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引用:IMDb.com

ベイマックスのライムスター宇多丸さんの解説レビュー

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2020年05月28日更新
描こうとしてる折衷感というコンセプトと、物語の構造と、実際のそれが、もう全部一致してるという。どこまで意図したものか分かんないけど、非常に上手くできてるなというふうに思いました。もちろんハイレベルでございます!最高にかわいい!よく出来てる、かわいい!(TBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」より)

RHYMESTER宇多丸さんがTBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」(https://www.tbsradio.jp/utamaru/)
で、ドン・ホール/クリス・ウィリアムズ監督作「ベイマックス」のネタバレなし解説レビューを紹介されていましたので書き起こしします。
映画視聴前の前情報として、また、映画を見た後の解説や考察レビューとして是非ご参考ください。

宇多丸さん「ベイマックス」解説レビューの概要

①この映画の特色・面白さは、ズバリ「○○」にあり!
②ハートウォーミング展開だけでなく、チームヒーロー・戦闘ロボものとしてのド派手なバトルアクションも満載
③作り込まれた架空都市「サンフランソウキョウ」、実はあなたの知っている街かも・・・?
④「ベイマックス」のコンセプトデザインには日本人デザイナーが大きく関わっていた
⑤宇多丸さん大絶賛!とにかく「かわいい!」ベイマックス

※○○の中に入る文章は、この記事の1番最後で公開しています。
TBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」でラジオ音源を聞いて頂くか、書き起こし全文をご覧頂くか、この記事の1番最後を見て頂く事で判明します。

映画「ベイマックス」宇多丸さんの評価とは

(宇多丸)
「ベイマックス」!

「アナと雪の女王」に続く、ディズニーによるCGアニメーションムービー。原作はマーベルコミックスの「ビッグ・ヒーロー・シックス」。並外れた頭脳を持つ少年「ヒロ」が、生前に兄が開発したケアロボット「ベイマックス」とともに兄の死の背後に潜む悪に立ち向かっていく。監督は「くまのプーさん」のドン・ホールと、「ボルト」のクリス・ウィリアムズということでございます。

ということで、もうこの作品観たよというリスナーの皆さんからのメール頂いております。ありがとうございます。監視報告、こちらメールの量は大量!となっております。年間最多クラスのメール量!やっぱり実際観てる人が、実数として多いってのがあると思いますけど。そして感想は、ほとんど人が「高評価」!

・普通に楽しいってこういうこと。
・予告編だともっと泣ける話かと思っていたら、痛快なヒーローアクションでびっくり!
・日本リスペクトが随所に感じられてよかった。

などが主な好評の意見。また、「CMや予告があまりにハートウォーミング寄りに作られている」という一部で批判されてる問題に関しては、「でもいい意味で裏切られたので結果的に良かった」という声が多数でございます。今喋りながらメモを付け加えるという離れ業をやってみましたけど。

代表的なところご紹介いたしましょう。

引用:IMDb.com

映画「ベイマックス」を鑑賞した一般の方の感想

*ジルさん
いつも楽しく聞かせてもらってます。

(宇多丸)
ありがとうございます。

*ジルさん 続き
「ベイマックス」大変面白かったです。日本バージョンの予告は、ケアロボット面が前面に押し出されていて、大丈夫か?と思ったのですが、実際のところ大長編ドラえもん張りの燃え展開だったというサプライズは結果的に成功していたのだと思います。舞台であるサンフランシスソウキョウが、・・・

(宇多丸)
これ後程言いますけど。

*ジルさん 続き
今まで映画で出てきた数多くの謎アジアの中でも、大変完成度の高い謎アジアで、すんなりと世界観を受け入れられました。カーチェースシーンで通行人がいなかったり、敵対する相手は歌舞伎のお面の男一人だったり、あまりモブを巻き込まない描写が多く・・・

(宇多丸)
群衆というか、人々を。

*ジルさん 続き
あくまで14歳のヒロの狭い世界に重きを置いて、その成長に焦点を絞っているのかなと思いました。火事で後を追えなかったヒロが、異次元に飛び込むシーンだったり、対比の描写が目立つところもポイントが高かったです。

