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引用:IMDb.com

1917 命をかけた伝令のライムスター宇多丸さんの解説レビュー

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2021年05月31日更新
僕はやっぱり想像をさらに越えて、すごいレベルの作品をサム・メンデスは出してきたなっていう風に思います。映画館で見る作品として、これはちょっと文句なしにおすすめと言わざるを得ない。(TBSラジオ「アフター6ジャンクション」より)

RHYMESTER宇多丸さんがTBSラジオ「アフター6ジャンクション」(https://www.tbsradio.jp/a6j/)
で、サム・メンデス監督最新作、『1917 命をかけた伝令』のネタバレなし解説レビューを紹介されていましたので書き起こしします。

映画視聴前の前情報として、また、映画を見た後の解説や考察レビューとして是非ご参考ください。

宇多丸さん1917 命をかけた伝令 解説レビューの概要

①メールの量は多め
②その全体の8割が褒め
③木で始まり、木で終わるなど、映画全体の構成が○○○になっている。
④映画館で見る作品として、これはちょっと文句なしにおすすめと言わざるを得ない。

※○○の中に入る文章は、この記事の1番最後で公開しています。
TBSラジオ「アフター6ジャンクション」でラジオ音源を聞いて頂くか、書き起こし全文をご覧頂くか、この記事の1番最後を見て頂く事で判明します。

『1917 命をかけた伝令』

(宇多丸)
さぁここからは、私宇多丸がランダムに決めた最新映画を自腹で鑑賞し評論する週間映画時評ムービーウォッチメン。今夜扱うのは、この作品!『1917 命をかけた伝令』。

『アメリカン・ビューティー』『007 スカイフォール』などのサム・メンデス監督最新作。第一次世界大戦を舞台に、若き2人のイギリス兵が、最前線にいる仲間を救う重要な命令を伝達するため、戦場に身を投じる姿を、全編ワンカット風の映像で描く。戦場を駆け抜ける2人のイギリス兵を演じるのはジョージ・マッケイ、ディーン=チャールズ・チャップマン。ベネディクト・カンバーバッチ、コリン・ファース、マーク・ストロング、だからこの3人は『裏切りのサーカス』のトリオですよね。が脇を固める。撮影は名手ロジャー・ディーキンスが務め、第92回アカデミー賞で撮影賞、録音賞、視覚効果賞を受賞したと。まあ非常に高く評価されている作品でございます。

引用:IMDb.com

『1917 命をかけた伝令』を見た方の感想

ということで、この『1917 命をかけた伝令』もう見たよ、というリスナーの皆様から、感想メール、ウォッチメンからの監視報告をメールで頂いております。ありがとうございます。メールの量は、「多め」。そうですか。やっぱりね。賛否の比率は褒めが8割以上、褒めてる人の主な意見は
「全編ワンカット風の映像もすごいが、それだけじゃない。美しいショットが多く、カメラワークも見事」「ドラマはシンプルだが、役者たちの熱演や音響の迫力に圧倒される。IMAXで見たら没入度が桁違いだった」などがございます。

一方、主な否定的意見は「リアリティーのある戦場の描写とワンカット風の映像という手法がかみ合っておらず、内容に集中できなかった」とか「もっと戦場にいる感じをじっくり味わいたかったのに、話が意外とスピーディーでそれが叶わず残念」などがございました。

『1917 命をかけた伝令』良い感想、評価

代表的なところをご紹介いたしましょう。ラジオネーム「天源寺」さんです。
「驚くべき撮影と編集がもたらす臨場感とリアリティーを持ちながら、『指輪物語』のような神話性を帯びた“生きて帰りし物語”と。『ゲームみたい』という感想があるとしたら、どれだけゲームだったらよかったか、と思わせる戦争の地獄と無情さを観客に訴えます。私はエンドロール中もさめざめと泣いてしまいました」と。

