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引用:IMDb.com

バクマン。のライムスター宇多丸さんの解説レビュー

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2020年05月20日更新
人気漫画の実写化映画化ということに関して、非常に的確な戦略を持っているなというふうなとこにまず感心した。めちゃめちゃ面白かったです。いい映画でした。(ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル)

RHYMESTER宇多丸さんがTBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」(https://www.tbsradio.jp/utamaru/)
で、大根仁監督作「バクマン。」のネタバレなし解説レビューを紹介されていましたので書き起こしします。
映画視聴前の前情報として、また、映画を見た後の解説や考察レビューとして是非ご参考ください。

宇多丸さん「バクマン。」解説レビューの概要

①実際に漫画を描いているという方からの感想も賛否両論
②少年ジャンプ内で少年ジャンプ漫画論を展開するというメタフィクション構造
③主人公たちの「漫画が好きだ」という動機を純化するため、○○的な要素をばっさりオミット!
④「何かが好きであること」「情熱」「熱さ」の強調
⑤エンドクレジットまでしっかり観るべし!
⑥全編が非常に明快な「少年ジャンプ論」であり、「少年ジャンプ文化賛歌」であり、「日本的漫画文化賛歌」

※○○の中に入る文章は、この記事の1番最後で公開しています。
TBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」でラジオ音源を聞いて頂くか、書き起こし全文をご覧頂くか、この記事の1番最後を見て頂く事で判明します。

バクマン。宇多丸さんの評価とは

(宇多丸)
スペシャルウィークも新作映画が公開されている。一体誰が映画を見張るのか。一体誰が映画をウォッチするのか。映画ウォッチ超人「シネマンディアス宇多丸」が今立ち上がる。その名も、「週刊映画時評 ムービーウォッチメン」。

さぁここから11時までは、劇場で公開されている最新映画を、映画ウォッチ超人こと「シネマンディアス宇多丸」がウキウキウォッチング。その監視結果を報告するという映画評論コーナーです。

スペシャルウィークの今夜扱う映画は、先週ムービーガチャマシンを回して決まったこの映画「バクマン。」!

漫画「DEATH NOTE」を送り出したコンビ、大場つぐみと小畑健による、漫画家を志す高校生2人を描いた大人気漫画、その実写映画化。監督は、「モテキ」などの大根仁監督。性格の違う高校生2人組を佐藤健と神木隆之介が演じているということでございます。

さあということで、非常に話題作でございまして。あと、大根仁監督の最新作という意味でも、久々のメジャー作品ということで、こちらも注目度高いんじゃないでしょうか「バクマン。」。この映画を見たよというリスナーの皆様から、監視報告、メールでいただいております。メールの量は、ちょっと多め。賛否で言うと、「賛」が半分、「否」が1割、残りが中間といったところ。

「賛」の人は、
・今年の邦画ナンバーワン!
・めちゃくちゃ燃えた!
・青春映画の傑作。
・漫画を描くことをこんなにかっこよく描けるなんてすごい!

と、熱量高めの絶賛メールが多かった。

半面、

・リアリティがない。
・アシスタントも出てこないし主人公たちの親も出てこないのはなんで。
・主人公たちが漫画を描く動機わからない。
・漫画へのリスペクトが足りない。
・漫画を冒涜している。

といった意見も一部みられた。

実際に自分で漫画を描いているという方からの感想もいくつか届いたが、その感想も要するに、実際に漫画を描いてたりとかして、現場を知ってる方、本当のリアリティを知ってる方っていうのでも賛否が分かれるというわけです。

