海街diaryのライムスター宇多丸さんの解説レビュー
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RHYMESTER宇多丸さんがTBSラジオ「アフター6ジャンクション」(https://www.tbsradio.jp/a6j/)
で、是枝裕和監督のベストセラーコミック実写化作品「海街diary」のネタバレなし解説レビューを紹介されていましたので書き起こしします。
映画視聴前の前情報として、また、映画を見た後の解説や考察レビューとして是非ご参考ください。
宇多丸さん海街diary 解説レビューの概要
①メールの量は多め
②メールの傾向は、8割が絶賛、1割がイマイチ、1割が普通
③ドキュメンタリー的な自然さと○○ならではの構築度が両立しているのが是枝作品の強み
④スター女優映画としてもベストの出来、アイドル映画史の中にも位置付けられる
⑤人の生死のサイクルに気づかされる。だからこそ生が愛しく感じられる映画
⑥何も起こらない穏やかさの中に、計算された緊張感がある
⑦いい場面がいっぱい、クラシカルでありながらフレッシュでもある作品になっている
※○○の中に入る文章は、この記事の1番最後で公開しています。
TBSラジオ「アフター6ジャンクション」でラジオ音源を聞いて頂くか、書き起こし全文をご覧頂くか、この記事の1番最後を見て頂く事で判明します。
海街diary、宇多丸さんの評価とは
(宇多丸)
「海街diary」。
2013年マンガ大賞などを受賞した吉田秋生のベストセラーコミックを、「そして父になる」の是枝裕和監督が実写映画化。
鎌倉に暮らす三姉妹と一緒に暮らすことになった腹違いの妹。
4人の心の触れ合いと季節の移り変わりを穏やかに描いていく。
4姉妹を演じるのは、綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すずということでございます。
はい。今ね、菅野よう子さんの曲流れておりますが。
えぇ、この「海街diary」も、見たよというリスナーの皆さんからの感想メールまたは監視報告、メールでいただいております。
ありがとうございます。
メールの量は多めでございます。
やはりね、是枝さんの作品ともなるとね、映画好きが見に行くというのはあるのでしょうかね。
評も非常によろしい、ということで、メール多めでございます。
傾向は、8割が絶賛、1割がイマイチ、1割が普通といったものでございます。
絶賛メールの傾向は、
・台詞に頼らない表現が最高。
・綾瀬はるかの演技力にはビックリした。
・そして何より広瀬すずの可愛らしさは異常の範疇。
(笑)異常の範疇・・褒めてらっしゃるんですね。
なんていうのがございます。
イマイチの方の感想は、
・ちょっとキレイゴトすぎやしないか、とか
・あと本当の女性がみんなあんなだと思われたら困る。
まぁ、その女性からの意見としてあってね。
ちょっと代表的なところをご紹介いたしましょう。
まずは褒めメール。
海街diary一般の方の鑑賞した感想・評価「おっぱい」
「ガド」さん、20歳男性。この方いろいろ書いておりますが、
一緒に見た友人曰く、一生見ていたい。。
全く同意見です。
男二人で見るもんじゃないだろうと思いつつ足を運んだのですが、男だけだからこそ盛り上げる要素、つまりおっぱいが満載でした。
バカヤロー(笑)。
キャスティングはこれ、完全に意図的だと思うんですよ。
いかがでしょうか。
まぁ、そのおっぱい映画云々と書いて・・この人、でもね、すごく家を巡るですね、分析とかも非常に適切で。。
家とはいつでも帰れる自分の居場所であり、家族とは単なる血縁関係ではなく、そういう場所を共有しあう共同体のことを指すのと感じました。
そこに血の繋がりは関係ないという・・監督も言ってるけど、小津安二郎とかに代表されるテーマですよね。
とか、こんな話も・・ちゃんとしたこともおっしゃってる。
脚本で感心したのは、私、宇多丸さんの去年の吉田大八監督「紙の月」でも(僕が)言ってたこと、と続いていますが、
本筋とは関係ないシーンで、脇役の台詞にそれとなく作品のテーマを入れ込むという作り。
こういうさりげないポイントが後から効いてくるんですよね。
言うまでもなく小道具や仕草でキャラクターを描くという、映画において基本的な予算抜かれない上でやっているのがニクイですね。
ということでございます。
この方はその、漫画原作だとか、ちょっと売れっ子4人というキャスティングとかにちょっと偏見抱いていたけれども見て良かった、ということも書いてこられております。
一方ですね、これ面白かった。
ダメだという方。
「ブンチョウ」さん。「ブンチョウ」さん、41歳女性なんですけどね。この方。
海街diary批判的な意見・感想
「海街diary」。ダメでした。
うーーん。どうなんだろう。。
うーーん、どうなんだろう。。
ま、ちょっとこう逡巡がある感じで・・まぁ「ガッカリしてしまった」と。
要は、
女同士ってこんなんだっけ?
