KCIA 南山の部長たちの町山智浩さんの解説レビュー
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映画評論家の町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』(https://www.tbsradio.jp/tama954/)
で、『KCIA 南山の部長達』のネタバレなし解説を紹介されていましたので書き起こしします。
映画視聴前の前情報として、また、映画を見た後の解説や考察レビューとして是非ご参考ください。
町山さん『KCIA 南山の部長達』解説レビューの概要
①1979年10月26日に起こった、当時の韓国の大統領、朴正煕大統領暗殺事件を描いた映画
②KCIAというのは韓国のCIA。今は存在しないが、軍事政権を支えていた、日本で言う特別高等警察のようなものですね。
③南山(ナムサン)にKCIAの本部があった為、KCIAの事は当時「南山」と言われていた。
④朴正煕さんは朴槿恵元大統領のお父さん
⑤ポリティカル・フィクション。こうだったんじゃないの?みたいな映画ですね。
⑥○○のような展開になっていく。(笑)
⑦イ・ビョンホンは残念ながら脱がない。
※○○の中に入る文章は、この記事の1番最後で公開しています。
TBSラジオたまむすびでラジオ音源を聞いて頂くか、書き起こし全文をご覧頂くか、この記事の1番最後を見て頂く事で判明します。
町山さん『KCIA 南山の部長達』評価とは
(町山智浩)
アメリカはですね、1月20日に大統領がですね、変わります。
(赤江珠緒)
就任式!はい。
(町山智浩)
バイデン大統領の就任式があるんですが、歴史上始まって以来の厳戒態勢になっています。
(赤江珠緒)
やっぱりそうですね〜なんか祝賀ムードじゃなくて、州兵の人もかなり入ってますしね。
アメリカ大統領就任式に、前大統領が出席しないという異例の状態
(町山智浩)
はい。トランプ支持者の人達がですね、SNSで暴力的な行動を示唆するような投稿をしているので、就任式を妨害する可能性があると。で、トランプ大統領は相変わらず就任式には参加しないで、自分だけのなんというかですね、ご苦労さん式みたいなのをやりたいとか言ってるような状況ですから。(笑)
(赤江珠緒)
「参加しない」っていうのもな、すごい・・!
(山里亮太)
今までそんな事なかったんじゃないですか?
(町山智浩)
ないんですよ、そんな事今まで。それが非常に危険なのはトランプ大統領が就任式いないと、それこそ爆撃のような事が起こる可能性があるので。非常に厳戒態勢に入っているという・・まぁアメリカという国自体を大統領が破壊するという危険性が非常にある状況になっているんですね。
(赤江珠緒)
とんでもない事態ですね。
韓国の大統領の映画を紹介します
(町山智浩)
とんでもない事態なんですが。今回紹介する映画は大統領は大統領でもですね、韓国の大統領の話を紹介します。
もうすぐ、今週の末、1月22日から公開される映画で、タイトルはですね『KCIA 南山の部長達』というタイトルなんですが。はい。
KCIAというのは韓国のCIAでですね、もう存在しないんですが、昔あってですね、軍事政権を支えていた・・なんというか日本の特高警察のようなものですね。国内のスパイや反体制団体、ないしは単に野党の政治家とかを非常に弾圧して逮捕して拷問していた組織です。ゲシュタポのようなものですね、ドイツにおける。それがKCIAです。
南山(ナムサン)とは
で、『南山の部長達』(ナムサンのぶちょうたち)っていうのは、「南山」と書いて「ナムサン」って読むんですけれども、これね、「ナンザン」って読んじゃうんですよね。そうするとね、ナンザンの部長たちって言うとなんかなぁ、部長さんがですね、難産で苦しんでいるみたいな感じになるんで。(笑)
(山里亮太)
耳だけで聞くとね。(笑)
(町山智浩)
ウーンウーンとか言ってね、それじゃないですからね。南山っていうのはソウルの中にある丘なんですね。ソウルタワーが立っている所ですけど。そこにKCIAの本部があったんですよ、かつて。で、KCIAって言葉に出すと非常に不吉なので「南山」って言われてたんですね当時。
(赤江珠緒)
あー!なるほど!そういう場所がね、そういう事になる事、ありますよね。日本でも市ヶ谷とかね。なるほど。
(町山智浩)
そうそうそうそう、市ヶ谷とかね。で、部長達っていうのはそこの局長達の事なんですね。で、これは具体的にはですね、1979年10月26日に起こった、当時の韓国の大統領、朴正煕大統領暗殺事件を描いた映画です。
(赤江珠緒)
ふーん。
当時の韓国の大統領、朴正煕大統領暗殺事件を描いた映画
(町山智浩)
僕は子供の頃もう衝撃としてですね、記憶にあるんですけども。朴正煕大統領はですね、1961年にクーデターを起こした軍人なんですね?で軍事政権をずっと18年間維持していまして、韓国の発展も成し遂げたんですけれども、その一方でですね、その軍事政権を維持するために反体制の人達を拉致して拷問するというのを繰り返していた、恐怖政治でもありました。
(赤江珠緒)
へぇ・・朴正煕さんは朴槿恵元大統領のお父さんですよね?
