グランド・イリュージョン 見破られたトリックのライムスター宇多丸さんの解説レビュー
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RHYMESTER宇多丸さんがTBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」(https://www.tbsradio.jp/utamaru/)
で、ジョン・M・チュウ監督作「グランド・イリュージョン 見破られたトリック」のネタバレなし解説レビューを紹介されていましたので書き起こしします。
映画視聴前の前情報として、また、映画を見た後の解説や考察レビューとして是非ご参考ください。
宇多丸さん「グランド・イリュージョン 見破られたトリック」解説レビューの概要
①2作目を観てから1作目にさかのぼるのは絶対にやめた方がいい!2作目から観てしまった方はもう1作目にさかのぼらない方がいい!作品
②オープニングとエンディングにあるナレーションの「ある」言葉に注目
③ケイパーする側の視点がメインだった1作目と対照的な2作目
④作品の中で「白眉」とも言える、中盤の「○○」シーンの面白さ
⑤どんでん返しに次ぐどんでん返し!大どんでん返しのインフレ!
※○○の中に入る文章は、この記事の1番最後で公開しています。
TBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」でラジオ音源を聞いて頂くか、書き起こし全文をご覧頂くか、この記事の1番最後を見て頂く事で判明します。
グランド・イリュージョン 見破られたトリック 宇多丸さんの評価とは
(宇多丸)
映画館では今日も新作映画が公開されている。一体誰が映画を見張るのか。一体誰が映画をウォッチするのか。映画ウォッチ超人「シネマンディアス宇多丸」が今立ち上がる。その名も、「週刊映画時評 ムービーウォッチメン」。
毎週土曜夜10時から、TBSラジオキーステーションに生放送でお送りしている「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」。ここから夜11時までは、劇場で公開されている最新映画を映画ウォッチ超人こと「シネマンディアス宇多丸」が毎週自腹でウキウキウォッチング。その監視結果を報告するという映画評論コーナーでございます。今夜扱う映画は先週「ムービーガチャマシン」を回して当たったこの映画「グランド・イリュージョン 見破られたトリック」!
ドヤ感がハンパないですよね、これ。曲のドヤ感。「どうだ!?」っていうような感じがね。
「グランド・イリュージョン」の続編
イリュージョニスト集団「フォー・ホースメン」とFBIの攻防を描いた前作「グランド・イリュージョン」の続編。ハイテク企業の不正を暴露するため、フォー・ホースメンは新たなショーを仕掛けるが、何者かの策略により失敗に終わってしまう。ジェシー・アイゼンバーグを筆頭に、ウディ・ハレルソン、マーク・ラファロ、マイケル・ケイン、モーガン・フリーマンら豪華キャストが再集結。また、新たな敵をダニエル・ラドクリフが演じている。監督は前作から変わって「G.I.ジョー バック2リベンジ」のジョン・M・チュウが担当ということでございます。
こちら、「グランド・イリュージョン 見破られたトリック」見たよーというリスナーの皆様、ウォッチメンからの監視報告・メールなどで頂いております。メールの量なんですが、うーん残念ながら少ないということで。ああ、そうですか。全体の4割が「賛」もしくは「やや賛」。残り6割が「楽しかったけど、でも」もしくは「ダメ」という感想。全体的にそれほど評価、高いというわけではなかったようでございます。
グランド・イリュージョン 見破られたトリックを鑑賞した一般の方の感想・評価
主な意見としては「役者たちの豪華な共演が楽しい」「単純にケイパーものとして楽しかった」。まあね、チーム強奪ものというか。後ほど、このワード出てきますけども。「ケイパーものとして楽しかった」という声がある一方、「イリュージョンやマジックは全てCGに見えてしまって驚きがない」といった声も多かった。また、前作、1作目との比較では、「前作よりよかった」派と「前作を台無しにしやがって」派で真っ二つに分かれていたということでございます。代表的なところをご紹介いたしましょう。