是枝監督の若い女性像ってこう?
今までは結構、こういう女性の描き方良かったのに、若い女性となるとなんでこうなっちゃうのか。
申し訳ないですけど、正直気持ち悪かったです。
とまで、言っておりまして。
要するにちょっとファンタジックというかですね、女の人目線から見た「ファンタジー(目線)じゃないの」みたいな。
そういう指摘じゃないですかね。
広瀬すずさんの、あのタオルのとことか。あれも原作にある場面ではあるんですが。
はい。あとね、この方の最後の文章もね、ここは褒めてるところなんですけど。
堤真一さん、出てくるんですけどね。
堤真一の最後の最後まで殴りたいヤツ感が(笑)良かったです、すごく。
てね。うん「ブンチョウ」さん41歳。
ホント面白かったです、こういう感想もね。
はい。ということでございます。皆さん、ありがとうございます。
海街diary宇多丸さんが鑑賞した評価は
さあ、私も見てまいりました。ガチャ当たる前にも実は見ちゃってて。
Sanoっちさんが、あんまりすげーすげー騒ぐもんでね。
だったら今すぐ行ってやらぁ、なんつって、深夜のバルトの回にね。
なんていうのもあってですね、ちょっと早めに見ておりました。
計3回ぐらい見てるんですけどね。
はい。ていうことで、是枝裕和さん。監督、編集。
前作の「そして父になる」まあ扱いましたけども。
今、日本映画界で世界的に最も評価されている監督の一人なのは間違いない。
実際それにふさわしい作品ばっかり出してらっしゃるのも間違いない。
前作「そして父になる」
前作「そして父になる」。
私もすごく素晴らしい映画だ、と思いました。
番組的には、2013年の10月19日にやりました。
2013年度シネマランキング、なんと5位ですから。もう、最高級評価って感じですけどね。
特に是枝さん撮られた作品の中でも、これの前の最新作「そして父になる」は、要は是枝さんの元々の作品の、元々の持ち味というか、十八番であるドキュメンタリックな自然さ、生々しさ。。
元々ね、ドキュメンタリー撮られていた方ですから。
そういう強み、ドキュメンタリー的な自然さ生々しさと、フィクションならではの物語的な推進力とか整合性、構築力、構築度みたいな・・それが両立してる、と。
本来だったら相反するような要素が、もう完全に高度に両立している
要するに本来だったら相反するような要素が、もう完全に高度に両立しているというのは、是枝作品の強みだというふうにするならば、特にやっぱ「そして父になる」は、今考えるとやっぱりそれがネクストレベルに行っててですね。
そういう元々すごく絶妙なバランスを保ったまま同時に、ここがスゴいなと思うんですけど・・「そして父になる」、あれは、やっぱり福山雅治主演の堂々たるスター映画としても、きちんと成立してるっていうところが、さらにすごいところ。
元々評価してるつもりだったけど、さらに実はスター映画でもすごかったのかも、というのを、今回の「海街diary」見てから遡って、改めてそういえば「そして父になる」も、そこがもうすごいとこだったかもしんない、と思ったんですね。
というのもですね。今回の「海街diary」こそ、まさにですね、実在感超ありすぎの、もう本当にそういう人いるとしか思えないような登場人物たちによる、本当に恐ろしく自然な演技っていうか・・本当に自然にそこにいてやりとりしてる感。
その一見淡々とした描写の積み重ねというのは、まさしく是枝作品らしさ、ですね。
いわゆる分かりやすい是枝作品らしさはそのままに、実は今回、よりそのフィクションとしての構築度っていうのは実は高まっていて、何気ない仕草、一言一言みたいのがストーリーテリングそのものと密接ってか、もう不可分に機能しているというような・・要するに、実はすごく自然に見えるけど、実はものすごく計算されたものだ、みたいなところですね。
あと、その上これだけ地味極まりない、もう本当に庶民の話であるにも関わらず、ものすごく華やかで豊かなスター女優映画にもなっている、間違いなくなっているというあたり。。