色々なことを書いていただいておりますが、
「スコフィールド(主人公)の感情が見えない、との指摘もありますが、もしこれ以上わかりやすく描いたらウエットすぎると思います。「ご都合主義の話運びだ」という指摘はすでに感情移入してるので気になりませんでした。革新的な技術だけにとどまらず、非常に映画らしい作品でした。印象的な美しい画づくり。反復する所作やシーンは、そのたびに異なった意味を持ちます。オープニングとエンディングの対比には胸をえぐられます。桜も本作の重要なモチーフです。無理に映画館に行かせるためではなく、物語を紡ぐための新しい技術、1日という時間の中で見る成長を遂げる主人公に若手俳優を据え、短いシークエンスで様々な将校を体現する英国の名優たち。私は名作だと思います」という天現寺さんでございます。

引用:IMDb.com

『1917 命をかけた伝令』悪い評価、感想

一方、イマイチだったりという方。というか、まあ良くも悪くもっていう感じかな? 「南向きの鳩」さん。「1917を見てきました。ワンカット映像の良い所と悪い所を知ることができる面白い映画でした。出発する時の塹壕内を進む所で集中してしまいました。溝の中という囲まれたな場所をワンカットで進むことで余計な景色を見ることがありません。ただただ主人公を追いかけることに専念することになりました」という。まぁ色々書いていただいて、で、「ワンカットの演出だからこそ戦場にいる感覚を味わえるシーンが多々あったと思いますと。そして私が混乱したのがワンカットということで、時間経過が分からなくなったことです」。で、色々書いていただいてね、「ワンカットなので見ている自分と同じ時間が流れていると思ったら、映画の中の時間は早く進んでいました。シーンが変われば私の中でもリセットができるのですが、カットが変わらないためリセットができませんでした。自分の感覚と映画内の時間とのズレに違和感がありました。この違和感で後半の多くは没入できなくなってしまいました。自分の時間間隔をうまく処理できていれば素晴らしい作品だったと思います。宇多丸さんはこの時間感覚、どのように感じましたか?」というメールなんですけど。

これ、まさに僕が今日の評の中で、非常にあの大きなポイントとして触れようとしていた部分で、だからまあそれを僕はポジティブに捉えているんですけども、えーと、まぁおっしゃっていることはわかります。その通りだと思います。他にも皆さんね、メールを読ませていただきました。ありがとうございます。

『1917 命をかけた伝令』宇多丸さんの評価

ということで私も、『1917 命をかけた伝令』、先週ガチャが当たる前にまず1回、TOHOシネマズ日比谷でIMAXで見て、その後にもう1回TOHOシネマズ日比谷のIMAXに行って。その後、TOHOシネマズ六本木で、普通の字幕でも見てみました。

あのね、最初に行った時、2週間ぐらい前まではね、本当満席に近いくらいすげえ入ってたのに、今週2回見た時は、どっちもやっぱりかなり空いていて、まあ明らかに新型コロナウイルスの影響かと思いますが。ただ本作、先に言っておきますけども、やっぱりね、圧倒的な映像技術を全身で体感してなんぼ、要はやはり映画館、それもできればIMAXとかドルビーシネマなど現状ベストな上映環境で鑑賞するのがやっぱりそれは望ましいという作品でもあるので。今、逆に入りがマバラっていうこともありますから、もろもろ配慮、考慮の上でぜひぜひ劇場でやってるうちにウォッチしてください!とは一応、先に言っておきたいですね。これはね、やっぱり劇場で見てなんぼでしょう。

引用:IMDb.com

映画技術そのものにスポットが当たる

実際ですね、これだけ”映像技術そのもの”にスポットが当たって、見に行く側もそれを前提に知識として持っている、というケース、これ久しぶりな気がしますね、はい。要は宣伝などでもアピールされている通り、全編ワンカット風、ですね、厳密に言うとね、ワンカット”風”。らしい。本当は要するに別々に撮ったものをつなぎ合わせている訳ですね。たとえば、人物の背中にぐーっとカメラが寄ったりとか通り過ぎる瞬間にカットが変わったり。あるいは、なんか物の横をこう、グーッと通ったりする瞬間とか、あるいは明暗が激しく変わったりして、画面全体が真っ暗、もしくは真っ白になる、あるいは煙がばーっとかかって、画面が真っ白になる、というような瞬間を狙って、つなげている、という。