ということで、ちょっと対照的な、どちらも漫画描かれている方、対照的なお二方ご紹介したいと思います。まず、「ツカモトユメヒロ」さん。この方褒めている方。

引用:IMDb.com

バクマン。を鑑賞した一般の方の感想・評価

*ツカモトユメヒロさん
「モテキ」や「恋の渦」で、大根監督の人物の演出力に感服し、僕自身も漫画を描いているということもあって、といってもまだ読み切り掲載しか経験がない中途半端な状態ですが、並々ならぬ気持ちで観に行ってきました。結果、ものすごくよかったです。漫画家を目指したばかりに感じていた熱い気持ちを思い出しました。僕は原作ものを映画化するにあたって、一番大切な事はその作品の魂の抽出にあると思っています。近年のコミック原作の映画化は、いかにビジュアルを近づけるかが作品への愛だと思われがちですが、本当に重要なのはそういった見せかけのものではなく、作品の伝えたい事はどこにあるのか、テーマは何か、面白いとこはどこなのか、それを見つけうまく抽出できるかがホントの作品への愛なのではないでしょうか。それでは、「バクマン。」という漫画の魂はなんなのでしょうか。それは本誌で1巻にあたる部分を読んでいるときに感じた、普通の生活の中から特別なことを始め、夢に博打しだすワクワクした気持ち、それに向かって常人ならぬ努力をする情熱、などではないかと思っています。それらをうまく抽出し、画面全体にキラキラした青春のエネルギーがにじみ出るような映像を作り上げただけでも、もうこの作品は成功であり、大根監督に5億点差し上げたい気持ちです。特に、主人公たちが徹夜を繰り返したりする情熱に関しては漫画家を目指すものほとんどの人が持っている考え方で、それを作品内で表現できているのは職業映画として素晴らしいと感動いたしました。確かに、漫画に携わっているものが観ると、「ん?」と思う箇所は多々あります。

(宇多丸)
要するにちょっとリアリティから離れているところ。

*ツカモトユメヒロさん続き
僕はこれがあえて分かりやすくするために作品のファンタジーの要素を盛り込んでいるんだと思います。
ちなみに余談ですが、僕は「タマフル」のことをアシスタントにいた別冊マガジンの先生の職場で教えていただきました。マガジン作家さん達の間で流行っているらしいです。

(宇多丸)
あららら。はいはいなるほどね。漫画家さん、よくラジオを聞かれているというふうに聞きますので、そういう意味でもちょっとプレッシャーです、今日は。

一方、ダメだったという方、ラジオネーム「ファブ」さん。この方も実際に漫画を描かれている。

映画バクマン。の批判的な評価・感想

*ファブさん
僕はジャンプではありませんが、漫画家のアシスタントをしながらプロの漫画家を目指しています。バリバリな業界インサイダーである上に、ジャンプ至上主義コンプレックスとか、いろいろな理由があってとてもじゃないけれど素直な気持ちで本作は見れないだろうと思っていたのですが、案の定、素直に楽しめませんでした。という立ち位置で感想を書きます。まず僕は大根監督が実はあまり漫画を描くということに理解がないように見えて非常にもやっとしました。漫画を描いてて顔や服があんなふうにインクで汚れることは、100歩譲って最初はあるかもしれないですが、まぁないです。服装も、描いてるうちにもっとラフになるはずです。何より、原稿の扱い方がとてもぞんざいなのが気になります。

(宇多丸)
いろいろ本当に実際に描かれている方ならではの、本当事細かな技術とか、描写の指摘があって、なるほどなという、あれが書いてあって、いっぱい書いてあって、本当にすいません、ちょっと紹介したいんですが。

*ファブさん 続き
漫画は、というより表現全般がそうだと思うけれど、売れてるものが結果的に面白いわけでも、面白いものが必ず売れるわけでもありません。だから僕は常々面白いと思うものを信じて描くということを大切にしています。この映画の主人公たちは、そういう初期衝動や原初的な喜びが描かれないまま、人気がどうだとか、新妻エイジがどうだとか。天才がいて人と比べたり人目を気にしてばかりいます。そんなところから絶対にオリジナリティは生まれないですよ。中盤に連載順位が落ちてきたところで、ついに自分の描きたいものを描くんだという初期衝動に立ち返るのかと思ったら、「まだこんな売れそうなアイデア隠してましたー!」とさらに下世話で不誠実な解決を示されて、心底不快でした。そして、僕のこういう不快感も、漫画を読まれてなんぼなんで、そういうのは負け惜しみですねと映画からなめられてる気がして、本当に悔しい気持ちになりました。

(宇多丸)
まぁ、実際に描かれている人なので。

*ファブさん 続き
面白い面白くない以上に、嫌いな作品でした。今年ワーストが来たなという感じでした。

(宇多丸)
これでもやっぱほんとにそういう実際に携わっている方ならではの、僕もだから、ヒップホップ・ラップ周りが出てくると描写にはやっぱうるさくなるし、心穏やかじゃなくなるってのは当然分かりますからね。

