ミナリの町山智浩さんの解説レビュー
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映画評論家の町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』(https://www.tbsradio.jp/tama954/)
で、『ミナリ』のネタバレなし解説を紹介されていましたので書き起こしします。
映画視聴前の前情報として、また、映画を見た後の解説や考察レビューとして是非ご参考ください。
町山さん『ミナリ』解説レビューの概要
①アカデミー賞、作品賞最有力候補
②韓国語のセリフが殆どであるにも関わらず、完全なアメリカ映画。出演者はみんな韓国系アメリカ人。
③『ミナリ』というタイトルの意味は、韓国語で「○○」の事。
④監督のリー・アイザック・チョンさんの子供の頃の体験を映画にしたもの。
⑤韓国のおばあちゃんが良い味を出している。日本の樹木希林さんのイメージ。
⑥1980年代の韓国系移民の話にも関わらず、見たアメリカの人達が、みんな「これは私達の物語だ。」と言う。
⑦『フェアウェル』というおばあちゃんの話として似た映画も日本で公開中。
⑧『フェアウェル』は、がん宣告を本人にせずに、おばあちゃんとのお別れ会を「結婚式」というテイで行うコメディ映画。
⑨『ミナリ』のテーマ曲やストーリーは『北の国から』に似ていて日本人でも親しみを感じる。
※○○の中に入る文章は、この記事の1番最後で公開しています。
TBSラジオたまむすびでラジオ音源を聞いて頂くか、書き起こし全文をご覧頂くか、この記事の1番最後を見て頂く事で判明します。
『ミナリ』町山さん解説
(町山智浩)
今日も、もうすぐアカデミー賞・・アカデミー賞は2ヶ月延びてるんですけれども、4月にはやりますので。僕また解説をさせてもらいますが。
で、アカデミー賞最有力候補の作品を今日は紹介します!
(山里亮太)
おー!
(赤江珠緒)
ん!
(町山智浩)
『ミナリ』というタイトルの映画です。
(赤江珠緒)
はい。
アカデミー賞最有力候補
(町山智浩)
これですね、そのアカデミー賞の前の前哨戦と言われるゴールデングローブ賞でもですね、外国語映画賞にノミネートされて。アカデミー賞では作品賞なんですよ。
(赤江珠緒)
おぉ〜。
(山里亮太)
外国語映画賞?はい。
(町山智浩)
なぜかと言うと、これ、セリフの殆どが・・この『ミナリ』という映画は、セリフの半分以上は韓国語なんですよ。
(赤江珠緒)
あぁ、それで!へぇ〜。
韓国語セリフが殆どであるにも関わらず、完全なアメリカ映画
(町山智浩)
で、ゴールデングローブ賞には外国語映画賞っていう部門があるんで、そっちにノミネートをされているんです。ところがアカデミー賞はそれをなくしたんですよ。つまり、外国語かどうかって事は関係ないから国際映画賞みたいな形で、外国「の」映画に対しての賞はあるんですけど、これは韓国語セリフが殆どであるにも関わらず、完全なアメリカ映画なんです。出てくる人達はみんな韓国系アメリカ人なんですよ。
(山里亮太)
あ、はぁ〜なるほど。
(町山智浩)
でお金も全部アメリカで出してて。だからアメリカ映画としてアカデミー賞で作品賞にノミネートされているんですね。
(赤江珠緒)
あ〜そういう事ね、はい。
リー・アイザック・チョン監督は『君の名は。』ハリウッド映画化も担当していて注目されている
(町山智浩)
ただ前は『パラサイト』が完全な韓国映画で、アカデミー作品賞を取ったんで、もう関係ないんですけどね、国籍とか、言葉とかは。で、まずこの監督はですね、韓国系アメリカ人のリー・アイザック・チョンという人で、現在50歳ぐらいですけども、この人が非常に注目されているのは、日本のアニメのハリウッド映画化の『君の名は。』。君の名はのハリウッド実写版の監督をする事になっているんですよ。で、非常に注目されています。
で、この『ミナリ』というタイトルの意味はですね、これは韓国語で「セリ」の事です。
(赤江珠緒)
セリ・・。あのセリ、ナズナのセリ?