ひとつながりのワンカット

まあ、ヒッチコックの『ロープ』という1948年の作品が、やっぱりひとつながりのワンカット風の試みをしてるんですけど、『ロープ』に非常に近いやり方でね、つないでる作品ですね。あとぶっちゃけ、はっきり言ってですね、そういう「巧みにつないでる」とかそういうレベルではなく、これは私のカウントですけども、これは「カットを割っている」って言っていいと思うという場所が僕のカウントでは2ヶ所あります。なので、厳密に言えばワンカットではないんだけど、とにかく全体がひとつながりの流れとして作られている映画ですよと。

引用:IMDb.com

全編ワンカット風の映画の過去作

もちろん全編ワンカット、もしくはワンカット風の映画っていうのはこれまでもいくつか、まぁ、いくつかというか色々ろ作られていて。まあソクーロフの『エルミタージュ幻想』とかね、あるいは2014年の『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』とかもそうですし、あるいは白石晃士監督の『ある優しき殺人者の記録』とかね。色々ありますけど。それぞれに狙いとか醸し出す効果っていうのは違うんだけど、この『1917』の場合はやっぱり戦争映画という大がかりな、ものすごく要素が多い撮影でそれをやるという所で、まずはやっぱりわかりやすいレベルで「すごい!」ですよね。やっぱりね。サム・メンデスも、「今まで作ってきた作品の、誇張ではなく50倍、リハーサルした」っていう風に言ってますね。

臨場感

だから動きの・・それでも最後の、クライマックスわーって走ってくる所で、主人公が手前にワーッと駆けてくる所を、横に兵士たちがブワーッと行く所で、ぶつかって倒れちゃったりしてますよね、あれはアクシデントなんだって。で、なのにカットをかけずにそのまま走り続けたから、あの「はっ!」っていう臨場感になっていたりする、ということらしいんですけどもね。

ちなみにあの第一次世界大戦モノ、第一次世界大戦っていうのは当然、技術革新も進んだこともあって、史上最も多くの死者を出した本当に人類が初めて遭遇するまあ超悲惨な近代戦争、であり、近年またですね、色んな作品で題材にされることが増えてきましたよね。まあビデオゲームの『バトルフィールド1』であるとか、あるいは一昨日オープニングでも触れましたけども、ピーター・ジャクソン渾身のドキュメンタリー『彼らは生きていた』。これは本当に、戦争を題材にした映画全体を見渡しても、非常に画期的な素晴らしい作品なので。ぜひこれね、『1917』とセットで見ていただきたいという風に私は思います。このね、『彼らは生きていた』。

引用:IMDb.com

『1917 命をかけた伝令』セットで見て頂きたい、『彼らは生きていた』

でまあとにかく、映画で第一次世界大戦物、しかも、塹壕ですね、先ほどのメールにもありましたけども、塹壕を移動する所をわりと長回しで見せる、っていうと、キューブリックの、スタンリー・キューブリックの1957年の『突撃』っていうね、カーク・ダグラス主演のあれがわりとこう先行作品としてまずは連想するあたりなんですけども。事実、サム・メンデスも、今回のね、『1917』の監督・脚本・製作のサム・メンデスも、当然『突撃』を、この、作るというタイミングで見直したんですって。でも、見直したら、今の感覚で見ると、思ってたよりもその塹壕のショット、当時はすごい長いショット長いショットと言われていたけども、今の感覚で見るとあんま長くねーな、ということに気づいた、なんて事をね、言っていたという事をインターネット・ムービー・データベースで私は読みましたがと。

サム・メンデス

まあ、サム・メンデス。前作にあたる『007 スペクター』、2015年のね。あれのオープニング、アバンタイトルの、「死者の日」を舞台にしたシークエンスで、ワンカット風の長回し、かなり手応えを得た、「これでもっと行けるな。長く行けるな。全編行けるんだな」っていうのを、たぶん『スペクター』のアバンタイトルで手応えを得たというのは間違いがないところだと思います。

