アンカット・ダイヤモンドのライムスター宇多丸さんの解説レビュー
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RHYMESTER宇多丸さんがTBSラジオ「アフター6ジャンクション」(https://www.tbsradio.jp/a6j/)
で、ジョシュ&ベニー・サフディ兄弟監督の第44回トロント国際映画祭でも上映され、批評家から絶賛されている作品『アンカット・ダイヤモンド』のネタバレなし解説レビューを紹介されていましたので書き起こしします。
映画視聴前の前情報として、また、映画を見た後の解説や考察レビューとして是非ご参考ください。
宇多丸さん『アンカット・ダイヤモンド』解説レビューの概要
①賛否がはっきり分かれる作品。
②みなぎるエネルギー、持続するハイテンションの中に観客を否応なく巻き込んでいく。
③ミスマッチな場面で流れる数々のサウンドが独特で異様な雰囲気を作り出す。
④〇〇〇〇させられる行動や状況の連鎖こそが見せ場。まさにこれは〇〇〇〇エンターテイメント!!
⑤サフディ兄弟が10年来温め続けてきた、彼らのお父さんの経験をもとにした作品。
※○○の中に入る文章は、この記事の1番最後で公開しています。
TBSラジオたまむすびでラジオ音源を聞いて頂くか、書き起こし全文をご覧頂くか、この記事の1番最後を見て頂く事で判明します。
アンカット・ダイヤモンド、宇多丸さんの評価は・・!?
(宇多丸)
ここからは「週刊映画時評ムービーウォッチメン」あらため配信映画を評論する「配信限定ウォッチメン」、『DVD&動画配信でーた』の編集部監修のガチャリストの中からのカプセルが当たったのが、この作品!
Netflixで配信中『アンカット・ダイヤモンド』
『グッド・タイム』などのジョシュ&ベニー・サフディ兄弟監督が、アダム・サンドラーを主演に迎えたクライム・ドラマ。ニューヨークで宝石商を営むハワードは、借金まみれで取り立て屋に追われる日々を送っていた。ある日、ハワードは巨大なブラックオパールの原石を手に入れ一攫千金を狙うが、事態は思わぬ方向へ向かっていく。
共演は『アナと雪の女王』シリーズでエルサの声を演じたことでおなじみイディナ・メンゼルさんとか、あるいはNBA選手ケヴィン・ガーネットご本人役ですね、2012年の本人役。そして、あとミュージシャンのザ・ウィークエンド、こちらも本人役。あとは、例えば俳優の、一瞬出ていますけど、ジョン・エイモスが一瞬本人役で出てくるとかね。そういう見どころもございます。
といったあたりで、このね『アンカット・ダイヤモンド』もう見たよというリスナーの皆さまからウォッチメンからの監視報告、メールで頂いております。ありがとうございます。
メールの量は普通よりちょい少なめ・・まあね、みんながみんなNetflix入っているわけじゃないでしょうし、というところもあるでしょうけどね。
ということで、賛否の比率は、褒める意見6割、けなす意見が3割、中間票が残り1割、受け付けない人は全く受け付けないらしく、正直賛否は分かれています。これは非常に分かる気もします。
アンカット・ダイヤモンドを鑑賞した一般の方の感想
褒める主な意見は
・「面白い!ハイテンションと緊張感、そしてダーティな会話の応酬、首根っこを引きずられるように最後まで見てしまった」
・「主人公はとんでもないクソ野郎だが、かわいそうでもあるし、どこか憎めない」
・「資本主義に踊らされた男の末路といった趣で、ラストの余韻がとても味わい深い」
などなどがございました。
一方批判的な意見としては
・「とにかく見ていてストレスがたまる」
・「話がどこに向かっていくか分からないのでイライラする」
・「見ていて疲れてしまう」
などなどの声がありました。
たぶんこれは本当に、褒めている人も「まあ、そういう作品だよね」ってことは、納得する感じじゃないかと思いますけど。
代表的なところをご紹介しましょう。いっぱい頂いているんですけどね。
アンカット・ダイヤモンド、代表的な褒め意見
