ばりの縦列カーチェイス、痙攣を多用する狂牛病みたいなゾンビの動き、カン・ドンウォン演じるジョンソクのCQシーンなど迫力があってよかったです。ただ、私が期待していたのはヨン・サンホ監督のジョージ・A・ロメロのゾンビ映画に通じる、現実社会の問題が映画の背景に見て取れる所だったので、その辺が薄くてちょっと残念でした。」というね。で、ヨン・サンホ監督の過去作にはこういう所が反映されていたよ、というのをいっぱい書いていただいて。

引用:IMDb.com

面白かった!泣けた!終わり!で済んでしまうような映画になっているのが前作を楽しんだ者としては残念です。

「今作は、現代韓国の行き過ぎた競争社会がテーマとして入ってるのかな?と見ながら思っていました。出るのも留まるの地獄な、『ヘル朝鮮』と自嘲されることもある現代韓国社会のようにも思います。そんな劇中の半島の状況でも、『家族でいたからそんなに悪い世界ではなかった』とイ・レ演じるジュニさんという子役の方が語るのはとても泣ける言葉だなと思いました。ただ本作はそういう背景に見え隠れするものが薄く、アクションがモリモリで面白いは面白いのですが、面白かった!泣けた!終わり!で済んでしまうような映画になっているのが前作を楽しんだ者としては残念です。ちなみに農業描写については潔いぐらい生活描写がなかった映画なので話せることがありません。」

と言っていただきつつ、先ほどちょっと山本さんと話した事ですけど、「残っている物資を食いつぶしたらそれ以上生きていけないのに、半島の外に出る事も持続可能な生活をする事もできない半島の生存者。と取ると、現実の韓国社会に住む人々の暗喩のようにも取れるかと思います。」というような読み解きを・・「ちょっと考えすぎかもしれないけど。」と言いながら書いていただいています。皆さんありがとうございます!メール頂きました。

『新感染 ファイナル・エクスプレス』宇多丸さんが鑑賞した解説

という事で私も、『新感染半島 ファイナル・ステージ』というね、この日本タイトルがつく前に、『半島(Peninsula)』という原題がついてる段階で、例によってですね、『週刊文書エンタ!』というアレで星取表、ガチンコシネマチャートをやる為に一早く、去年の時点で見させていただいております。そして、TOHOシネマズ日比谷で、IMAXで見てきました!これ韓国映画で2本目になるのかな?IMAX撮影をしたというね、作品らしいですけどね、部分的にね。

ということで!とにかくですね、先ほどから話題に何度も出ております、韓国産ゾンビ映画の傑作にして何よりやっぱりここですね、ゾンビ映画としても面白かったけど、あまりにも美味しすぎる役柄のハマりっぷりも相まって、宇垣さんも今やゾッコン、マ・ドンソクが完全にスター化していく大きなきっかけとなった、2016年のみんな大好き、日本タイトル『新感染 ファイナル・エクスプレス』、元は『釜山行き』というタイトルですけれども、4年ぶりのその続編であると。

このタイミングで、その元の『新感染 ファイナル・エクスプレス』僕も改めて見返しても、やっぱりですね、例えばその列車内という限定的かつ位置関係が明確な、つまり、やはり明らかに映画的な舞台立てを最大限に有効活用しつつ・・あの、”何号車までは行かなきゃいけない” ”今いるのが何号車で何号車に行かなきゃいけないけど間にこれがあって・・」みたいな位置関係が非常に明確というこの舞台立てを最大限、非常に有効活用しつつ、”恐怖と疑心暗鬼から、助け合うどころか蹴落とし合いになり自滅していく人間達。”であるとか、身内が目の前で怪物化してしまうその切なさ、悲しさ、などなどですね、言っちゃえばゾンビ映画の定番ですね、定番なんだけど、ではあるけれどやはり大事なポイントというのを丁寧に描き出していてですね。

引用:IMDb.com

前作『新感染 ファイナル・エクスプレス』について

決して目新しいことをやってるわけじゃないです。新しいことをやってるわけじゃないんだけど、「ゾンビ映画」というフォーマットを、正攻法で活かしきって見せた、韓国映画なりのやり方で正攻法で生かし切ってみせたという、なるほどこれはやはり本当によくできた1本だなという風に改めて見ても思いました。

