年少日記の町山智浩さんの解説レビュー
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映画評論家の町山智浩さんがTBSラジオ『こねくと』(https://www.tbsradio.jp/cnt/)で、『年少日記』のネタバレなし解説を紹介されていましたので書き起こしします。
映画視聴前の前情報として、また、映画を見た後の解説や考察レビューとして是非ご参考ください。
町山さん『年少日記』解説レビューの概要
①高校が舞台の香港映画
②ゴミ箱から生徒が書いた遺書のようなものが見つかり、誰が書いたか、防がなければというストーリー
③子供の頃に心に傷を持ってしまった人や子育て中の人に是非見てもらいたい
④父親の○○に対する接し方の違い
⑤子供の頃に父親に否定されてしまうとずっと消えない
※○○の中に入る文章は、この記事の1番最後で公開しています。
TBSラジオたまむすびでラジオ音源を聞いて頂くか、書き起こし全文をご覧頂くか、この記事の1番最後を見て頂く事で判明します。
今年ベストクラスの香港映画『年少日記』町山さんの評価とは
(町山智浩)今日ご紹介する映画が、これは香港映画なんですが『年少日記』という映画をご紹介します。6月6日から日本公開です。
〜音楽〜
(町山智浩)はい。学校のチャイムみたいな音楽でしたけど、この映画のサントラなんですが学校の話です。最初。高校が舞台で、そこでまぁチェンという高校の先生がいるんですね。で、この学校で大きな騒ぎが起こってしまって。ゴミ箱からですね、遺書のような、紙に書いた切れっぱしが見つかるんですよ。で、それは生徒の1人が書いたらしくて、どうも死ぬ覚悟であるらしいと。いう事で、これは誰が書いたんだって事で、それを防がなきゃというとこから話が始まるんですね。
ゴミ箱から生徒が書いた遺書のようなものが見つかり、誰が書いたか、防がなければというストーリー
(町山智浩)で、その主人公の高校の先生、チェンさんがそのノートの切れっぱしの一節を読んで衝撃を受けるんですね。そこには、僕はどうでもいい存在なんだと。僕なんかいなくなっても誰もすぐに忘れちゃうんだって事が書いてあったんですよ。で、その言葉は彼が見た事がある、子供時代の日記の言葉だったんですね。で、そこからそのチェン先生の子供時代が回想されて、現在のチェン先生と子供時代の思い出が行ったり来たりするという映画なんですが。だから『年少日記』というタイトルなんですね。年少日記というのは”子供の頃の日記”というタイトルなんですが。
これものすごい切ない辛い映画なんですけど、非常に優れていて。で、香港で大ヒットして色んな映画賞取ってるんですよ。これはもう全ての子供の頃に心に傷を持ってしまった人とか、あとお子さん育ててる人は是非、見ていただきたい映画です。で、このチェン先生のお父さんっていうのは、ものすごい苦労をして、貧乏から勉強してですね、苦学して弁護士として成功してるんですね。だから子供達に、俺はこんなに頑張ったんだからお前らも頑張れと。過酷な勉強しろという圧力をかけてくるお父さんなんですよ。で、もうこれはお前達のためなんだからと。私は君達を愛してるから頑張れって言うんですよ。ところが兄弟が2人いて、その弁護士さんのね、息子さん2人いて。で、弟の方はすごい父親の期待に応えて、で、ピアノをやるんですけどね英才教育でね。ピアノも上手で、発表会とかでもまぁ見事に弾きこなすんですね弟は。で今、後ろでちょっと流れているこの映画のサントラは、練習曲としてですね弟がやるドビュッシーの『夢』という曲があるんですが、ちょっとそれかけてもらえますか。