ラジオネーム「ガクマルさん」
「アンカット・ダイヤモンド、Netflixでウォッチしました。結論から申し上げて最高でした。序盤から激しい会話とキャラの立った登場人物が多く、映画のテンポに付いていけないかと思ったのですが、気付いたときには、このグルーヴ感がたまらなく気持ち良くなりました。
特筆すべきは、あのアダム・サンドラーの顔、終始最高でしたが、中盤の破局した妻へ、よりを戻そうと必死に愛の言葉をかける時の顔が、信用できなさ過ぎるうえ、最高にキモい、マジキモい!本人の本気さがよりキモさを際立てていて、本当に変な顔と言われて爆笑される所が最高でした。最後の最後での顔も最高」
確かにね、「エクスタシー!」というね、「俺イキそうだぜ」なんか言ってね。あとは、こっちが駄目ならこっちにいくみたいな感じが、本当に最低っていうね。
あと、褒めている方で「タツヤマキオさん」この方は舞台でね、非常にNBA、プロバスケットボール、アメリカのね・・が非常に重要な背景となっているわけですが、この途中で出てくる試合に関して・・。
「劇中で賭けの対象になるあの試合は、2012年のプレイオフで行われた本物のNBAの試合です。流れる試合映像、試合結果、試合後のインタビュー等も実際のものをそのまま使っています。
本作はフィクションでありながら現実との強固なリンクを実現させて、そのリアリティがさらなる緊迫感を生み出し、試合結果を知っているわれわれNBAファンにとっても、当時のあの激戦を強制的に思い起こさせる強烈な映像となりました。
実際に、このボストン・セルティックス対フィラデルフィア・セブンティシクサーズの試合は、この10年間でも名勝負の一つに数えられています。
当事者であり重要な立ち位置で、本人役として本作品に出演している、NBAの元スーパースター、ケヴィン・ガーネットさん〓●〓(3:21)の、鬼人のごとき大活躍の裏に、本作で描かれた焦燥感にあふれる狂乱的な人間模様があったのだと捉えると、あの頃の試合を見る楽しさが大きく増した気持ちになります。
YouTubeであの試合のハイライト映像が見られるとことなので、NBA、これね、興味ある方はいかがでしょうか?」
という・・。はい、NBA視点、これ非常に勉強になりました。
アンカット・ダイヤモンド、批判的な意見
一方で批判的な意見、代表的なとこ「阿佐ヶ谷一の美女さん」
「アンカット・ダイヤモンド見ました。正直に言うとイマイチでした。あまり、はまりませんでした。
アダム・サンドラー演じるハワードは、とにかくクズで、全く共感できませんでした。クズはクズでも愉快なクズは好きなのですが、ハワードはとにかく不愉快なクズでした。最初から最後までその場しのぎで、そんな彼に振り回される周りの人々がかわいそうで・・。
映画終盤、借金取りに追われ、身ぐるみ剥がされ、妻に愛想を尽かされるシーンは、ざまあみろ!としか思いませんでした。その後、噴水に投げ込まれ、しょぼくれた彼を愛人ジュリアが慰めるところなど、なんだかひたすらイライラしてしまいました。それだけ悪感情を抱きながらも映画終盤の一世一代の大勝負にでるシーンは、引き込まれてしまいました。
どうか賭けに勝って借金をチャラにしてほしい、とは微塵も思いませんでした。映画全体を通して快い思いはしませんでしたが、最後のギャンブルだけは素晴らしいものがあったと思います」
あとは「本当に激烈にこいつ嫌い!」っていうね、メッセージもいっぱい頂きました。それだけ入り込んでいる、という言い方もできるかもしれませんし、そういう映画なのは間違いないと思います。
アンカット・ダイヤモンドをNetflix(ネットフリックス)で鑑賞
ということで『アンカット・ダイヤモンド』私もNetflixで英語オリジナル版と日本語吹き替え版で何回か見直してまいりました。ちなみに、アメリカでは昨年12月に普通に劇場公開された作品でもあるので、普通に劇映画ということですね。
ベニー・サフディ&ジョシュ・サフディ。ジョシュさんがお兄さんで、ベニー・サフディさん、こちらが弟。サフディ兄弟の最新作でございます。