*手を変え品を変える手品師さん(28歳・男性)
僕は、ホースメンの華やかさとは対極の感じではありますが、一応マジシャンをやっていて、「グランドイリュージョン」の新作は、華やかでないマジシャン仲間4人の「裏・ホースメン」でウォッチメンしてきました。
(宇多丸)
いいですねー。これね。プロの目から見て。
*手を変え品を変える手品師さん 続き
前作は、手品をチーム犯罪のハンソクとして使うだけで、映画の観客を騙そうとしているのにあまりフェアとはいえない編集をしていて消化不良だったのが、今回はマジックの楽しさが詰まっていました。ハイライトは何と言っても、訓練したカードテクニックでセキュリティをかいくぐるシーン。観客にも相手を騙す快感を体感させてくれ、オープニングムービーで示された「視点が変われば見方が変わる」ということを体現した楽しいシークエンスになっていたと思います。
(宇多丸)
という。でまあいろいろ書いていただいて・・・
*手を変え品を変える手品師さん 続き
映画でCGを使ってマジックを見せる、いわゆる「アイゼンハイム問題」・・・
(宇多丸)
これ「幻影師アイゼンハイム」という作品。この話も出てきますが。
*手を変え品を変える手品師さん 続き
明らかに映像処理で行ったと分かるようになっていて、そこで観客を騙そうとはしていなかったので、許せる範囲ではないでしょうか。チートにしか見えない催眠術もギャグとして見れるようになってきましたし。マジックの扱いとして不快に感じるシーンはありませんでした。マジックの楽しさを見せてくれる映画なので多くの人に観ていただき、マジックにも興味を持っていただきたいと思います。
(宇多丸)
という。ほんとにプロのマジシャンからのお手紙でございました。
グランド・イリュージョン 見破られたトリックの否定的な感想
*ナッツさん(20歳)
「グランド・イリュージョン 見破られたトリック」観てきました。映画でマジックを扱うという点については、ほとんどタネ明かしを作中でしてくれて、どれも物理的にまあ不可能ではないという仕組みだったので納得できたし、カード投げまわしシーンはメーキング映像を見るとほとんどCGに頼らず役者自らテクニックを演じていたので好印象でした。しかし、細かなマジックの種明かしはなく、「え?今どうやって消えたの?」「ん?どっから出てきた?」などと気になってしまうシーンもありました。そして最後に分かる、とある秘密「あいつ実は○○だった」を知ってしまったせいで、前作の存在意義がなくなってしまい、もっと言えばフォー・ホースメンの存在意義もなくなってしまったと思います。ただ余計な邪念は取り除き、純粋に観るのならば楽しめる映画だったし、「いやあ、こいつらまじかっけー!」と思える映画でした。
グランド・イリュージョン 見破られたトリック、宇多丸さんが見た結果
(宇多丸)
ということでございます。はい、みなさん、メールありがとうございました。ということで、「グランド・イリュージョン 見破られたトリック」。私も、TOHOシネマズ渋谷とあとみゆき座で観てきたんですけど。これね、僕が観た回はどっちもすげー入ってましたよ。結構入ってた。昼間の回から。なんか、やっぱりなんとなくケイパーもの的な雰囲気で、一定量の面白さが保証されている感じがするのかな?あと、1作目の人気がそれなりにあるということでしょうか。
ということで、続編なんですけど、今回。いろんなパターンがあるわけです、もちろん、続編っていっても。この原題「Now You See Me 2」の場合、まずはっきり言えるのは、この2作目を観てから1作目にさかのぼるという順で観るのは、絶対にやめた方がいいということです。なので、1作目観てなくて2作目から観てしまったという方は、もう1作目にさかのぼらない方がいいと思いますっていう。っていうのは、1作目の「グランド・イリュージョン(原題:Now You See Me)」2013年。結末にある大きなどんでん返し。それも、それまでの話を根底から覆すような大きなどんでん返しがあるわけです。今日、どんでん返しがある、できるだけネタバレしないように言いますけども。そういうどんでん返し要素が非常に多いシリーズなので、ちょっと気をつけながら話しますけど。なのでどんでん返しがあるわけです、最後に。