例えば、元々いる三姉妹はですね。まぁ同世代の女優たち、全員これ嫉妬するでしょ、この3人・・ってぐらい、もうすごいベスト級の、今までにないベスト級の輝きを見せている、というかですね、生き方を見せている。
ほんと適材適所というか。。
綾瀬はるかに驚き
特に、やっぱりね、メールでも多かったんですけど。
綾瀬はるかには、やっぱり驚きますよね。
割と抜けた人みたいな役がね・・ご本人も天然だなんてこと言われてますけど。
抜けた役みたいな、のほほんとした役みたいな多かったのが、今回みたいにちょっとこうキチンとしすぎている人っていうか、ちゃんとしすぎていてあなたは心配だ、というタイプの役も、こんな。。
でも確かにあの綾瀬さんって古風な感じもちゃんとあるし、背筋も伸びてるし、あっ確かにこういう面あるんだろうと、確かにこの感じだ・・綾瀬はるかの、もうベストでしょうね、間違いなくね、今までのね。
はい。というあたりでも、スター女優映画としてもすごいベストの出来になってるし、加えて言うなら今回その役柄との文字通り奇跡的なシンクロを見せた、すず役の広瀬すず。
これ、今回のに合わせて芸名をつけたのとか、そうじゃないんですね。広瀬すずさんって人がすず役にきたら、本当にピッタリだったという。
広瀬すず、ピッタリ
どんだけピッタリだったかっていうと、まあ例えば、そのままサッカーはこれは後からやったらしいですけど、サッカーの異常なうまさ。
サッカーうまい人が見ると、えっ?ていうぐらい、うまいらしいですね。
実際役柄上必要なんだけど、原作でも「なでしこジャパン行けば?」って言われるぐらい、うまい役なんだけど・・うまい。静岡出身の血だ、というね、インタビューでも答えられたりなんかしてましたけど。
とかですね。
広瀬さんは今回は是枝演出でいうところの”子役には口伝えスタイル”って、脚本渡さずにその日撮るところ、その場面を監督は「こう言って」って口伝えして、やるスタイル。
「台本でやるのと口伝え、どっちがいい」って本人に選ばせた。
つまり大人と子供の狭間で、「どっちの演出がいい」って聞いて、これが最後だろうから子供側でってことで、台本なしで。。
女優たち3人のベスト演技に異物が1個入ってくる
うん、つまり、女優たち3人のベスト演技に、そこに新天然素材のこれをコンと入れてくる。
異物が1個入ってくる。
それがどう融和していくか。
このドキュメンタリー性もあれば・・というあたり。
彼女の、要は広瀬すずの今この時期、この瞬間を切り取った特別なフィルムとして、これはやっぱアイドル映画 史の中にも位置付けることができる作品にもなってる、と思う。
そういう意味でもう、”タオルばー”も、そういう意味ではあざといっちゃあざといけど、アイドル映画としてはこれ、ぜひやっていただきたい場面、ということですよね。はい。
メッセージ的には、ほぼ日本版「ファミリー・ツリー」
で、ですね。一通り映画見た後にですね、僕は、物語とその話上やってることの小ささ、物語の小ささに対して最終的に浮かび上がってくるもの・・何かの大きさっていう点でですね。
僕は個人的に、アメリカ映画ですけど、アレクサンダー・ペインの「ファミリー・ツリー」という映画を非常ーに強く連想しました。
メッセージ的には、ほぼ日本版「ファミリー・ツリー」だと思うぐらいだと思いました。
はい。これね、本当に言葉にすると、やたらと大仰になってしまって、是枝さんには「お前それ台無しだよ」って言われかねないけども。
要は、人が生まれて、生きて、で生きている間ちょっとだけ波紋とか痕跡を残して、そして消えていく、というか死んでいく、人生から退場していく、その絶え間ないサイクルの話というか。。
つまり自分の、我々が生きているこの生は、ただ単独でいきなりここにあるわけじゃなくて、なんかその前後含めて連綿と続く時間の大きなサイクルの中にあるのかも、というのを日常の営みの中でふと気づかされるというか、そういうような話ですね。
