不謹慎とは思わずに笑いましょう
2021年1月20日 16時07分
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総合評価:
4.0
足が不自由な男が、仕事を解雇させられ、生活に困った末、
自閉症の妹に売春をさせて生計をたてていく、という話なのですが、
これだけで、この映画、ちょっとヤバイんじゃないの、
という感じになってしまいます。
この筋立てをみたらその先には絶望しか考えられず、
そもそもこんな物語を映画にしていいのだろうか、という気にさえなってしまいます。
また、インディーズ感の強い作品となると、手持ちカメラで臨場感を出す、
そんな作風も想像できてしまいます。
ところがいざフタを開けてみて、とてもしっかりとした作りに驚かされました。
冒頭妹がいなくなり、男が動かない足を引きずって海まで探しにいくシーンでは
テトラポットの間に浮遊している靴を妹のものだと思い、友人である警官に
拾い上げてもらう、というくだりまでを、省略的な手法で一気につないでいきます。
タイトルバック直前の、美しい夕焼けをバックに、
途方にくれている男をとらえるショットでは、画面を横切るカモメにまで
演出をつけているのかと思えるほど、絶妙なタイミングで
フレーム・イン→アウトをしていきます。
そして妹が知らない男といたことが分かり、連れて帰った後風呂に入れ、
状況を問い質すシーンで、
『お兄ちゃん怒るよ!』
というセリフが出てくるのですが、これ、自分は思わず笑ってしまいました。
決して笑う所ではないんです、ないんですが、どこかユーモラスなんですよね。
こんな題材の映画を観て笑うなんて不謹慎過ぎるんじゃないか、と
自問自答もしましたが、やはり自分自身の感情は欺けないのでした。
この映画はネタがヤバイため、作った監督は、現代日本の暗部をあぶりだす、とか、世界的に話題となっている貧困を描く、とか、一見そういう問題提起を
しているように思えますが、そういう小難しい事は脇に置いておいて、
実は単純に面白い映画を作りたい、という、映画人の基本的欲求で作り上げた映画、
という気がしました。
だから、この映画を観て面白いと思ったら、不謹慎とは思わずに笑いましょう。