父親の兄弟に対する接し方の違い
(町山智浩)はいこれ、有名なね、曲ですけど。まぁ左手と右手の練習でやるんですけども、でお兄さんも同じ曲やるんですがお兄さん全くマスターできないんですよ。で、その事を思い出すんですね、そのチェン先生は。で、このお兄ちゃんの方は非常に心優しいお兄さんなんですけど勉強もちょっとできなくて。体罰をこの父親がするんですよ。しかもお母さんを、お前の教育が悪いからこんなにできねんだ!って言って、お母さんもぶっちゃうんですよ。
まぁそういうちょっと強烈な話なんですけども。これはね、この監督自身が、大学の時の友達が、自分は必要のない人間だという事を書いていて。何言ってんだろと思っていたらその友達が自殺しちゃったと。いう実際にあった体験が元になっていて。しかもこのチェン先生を演じるロー・ジャンイップさんという俳優さんは、この監督とこの自殺した人とも友達だったんですよ。
(石山蓮華)共通のその、亡くなってしまったお友達がいるという事ですね。
(町山智浩)そうなんです。で、それは後からそのわかったのは、お父さんが。その亡くなった方は映画の道に進みたかったらしいんですよ。でもお父さんはもっとちゃんとした仕事しろと。言って、それでうまくいかなかったという事があるんですけども。でこの映画のね・・あれ?兄弟っているとやっぱり兄弟と親の関係ってすごく難しいじゃないですか。親はどうしてもその完全に両方とも平等に愛してるつもりでも、まぁ完全に平等に愛してるかどうかっていうのは子供はわからないですよね。
(でか美ちゃん)そうですよね。比べられる瞬間っていうのはやっぱりどうしてもあると思いますからね。
(町山智浩)ね。うちは1人っ子だったんでそういうのはなかったんですけど、うちの娘はね。でもなんか思わず、お兄ちゃんはできたのにとか言っちゃったりするんだろうなと思うんですよ。それは大変なプレッシャーをかけていくんで、子供達に。これは香港ですごく子供の自殺が多くて。社会問題になっていて。日本もそうですけど韓国も多いですね。インドも多いんですよ。でやっぱりね、競争社会なんですよ学校の。学歴社会で、どこもね。で、まぁ勉強しろって事で、できないと親がなんでこんななんだみたいな事でね、子供に失望したりするんで、まぁ非常にそのアジア全般の大きな問題になってますけど。ただね、この映画を見てて僕がすごく思い出したのは、トランプ大統領なんですよ。
(でか美ちゃん)ほう。ここで繋がってくるんだ。
(町山智浩)はい。で、『アプレンティス ドナルド・トランプの創り方』ってご覧になりました?

(石山蓮華)見ました。確かに兄弟の映画でもありましたね。親子とね。
(町山智浩)ねぇ。あれトランプ大統領の伝記映画で、前半でまだ若い頃のトランプがお父さんと一緒に暮らしてる食卓とかが出てくるんですけど。トランプのお父さんは、やっぱりこの映画の『年少日記』のお父さんと同じで、本当に貧乏からのし上がった人なんですよ。トランプのおじいさんがお父さんが12歳ぐらいの時に亡くなっちゃって。学校も行かないで家を直して売るという事から不動産業者になっていったのがトランプのお父さんなんですね。だからその、お前らも俺の後を継げと。俺みたいに頑張れって言ってて、プレッシャーをかけてたんですけど。トランプのお兄さん長男は、そういうのに興味なくて、飛行機のパイロットになりたかったんですね。ところがそのトランプのお父さんは、パイロットなんて自動車の運転手とかと同じゃねぇえかってよくわからない。(笑)ひどい事を言って。
(でか美ちゃん)同じだとして何がダメなんだろう?