やってることはもう本当に、コメディ的だったりちょっとプッと笑えるようなことなんだけど、トータルで、「あ、なんか俺、なんかそうだよね、ずうっと続いてきたものの一部なんだよね」みたいなことに気づく。
例えば自分がそれと知らずにやってきたこととか、みたいのが、実は今はもうこの世になかったりする誰かの人生の遠い残響だったりする、ということが、ひょんなきっかけで気づいたりする。
それは例えば、性格であってもいいし癖でもいいし趣味でもいいし習慣でもいいし、あるいは料理、レシピでもいいし、必ずしも血縁じゃなくても、その人が生きた証っていうのはそうやって残っていったりするという。。
海街diaryは非常に穏やかな映画だが・・
なので、この「海街diary」非常に穏やかな映画なんですけど、死とか死者の影っていうのが全編にこう薄ーく覆われている。
でもだからこそ、要するに、”いつかは失われる”って話だからこそ、今この瞬間も”生”っていうのがより愛おしく感じられるという映画で。。
すみませんね、口で説明して。
野暮で、すみませんね。
だから、この映画、監督もね、インタビューで繰り返し言われてますけど、要は長澤さんがベッドに裸で男と寝てるとこから始まる。次女が、一番奔放な感じの次女が。
性行為的な暗示で始まる、つまり性行為ってのは、要は生は命の始まりの行為から始まって、エンディングはお葬式のシーンから海・・っていうところで終わる訳ですけど。
要するに命の終わりと、なんというかな、それを含めた大きなサイクルみたいなところを見せて終わるっていう。。
大変、行き届いた計算でできている構造だと思っております。
是枝監督っぽさ
はい。で、ですね、実際語られるお話的には、これまたね、まさしく是枝さん的とも言っていいし、先ほどメールにもあった通り、小津安二郎とかの変奏とも言えるんだろうけど。
ある家族が・・ある家族が改めて家族になる話。
そして父になる、そして姉妹になるっていう話ね。
それで同時に各キャラクターにとっては居場所を探すという話。
自分の居場所をひとまず見つける話である、ということであると。
でね、例えば姉妹になる。
なる最初の瞬間、この映画でいうと最初の本当にもう十数分の場面ですよ。ね。
もう実は、もう身寄りがなくなってしまいかけている腹違いの妹のすず、ね。
この電車でもうお別れするっていうところで、「じゃあ鎌倉の家に来る?」で「しばらく考えてもいいのよ」っつったら、と広瀬すずのショットになって。
広瀬すずが一瞬の、逡巡の、この逡巡してるかと思ったら、「行きます」って。この「行きます」の絶妙な瞬間でプシューって・・あれ、ああいうの、計算してできるもんじゃないです。
「行きます」プシュー・・で菅野よう子さんの音楽が流れ出す。
で、そっから先の、あのホームを走ってきて手を振るって、これベタなんだけど、まぁそのタイミングが完璧なのと、広瀬すずのここでの手の振り方がいいんですよね。
こうね、ちょっとこう所々逆になっちゃったりなんかしちゃってね(笑)。
こういうのもね含めてね、もうここだけで、「おぉー5億点!」「これ、絶対いい映画!絶対いい映画、これ」っていうふうになるという。
何も起こんない映画だね
はい。で、ですね。
そこ、すごくドラマチックに最初盛り上がるんですけど、そっから先、人によっては本当にこういう感想あるみたいです。
「何も起こんない映画だね」っていう意見。
見えてしまう方もいるらしい。
まぁ無理からぬかなと思いますが、ただ僕は今回の「海街diary」に関しては、このね、何も起こらなさこそがこの映画の物語的推進力というか、サスペンスを逆に、俺、生んでいるという。。
そういう計算の映画だと僕は思うんですね。
まぁ何も起こらないって感じの・・要は浅漬けですよ。
浅漬けの話、繰り返し、原作にも出てくんだけど、これメッセージだと思うんですよ、ほとんど。
つまり「味薄い」「いやこんぐらいがいいんですよ」「醤油をやたらとかければいいってもんじゃないよ」
それです。これ完全に是枝さんのメッセージでもあると思う。
今回、浅漬けなんすよ、味あるの!
