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引用:IMDb.com

シン・ゴジラのライムスター宇多丸さんの解説レビュー

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2020年06月29日更新
イマドキの日本の大型エンターテインメントの中では、ほんとに安心して見通せる作品。とにかく、めちゃめちゃ怖いゴジラ・・多分今までのゴジラで1番怖いっていうところを実現できてるだけでも素晴らしいですし、色々切り口あるね。これだけじゃ足りないかもしれませんけどね。ということで、『シン・ゴジラ』、絶対に必見の一作だと思います。(TBSラジオ「アフター6ジャンクション」)

RHYMESTER宇多丸さんがTBSラジオ「アフター6ジャンクション」(https://www.tbsradio.jp/a6j/) で、庵野秀明監督の東宝製作のゴジラシリーズの第29作目「シン・ゴジラ」のネタバレなし解説レビューを紹介されていましたので書き起こしします。 
映画視聴前の前情報として、また、映画を見た後の解説や考察レビューとして是非ご参考ください。 

宇多丸さん『シン・ゴジラ』解説レビューの概要

①本作のポイントは、今を生きる日本人が内心最も恐れていることの具現化である。
②監督ならでは。"○○(人気アニメ)っぽい。"
③ショボくなく、かつ日本特撮映画っぽいゴジラのCGが秀逸。
④「日本人的に嫌なところを刺激されてから○○」という構造がウケている。
⑤日本人の無意識の投影、ゴジラが実在する恐ろしさ・・・いろいろな切り口で楽しめる。

※○○の中に入る文章は、この記事の1番最後で公開しています。 TBSラジオ「アフター6ジャンクション」でラジオ音源を聞いて頂くか、書き起こし全文をご覧頂くか、この記事の1番最後を見て頂 く事で判明します。 

映画『シン・ゴジラ』宇多丸さんの評価とは

宇多丸:
映画館では今も新作映画が公開されている。一体、誰が映画を見張るのか。一体、誰が映画をウォッチするのか、"映画ウォッチ超人・シネマンディアス宇多丸"が、今、立ち上がる。

--その名も『週刊映画時評ムービーウォッチメン』。

毎週土曜夜10時からTBSラジオキーステーションに生放送でお送りしている、『ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル』。
ここから夜11時までは、劇場で公開されている最新映画を、"映画ウォッチ超人"ことシネマンディアス宇多丸が毎週自腹でウキウキウォッチング。その監視結果を報告するという映画評論コーナーでございます。

今夜扱う映画は、先週ムービーガチャマシンを回して当たったこの映画。

『シン・ゴジラ』

日本を代表するポップアイコン、怪獣ゴジラの国産劇場版としては12年ぶりとなる新作。
『エヴァンゲリオン』シリーズで知られる庵野秀明が総監督と脚本を担当した。
出演は、長谷川博己を始め、竹野内豊、石原さとみ、高良健吾、大杉漣、市川実日子など、総勢328人が出演しております。

『シン・ゴジラ』、当たる前から(このコーナーで)やれやれと大評判というか、いろんな声をいただいておりまして、この映画をもう観たというリスナーの皆様(ウォッチメン)からの"監視報告"をメールなどでいただいておりますが、メールの量・・予想はしておりましたが、ぶっちぎりで今年最多でございます。
プリントした紙は500ページ以上、また初投稿の方も多かったということでございます。
そして、賛否で言うと、"賛"が9割以上。

引用:IMDb.com

映画『シン・ゴジラ』を鑑賞した一般の方の感想

「ゴジラ第1作目と並ぶ、もしくはそれを超える大傑作。」
「破壊シーンの絶望感がすごい。」
「ゴジラがマジで怖い。」
「今の日本で作られるべき映画。日本もまだまだ捨てたものじゃない。」

などなど、厚い賛辞が並んだ。

また、『ゴジラ』シリーズや『エヴァンゲリオン』など、庵野監督作品への距離感は人それぞれ。
立場や年代を越えて支持されていた・・つまり、怪獣映画マニア、ゴジラマニアであるとかもしくはエヴァ好きであるとか、庵野さんマニアじゃなくても支持されているということでございます。

