透明人間の町山智浩さんの解説レビュー
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映画評論家の町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』(https://www.tbsradio.jp/tama954/)
で、『透明人間』のネタバレなし解説を紹介されていましたので書き起こしします。
映画視聴前の前情報として、また、映画を見た後の解説や考察レビューとして是非ご参考ください。
町山さん『透明人間』解説レビューの概要
①自殺した彼氏が、自殺した気がしない彼女
②死んだはずの彼氏に電話すると、○○○から音が聞こえるんですよ。
③女性差別を描いている。怖い映画っていうのは何か現実の怖さと結びついているんだなという話。
※○○の中に入る文章は、この記事の1番最後で公開しています。
TBSラジオたまむすびでラジオ音源を聞いて頂くか、書き起こし全文をご覧頂くか、この記事の1番最後を見て頂く事で判明します。
町山さん『透明人間』評価とは
(町山智浩)
これはアメリカで大ヒットした映画で、タイトルが非常にストレートなんですが、『透明人間』っていうタイトルなんです。はい。
これね、主人公はエリザベス・モスという女優さんが演じて、この人は今すごくアメリカで注目されてて、『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』の主役をやってる女優さんですけどもね、はい。
で、この人がですね、まず『透明人間』という映画は、豪華な豪華な!すごい豪華な豪邸で暮らしてるんですよ、まず最初。で、彼氏も、結構ハンサムな彼氏と一緒に寝てるんですけど、その彼女がスッと夜中に、彼氏が寝てるとこで起きて。それでその家を出ていくんですよ。
(山里亮太)
ほう。
彼女が家を逃げ出した理由
(町山智浩)
で、なんで逃げ出したんだろう?っていうのは最初は分からないんですけれども。よく話が展開していくと、この彼氏はものすごくお金持ちの・・なんか科学技術で大金持ちになってるんですけども、特許とかで。
ものすごく奥さん・・彼女をコントロールして、自分のいいなりにさせる男だったんですね?
(赤江珠緒)
あっ。束縛が激しい?
(町山智浩)
ものすごい束縛が激しくて。もう誰とも会わせないとか、ねぇ。なんていうかとにかくコントロールして、それで自分の子供を産ませようとして、で「結婚してくれ」って言うんですけれども、「これじゃこの人といたらもう絶対私もう、ダメになっちゃう」と思って出ていくんですね?
まぁDV夫なんですよ、早い話がね。で脱出するんですけども、脱出したと思ったら翌日に、「彼、自殺したよ」って言われるんですよ。「君が出て行ったから自殺したんだ」っていう風に、弁護士をやっている弟に言われるんですよ。
(赤江珠緒)
うん。
彼氏が死んだような気がしない
(町山智浩)
で、「あっ。死んじゃったのか。」と。「でもまぁ、それぐらい私に執着していたのね。」と思う訳ですけども。でもその後もね、彼氏が死んだような気がしないんですよ、彼女は。なんかね、そこらへんにいるような感じがするんですよ。
自分を見張ってるような気がするんですよ。で、例えばこう、お湯を沸かそうとして、料理を作ろうとしてガスコンロに火つけてちょっと目を離すと、火がいつの間にか火力が上がってて、なんか火事になりそうになっちゃうんですよ。
「私、ちょっと、こんなに火を強くした覚えはないわ。誰がやったのかしら?」みたいに思うんですね。誰もいないんですよ。
(赤江珠緒)
怖いな!はい。
(町山智浩)
ね。あと夜寝てると、気が付かないうちに掛け布団がなくなっているんですよ。
(赤江珠緒)
えっ?それは、蹴ったんじゃなくて?
おかしいな?
(町山智浩)
そう。「蹴ったのかな?」って思うもんですけど。「おかしいな?」と思うんですね。
すると、今度は親しい人から「あんたと絶交する」って言われるんですよ。ね。で「えっ、どうして?」って言うと、「あんた、私に、すごいひどいメール送ってきたじゃないの!」って。”あなたなんか大嫌いで死ねばいいと思っている”なんてすごいメールだったから、もうあんたとは絶交よ!」って言われるんですね?
「そんなメール、送った覚えない!」と思って、家に帰って自分のパソコンを開くと、メールが送られてるんですよね。自分のパソコンから。
(赤江珠緒)
お〜・・。
彼氏の携帯が・・
(町山智浩)
で、「これはおかしい!なんか誰かがやってるの!たぶん彼氏がやってるの!」って言うんですけど、「そんなバカな。君の彼氏、死んだじゃない。自殺したじゃない。お葬式もやったじゃない。」って言われるんですよ。
「おかしいのは君の方で、君はどうかしてるんだよ。君は精神がおかしくなってんだよ。」っていう風に、言われるんですよ。主人公は。
それで「私はおかしくない!」と思うんですね。で、その彼氏の携帯にかけてみるんですよ。ね。死んだはずなんだけど。で、彼氏の携帯にかけると、「ブーッ、ブーッ」って、天井裏から音が聞こえるんですよ。
(山里亮太)
う〜〜〜わっ!!こわっ!!