今回の続編は、もちろんそのどんでん返しが明かされた後の話なので、これを観た後に1作目にさかのぼっても、例えばそのどんでん返しに関わるある登場人物が、いろんなことにいちいち驚いて見せたりするわけですけど、いちいち驚いて見せたりするのが非常に白々しく見えてしまうと思うんです。ただでさえ、どんでん返しに向けてトリックする、ミスリードをするわけですけど、ちょっとそのミスリードが、反則気味のとこあるなっていう作品でもあるわけですよ。この人が実はこうでしたっていうのが。「だったら、この人の1人の主観視点の時になんでこんなに驚いた描写が入るの?」みたいなのとかは。「おかしいでしょう!」みたいな。ちょっとミスリード、ちょっと反則気味なのがあったりするぐらいなので。ましてこの2作目からさかのぼると白々しく見えがちではないかと。
今回の2作目「見破られたトリック」
加えて、今回の2作目「見破られたトリック」の方にも、最後の方に同じようにやっぱりそれまでの話を根底から覆すような、どデカいどんでん返しがつくわけです。なので、ちょっと字幕だとわかりづらいですけど、オープニングとエンディングにあるナレーションがつくんですけど。そのナレーション、全く言葉上は同じことを言ってるはずなのに、意味が180度変わって響くという、そういう仕掛けがあったりするという感じなんですけど。
とにかく、それまでの話を根底から覆すようなどんでん返しがつくっていうんだけど、今回の2作目の場合、「それまでの話を」っていうのは、1作目まで含むんです。1作目まで含めて、根底からひっくり返すようなどんでん返しが最後につくため、特に1作目が好きな人ほど、完全にハシゴを外されたような気持ちになることは間違いないと思います。少なくとも、今後1作目を観直しても、さっき言ったもうひとつのどんでん返しの件と合わせて、非常に微妙な気分にならざるを得ないことになってしまうのは間違いないんじゃないかと思います。ちなみにこれ、脚本を書いてるわけではないので彼のせいではないはずなんだけど、今回、2作目の監督を引き受けた「ジョン・M・チュウ」さんという方。「G.I.ジョー バック2リベンジ」という作品。「G.I.ジョー」の2作目をやってるんだけど、これも同様の、1作目丸ごとちゃぶ台ひっくり返しの続編でございましたということは、一応付け加えておこうかと思います。
1作目のちゃぶ台ひっくり返しのあれ
また、1作目のちゃぶ台ひっくり返しのあれがあると言いましたけど、お話として、映画としての作り自体もある意味、1作目と非常に対照的な作品になっております、今回の「見破られたトリック」。要はマジシャン、イリュージョニスト、手品師。なんでもいいですけど。集団による、いわゆるケイパーもの、チーム強奪ものです。みなさんわかりやすいとこでいえば、「ミッション:インポッシブル」とか。「ワイルド・スピード」シリーズも後半は、割とケイパーもの化してますし。近年だと「ペントハウス」なんていう傑作もあったりなんかしましたけど。あと、変形型だと「インセプション」とか。あれだってケイパーものですけど。ケイパーものというジャンルであることには変わりないんですが。1作目はむしろ、ケイパーする側、強奪する者を追う側の視点、つまり、マーク・ラファロが演じるFBI捜査官側の視点がメインなわけです、1作目は。言ってみれば、要はルパン一味を追う銭形警部的な視点が中心の映画、話だと思ってください。銭形警部の視点でくる。で、常に要は追う者、銭形刑事であり観客の視点、より常に一歩先んじている主人公たち、フォー・ホースメンが次々と仕掛けてくるトリックに、要は翻弄される側、要するに「ルパーン!」って追っかけてる銭形が、まんまとそのトリックにはまって翻弄される、そのまんまと翻弄される感覚をこそ楽しむのが1作目だったということです。で、これはまさしくマジシャン、イリュージョニストのショーを観る感覚、楽しむ感覚に似てます。僕らはもう翻弄されるわけです。で、実際になにがどうなったかは分からないまま驚かされる。そこを楽しむという構造になっていると。そこにさらに、ルイ・レテリエという監督の、はっきり言って必要以上にグワーン、グワーンって、常に、カメラが全く必要ないところまでグワーン、グワーンってカメラがぐぅーっと動き回ってるんですよ。それと合わせてグワーン、グワーンって、頭をグワングワンされているような感じがずーっとする、というような感じ込みでの作品でございました。