(町山智浩)
お父さんです。お母さんもね、暗殺されてるんですよね。両親ともに暗殺されてるんですが。はい。この暗殺事件が非常に奇妙と言われているのは、その犯人がですね、KCIAの長官だったんです。
で、KCIAは大統領の親衛隊のようなもので、先ほど言ったように大統領のためにですね、どんな汚い事もするというゲシュタポのようなものだったにも関わらず、その長官が、一番の側近なわけですよね?それが大統領を射殺したという事で。一体どうなってるんだ?という風に当時、まぁ世界中をびっくりさせたんですけれども。
キム・ジェギュ(金載圭)というKCIA長官の絞首刑
で、その犯人はですね、キム・ジェギュ(金載圭)というKCIA長官なんですが、その後すぐに軍事体制の中で、軍事政権の中で絞首刑になってしってですね。本当は一体、どうしてそういう事が起こったのか、今も謎なんです。
(山里亮太)
はぁ〜・・はぁはぁはぁはぁ。
(町山智浩)
で、謎なものをですね、映画化するという事なので。(笑)
これはポリティカル・フィクションという形になっていまして、登場人物達はですね、朴正煕以外は実名じゃないです。だから、今も本当の事は分からないんですよ今も。こうだったんじゃないの?みたいな映画ですね。
(赤江珠緒)
ふーん!
常に命を狙われていた
(町山智浩)
どういうような暗殺があったかというと、秘密料亭みたいなのがあったんですね。つまり命を狙われてるから、ご飯を食べるにはそこで食べるしかなかったんですよ。レストランとか行けなかったんですね朴正煕大統領は。有名な話で、床屋さんもですね、彼のヒゲを剃る人は特別な人だったんですよ。
(赤江珠緒)
そんな命を狙われていた。へぇ。
(町山智浩)
そう。ひげ剃りで喉を切られるから。だから本当に昔の王様みたいな、ローマの皇帝みたいな人だったんですけども、朴正煕大統領は。その秘密のレストランというか料亭でご飯を食べてるところを・・そこは要するに長官とか、もう一番の側近しか入れないんですが、そのKCIA長官がいきなり拳銃を抜いて、彼を射殺したんですね。
主人公はKCIA長官のキム・ジェギュ。演じるのはイ・ビョンホンさん
で、この主人公はKCIA長官のキム・ジェギュです。演じるのはイ・ビョンホンさんです。日本でも非常に人気があるハリウッドでも活躍している筋肉ムキムキのイケメンですけども。今回はさすがにKCIA長官なんでね、脱がないですね!(笑)
(山里亮太)
ははははは。
(赤江珠緒)
まぁ、脱ぐシーンはないでしょうね。(笑)
(町山智浩)
脱がないですね!がっかりですね!本当にね!(笑)
(山里亮太)
せっかくのイ・ビョンホンなのに!