是枝作品とは
で、そもそもね、是枝作品てのは、表面上繕われた平穏、日常生活の中に、要はふと出てきた言葉とかで、「えっ。本当はずっとそんなことを考えてたの」ゾーっみたいな、「怖ーい」みたいな、そういうのが十八番だった。
例えば「歩いても歩いても」とか「そして父になる」もそうでしたけど。
今回はでもね、そういう、言ってみればですね、監督も影響を受けたと言われているですね、向田邦子的なギスギス感っていう感じ、要は対立構図っていうかね、対立構図が表に出る面白さっていうのは抑えめで。。
あるはあるんです。
例えば、大竹しのぶさん演じる姉妹の母が来る、と。
これ、ここだけですね、大竹しのぶさんっていうのは、先ほど向田邦子と言いましたけど、映画版の「阿修羅のごとく」に出演されてもいますから。
大竹しのぶが出てくるところと、あと樹木希林さんがなんか感じ悪いこと言うところとかだけは、ちょっと向田邦子感が出てくる。
ギスギス感出るんだけど、そういう対立感を際立たせることで面白がらせる映画というよりは、むしろ、その対立の構図が浮き上がる手前で何か抑え込んでしまっているがゆえの危うさ。
つまりこの静かさが怖いよっていう。。うん。
この何も起こらなさこそが危ういよっていう。。
うーん、ゆえに緊張感が続くという・・僕は、計算だというふうに思いました。
広瀬すずさん演じる腹違いの妹すず
特にやっぱり、広瀬すずさん演じる腹違いの妹すず。
要するに彼女がですね、原作と比較しても、やっぱり映画全編を通して感情をはっきり吐露する場面が抑えられてるわけです。
もっと序盤で彼女は号泣とかしてるんですけど、号泣させてない。
まぁせいぜいポロッと泣くぐらいになっている、と。
ゆえに、で、いい子すぎる。
すごく環境に馴染んで、余計なことも言わないようにして。。
なんだけど、実はポロッと本音言う時に「お姉ちゃんには言いづらいんだよね」なんてことをポロッと言ったりもする。
がゆえの、「この子、でもいつか爆発して、この均衡が壊れてしまう時がいつか意外と脆く来るんじゃないか」って予感がするから、怖い。
何かあるたびに、ちょっと彼女が不安定になるたびに、「怖い」「ダメ、やめて」って感じがするっていうね。
原作漫画、吉田秋生さん
はい。で、これはやっぱりその原作漫画、吉田秋生さん。
6巻分のその散文的なエピソードを1本の長編にするにあたって、微妙なんだけどおそらく絶対必要だったアレンジだったと思うんです。
彼女を号泣させない、序盤では。ポロっとだけにさせておく。
そういう計算があればこそ、これ原作漫画にはない場面なんですけど、序盤のある場面、ポロッと泣く場面、その序盤のある場面と対になるクライマックスにあたるシーンなんですね。
非常にまぁ静かなというか、そんな派手な場面じゃないですけど、クライマックスシーンがあって、そこで彼女が今まで抑え込んでた感情を真に開放する。
そこで彼女が何をするかというと、劇中キャラクターが、登場人物がですね、決してその人の話をしたとしても、決してその呼び名では呼ばれることはなかった、その人。
そして決して1人の苦悩する人間として語られることはなかった、ある不在の人物。
その人を広瀬すず演じる腹違いの妹すずが、その彼女にとっての、その人の呼び名を大声で呼ぶ時に、僕らも「あぁそうだよね、この子にとってはそうなんだよね」っていう。
不意をつかれたというか、僕らの感情もそこでクッとこうフタが取れて、ワーッとこうエモーションが広がって思わず涙が出てしまうような場面になる。
という素晴らしい場面になってます。
風吹ジュンさんが非常に素晴らしい演技をされている食堂のおばちゃん
しかも、なぜその場面で感情の解放が可能になるのかと言えば、まずその手前のところ、例えば風吹ジュンさんが非常に素晴らしい演技をされている食堂のおばちゃんが劇中で唯一その、すずちゃんにとってのその人の名前、あなたにとってはこういう人だったっていうことをちゃんと言ってあげる、初めて。
みんな「あの女、あの女」とか言ってるのに。
はい。とかですね、あるいは長女幸、綾瀬はるかさん演じる長女幸が、自分のお母さんのことをずっと「この人しょうもない人だ」と思ってたお母さんのことを・・すいません!手前味噌ながらRHYMESTER「POP LIFE」の歌詞から引用させていただきますと、「こちらから見りゃ最低な人だがあんなんでも誰かの大切な人」と思えたから、この人も誰かの娘だったし、この人にも忸怩たる思いがあるんだ、ということを思えたから、そこに行ける。