(宇多丸)
なるほどなるほど。
いまいちだったという方もいらっしゃいます。

映画「ベイマックス」批判的な意見

*ケンさん
かっちりとした教科書的な話運びの作品だと思うのですが、僕はその分、お約束的な展開に盛り上がりきれませんでした。全体的にスリルがないというか、多分こいつは犯人じゃない、おそらくここでは倒さない・倒されない、これにはこういう欠陥がある、戦闘の中で仲間とショッキングな死別をするようなこともないというように、ピクサーアニメという・・・

(宇多丸)
ピクサー・・・まあ、ジョン・ラセターベースのディズニーですね。

*ケンさん 続き
ピクサーアニメということも相まって、話に安心感があり過ぎる気がします。また、悪役の起こす事件という根本的に動機が違う二つの事件をごっちゃにしたがため、特に主人公はこの結論で納得できるのか非常に納得しづらかったです。あと演出の問題だと思うんですが、劇中2回あるチェースシーンは、どちらもなんか間延びして鈍重に感じました。あのテンポで会話したり止まったりしても追いつかれないと、スリルを作ろうとしているという根本的な作意が見えてしまいます。物語が持ってる感動や興奮は楽しんだ気がしますが、個人敵には期待していた分やや残念に感じてしまいました。

(宇多丸)
ということでございます。

「ベイマックス」を鑑賞した宇多丸さんの感想

はい、ということで、「ベイマックス」行ってまいりました!私、吹き替え3Dと字幕2D版で観てまいりました。もちろん、全体的な話する前に、大前提として、これいつもピクサーの話してる時もそうですけど、ジョン・ラセター体制移行のディズニーアニメ、ピクサーも含め、今のディズニーもうほとんど一体化してますから。もう諸々のクオリティが、通常のエンタテインメント映画のレベルの数段上のレベルの話をしてると思ってください。なんかいろんなこと言ったとしても、鬼クオリティ高いってのが大前提、というのがまずあると思います。

マッシュアップ感が面白い

クオリティどの部分高いみたいな話は後程言いますけど。それを大前提とした上で、今回の「ベイマックス」ならではの特色・面白さみたいな、僕なりの表現でまず最初結論付けるなら、今回「ベイマックス」、ここが僕的には面白かったとこなんすけど。いろんな意味でのやっぱり「折衷感覚」っていうか。今風な言い方すると「マッシュアップ感」。作り手も「マッシュアップ」って言葉何回も使ってるんですけど、解説で。「折衷感」「マッシュアップ感」ここが面白い!ここがフレッシュなんじゃないかというふうに思いました。

引用:IMDb.com

原作アメコミ「ビッグ・ヒーロー・シックス」

まず原作となったマーベル社のコミック、アメコミ「ビッグ・ヒーロー・シックス」。マーベルコミック社の中でも、マイナー中のマイナー作品で、普通は「何それ?」っていうような作品だそうで。実際のところ、僕はこれ入手できませんでした、今回。結構前の作品だし、そんなに日本にも部数入ってなかったみたいで、入手できなかったんですが、元のは。いろんな方の、詳しい方の、光岡三ツ子さんとこの解説なんか読むと、非常にマイナーだと。で、もともとの絵柄なんか見ると、それ自体が元々アメコミと日本のアニメ・マンガ文化のマッシュアップ的な作品なんです、「ビッグ・ヒーロー・シックス」が。で、さらにそれを映画化した本作は、マーベルっていうのをディズニーが買収した後、初のディズニーアニメでありながらマーベル原作という。もちろんマーベルのその映画は、っていうのはありますけど。ディズニーでマーベルの原作、これ初めてっていうことで、ディズニーアニメで。つまり、ディズニーアニメとマーベル間のマッシュアップでもあるわけです。で、なおかつ実際に作られたのは、こういう作品だった。

少年とロボットのハートウォーミングな交流

先ほどのメールにもありました、日本の特報とか予告編、我々が見せられてきた少年とロボットのハートウォーミングな交流的な要素の部分。これをディズニー的と言ってもいいでしょうし、ファミリームービー的なっていうか、ハートウォーミング部分と言ってもいいでしょうし。日本的な文脈で言うなら、藤子・F・不二雄的な、そういう日常生活の中に、それこそロボットがやってきてなんてのは、よくよくある話ですよ。