ミナリはセリという意味
(町山智浩)
そうそうそうそう。仙台の方では、鍋に入れたりする・・セリ鍋にする。セリの事で、それがタイトルになってるんですけど。これはこの監督のリー・アイザック・チョンさんの子供の頃・・6歳ぐらいの頃に本当にあった事だけを集めて、彼がその・・思い出したんですよ、子供の頃に何があったのか。
で、それを映画にしたものなんですね。
で、彼はアメリカで生まれたんですけれども、6歳ぐらいの時に、1980年代です。アーカンソーというアメリカのまぁ、ド田舎にですね、引っ越したんですね、一家で。で、それはお父さんがずっと貯めてきた貯金でアーカンソーに土地を買って、そこで農業を始めようとしたんですよ。
(赤江珠緒)
ほーう。うん。
(町山智浩)
で、これはものすごく韓国系の人にとっては珍しい事です。
(赤江珠緒)
あ、そうなんですか?
アメリカのド田舎に移住した韓国系アメリカ人家族
(町山智浩)
まず、韓国系の人のアメリカ移民というのは、1975年ぐらいから始まるんですね。
で、1965年までね、アジア人はアメリカに移民しちゃいけなかったんですよ。
(赤江珠緒)
えっ、65年までダメだったの?はい。
(町山智浩)
65年以前は差別があって、「アジア人はアメリカに入れるな」っていう法律があったんですね。でも65年からOKになって、70年代に入ってから韓国系の人とか中国、まぁ台湾系の人ですね、がアメリカに入ってくるんですけども、その時に入ってきた人達は大抵、中国系の人達はレストランですね。はい。そして韓国系の人達はね、コンビニエンスストア、酒屋さんなんですよ。
(赤江珠緒)
へぇ〜〜〜。うん。
治安の悪い場所で商売を営む
(町山智浩)
あの〜、非常に治安の悪い所ってありますよね?アメリカって。そういう所にある酒屋さんを、ものすごく安く売ってるんで、その権利を買って、その経営をしたんですよ韓国系の人達が。
あの、日本もそうなんですけど、酒屋の認可権ってその住所に下りるんですよ。
(赤江珠緒)
あ、そう・・へぇーー!
(町山智浩)
はい。あ、ご存知なかったですか?
(赤江珠緒)
知らなかったです。はい。
(町山智浩)
だからその店の権利を買うと、酒屋としての権利を買う事になるんですよ。日本もそうですよ、だから酒屋さんがコンビニエンスストアになるんですよ。
(山里亮太)
なるほど!酒取り扱えるから、そのまま。はーなるほど。
髪の毛も売る
(町山智浩)
はい。それで24時間、その非常に治安の悪い所で、家族で交代でですね、働いたんですよ韓国系の人達って。
それが殆どだったんですね。あと洗濯屋さんとかですね、カツラ屋さん。
あのね、韓国系の人達は、カツラにいい髪の毛を手に入れる事ができるんですね。切るから、女の人が。で、それを黒人の人に売るんですよ。黒人の女性はカツラ多いんですよ、直毛が好きなんで。アレを買うんですね。
で、そういう商売が多かったんですけども、このお父さんは、なぜか農業をやりたいと思って、アーカンソーっていう所に行くんですよ。それで、その時の子供だったのが、5、6歳だった、この監督自身で、この映画の中ではデヴィッドっていう名前になってるんですね。で、彼らは近くの養鶏場で・・オスメスの鑑定士ってわかります?雛の。。
(山里亮太)
はい!すごく見るやつ、パパパッと。
おばあちゃんが持ってきたオモチャとは
(町山智浩)
そうです。お股の所を見て。それを最低賃金の労働でやりながら、その農業を始めようとするという話なんですけども。ただ、その夫婦共働きで子供の面倒が見れないからって事で、韓国からおばあちゃんを呼ぶんです。そしたら、そのおばあちゃんがまぁ、変なおばあちゃんだったんですよ。その・・おもちゃ買ってくじゃないですか、孫に。持ってきたおもちゃが花札なんですよ。
(赤江珠緒)
ははは。(笑)ほう。
(町山智浩)
あの日本の花札ですよ。だから日本統治時代に育った人達は花札を知ってるんですね。
(赤江珠緒)
あぁそうなんだ!
