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引用:IMDb.com

透明人間のライムスター宇多丸さんの解説レビュー

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2021年01月27日更新
一言で言えばむちゃくちゃ面白いし、むちゃくちゃよくできています!例えば美術とか撮影も本当に隙がないレベルの高さで。リー・ワネル監督としても当然、最高傑作ということでしょうし、本当に大ホームラン。ジャンル映画ってか!こういう映画を観る喜び。あと、デカい音響とか怖い音響効果とかも非常に意味がある映画なので、これ絶対に映画館に行った方がいいです!!あと暗闇表現もありますから。絶対映画館で!もう本当に万人に・・あ、怖いのが苦手な人以外ね。万人におすすめです。めっちゃ面白いよ!(TBSラジオ「アフター6ジャンクション」より)

RHYMESTER宇多丸さんがTBSラジオ「アフター6ジャンクション」(https://www.tbsradio.jp/a6j/)
で、『透明人間』のネタバレなし解説レビューを紹介されていましたので書き起こしします。

映画視聴前の前情報として、また、映画を見た後の解説や考察レビューとして是非ご参考ください。

宇多丸さん『透明人間』解説レビューの概要

①宇多丸さん大絶賛!
②映画慣れしている人ほど驚くカメラワークに注目
③主演のエリザベス・モスの演技力も必見!
④透明人間は、宇多丸さんが選ぶ2020年ベスト映画の○○位!

※○○の中に入る文章は、この記事の1番最後で公開しています。
TBSラジオ「アフター6ジャンクション」でラジオ音源を聞いて頂くか、書き起こし全文をご覧頂くか、この記事の1番最後を見て頂く事で判明します。

映画『透明人間』宇多丸さんの評価とは

さあ、ここからは私、宇多丸がランダムに決まった最新映画を自腹で鑑賞し評論する週刊映画時評ムービーウォッチメン。今夜扱うのは、(2020年)7月10日に公開されたこの作品、『透明人間』。

〜音楽〜

ユニバーサル映画のクラシックキャラクター、透明人間を現代的な解釈で新たに映画化。富豪の天才科学者エイドリアンに束縛されていたセシリアは、彼の下から逃亡。それにショックを受けたエイドリアンは自殺してしまう。それ以降、セシリアの周囲で不可解な出来事が次々と起こり始める・・ということです。

主人公のセシリアを演じるのは、テレビドラマ『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』・・あと、映画だとね、あのジョーダン・ピールの『アス』のね、白人家族のね、方なんかをやってましたね、エリザベス・モスさんです。監督・脚本は、『ソウ』シリーズの脚本や製作等を手がけられました、最近は監督業にも進出されてます、リー・ワネルさんです。

ということで、この『透明人間』を見たよ、というね皆さんね、ウォッチメンからの監視報告メールでいただいております。ありがとうございます。メールの量は、「多い」という事でございます。賛否の比率は「褒め」の意見が8割という事で、非常に褒めの方が多かった。

引用:IMDb.com

映画『透明人間』を鑑賞した一般の方の感想

主な褒める意見は、
・手垢のついた作品を、主役となる人物をズラすだけでここまで現代的に蘇らせたアイデアがすごい!
・中盤までのサイコホラーとしての恐怖感もすごいし、終盤の展開も熱い。
・フェミニズム映画としても見応えがある。
・文句なしに面白い。
・エリザベス・モスの演技が見事!

等がございました。

一方、批判的意見としては
・これって『透明人間』じゃなくない?
とか
・大きな音でびっくりさせる演出やめれ!

等がございました。まあそれはね、ちょいちょいホラー映画・・アメリカホラー映画は、特にやるあたりですけどもね。

代表的な『透明人間』を鑑賞した方の意見

代表的なところをご紹介しましょう。ラジオネーム「八王子のはにわ」さん。

「今回の『透明人間』は事前の予想のはるか上をいく怖さと面白さで大満足。当初、色々こうね、『透明人間』をやるということで予想していた範囲があったんだけど、「『たまむすび』で町山さんが、この映画をいわゆるガスライト映画だと紹介されていて驚き、ますます興味が湧いたところでした。」