という要素と、他の国で対称的にこっちの方が前面に押し出された宣伝なんかされてたということですけど。チームヒーローものと戦闘ロボ、それが繰り広げるド派手なバトルアクション。予告だけを最初に初期に見比べると、「これ同じ映画?」っていうような感じがしたぐらいでした。こちらの面は、もちろんマーベル的なヒーローアクションでもあり、日本的な文脈で言うと、いわゆる「ロボットアニメ」、ロボットがドカーンと活躍するようなロボットバトルアニメ。あるいは「戦隊もの」的な要素というような言い方がある。とにかく、二つの相反する要素の折衷というか、合体になっていると。

バランス的に近いのは「大長編ドラえもん」

で、このバランスに一番近いもの、先ほどメールで言われちゃいましたけど、我々が一番慣れ親しんだもので言うと、やっぱり「大長編ドラえもん」でしょうね、と。要するに、元々のベースは少年とロボの日常的交流、ハートウォーミング的なものでいいんだけど、ひょんなことからそれぞれキャラ立ちした仲間たちとともに、ひょんなことからヒーロー的大冒険をすることになるという、大長編ドラえもんも。そもそも大長編ドラえもん、最初ののび太の恐竜劇場版やるっていう時に、やっぱりその意外感があったわけです。「え?ドラえもんでそんなアクションとかやるの?」みたいな。でもそれがのちに大長編ドラえもんどんどんシリーズ化してくと普通になってきましたけど。そういうバランス。

厳密に言えば「キテレツ大百科」

厳密に言えば、今ドラえもんって言いましたけど、今回の「ベイマックス」は主人公自らが、バンバン夢の道具を自ら作れちゃうということで。不二子・F作品で言うなら、厳密に言えば「キテレツ大百科」なわけですけど。とにかく大雑把に言って、映画でいう二幕目の、ちょうど映画でいう真ん中までぐらいまでが、少年とロボの交流の話で。残り後半が、一気に仲間たちが、それまであんまり出てこなかった仲間っていうのがパッと出てきて、冒険アクションヒーロー化していくという作り。だから、ちょっと真ん中からトーンがグッと変わってく、というのは事実であると。

引用:IMDb.com

介護ロボのベイマックスが、戦闘ロボと折衷化

で、その過程で、後ほどその可愛さに関してはいろいろ言いますけど、もともとは介護ロボのベイマックスが、戦闘ロボと折衷化していくという。ベイマックス自体も折衷化していくという。マッシュアップ化していく。で、さまざまなレベルでの折衷感覚こそが肝っていうのを、作品上で視覚的に極めて分かりやすく打ち出してるのは、この「ベイマックス」、「ビッグ・ヒーロー・シックス」映画版特有の舞台設定と美術、これが大きいと思います。ここが上手くいってんのが。アメリカのサンフランシスコの実際の地形とか名所などをベースに、ゴールデンゲートブリッジとか、坂があって、あれがあって、電車があってみたいなところで。どれがどう見てもサンフランシスコなんだけど、そこに東京もしくは日本的なディテールがマッシュアップされてるという「サンフランソウキョウ」という設定がされてて。

結構無茶な設定

これ改めて冷静に考えてみると、結構無茶な設定っていうか、「なんで?」っていう設定なんだけど、その「なんで?」を視覚的な説得力で、力技で、例えば字幕とかナレーションで「何でサンフランソウキョウっていう都市なのか」って説明なんか一切なしで。最初、要は映画っていうのは、特にディズニーの映画っていうのは、冒頭でもう世界観というか、これから語ろうとする物語の一番肝を提示するものだとするならば、この映画で一番最初に提示されるのは、やっぱりサンフランソウキョウの全景の空撮ショットみたいな。だからまず、この世界観が売りですよってとこからまず入るわけです。ゴールデンゲートブリッジ、誰がどう見てもゴールデンゲートブリッジなんだけど、なんかよく見ると色とか頭のとこの形がなんか鳥居みたいな感じなってんぞー、とか。ぐーっと寄ってって、諸々ディティールが日本的なものとの折衷になっているという。で、そのディテールの視覚的説得力、面白さ、作り込みの徹底ぶりで、観客、ぐいぐいもう理屈抜きで飲み込ませていくという。ここが結構まず、冒頭から提示されるこの「ベイマックス」の醍醐味かなと思っております。

細かく取材をした成果

もちろんそこは、これが成立するためには、ちょっと前までのディズニーだったら、これ絶対してないんです。もうちょっといい加減な、なんとなくのアジア感、なんとなくの東京感で済ませてたところ、やっぱりジョン・ラセターが本格的に参加して以降、「ボルト」以降、「ボルト」シネマハスラーでも2009年扱いましたけど、「ボルト」以降のディズニースタッフに全員に徹底させた、どんな細かい場面でもちゃんと現地に行って細かく取材してこいと。一瞬しか出ない場面でもしてこい、っていうのをやってるのを徹底させてる。で、その成果が明らかに現れてる。