不良なおばあちゃん
(町山智浩)
そう。で、子供に博打を教えたりね。まぁなんていうかね、不良なおばあちゃんなんですよ、ちょっと。そう。
で最初は子供達すごく嫌がるんですよね。おばあちゃんの事を「韓国臭い」とか言ったりするんですよ。おばあちゃん独特の匂いってあるじゃないですか。それをね、「韓国の匂いがする」とか言ってね嫌ったりして。あと、おばあちゃんは漢方薬を飲ませるんですよ。子供にね。それでこの子ね、心臓が弱いんですよ、男の子、デヴィッドくんは。だからまぁ苦い薬を飲ませるので、このおばあちゃんは嫌われるんですけど。ただこのおばあちゃんがすっごくいい感じのおばあちゃんで、おばあちゃんっぽくないんですよ。ゴチャゴチャとうるさい事を言わないで。
(赤江珠緒)
まぁいきなり花札を与えるぐらいですからね。(笑)
(町山智浩)
そうそうそうそう。あのね、すごく日本の樹木希林さんの役柄に似てるんですよね。
(赤江珠緒)
あー・・!ああいうイメージね、なるほど!
樹木希林さん
(町山智浩)
そう。樹木希林さんが昔ね、TBSのドラマに出てる時にね、すごいなぁと思って。僕は子供の頃見てたんですよ。
おばあちゃんの役をやっていたんですよ、彼女40歳ぐらいだったのに。で、ちっちゃい男の子のちんちんをこう、指で弾きながら、「これ何だか知ってる?」って言うんですよ。すると男の子は「おしっこするもの」って言うんですよ。すると樹木希林さんはね、「もっといい事に使うから、あとで知ると嬉しいよ。」って言うんですよ。(笑)
(赤江珠緒)
あっはっはっはっはっは!(笑)
(山里亮太)
真っ先に出てくるシーンがそれなんですね!?(笑)
(町山智浩)
そう!そういうおばあちゃんだったですよね。樹木希林さんはね。そういう茶目っ気のあるおばあちゃんで、すごいかわいいんですけど。
(山里亮太)
シャレの効いた・・。
(赤江珠緒)
何を言ってるんだ?っていう。(笑)
農業に向かない土地を掴まされた
(町山智浩)
そうそうそう。そのおばあちゃんの思い出を描いた映画なんですけれども。ただ、恐ろしい事にその土地はですね、まったく農業に向かない土地だったんですよ。せっかく買った土地が。元々、アーカンソーってあんまり農業に向いてない所なんですよね。石灰質で。地面が。
で、自分で井戸を掘ったりもするんですけど、井戸はすぐに枯れちゃうし。で、地元の人がその土地でおはらいをしてるんですよ。「なんでおはらいをしてるの?」って聞くと「いや、ちょっとここで人が死んだんで・・」みたいな話をするんですよ。「えっなんで?」って聞いていくと「いやー、君もあんな土地で農業やろうなんて大したもんだね!前そこでやろうとした奴、失敗して死んだよ!」とか言うんですよ。(笑)
(山里亮太)
えっ?
(赤江珠緒)
うわ〜・・。
(町山智浩)
「うわ〜っ!」みたいな・・要するに、まぁ掴まされちゃったんですよ。
(赤江珠緒)
そういう事ですよね〜。
『ミナリ』アメリカでものすごい人気
(町山智浩)
とんでもないブツを。で、お父さんはどんどんその土地にお金をつぎ込んで、崩壊していくんですね。で、お母さんとも仲が悪くなってって、で、その夫婦仲が悪いからストレスでこのデヴィッドくんはオネショしちゃうし・・。っていうね、どんどん困った事態になってくって話がこの『ミナリ』なんですけど。これがね、今アメリカでものすごい人気なんですよ、この映画が。
(山里亮太)
なんでなんだろう?