ガスライト映画

この「ガスライト映画」って、要するに1938年、イングリット・バーグマンの『ガス燈』という映画があって、要するに精神的に主人公が追い詰められていくというかね、精神的に嫌がらせをすることを英語で「Gaslighting」っていうね、動詞化したりとかしている、という話でしたけどね。ガスライト映画。

「実際に鑑賞してみると、この映画は最初から最後まで『そう来るのか!』の連続。例えば冒頭、主人公の親友が家の中で高い脚立がガタつくことに文句を言うシーンがあります。私はすぐに、あぁこの脚立を透明になった悪い奴が倒して、この親友のナイスガイが顎の骨とか折っちゃったら嫌ねぇ等と、短絡的に思ったのですが、実際にはこの脚立、そんな予想のはるか上を行くショック演出で使われていてビックリ!」

そうでしたね〜!!

「『透明人間』という荒唐無稽なお話をこんなにも格調高いスリラーとして見せてくれるなんて本当に嬉しい驚きです。また主人公を演じたエリザベス・モスの繊細な演技とメイクが素晴らしかった。冒頭の怯えた表情、徐々に追い詰められて疲弊していく様子。自分で自分の正気を疑い出し、絶望するサマ。そしていざ覚悟を決めた時の息を呑むような美しさ、最高です。他のキャストも親友の刑事役の俳優さん以外あまりお顔を拝見したことがない方が多く、簡単には各登場人物の善悪が想像しづらいのも効果的でした。」

確かにね・・!はい。

「私の地元の映画館はガラガラでしたが、もっとみんなに見てほしいと切に思った映画でした。何よりもゼウス、ワンコちゃん。ワンコちゃんがちゃんとフォローされていてよかった。ここ、大事です。」

というあたり。

引用:IMDb.com

映画『透明人間』の批判的な意見

一方、ちょっと批判的なメールもご紹介しておこうかな。「ヤーブルス」さん。
「これは『透明人間』・・なのかな?そこに現れないのにそこにいる。もしくはいるように感じることこそが『透明人間』の本質であり、その事によって主人公が壊れていく様子こそが恐怖だと思うのですが、そういう観点からすれば、猜疑心が増幅していく終盤まではかなり『透明人間』していたと思うのですが、主人公以外、観客含めが透明人間を可視化してしまったら、それはもはや透明人間ではなく、ライク・ア・攻殻機動隊な訳で・・。」

要するにね、ちょっと今回の『透明人間』の仕掛けにちょっと関わってきます。

「まさに憑き物が取れてすっきりとした表情で颯爽と去りゆく主人公と対照的に、モヤモヤとした表情で劇場を後にする私なのでした。ただ、最初の邸宅からの脱出ミッションはすごく良かったです。」

というような事を仰っています。

『透明人間』宇多丸さんが鑑賞した解説

ということで!『透明人間』、私もTOHOシネマズ日比谷で2回見てまいりました。平日昼にしてはまあまあ入っている感じでしたかね。

ということで、改めて言っておくならば、大もとは皆さんご存知の通り、H・G・ウェルズが1897年に発表したSF小説ですね。ですがしかし、イメージ的にね、例えばその我々が『透明人間』って言った時に思い浮かべる、サングラス、あと包帯がぐるぐる巻きで、その包帯がスルスルと取れてみたいなああいうイメージはやはり、1933年のユニバーサルの最初の映画版、というのがある訳ですね。

で、これはその後もね、何度となくその映像化、パロディ化、もう元の原作からは離れて、「透明人間」っていうそのアイディアそのものが繰り返し繰り返しいろんなところに使われて、なんていうのかな、もうポップアイコンっていうか、もう一般的存在というか、ね。ていう感じだと思うんですけどね。