サフディ兄弟ね、すごくいろんな作品、たくさんの短編、長編も何本か撮っていて、っていう感じで、僕は、申し訳ないですけど『グッド・タイム』以前の長編というのが、ちょっと見られてなくて申し訳ないんだけども、ただやはりですね、彼らの才能を一気に世界に知らしめることとなった、と言ってよかろう2014年の『神様なんかくそくらえ』原題『Heaven Knows What』という映画、これは東京国際映画祭でグランプリと最優秀監督賞、ね、早くも取っている作品ですけども、その『神さまなんかくそくらえ』以降、今回の『アンカット・ダイヤモンド』
4月11日に村山 章さん、ね、映画ライター村山 章さんにこの番組のご紹介いただきました。
その時もおっしゃっていましたが、原題は『Uncut Gems』、ね、劇中でメインに描かれるのは、ダイヤモンドではなくてブラックオパールの原石なので、ちょっとこの『アンカット・ダイヤモンド』っていう邦題、ちょっと若干微妙かなって気はしなくもないんだけど、まあまあ気持ちは分かるというタイトルではありますが、とにかく『アンカット・ダイヤモンド』に至るまで、このジョシュ&ベニー・サフディ兄弟、わりと作風というのがはっきり一貫している方でございまして・・。
ざっくり要約するなら、こんな感じですね。
客観的に見れば非常に短絡的な狭い視野しか持っていない、それゆえに常にぎりぎりの状況を綱渡りのように生きているニューヨーク裏側の人々、ニューヨークのストリートライフを生きる人々。
だからといって通常の物語的な因果応報でいいとか悪いとかジャッジすることなく、とにかく彼らの視点に、映画の語り口的にも「寄り」をキープしつつ、特にその『神さまなんかくそくらえ』『グッド・タイム』は、トーク、すごく「寄り」のショットが多い作品でしたけど、持続するハイテンションの中に、その観客を否応なく巻き込んでいく、というね。
すごくこう、どうしようもない主人公の行動に、周りの登場人物もそうだし観客も巻き込まれていくというような、たとえば『グッド・タイム』だと、知的な障害を持つ弟との銀行強盗が目も当てられない失敗に終わり、捕まって病院に収容された弟を奪還しようとするんだけど、そこから、あり得ない大チョンボが挟まれて、じゃあ!っということで今度は、みたいな感じで・・。
とにかく、これね、あの『神様なんかくそくらえ』を気に入って、その兄弟にアプローチしてきたというロバート・パティンソン演じる主人公、この行動がですね、本当に行き当たりばったり、どんどん彼にとっての想定外の事態が、連鎖して本来の目的が何だったかもよく分かんなくなるほど脱線に脱線を重ねていくと・・。
アンカット・ダイヤモンドの終わり方
とりあえず、この映画は、とりあえずここで終わり!って感じで異様に無造作に突き放してバサッと終わるっていう、そういう感じ。
「でも、人間とか人生って実際こんなもんじゃね?」とでもいうような、ふてぶてしい、妙に明るいエネルギーの、みなぎっている、陽性のエネルギーのみなぎっている、そんな映画を撮ってきた人たちですね、サフディ兄弟ね、今回の『アンカット・ダイヤモンド』もそうですけど。
で、そこにさらにですね、ちょっとストレンジな印象を増しているのが、非常に独特なキッチュでエキセントリックな音楽の使い方。
例えば、この『神様なんかくそくらえ』2014年の作品では、冨田 勲の、ドビュッシーのね、あの『月の光』の冨田 勲バージョンが、すごーくミスマッチな所で流されたりとか、あとはもちろん『グッド・タイム』と今回の『アンカット・ダイヤモンド』におけるですね、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーこと、ダニエル・ロパティンさんによる、80年代的なこのチープなポップさと現代音楽的なアバンギャルドさが入り混じったようなエレクトロサウンドっていうのが、非常に鮮烈、かつ、やっぱり劇伴としても、とっても変わったポイントで流されると、普通だったら、こういう場面にはこういうテンションの曲を流すだろうっていうのと、ちょっとずれた感じで流される。