「映画」と「手品・マジック」というものの根本的な相性
ただ、先ほどメールにもありましたけど、これなにも「グランド・イリュージョン」だけの問題ではなく、そもそも「映画」と「手品・マジック」というものの根本的な相性という問題がございまして。以前、「シネマハスラー」超初期です。2008年6月7日にやりました「幻影師アイゼンハイム」。それを評した時にも僕、指摘しましたが。要は、映画っていうのはそもそも時空を好き勝手にねじ曲げられるメディアであるため、その中でマジック、手品的なものを見せられても、手品っていうのは要は我々がこうだと思っている物理法則なりそういうものがねじ曲げられたというか、そこを飛び越えたように見えるというトリックで「おー!」と驚かせるわけで。ただ映画はそもそも時空ねじ曲げられて当たり前のメディアなので、特に今みたいに映画とか映像メディアに対するリテラシーがある程度、観客側高まってる、今となっては。正直僕ら、映画の中で手品見せられても「そんなの、なんでもできんでしょ?」と驚けないわけです。よっぽどワンカットで、なおかつ、今だったらCG使ってないですよってことをすごく意識的に強調した見せ方でもしない限り、驚けないと。
劇団ひとりさんが監督された「青天の霹靂」
その意味で、例えば劇団ひとりさんが監督された「青天の霹靂」という、あれのオープニングシーン。大泉洋さんがこうしゃべりながら、自分の人生を嘆きながら一連のマジックをして見せるんですけど。あれなんかがやっぱり一番クレバーな見せ方だなというふうに。そういう意味で「青天の霹靂」はやっぱり、あのオープニングのシーンは素晴らしかったです。とか思うんですけど。ということで正直、1作目「グランド・イリュージョン」はやっぱり、とは言えこれだったらなんだってできちゃうよね?っていう感はやっぱ否めなかったと思うんです。特にこれは、今回の続編でもある意味さらに進行してるんだけども。先ほどのメールにもあった通り、催眠術が無双すぎる。もう、とにかく催眠術使えばなんでもできんだろ!っていうことになっちゃっているということはありますけどね。
映画というメディアならではの仕掛け
ただ一方で、これ1作目「グランド・イリュージョン」、僕、すごいよかったとこなんですけど。オープニングでジェシー・アイゼンバーグ演じるアトラスが見せるあるマジックがあるんですけど。これは映画というメディアならではの仕掛けで、すごくうならされました。タネはなんとなく想像はつくんだけど、要は観客という安全圏にいるつもりだったこちら側の、しかも心理ですよね、心理までスクリーンの中から見透かされたような感じがする。「えっ、なんでわかったの?」って、やっぱりリアルに思うんですよ。カードの中で。「心の中に決めてね。あなたが選んだカードは、これですね?」「えっ!?」っていう。なんとなく想像はつくんだけど。つまり、僕がよく言う映画の醍醐味「見る/見られる関係の逆転」っていうのがスリリングだって言ってるけど、それの究極系ですよね。「お前の心の中もこっちは見てるぞ」って言われてる感じして、「うわっ!」ってなる。だからオープニングのあの素晴らしい仕掛けのインパクトである意味、その後も引っ張るというところはあったかもしれません。
1作目と2作目を比較して
とにかく、観客側がフォー・ホースメンたちに一方的に翻弄される快感。まさにイリュージョン、マジックショーと同様の構造のエンターテインメントっていうのが1作目「グランド・イリュージョン」だったというふうに私は思うわけです。で、今回の2作目「見破られたトリック(Now You See Me 2)」は、ある種それに比べると、より普通のケイパーものになっているということは言えるんじゃないんでしょうか。普通のね。つまり、フォー・ホースメン側の視点から、どういうトリックを仕掛けようとしているか、仕掛けているか、タネ明かしは先にしておいて、それを成功させられるかどうかっていうところに焦点を絞ってると。これ、言い方を変えると、「サプライズ」より「サスペンス」を取った作りっていうことです。驚かせるよりも、それが成功するか、ハラハラ・ドキドキの方を取っていると。
印象に残るシーン