透明人間は地味な存在だった

ただですね、実体が見えないだけに、ちょっと地味目な存在。そのね、ユニバーサルモンスターの色んなフランケンシュタインとかドラキュラとかに比べると、ちょい地味ではあると。あとですね、映像テクノロジー、特撮テクノロジーの進化に伴う、本来見えない存在をいかに映画的に「見せる」かという、作品ごとの工夫。実はその透明人間映画っていうのはこれまで、いかに「見せる」か、の部分が実は肝だったわけですね。そこにどうやって「いる」と感じさせる視覚的効果、見えないものを「見せる」という工夫が実はこれまでの、工夫の部分だったんですけど。ご存知2000年のポール・バーホーベン監督、ケヴィン・ベーコン主演版、日本タイトル『インビジブル』で、とりあえずいく所までそれを、要するに「見せる」方向の透明人間物というのは、いく所までいった感もあって、ということで。まぁ個人的にはですね、姿さえ見えなければ人はどこまでもゲス化しうるという、この『インビジブル』で特に際立っていた、この『透明人間』という題材が本質的に持ってるテーマ性。これあの、インターネット普及後の現代にふさわしい、掘り下げ甲斐があるテーマだなという風に、『インビジブル』を見た時にすごく思って、実は2000年、自分自身がインターネットをやりたての時で。

あぁ、なんかインターネットのメタファーみたいだなっていう風に、まぁポール・バーホーベンにそういう意図があったかどうかはちょっとわかんないですけど。なので、そういう意味では現代的なテーマを内包している題材ではあるなぁとは思ったんですが。

引用:IMDb.com

インビジブル

とはいえ『インビジブル』でその若干の打ち止め感があった中でですね、20年間経って、ついに再び作られた本格透明人間映画、ということですね、今回ね。

まあこの間も、デヴィッド・S・ゴイヤーさんが2000年代後半にやろうとして頓挫したりとか。
あとはですね、さっき言ったその、ユニバーサルモンスターの、ユニバース化計画。これ、2010年代半ばぐらいですね。「ダーク・ユニバース」というですね、まぁ身も蓋もない言い方をすれば、マーベル・シネマティック・ユニバースのユニバーサルモンスターズ版みたいな企画。これが立ち上がる中で、「ジョニー・デップが透明人間をやるよ」というアナウンスがされて、その他の主演候補達とビシッとした集合写真まで撮って、割とこう、大掛かりに宣伝されてこうやった訳ですね。

ダーク・ユニバース企画

なんですけど、そのダーク・ユニバース企画第一弾、トム・クルーズ主演の『ザ・マミー/呪われた砂漠の王女』。これ私2017年8月5日に評しました。まぁ例によって書き起こしが残ってますので読んでいただきたいんですけど、とにかくその初っ端の『ザ・マミー』がですね、いろんな意味ではっきり失敗に終わったことでですね、このダーク・ユニバース構想がいきなりチャラになりまして、ユニバーサルもですね、今後はユニバーサルモンスター、もちろんユニバーサルの財産ですから、「ユニバーサルモンスター物はやっぱり、それぞれ単体の作品としてリブートしていくことにしまーす。」なんて風に・・方向転換したわけですね。

で、改めて低予算で大ヒットを連発する現代アメリカホラー映画の間違いなくトッププロデューサー、ジェイソン・ブラムさん。これの仕切りで作られたのが今回の『透明人間』っていう事ですね。もうジェイソン・ブラムが作るんだったらまぁ一定の面白さがあるだろうって感じがするんですけど。

脚本・監督はリー・ワネル

脚本・監督を手がけたのは、『インシディアス』シリーズ等でジェイソン・ブラムとも何度も仕事をしてきたリー・ワネルさん。このリー・ワネルさん、1番有名なのはやっぱり、『ソウ』シリーズですね。『ソウ』シリーズの脚本。あるいは、今言った『インシディアス』シリーズの脚本。あと、俳優さんとしてね、『ソウ』シリーズや『インシディアス』シリーズにも出てたりするっていう感じですけど。

同じくオーストラリア出身の盟友ジェームズ・ワンさんとの仕事が特に有名なリー・ワネルさんなんですけども。で、監督業にも、『インシディアス』の三作目、『インシディアス 序章』というこれ2015年の作品から乗り出していて、特にですね、監督二作目、今回の『透明人間』の前作にあたる、2018年の『アップグレード』という作品があって。これ、蓑和田くんはすごい好きなはずですよ!ディレクターの蓑和田くんに話しかけてますけど。『マトリックス』と『ヴェノム』と『インセプション』と『ターミネーター』とか、色んなその辺のを混ぜたような作品。