脚本・監督のヨン・サンホさん

えー脚本・監督のヨン・サンホさん。元々はアニメーションの作家さんなんですね。でその『新感染 ファイナル・エクスプレス』とほぼ同時期・・ちょっと1ヶ月ぐらい遅れて韓国では公開された『ソウル・ステーション パンデミック』という、これはあの『新感染 ファイナル・エクスプレス』の前日譚というか、共通するキャラクターがいる訳ではないので、要はそのゾンビ蔓延状況の初期段階を描いたアニメーション作品もあったりなんかして、なので一応、今回の『ファイナル・ステージ』というこの作品は、三部作の三作目という位置づけになっているという事ですけども。

で、とにかく『ソウル・ステーション パンデミック』は、本当に救いゼロの、人間の醜さ全開の、ダークな内容、本当にアンハッピーエンドで結構キツい映画の中身なんですけども。あるいはその『ソウル・ステーション』とか、僕はこのタイミングで遅まきながら見た、2013年の『フェイク 我は神なり』というね、作品があって。これは、もうすぐダムに沈んでしまう予定の田舎の集落に、本当は詐欺師がバックにいる宗教団体が入り込んできてという・・日本だったら入江悠監督に実写でリメイクしてもらいたいような、どよーんとしたノワール群像劇というかそんな感じの話で。

僕はこれ現時点では見られてなくて申し訳ないんですけど、その前のさらに前の長編デビュー作、『豚の王』、これは”韓国アニメ界初の大人向け残酷スリラー”ということらしいんだけど、アニメとしてはね。やっぱりあらすじとか評価を読む限り、韓国社会のそのリアルな闇を浮き彫りにするようなハードな作品みたいで、要はこのヨン・サンホさんという方、元々のフィールドであるアニメーション作品では、より突き放した完全に大人向けの、どよ〜んと暗い作品をずっと作ってきた人なわけですよ。

引用:IMDb.com

アニメと実写作品での監督の違い

で、それがこの方不思議なもんで、実写作品になると若干モードが変わるわけです。それこそ、むしろこちらの方が本来の意味で”アニメ的”と言っていいような、ケレン味たっぷりにデフォルメされたVFXアクションを駆使してですね、例えばその『ファイナル・エクスプレス』であればゾンビ物、あるいは日本ではNetflixで配信となった2018年の『サイコキネシス 念力』というね、リュ・スンリョンとシム・ウンギョンさん主演の超能力物といったようにですね、そのジャンル物エンターテイメントを現代韓国映画として、しかもケレン味たっぷりにやってみせるというような、わりと開かれたスタンスになる傾向があるように思えます。えーまぁ実写の際のヨン・サンホ作品は。

わりとベタなというか、コテコテの笑いとか泣かせとかもちりばめていたりして、そのへんもアニメ作品とははっきり作風を変えてきているというようなあたりだと思います。ただしですね、そのアニメ作品と実写作品、陰と陽というような違いはあるんだけども、共通しているのは、どちらもですね、やはり現実の韓国社会の問題とか歪みといったものが、常に背景に敷かれているというところは割と一貫して共通している。

「ナッツ姫」的な格差社会の酷薄さ

全体としてはそのコテコテのコメディ感の方が強いと言ってよかろう、さっき言った『サイコキネシス』とかもですね、もちろん話のベースとなっているのは、例えばヤクザを使った地上げ。であるとか、あるいはなんとあのチョン・ユミがですね、本当に嫌な感じに見える悪役を演じてるんですけど、それもなんか、言っちゃえば例の「ナッツ・リターン」でおなじみの、「ナッツ姫」的な格差社会の酷薄さみたいなものが反映されてるような感じだったりとか。

さっきから言ってるその『ファイナル・エクスプレス』、ゾンビ物なんですけど、そこで最も悪役的に見えるおっさんたちの振る舞いっていうのも僕は、やっぱり2014年のこのセウォル号事件とか、そういうのに対する社会の怒りがどこか反映されてるんじゃないかな。。少なくとも韓国の観客の方はそういう風に連想するんじゃないかな、みたいな風に思って見てましたけど。

その意味でそのね、『ファイナル・エクスプレス』の物語から4年後、ゾンビがあふれ返って、それ以外の世界からは完全に隔絶した場所となったその韓国。朝鮮半島の南の方という事で。『半島(Peninsula)』というね、原題が付いておりますが、極めてそのフィクション性が高い設定の本作。

引用:IMDb.com

今作は現実的な社会風刺要素はわりと薄め

ヨン・サンホさんがこれまで作ってきたどの作品よりも、その現実的な社会風刺要素はわりと薄めですよね。やっぱりね、架空のアレが舞台になっていますし。起こってしまった事態の深刻さとかディザスターの規模の巨大さとは裏腹に、今回は言っちゃえば、結構思いきりポップというか。
ヨン・サンホ作品としてはぶっちぎりで気軽に楽しめるエンタメ性が高い一作、という風に思います。だいぶモードをこっちに振り切ってきたという感じがしますね。

3部作だが、前作を見ていなくても問題なし!

