コレクティブ 国家の嘘の町山智浩さんの解説レビュー
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映画評論家の町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』(https://www.tbsradio.jp/tama954/)で、『コレクティブ』のネタバレなし解説を紹介されていましたので書き起こしします。
映画視聴前の前情報として、また、映画を見た後の解説や考察レビューとして是非ご参考ください。
町山さん『コレクティブ』解説レビューの概要
①『コレクティブ』はルーマニアにあったライブハウスの名前
②2015年10月30日に火災があり、現場で64人が亡くなった
③防音材の不備、収容人数オーバー等の問題で営業許可を出していた市などに非難が殺到
④ルーマニア全土に広がる大抗議デモに
⑤軽い火傷だった人達がルーマニアの病院で次々と○○○○
⑥治療に使われた抗菌剤が10倍に薄められている事が判明する
⑦薄められた抗菌剤を国が認可していた
⑧ダン・コンドリアが経営する抗菌剤の製薬会社は大儲け、その金が政府関係者などに配布される
⑨ダン・コンドリアが証言する直前に○○○
※○○の中に入る文章は、この記事の1番最後で公開しています。
TBSラジオたまむすびでラジオ音源を聞いて頂くか、書き起こし全文をご覧頂くか、この記事の1番最後を見て頂く事で判明します。
(町山智浩)
今日ご紹介する映画は・・もうすぐアカデミー賞なんですよ、あと2週間後か。アカデミー賞なんで、アカデミー賞でですねダブルノミネートされている映画をご紹介します。
アカデミー賞の国際映画部門と、長編ドキュメンタリー部門の2部門にノミネートされているルーマニアのドキュメンタリー映画なんですよ。『コレクティブ(COLLECTIVE)』っていうタイトルなんですが、これ日本では秋公開ですね。
『コレクティブ』というのはね、ルーマニアの首都ブカレストにあった、ライブハウスの名前なんですよ。
(赤江珠緒)
へぇ〜。
『コレクティブ』はルーマニアにあったライブハウスの名前
(町山智浩)
で、そこが2015年10月30日に火災になった、という事件が元になってる映画、ドキュメンタリーです。
で、そこでね、ハードコアのバンド。ハードコアっていうのはなんと言うんだろうな、メタルとかパンクでも1番強烈なやつですね、「オエエエエエ!」ってやつですね、そのバンドが演奏をしてたんですけど、Goodbye to Gravityっていうね、「重力にさよなら」っていうバンド名なんですよ。安全地帯みたいなんですけど(笑)。
(山里亮太)
悲しみにさよなら(笑)。
(町山智浩)
それが歌を歌ってたらっですね、彼らが・・電気花火ってわかります?スパークラーって言うんですけども、パチパチパチッて・・なんて言うのかな。
(赤江珠緒)
火花?
(町山智浩)
そう!火花が散るやつ。ケーキとかに差すやつね。あれをね、演出でやってたら、それが天井に燃え移って、一気にそのライブハウスが焼け落ちちゃったんですよ。
(赤江珠緒)
うわ・・。
ライブハウス『コレクティブ』が火事に
(町山智浩)
で、そこで64人、その現場で亡くなりまして。
(赤江珠緒)
わぁ〜ニュースありましたね、うん。
(町山智浩)
で、亡くなった原因というのが、その天井に入れてた防音材がですね、不燃素材じゃなかったんですね。
(赤江珠緒)
うわぁ〜。。
(町山智浩)
普通はグラスファイバーとかを使うんですよ。燃えないように。ところが安くあげるために燃えるやつを使っていた為に、それに一気に燃え移って、それは今YouTubeでも映像、燃える所が見れますけど、一瞬なんですよ、もう。
(赤江珠緒)
そうなんだ・・!
収容人数を超えていた
(町山智浩)
天井に火が広がって。で、その時の燃えた防音材のガスで殆どの人が気を失った状態で焼け死んじゃったんですね。
で、大問題になりまして。しかもそこ80人しか収容できない所に300人以上入れてたっていう事で。
(山里亮太)
うわ・・。
(町山智浩)
で、そのバンドの人もボーカル以外全員死亡ですよ。すごい事になって。で、それに対して営業許可を出していた市とかですね、地元の消防関係者とか、そういうのが、一体何をやってんだっていう話になったんですよ。
(赤江珠緒)
まぁそうなりますよねぇ。
ルーマニア全土に広がる大抗議デモに
(町山智浩)
はい。そこから、ものすごいデモが起こりまして。それがルーマニア全土に広がる大抗議デモになって、そこで結局その市長であるとか、与党の首相とかが辞任する所まで追い込まれたんですね。
で、この映画『コレクティブ』は、そこからの話なんですよ。というのは、病院に入院した人が百何十人といたんですけれども、その多くが次々に病院内で死亡してったんです。
(山里亮太)
えぇっ?