腕の中に埋め込んだ銃とか、そういうちょっとなんか『ヴィデオドローム』風というか、クローネングバーグ風なガジェットも楽しい、まぁちょっと変わったSFアクションヒーロー物みたいな感じで。カメラワークとかもね、なかなか面白いことを色々盛り込んでたりして、監督としてもなかなか腕あるじゃん!っていう感じだったんですね、リー・ワネルさんね。

引用:IMDb.com

前作の強烈な悪役も出演している

あと、今回の『透明人間』との繋がりで言うと、主人公が就職しようとするあの建築事務所の社長役。を演じている、あれベネディクト・ハーディさんて言うんですけど、これ、前回のそのね、『アップグレード』では強烈な悪役を演じていて。『アップグレード』を見た人だと、「うわっ!こいつ!(笑)こいつなんか悪い事するんじゃないか?」って思ったりするあたりなんですけどね。

ちなみにですね、このリー・ワネルさん、出世作、『ソウ』シリーズ。あとさっきからも言ってる『アップグレード』。そして今回の『透明人間』と、一貫する実は話でもあるなと思ってて。

要は1から10まで全部計画通り、お見通し系のスーパーサイコパスの話というかね。まあ作家性とまで言っていいかはわからないですけど、はっきり共通するものがあるかなと思います。

現代的、今にふさわしい『透明人間』

という事で、そんなリー・ワネルさんが脚本・監督を手がけた今回の『透明人間』。これまでの『透明人間』作品とは180度アプローチを変えた非常に斬新な、そして大変に現代的、今にふさわしい『透明人間』になっているって事ですね。端的に言ってしまえばですね、透明人間技術を開発し、自ら使う。概ね悪用する科学者というね、従来の作品では中心に据えられていた視点っていうのを完全に廃して。透明人間側の視点をね、完全に廃して100パーセントその透明人間に脅かされる側の立場から描く作品になっていると。
しかもそれはですね、まさに透明人間ならではの脅威、他のモンスターでは表現しえない脅威。つまり、直接的暴力・・もちろん直接的暴力も振るうんですけど、直接的暴力以上に、第三者とか、まぁ社会はですね感知できない、認識すらしていない存在だからこそ、主人公だけが苦しむことになる精神的圧迫。そここそが、これでもかとばかりに、ネチネチネチネチと陰湿に陰湿に描かれていく、という。それが今回の作りなんですね。なので、さっき言ったようにその2000年のポール・バーホーベン『インビジブル』までは、実はいかにその存在を「見せる」か、というのがこの『透明人間』の技術的作品的キモだったわけですよ。

『透明人間』の技術的作品的キモ、「見せる」

例えばその、何かを噴きかけられて姿が見えるとか、ポール・バーホーベンの『インビジブル』だったら、段々徐々に、血管がにょいーんってなったりして、徐々に徐々に姿を現す、もしくは徐々に姿が消えていくという、そういうビジュアル的に、実は「見せる」部分がキモだった今までの透明人間作品に対して、今回は、一見そこには誰もいない、何もないように見える、誰もいないように見えるという、見えないという事そのものを強調した作りになっている。だから実際の所、カメラの前には何も映ってないっていうことが多い訳ですね。はい。

これは、リー・ワネルやジェイソン・ブラムが手がけてきた、特に『インシディアス』のような心霊物・幽霊物の手法がそのまま使えるわけです。特に前半部は殆ど幽霊物と全く同じ怖がらせ方、撮り方をしてると思います。

引用:IMDb.com

アメリカメジャー映画としてはかなりの低予算映画、7億円!

で、それゆえにアメリカメジャー映画としてはかなりの低予算、700万ドルというバジェットで、これを最大限効果的に生かすという作りとも言える訳ですね。実際、要するにその、特に大掛かりな仕掛けとかしなくても、何もないところを映すだけで怖い、みたいな事なんで。

順を追って行きますけども、まず冒頭からですね、この冒頭の所ね印象的に挙げられる方が多いですけども、非常に怖いっていうか、盛り上がりますね。激しく波が打ちつける岸壁がある。そこに浮かび上がるタイトルクレジット。それもなんか、フッと消えちゃう、すぐに消えちゃうのでよく見えないっていうタイトルクレジット。