引用:IMDb.com

映画バクマン。宇多丸さんが鑑賞した感想

ということで、そうだ、「バクマン。」・・・行ってみましょう。余計なこと言う前にいってみましょう。先週の「アントマン」評補足とかしてる場合じゃない。いってみよう、「バクマン。」。

バルト9 TOHOシネマズ 日本橋で私、ちょっとツアー中で申し訳ありません、2回しか観れておりませんが。ただ、バルト9で観終わった後、終演後トイレ行ったら、横にいた観たばかりの若者2人がこんなことを言ってました。思わずって感じで。「漫画スゲェ!」て。「観客からこの言葉を引き出せている時点で、この作品大成功てことですよね」と思いながら聞いてました。で、僕自身もリアルタイムの少年ジャンプ読者だったのは正直70年代後半から80年代初頭の結構一瞬で、今はすっかり本当疎くなっちゃったんですけど、観終わった後、ほんと素直に「ジャンプやっぱスゲェな!」とか「日本の漫画やっぱスゲェな!」みたいなふうに素直に思えたです。

脚本・監督は大根仁さん。モテキや恋の渦

脚本・監督大根仁さん。劇場作品としては「モテキ」の次に撮った、先程のメールにもありましたけど、「恋の渦」って作品、これ本当ワークショップ内の企画で、超・超・超低予算インディーズ体制で作られて。「恋の渦」これもすごく面白かったですけど。番組内でもちょろっと言いましたけど。今回の「バクマン。」は、結論から言えば、例えばリテールのこだわりとか、コンセプターとしての鋭さみたいな、そういう部分、引き続き大根さんさすがだなぁという、そういう部分もあるんだけど。それが結構意外なほどド直球な、エンターテインメントとしての熱さに昇華されてて、そういう今までの資質みたいのが。なんかちょっと一皮むけたなっていう。一皮むけた、僕、傑作だと思いました。

引用:IMDb.com

バクマン。原作漫画について

原作漫画、さっき言ったように、僕はジャンプ読者じゃなくなって久しいので、ほんと遅ればせながらで申し訳ないですけど、このタイミングで初めて20巻頑張って読破したわけですよ。ツアー中ずっと読んでて。一言で言えば少年ジャンプ内で少年ジャンプ漫画論を展開するような、ものすごいメタフィクション構造なんです。すごいエグいメタフィクション構造を持っていながら、同時に、原作・大場つぐみさん、漫画・小畑健さんですか、のデスノートと同じく、デスノートの面白さとも近いと思ったんだけど、言ってみれば、非常にロジカルな駆け引きの面白さ。と、あと圧倒的な画のうまさというとこで。こんだけかなりいっちゃってるメタフィクション構造を持った作品なのに、普通にぐいぐい引き込まれるエンターテインメントになっているというのに今更ながらだけど驚いたんです。こんなすごい漫画が人気漫画なんだ!みたいな、驚いてしまいました。

バクマン。は、映画化むけの題材ではない

ただいずれにせよ、決して映画化向けの題材ではないようには、素人目には思えます。やっぱ、漫画描くなんてのは。でも、大根さんにはきっと、すでに勝算みたいなのが見えていたんじゃないでしょうか。まず今回の実写版「バクマン。」は、僕の見る限り原作漫画を実写長編映画にするにあたってのビジョンというか、換骨奪胎の仕方とか、あと取捨選択、何を捨てて何を残すかの手際がとても見事だというふうに思いました。思えば「モテキ」も、いろいろ人気と物議をかもした、そのサブカルディテールみたいなのは、実写化にあたって大根さんが持ち込んだものだからっていう意味で。常にやっぱ実写化にあたって、ある種の戦略を持ってっていうのは、「モテキ」からもそうなんだけど。例えば今回の実写版「バクマン。」は、当然のように全20巻もある原作漫画から多くの要素を削ぎ落としているわけですけど。いろいろ、それこそ家族いないとか、アシスタント描写がないとか、そういうのあるんだけど。僕それ以上に大きいと思ってるそぎ落とし部分があって。大きく2つなんですけど。まず、恋愛・女の子要素です。あともう1つは、さっきも言ったようなジャンプ内順位を上げていくっていうためのロジカルな駆け引き、いわばゲーム的な要素。原作が持ってる面白さの大きな部分を占めているロジカルな駆け引き・ゲーム的な要素。女の子要素・恋愛要素と駆け引き・ゲーム的な要素、この2つ。これがばっさりオミットしてることが結構僕大きいと思ってます。