イ・ビョンホンの無駄使い?
(町山智浩)
せっかくのイ・ビョンホンをねムダ遣いしてるんですけども。
KCIA長官が脱いだりすると、それどういうストーリーなんだっていうところがあるので。(笑)今回は脱がないで頑張っているんですけど。はい。で、彼の演技派としてのですね、実力を示す事になってます。
で、この映画はその実は朴正煕暗殺の裏にはもう1つの大きな事件が絡んでいたんだ、という映画なんですね。それはですね、「コリアゲート」という事件なんですよ。これは1976年にアメリカで発覚したんですけれども、アメリカ政府の上院とか下院の議員達が、朴正煕政権から莫大なお金の賄賂を受け取っていた事が発覚した事件です。
(赤江珠緒)
ええー・・。
(町山智浩)
はい。というのは、朴正煕大統領はですね、反体制派に対する拷問とかですね、かなり軍事政権として独裁を振るっていたので、アメリカ政府も、これは非常に危険であると。いう事で、そろそろその18年間も独裁を維持しなで、民生化して、民主化して退陣すべきだという政治的圧力をずっとアメリカ政府はかけてたんですね、その当時。で特に大きな事件になったのは1973年に日本で起こった金大中事件なんですよ。
(赤江珠緒)
はい・・!!
1973年に日本で起こった金大中事件
(町山智浩)
これはね、僕は九段に住んでたんで。現場となったグランドパレスホテルのすぐ近くに住んでたので今でも覚えてるんですけども。これはその日本の飯田橋のホテルに来ていた金大中さん。金大中さんは朴正煕大統領の政権に逆らっている野党の民主派の政治家だったんですね。その彼をKCIAがホテルから拉致してですね、船に乗せて日本海を渡る途中に彼を殺して海に捨てようとした事件なんですね。KCIAが。
(赤江珠緒)
この日本国内でそんな事がっていうね。
(町山智浩)
で、それに関しては日本の海上保安庁のヘリコプターがそのKCIAの船をずっと追跡して、暗殺をさせないように監視してたんで金大中さんは助かりました。
ただ一方でそのKCIAのその作戦には日本の政府関係者も参加してるじゃないかっていう事で非常に問題になったんですね。
そういった陰謀を朴正煕政権はやっていたので、それがアメリカで発覚してですね。ただその発覚に関して、もうひとつ事件があって。これいくつもの事件が重なるんですが、それをリークして、議会でそうした賄賂工作をしていたんだという風に証言した人がいるんですよ。それが、その賄賂工作をしていた本人なんですよ。
(赤江珠緒)
えっ?
(町山智浩)
それはKCIAの前長官なんです。
(赤江珠緒)
えーーー!!じゃまた、側近中の側近が?
キム・ヒョンウク前長官
(町山智浩)
側近中の側近なんです。キム・ジェギュの前の長官のキム・ヒョンウク(金炯旭)というKCIA長官が、要するにまぁ賄賂を贈る事に絡んでいたのに、その朴正煕政権の中で彼の居場所がなくなって、長官を辞めさせられたので、出世競争に負けてね。それでこのままだと要するに、一旦クビになると軍事政権の中ではどういう風に処分されるかわからないんですよ。命が危なくなるんです秘密を握っているし彼は。で命の危険を感じて彼はアメリカに亡命したんですよね。キム・ヒョンウク前長官は。
で、そのアメリカで証言をし始めたと。で、これはマズいっていう事になるんですね。朴正煕政権からすると。これはマズい。これでアメリカからの圧力がどんどん高まっていくと。あのキム・ヒョンウクをこれ以上証言できないようにしろ、という。
(赤江珠緒)
うっわ。はいはい。
(町山智浩)
で、どうなったかっていうと、1979年の朴正煕大統領暗殺の直前にキム・ヒョンウク前KCIA長官はパリで行方不明になります。
(赤江珠緒)
えっ?行方不明・・!!