ちなみにその『ファイナル・エクスプレス』、『ソウル・ステーション』、っていうこのゾンビ物、一応三部作という位置づけですけども、いずれもその共通するキャラクターはいないし、話的な関連性もゾンビ的な感染症が韓国に蔓延しましたよという状況以外は、全く関連はないので、それぞれ独立した作品として普通に見られますよという事なので、ご安心してこの作品から見ていただいて。
山本さんも実はその『ファイナル・エクスプレス』の方はご覧にならずにこっちを見て「面白かった」という風におっしゃっているのでね。

ということで、今回の『新感染半島 ファイナル・ステージ』ですけど、順を追っていきますけども、まずタイトル前、アバンタイトル、10分ほどあるんですけど、そこで前作『新感染 ファイナル・エクスプレス』でやったような、ゾンビパニック物の定番的要素を実はこの10分間で一通り押さえてくる。言ってみれば最初の10分で、前作でやってきたことを凝縮して見せるわけですよ。

極限的な状況下で出てしまう人間の利己性であるとか、エゴであるとか、その一方で愛する者が目の前で怪物化してしまうその絶望。そして、そこで残された者が取る選択の、いずれにしたって悲しくて辛い選択、みたいな。

引用:IMDb.com

完全に”ファイナル・エクスプレス凝縮版”

しかもそれがですね、最終的には突き当たりの部屋とドアを挟んだ廊下という、限定的かつ直線的空間の中で展開される訳ですよ。これ、完全に”ファイナル・エクスプレス凝縮版”なんですよ。最初の10分は。これうまいですね!だから要するに、前作までのあらすじとかじゃなくて、映画そのものの今回の展開として、前作までやったことを凝縮して見せている。うまいな!と思いましたけどね。鮮やかな手際だと思いました。

逆に言えばですね、今回の『ファイナル・ステージ』で正統派ゾンビ物的なのはこの冒頭10分だけと言ってもいいと思います。で、タイトルが出て本編、その4年後、さっき言ったように外の世界から隔絶され、中ではたぶん無数のゾンビがあふれ返っているであろうという、かつての韓国にですね、香港のですね、なんか白人のおっさんが仕切っている犯罪組織・・雑な感じの犯罪組織から送り込まれる形で、決死の里帰りをすることになる、カン・ドンウォン演じる元軍人の主人公と、これは火曜日の韓国映画特集でも岡本敦史さん一押しでした!ひどい目にあうのがよく似合うキム・ドユンさんなどなど、が送り込まれる。要は、韓国に放置された大金、お宝を、鳥目気味なゾンビたちは比較的夜はおとなしいっていう事で、夜の間に取り戻してこいというミッションを、なんだかんだで請け負ってくるという。

ここまで20分。非常に序盤のテンポが快調。

で、仁川港から市内におそるおそる忍び込んできて・・ここまでが約20分なんですよ。非常に序盤のテンポが快調で、いいね!っていう感じなんですとね。廃虚と化したその街並みをコワゴワと進んでいく中でですね、主人公が目にする、ある異様な光景。月明かりに照らされて、全貌が異様な光景・・全貌が現れていくというスリリングなくだりがあるんですが、ここが、単にビジュアル的な見せびらかしに終わらない作りに、ちゃんとなってるあたり。ヨン・サンホさん、やはり確かな腕を持ってるなっていうのは、特に見終わると、「あーっ、やっぱり本当にヨン・サンホ、うまいな!」っていう感じがするあたりでございます。

で、とにかくなんやかんやあってですね、目当ての現ナマが詰まったトラックを発見すると。しかしですね、ここでやはり、あれですね、こういう所で、「楽勝だったな!」なんてことを言うと、これはいかにもフラグと言わざるをえない・・!「楽勝だったな!」なんて事を言った途端にですね、当然これ主人公たちにとってはスンナリと帰られそうもない不測の事態が次々と起こることになる・・。