異常にちゃんとした段取りを踏んでいる
つまりその、お話の作りとして当たり前かもしれないけど、異常にちゃんとした、やっぱり段取りを踏んでるんですよ。
ただ散文的にやってるだけじゃないんですよね。はい。
ちなみですね、この大竹しのぶ演じるその姉妹のお母さんがですね、長女の幸と喧嘩してですね、翌日家に立ち寄ってお土産を置いていくわけです。
そのお土産の、「これ誰に、これ幸、これ何とか」って渡していく、そのそれぞれの大きさ、包み紙の違いとかが明らかにその登場人物とお母さんとの距離感、そして、お母さん自身のキャラの掘り下げにもなっているという、ですね。
見れば見るほど、「おもしれーなー!」「すずだけ包み、後から買い足したんだなぁ」みたいなのとかですね。はい。
原作だとちょっと買うところまで気が回らなかったって終わっているところで・・買い足してるんですね、映画だとね。
さらに深くなっている。
一事が万事、仕草、ふと言ってること、とかですね、まぁ小物とかちょっとした料理であるとか、それがすべてがストーリーと絡めて読み解きたくなるし、実際それができる。
つまりそのすべて映像上で語られていること全てが、ストーリーテリングになっているというですね。
当たり前だけど映画ってこういうもんだよな、というようなものになっております。
あとはもう各自じっくり最後まで味わってください
なので、あとはもう各自じっくり最後まで味わってください、ということです。
一緒に見た人同士、あそこが良かった、あそこは好きだった、あそこ俺こう思ったを語り合うことでさらに味わいが増すという。。
私が直線的に何か言うよりも、そういうふうにね、あるいはこれやるほうが絶対に豊かな作品だと思います。
まぁいい場面、いっぱいありますよ。
広瀬すずのね、その桜のシーンだとか、そういうことはみんな言うでしょう!
うーん、とかね。
そのなんだ、背丈を測るシーンの綾瀬はるかが髪をふっと触る仕草。それはみんな言うでしょう!
とか、エレベーターが閉まる瞬間の綾瀬はるか・・言うでしょう、そこはね。
あと、僕はここが好きでしたかね、序盤の、要はお父さんの2人目の、あ3人目か、3人目の奥さんがビービー泣いてたくせに、何かちょっと対抗心、女としての対抗心みたいな燃やし出して、「妻ですから!」みたいな。
あそこ劇場でちょっと笑いが漏れてて、すごい面白かったですね、とかね。
夏帆さん演じる三女
僕、結構好きなのは、夏帆さん演じる三女、一番のほほんとしたキャラクターとして描かれているんだけど、彼女が実はスポーツショップでバイトしてて、実はできていると思われる店長、レキシの池っちょが演じてて。
まあそれはそれで面白いんだけど。
彼女が要は誰にも気付かれずに店長にだけ向けている時の視線っていうのがあって、これは要するにやっぱり彼女は父親の記憶もそんなにないし、もうお母さんにも早くから出ていかれちゃってるし。
なんか、要は下手すると山とか行っちゃって、また山ってのは実際に彼がね実際に事故ったりしてるわけですから。
死の、また死の領域に引っ張られちゃうのっていう、ちょっとこう縋るようなというか、不安になる目線みたいなの向けてて、この三女もキャラクター味わい深さを見せて。。
だからこそお父さんとの繋がりをちょっと実感した時の、あの顔とかね。
「よかったね」って、こうやっぱりなるというのはね、やっぱりよかったりしますね。はい。
もう長澤まさみさんが別にスクリーン映ってればなんでもいいんですけど
あとですね。
まぁ、あの長澤まさみさんのね、もう長澤まさみさんが別にスクリーン映ってればなんでもいいんですけど。
風呂場でナナカマドが出てきて、ギャー騒ぐところで、あの足の撮り方、つま先の・・虫がピピーとなって、つま先、あの撮り方「この監督は本当にスケベだな」と思いながらね、「最高」と思いながら見てました。
カマドウマ、ナナカマドじゃなく、ごめんなさい、カマドウマ。
どうも失礼しました。
はい。
欲を言えばですね、序盤で次女の長澤まさみさん演じる次女の恋人のエピソード。
原作だと、要は元々は吉田さんのほかの作品のスピンオフでの主人公で、もっと大きなキャラクターなんだけど
なんかそれが半端に残ってて、「えっなんでこの話こんなに半端に残したのかな」っていうのをちょっと思ったりはします。