引用:IMDb.com

バクマン。の女性キャラ

例えば女性キャラ。すごく極端なそぎ落とし方してて、要はヒロインの「亜豆」っていう小松菜奈演じる、ヒロインの亜豆のみ残して、他のキャラは全部バッサリいなくしてるわけです。しかもそのヒロインの亜豆も、すごくシンボリックな扱いに留めてあるということなんです。これによってどうなるかというと、一つ、これはちょっと本質とはちょっと別の部分かもしれないけど、一つ。僕、原作漫画読んでて、一つちょっと僕個人的にはすごく引っかかってしまった、女性観としてこれ今時どうかなっていう部分。ポリティカリーコレクト的にと言ってよろしいでしょうか。部分が、なにげにこのヒロインだけに残して、シンボリックな扱いにとどめることで、なにげに回避されている。おそらく大根さんはちゃんと意図的なのかもしれませんけど。

というのもあるけども、やっぱここが大きい。主人公たちの動機が、より純化されたということだと思います。つまり、動機何かって言えば、描かれてないって言うけど、描かれているでしょう。漫画が好きだってことですよ。漫画が好きだという熱い気持ち、てことですよ。ばかみたいだけどね。漫画が好きだという熱い気持ちが動機っていう部分、その部分に純化されているということです。

染谷将太さん演じる、新妻エイジ。

例えば、序盤天才である「新妻エイジ」というキャラクターがいて、染谷将太さんが演じててですね。染谷将太さんという人の役者としての立ち位置ともちょっと重なりますよね。若き天才っていうか。染谷さんが原作からはちょっと変わってる、どっちかというとデスノートのL風にアレンジした感じで、実写映画向けにアレンジして演じられてるその天才に触発されて、「描きてー!」と。「漫画描きてー!」つって2人で「うおー!」って走り出す。そこだけでもうなんか、感動するっていうか。そこだけで涙が出てくるような感じのエモーションを込めている。そういう作りになっているわけです。

引用:IMDb.com

主人公たちの「漫画が好きだ」

それはそこを押し出してる、つまり主人公たちの「漫画が好きだ」という動機が純化する方向にいってるというのが明らかなのは、「サイコー」っていう佐藤健さんが演じる主人公の1人のおじさんが、かつてジャンプで連載していた漫画家だと。宮藤官九郎さんが映画で演じてますけれど。このおじさんがなぜ漫画家になったかっていうことに対して、このおじさんの返答が実は原作漫画から微妙に改変されている。この改変からもすごくビジョンは明らかだと思うんです。原作漫画ではふざけ半分ですけど、女にモテたかったからって言うわけです。それは何でかっていうと、かつてヒロインの亜豆のお母さんにそのおじさんは恋していて、彼女を振り向かせたくてみたいな。そういうストーリーラインがあって。全体に原作漫画は恋愛動機側面が非常に強いんですけども。この今回の実写映画版では、クドカンさん演じるおじさんは、もちろん亜豆のお母さんに恋してましたなんていう設定はばっさりカットされてて、むしろこんなことを言う。「漫画家になっても女にはモテねぇよ」なんてことを言う。で、少年時代のサイコーに、「じゃあなんで漫画家になったの?」って聞かれて、おじさんはそこで「うんこ」なんつってはぐらかすんだけど、これ答えは明白ですよね。女にもモテないのになんで漫画家になったの?漫画が好きだからでしょ。だからここのセリフの改変だけでも、何かが好きだという熱さっていうところに特化していこうという、作り手のビジョンがはっきりしていると思うんです。

ヒロインの亜豆

このヒロインの亜豆というのに関しても、今回の実写版主人公サイコーが奮起するきっかけにはなってても、決して目的としては描かれてないというバランスだと思うんですよ。あのね、女に振られたところから男が奮起するていうのは「モテキ」もそうでしたよね。「モテキ」クライマックスもそうでした。そういう意味では大根さんの好みの展開なんだと思うんだけど。今回はそこに劇中チラッと映る「まんが道」のあるカットがあって、それよろしく「俺の恋人は漫画や!」っていう。要するに、動機がよりはっきりするためのきっかけになっているというか。彼女を手に入れるための話じゃなくて、むしろ、漫画が好きだという所だけが残るというためになっている。なのでより「モテキ」の女に振られて奮起よりも、これが好きだからっていう動機が明白なので、よりストレートな、大きなカタルシスがあるというふうに思います。

引用:IMDb.com

バクマン。は大根さんからの1つの回答?