(町山智浩)
行方不明。で、その後も今まで一切、何も出てこないんです。
(赤江珠緒)
かー・・闇中の闇ですね。。
(山里亮太)
このコリアゲートとキム・ヒョンウクさんの事件っていうのは事実の方ですね?
(町山智浩)
事実です。基本的に全部事実なんですよ。ただ、裏で何があったのかっていうのは推測でしかないんですよ。
(山里亮太)
そっか。わからないから情報が何も。
死体も何も出てこないのは・・
(町山智浩)
わからないから。表面に出ている事しかわからないんですよ。で、このキム・ヒョンウクさんがパリで行方不明になったのは、おそらくは、動機が他にはないので、朴正煕大統領の命令によってKCIAのキム・ジェギュ長官が彼を殺したんだろうって言われてるんですよ。で、死体も何も出てこないのは完全に粉砕されてるんだろうと言われてるんですね。
(赤江珠緒)
怖い怖い怖い。
(町山智浩)
はい。で、この映画ではその真相を暴いていくという話なので、非常にアメリカで作られた映画に似てるんですよ。それは、この『たまむすび』でも紹介したんですが、マーティン・スコセッシ監督が監督したですね、『アイリッシュマン』という映画がありまして。
(赤江珠緒)
はい!紹介して頂きましたね!
韓国版『アイリッシュマン』
(町山智浩)
はい。ロバート・デ・ニーロが主演なんですけれども、ジミー・ホッファというアメリカ政府自体をですね、左右していた、ものすごい権力を持った全米トラック運転手組合の、組合長が行方不明になって、今も何も出てきていないんですね。それに関して、実は私が殺したという風に証言した人がロバート・デ・ニーロの役なんですが、その人の人生を描いた映画が『アイリッシュマン』という作品だったんですが、それにすごくよく似てるんです、この映画は。
この行方不明になったキム・ヒョンウク前長官は、それを殺したと言われてるキム・ジェギュ長官の親友だったんですよ。2人は友達だったんです。『アイリッシュマン』もそうでした。ジミー・ホッファを殺したアイリッシュマンも親友だったんですよ、ジミー・ホッファの。で、マフィアの上のボスの上の方からの圧力で仕方なく親友を殺したという告白の映画が『アイリッシュマン』だったんですが、これもそうらしいんですよ、どうも。
(赤江珠緒)
ふーん!
(町山智浩)
これは悲しい話なんですよ・・だからすごく・・。で、しかもこれ、朴正煕大統領とキム・ジェギュとキム・ヒョンウクはまた、友達なんですよ。
(赤江珠緒)
えっ、この3人が?
友達同士の悲しい話
(町山智浩)
そうなんです。それも悲しいんですよ。それも、クーデターを起こす前からの友達なんですよ。特にそのキム・ジェギュと朴正煕は年齢は違うんですが、韓国の士官学校の同期なんですよ。
(赤江珠緒)
あ、そうなんですか。
(町山智浩)
だからね、こういうの本当に・・あのヤクザ映画なんか見ててもそうなんですけど、みんな友達なんですよ、若い頃は。で、その青雲の志を抱いて、「俺達の時代を作るぜ!」って言ってた奴らなんですよ。それが権力を握る事で、互いに殺し合うようになる話なんですよ。
(赤江珠緒)
つら・・。
だんだんと疑心暗鬼になっていく
(町山智浩)