引用:IMDb.com

光と音

ただし!もちろん直接的な脅威はね、そのうじゃうじゃいる・・そして、ここがポイントですよねやっぱね。光と音に強く反応して全力疾走で迫ってくるゾンビたち、それが直接的な脅威ではあるんだけど、実はこの「楽勝だったな!」から先です!不測の事態が起こってくる、ここから先は急速にですね、ゾンビたちは、単なる設定上の危険に後退していきます。つまり二幕目からは、今回はゾンビ物ではないんですよねっていう感じになっていく。別のジャンルなんすよねっていう事が、このあたり大体30分目ぐらいからはっきりしていくと。二幕目から。

じゃぁ、何なのか?っというと、まず外側の世界と隔絶した、その封鎖された地域。そこはその極悪なボスに束ねられた暴力的集団が支配する無法地帯と化していて、主人公はその中に入り込んでお宝をゲットし時間内に脱出しなければならないという、この基本ルール。これがまぁ、文春エンタ!の寸評にも書きましたけど、まぁずばり『ニューヨーク1997』ですよねこれね。ジョン・カーペンターのね。

定番的なセッティング

で、ヨン・サンホさんは『ニューヨーク1997』は見ていなくて、続編の『エスケープ・フロム・L.A.』しか見てないって言ってたんだけど、まぁ話は同じ事なんで。というかまぁ、非常に定番的なセッティングなんですね、これね。まぁ「『ニューヨーク1997』型とさせていただきますけど、非常に定番的なセッティング。

そしてもちろん、そもそもこの崩壊後の世界を舞台にした、いわゆるポスト・アポカリプス物というジャンル、一大ジャンルで、これも山ほどありますよね。しかもそこで、武器としての改造車を駆る悪党集団まで出てくる訳ですよ。

引用:IMDb.com

改造車を駆る悪党集団はマッドマックス2以降

これはもう、言わずもがなね、当然『マッドマックス』それも2以降という事になってくる。当然のようにクライマックスは、主人公達の車とそれを追う暴走集団との熾烈なカーチェイスという。で、こういう感じの『ニューヨーク1997』+『マッドマックス2』というと私、2009年10月10日に評した『ドゥームズデイ』なんていう映画がね、ありましたけども。まぁ本作もそこにさらにゾンビ要素をプラスした、『ニューヨーク1997』+『マッドマックス2』+ゾンビ、みたいな感じなんですけど、ただしこの『ファイナル・ステージ』、僕はここにすごい感心する、さすがヨン・サンホというべきか、そのベースとなる設定・世界観こそ決して目新しいものではない。むしろ散々やり尽くされてきて手垢がつきまくったものなんだけど、そこにいくつかの独自要素、あるいは独自のキャラクター的な掘り下げなどをミックスすることで、定番要素からまた新鮮な表情をちゃんと引き出している、っていう。これ、『ファイナル・エクスプレス』もそうでしたけど、今回もやっぱりそこはちゃんとあるなと僕は思ってます。

キッズムービーなの?これ

例えばですね、僕1番今回の作品で面白かった要素は、意外や意外、80年代キッズムービー的な要素が、途中から急に濃くなりだす。「えっ!キッズムービーなのこれ?」みたいな。個人的にはここが一番意外で面白かったですね。

さっきのね、メールにもありました、イ・レさん演じるジュニさんの大人びたハンドルさばきとか、車のアニメ的にデフォルメされた車の挙動、アクションなんかも込みでですね、非常に荒唐無稽なんだけども、荒唐無稽ゆえの楽しさですよね、「んなわけあるかい!」っていう楽しさ。要するに子供向け映画ならではの飛躍の楽しさ、みたいな・・のがあったり。

面白い要素1、キッズ要素

さらにそこから出てくる小さい女の子、イ・イェオンさん演じるユジンという女の子が操るあのガジェット。あれなんかもう本当に80年代キッズムービー風っていう感じがします。まぁバカバカしいはバカバカしいけど、楽しい。ただこれもですね、実は序盤・・要するにこれがね、まぁ言っちゃえばラジコンの車なんだけど、それが光と音を発してるんだけど、序盤、主人公の甥っ子が持っていたスーパーボールがよく似たような光を発している。つまり、その「子供」という所で実は悲しい過去とも呼応するようにできている、っていう、これはさりげなくもうまいディテールですね。

面白い要素2、光の要素

で、あともう1つ。キッズ要素があるっていうのがひとつ面白要素と、あともう1つ、今言ったその「光」の要素。とにかく何かキラキラピカピカしたもの。あるいは照明弾やライトなどなどと、「音」を出すもの。つまり要するにゾンビが反応する要素っていうね、「音と光」というのが要所でギミック的に生かされていくのが、これがメチャメチャ楽しいんです。