(町山智浩)
そう。なんかおかしいんですよ。っていのは、ルーマニアだけじゃその治療をできないので、ものすごい重症の人とかは近くの外国の病院に入れてたんですね、運んで。で、その人達は死ななかったんですよ。
(赤江珠緒)
えっ。助かって?そっちが?
(町山智浩)
その人達の方が重かったのに、火傷が。ところが、軽い火傷だったルーマニアの病院に入った人達は次々と死んでったんですよ。
(赤江珠緒)
いや、それはおかしいですよ。
軽い火傷だった人達がルーマニアの病院で次々と亡くなる
(町山智浩)
おかしいでしょ?で、ガゼッタという新聞がルーマニアにありまして、それがスポーツ新聞なんですよ。スポーツ新聞というかね、いわゆるタブロイド。夕刊フジとか日刊ゲンダイみたいなもの、なんですが。そこの記者が、おかしいと思って調べ始めて、そうしたら、その火傷の患者の治療に使っていたですね、抗菌剤。ですね。を手に入れるんですよ、病院で使っていた物を。そしたら、それを調査に出したら、なんと抗菌剤が10倍に水で薄められていた事がわかるんですよ。
(赤江珠緒)
えーっ!あら!!
(町山智浩)
だから菌が防げなくて、みんなバクテリア感染で死亡した事がわかってくるんですよ。
(赤江珠緒)
あっ火傷じゃなくてバクテリア感染で?
バクテリア感染
(町山智浩)
火傷じゃなかったんです。そう。で、これはどういう事なんだという事で、ルーマニアのMinistry of Health・・だから厚生労働省の大臣か、にあたる人を追求するんですね、記者会見で。そうすると、その厚生大臣は、
「我々がその抗菌剤を調査したところ、95%は通常通りで効果的なんで、そのあなたの言う追求は間違っている。」
と、その記者の方を否定するんですね。はい。ところが更にその調査を・・この記者がですね、トロンタンという記者なんですが、調査を始めて、他の研究者とかにその抗菌剤を出して調べたところ、200以上のルーマニアの病院で、その薄められた抗菌剤が使われている事が判明したんですよ。
(赤江珠緒)
えぇっ?どうしてまた・・。
(町山智浩)
で、これはおかしいっていう事になって、その厚労大臣も辞任に追い込まれるんですけども。その抗菌剤を作っていた会社が、ルーマニアのヘクシーファーマ(Hexi Pharma)という製薬会社である事がわかるんですね。で、その抗菌剤を国が認可してる事もわかるんですよ。まぁさっきも「大丈夫だ。」って言ってましたからね。
で、これはおかしいっていう事になってくるんですね。どうしてこんな物が認可されているんだと。
(赤江珠緒)
ねぇ。
薄められた抗菌剤を国が認可していた
(町山智浩)
で、そこで1人、オタクが。(笑)その新聞記者にいましてですね、ガゼッタのね記者がね。色々と調べたら、その抗菌剤の原料を買った元の会社が出てくるんですね。ヘクシーが。ところがその抗菌剤をヘクシーに売った会社とヘクシーの社長が同じ経営者だったんですよ。
(赤江珠緒)
えっ?そこが同じ?
(山里亮太)
おっ!
(町山智浩)
ダン・コンドリア(Dan Condrea)という人物が両方とも経営してたんですよ。要するにトンネル会社みたいなのを作って、その抗菌剤を7倍の値段で自分の会社に売ってたんですよ。はい。ひどい話で。それをさらに10倍に薄めていたんですね。
(赤江珠緒)
えーーっ!それを薄めて。10倍に薄めてたんだ。
ダン・コンドリアの抗菌剤の製薬会社は大儲け、そしてその金が・・
(町山智浩)
そう。大儲けなんですよ。しかも今回のその病院とかは、多くは公立病院で、さらにこの火傷に関しては国がお金を大量に出してたんですね、大変な国家的な事態だから、その治療に関しては国がものすごい補助金を出して、治療に当たってたんですけど、それを吸い上げる形になったんですよ、彼らが。
で、そのトンネル会社であげた利益を賄賂として。政府関係者、厚生省の関係者、病院関係者に配っていた事が判明していくんですよ。
(赤江珠緒)
えーっ!じゃぁそのあたりが全部繋がっちゃってたの?