(町山智浩)何が悪いのかわからないんですけど。(笑)
(石山蓮華)どちらも立派な仕事ですよね。
(町山智浩)ねぇ。それで辞めさせてね、無理やり不動産の仕事をやらせたらお兄さんやっぱり合わなくて。で、どんどんアルコール中毒になってもうほとんど緩慢な自殺のようにして亡くなっていったんですね。トランプのお兄さんは。ところがトランプの方はもう本当にお父さんの言う通り一生懸命不動産で頑張って、お父さんに褒められたい褒められたいってトランプは頑張った訳ですよ。で、不動産王になってトランプタワーまで建てるんですけど、このトランプのお父さんって絶対にトランプを褒めなかったんですね。
(でか美ちゃん)そういうトラウマじゃないけど、いかにしてトランプという人間になっていったのかっていうのがわかる映画でしたもんね、アプレンティスは。
(町山智浩)ねぇ。であれでもう不動産になったのにお父さん、なんか悔しいのかなんかわかんないですけど、トランプを褒めないんですよね。
(でか美ちゃん)ね。なんなんだろう、なんか素直じゃないと言えば聞こえがいいですけど。
(石山蓮華)でもその素直じゃなさに色々なそのマチズムだったりとか、成金主義だったりとか色んなものが絡んで絡んで、もうどうしようもないように、映画を見ている限りでは感じましたね。
(町山智浩)そうですよね。で、あの時のお父さんに褒めてもらえると思ったら褒めてもらえなかった時のトランプの悲しそうな顔があの『アプレンティス』という映画の中では非常に切ないんですけど、マイケル・スティールさんが言った、子供の頃に傷ついたために成長できなかったっていうのは、その事なんですよ。
(でか美ちゃん)あぁなるほど、ずっと10歳の子だと。
(町山智浩)はい。だからいくら成功してもそれこそ億万長者になってアメリカの大統領になって世界に君臨するという状態になっても、やっぱり不安で。なんというか劣等感が拭えなくて。で、子供の頃にね父親に否定されちゃうと、ずーっとそれが欠落感として世界一の金持ちになっても消えないんですね。だからこれは本当に辛い事なんで、本当に気をつけた方がいいと思うのと。ただこれは結構人類の普遍的な問題で。もう1つ僕がこの映画を見て思ったのはですね、『エデンの東』という映画があるんですよ。
これ、ちょっと『エデンの東』の音楽をかけてもらえますか?
(町山智浩)はい。もうこの音楽を聴いただけで僕は泣いちゃうんですけどね。『エデンの東』っていうのは、まぁご覧になった事はありますか?
(石山蓮華)私はないんです。
(でか美ちゃん)ないんですよ。大名作なのに。
(石山蓮華)なんか名作を全然通ってないなと。
(町山智浩)これはね、本当にね切ない映画なんですが1955年の映画なんですけども、これでジェームス・ディーンという俳優さんがね、世界的なスターになったんですけども。これはね、ジェームス・ディーンが演じるキャルという青年が父親から愛されない息子なんですよ。で一生懸命お父さんに愛されようとして色々頑張るんですけど、父はキャルの兄弟の方だけをかわいがるんですね。で、なんとかして愛されたいと思ってお金儲けをするんですよ。で、お金儲けをして、ものすごい莫大なお金をお父さんにプレゼントするんですけど、その辺トランプとそっくりなんですよ。それなのにお父さんは、こんなお金なんかいらない、汚い相場で儲けたお金なんかいらないって言って、そのジェームス・ディーンを否定するんですね。だからね、なぜトランプと『エデンの東』はこんなに似てるんだって思うぐらいですけど。
(でか美ちゃん)でもなんか大きなテーマとしてあるんでしょうね。この、色んな家庭環境の方が現実にはいらっしゃるし、どんな環境でも強くまっすぐ生活されてる方もいるから、一概には言えないけど、親と兄弟で比べられたとか愛情を感じられなかったっていう大きいテーマは長年描かれてるんですね。