冒頭の印象的と話題のシーン

でカメラがこう、上に向く、上にティルトすると、モダンなデザインの豪邸が建っている。まぁこの岸壁の所に、波が激しく打ちつける岸壁の脇に建っている豪邸。つまりこれがですね、伝統的なユニバーサルモンスター物とか、怪奇映画ですね、当時は怪奇映画って呼ばれてましたけども、における、例えばその狂った主人、マッドサイエンティストが住まっている孤城。今回の孤城は、それの現代版として、あのグリフィンの家が建っているわけです。あれは孤城な訳です。だから、あそこで全てが始まるし、全てが決着するという、この作りが非常に正しい訳ですけど。

で、孤城が映る、その豪邸が映る。そうしたら、その中にいる、ベッドで夫と寝ているらしい、エリザベス・モス演じる今回の主人公セシリアが映し出される。ちなみに彼女のこのセシリア、愛称が「シー」と言われてますね。愛称が見るという言葉と同じ。これも非常にこう、シンボリックになっている訳ですけど。

冒頭は脱獄物

とにかく彼女がですね、恐ろしく慎重に、つまり、恐ろしく慎重にという事はつまり明らかにひどく怯えながら、その邸宅から脱出していく様子っていうのが、まぁここは本当に脱獄物ですね、脱獄物さながらの緊迫感で描かれていて、だからこの映画、すごくいろんなジャンル映画の面白みがいっぱい入ってるんですけども。ここの冒頭は、脱獄物。

なぜ?っていうところはこの時点ではわからないんですけど、はっきりとは言われませんけど、彼女が恐れているのは、カメラワーク等から明示される通り、はっきりとその、今は寝ているその男を恐れているというのがわかるカメラワークなので、恐らくは彼の、まぁ睡眠薬でも飲ませない限りは解かれることのなかったその支配、間違いなく暴力的であったろうそれから、逃れようとしているんだろうなっていうのは察しがつく訳です。とにかく異常に怯えているので。

引用:IMDb.com

細部で人物像を演出

で、その逃げる過程で、彼が何やらハイテクかつ何か不気味な研究をしていることであるとか、あるいはですね、細かい所で言うと、彼女が着ているパーカー、「CAL POLY」って書いてあるんですけど、あれは要するにカリフォルニア州立工科大学のパーカーですよね。だから、彼女の出身校とするならば、彼女自身も、まぁ後にね、建築家でもあったみたいなことがわかるので、彼女自身も、本当はそれなりのキャリア、学歴があったらしい人、というのがそこで示されたりとか、とにかく、セリフによる説明ではなく、必要な情報が、あくまで視覚的に、あるいは演出によって配されていく手際。全くもって無駄なくシャープで本当に見事、惚れ惚れするようなオープニングですね。で、最初はですね、敢えて音楽を付けず、寄せては返す波の音だけが、異様なこう、ちょっと音量も大きいですし、異様な緊張感、圧迫感を醸すというこの音使いも非常に見事ですし、何よりですね、これ全編に渡って大変効果的に使われる手法なので、ぜひ皆さん、ここ注目していただきたいんですけど、この映画、とにかくカメラの、カメラワークの「パン」、分かりますか?横方向に、左右に振れるカメラワーク。まぁ三脚に立ててカメラを左右に振る、「パン」ですね。カメラがパンするだけで・・というか、カメラがパンするだけだからこそっていう怖さ、演出してくる。

カメラの「パン」

普通、カメラがパンして別の場所にカメラが向いたら、そこには映し出されるべき何かがあったり人がいて当然な訳ですけど、この映画ではですね、何ヶ所かカメラがパンしても、その先には別に特に特筆すべきものがない、ただの空間、あるいはただのガランとしたその場所だったりする。あるいはこの冒頭の場面だと、ただ真っ暗な廊下の奥、主人公がこうやって身支度を静かにしている、カメラがパンする、別に何も映らない。で戻る、みたいな。こういうことをするわけです。

あるいは他の部分。これはパン以外で言いますと、不自然に空間が余ったようなショット構成をしてたりする。あるいは不自然に、ほぼ何も起こっていない所を何故か、何でこの尺で撮る?っていう映し続けるショットがあったりする。というのが要所に置かれている。言うまでもなくこれは、我々観客をですね、そこに本当に何かいるんじゃないか、誰かいるんじゃないか、あるいは、じっと見ていると何か起こるんじゃないか、という風に、不安をかき立てるカメラワーク。