ただですね、全編ワンカット風の作品というのは、さっきも言ったようにこれまでもいろいろあったし、狙い、醸し出す効果っていうのはそれぞれあるんだけど、この『1917』に関してはですね、もちろん、ずっとひと続きの流れで主人公たちを追っていくことによる没入感、臨場感という、まあわかりやすく想像がつく範囲の効果というのも、もちろんばっちりあるわけです。それもすごくあるわけですね。なんだけど、特に映画を見終わってみると、そういう即物的な効果とは別にですね、全てがひと連なりの流れであったがゆえに湧き上がってくる、ある感覚というのが、この『1917』という作品最大の特徴なのではないか、という気がしてくると。それは何か、というのはこれからお話ししていくんですけど。

引用:IMDb.com

ネタバレが嫌な方は以降の記述に注意!

今回、公開からわりと時間も経っていますし、あと全編ワンカット風っていうその作り自体もですね、既に多くの方に周知済み、ということもあるので、ちょっと割と具体的にいろんな展開について触れる部分、いつもよりちょっと多めかもしれません、ということで。はい。ちょっとご了承いただきたいっていうか、全く更地で行きたい人はもちろんね、いつも通りね、いつも通りと言いましょうか、まあ20分後ぐらいかな?お会いしましょう、みたいな感じになると思いますが。もしくは後からいろんな形で聞いてくださいね、っていう。こういうことを言うもんじゃないんですけどね。(笑)

冒頭のシーン

まずね、冒頭。一番最初に、画面に映るものですね。お花が咲いている、すごくのどかな野原の向こう側、かなり遠くの方に、木が1本あって。それが画面の中心に映し出されている訳です。サム・メンデス監督、『007 スカイフォール』を僕が評した時、2012年12月16日に評しましたが、その時にも言ったと思いますが、非常にシンメトリックな、左右対称を意識した画づくりと、あとはその左右対称且つ奥行きを感じさせる構図っていうのが、サム・メンデスはすごく多いんですね。それが非常に得意とする監督なんですが。今回もですね、撮影監督のロジャー・ディーキンスと、もう本当に名コンビですね。

引用:IMDb.com

美しくデザインされ尽くしたショット

それに加えて本作では、クリストファー・ノーラン作品などで知られる編集のリー・スミスさん。『ダンケルク』でアカデミー編集賞を取ってますけど、このリー・スミスさんも加えたこの三者だから、ワンカットだからって編集がない訳じゃないんです。実はこれこそ編集が難しい映画でもあって、サム・メンデス得意の構図とその色んなのを実現する撮影のロジャー・ディーキンスと、編集のリー・スミスさん、このトライアングルがまずはすごい、ということかもしれないですけど、とにかくそのサム・メンデス作品らしい、実は美しくデザインされ尽くしたショットっていうのが、しかもひとつながりの動きの流れの中で、次々と提示されていく、っていうことなんですけど。

真ん中に1本、木が映ってる

とにかく最初ね、真ん中に1本、木が映ってるわけです。で、カメラがちょっと引いていくと、左方向に寝転がっているディーン=チャールズ・チャップマン演じるブレイク上等兵と、画面右側で、もうちょっと観客、こっち側、手前寄りに、画面右側で木に寄りかかって寝ているジョージ・マッケイ演じるスコフィールド上等兵、っていうのが次々と映し出されると。これも軽く左右対称、という感じですかね。で、彼らはこの後、そのブレイクの兄も含む多くの兵の命がかかった超重要な指令を伝えるべく戦地を横断していく、というね。まさに戦場版『走れメロス』みたいなことになっていく訳ですけど。

引用:IMDb.com

映画の終わりも同じような景色

ちょっとね、話が一気に飛びますけども、上映時間、約2時間弱後、この映画の本当の終わり、本編の終わりの部分の話にちょっと飛びますけど。そこも野原にポツンと1本立った木、そこに寄りかかるスコフィールド、というところでこの映画、本編は終わる訳ですね。つまり、要は最初とはっきり対になってるエンディングな訳です。さっきのメールもありましたけど。で、これによってどういう感じが醸し出されるかというと、あたかも最初に、画面に最初に映し出された、「あの木」のところまでやってきた、っていうような錯覚を覚える作りな訳です。