(町山智浩)長年描かれてます、1万年ぐらい描かれてると思うのは、『エデンの東』というタイトルは、”エデン”ていうのは旧約聖書・創世記に出てくる人類最初の夫婦であるそのアダムとイブが暮らしていた楽園なんですよ。『エデンの東』というのはそこから追放された人々、つまり我々人類すべてが住む世界を意味しています。で、アダムとイブはエデンから追放された後ですね、2人の息子を産むんですけども。これがカインとアベルという兄弟なんですよ。で、2人とも神様に捧げ物をするんですね。色んな贈り物を。ところが、そのアベルの方だけ神様が喜ぶんですよ。で、カインが一生懸命色んなものを捧げても喜ばないんですよ。海幸山幸っていう日本の神話もありますけども、たぶんこれは全世界的にある話なんですよこういう話は。で、カインはアベルに嫉妬して殺してしまうんですね。それは人類最初の殺人と言われてるんですけれども。それが『エデンの東』という、現代の話なんですね、現代て言うか、戦争の頃の話ですね。ただその旧約聖書のカインとアベルを元にして書かれたのがこの『エデンの東』という話で、もう本当に人類の普遍的なテーマなんですけど。
でもね、お父さんはやっぱり本当は両方とも愛してるんですよ。ただ愛し方が違うんですね。兄と弟に対して。やっぱりもっと頑張ってほしいっていう気持ちで余計な事を言っちゃうんですよ。
(石山蓮華)そうですよね。言われた方はねぇ。
(町山智浩)言われた方は愛されてないと思っちゃうんですよ。これはね、前に『BETTER MAN/ベター・マン』という映画を紹介したんですけど。

あれはロビー・ウィリアムスというイギリスの大ミュージシャンで10万人ぐらいのコンサートを満員にするような人なんですけど、あの人もお父さんに子供の頃、お前なんか大した事ないって言われたから、10万人の客を集めても、でも自分は大した事ないんだっていう気持ちが消えないんですよ。だから本当にね、気を付けた方がいいですよみんな。
(でか美ちゃん)幼少期に受けた言葉というか。
(町山智浩)もう絶対に消えないんで、軽い気持ちで言っても消えないんです。だからこれは大変な事でね。うちは親父はね、本当にクズ野郎でしたけど、勝手でめちゃくちゃだしそこら中に女は作るわ家に金入れないわね。ただね、1つだけ良かったのは僕を否定しなかったんです。それだけでよかった。全然。もうあとは最悪ですよもう。家めちゃくちゃですけど。そこら中子供いますけど。でもね、お前はダメだとは言われなかった。だからね、どんな・・ここに出てくるお父さん達はみんないいお父さんですよ。この『年少日記』のお父さんなんて超エリート弁護士ですけど。でもね、息子にダメだって言っちゃった段階でもう最悪の父親なんですよ。
(でか美ちゃん)憶えてますよね。子供は。言われた事とかは。
子供は親に言われた事を覚えている
(石山蓮華)で、やっぱりその父親になる人も、何かどこか自分自身の子供の傷っていうのを引きずってる・・。
(町山智浩)そう。そうなんです。最近、ネットフリックスで話題になってる『アドレセンス』っていうのがありまして。あれも探っていくと実は父親の父親に問題があったって話なんですよ。もうみんなそうなんで。連鎖するんですね。だからまぁ本当にね、色々深い問題が『年少日記』には描かれてるんですが。大変な大逆転が最後に控えてますこの映画は。
(でか美ちゃん)ハッピーだといいな。(笑)
(町山智浩)ちょっと言えませんが、もうすごい感動でした。もちろん救いもあります。ちょっとアッ!と驚くような映画なんで、もう言えませんが。俺もよく切り抜けてこの話をしたぜと思って自分を褒めてます。(笑)
(でか美ちゃん)題材が題材なんでね。ご覧になる時はちょっとこうね、自分の心の調子とかと相談した方がいいかもですけど、でも見たいですね。
(町山智浩)そうですね。本当にいい映画なんで、今年のベストクラスの映画なんで是非、この『年少日記』ご覧いただきたいと思います。
※書き起こし終わり
○○に入る言葉のこたえ
④父親の兄弟に対する接し方の違い