あるいは今回だと、ビリー・ジョエルのね『ストレンジャー』が、いきなり流されたり、それもなんかすごくミスマッチな感じで流されることで異様なニュアンスを醸し出している。あとは大音量で流れるマドンナってのもありましたね。
はい、とにかくそんな独特の、でもニューヨークというキーワードが一つありますけどね。その独特の電子音楽趣味というのが、サフディ兄弟作品の一つの特色ともなっている、みたいな感じで・・。なのでですね、まずはっきり言っておくと、間違いなく好き嫌いは分かれる作風です。あのサフディ兄弟。万人にフラットにお薦めは僕もしません、はっきり言って。
かく言う僕自身が『グッド・タイム』を見た時点では、「これ、面白いんだか何なんだか」っていう感じで、どう評価していいか、ちょっとよく分かっていなかった所も正直ありました。
なんだけど、これも村山 章さん、ね、先日のご紹介の中でもおっしゃっていましたが、
「今回の『アンカット・ダイヤモンド』で“ああ、なるほど!サフディ兄弟って、つまりこういう語り口の映画がそもそも作りたいってことなんだな”ってことがよりクリアになった。作風としてより明白に確立された、みたいなところがある気がします。今回が決定打という感じがします」
主人公のバカすぎる行動にイライラするという可能性も
とはいえですね、とにかくその視野狭窄で短絡的、行き当たりばったりな主人公が、後先とかね、他人の迷惑を顧みず、とにかくハイテンションで暴走してゆき、案の定、目も当てられないことになっていくという話なのに変わりはないので、その登場人物のバカすぎる行動全般にイライラしてしまうという方には、ひょっとしたら本当にただイライラさせるだけの映画に見えるかもしれない。
実際僕も見ながら「これはまさにイライラさせられる行動や状況の連鎖こそが見せ場となっている。まさにこれはイライラエンターテイメントだ!」みたいな、つくづく思いながら見ていたぐらいなんですけど、ただそのね、イライラがエンターテイメントたりえている、ということに関しては、今回は特にやはりですね、アダム・サンドラーが主演であるということが非常に大きくプラスに働いているのは間違いないあたりかなと思います。
アダム・サンドラーがどれだけね、特に本国アメリカでは巨大な存在か、本当にトップコメディアンであり続けてきたかということに関しては、ここではちょっと語っている時間がないんですけど、とにかく近年はですね、Netflix制作、配給作品に軸足を移して、人気の根強さをあらためて証明してみせているっていうのがアダム・サンドラーですけど、なのでアメリカで劇場公開された実写作品としては『ピクセル』2015年以来の、今回の『アンカット・ダイヤモンド』になるわけですけど。
今回はNetflixと、またしてもそのA24の共同配給作品となっているわけですけど、要はですね、アダム・サンドラー、じゃあ、どういうキャラクターで人気があった人かっていう、その魅力の辺りを一言で言うならば、僕の表現で言うなら、暴走するイノセンスっていうか、そういうキャラクターですよね。
つまり、非常に親しみやすい、素朴で庶民的な、憎めない無邪気な人物なんだけど、その無邪気さゆえに、すごく一本気がちょっと狂気の領域に行っているっていうか、一度キレると爆発的、もしくは暴力的に暴れ出すというような、そういう彼の暴走するイノセンス的なキャラクターを、例えば、そのジャンル映画、コメディというジャンル映画ですごい人気を博してきたわけですけど、それを作家的にアダプテーション、読み替えてみせたのが、例えばポール・トーマス・アンダーソンの『パンチドランク・ラブ』だったりすると思うんですけど。
その意味で最初に言ったサフディ兄弟の作家性、異常に視野が狭い、短絡的で行き当たりばったりの人がですね、ニューヨークの裏側をハイテンションで暴走していく。