ただし、石原さとみさんの演技(というかキャラクター)に疑問符をつける人はいたということで・・ちょっと役柄がああいうあくのある役なんで。

否定的な意見としては・・

映画「シン・ゴジラ」批判的な意見

「会議シーンばかりで退屈。」
「一般人や市が描かれないのは欺瞞では。」
「前半は良かったが、後半からリアリティがなくなる。」

などの声。

また、東日本大震災時の復興対策会議に参加したという人からは、「すごくリアリティがあった。」という意見と、「あんなに早口で喋ったりしない。」という意見とで相反する声があったということでございます。

代表的なところ、500ページ以上にもなるのでほんとに一部になってしまって申し訳ございませんが紹介させてください。

(メール紹介)小鹿になりたい:
まだ4回しか観ていません。申し訳ありません。
(宇多丸:(笑)久々に・・『パシフィック・リム』くらいの時以来の感じ。)
『ゴジラ』シリーズは、本多猪四郎、円谷英二、田中智幸など、初代ゴジラを生み出した偉大な制作者たちすらも、その後ゴジラをうまく扱えなかったのではないかと思ってしまうほど、初代以降、文句なしに面白いゴジラ映画がついに生まれなかったというのが個人的な認識なのですが、そのこと自体がゴジラというキャラクターの設定と符合している。つまり、"核を生み出した人類が持て余す"という状況との符号。それこそが、現実と虚構のダブルミーニングのようで面白くもあり、また、歯痒くもありました。
しかし、ついに62年ぶりに、庵野秀明監督が文句なしに面白いゴジラ映画を作ってしまったという奇跡、"3.11"という課題を確実に取り込んで娯楽作に変換できたという感動、そして、現代の子供たちがこの映画を観て刻まれた恐怖と興奮をもって次世代のゴジラ映画の作り手として成長してくれるのではないかという希望。
庵野秀明監督からの、次の世代へ手渡されたバトンであり、まさにそれはゴジラの新世紀なのだと思います。最高です。

宇多丸:
というね。感想がきてます。
一方、ダメだったという方。

引用:IMDb.com

映画「シン・ゴジラ」批判的な意見2

(メール紹介)アキ:
楽しみにしていた『シン・ゴジラ』ですが、自分はダメでした。
一言で言うと、よくできたゴジラ(オリジナル)のファンムービーという印象で、何もかもが薄っぺらく感じてしまいました。
序盤の細かくスピーディーなカット割で描かれる会話劇の演出は上手いと思いますが、そこで描かれるのは、一握りのエリートによる行政のみであり、野党や議会も登場しないばかりか、それらを取り巻く世論やマスコミといった政治で一番面倒な部分は皆無。
そして、"3.11"を経た日本を舞台に、日本の強さは個ではなく軍(集団)であるというテーマを描写しているのに、最前線の人たちや犠牲者がほとんど出てこないのは致命的だと思いました。
また、単純にアクション映画として見ても、某作戦が発動してからの映像的な迫力の急激な失速感が否めず、それと同時にゴジラの怖さが薄れていくのも痛い。
オリジナルゴジラにあった、"ゴジラは加害者であると同時に被害者でもある"という一面が全く見えないし、石原さとみさん(宇多丸:すいませんね、さっきから・・そんなに石原さとみさんが悪いとも思わないんだけどな。)演じるキャラがひたすら不快な上に、感情移入できる人物が皆無なのも個人的には大きなマイナスポイント(宇多丸:ちょっと癇に障るキャラクターではあるんでしょうけどね。)。

「シン・ゴジラ」宇多丸さんが鑑賞した解説

宇多丸:
ということでございました。
まあでも圧倒的に"賛"の方が多いということで、500ページにも渡る皆さんのメール、ありがとうございます。いただきました。

はい、ということで私もですね、IMAXで観てみたりとか・・品川にIMAX復活したんでね。3回。すいませんね、3回しか観てなくて。
特に、公開遅まきながら2週目で観た時はほぼ満席で、皆ほとんど30代以上、ザッツ男性オタって感じだったんですけど、終映後に軽く拍手が起こるような雰囲気で。
その後は、評論が(落ちることなく)・・いわゆる怪獣や特撮マニア以外にもこの映画が広まってることもあって、大ヒット続いているようで、何度行ってもすごく入ってました。
一部にはすでにカルト的な熱狂を生み出す作品になりつつあるというか、確実に作品としての評価は定着しつつあるという勢いではないでしょうか。