(町山智浩)
繋がってくるんですよ。で、このダン・コンドリアが証言するという事になったんですね。その贈賄の事実について。このダン・コンドリアは突然死んじゃうんですよ。
(山里亮太)
えーーーーーーーーー!
(赤江珠緒)
んんっ?その会社経営者が?
(町山智浩)
そう。その会社経営者が。しかも、ものすごいスピードで木か何かに激突して、車が木っ端微塵になって死ぬんですよ。
(赤江珠緒)
ええーーっ!
ダン・コンドリアの突然の交通事故
(町山智浩)
コレおかしいだろっていう話ですよね。(笑)
(赤江珠緒)
確かに・・!
(町山智浩)
で、警察は「自殺だろう」って言うんですけど、本当かね?と。言う事で、前半はこの新聞記者が追っかけていく話なんですよね。で、後半はね、主人公が変わっていくんですよね、この『コレクティブ』という映画は。厚労大臣が辞任したんで、その代わりに新しい人が、政権が代わったんでね、野党になったんですよ。それまでのずっと長期政権だった与党に代わって、自由団結結束党というリベラル系の野党が新しい厚労大臣を任命するんですけども。
その人がものすごく、なんと言うか・・頼りな〜いメガネのヒョロヒョロとした若者なんですよ。35歳ぐらいか、若者って言っても。で、ヴラド・ヴォイクレスク(Vlad Voiculescu)さんという人が任命されて、「僕、やりま〜す。頑張りま〜す。」とか言ってて、ダメかなこれは?とか思っちゃうんですけども、最初。そしたら、この人がすごいバリバリとですね、厚生労働省の腐敗を暴いていくんですよ。
(赤江珠緒)
闇の部分を。へぇー!
後半は主人公が変わっていく
(町山智浩)
はい。新しく入って。で、この人ね、どうしてこんな事ができるのかなと思ったら、この人は元々ね、社会運動家だった人なんですね。ヴォイクレスクさんという人は貧しい子供達のがん患者を救うために彼らの治療費を集める仕事をしてたんですよ。そういうNPOを作って、はい。そこからその、貧しい人達の医療のための運動家をずっとしているうちに、結局医療政治みたいな物の専門家として彼は任命されたんですね。で、彼は全く政治畑じゃなかったんですけど、ルーマニアはずっと、チャウシェスクが倒れて以来ですね、同じ与党が長期政権をずーっと握ってきたので完全に腐敗して。
職業的政治家達が人の生命を司る厚労省の大臣とかもやってるという状態になったんですね。
で、彼らは別に医療とか何も知らないけれども、医療の利権の中にだけはいるんですよ。医療とか薬物の。で彼らは自分の利権の事しか考えてないから、もうどっぷり腐敗していて、ひどい事になっていたんですけど、今まではわからなかったんですよ。このライブハウス、コレクティブの火災で初めてわかったんですね。
(山里亮太)
へー!
コレクティブの火災で暴かれた腐敗
(町山智浩)
というのは、このヴォイクレスクさんが厚労大臣になってから、「この10倍に薄めている抗菌剤があるっていう事は、この事件がある前からも、それが使われてたという事じゃないか?」っていう事でそれを調べ始めると、ずっと使われて、もんのすごい人が死んでたんですよ。
(赤江珠緒)
うわーっ・・そうなのか。
(町山智浩)
それをもみ消しているんですね、病院も。で、今度はその病院の理事長とか逮捕されるという事態になってくんですよ。すっごいこの政治と大企業と病院のとんでもない癒着がどんどん暴かれてくっていう話なんですね。
で、これはね、見ていると・・これはね、監督は、最初にその新聞にスクープ記事が出たのを見て、これは面白いって言うのでカメラを持ってその新聞記者のところに行って、ずっとこれからあなた達が調査取材をしているのを付き添って、撮影をさせてくれって言って、それで撮り続けた物なんですね。
(山里亮太)
へーーっ!!