同じくニューヨーク育ちのユダヤ系、つまり同じ世界を見てきた人でもあり、その暴走するイノセンス、アダム・サンドラーと相性ピッタリなわけです。しかも、アダム・サンドラーなら、そういうサフディ兄弟的なキャラクターに、まさしく憎めないユーモアっていうのを自然に加味していることができる。普通だったら感情移入しづらいキャラクターに、アダム・サンドラーがやるなら憎めなさが、そしてユーモアが加味されるという、そういうプラスもある。
ジョナ・ヒルを主演に進めていたが、結局降板
ということで、このサフディ兄弟が10年来温め続けてきた、これお父さんのね、経験とかをもとにしたという、この企画、一時はジョナ・ヒルがね、主演で進んでいたようですが、結局それを降板して、当初の第一候補で、一度は断られてたという、そのアダム・サンドラーに決まって、結果、アダム・サンドラーのキャリア上でも最高レベルの名演、はまりっぷりを見せることになる。
インターネット・ムービー・データベースによれば、ダニエル・デイ=ルイスが、本作のアダム・サンドラーの演技を絶賛して、アダム・サンドラーが「俺のキャリアで最高の瞬間だ」みたいな・・『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のディカプリオみたいなことを言っているという・・。ちなみに、今回のアダム・サンドラー、前歯は付け歯です。あとホクロもフェイクだそうです、というね。
まずは何にしろね『アンカット・ダイヤモンド』オープニングからぶっ飛ばされますよね。
2010年、エチオピアの鉱山で巨大なブラックオパールの原石が、すごく労使が大揉めしている中、密かに掘り出され、そのダニエル・ロパティンさんの80'sチックな、このなんかこうモーグのね、シンセが鳴り響く中ですね、カメラがグーッとその原石に寄っていく、『ミクロの決死圏』ヨロシク、その中の中の中の小宇宙にまで進んでいく。
これちなみに、こういう顕微鏡写真家の作品を参考にしたということらしいですけど、タイトル『アンカット・ジェムズ』というね、要するにカットされていない宝石たち、輝く可能性は秘めているけど・・な原石たち。という、このタイトルが暗示するものは、あとから考えるとなかなか味わい深いですが、とにかくその『アンカット・ジェムズ』、タイトルが出たあたりからですね、このオパールの原石の内部に進んでいったはずのカメラが、どうも映し出しているものが、なんか様子がおかしくなってくる。
最終的に「なんちゅうとこにつながってんだよ!」っていう、ところに至る。そして「2012年春」というね、クレジットが出る。
これあの『ファイト・クラブ』とか『エンター・ザ・ボイド』とかを演奏させもするけど、とにかく「何考えてんだ!?」と誰もが驚き呆れるこのオープニング、このオープニングに、まず「ヤバいこの映画!」ってすごく上がるか、はたまた「わけワカメ」となってただ引いてしまうかで、まずは本作との相性が分かる。だから最初のオープニングを見てください、とりあえず。ここでのれなかったら止めてもいいかもしんないです。
そこからがまたすごい。アダム・サンドラー演じるニューヨーク、ダイヤモンド・ディストリクトというね。行かれた方もいると思いますけど、要するに宝石をやり取りする場所があります。
お店がいっぱいありところに店を開くユダヤ系の宝石商ハワード・ラトナーさんという方。
クライマックスでも実は非常に緊迫感あふれる舞台となるこのお店あのお店、完全にセットで作ったらしいですけど、その主人公ハワードとその周囲の人物たちとの関係性などを、あるいは固有名詞などを全く説明もなく次から次へと、時には、セリフ同士会話同士が、かぶりまくるほどの密度と速度でやっていく。
この全てが同時に重ね合わせて並行に進んで行くというこの感覚は、ひょっとしたら、われわれ日本人の観客にはですね、今回字幕で見るよりも、例えば主人公のハワードを、森川智之さんが声を当てている、日本語吹き替え版のほうが、ひょっとしたら情報重ね合わせ感とか、カオス感とか、会話のテンポ感みたいな、実はそっちのが、ちょっと分かりやすいかもしんないって意味で、僕は今回、吹き替え版、結構お薦めです。