これは嫌〜な話ですね本当にね。でね、またいろんな話がこれあって。朴正煕大統領はだんだん、そのキム・ジェギュを信用しなくなっていくんですよ。というのは、要するにキム・ヒョンウクがアメリカ議会で証言しちゃうかもしれないと。で、どうもうまく行かないわけですよ。それでアメリカからの圧力もすごいかかっていると。アメリカ側は「朴正煕をなんとかして下ろせ」って圧力をキム・ジェギュに対してかけてくるんですよ。で、「もし上手く下ろしたら、あなたを大統領にしてあげてもいい。」みたいな話まで来るんですよ。「裏切れ」と。
いう圧力もかかってきて、色んな物の板挟みになっていくんですね、このKCIA長官は。
で、しかもその頃の韓国国内でですね、各地で民主化運動が激しく起こり始めるんですよ。各地でいろんなデモが起こる訳ですが。それをこれ以上弾圧すると・・軍事的にね、戦車とかを使ったりして、そうすると、どんどん朴正煕大統領の地位が危うくなるって思ってるんですね、キム・ジェギュさんは。拷問とかをしているんですけどもKCIAでね。で、そういう風に言うんですが・・「大統領閣下、これ以上民衆を弾圧すると、我々の地位も危なくなります。」と。それは、アメリカのCIAにそう言われているわけですよ。そう言うと、「なんだ、お前は!」っていう話になっちゃうんですよ。
(赤江珠緒)
だんだんと疑心暗鬼にもなってきて。
警護隊長のチャ・ジチョル(車智澈)
(町山智浩)
疑心暗鬼になってるんです、朴正煕大統領が。「お前なんだ、弱気で!」みたいな話になるんですよ。「私の味方じゃないのか!?私を批判するとは!」みたいな。でそこに、付け入るやつが出てくるんですよ。また。(笑)
それは朴正煕大統領のボディーガード、警護隊長のチャ・ジチョル(車智澈)という人なんですね。で、この人は、「キム・ジェギュKCIA長官てのは弱気だ。民主化の側に付こうとしている。私はそんな事ありません。徹底的に弾圧してみせますね。」みたいな事を言うんですよ。
(山里亮太)
うわ〜〜近づいて来たぁ〜。
「本当は僕は寂しいんだよ。」と言える相手
(町山智浩)
それで「私を信用してください!」とか言うんですよ。で、だんだんその朴正煕とキム・ジェギュの友情に亀裂が生じていくんですよ。で、朴正煕はこういう形でものすごい軍事政権をやって、気に入らないやつもガンガン粛清してるんで、友達が誰もいないんですよ。で、奥さんも殺されてしまったし。1人ぼっちなんですよ。
それで、彼の本音を話せる相手、しかも朴正煕がまだ独裁政権の大統領になる前の、そのただの軍人だった頃から知ってるのはキム・ジェギュだけなんですよ。だから「本当は僕は寂しいんだよ。」って事を言える相手はキム・ジェギュだけなんで、それを聞いてやるというシーンもあってね。それを日本語で話すんですよ2人は。
(山里亮太)
えっ、なんで?
日本語で話すシーンはなぜ?
(町山智浩)
この頃の韓国のその世代の人達は、思春期、少年期を日本語で育ってるんですよね。日本の占領下で育っているんで。僕のおじさんなんかもそうなんですけども、彼らは本当に子供の頃を思い出したり、子供の頃の友達と会った時に日本語でしゃべるんですよ。だって日本語で遊んでたんだもん。だから若い頃の友達は日本語で話すですね、朴正煕大統領は元々、日本軍の軍人だったんですよ。
(赤江珠緒)
そうなんですね。日本の士官学校を出ているんですね。
(町山智浩)
そう。この映画の中では彼が唯一落ち着く部屋というのは畳になっています。それで育ったからなんですね。日本語で、KCIA長官に「あの頃はよかったね。」って言うんですよ。
(赤江珠緒)
あらーー!