引用:IMDb.com

オリジナル版ゴジラに近い作品

ということで、さあどこから片付けていいものかと。
まず言えるのは、今回の『シン・ゴジラ』、これまでのどのゴジラ映画・怪獣映画よりも、やっぱり1954年の第1作のオリジナル版ゴジラに近い作品になっているのは間違いないと思います。
勿論、物語・世界的な設定・・この物語の中ではゴジラのような怪獣的なものは、それまではまだ出現していないという設定。
それ故に、もしそういうものが現実世界に現れたらどうなるかということの、その時代その時代の、(本当にそうかは別として)括弧付きのリアルなシミュレーションとしての怖さ・・つまり、本当に怪獣が出てきたらこれだけ怖い、とか、こういうことが対策として考えられるんじゃないか、みたいな、そういう面白さの部分。
そういうところでアプローチをして、1作目のゴジラに1番近いという・・それ以降のゴジラ映画は、最低限でも1作目のゴジラはいたという設定なので。

リアルタイムで熱狂した怪獣映画として、『平成ガメラ三部作』

実際、僕もリアルタイムで熱狂した怪獣映画として、『平成ガメラ三部作』というのがあるんですけど、特に1作目や2作目くらいまでは・・元を辿れば、脚本を書いてらっしゃる伊藤和典さんは『パトレイバー』な(も書いている)わけですけど、要するに、"現実に異物が現れたらどうなるか"ということの、括弧付きのリアルなシミュレーションという面白さ・怖さというのがある。
ゴジラやガメラであれば、「まさか、こんな生き物が!」という、ワーッという、エクスタシーにも似た驚きというか、そういう部分が描かれたりする。
今回の『シン・ゴジラ』も、そうしたリアルシミュレーションの系譜上の最新かつ到達点なのは間違いないですよね。
だから平成ガメラシリーズの進化系というとこもあると思うんですけど。
それ以上に、本質として1954年のオリジナル版ゴジラに重なる部分として、こういうことが言えると思うんですね・・いろんな方意見は言ってると思うけど、僕なりの表現で言えば、"その時点で、日本人が内心(薄々)恐れている事態"を、フィクションを通して具現化するという。

引用:IMDb.com

「いずれ起こったら嫌だ」と内心ずっと思ってることのメタファー

日本人が「こういうことだけは2度と起こって欲しくない」あるいは、「いずれ起こったら嫌だ」と内心ずっと思ってることのメタファーということですね。
1954年のゴジラは、言うまでもなく、生々しい戦争の記憶、敗戦の記憶、特に空襲の記憶。そして原水爆を落とされたという、日本人にとっては巨大なトラウマのメタファー。
「これを1954年にやるって」って思うけど・・。

今回の『シン・ゴジラ』は、その原点・本質に立ち返っている

で、今回の『シン・ゴジラ』は、1作目のゴジラの在り方、言っちゃえば、当時あれを見た人はどう感じたのかというようなところ、その原点・本質に立ち返って、今の日本人にとって、日本人があれに類する状況に陥った時に、日本人の無意識の恐怖というのがどういう形をとって表れるのかということを、改めて問い直したその結果ということはまず間違いなく言えると思います。
それは言うまでもなく、東日本大震災。

引用:IMDb.com

東日本大震災、日本人の無意識の恐怖

戦争が終わった記憶が生々しい中で1作目のゴジラが作られたけど、東日本大震災なんか2011年ですから、(期間的には)それよりもっと生々しいという。
東日本大震災であり、福島原発事故であり、そういう想定外の事態に対して実は無力であった日本という国に対する不安・不信・不満。
ひいては、放射能が問題となったときに日本人誰もが思ったと思いますけど、いざとなれば世界から、分けてもアメリカから結局見捨てられてしまうのではないかと。
これは原発事故なくても、例えば近隣で何か有事が起きたときに、「とはいえ、いざとなれば見捨てられちゃうんじゃないか」という無意識の恐怖とかね。
アメリカに対する色々なコンプレックス込みでの無意識の恐怖みたいな。
これらは要するに、今を生きる日本人が内心最も恐れていることを、ことごとく、徹底して、これでもか!と言わんばかりに具現化してみせるっていうのが、今回の『シン・ゴジラ』の、少なくとも3幕目(ヤシオリ作戦)までの中身の本質ではないかと思います。
そして、この3幕目から、「日本人が内心恐れていることが起こってるな、画面の中で。」っていう感じが極限まで高まったその構造がガラッと極端に逆転するという。これが『シン・ゴジラ』という作品の1つの特徴なんですけど・・その話は後回しにして、順にお話ししていきます。