アンカット・ダイヤモンド、1番ノリが近い映画はグッドフェローズ
一番ノリとして近いのは、やはり本作の制作総指揮にも名前を連ねているマーティン・スコセッシの『グッドフェローズ』かなと思います。つまり、説明もなく固有名詞がバンバン飛び交うことで、逆にその業界の真っ只中にいる感じ、要するに業界の中にいれば固有名詞なんか説明しないわけですから、その感じが体感できる作りって感じだと思いますね。
これ、撮影監督のダリウス・コンジさんが、35mmフィルムを使って、今回35mmフィルムで撮っています。ざらついた質感が70年代ニューヨーク犯罪ものって感じがするのもすごくいいですよね。
特に新鮮なのは、壁にかかっている写真、よく見るとスリック・リックとハワードさんが一緒に撮った写真があったり、もちろん合成でしょうけど、あったりとか、そんな感じでラッパーとか、あるいは本作品、さきほどのメールでもあったとおり2012年の当人役として出演しているバスケットボールスター選手のケヴィン・ガーネットさんとか、というね。
ちなみに、あのサフディ兄弟、前にレニー・クックという高校バスケのスター選手だった人のドキュメンタリー撮っていたりするというね。
ちなみにあと、今回のKG(ケヴィン・ガーネット)がやっている役は、コービー・ブライアントにオファーして断られた役という、こういう裏話もあったりするようですが、とにかくラッパーやスポーツ選手といったアフリカ系のアメリカ人のスターが、キース・スタンフィールドさん演じるデマニーのような仲介人を通してユダヤ系の宝石商とつながり、そういうブリンブリンなね、キラキラしたアクセサリーを買っているという、この感じ。
映画などでこうやってはっきり描かれたこと、あまりないと思うんで、まずすごく「あ、こういう世界が確かにあるんだろうな」って、すごくリアルで興味深いわけですね。なんかこうニューヨーク内幕ものとしても面白い。
とにかく、この主人公のハワードがですね、開始早々から常軌を逸したギャンブル体質、出たとこ勝負体質全開で、借金取りに追い掛け回されているにもかかわらず、なんかちょっとくる、ちょっと金目なものとか、ちょっと現金が手に入ると、人のものであってもすぐ金に換えちゃって、それをバスケ賭博に全部ぶっこんでいるという・・。本当に綱渡り以外の何ものでもないサイクルを生きていると・・ざっくり言えば僕これはですね、アメリカ的な欲望というのを極端に体現したキャラクターというような言い方ができるかなと思います。
そんな感じゆえの、アイコンとしてのキャッチ―さがあるというね。で、こういう共感できないエグいキャラクターがアイコン化していくタイプの作品って、たまにあったりしますけど、『アンカット・ダイヤモンド』はまさにそういうタイプの『アンカット・ダイヤモンド』のハワードは、そういうタイプのアイコン化していくキャラクターかなという感じがします。で、当然ですね、こんなのは、ちょっとでもほころびが出れば、全てがドミノ倒し的に崩壊していくに決まっている、狸の皮算用ベースのライフサイクルなので、事態がどんどん当然悪化していくわけですね。
アンカット・ダイヤモンドのキャストについて
ということで、ケヴィン・ガーネットに預けたこのオパール原石とさきほどのメールにあったとおり、実際に2012年、彼がセルティックスでプレーした試合の行方というのを中心にして追ってくる借金取り、あるいはイディナ・メンゼルさん、エルサの声をやっていましたけど『アナと雪の女王』で、あんな怖い顔していたなんて、イディナ・メンゼルさん演じる奥さんとの冷え切った夫婦仲、倦怠夫婦物でもある。
それにさらにですね、やはり2012年の当人役、まだそこまで売れていないという立場役で出てくるウィークエンド、彼がどうしてこれに出演しているかの経緯については『キネマ旬報5月上旬下旬合併号』で宇野維正さんが鼎談の中で語っている、あれがすごく詳しいので、こちら読んでいただきたいですけど、とにかくウィークエンドを挟んでのハワードの愛人であり雇用関係でもあるジュリアという方とのイチャイチャ喧嘩関係というね。