意図的に作られたオープニングとエンディング

実際は絶対もっと遠い場所のはずなんですね。だって6時間、8時間かかるっていう、順調に行ってもかかるっていう場所なんで。そんな、あそこの木なわけはないんだけど、間違いなく違う木のはずなんだけど、映画的にはあたかも、最初に映った「あの木」から「この木」で、ここまで移動した、っていう話であるかのように感じさせているように、明らかに意図的に作っているオープニングとエンディングですよね。つまり、実際に移動したはずの距離より、圧縮された空間感覚を最後に改めて感じさせる作りになっている。わざわざ「あれ? こんなに短かったっけ?あれ、そんなはずは?」って感じがするように、違和感を感じさせる作りになっている。

引用:IMDb.com

時間も圧縮されている

同じように、時間もですね、上映時間は119分。本編はもっと短いわけですね。115分ぐらいでしょう?となると、なんだけど、劇中で過ぎてる時間はたぶん、ほぼ丸1日ぐらいですね。1ヶ所、意識がブラックアウトしてるところがあるにしても、それにしても明らかに、劇中で流れたはずの時間より、現実に我々が体験してる上映時間は、圧倒的に短いわけです。つまり、時間も圧縮されているわけですよね。

まとめますけどね。つまり本作『1917』は、一見、全てをひと続きの流れでワンカット風に、つまり全てがリアルタイムで、リアルな空間の広がりと共に見せている、ように作られている分、最初に見えていた「あの木」が、今ここにある「この木」であるようにあえて錯覚させられるそのエンディングまでたどり着いてみると、実は時間も空間も作為的に圧縮された完全に人工的な、現実にはあり得ない時空間を旅してきたんだ、っていうことが浮かび上がってくる。

時間も空間も作為的に圧縮された完全に人工的な、現実にはあり得ない時空間を旅してきたんだ

そして、その一定の時間、空間を通り抜けた前と後とでは、全く同じように見える人と場所でも、何かが既に決定的に変わってしまっている、という。つまり、要は「映画的体験」の本質のようなものが、よりくっきり、した感慨として浮かび上がってくる。実はそういう作品なんですね、この『1917』というのはね。特にこの最後のところで、「ああ、そういう狙いなのか!」っていうことがわかってくるという。

だからもちろん、たとえばですね、コリン・ファース演じる将軍から指令を受けると。あそこでね、キップリングの引用かなんかして、「なんで2人なんですか?」って、それをキップリングの引用かなんかで煙に巻かれるんだけど。

引用:IMDb.com

映画全体が走り出す臨場感

まあ正直俺も、「いや、2人って・・こんな大事なことを伝えるならもうちょっと複数のタマを送れよ?」っていう気もしなくもなくはないけど、まぁ2人を送ると。それでその作戦室から出たところで、そのスコフィールドかね、ちょっと要するに、あまりにもヤバい任務だから、「おい、ちょっと話し合おう」って言うと、ブレイクが間髪、かぶせるように、「なんで?」って言ったところで、トーマス・ニューマンの音楽と共にですね、映画全体がにわかに「走り出す」瞬間。あれの高揚感とかですね。

からの、最初にあの塹壕から出ていく所。その手前のところでは音楽が一旦止まって、ぐっと緊張感が高まった所からの、やはりトーマス・ニューマンがですね、全編に、非常にミニマルなんだけど、的確にその場のテンションを象徴する、説明している音楽で、シーンごとのモードチェンジを伝えていくという。その語りのスマートさも、あっ、すごくスマートだな、っていう感じで惚れ惚れしますし。

驚くべきカメラワーク

もちろんですね、たとえば、ぐーっとまあ基本、左から右へ移動です。混乱をしないように左から右に移動していく中で、水面スレスレをフーッと、波も立てずに横移動していたかと思えば、そのカメラが今度は、丘をグーッと登って、でね、なんか死体みたいなものにグッと寄っていったかと思ったら、今度はこれを越えて、塹壕の中に降りていくっていう。もう本当に驚くべきカメラワークの妙に本当に実際に、アナログに、カメラを手渡しして違う装置にくっつけて、わーっとやったりとか。