つまり、映画を見慣れている観客ほど、映画の文法に慣れている観客ほど、我々のようなスレた観客ね、「どうせこうなるんでしょう?」ジャンル映画を見に来る人なんか超スレてますよ、「どうせこうなるんでしょ?」って思ってる人ほど、「えっ?」ってなるカメラワークをする。

で、これはまさにですね、1961年の『回転』あたりから始まって、もちろんJホラー経由で、『インシディアス』等アメリカホラーにも定着した、まさにその心霊ホラー表現の、見事な応用と言えますねこれね。

しっかり怖い、ハラハラする

要するに何もない所をじっと映してるだけで何かいるように見えてくる。まさに『回転』の、Jホラーの手法ですね。という事で、まだ何も起こってないうちから、しっかり怖い、ハラハラするこのオープニング。あるキッカケ、ですね。とあるキッカケで警報が盛大に鳴り響き始めてしまって、セシリアがダッシュで逃走を始める。そこでベンジャミン・ウォルフィッシュさんの音楽が満を持してガーンと鳴り響いて、坂を駆け下りていくセシリアさんのショット、シルエット。その行く先には森があって、グッとカメラが上がると遠くの方に街の灯りが見えるという、この流れ。非常になんというか、ゴージャスというか、音楽が鳴り出すことで、「うわっ、これは一級品の映画だ!」って感じがする。なんかちょっとヒッチコック風だなっていう感じもしてたんですけども、シネマトゥデイの監督のインタビューによれば、確かにこれ全編、音楽も含めて、ヒッチコックをすごく意識したと。まぁサンフランシスコが舞台というのも、どうしても『めまい』という物を連想させますしね。

という事で、とにかくこのオープニングからしてですね、これはちょっとただごとじゃない傑作じゃないかっていう予感がビンビンにする。そしてその予感は、最後まできっちり裏切られないどころか、なんなら予想を上回る満足を与えてくれると私、断言したいと思います。

引用:IMDb.com

夫が自殺、莫大な資産を相続

まぁ怪物的な夫の、身体的、精神的支配から何とか脱出したその主人公セシリア。すると夫は、なんと自殺をしてしまったという知らせがやってくる。で、法を犯さない事と心神喪失状態でない事、という、この時点では全く問題がないように思えた条件付きで、莫大な資産を相続する。ここがミソですね。

「お金、あげますよ。ただし、犯罪を犯さない。あと心神喪失じゃないなら・・」ここが嫌がらせのキモになっている訳です。しかし、彼女には夫がまだ生きていて、そこにいるとしか思えない怪現象が次々と起こる。このあたりはさっきから言ってるように心霊ホラー的な演出ですね。怖さ、面白さ。

精神的、物理的な嫌がらせ

なんだけど、やがてその精神的、物理的な嫌がらせ、暴力が、今度は彼女の周囲の人間に振るわれるようになってくる。するとその全てが、他の人にはそこには彼女だけしかいないようにしか見えないので、彼女が生前の彼から受けた色んな行為のPTSDなのかな?っていう感じで、ちょっとおかしくなってしまって、しでかしてしまった事、みたいにされていってしまう、と。

ただしこの時点では、”透明人間化した夫の仕業”という明白な証拠、観客にも示されないので、ひょっとしたら彼女が本当におかしくなってしまっただけなのかも?とも充分に思える余地を残してるあたりがミソで、まぁ、これがいわゆるそのニューロティック・ホラー、神経症的ホラー、まあ『ガス燈』から始まるそのガスライト映画でもいいですけど、後は『反撥』とかね、『ローズマリーの赤ちゃん』でも何でもいいですけど、そういうモードに今度はなっていく。

しかも、そこでの主人公の追い込み方が本当にただ事じゃぁない!これぜひ皆さん、映画館で実際見てください。さっき言ったように、「はっ?」あっけにとられているうちに、もう事態は最低最悪の、もう無理じゃん!っていう事になってくる。もうこれ、自殺でもするしかないんじゃないかっていう感じになってくる。