ちょっとそこだけは僕未だに理解に苦しんでいることではあるんですけど。
日本家屋での古風な暮らしぶり
で、ですね、いいところとかね。
日本家屋での古風な暮らしぶりとか、あとは特にやっぱりその綾瀬はるかさんのちょっとそれこそやっぱり古風な佇まい、凛とした佇まいであるとか、鎌倉が舞台であるとか、ですね。
やっぱりその、先ほども出ましたけど、まぁ小津安二郎感みたいなね、もっと言えばクラシックな日本映画感みたいなものがすごく間違いなく感じられるんですけど。。
僕、でも同時に、でもやっぱそれらとは決定的に違うよなと。。
やっぱ絵からしてなんか現代的な感じがする。
なんでだろうって思うと、やっぱり例えば畳の上、畳のシーンでちゃぶ台があって、と撮るときに。
その低いカメラアングル、これはもう小津さんなりなんなり、クラシカルなカメラアングルに見えるんだけど、よく見るとどのショットもわかるかわからないかぐらいの速度でゆっくり常にカメラが動いてるわけですよ。
で、これカメラマン撮影監督、瀧本幹也さんという方、前作「そして父になる」から参加されてる方ですけど。
「そして父になる」でも、わかるかわからないかくらいゆっくり動いてっての、僕指摘しましたよね。
で「そして父になる」では、それは不安定さであるとか不穏な表現だったけど、今回はもちろん不安定さもそうなんだけど、要は「時間とかゆっくりすべては動いてる、ゆっくりすべては移ろってるよ」っていう、「静的に見えるけど静的じゃないよ」っていう表現にやっぱなってるなぁ、というふうに思いました。
ありきたりなシーンを見事フレッシュな名シーンに
あとですね、例えば、浴衣で船の上で花火を見るであるとか、自転車二人乗りで桜を見るとか、要は言っちゃえば、下手するとむちゃくちゃ陳腐に、「あぁ、よくある、出すね、場面だね」ってなりがちなところを、シチュエーションに限って、えっ?ていうアングルというか、えっ?ていうショットで、えっ?ていう切り取り方で、見事フレッシュな名シーンにしているあたりも、これは見事なあたりだなぁと思いました。
自転車、桜とか、花火とか、結構やばいよ、普通は。2人乗りとか。
でも、もう文句なしのすごいシーンになってるじゃないですか。
はい。あとはもちろんこのフィルムならではの、抑えてあるその四季折々のシズル感。
これもちろん、時間っていうテーマの、本作ではもう一つの見せ場とも言えるんじゃないでしょうかね。
なので、時間、過ぎいく、移ろっていく時間がテーマなので、ラストめでたしめでたしで、これハッピーすぎない?って見えるかもしれないけど、来年この4人がまだ同じ家に住んでるとは限んないからね、もう。
っていうのを予感させる終わり方なわけですよ。
BitterでSweet
はい。だから要はですね、いいですか。
見た目の甘さ、見た目のスイートさに比べると、味わいは実はずっと苦い、つまりBitterね。BitterでSweetなんですよね。
でも、それら全部ひっくるめて、人生とか世界は美しい、Beautifulっていうね。。
そういうことなんですよね。
ということでね、4月29日発売、RHYMESTER「Bitter, Sweet & Beautiful」ぜひお聴きください。
というのは、おこがましいんですが。
いやでも、そういう結論にならざるを得ない感じなんですけど。
申し訳ございませんでした。
日本映画の正しき伝統を、正しく独自にアップデート
えーっということで。
日本映画の正しき伝統を、正しく独自にアップデートというか。。
クラシカルでありながらちゃんとフレッシュでもあり、というですね、作品になっていると思います。
こういう作品をリアルタイムで見れるのは本当に幸せなことだな、というふうに思っております。
蛇足ながら言っておくならば、今回もやはりパンフレット素晴らしい出来だったと思います。
パンフも絶対買った方がいいですし。
あと「SWITCH」の是枝監督特集、もう素晴らしいインタビューとかもすごい充実してて非常に読み応えあったの、これを見てからもう一回映画見ると、またまたいろんな発見があったりしましたので、おすすめでございます。
ぜひぜひ劇場でウォッチしてください!
○○に入る言葉のこたえ
③ドキュメンタリー的な自然さとフィクションならではの構築度が両立しているのが是枝作品の強み でした!