(町山智浩)
そう。で、これは何かっていうと、この監督自身の個人的な話で、しかも1980年代の韓国系移民の話にも関わらず、見たアメリカの人達が、みんな「これは私達の物語だ。」って言うんですよ。
それはね、元々この監督のリー・アイザック・チョンさんがですね、元々映画化しようとしたのが別の話で。1918年に書かれた小説の『マイ・アントニーア』という小説を映画化しようと思ってたんですよ。
マイ・アントニーア
それは日本で最近、翻訳が出たんですけど、ウィラ・キャザーという当時の作家が書いたもので、その作家がネブラスカっていう荒野で開拓してたんですね、その一家が。自分の子供の頃の思い出を書いた話が『マイ・アントニーア』っていう本だったんですよ。
それはチェコから来た少女アントニーアが、まぁ騙されて農業に向かない土地を掴まされて、親が。で、ドロドロになって苦労しながら井戸を掘ったりするっていう話だったんですよ。で、それを映画化したいと思って、やってたら、その・・途中で気がついたですよ、この原作者のウィラ・キャザーっていう人は「絶対に私の小説を映画化するな。」っていう遺言を残して死んでたんですよ。
(赤江珠緒)
ええっ!?!?そうなの?(笑)ダメなんですか?(笑)
(町山智浩)
そう。(笑)そう。で、「うわっ!」って思ってこのアイザック・チョンさんは、「これ、映画化できねえじゃん!」と思ったんですけど、よく考えたら・・「僕も全くこういう育ち方をした。」と思ったんですよ。おんなじだと。じゃぁ、僕の話を映画化すればいいんだ!って、自分の思い出をつづっていったそうです。
(赤江珠緒)
なるほど。じゃあ多くのアメリカ人の人にとってはDNA的にこれ、デジャヴ感があるんですね。
身近に感じるストーリー
(町山智浩)
そうなんです!誰もが移民なので。だから「うちのおばあちゃんの話だよ!」みたいな感じで、まぁ非常に・・その、韓国語だからとか、韓国人の話だからって事じゃなくてアメリカ人に広く見られているんですね。
でね、またそのおばあちゃんがすごくいいんですけれども、今ちょうどね、似たような映画が日本で公開されてるんですけども。あのね、『フェアウェル』っていう映画が日本でちょうど今公開中なんですね。これがね、やっぱり同じぐらい・・1980年代にアメリカに移民した中国系の家族の話なんですよ。これもね、ルル・ワンさんという監督に実際にあった事を映画化したものなんですよね、『フェアウェル』っていう映画は。で、これもおばあちゃんの話なんですよ。
(赤江珠緒)
うんうん。
『フェアウェル』という映画について
(町山智浩)
でね、このルル・ワンさんという方は監督になりたいからニューヨークで色々、まぁアート系の事をして頑張っていたんですけど、上手くいかなくて。で、どうしよう、と思ってた所で、そのおばあちゃんがガンになっちゃったっていう連絡が来るんですね。
で、おばあちゃんは中国にいるんですね、本土に。で、どうしたのって聞いたら・・ただ日本とか中国、たぶん韓国もそうなんですけど。ガンで死を宣告された時に、本人に宣告しないんですよね。
(山里亮太)
へー・・!
本人にがん宣告をしない
(町山智浩)
アメリカとかはするんですよ。でも、日本ではだいたい家族には言うんですけど、本人に言わない場合が多いんですよ。お医者さんがね。それで、家族はみんな知ってんですけど、そのおばあちゃんだけはガンでもうすぐ亡くなるって事を知らないので。ただ、亡くなる前に一族みんなに会わせてあげたいんだっていう事になって。
だから一緒の生前葬みたいな事をしたいんだけど、本人には知らせないようにしなきゃならないと。『フェアウェル』っていうタイトルは「さようなら」ですけど、まぁ「お別れ」の事なんですね。
で、どうしよう?っていう事で、「じゃあ、孫の誰かが結婚するっていう事をでっち上げて、その結婚式をそこでするからっていう事で一族を集めましょう。」っていう話になるんですよ。で、そこで集まるのが、また世界中から来てるんですよね。
(赤江珠緒)
へー!一族があちこちに行ってるんですね?
(町山智浩)
そうそう、日本にもいて。そのおばあちゃんのために実際は集まってて、全然めでたくないんですけど、結婚式って偽装してるから、めでたいふりをしなきゃならないんですよ。
(山里亮太)
なるほどう!