ちなみにこれ余談ながらというか、これ僕の勝手な思い込みなんでしょうけども、今回の「バクマン。」このように明白に何かが好きであること、その情熱そのものの尊さみたいなのを前面に押し出す熱い作りになっているのは、これ僕の勝手な思い込みかもしれないけど、僕「モテキ」評、この番組で、シネマハスラー自体で「モテキ」評の中で、僕概ね褒めたと思いますけど、その中で、主人公が結局何かを真剣に好きなように見えない、結局ただ女のケツを追っかけているだけにも見える、みたいなことをちょっと批判として言ったわけです。僕はそれに対する大根さんからの1つの回答なのではないかというふうに、あくまで僕が勝手に思ったりしてますけど。

あと同じく神木隆之介さん主演の「桐島、部活やめるってよ」的なテーマでもありますよね、実は。何かを好きであることそのものの情熱みたいなことは。その証拠にというべきか、神木くんだけじゃなくて担任教師のキャスティング、桐島オマージュだったりなんかして。なんかもありました。

バクマン。映画版で大きくカットしたもの

あと、女キャラをほぼ1人を残していなくしたことで、バディものというか、というか言っちゃえばブロマンスもの、ストーリーとしての精度も上がったのは確かということで。いろんな意味でプラスっていうことだと思うんです。あと先ほど言いました、恋愛要素・女の子要素をオミットするのと同じように、原作漫画の面白さの核をなすというふうに僕は思う、ロジカルな駆け引き・ゲーム的な要素というのを、今回の実写版では大きくカットしているというふうに僕は思います。だから先程のメールで、順位を上げるために売れる漫画のアイデアを出しましたよ、みたいなのが不快だっておっしゃってましたけど、原作はもっとそっちなんです。もっとそっちで、そのための駆け引きというか、そのためにいかに知恵を絞るかという。ただ僕はそれがあんまり、だからって不純だとはあんまり思わないですけど。それこそものづくりをしてる端くれとして、だから不純だとは全く思わないけど。でもそういうロジカルな駆け引きとか理論の積み重ねみたいな、そういうところ、まぁ割と大きくカットしてあって、どっちかっていうと今回の実写版の主人公は戦略的にというよりも、新妻エイジという天才に対して、天才ではない自分たちにしかできないことで勝負しようぜっていう面が僕強調されてると思ったんです。だから僕はむしろ、そういう意味ではより純粋な感じになってるっていうふうに、自分たちにしかできないことで勝負するんだっていう。この何が悪いのっていう感じがする。

引用:IMDb.com

実写版のサイコーとシュージンを見て

プラス加えて、僕、特にこの実写版のサイコーとシュージン、この2人を見てて、資質はあるけど、でも天才ではないっていう自覚がある人が、2人寄り添ってお互いの欠けてる部分、お互いの欠落を補いつつ、でもどうにもならない情熱につき動かされつつ、天才じゃなくて自分たちにしか、凡才かもしれないけど、努力すれば自分たちには到達できる何かっていうのを突き詰めるという、この様を僭越ながら、自分らのrhymesterの結成の時から、ほんとにだから「組もうぜ!日本語ラップ組もうぜ!俺たち組めば天下取れるって!」みたいな。ほんとそういうことですよ。マジで口説いて。で、「あーやりてー!」人のライブ観て「やりてー!作りてー!うぉー!」みたいな。ほんとこういうもんだから。だからもう、だから彼らが駆け出すところを見て泣いちゃうのは、やっぱそれもあるのかもしれない。若き日の自分たちを見るような感じもあるかもしれない。あと、というふうな強調されていたりして、やはりその「何かが好きであること」「情熱」「熱さ」みたいなのは強調される作りになってるし。

「漫画を描く」という行為自体をアクション的な見せ場にするというアイデア。

加えて、ロジカルな駆け引きとかそういうストーリー上の面白さが大きくオミットされている分、映像でしかできない「漫画を描く」という行為自体をアクション的な見せ場にするというアイデア。これがいくつも盛り込まれている。何種類かいろんな見せ方があって。特に僕感心したのは、さっき言ったように、自分たちなりの戦い方っていうのを見出した主人公たちが、猛然と新しい作品を仕上げていくというその過程を、CGかと思いきやプロジェクションマッピングを駆使して漫画のコマが文字通り踊りだす。プロジェクションマッピングを駆使した映像と。あとサカナクションの、劇伴。テクノダンスミュージック的なって言っていいと思いますけど、テクノダンスミュージック的な劇伴。全体にこのサカナクションの劇伴の使い方がものすごくフレッシュだったと思いますけど。