で、例えば中盤の、先ほどからどのメールも、だからこの映画の中で白眉というか、一番やっぱり印象に残るシーンということです。中盤、カード形のチップをまさにカードマジック的にリレーしていく。本当にアホらしくも楽しいシークエンス。この場面、なにがアホらしいって、さっきスタッフでみんなでキャッキャ話してて、もう爆笑しちゃったんだけど。これ小荒井さんが指摘したんだね、ディレクターの。カードを持ってるかどうか調べられるっていう。それでハラハラするんだけど、調べられ終わったやつにパスしてきゃいいものを、わざわざこれから調べられるやつんところにばかりカードが回るっていう。逆だろ、それ!っていう。このアホらしい感じ。でも、要はケイパーものっていうのはどっかしら漫画チックな、その荒唐無稽とリアルのバランスっていうのがすごく大事なわけで。やたらとそのリレーが長いとこも含めて、僕は漫画的な快感みたいな、ケイパーものならではの快楽にあふれていて、僕はこの場面、やっぱすごい好きなんですよ。ものすごい不自然な行動、パンッ!って、パンッ!とか。もうおかしくてしようがないんですけど。という、そういうような、いわゆるケイパーものとしての見せ場があって。
一番大きなトリック
で、最後の最後、一番大きなトリックだけはサプライズってのが用意されてるんだけど、これもどっちかっていうと、モロに「スパイ大作戦」。「ミッション:インポッシブル」っていうよりは「スパイ大作戦」。「ミッションインポッシブル」の中では唯一、「ローグ・ネイション」だけがやっていたあのオチです。要は、悪役に対する罠、逆襲という物語的機能の方が強い最後のサプライズなので。要は、あれをイリュージョンのショー的に、外側にいる聴衆の視点で見たら、実はよくわからない見世物になっちゃってるわけです。要は、あくまで内側の視点でこそ面白い話という。だからたぶん、理屈をつけるなら、外にテムズ川で見てる観客は、僕たちが映画で見てるそのままの映像を外から見ていたということじゃない限り、単にテムズ川の上に乗った箱からなにか大きなものが出てきたっていう。「はい、だから?」っていうことになってしまう見世物。ある意味、だから映画としては普通なんですよ。内側の視点で話が進んでいくわけだから。いわゆる正攻法な作りになっていると。ということで、いろんな意味で1作目とは非常に対照的な作品になっているため、1作目に対する評価、思い入れによって本作の感じ方、大きく変わってくるのはこれ当然のことだと思います。
ケイパーもの
僕はというと、まず僕はさっきから言っているようにケイパーものというジャンルが大好きなので、その比重が高まったということはもちろん大歓迎でございますし。特にさっき言った、カードリレー。カードをこう回していくシーンや、序盤で新型携帯発表会に潜り込むというくだりのスピーディーなコメディー演出の感じ。あれもう完全にコメディータッチですよ。すっごく楽しい。ポンポンポンッと服替えてってとか。あと、「電話かけさせろ!」って言ったところ、パッて電話取ろうと思ったら、アレだった、みたいなあたりとかも気の利いたギャグだと思います。
「マジック」対「合理主義」
で、先ほど言った1作目のハシゴ外し的などんでん返しも、1作目を好きな人が怒るのはもちろん当たり前だと思うんだけど。1作目ファンに対してこんなのはどうなんだ?とは思うけども、そもそも僕は1作目観てて、1作目に設定されてる対立項、つまり、「マジック」対「合理主義」みたいな対立項の立て方が、「え、そういう問題?マジックって別に魔術じゃないからねって。マジックだって合理主義でしょう、それは。別に対立してなくないこれ?」っていうのが、ちょっと釈然としないものを感じてもいたので、その意味では納得度高まりました。あと、悪役とされてる人の恨まれ方が、「うん、逆恨みだね」っていう感じがしてたので。今回も、またしても、例えばまたあいつがいますよね、ラドクリフがまたしても「マジックに科学が勝った!」みたいなこと。そういうなんかちょっとやっぱ「はあ?そういう問題じゃねえだろ。」みたいなセリフはチョロチョロ出てきたりはするんですけど。
あと、前作のヘンリーという女の子を演じていたアイラ・フィッシャーさんが妊娠したため、新メンバーとして加入したリジー・キャプランさん演じるルーラという役の悪趣味芸。特に登場シーンとか、あとコックさんに化けるところ、シェフに化けるところでの自傷ネタは、僕大変好みでしたし。あと、ウディ・ハレルソンの、今回一人二役をやってるんですけど、楽しそうすぎる一人二役もまあ楽しいっていうことがございます。