具体的なディティール

例えば、さっき言ったように、サンフランシスコの地形、雰囲気の中に、日本的ディテールがって部分だけじゃなくても。例えば実際に僕ら日本とか東京に住んでる我々が実際見ても、「あ、この建物の密度と人のこの密度の感じは、すごい日本ぽい」と。「あ、東京っぽい」。もっと言えば、例えば「ここ秋葉原のあのガード下の辺りのあの辺をモデルにしてね?」とか。「これ雷門の辺りを上から見た感じじゃね?」とか。何かそういう具体的なディテールが、「あー、納得、っぽい」っていう感じが、ぐっとこう納得できるような、そういうようなあれになってたりとか。このあたりは、「ボルト」に引き続き、美術手がけてるポール・A・フェリックスさんて人の仕事、いい仕事してるわけですけど、とか。

引用:IMDb.com

オリエンタルな意匠

あとは、例えばそこかしこに日本語の文字とかが見える。これ、最近いろんなのでそういうオリエンタルな意匠が入ってるのあります。日本語っぽいの見えるのあります。カタカナっぽいの入ってんのあります。大体でも、どれとは言わないよ、日本リスペクトしてくれてんのはありがたい、ありがたいんだけど、このカタカナはおかしいとか、こういうことは書かねえなとか、こうはならねえなみたいな。正直僕らはもう「ハリウッドだしね、もうしようがねえ」って感じで。ま、半ば諦め感で見るようなとこあると思うんですけど、今回「ベイマックス」に関しては、限りなくそういうガッカリ感は、ゼロじゃないのかもしんないけど、目に入る範囲では全然大丈夫っていうか。ちゃんとこう。あと、そういう設定資料集みたいなの読んでも、すごくちゃんと、相当これネイティブ日本人のチェックを入れてるんだと思うんですけど。おかしくないようにちゃんとなってると、とか。

日本人には馴染みが深い細かいディティール

もっと細かいディテールでいうと、例えば主人公ヒロの部屋にかかってる壁時計が、劇中で非常に重要な役割を果たす「ロケットパンチ」。当然日本人には非常に馴染みが深いですよね、マジンガーZで。で、それに対するオマージュということなのか、権利的に問題がなさそうな範囲でマジンガー的な、どっちかというとグレート的なシルエットでしたけど、マジンガー的なシルエットの時計がこうなってるとか、みたいな辺りで、とか。

「ビッグ・ヒーロー・シックス」の映画化

あと、そうだな、例えば日本人が観てても感心するのは「鯉のぼり」をモチーフに持ってくるか。鯉のぼりをモチーフにした、あれはなんだ、風力発電の装置なのかな、ひょっとしたら。雲の上に風車があって。おそらくあそこが送電するってことなんじゃないんですか。それが鯉のぼりのデザインになってる。鯉のぼり拾わないでしょ、なかなか。だから、すごいそういうとこで、「あ、そこ拾う?」みたいな、感心したりとか。諸々そういうディテールも含めて、まずはこの半分架空の都市、サンフランソウキョウの物語世界っていうのを、視覚的に、一見さらりとなんだけど、だからここのもう、詰めて詰めて詰めて、この世界を作り上げることに命かけてると思いますけど。このサンフランソウキョウのこの世界を、視覚的に語りきったっていう時点で、今回の「ビッグ・ヒーロー・シックス」の映画化っていうのにおける折衷、もう全てにおいて折衷・マッシュアップっていうコンセプトが、成功・保証されたと言ってもいいんじゃないか。

まずはこれ、最初の冒頭しばらくからいろんな街が映し出されるたびに、美術でもう、「はい100点!はい100点!はい100点!チーン!チーン!チーン!」っていうのが、細かく、細かく100点が繋がれて、気づくと100億点っていう。そういうパターンだと思うんですけど。