あれですね、『狼の死刑宣告』のワンカットのあれもすごくアナログな工夫をしてましたけど、あれが延々続くような感じで撮っているみたいですけどね。

カメラ位置

もちろんそのカメラワークの妙技は絶品そのものですし。あるいはドイツ軍のあの、イギリスのそれとまた全く違った様式の塹壕。プロダクション・デザイナーのデニス・ガスナーさん、あとはやっぱり衣装のジャクリーン・デュランさんなんかも、本当に見事に隙のない仕事をされてると思いますが。そのドイツ軍の塹壕の中、その、まぁ暗い地下室みたいになってるところで、さっきまでものすごく流麗なカメラワーク、「うわっ、すげえ!」って思っていたんですけども、ここだけはなぜか、あえてものすごく無造作なカメラ位置にふっと置かれるわけです。

「本当に目の前でそれが起こっている」感覚

で、そんなカメラ位置に置いて撮っているんですけど、そこに太ったネズミがやってきて、「ああ、ネズミだ。太っているな」なんつって、その太ったネズミのことを目で追っていくと、ちょうど「あっ、罠が仕掛けられている。トラップがある!」っていうのが、その無造作なワンカットの中に捉えられて。というあたりから、見る見るうちに、「あーー!!ちょちょちょちょちょっ!!」っていう、あの要はワンカットならではの、「本当に目の前でそれが起こっている」感覚ですね。ゆえのショックのでかっていうのもこれ、非常に効果的だったりとかもしますし。

あるいは、あの戦闘機同士の空中戦を遠くに見ていて。要するに全然他人事として遠くに見ているうちに、「ん?ん?ん?ん?・・ やばくねやばくねやばくねっ!?」っていうね。どんどんどんどんとこうね、墜落機が近づいてきて、からの、これはですね、実はなかなかに画期的にリアルな描写なんですけど、あの「顔色」の表現ですね。そこまで、やはりこれも持続する同じショットの流れで見せられているからこその迫力、あるいは、目の前で何か決定的な事が起こってしまった、それをこちら側はただなすすべもなく見ているしかない、という、非常に映画的な感覚っていうのに全編が満ちていて、素晴らしいっていう。

『1917』特有の詩的な部分

まあこんなことはね、本当に『1917』を見た人全員が感じることなんで、私が改めて説明することじゃないんですけど。それと同時に、この『1917』を特徴づけてるのは、さっきも言ったように、実はリアルタイムではない、人工的な、作為的な時間や空間のその圧縮によって、もちろんこれもその、映画表現の得意技、本質そのものなわけですけど、要所要所ではっとさせられるような、超現実的に感じられる飛躍っていうのがあって、それこそがこの『1917』特有のちょっと詩的な感じっていうか、ポエチックな感じにつながっているのかなって思います。

例えばですね、軽く丘を越えた先にですね、突如現れる意外な光景。例えば、あっなんでこんなところに?っていうような所に桜の花がわーっと咲き誇っていたりとか、あるいは、人っ子一人いないと思っていたようなその場所が、カメラがパンしたり横移動したり、あるいは足だけの人物がフレームインしてきたりすることで、ギョッとする、「あれ?なんで?実は思ったよりも人がいたのか?」っていう感じがわかったりとか、あるいは、さらに後半に行くにつれてですね、あの照明弾にボーンと浮かび上がる、超巨大な街の廃虚のセット。もうこれ自体が唖然としてしまいますけど。とか、その中にあるあの史上最大級の照明を焚いて作られたという、燃え盛る教会、そのまさに、黙示録的な絵面であるとか。

そして最初は木から始まった、最後も木で終わる。

しかもその、すごく黙示録的な絵面の向こう側から、フーッと黒い影が来たと思ったら、その黒い人影がそのまま発砲してくる。これ、あの『アラビアのロレンス』のね、オマー・シャリフの登場シーンなんかもちょっと連想させるような、こう生々しい怖さであったりとか。あるいはですね、これ、あの、やはり桜の花がわーっと飛び散る中、実はこれ、映画全体の構成もシンメトリックになってると思います。要するに、前半で桜が出てきた、後半でも桜が出てくる。そして前半で塹壕の長いショットから始まった、後半も塹壕。そして最初は木から始まった、最後も木で終わる。