ただ、もちろん、はっきり言って突っ込みだすとキリがないぐらい、もう本当におかしなところ山ほどある映画です。もう、穴だらけっちゃあ穴だらけな映画だと思います。
クライマックスの計画
まず、やっぱり特にクライマックスの計画です。どんだけ人員と資金がいるんだよ?と。事実上、悪役の3人以外全員グルで初めて成り立つ計画ですよ、これっていう。それってもう、上手くいくとかいかないじゃなくない?っていう感じだとか。あまりにも全てが主人公たちに都合よく事が運びすぎ、1個1個突っ込んでくとキリないんで省略しますけど。なのは言うまでもなく、実は、お話の本筋に不要な、見せ場のための見せ場があんまりちょっと多くて。
例えば、バイクで逃げるっていうくだりがあります。バイクで逃走を仕掛けるっていうくだり。あれ、全然あんな場面にする必要、全くないです。単に捕まったっていうだけでいいのに、バイクの見せ場みたいなのをわざわざつけようと。しかも、大して盛り上がらない。しかもこのジョン・M・チュウ監督。さっき言った「G.I.ジョー バック2リベンジ」。アクションシーンすごくよかったんですけど、あれは、イ・ビョンホンがアクションコーディネーターとしてチョン・ドゥホンさんっていう優秀な方を連れて来て、それを入れてたからよかったということなのか。はっきり言って今回の「見破られたトリック」に限って言えば、ジョン・M・チュウさん、アクションの見せ方、全然上手くないっす。もうぶっちゃけ、下手っす。マカオでの格闘シーンもそうですし、さっきのバイクのシーンもそうですし。目まぐるしくカットを割って、やたらとカメラを揺らすばっかりで、もう何がなんだかよくわかんないことになってる。うがった見方をすれば、その後のトリックの若干の力技なところを、そういう見せ方の荒っぽさでごまかしてるのかな?っていう気もしなくもないんだけど。こういう、とにかくお話上、本当は必要ない見せ場のための見せ場をバッサリ削ってもっとタイトにすれば、ケイパーものとしてもっとキビキビしたプロフェッショナルな感じが出て、絶対もっとよくなったはずだと思うんですけど。
大どんでん返しのインフレ
あとはもちろん、大どんでん返しのインフレっていう問題があります。特にやっぱり今回の映画、一通り話が終わってから、要するに事件が解決してから、さらに10分ぐらい、「実はこうでした、実はこうでした」っていう説明が続く。しかも、言葉でくどくどくどくど説明するのが続くわけです。理屈的に、特に1作目との整合性的におかしなところもさることながら。ねえ!だって・・・いいやもう!ちょっとネタバレになるから。とにかく、1作目と考えれば考えるほど整合性のおかしなところもさることながら、要はあまりに大きなどんでん返しが連続して続くと、観客っていうのは結局、「うーんもうなんか、なんでもいいや」っていう気持ちになってくるんだと思うんですよ、僕は。
後妻業の女
先週、「後妻業の女」で「大きすぎないどんでん返しが要所に配置されていて、とてもいい」って言ったけど、それと好対照な話だと思います。要は一時期、アメリカ映画でも「ワイルドシングス」だの「レインディア・ゲーム」だの、「実はこうでした、実はこうでした」っていうひっくり返しがいくつも最後に重なるタイプの映画が流行ったことがあるんですよ。でもとにかく、まさに妹尾さん言うところの「後出しジャンケン」なんですよ。後から、「こうでした、こうでした、こうでした、実は嘘でした、実は嘘でした」。なんだってできるわけですよ。そのうち、「もうなんでもいいよ!」って気持ちになってくるというね。
で、今回の「見破られたトリック」でも、例えば終盤、苦労して盗んだチップが「あれっ?偽物だ!」みたいなことを言い出すとこがあるわけ。ところが「偽物だ!」と思ってたのが、「かと思いきや本物だった!」「えっ?」みたいになる展開があるんですよ。あるんだけど、結局あれがなんだったのか、なぜそれが入れ替わってたのかとか、結局どっちだったのかとか、納得できる理屈も大してない上に、要するによく分かんないまま終盤まで流れていっちゃう上に、結局んところ話上、これが偽物だろうと本物だろうと関係ないんです。っていうのがあったりとか。
序盤でミスリード?