冒険的でもあるこの企画

だからそう考えたら非常に冒険的でもあるこの企画。先導したのが、先ほどちょっと評価にもありました、あの「くまのプーさん」の一番最近の映画化です、2011年の。シネマハスラーだと2011年9月18日やりました。2011年度シネマランキング10位入れさせていただきました。の監督・脚本手がけたドン・ホールさん。ちなみにこの「くまのプーさん」、僕は大絶賛しましたけど、残念ながらやっぱあまりにも内容が60分間でもうちょっと続くと気が狂う、っていうシュールさのせいか、ちょって大コケしちゃったらしくて。そのせいで、「プリンセスと魔法のキス」からジョン・ラセターが旗ふって、もう1回ディズニー伝統の2D手描きアニメを復興させようじゃないかって動きが、この「プーさん」こけちゃったことで完全に潰えちゃった状態だっていうのはありますけど。

引用:IMDb.com

「ベイマックス ビジュアルガイド」

ともあれこのドン・ホールさん、その「プーさん」終わってすぐ本作の準備にかかって、日本で取材、資料集めみたいなのしててっていうので。すごい面白いのが、いろんなとこでインタビューとか出てますけど、僕読んだの、このビジュアルガイドっていう角川書店の「ベイマックス ビジュアルガイド」っていうのに出てるインタビューです。コヤマシゲトさんという日本人のデザイナーの方、日本のいろんなロボットのデザインとか、「エウレカセブン」とか「グレンラガン」とか、あと僕大好きな「キルラキル」とか、いろいろデザインやってらっしゃる方、とドン・ホールさんがたまたま出会って。これ面白いんです。この話ちょっと面白いから、脱線するけど、していい?

「ヒーローマン」

コヤマシゲトさんは、「ヒーローマン」っていう2010年に日本でアニメ化されたやつで。この「ヒーローマン」っていうのは、スタン・リーっていうマーベルの社長がいて、スタン・リーの原作で、要するにマーベルと日本のコラボみたいな感じで進んだ企画で。その「ヒーローマン」に出てくるロボットをデザインされてたと。で、ドン・ホールさんが日本で、今回の「ベイマックス」、「ビッグ・ヒーロー・シックス」の映画化にあたるために取材に来て、いろんなロボットのおもちゃ買ってく中で「『ヒーローマン』のおもちゃ買ったんだー」っつって。アメリカでは、リーマン・ショックの影響でやってなくて、知らないで買った。で、コヤマさんと会ったら、コヤマさんは「くまのプーさん」がすげー好きで。で会って、したらその「買ったんだー」っつったら、「それ僕がデザインしたんですよ」と。「おー!」っつって、参加してくれよって。この数奇な感じですよ。

アメリカ人は細いロボット嫌だから、どんどん太くしてくれってなってた

ちなみにこのコヤマさんの、このビジュアルガイドのインタビューがもう、最高に面白いんですけど。何が笑ったってこれ、本当に今回「ベイマックス」と関係ないんだけど、超笑ったとこなんでいいですか。「ヒーローマン」のデザインをする時に、やっぱアメリカ人は細いロボット嫌だから、どんどん太くしてくれってなってたと。で、スタン・リーもどんどん太くしてくれって言われると。で、これを参考にしてくれって言われたのが、私が最近やった作品でかっこいいロボットが出てくるからこれを参考にしてくれって送られてきた写真が、なんと「レオパルドン」だった、っていう。東映版・日本版の特撮版スパイダーマンに出てくる、オリジナルで出てくるロボット、まさに高野政所君のグループ「LEOPALDON」の元になった「レオパルドン」です。「それ日本のだし!それ最近じゃねーし!」みたいな、とかね。これ最高に読んだ瞬間に爆笑してしまったラインなんですけど。

引用:IMDb.com

ベイマックスの顔は「鈴」をモチーフ

ちなみにこのコヤマさんは、もちろん「ベイマックス」のコンセプトデザインで呼ばれて。いろんな方がもちろんコンセプトデザイン関わってんだけど。結構重要なところ、ベイマックスの顔が「鈴」をモチーフっていうのは、ドン・ホールさんからもともと出てたものらしいんだけど、「鈴」っていうモチーフはもともと口に使う予定だったのを、目にしたらどうだと。で、口はなしにしたらどうだっていうのは、このコヤマさんのアイデアだってことなんだと。

ドン・ホールさん主導でやって、後から共同監督としてさっきも言った「ボルト」の監督の、共同監督してるクリス・ウィリアムズさんっていうのが入ってきて。さっきのプロダクションデザインやってるポール・A・フェリックスさんとか含め、「ボルト」組がいっぱい入ってきたりするんですけど。そっから「ボルト」と「ヒックとドラゴン」との因縁の話とかもいろいろしたいんですけど、ちょっとこれもう省略します、時間ないから。