開幕早々、事態が起こる

まず、開幕早々、事態が起こるわけです。始まって1分やそこらで「ドーン!」・・何か取り返しのつかない、ただ事じゃないことが否応なく始まってしまうというね。
なので、いつもの映画みたく、皆さんノロノロ遅れて入場とかしてるとすぐ始まっちゃいますから。
ということで、ご覧になった方全員が思うことでしょうが、事ほど左様に、あらゆる意味でテンポが速いというのがスタイル面での最大の特徴。とにかく凄まじいスピードで繰り出される。物事の何か情報を説明するような台詞、これ直接的な説明台詞とはちょっと違うと思ってください。何かの説明をしている台詞と、字幕情報と・・これ、何で括弧付きかっていうと、それを100%理解しなくても、物語的な理解と関係ないことが多いということです。とにかく情報量が多い台詞と字幕情報と、そして庵野監督自ら編集している細かいカット割ね。そういうのとかが水準スタイル的な特徴になっているということですね。

引用:IMDb.com

『シン・ゴジラ』での牧博士

それは勿論のこと、今回の『シン・ゴジラ』でも、牧博士っていう、既にこの世にはいない博士空虚な中心にいる、写真でオマージュを捧げられてる、岡本喜八監督--前から庵野さんがファンだと言ってる--の、特に『日本のいちばん長い日』であるとか、『沖縄決戦』といった"群像戦記モノ"というかね。さらにオリジンを辿っていけば、『史上最大の作戦』とかありますけど、岡本喜八の"群像戦記モノ"タッチの影響も当然あるだろうし、あと庵野監督作品ではお馴染み、非常にグラフィカルに、外連味たっぷりな物や人を配置・・例えば、椅子が並んでいるところを床から椅子越しに人を撮って、椅子がグラフィカルに並んでいるところをわざわざ手前目にして撮っているという、そういうような絵面。
グラフィカルに人や物を配置して切り取ってみせる、実相寺昭雄スタイルのレイアウト。これも当然いっぱい出てきました。
何よりも今回、非常印象的な会議シーン・・内閣とか、人がいっぱい会議するような。そこで、非常に素早い、食い気味のレスのある早口の台詞のやりとり。例えば、誰かが何か言ったことに対して台詞が被ってきて、それを聞いてる人のリアクションのカットもポンポン入ってくる。

食い気味の早口台詞、ポンポン入ってくるカッティング・編集

食い気味の早口台詞、ポンポン入ってくるカッティング・編集。そしてそれによって醸し出される緊張感であったり、ユーモア・・ちょっと笑っちゃうところがあったりとかは、明らかに市川崑、特に『犬神家の一族』風。
言うまでもなくエヴァンゲリオンの印象的なタイポグラフィーの元ネタですよね。
僕が今回最初に観て思ったのは、「あ、市川崑みたい。」と思って観てたんですけど。

引用:IMDb.com

全部まとめて完全なる庵野秀明タッチ

岡本喜八風でもいいし実相寺昭雄風でもいいし市川崑風でもいい・・だから、それら全部まとめて完全なる庵野秀明タッチってことですよね。
パッと見て多くの人が「エヴァっぽい」って思うようなカッティングのセンスであったり絵作りだと思いますけど・・後ほど言いますけど、今回は"もろエヴァ"な打ち出しをすることが割とてらいがないというか、音楽も、完全にエヴァを流用というか、セルフ引用したりして、意外とエヴァっぽく見られることに対しててらいがないあたりも抜けがいいあたりなのかなと思いましたけどね。
序盤、凄まじいスピードで言葉が重ねられていくんですけど、それらが、深刻化しているらしい事態とは乖離している。会議はしてるけど、一方で起こっていることと全然関係ないっぽい、というのが・・例えば会議シーンが途中でブツっとブラックアウトして中略という字幕になったりとかのユーモア要素であったりとか、あるいは、虚しく会議を重ねていく中で高良健吾演じる秘書が思わず「こんなことしてる場合かよ」と観客の気持ちを代弁するかのように思わず呟いたところでパッとカットが変わると、既に結構大変な事態になってるぞ、と。