めでたいフリをしなくてはいけないコメディ映画
(町山智浩)
そう。だからこれコメディなんですけど、『フェアウェル』っていうのは。だから主人公のそのオークワフィナっていうアメリカの女性コメディアンの人がね、ラッパーでね、このオークワフィナという人は元々ラッパーとしてのデビュー曲が『私のおマ○コ』っていうひどいタイトルだったんですけど。(笑)大問題になった人なんですけど、この映画ではすごくいい役をやっていてですね、おばあちゃんの前だから明るくしてなきゃいけないのに、おばあちゃんが死んじゃうと思うと悲しくて泣いちゃうっていう。それで戦いながらですね、おばあちゃんのために秘密の生前葬をするっていうコメディなんですけど。この映画もね、アメリカで大ヒットしたんですよ。
(山里亮太)
これも?
(町山智浩)
これも。だから、「移民の物語」という事で、誰にとっても同じ事なんで。顔がイタリア系だとかスペイン系とかじゃなくて、アジア系になっているだけなんだっていう考え方なんですよね。
で、もう本当にアメリカの中に居付いてきて、どうやって暮らしていくかみたいな問題と、”おばあちゃん”というのは、その彼ら、移民の人達の故郷を象徴するものなんですよ。
(赤江珠緒)
うーん!
おばあちゃんは故郷を象徴する存在
(町山智浩)
だから、韓国から来たおばあちゃんが「韓国の匂いがする」っていう風に孫が言うのは非常に象徴的なんですよね。自分が全然知らない祖国、ほとんどよくわからない祖国、子供の頃からアメリカで育ったから、その文化とか色んな物を持ってきてくれる人がおばあちゃんなんですよ。
(赤江珠緒)
あぁそういう事か、なるほど。
(町山智浩)
で、そのおばあちゃんを好きになるっていう事は、自分の祖国との繋がりができるって事で、象徴的なんですね、すごく。しかも、そのおばあちゃんがどっちもですね、すごくかわいくて茶目っ気があって。で、この『ミナリ』の方のおばあちゃんの役をやってる人は、この人だけは韓国から来た韓国の女優さんなんですけれども、アカデミー助演女優賞を取るだろうって言われてるんですよ。ユン・ヨジョンさんっていう人なんですけども。この人ね1960年代からずっと韓国映画界にいる、まさに樹木希林さんと同じ超ベテランなんですよ。
(赤江珠緒)
あぁそうですか!
実は『ミナリ』は日本の人も見たらすごく感動する話
(町山智浩)
だから、樹木希林さんだって(アカデミー助演女優賞)取れたのにね!って思うんですけど。でね、このね、『ミナリ』。じゃぁそれがアメリカ人にとっての話だったら、日本人にとってはこれを見る意味があるのだろうかちおうね、気になる人もいると思うんですよ。これはアメリカの移民国家にとっての大事な物語である事はわかるけど、じゃぁ日本人には関係ないんじゃないの?と思う人もいると思うんですけど、それが実はすごく日本の人も見たらね、感動する話なんですよ。
(赤江珠緒)
ほう!
(町山智浩)
ちょっと今、音楽を聞いてほしいんですが、いいですか?
〜音楽〜
(町山智浩)
はい。この歌はですね、この『ミナリ』の主題歌で、主演のお母さん役の女優さんが歌ってる歌なんですけども。今のメロディーをちょっと頭に入れておいてもらえます?韓国語で歌ってるんですけど。で、もう1曲別の曲をこれから聞きますんで、比べてみてください。じゃぁ次の曲をお願いします。
〜音楽〜
(赤江珠緒)
あーっ!
(山里亮太)
なるほどね。はいはいはいはい。
(赤江珠緒)
うんうん、『北の国から』だ。
(町山智浩)
はい。そっくりなんですよ。
『ミナリ』と『北の国から』の共通点
(赤江珠緒)
なるほど。なんかどこか落ち着くのにちょっと切なさもあるみたいなね、懐かしいような不思議な曲ですもんね。
(町山智浩)
そうなんです。これね、なぜそっくりなのか分からないんですけど、監督はアメリカで生まれてアメリカに育ってるんで、『北の国から』を見てると思えないんですけど、リー・アイザック・チョンさんは。
でも、話がそっくりなんですよ。
(赤江珠緒)
えーっ!