あと、さっき古川さんが指摘して思い出したけど、序盤でミスリードっちゃあミスリードだけど、「ここにも鳩がいます!ここにも鳩がいる!」っていうんだけど、うーん、この件で5分も引っ張らなくていいんじゃないのかな、みたいな。とか、だと思います。ということで。あと、あれだね。主人公たちが騙されて、間違った脱出口を選んでしまうっていうとこで、「本当の脱出口はここにあって」みたいな説明が後から出るんだけど。うーん、近くにモロに出てるな、みたいな。隠されてもいないのか、みたいな。もうここまでくるとちょっとかわいくなってくるっていう。あまりのバカっぽい感じにかわいくなってくるんだけど。とにかく、そんな感じで「実はこうでした。実はこうでした」ってやるほど、なんかどうでもよくなってくるという傾向がある。
ということで、あともう1つ惜しかったとこ。こういう感じで無駄なアクション、見せ場と、あとラストの10分云々をタイトに刈り込んでみれば、あと20分から30分、これ130分もあるんですよ、この映画。あと20分、30分短くできると思うんです。そしたらもっと好ましいB級的な味わいの大作にもなったんだろうになと思って、ちょっと惜しいなと思います。
手品問題
あと、やっぱり手品問題。「できるだけCGなどに頼らず、役者本人によるライブなマジックにこだわった」っていうふうにインタビューなどで答えてて。メイキングなんかを見てもそうっていうのはあるんだけど。実際の出来上がった映画を観ても、やっぱり実際にやってる感がちょっと、そこまで伝わらない見せ方に終わってしまってて、これは残念、もったいない。ちゃんとワンカットで見せ切るとか、もうちょっと見せ方、本物っていうことを強調する見せ方あったと思うんで。マジックを映画としてどう見せるか問題。ちょっと課題は残ったなというふうに思います。
でも、楽しいシーンはいっぱいありますし。ユルユルなところも含めて、僕はそのユルユルなところがだんだん笑けてくるっていうか。ちょっとかわいく思えてきて、全然好きです。ということでございます。
グランド・イリュージョン三作目も制作決定
ちなみにもう三作目も制作決定しているみたいなので。終わり方もいかにもね、これ以降に引っ張るような感じでございましたし。さっき言ったようなマジシャン版「スパイ大作戦」。特に敵に逆襲するところの「スパイ大作戦」的な仕掛けからの逆襲みたいな感じは、正直もっと面白いものがこれから出てくる可能性をすごく感じるセッティングだなと思ったんで。僕は今回でセッティング完了っていうふうに思ったんで。以降から、もういよいよ、マジシャン版「ミッション:インポッシブル」というか、「ワイルド・スピード」的なと言いますか、ものとして、さらにちょっと加速がかかる可能性もあるかなと思っておりますので。
ということで、劇場に行く前に1作目、観るなら1作目先に観といて。とにかく、オープニングシーンはめちゃめちゃびっくりしますし、今回のもまあ楽しい映画ではございました。脱出口を間違えるシーンとかのかわいさをぜひぜひ味わいながら、ぜひぜひ劇場でウォッチしていただきたいと思います!
<書き起こし終わり>
○○に入る言葉の答え
「④作品の中で「白眉」とも言える、中盤の「チップをカードマジック的にリレーしていく」シーンの面白さ」でした!