ショッキングなワンカット

そこで初めて、「こんなことしてる場合かよ」って思ったら、海から煙が吹き出てただけなのが川で船が押し寄せていて、大変なことになってる。否応にも、東日本大震災の初日の報道をちょっと思い起こさせる、「逃げて!」というしかないようなショッキングなワンカット。
要するに、会議室で起こっていることと、実際に進行している異常事態との乖離、この緩急の妙でグイグイ魅せていくということですね。
ちなみに、オフビートに笑わせていく内閣のやりとり。僕は特に、中村育二さん演じる防災担当大臣、この人の台詞が全部ことごとく最高ですね。
散々、強硬論みたいな「魚雷かなんかでやっちゃえば」とか言ってたのが、「え・・動くの?」っていう(笑)。生き物ですからね。
あと合計4回言う「想定外」が、どんどんギャグ的破壊度を増していくあたりとか、非常に、コメディとしても中々上等な作りだなと思ったりしました。

引用:IMDb.com

福島原発事故に関する、政府発表の記憶なども微妙に刺激される・・

現実での福島原発事故に関する、例えば政府発表の記憶なども微妙に刺激される、政府の対応の感じみたいなのがありつつ・・実際に進行しつつある大変な事態と、会議室で積み重ねられる言葉の連なりの決定的な乖離が明らかになる、あるポイント。つまり、実際に怪獣っぽいものがはっきり姿を現してしまう、現実が完全に壊れてしまうその瞬間から第2幕が始まって、第2幕いっぱい・・ゴジラがとある理由から活動を休止して、国際社会が核攻撃をするっていうのを決定するくだりまで、日本人が恐れていたことっていうのがとにかく展開されていく。
いざそうなってみると「ああ、無力・・。」っていう感じですね。
ここは劇場の大スクリーンでその怖さを全身に浴びながら体感していただくのが1番だと思います。

気持ち悪い生物感はエヴァイズム

ネタバレにならないよう気を付けていますが・・いやネタバレかな?なんかよく分かんない生物感、その気持ち悪さっていうのは、ぶっちゃけ完全にエヴァイズムですね。
さっきエヴァイズムを出すことにてらいがないって言いましたけど、ほんとにエヴァとか使徒っぽいって感じだと思いますね。
もう最後のあるオチがあるんですけど、そこに至るまで、「ああ、エヴァっぽい。」っていう・・これ、言えば言うほどネタバレになるからやめよう。
つまり、庵野監督イズムですよね。庵野さん、肉とか魚食えない、なんなら野菜も嫌だって言うぐらいで、多分、生き物(生命)のシステムっていうものに対して気味悪いって思ってるんだと思います。それはわかる気もするんだけど。

引用:IMDb.com

「臭そうな液ばら撒きやがって。」

特に、登場時のアレね・・驚いたなほんと。「こんなのに殺されたくないよー!」っていうのが画面いっぱいにブワーって、擬音ですいません・・「臭そうな液ばら撒きやがって。」っていう。
今回、特撮が、ゴジラはCGなんだけど、ある種実在感・着ぐるみ感込みでの、CGとかミニチュアを色々組み合わせて、手触りとして日本特撮映画の伝統をしっかり感じさせつつ、ジャンル的偏愛は抜きにしてもショボくない絵作り。つまり、いわゆるハリウッド的なリアル方向のCGとも違い、でも着ぐるみ・操演・ミニチュアっていう、伝統感に寄り掛かっただけとも違い、ちょっと見たことがない感触の・・なんていうのかな、映像的快感を醸してて、僕は「完璧なバランスだ」ぐらいに思いましたけどね。
ショボくないのに、ちゃんと日本特撮っぽくて、みたいな。よくぞやったなという風に思います。