と、さらにペンが紙を走る音ですよね。シャッシャッシャッシャッ。この映像とダンスミュージック的なグルーヴを持つ劇伴とシャッシャッシャッシャッって音の、見事なシンクロで。要は主人公たちがまさに漫画を描きながら感じているだろう高揚感みたいなのを表現していくシークエンス。あそこのもう、うわーなんてフレッシュなんだ、しかもすごいアガるっていうか。アガる、アツい、アツい、アガる、間違いない!みたいに思って、すごく感動しました、ここは。

引用:IMDb.com

これぞ大根仁作品的なディテールへのこだわり

ということで、他のとこも素晴らしいんですけど、全部言及しきれないんでちょっと端折りますけど、人気漫画の実写化映画化ということに関して、非常に的確な戦略を持っているなというふうなとこにまず感心した。あとこれぞ大根仁作品的なディテールへのこだわりみたいなことが、今回は先ほどから言ってるような漫画が好きっていうテーマそのものと直結して作品クオリティを割と直接的に上げてるってことも大きいなというふうに思いました。

例えば単純に考えて、劇中出てくる漫画、原作漫画の劇中漫画のクオリティも当然小畑さんの作画力あるからすごいんですけど。とかアイディアですよね。作品のいろんなアイデアとか。すごいんだけど。単純に劇中漫画の本物らしさ、説得力一つとっても、これこれどれだけ手間かかってんだよってことです。ちゃんと作ってんなと。例えば主人公たちがスキルアップしてくリアルさ。そのプロセスの、なんていうか、すごく新人にしては超うまいけど、ジャンプ、商業誌に載せるほどじゃない上手さから、ジャンプに最初に載ったらこの程度の下手さはありかもしんない位の下手さから、だんだんグルーヴするかのように画が上手くなってく感じみたいな。あれのよくできてますよ。あれで説得力、無言で持たしてるわけだから。大したもんだし。

バクマン。の編集者という役割

あとこれ原作もそうなんだけど、編集者という役割、これをすごく前面に押し出しているのが非常に斬新。いわゆる成長物語におけるメンター・師匠・指導者とは似て非なるものなんです。要は、教え込むわけじゃないんです。才能を発掘し導く。で、共に成長していく。音楽で言えば「A&R」とか。それこそ私、ラジオパーソナリティーでいえばプロデューサーです。パーソナリティーを発掘して何か良き方向に。でも完全に頭ごなしに「こうやれ、こうやれ、こうやれ」っていうのとは違くて。「君の資質はきっとこうだから、こっちに行ったほうがいいんじゃないのかな」みたいな感じで、お互い試行錯誤していく立場。僕にとっての「ハシP」とかがそうだったようにっていうことです。これ、いわゆる映画に出てくる師匠、いわゆるマスター・メンターよりも実は一般の社会ではこういうぐらいの立ち位置の人の方が、実は普遍的なのかもしれないです。なので、とにかくそういう距離感の大人、存在の役割をしっかり描くことで、王道の青春・成長ものなんだけど、一つちょっとフレッシュな味わいを加えてるってとこもすごい、わー面白いなと思った。しかも、その編集者を演じているのが、今回この実写版山田孝之がやっぱ非常に上手い、というのもあって。

引用:IMDb.com

全体に役者のチョイスとか演出が素晴らしい

全体に役者のチョイスとか演出はやっぱ大根さんさすがに上手くて。特に感心したのはジャンプの編集会議シーン。編集会議シーンの場面のところは、誰にも見せないらしくて、どうしても取材できなかったとこらしくって。それだけに「キネ旬」の轟夕起夫さんの記事読んで「あーっ。」て思ったんだけど、演劇界から精鋭達をあちこち多数集めてきて、誰も見たことない世界だけど、きっとこうであろうという説得力をしっかり持たせるアンサンブルになっている。つまりそこで、何かお仕事もんとしての面白さ、説得力はきっちり持たせられている。これは見事なもんだと思いますし。