ギリシャ神話のステュクス川

全体もシンメトリックな構成になってると思うんですけど、桜の花がやはり、さっきと同じくわーっと飛び散ってるなと思ったら、その中に大量の死体がたまっているという。これはギリシャ神話のステュクス川っていう、あれをイメージしたという、もう完全にあの世感な光景であるとかですね、どんどんどんどん超現実的なビジョンも増えてくる。で、そんな中で、特に主演のジョージ・マッケイの、これは僕の感じ方なんですけど、なんていうのかな、非常に「絵画的な顔立ち」っていうのかな。絵っぽいですよね。あの人の顔ってね。なんかそれがすごく端正にハマっているなと。

絵画的なニュアンス

元々はあのトム・ホランドがオファーされていて、トム・ホランドがやれば、もっと親しみやすい、感情移入しやすい感じにはなったと思うけど、それとは違う、なにかこう絵画的なニュアンスみたいなのを強めてて、本当に素晴らしかったと思いますし。あと、その彼が冒頭から、胸元に、青いブリキですかね?ブリキの薄いケースに入れて、何かを大事に持っているっていうのがある。それで、劇中で周りの人が「故郷」とか「家族」の話題っていうのを出すたびに、どうやらそれに、故郷とか家族というものに対して複雑な思いを抱いているらしい、そのスコフィールド上等兵がですね、その青いブリキケースをあるかどうか触って確認したり、出してみたりとか、常に家族とか故郷の話が出た時にそれを意識してみせる、というのが示されると。

「ある人たち」との出会い

当然中盤、「ある人たち」との出会いっていうのも、まさにそれの伏線になってますね。で、その中身が何なのか?っていうのは、最後の最後まで観客には明示しないでおいて、その最後の木のところで、初めてその中を見せる、というあの着地。実に上品な語り口だなという風に思ったりします。

という事でですね、まあ”第一次世界大戦の本当のリアル”みたいなね、戦争のリアルみたいな所はですね、正直ですね、さっき言った『彼らは生きていた』っていうね、ピーター・ジャクソン渾身のドキュメンタリーに、大抵の映画はもう負けてしまうだろうというぐらい、だから、まずはこれをね、『彼らは生きていた』そのリアルが感じなければ、そっちをぜひ見ていただいて。

ただ、本作『1917』の方はですね、むしろ、さっきから言ってるように、人工的、仮想的に作り上げられた一定の時空間としての「映画」。あるいは、本作で言えば「まるで119分のような丸1日」っていうのを感じさせる、映画を見終わった観客の脳内のみに残る夢、記憶としての映画。っていう。まあそのやっぱり映画というメディアの本質をくっきり、より分かりやすく浮かび上がらせる一作、というところに最大のキモがあるという風に私は思います。

もちろんでも普通に、地獄巡りライド映画として全編きっちりエンターテイメントとしてもよく考え抜かれてて、面白いし、あと「あの人がこんなところに?」的な、やっぱりそのスターキャメオ出演映画としても何気に愉快だったりとか、っていうところで。

こんな手間のかかるもんを作ったものよ

あとはやっぱり、とにかくよくまぁ、こんな手間のかかるもんを作ったものよ、というその一点だけでももう、入場料分ははるかに超えた中身だと思いますし。とにかく、エンタメ的にもアート的にもレベルが高いという事で。まぁわかっちゃいたけど、僕はやっぱり想像をさらに越えて、すごいレベルの作品をサム・メンデスは出してきたなっていう風に思います。映画館で見る作品として、これはちょっと文句なしにおすすめと言わざるを得ない。もちろん好き嫌いのテンションの差はあると思うけど、これはちょっと評価しないのは難しい1本じゃないでしょうかね。ぜひぜひ劇場でやっているうちにベストな状況でウォッチしてください!

※書き起こし終わり。


○○に入る言葉のこたえ

③木で始まり、木で終わるなど、映画全体の構成がシンメトリックになっている。

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