とにかく、今回の「ベイマックス」。先ほど永遠絶賛した美術だけじゃなくて、旧来のディズニーアニメ的様式に、積極的に割と日本的な要素、折衷的に取り入れようともしてて。それこそコヤマさん呼んできてっていうのもそうでしょうけど。

旧来のディズニーアニメ的様式に、積極的に割と日本的な要素、折衷的に取り入れようとしている

例えば、主人公「ヒロ」っていうのの造形。これ、叶精二さんっていう方、前「宮崎駿大全」という本紹介させていただきましたけど、この方の「『アナと雪の女王』の光と影」の叶さんの分析だと、「アナと雪の女王」のキャラ造形が、すでに非常に日本的アニメな要素を大きく取り入れてるって指摘がありましたけど。まさにその流れを継いでるというか。今回、日本が舞台で日本アニメに影響を受けてるってこともある。そう考えるとちょっと逆説的な話なんだけど、要は、アメリカ産アニメ、ディズニーとかだと、そういう日本人含めてアジア人のキャラクターはやっぱり目を細くとか、小さくとか、そういう割と、括弧付きですけど「リアル」な表現に行く方向です。例えば中国が舞台の「ムーラン」だったら、ムーランはやっぱり他のディズニーアニメよりはやっぱ目が細く描かれんだけど、今回むしろ積極的に目を大きく、で、鼻が小さめみたいな。日本アニメ的なデフォルメの方に主人公を寄せてるわけです。むしろモロに白人キャラであるフレッドとかの方が、これは従来のディズニー的な造形ですけど、鼻・目とかの大きさでいえば、小さいくらいだっていう。で、そっちの方が白人っぽく見えるみたいな作りになってて。という、要するにすごくデフォルメの方向が日本アニメ的な方向にいってる。あえて言えば、ゴー・ゴー・トマゴさんは、割と東洋人的、目細めだったりするかもしんないけど。

全体に「ボルト」とかと比べても、CGの人間描写の進歩ってか、もうCGで人間描くことに何の疑問も誰も抱かなくなるぐらいの進歩感ていうのは、言うまでもなくなんですが。

豊かな内面を読み取るバランス

あと例えば、先ほど「ベイマックス」の無表情、シンプルの極み、もうほとんど無表情に近い中に、豊かな内面を読み取るバランスっていうのも、これ監督たちのインタビューなどによると、日本的感性に寄せてるんだと。能なんかもそうですけど、一つの面にいろんな表情を読み取るという。まさにその表情、本来口があったのを目だけにするというアイデアが、まさに日本人デザイナーから出たというアイデアであるということを考えると、やっぱり日本的感性がミックスされた結果という。まさにここにも折衷感覚の面白さがぐいぐい入った作品だと。で、実際これは本当に僕がもう日本的感性だからどうかしんないですけど、特に前半のベイマックス、これ皆さんすいません、映画の魅力を語る話として、ものすごいバカっぽく聞こえるかもしんないけど、でも、でもそこが肝の映画だからしようがない一言として、かわいい!かわいい!ベイマックスがかわいい!かわいい!でもう、ベイマックスがかわいい!と、その世界観ができてる。もう、もうさ、95点出てるじゃんもう!っていうね、とこなんですよ。もう、死ぬほどかわいいと。

「かわいい」とは何か

実際その「かわいい」とは何か。それこそ、日本語で言う「かわいい」とは何か。世界語となった「KAWAII」とは何かを計算し尽くしたとも言ってるわけ。だから、例えば、一番かわいいっていうのは結局赤ちゃん体型だ。赤ちゃん体型でヨチヨチ歩くと。とくにあの再登場シーン。もう1回登場して、それでベッドを避けてと。あのヨタヨタ。あの間も含めた、あそこのもう、かわいい!もう参りました!この場面の計算の全てに俺は乗せられている!ていうね。

あと、これ僕が考える自立型ロボットものっていうのの肝は、やっぱ「不憫さ」なんです、「不憫さ」。で、この不憫さというところにおいて、これ「くまのプーさん」を手がけたドン・ホールが「ベイマックス」をやってるっていうのは、僕大納得なんです。「くまのプーさん」のかわいさの本質は、不憫さなんです。で、自立型ロボットのかわいさの肝ってのは不憫さなんです。例えば、融通の利かなさからくる、不憫さ。