シェイクスピアのオセロ
(町山智浩)
それが本音なんですよ。本当の彼の姿を、心の内側を見せられるのは、KCIA長官のキム・ジェギュだけなんですね、朴正煕大統領が。で2人はそんなに、もう世界中で誰も味方がいないこの2人が心が打ち解け合っているのに、その間にチャ・ジチョルという嫌らしい男が入ってきて、キム・ジェギュを排除しようとするんですよ。
というね、そのへんの嫉妬の構造みたいなものが、この映画の中ではセリフの中で出てくるんですけども。これはシェイクスピアの『オセロ』だっていうんですね。オセロが自分の妻、デズデモーナが自分を差し置いて出世した友人キャシオーとできているっていう噂を吹き込まれて疑心暗鬼になっていくっていう話なんですよ。で、このキム・ジェギュさんは朴正煕大統領がそういう風に噂を吹き込まれて、私を排除してるという風に思い込むんですけども、彼自身も『オセロ』のように嫉妬に狂っていくんですよ。
(赤江珠緒)
お互いに。
(町山智浩)
まぁ男同士なんですけどもね。(笑)だから、これね、全く女性が出てこないんですよ、殆ど。もうね、実は奥さんもいたんですけど、キム・ジェギュ長官には。それも全然出てこなくて。もう本当にね、男同士のなんというか、殆どBLみたいな話になってるんですよ。
(赤江珠緒)
えー!(笑)
『ジュリアス・シーザー』
(町山智浩)
どうかしてるなと思いましたけど。(笑)でね、もうひとつね、シェイクスピアが絡んでくるんですけどもね。『ジュリアス・シーザー』というシェイクスピアの劇があるんですよ。それはシーザーが皇帝になろうと、ローマの民主主義を踏みにじって独裁者になろうとするんですよね、軍人のシーザーが。で、それに対してその同じ軍人仲間で親友だったブルータスが、民主主義を守るために、そのシーザーを暗殺しようとする話が『ジュリアス・シーザー』なんですよ。
(赤江珠緒)
はい。「ブルータス、お前もか」っていうね。
(町山智浩)
ブルータスでしょう?だってこのキム・ジェギュさんは親友なんだから。一番の側近で。だからこれね、すごく深いドラマになってますよね。
(赤江珠緒)
へぇ〜〜〜。
(町山智浩)
でね、『ジュリアス・シーザー』の方はその民主主義を守るためにシーザーを・・そのブルータスは暗殺しちゃうんですけれど。その暗殺がきっかけでクーデターが起こって、ローマは結局、民主主義が崩壊して独裁政権になっちゃうんですよ。
(山里亮太)
これは皮肉にも・・。
(町山智浩)
皮肉にも。韓国もそうなんです。朴正煕大統領を暗殺した後、全斗煥がクーデター起こして、さらなる独裁政権になるんですよ。歴史は繰り返すんです、これは。
(赤江珠緒)
本当ですね〜。古今東西、独裁者というのは結局誰も信用できなくなっちゃうんですね。。
歴史は繰り返す
(町山智浩)
信用できないんです。孤独なんですよ。それで自滅してくんですけどもね。というね、非常に深い傑作が、この『KCIA 南山の部長達』です!なんかサラリーマン映画のように聞こえますけど、部長達って言うと。(笑)
今言ったような非常に深い映画なのでぜひご覧ください。
(赤江珠緒)
そういう事なんですね。1日22日から全国ロードショーでございます。いやでもこれ、山ちゃんも私も生まれているぐらいの時代の話とは思えない・・なんかねぇ。。
(山里亮太)
そうそう。それで推測だから、ノンフィクションじゃないとはいえ、結構なんか色んな情報とかを使って、実際本当にそうなんじゃないか、みたいなギリギリのところが・・。
(町山智浩)
そう。そういうね、虚実皮膜の面白さもあります。
(赤江珠緒)
2020年、韓国年間興行収入第1位という記録も出ております。
(町山智浩)
第1位ですよ!
(山里亮太)
という事は、韓国の人は結構これが真実なんじゃないかみたいになっていると・・。
(赤江珠緒)
いるかもしれないねぇ。
(町山智浩)
まぁでも死体も出てこないって真相はわからないんですけどね、永遠にね。
(赤江珠緒)
今日は『KCIA 南山の部長達』を紹介してもらいました。
(町山智浩)
はい。イ・ビョンホンは脱ぎませんが!(笑)
(赤江珠緒)
はははははは。(笑)
(山里亮太)
それは他の作品で確認していただいて・・。(笑)
(赤江珠緒)
町山さん、ありがとうございました!
(町山智浩)
どうもでした。
(山里亮太)
ありしたーっ!
※書き起こし終わり
○○に入る言葉のこたえ
⑥BLのような展開になっていく。(笑)