これを演じていらっしゃるジュリア・フォックスさんは、映画は初出演だけどニューヨークでは知られたセレブというか実業家アーティストという方らしいですね。
あとはね、さきほども言ったけど、ジョン・エイモスさんというね、有名な俳優、『星の王子 ニューヨークへ行く』に出た俳優が出てくる、そういう虚実皮膜っていうのは、本人が出ることによる虚実皮膜感みたいなところがすごく味わいでもあって、本人に近いキャラクターが演じることとかね・・が、すごく面白い映画でもあるんですが、そういうハワードを取り巻く人々との、ひとえに彼の身勝手さ無謀さゆえに、こじれていくエピソードが非常に非直線的に、つまりどこにストーリーが向かっているかは明確ではないんだけど、しかし着実に作品としてのテンションを高める方向で、つまり各々きっちりハラハラさせられたりする見せ場とか面白さが用意されているため、作品としてのテンションがどんどんどんどん高まっていく感じで散りばめられていく。
例えば、娘の演劇鑑賞をしていたら最中に「ああ、あいつらが来てるっ!」そこからの「脱出!」からの「監禁」とか、あるいは息詰まるオークションでの値上げ、つり上げ的工作とかですね、そういう見せ場があって・・。テンションはどんどん高まっていく、で、どんどんどんどん、どつぼにはまっていくハワード。
当然自業自得そのものなんだけど、例えば直前まで喧嘩していた愛人ジュリアの前で「ああ、俺はもう駄目だ。何をやってもうまくいかないんだ」とかね、ぐずったかと思いきや、これはジュリア・フォックスさんのアイデアだという、愛人ジュリアからのバカップル感まる出しのプレゼントにですね、「ああ、俺はこんなのに値しない男なんだ。同じ墓には入れないよ」とか勝手なことを言ったかと思ったら、そこに入ってきた救いの神的な商談にケロッとして「イェーッ!やったぜ!マジで俺、本当ハンパないんだけど」みたいな。
この本当の意味での懲りなさが、だんだんすがすがしく、かっこよく見えてくるよね。あとはやはりアダム・サンドラーゆえの憎めなさ、愛嬌がもちろんあるというあたりで、どんどんどんどんハワードの行動が、やはり目が離せなくなってくる。で、その極みはもちろんそのクライマックスに突入していく、あのきっかけですね。
オフィスでKG(ケヴィン・ガーネット)と話していて、勝負師の魂にまたまた火がついてしまう、というくだりで、その面に宿る狂気に、あのKGが、海千山千の勝負師まさにトップで勝負しているKGがひるむ。
で、そこからの実際のですね、2012年セルティックス対セブンティシクサーズの試合とシンクロしての一世一代の大博打、しかもそこは、単身カジノに乗り込んでいるジュリアさんの、非常にサスペンス的な状況とも並行してあるから、とにかくハイテンションで盛り上がっていくという。で、そこからどうやって決着がついていくか、僕は思わず「あっ!」と声を上げてしまいましたけどね。
アンカット・ダイヤモンドのラスト
ものすごく突き放したラストのように見えるけど、なぜか高揚感とか、ある種の・・つまりその、やっぱりヤツの幸せさっていうか、こういうふうに生きているヤツって幸せなのかなって気もするからってとこ、あります。そしてやはり、そういうね、いろんな人が出入りするわけですけど、いろんな粗削りな人生、人間っていうものを、でもそれ、俺たち夜空に輝くキラキラ光る星のような原石だよね。粗削りだけど、そのままでは価値ないけど、みたいな、そんなサフディ兄弟ならでの着地。
ということで、非常に人を選ぶ作品なのは間違いないので、見る前に覚悟はしていただきたいですが、僕はちょっと不思議なほどやっぱりはまって、中毒的にはまってしまいました。カルト映画的にたぶんこれは、語り継がれ、上映され、愛されていく作品になっていくんじゃないですかね。この機会にぜひNetflixでウォッチしてください。
<書き起こし終わり>
○○に入る言葉のこたえ
④イライラさせられる行動や状況の連鎖こそが見せ場。まさにこれはイライラエンターテイメント!!