ディア・ハンター
ペンシルベニア州で育ったマイケル、ニック、スティーヴンは、鹿狩りを楽しむ普通の若者であった。3人は戦況が悪化する一方の北ベトナムへと召集され、前線に放り出された。そこで偶然再会した3人はベトコンの捕虜となり、賭けの対象として実弾入りのロシアンルーレットを強制される。辛くも生き延びた3人だったが、お互い行方がわからないまま時は過ぎる。その後マイケルは、陸軍病院にいたスティーヴンから、ニックがベトナムで生きているという情報を得る。
この映画の監督はマイケル・チミノで、当時37歳で、「サンダーボルト」に次ぐ2本目の作品とは思えない力量を発揮していると思う。 東欧出身のビルモス・ジグモンドの撮影は、小さな鉄鋼町とそれを取り囲む山脈とを落ち着いた色調と雄大な構図で描く一方、ベトナムのジャングルを鮮烈な迫力で捉えていると思う。 音楽のスタンリー・マイアーズは、結婚式のシーンに流れるスラブ音楽は感動的だし、ジョン・ウィリアムスのギター演奏は、この映画を重厚なものにしていると思う。 この映画は、ベトナム戦争をテーマとしているが、アクション本位の戦争映画ではなく、また肩をいからせた反戦映画でもない。 マイケル・チミノ監督は、この映画の製作意図を、「このドラマにおける戦争とは、キャラクターとストーリーを展開させるための手段だ」「ごく平凡に生きてきた若者たちが、ふりかかった戦争という危機に、どう対処したか? だからここに描かれた戦争とは、彼らの勇気と意志力をテストする手段なのだ」と説明している。 しかし、この映画が、ベトナム戦争がアメリカの若者たちに残した、取り返しのつかない傷跡を、深い悔恨をもって見つめていることは疑えないところだ。 もう二度と、かつての青春には戻れない戦争という異常な経験を、叙事詩的な展開の中で、怒りを込めて糾弾しているのが真意であろう。 ペンシルバニア州のクレイトンという平穏な町から、マイケル(ロバート・デ・ニーロ)、ニック(クリストファー・ウォーケン)、スティーブン(ジョン・サベージ)の三人が、ベトナムに出征するまでの数日間、その間にスティーブンの結婚式があり、友人5人打ち揃っての鹿狩りがある。 このクレイトンは、ロシア系の閉鎖的な町で、会話にもロシア語が混じるし、ロシア正教会が町の中心でもある。 ロシア式の結婚式とパーティーが、延々と生活感をこめて描写される。 その後の鹿狩りで、マイケルは、一発のもとに大鹿を射止める。 これに前段の1時間をつかっているが、ロシア系アメリカ人に焦点を当てていることは、ベトナム戦争の背後に、ソ連があったことを考えると、意味深長であり、ニックが米軍病院で、ソ連兵と疑われるところは複雑だ。 マイケルは、「鹿は一発で仕留めるものだ」という自信をもっている「鹿の狩人(原題)」である。 この一発でという言葉は、ロシアン・ルーレットという残酷な賭けを通じて、この映画で大きな意味をもってくる。そして、ここにもロシアが現われる。 中盤は一転して、酸鼻なベトナム戦線に移るが、この転換は衝撃的で、前段と対極的な地獄図である。 ベトコンの捕虜となった三人は、ロシアン・ルーレットの賭けの対象となる。 向かい合ったふたりが、弾丸一発を弾倉に込めたリボルバー拳銃を、交互にこめかみに当てて撃ち合い、その生死に金が賭けられる。 このような賭けが実際に行われたどうかは知らないが、一発に生死を賭けるという命題が、極端な形で示されたものと言っていいだろう。 死地を脱した三人のうち、スティーブンは足を失い、ニックは気が狂い、サイゴンでロシアン・ルーレットの射手となり、救出に来たマイケルの前で倒れる。 前段では予想もできなかった戦争の狂気が、ダイナミックに描かれる。 後段は、再び静かなクレイトンの町。しかし、一人、無事帰還したマイケルには、昔の青春は戻りようがない。 ニックの恋人で、今はマイケルを頼りとするリンダ(メリル・ストリープ)が言う、「今日は暗い日ね」という言葉は、悲しくも虚しい。 そして、マイケルにはもう鹿が撃てないのだ。
よくこの映画を評する意見として「ベトナム戦争ではあのように捕虜にロシアンルーレットを強いるというような事実はなかった」とコメントされることが多い。そのため、戦争映画としてリアリティに欠けるというものである。 私は、この映画をリアリティに基づく戦争映画とはとらえなかった。どちらかといえば「地獄の黙示録」などと同様、舞台設定にベトナム戦争を選んで人間というものを描き出そうとチャレンジした作品だととらえた。 前半、延々とアメリカの田舎町の鉄工所で働く若者たちの群像を描いている。その後、舞台が一変して、ベトナムの戦場での惨状が繰り広げられる。映画の後半で主人公らがまた地元に帰ってくる。何も変わらない日常が待っているのだが、ベトナムから帰ってきた人たちの心は傷つき、以前の暮らしとは違った日々が送られることになる。 戦場での暴力的な体験、この映画では端的にロシアンルーレットに象徴して表現されるのだが、それを経て人間がどう傷つき回復していくのか。そういったことを監督は描きたかったのではないだろうか。 登場人物の中には傷つき、回復せずに別の世界に行ってしまう人も描かれている。人間は環境、時代に翻弄されてしまう存在なのだと感じさせられた。
この映画「ディアハンター」は1978年に公開されたベトナム戦争を扱った映画です。監督はマイケル・チミノ。他の映画はあまりパッとしませんが、この映画はスゴいです。もちろん彼の彼の代表作でもあります。主演はロバート・デニーロ。他、クリストファー・ウォーケン、メリル・ストリープ、ジョン・カザールと今考えれば豪華なキャストです。 上映時間が3時間を超える大作ではありますが、内容はそれほどダレる事はありません。ただ結構重いので、とりあえずどっしりと映画を堪能したい方にはオススメです。ロバート・デニーロも良いのですが、なんと言ってもクリストファー・ウォーケンが演じたニックの文字通り鬼気迫る演技が心に残ります。彼はこの役を演じるために一週間、米とバナナと水で過ごしたというエピソードがあります。その甲斐もあってか、ラスト近くの痩せて無気力なジャンキーを見事に演じていました。彼はこの映画でアカデミー賞助演男優賞を受賞し、その後個性派俳優として、今も活躍するようになりましたが、きっかけはこの「ディアハンター」です。
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