タランティーノの最高の意味でのサンプリングセンスに通じる

そのジャンルに明るくない若い観客にも、そのジャンルならではの良さを思い出させる感じ・・タランティーノ的というか、タランティーノの最高の意味でのサンプリングセンスに通じると思う。
要するに、怪獣・特撮映画に思い入れのない若い世代も、「あ、なんかこういう感じなんだ。」っていうのをショボくなくっていう(伝える)。
伊福部昭の古典的名曲の引用のしかたとかもそうですよね。敢えてミックスとかそのままで・・モノラルだったらモノラルのままで出しちゃうみたいな。モノラルじゃないか。ミックスとかの感じをそのままでね、古い音の感じで出すっていう。
この古くて新しい画面の感触であるとか、さっき言ったような、昨今の日本の映画の悪癖であるテンポの悪さとか、登場人物がやたらと感情的に叫んだりとか、そういうのを徹底して排除したクールな作り。
そのクールな作りを徹底するあまり、いわゆるキャラクター描写が非常に、ちょっと異様なまでにミニマムっていうか、思い切ったバランスの作りにはなってる。
ただ、キャラクター描写をしていないかっていうと、そうではないと思うんだけど。

引用:IMDb.com

フレッシュな面白さ

多くの観客にとってフレッシュな面白さを提示することに大成功していると思いますね。
あと、これはまさに"3.11"以降のディザスター映画としての、ひょっとしたら作り手の教示なのかなとも思うんですけど、同じ、怪獣が都市破壊するという場面、僕は大好物なんですけど、例えば『平成ガメラ三部作』だったら、都市破壊が始まる前に、調子こいてる若者とか・・つまり、明らかに作り手が好意を抱いていない若者の描写とかがあるわけですよ。
ガメラ3の渋谷破壊だったら、渋谷でキャッキャやってるいけすかない若者の描写があるとか、「害獣きても関係ないっしょ」とか言ってる調子こいてる若者の描写が先にあってからの、そいつらがドカンとやられるという。
言っちゃえば、作り手自身の現実破壊願望が割とストレートに出てたと思うんですね、昔のディザスタームービーっていうのは。

死の責任を転嫁するような視点みたいなのが一切廃止

今思えばむしろ牧歌的な感覚だなと思うんだけど、今回は、そういう風に"分かってない一般市民"みたいなのに、何であれ死の責任を転嫁するような視点みたいなのが一切廃止されていると思います。
一旦、ゴジラが海に戻っていって、夜が明けたらバーでかかってるようなジャズが流れて、ああいう音楽での外し演出みたいなのはすごい庵野さんっぽいと思うけど、ちょっと一瞬、世の中が若干油断こいてる感じは俯瞰的には出すんだけど、個人に、殺されてしまう何かを負わせるような描写を・・被害者描写を、一瞬だったり間接的にしかしていないっていうのは、そういう物語性を負わせないっていう意味がある。
僕はこの、非物語的なのがむしろ生々しく感じるんですよね。一瞬しか映らないから、その人たちがどうなるか分からないけど、「ただ、この人たちは死んだ。」っていうのがむしろ現実に近い。

絶望的恐怖

そのせいもあるのか、個人的には、恥ずかしい話ですけど・・まあ、ゴジラが火を吹くっていうことそれ自体は当たり前にも思えてしまうような展開が、絶望的恐怖を感じさせるんですけど、東京が焼かれてしまうっていう場面で、非常に恐ろしい美しさに半ば蕩然としながら「ああ、綺麗だ・・恐くて美しい。」って。
初めて、こういう場面で、悲しくて泣いちゃって。
「ああ・・東京が・・。僕の生まれ育った大好きな街が焼かれちゃう・・。」って、ほんとに思って泣いちゃったっていう、初めての経験でございました。個人的にはここまでで1000億点ぐらい出てるんですけど。
さっき言ったように、冒頭から始まって、ゴジラが止まって、東京を核攻撃すると世界が決定してしまうあたりまで、ひたすら"今の日本人が内心恐れている事態"っていうのを徹底的にやっていくと。僕なんかは最後は泣いちゃうぐらい(笑)、徹底的にやられてしまうと。