田中邦衛さん演じる五郎にそっくり
(町山智浩)
このお父さんはイケメンなんですけど、『ミナリ』の方はね、37歳のスティーヴン・ユァンっていう『ウォーキング・デッド』に出てたイケメンの人がやってるんですが、ただ無理矢理、あまり農地に向かない所で苦労しながら、自然と戦いながらですね、なんとか農業をしようとする所が五郎さんにそっくりなんですよ、田中邦衛さんに。で、子供もほら、男の子と女の子でしょう?純と蛍みたいでしょう?
(山里亮太)
そうだ!純と蛍だ!
(赤江珠緒)
うんうん!
(町山智浩)
ね、どっちもね。で、井戸を一生懸命、自分で掘ったりする所も・・そう、そっくりなんですよ!で、ある種、意固地になってやろうとするじゃないですか。それで何度も失敗するじゃないですか。家が焼けちゃったりね。もう起こるエピソードがどれもいちいちよく似てるんです。『北の国から』に。
(赤江珠緒)
あぁそういう事か、もうグッと身近なものになりましたね、確かに。
(山里亮太)
確かに、見たさが倍増したな!
人種とか民族とか国家を超えた、家族の物語
(町山智浩)
そうなんです。だからこれはやっぱり人種とか民族とか国家を超えた、家族の物語なんですよ。
(赤江珠緒)
そういう事ですね。じゃぁ全人類に刺さる物があるんですね、これはね。
(町山智浩)
刺さる物があるんですよ。でね、その『ミナリ』っていうタイトルはセリなんですけど、これね、このおばあちゃんが韓国から持ってきたセリの種をね、川べりの所に撒くんですよ。で、それは本当にあった事らしいんですよね。それで農業がうまくいかないっていう事で苦労するんだけど、セリだけは簡単に育つんですよ。
(赤江珠緒)
へーー!
ただ、セリだけは育ってた
(町山智浩)
これね、この監督のリー・アイザック・チョンさんはその後ですね、ここで育った後、イェール大学、名門に行ってですね、それで映画監督になって、うまくいかなくて色々苦労して。それで結局、自分の育った農地に戻るんですね、1回。で、もう既にそこでは農業の跡も何もなくなってるんですよ、自分が育った跡も。ただ、セリだけは育ってたそうです。
(赤江珠緒)
セリは根付いているんだ!
(町山智浩)
セリは根付いてるそうなんですよ。だからこの『ミナリ』っていうタイトル、「セリ」っていうのは色んな物の象徴なんですね。別の土地に根付いた韓国系移民の象徴でもあるし、おばあちゃんのたくましさや優しさの象徴でもあるし。
(赤江珠緒)
わ〜〜すごいハートフルなね、映画な感じがしてきますね。うん。
(町山智浩)
そういう非常に感動的な映画が『ミナリ』で、世界中の人達の涙を絞っていくと。はい。で、3月19日から日本公開ですね。
(赤江珠緒)
はい。『ミナリ』は3月19日から全国ロードショー。『フェアウェル』は下高井戸シネマほかで現在公開中でございます。どっちもこれ、通じるものがありましたね。
(山里亮太)
いやちょっと・・見たいですね!
(赤江珠緒)
ありがとうございます。
(町山智浩)
いや〜〜もうね・・。
(赤江珠緒)
うん・・(シーンとなる)あ、どうぞどうぞ、町山さん!
(町山智浩)
あ、いいですよ、はい。今日はうっかりした事を言ってしまったので今反省している所です。(笑)
(赤江珠緒)
え〜、そうですか?
(町山智浩)
すいませんでした!いや、別に何も言ってないですよ!(笑)はい!(笑)という事で!(笑)
(赤江珠緒)
今日は『ミナリ』と『フェアウェル』、2本紹介していただきました!町山さん、ありがとうございました!
(山里亮太)
ありしたーっ!
(町山智浩)
どもでした!はい!(笑)
※書き起こし終わり
○○に入る言葉のこたえ
③『ミナリ』というタイトルの意味は、韓国語で「セリ」の事。