主演、エリザベス・モスの演技力

で、ここで生きてくるのが、なにしろ主演、エリザベス・モスの演技力で。男達にひどい目にあって憔悴していく女性、という意味で、『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』での主演の実績も当然あってのキャスティングでしょうけども、傍目には正気を失いつつあるようにしか見えない、のも無理ないな、という感じと、しかし彼女にとってはこうなってしまうのも当然だよな、という、その感情移入のバランスを完璧に体現しているし、それこそですね、性被害や不公平、不公正について訴えても、マトモに聞いてもらえないという現実の、まぁ残念ながら普遍的に言える世界の女性の問題っていうのもえぐり出すような、まさに名演を見せてたりする。これジャンル差別さえなければ、本当にアカデミー賞レベルと言っていいんじゃないかという風に思います。

引用:IMDb.com

透明人間を視覚化する瞬間

で、一方、さっきから言ってるようにですね、基本徹底して「見えない」存在である事こそがそのミソな今回の『透明人間』ですけど、やはり当然、あるポイントで、その存在が「本当にそこにいる」ということを視覚化する瞬間、「見せる」瞬間というのがやってくる訳ですね。

そこの、思わず声を上げてしまうような間合いの絶妙さ。やはり心霊ホラー的でもある訳ですが、さすが、本当にいた!って分かる瞬間ね、さすがホラーの手練達という感じですし。あと、そのついに明らかになる透明化の真相。今、『透明人間』をやるなら、なるほどこれだろうなという納得感もある。

今までの透明人間物に僕は感じずにはいらなかった色んな疑問、「寒くない?」とか、そういうのもひと通りクリアするアイディアでもありますし、個人的にはですね、例えば『羊達の沈黙』クライマックスのバッファロー・ビルのあの暗視装置とかにも通じる、「一方的な窃視者」のおぞましさ気持ち悪さ。つまり、自分は見られていない、一方的に何かを見る、いやらしい特に男の視線のキモさっていう、その実像のキモさ、それを強く感じさせる造形だと思いました。

無数の目

つまり「無数の目」っていうことだから、気持ち悪い!って感じがする。無論、自らね、姿や正体を見せないまま弱者を攻撃する邪悪な魂というのは、2000年の『インビジブル』以上に、本当に今日的なテーマですよね。今回は特に本当に実態が見えないまま襲ってくる脅威なので、よりそこはですね、本当に今日的な・・つまりインターネット上に漂う悪意達っていうのも、すごく嫌な感じで重なるテーマ取りだとも思います。そこも見事。

ということで、テーマ的にも本当に見事に現代的にアップデートされた『透明人間』たる本作。心霊ホラーであり、ニューロティックホラー的であり、序盤であれば脱獄物でありというようなその諸段階を経て、ついに訪れるクライマックス。もはや多くは語りませんが、大体このぐらいに落ち着くんだろうなっていう、見切ったつもりの観客の予想の、しっかり斜め上を行くアイディアが用意されていると。本当に最終的な納得度、満足度、半端じゃないので、ぜひ・・タイトルを上げるだけでネタバレになるので伏せますが、女性側の逆襲という意味で僕は、『○○○・○○○』を連想する方も多いかな、という風には思いました。それぐらいの切れ味だということです。

ということで、一言で言えばむちゃくちゃ面白いし、むちゃくちゃよくできています!

見事見事見事!

ジャンル映画としても本当に最高レベルの出来栄えですし、さっきから言っているように、現代フェミニズム的な問題意識、ちゃんと織り込んで、ちゃんとその作品の根幹に入ってますし、それを見事な演技、見事な演出、的確な演出で示して、考え抜かれたアイディアも込められてますし、例えば美術とか撮影も本当に隙がないレベルの高さで。リー・ワネル監督としても当然、最高傑作ということでしょうし、本当に大ホームラン。ジャンル映画ってか!こういう映画を観る喜び。あと、デカい音響とか怖い音響効果とかも非常に意味がある映画なので、これ絶対に映画館に行った方がいいです!!あと暗闇表現もありますから。絶対映画館で!もう本当に万人に・・あ、怖いのが苦手な人以外ね。万人におすすめです。めっちゃ面白いよ!


書き起こし終わり。


○○に入る言葉のこたえ

④透明人間は、宇多丸さんが選ぶ2020年ベスト映画の第一位!

でした!

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