シン・ゴジラ第三幕

それをやっておいてからの、第3幕。
日本人的に辛いっていう状況が、180度完全に逆転する。
具体的には、逆にひたすら日本人が底力を発揮する、そしてそれが功を奏して、なんなら世界からも一目置かれちゃうという、モロにプロジェクトX的な・・はっきり言ってしまえば、我々の願望です。我々の願望が、限りなくスムーズに成就し、それによってカタルシスをもたらすという、構造的には実は極めて単純ながら、振り切り方が極端なため、やっぱりちょっといびつなつくりを持っていると思います。
ただし、最後の、我々の"こうであってほしい"という願望が成就するところのカタルシスは、例えば現実の原発事故とかのメタファーであるということの意味もあるので、日本人的にも"慎ましくも喜び半分"というバランスに留めてあるため、そこまで浅ましい感じはしないようにはなっていると思います。

『シン・ゴジラ』、今大ヒットの構造

『シン・ゴジラ』、今大ヒットしてますけど、まさにその部分でも・・日本人的に嫌だなと思うところを散々刺激された後に逆転してみせるという、その構造がウケてるっていうところはあると思いますね。
ゴジラを止めるというより、実際は世界の核攻撃を止めるという為の"ヤシオリ作戦"、まさにエヴァの"ヤシマ作戦"的・・ていうか、そもそもエヴァが、庵野監督の大好きな特撮ミニタリズムみたいなものを、アニメでやってみせた作品というかね・・『帰ってきたウルトラマン』とか、僕後から観ましたけど、あれとかもう、特撮ミニタリズム部分が1番力入ってた部分だったりするので、それがグルッと回って実写特撮に帰ってきた、と言うべきっていうね。ルーツに帰ってきたってことだと思うけど、例えば『宇宙大戦争』のマーチに合わせて(曲が流れる)、ああ今流れてますけど、この音像感がやっぱりサンプリング感だと思うんだけど・・これもやっぱ、鉄道マニア。庵野さんらしいですね。
言ってみれば、日本的なるものの、痛いところをグリグリやってきた怪物に、"日本的インフラ"が反撃するっていう(笑)ことですよね。この発想がすごいフレッシュだし、アガるということがあると思います。「"無人在来線爆弾"ってどういうこっちゃ!」ってアガってしまいました。
ここ、実際は確かに死んでる人いっぱいいるんだけど、ここはむしろ全く強調せずひたすらアゲに徹しているということだと思います。冷却剤注入するあの車がね、特に第2波でね、「なんであんなにジャストな位置にあるんだ!」っていうレベルのツッコミはできるはできるんだけど。

「日本やっぱだめか・・。」

それより、「日本やっぱだめか・・。」を散々やっておいて「いや、いける!」っていう、半ば願望として逆転させる構造のエンターテインメントであることからか、例えば、"外国・外国人"というもの全般に対する・・これ構造的にコンプレックスの裏返しだからしようがないんだけど、ちょっとステレオタイプな描き方過ぎないかなっていうのが少し嫌な感じ。なんかこう、日本オタク文化の内向きな目線みたいなもの、そこに鼓舞されるのが、ちょっとどうなんだろうな、という感じがしてしまう。
せめて、第3幕以降、理想化された"人間ナメんな展開"、人間の叡智を結集させるという展開でひたすらアゲていくっていうなら、せっかくアメリカ人研究者チームが合流してるんだから、政治的判断はともかく、研究者チーム同士は、ミニマムな描写でもいいから、わずかでも人間的に分かり合ってるとか・・例えば、核攻撃しかないのかどうかという時に、研究者は「いや、忍びないのだか・・。」とか、ミニマムな描写でも入れることはできたんじゃないかという風に思いますね。
でも基本的に、大量に出てくる日本人俳優・・一種様式的な演技トーンで統一されてるので、イマドキの日本の大型エンターテインメントの中では、ほんとに安心して見通せる作品ですし、日本人観客の無意識を投影する存在としてのゴジラっていうものの、無意識の投影の危うさも込みで必見な作品なのは間違いないと思います。
とにかく、めちゃめちゃ怖いゴジラ・・多分今までのゴジラで1番怖いっていうところを実現できてるだけでも素晴らしいですし、色々切り口あるね。これだけじゃ足りないかもしれませんけどね。

ということで、『シン・ゴジラ』、絶対に必見の一作だと思います。
敢えて言えば、タイトルがまだあんまり好きじゃない(笑)。

<書き起こし終わり>

○○に入る言葉のこたえ

②監督ならでは。エヴァ(エヴァンゲリオン)(人気アニメ)っぽい。"
④「日本人的に嫌なところを刺激されてから逆転」という構造がウケている。

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