(赤江珠緒)
天井裏から!?!?怖い!
(町山智浩)
という話が『透明人間』なんですね!はい。
死んだはずの彼氏が、透明になってストーキングをかけてくるんです。ストーカーになっているっていう話なんですよ。
(山里亮太)
ちょっと嫌な方の『ゴースト』みたいな。
(赤江珠緒)
あぁそうね、完全に嫌な方の『ゴースト』だね。
完全に嫌な方のゴースト
(町山智浩)
そうなんですけど。これもう、『透明人間』っていうタイトルだから、今ここまでの展開を話しても全然ネタバレになっていないと思うんですけど、タイトルがわかりやすいから。(笑)
ただ、どうして透明になるか?っていうのは、これも途中で、彼氏のやってる職業ではっきり分かるんですけども。彼氏がやってるのは「光学技術」なんですよ。
(山里亮太)
光学?
(町山智浩)
「光学迷彩」ないしは「クローキング」っていう言葉をご存知ですか?
(山里亮太)
いや、知らないです。
「光学迷彩」「クローキング」
(町山智浩)
これ今ね、すごく開発に向かってる技術でですね。例えばカメレオンとか、あとタコとか、カレイとかって、周りの風景に自分の体を、色を変えて、模様とかをね。擬態して、見えなくなっちゃうじゃないですか。全然見えないでしょ?ねぇ。
あれと同じ技術をなんとか人間に使えないのか?っていう研究がされているんです。で、タコとかって、自分の目で見えない所の風景とか、土の触感とか、地面とかね。そういった物を、体の皮膚の部分が見て、それを真似してるんですよ。だから体全体にちっちゃい目があるような感じで、それが周りを見て、それと同じ色にするんですね、模様とか。
それを服で作ろうっていう研究なんですよ。ね。だからそれを着ると、体中にたくさんカメラと、そっくりの物を映写するシステムが、小さいの一杯付いてるっていうのを想像してください。それを着ると周りから全く見えなくなるんですね、風景に溶け込んで。忍者みたいですけど、昔のね。
(赤江珠緒)
究極に溶け込めると。うん。
軍事技術
(町山智浩)
そうなんです。これ技術、かなりね、研究が進んでいると言われてるんですね。本当かどうかは分からないですけど。(笑)
もし、本当だとしたら発表されないからなんですよ。
(赤江珠緒)(山里亮太)
はーーっ!
(町山智浩)
軍事技術だから。
(山里亮太)
なるほど!
(赤江珠緒)
怖いなー!
(町山智浩)
そう。もし本当に開発が進んでたとしたら、これはもう重要な軍事機密だから、表には出てこないんです。ただ、発表されている物の中では、ひとつは、光をねじ曲げて、前から来る光を後ろ側に回す、ないしは後ろから来る光を前に回す事で透明になるっていうのは最近、発表されたんですね、その技術は。
(赤江珠緒)
光をなんか屈折させて?
発表済の透明人間の技術
(町山智浩)
屈折させて、それはね、シートみたいなもので、それをこう・・その下に隠れると、向こうから目で見ようとすると、その人の体を通り抜けてっちゃうんで、見えなくなっちゃう。というのは、なんか実際にあるらしいんですよ。それはインターネットとかでも実際にテストしてる所が見れるんですけど。
ただこれは、実用価値があまりないって言われてるんですよ。というのは、光が通り抜けていっちゃうわけですよね。それを着てる人は、自分も見えないけど、自分から周りも見えないんですよ。
(赤江珠緒)
あーっ!
(町山智浩)
光が避けていっちゃうから。(笑)そう。だから、他人からは見えないぞ!でも、俺も周りが見えないぞ!っていうね。(笑)
(赤江珠緒)
どうしようもないね、それは確かに。
『透明人間』の彼氏
(町山智浩)
役に立たないって言ってるんですけど。はい。ただ、クローキング技術のさっき言ったちっちゃいカメラみたいな物を全身に付けて、周りの風景に似せるっていうのは、本当に進んでいるらしいんですね。
で、その技術を持っているのがこの『透明人間』の彼氏なんですよ。
(赤江珠緒)
なるほどー!
(山里亮太)
はーー!!っていうことは・・!と。
(町山智浩)
そう。という話です。ただ、これは秘密だから誰も信じてくれない・・!