引用:IMDb.com

質感表現が本当に全編に渡って素晴らしい

あとは、この方、元々介護ロボットなのに、無理やり動かされる不憫さもあるし。介護ロボって、つまり表皮がビニールである。やらかいものなわけです。表皮がビニールからくる、もちろんかわいさもあるし、危うさもある、っていうところ。ちなみに、その表皮がビニールっていうところから、これ技術的な話になりますけど、今回「ベイマックス」もう一つ素晴らしい所は、質感表現が本当に全編に渡ってすんばらしい!例えば、ビニールも張ったところとしぼんだところ。で、そのしぼんだところの表現がまたかわいい!かわいい!ということでございます。とかさ、質感表現が際立つところでいうと、例えば、「ハニーレモン」っていう、メンバーの内、後にチームヒーローになるメンバーの一人、ちょっと魔法少女的な立ち位置って言っていいんですかね。魔法少女というか、セーラームーンというか。「いいわね?いくわよ!」っていうんですか。すいません、今のモモレンジャーです。あれがバーンと何かを炸裂させると、それがぶよぶよだったり、あるいは綿菓子みたいなふわふわ感があったりとか。あの全体な質感の、あの感じの心地よさ、としか表現しようがないけども。そこもすごく大きな魅力になってると。

「かわいさ」の塊であるベイマックス

とにかく、「かわいさ」の塊であるベイマックスが、本来の意図を離れて戦闘ロボ化してくわけです。そこに不憫さも産まれるんだけど、同時に、前半に「かわいい!ベイマックス!」っていうのを、ハートウォーミング面に乗りまくってれば乗りまくってるほど、特に中盤、戦闘ロボット化してく展開に、若干居心地の悪さを感じなくはないわけです。「え?そういう方向に行くの?」みたいな。「うーん、いや、なんか、そ・・・えー!?」みたいな。でもその居心地の悪さも、ちゃんと物語上の理由があって、思って観てると、ちゃんとそこがお話上のターニングポイントとして、前半と後半を誘起的に繋ぐポイントになってる。具体的には、第三幕に向かうその動機付けにちゃんとなってると。なんか、え?そっちの話?なんか、違う話になってない?違う話・・・違う話になってましたね!ぐいって、ガリっとこう、リンクさしてくる。

リンクする部分の演出

しかもそのリンクする部分の演出が、具体的には主人公のヒロ君が、ちょっとある間違った方向に行きかけたのを改心するという場面なんですけど。何で改心するかというと、亡きお兄さんの想いをベイマックスを通して知るという場面なんですけど。ここ、この番組の放送作家古川耕さんの指摘で、「あーなるほど」と思ったとこなんですけど僕も。要はベイマックスが、残されたお兄さんの映像を見せて、でそれを見て感心するという場面で、凡百の作り手なら、お兄さんから弟への限りなく直接的なメッセージとして語るだろうと。これまさに1月31日の特集でなぞらえて言うなら、お兄さんが映像で改心させる場面で、お兄さんこういうこと言うわけです。

兄の発言

「ヒロ、ベイマックスはあくまで人助けのために作ったロボットであって、誰かを倒すために作ったロボットではない。まかり間違っても、仮に、万が一そんなことがあっても、復讐のためになどは使ってほしくない。映画『ロード・オブ・ザ・リング』の中でガンダルフも言っていたように、強さというのは人を倒す時ではなく、人を助けるとき・・・」あれ?ガンダルフでいいのかな?忘れたけど。などといったようなことが、そうではなくて、あくまで兄がベイマックスを作る時にどんな気持ちで作ったのか、それを一生懸命作る姿、つまり、あくまで兄の行動とその背中から主人公が主体的に学ぶという、そういうバランスを保って描いてるということが非常に素晴らしい、って古川さんがおっしゃってて。確かにその通りだ。上手いし、品がいいというあたりじゃないでしょうか。見事なあたり。しかも、その直後に、復讐は良くないというのをヴィラン側、つまり悪役側の動機付けと対称させることで、さらにちゃんと主人公の動機としてかっちり確定させる作りにもなってて。これはやっぱ上手い。