特にクライマックス。この光のギミックが、まあケレン味たっぷりに、これもねリアリズム、理屈化すると「ちょっとそれ、おかしくないか?」って思うような使い方なんだけれども、非常にケレン味たっぷりに次々と投入されてね、レイヴ的にアガるというか、フォーーーッ!っていう感じでアガるっていうね。

で、とにかくそういう色んなアイデアを投入してくる偉さがまずある。僕はもうこの時点で定番ジャンルなんだけどちゃんとアイデアを投入してる、ここがもう僕は偉いと思います。

キャラクター

加えてですね、キャラクター。特にやっぱり悪役チーム631部隊、731部隊ならぬ631部隊内の、さっきもちょっと山本さんとも話しましたけども、微妙なパワーバランス。ここが味わい深い。これね、前作『サイコキネシス』でも地上げヤクザを演じていたキム・ミンジェさん。その粗野な感じ、これもすごくいいんですけども、やっぱポイントは、このソ大尉と呼ばれる、一応その暴力集団の地位的にはトップなんだけど、実質のトップはやっぱりそのキム・ミンジェさんに仕切られてるっぽい、このソ大尉を演じる、ク・ギョファンさん。これ、「DJ松永似」と私言っておりますが、彼がその外の世界に強く思いを寄せている。で、言っちゃえば線の細いトップというか、このキャラクター造型なかなか独特ですごく印象に残る。なぜなら彼は、「生きてここから脱出したい」という思いは、主人公たちと全く同じだからなんですよね。

だから、やるその手段がひどいんだけど、ちょっと思い入れちゃう。かわいそうな気がしちゃう。あとはその、キム・ドユンさん演じる、かわいそうな被虐的なキャラが似合うキム・ドユンさんが、あまりにも絶望的な状況を前にして、本当に人が絶望するとちょっと笑っちゃうっていう。ああいうバランスがうまいんですよね、ちょっとしたディテールが。そこにすごく、生きた人間の感じがすごく出てて、やっぱりさすがだと思いますね。

定番ジャンルのミックスの中に独自のアイデア

という事で、定番ジャンルのミックスの中に独自のアイデア、味わいを色々投入してて、基本すごく楽しいし偉いと思います!

敢えて言えば、特に終盤、これやっぱりよくなかったという方が多かった!愁嘆場になると途端になんかテンポが鈍重になる。一部の日本映画とも通じる過度のウエットさが目立ちだすというのはこれ東アジアの特徴なのかな。。 実は『ファイナル・エクスプレス』でもちょっと感じる部分ではあったんだけれど。

終盤、盛り込みすぎ・・サービス過多?

今回は特にですね、色んな要素をぶち込んだ作品だけに終盤さすがに、いやもういいだろ、盛り込み過ぎ!っていうか、もうそういうのはいいだろう・・っていう風に、ちょっとお腹にもたれてしまったところはあるかなって思いますね。もっと景気よくね、せっかくレイヴ的にアガったんだから、景気よくドーン!って終われば最高ー!っていう感じだったんだけどね。まぁここはサービス過多という事にしておきましょう!ちょっとサービスが行きすぎてしまったという、まぁ、好ましい部分でもある。

宇多丸さんが感じた弱点

あとね、ちょっと僕が気になったというか弱点だなと思うのは、主人公のキャラクターが、ちょっと弱い。要するに「悔恨の念にとらわれている」というだけでどういう人なのかという個性、パーソナリティーが実は希薄なんです、このキャラクター。まぁカン・ドンウォンがかっこいいから、それでなんとか持っていってる・・ちょっとキャラクターとしては弱いかな、という風にも思いますが。

正月一発目、おすすめ!

でもですね、先ほどから言ってるように要するにパーツパーツはね、みんな大好きなジャンルが集まってるし、その1個1個に新鮮味をもたらすアイデアも込められていてですね、あと非常にその繊細なキャラクターの掘り下げとか、やっぱりその悪役チームのパワーバランスの不安定性とかは、非常に・・だからこそこの世界にいたくないんだ、というあのソ大尉の感覚であるとか、「ここでは生きられない」という感じが生きていたりして。僕はやっぱり意外と背骨はちゃんとしている、というところも含めて、さすがだなという風に思いました。まぁ、色々と言いたい部分がない訳じゃないんだけど、少なくとも正月一発目、劇場でデカい画面でドカンと景気よく見るには最高の1本ではないでしょうか。ぜひぜひ劇場でウォッチしてください!

書き起こし終わり。


○○に入る言葉のこたえ

③最初の10分は完全に”ファイナル・エクスプレス凝縮版”。

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