もちろん、主人公2人、るろ剣コンビのアクションも当然息が合ったところ見せてるのもあるし、特に僕サイコーの佐藤健のいっちゃってるときの目、あれが、「うぉー!」て言ったときの目のいっちゃってる感とかも見事なもんだと思いました。小松菜奈ヒロインも凄く良かったです。こんぐらいのシンボリックな役は非常にハマりますし、特に別れのシーン。「おおかみこどもの雨と雪」のクライマックスばりの揺れるカーテン演出と相まって、非常に見事でございました。

一方惜しく感じる部分

ちなみに、アシスタント、家族いないオミットはまだ全然許せる範囲だと思うけど、アシスタントがいないということでリアリティが損なわれている。これだけ漫画っていうものを、正面から向き合っているものなのにということで、ここを惜しくしく感じている方、許せない方いらっしゃるというのは、まぁ理解はできるし、僕がヒップホップものに感じるところで。セッション論争なんかもちょっと思い出しましたけど。ただ、僕これ、まずスターキャスト映画じゃないですか、これ。なので、佐藤健と神木隆之介とっていうところで、リアリティラインはそういう意味では多少ファンタジーよりになってるかなっていうのもありますし。

あと、クライマックスのある展開、これは後ほど特集で出てきます、ちばてつや先生のある実話オマージュ展開なんです。ネタバレしないようにしますが、詳しくは2008年にちばてつや先生が描かれた「トモガキ」という作品、また「ちばてつやが語る『ちばてつや』」、これ新書にも書かれております。ここに持ってくためにも、必要なオミットだったかなと。もちろんタイトにするためにも必要だったと思います。むしろこのクライマックス展開に、実は一人一人ライバル作家が部屋を訪れるっていうのはおかしいけど、とは思うけど。それは映画の嘘でしょう。

引用:IMDb.com

バクマン。批評、最後に

最後になりましたが、ちょっと大慌てて言いますけど。冒頭ちゃんとやっぱり外様っていうか、外部の少年、よく知らない人に向けても、「少年ジャンプとは」のちゃんと手際良い解説がつく。これもほんと素晴らしいと思うし。そしてそこから始まってエンドクレジット。「モテキ」でも凄まじい仕事をした「easeback」チームの、誰もが度肝を抜かれる少年ジャンプオマージュエンドクレジット。皆さん本当に席絶対立たないほうがいいですよ。中途半端なところで。絶対びっくりするのが待ってるから。細かく見れば見るほど、ニヤリとする気の利いた仕込みがいっぱい入ってるエンドクレジットまで。全編が非常に明快な「少年ジャンプ論」であり、もっと言えば「少年ジャンプ文化賛歌」であり、もっと言えば「日本的漫画文化賛歌」になっているという。これがほんとに見事だと思います。

例えば、単行本についてる作者からのメッセージっていうのの劇中の上手い使い方であるとか、それとも関係しますけど、世代を超えて読まれた、立場や世代を超えて、たとえ古本になっても読まれる、その読者側にフォーカスする瞬間の感動であるとか。そういうところもすごく良いというふうに思いました。

「キッズリターン」であり「スラムダンク」でありなラスト。原作漫画に出てくる作品のアイディアが、わーっとこう黒板に広がっていくエンディング。原作オマージュもきっちりやりつつ、最後にもう一回作品テーマきっちり、漫画が好きだというこの情熱さえあれば、ていう。着地させる。見事な幕引きだと思います。

大根仁さん、割と前2作まではちょっと大根さんの、なんていうんですかね、シニカルなというか、斜に構えた面みたいなところもあったと思うんですけど、今回この人は熱い人なんじゃんとか、そういう熱さの面、多分本気で漫画が好きだからでしょう、大根さんが。ストレートに昇華された作品になって、エンターテインメントとして僕は素晴らしいと思います。大根さんの作品としても、ついに決定打出ましたねと思いました。このまま海外に持っていったらいいんじゃないかと思いました。日本の漫画アピールっていう意味でも、素晴らしい作品になるんじゃないでしょうか。

めちゃめちゃ面白かったです。いい映画でした。「バクマン。」。ぜひ劇場でウォッチしてください!

<書き起こし終わり>


○○に入る言葉の答え

「”女の子・恋愛/駆け引き・ゲーム”的な要素をばっさりオミット!」でした!

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