引用:IMDb.com

「ある事件」と、クライマックスで主人公ヒロが取る「ある行動」が対比になっている

先ほどメールにもありましたけど、例えば前半お兄さんが実際に死んでしまうきっかけともなる「ある事件」と、クライマックスで主人公ヒロが取る「ある行動」が対比になっていたりとか。いろんなことがちゃんと序盤との対比になることで、さっき中盤からトーンが違うことが始まる、あーそっちに行っちゃうのっていうのが、ちゃんと三幕目に向かうポイントで「全部関係ありました」って感じで、ガキッガキッガキッとまさにロボット同様に、折衷要素がガキーン、ガキーン、ガキーンと気持ちよく合体してくような、マグネット同士合体してくような快感が味わえるという。ここでも、描こうとしてる折衷感というコンセプトと、物語の構造と、実際のそれが、もう全部一致してるという。どこまで意図したものか分かんないけど、非常に上手くできてるなというふうに思いました。

日本アニメにはないアメリカ的なエンターテインメント

あと、やっぱりクライマックスシーンで、なぜ勝つかのロジックが明快なのも、僕はこれは日本アニメにはないアメリカ的なエンターテインメントのいい部分だというふうに思ったりもします。ビカー!ビシャー!とかじゃなくて、ちゃんとロジックがあるあたり。これはアメリカのいいとこで。やっぱそこもいい折衷・マッシュアップになってる。

例えば観てて、いくら天才児とはいえ、「お前何でも作れんなあ!いくらなんでも、何でも作りすぎじゃね?」みたいなツッコミ的というか、ちょっとあるんだけど、これもこの番組で特集したメーカームーブメントの時代、確かにそうですね、途中3Dプリンタを駆使してって場面もちゃんと出てきます。要するに、今むしろこれタイムリーなんですよと。今見るとこれ嘘くさくなく見えるんですよって。ただ装甲に使うような材質ってのはどうやって手に入れんだ問題とか。そういうことは考えさせない間にちゃんとなってます。あと、最後助かったあの人は、これからの人生が針のむしろだよね、とか。そういう余計なことは考えないようにしましょう。考えないテンポになってます。考えさせないテンポになってます。

500億点-1点の部分

ただそういうのは別として、僕ちょっと、決定的にカクっとなっちゃった、最後のこれが、500億点-1点、いやもうちょっとかな、あるのは、これ別に作品自体の問題というよりは、最後にタイトルがバーン!て出るところがあるんです、「ダークナイト」とかと同じで、今時の流行りです。最後に一回タイトルが出るという作品なんだけど。これ日本版だと吹き替え版も字幕版も両方「ベイマックス」って出るんです。でも、出てくる絵面がバーン!の絵図だから、どう見ても「ビッグ・ヒーロー・シックス」なんですよ。だから、バーンて出てきた時に、こっちが事情を忖度してあげないといけないんです。元は「ビッグ・ヒーロー・シックス」!だったら「ビッグ・ヒーロー・シックス」って、原題だけでもいいから出した方がよかったんじゃねえのかな、みたいな。なんかそこで、最後の最後の一番キメのとこで、今まで折衷感覚がガキーン、ガキーン、ガキーン、上手く決まった!ガキーン、ガキーン、ここも上手くはまった!・・・はまってなーい、みたいのが、最後のとこでスカーっていう感じが、僕は正直そこがあったのは若干残念でした。作品自体の質そのものとはちょっと違うかもしれませんが、ということだと思います。

エンドロール後におまけ

ちなみに、エンドロール最後におまけが付いてて、まさにこの作品の折衷感、「この作品はこういう折衷で出来てますよ」というのを示すエンドロールもあるので、ぜひ観てください。ここで言ってることは、最低なのとか最高です。素晴らしかったと思います。

あと、同時上映の短編、今回の「愛犬とごちそう」。お行儀が非常に悪い話だとか云々、それは置いといて。ジャンプカットでどんどんどんどん繋いでくっていう見せ方もそうですし、光線と空気感、埃がふわっとこう舞って、その空間の空気感みたいのの出し方。これがまた今後のピクサー、もしくはディズニーの作品にどう生かされてくとかも含めて、作品的に今回の短編はすげー気に入りました。すごくよく出来てると思いました。

はい、といったあたりで、もちろんハイレベルでございます!最高にかわいい!よく出来てる、かわいい!

書き起こし終わり。

○○に入る言葉の答え

「①この映画の特色・面白さはズバリ『折衷感』『マッシュアップ感』にあり!」でした!

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