(赤江珠緒)
わーっ!それは嫌ですね。誰も信じてくれないんだ。
昔からある「お前が頭がおかしいんだ」
(町山智浩)
誰も信じてくれない。「お前が頭がおかしいんだ」って言われるんですよ。で、怖いんですけど。
これもね、すごく昔からある話なんですよ実は。
これね、1930年代に作られた映画で『ガス燈』っていう映画があるんですね。これは44年にリメイクされて、これが大ヒットしたんですけど。これは夫婦で暮らしていて、旦那さんがどうも、おかしな事をしているらしい。その旦那を怪しむんですね、奥さんが。
ところがその旦那の方は「君がおかしいんだよ」と。「あんた、どこか出てったりして夜中に何かにしてんじゃないの?」とか言うんですけど、「それは君の妄想だから。君がおかしいんだよ」って言うんですね。
で、「私おかしくないわ!」って言うと、「だって君のその、持ってる物って、君の物じゃない物が引き出しに入ってるけど、誰かの物を知らない間に、無意識のうちに盗んだりしてるよ。」とか言われるんですよ。
(赤江珠緒)
えっ。
『Gaslight』、「Gaslighting(ガスライティング)」
(町山智浩)
すると確かにそれがあるんですよ。で、「私そんな記憶ないわ。」って。
それに、夜中に部屋にいると、そのガス燈というのが・・その頃はね、電気じゃなくてガスのランプだったんですね。それが付いたり消えたりするんですよ。それを旦那に言うと、「そんな事はないよ。それは君の妄想だから。君は今、精神状態がどんどんおかしくなってるんだよ。」という風に言われて、その奥さんの方も「あぁ、たぶん私の方がおかしいんだ、私病気になっちゃった。」っていう風に、思い込んでいくっていう話なんですね。
(赤江珠緒)
ほーー。。
(町山智浩)
で実はそれは、旦那が実は・・まぁこれ言っちゃうとアレなんですけども・・まぁ殺人犯なんですよ。で、それをごまかす為にその奥さんを言いくるめて、奥さんの方が精神状態がおかしいんだと思い込ませてしまうっていう話がこの『ガス燈』という話なんですよ。でね、これね、英語では『Gaslight』、「Gaslighting(ガスライティング)」っていう動詞になって、現在それが普通に使われている言葉なんですよ。
(赤江珠緒)
えっ?ガス・・?
(町山智浩)
これね、例えばその・・「あんた浮気しているんじゃないの!?」とかって言われたりするじゃないですか、旦那が。すると、その奥さんに、「そんな事ない。君の妄想だよ。君がおかしいんだよ。」って、奥さんの方をおかしい事にしちゃう事をガスライティングって言うんですよ。
(山里亮太)
へぇー!そういう言葉があんの。。
大抵のDV家庭で行われている
(町山智浩)
はい。だからこれね、色んな所で行われていて、1番よくやるのは、DVの夫が奥さんを殴ったりしてる時に、「君が悪いから殴らなきゃなんないんだよ!」って言う人がいるんですよ。
すると奥さんの方もそう思っちゃって、「私が悪いから、この人は私を殴りたくないのに殴ってるんだわ。」ってのを思いこませてしまうっていうね。それもガスライティングっていう言葉なんですけど。これがね、大抵のDV家庭で行われてる訳ですよ。
(赤江珠緒)
あぁそうか。。
(町山智浩)
そう。で、この語源になったのがその『ガス燈』っていう映画なんですけど。この『透明人間』も基本的にはその流れなんですよね。つまり、女の人が何か「これはおかしい!」って言った時に、必ず「君がおかしいんだ」「あなたがおかしいんでしょ」って決め付けられるじゃないですか、セクハラとかでも。それ、逆ないよね?あんまり。男の人が何か言って、「あんたの方がおかしいんだよ」って言うのは、男と女の関係の場合にはあんまりないですよね。女の人の方がおかしいって決め付けられるような事なんですよね。だからずっとよくある事で、この『透明人間』はもし主人公が男だったらこういう風には言われないんですよ。女の人だから警察も信じてくれないんですよ。
(赤江珠緒)
うわぁ。。
(町山智浩)
だからそういう差別みたいなものの怖さとかね、そういったものがちゃんと『透明人間』ってバカバカしい話だけども、実際にあったら怖いよっていう話なんですね。女の人はなかなか信じてもらえないっていうね。
(赤江珠緒)
そうですね。精神的なそこの怖さはね、言っても言っても信じてもらえない、誰にも信じてもらえずに、いやお前の方がおかしいってなってくるのは怖いですね。
(町山智浩)
本当セクハラとかだとかだとよくあるじゃないですか、痴漢とかも。「あんたの方がおかしいよ」ってね。そういう怖さの映画がね、『透明人間』で。やっぱり怖い映画っていうのは何か現実の怖さと結びついているんだなという話です。はい。
(赤江珠緒)
なるほどお!
(町山智浩)
で、『透明人間』の公開は7月10日です。
(赤江珠緒)
という事で今日は『透明人間』を町山さんに紹介してもらいました。町山さん、ありがとうございました。
※書き起こし終わり
○○に入る言葉のこたえ
②死んだはずの彼氏に電話すると、天井裏から音が聞こえるんですよ。
でした!