調査取材に密着し撮影をした
(町山智浩)
で、途中でこのヴォイクレスク新厚労大臣が任命されて彼が色々とやり始めたら、今度はこの監督は彼の所に行って、「厚労省の内側で、あなたが戦っているのを全部撮らせてくれ。」って言ったんですね。
そうしたら全部撮らせたんですよ。
(赤江珠緒)
すごいですね。
(町山智浩)
これすごい。日本の政治家は絶対にやんないですよね。ねぇ。これすごいなぁと思ってねぇ。彼は絶対に腐敗のない男なので。でやってくんですけれども、彼も戦いきれないんですよ、なかなか。
(山里亮太)
あぁ。。
火傷のひどい状態
(町山智浩)
あのね、お医者さんが1人、女性のお医者さんが出てきて、カメリア・ルイさんっていう人がその病院内で火傷した患者達がどんな状態になってるのかっていうビデオを送ってくるんですよ。新聞の方にね。
それがすごくて。もう体中が腐敗して、ウジが湧いている状態なのに放置されてるんですよ。ただ、それがどの患者なのか、どこの病院にいるのかみたいな事があって、それをなんとか助けなきゃっていう事で、このカメリアさんという告発者を厚労省が呼んで、このヴォイクレスク大臣が直接会って、「どうしたらいい?どこにいるんだ? 私が助ける!」ってやるんですよ。これすごいですよ!!日本の大臣、これしないですしょ絶対。
で、「よし、助けるぞ!」と思ったら、その病院に電話したら「んっ?ダメだ。」って言うんですよ。「どうしたんですか大臣?」って言うと、「今電話したら、彼は死んだらしい。」その患者も殺されちゃうんですよ。
(赤江珠緒)
えぇーっ!
(町山智浩)
という、すごい話なんですよこれ。
(赤江珠緒)
とんでもないな。
なぜこんな状態になったのか
(町山智浩)
とんでもないんですけどね、びっくりしましたけど。まぁ・・で、どうしてこんな事態になったのかという事でこの映画の中でわかってくるのは、まずね、ものすごくね投票率が低いんですって。(ルーマニアの)
与党は何十年もずっと政権を握り続けてるんで、国民の政治に対する関心が本当に薄れちゃって、全然投票に来ないらしいんですよ。それが1番大きい原因で、もう1つはメディアがやっぱり長期政権で、新聞とかね、テレビが完全に政権との間に利権構造ができてしまって。で、大臣とかそういった人達に話を聞けるかどうかがそのメディアの仕事ぶりとして考えられていて。調査をするって事をしなくなっちゃったらしいんですよ。
(赤江珠緒)
わぁー・・。でもなんかそれなんかちょっとねぇ・・えぇーーっ。日本もなんかよく聞くような状況になってますよ、それ。
(町山智浩)
そうなんです。このトロンタンっていう記者がそう言うんですよ。「私のようなスポーツ新聞がなんでこんな取材をしなきゃいけないんだって言うんですよ。(笑)
(赤江珠緒)
ほんとですよね。
政府とメディアの癒着
(町山智浩)
メインメディアやテレビはとにかく、記者として政府の記者会見とかに入れる事が大事だと思ってるから絶対こういう事しないんだと。
(赤江珠緒)
いやぁ〜ひどいよぉ。だって10倍に薄めていなかったら助かった人は間違いなくいたでしょうに。
(町山智浩)だからこの中でね、かわいそうなのはね、全身ものすごい火傷で両手両足がなくなっちゃった人が出てくるんですよ。ところが彼女は生きてるんですよ。で、それを見た火傷で息子を失ったお父さんが、「うちの息子は彼女に比べるとはるかにちっちゃい火傷だったのに。」って言うんですよ。「なんで彼女が生きてて俺の息子が死んだんだ。」って言うんですよ。
まぁ、ひどい話でね。ただやっぱりね、これでわかるのは、その調査報道という、そのInvestigative Journalismというものが滅びちゃうんですね、長期政権とそのメディアがやっぱり力を失っていくと。
で、この新聞はこれでめちゃくちゃ売り上げたんですよ。そう。でも売り上げはそうやって特ダネで作るものであって、広告で利益を上げようとしちゃうと、どうしても大企業の言いなりになっちゃうんですよ。
(赤江珠緒)
かーっそうかぁ。。
高額の広告費を使ってくれる会社を批判できない現状
(町山智浩)
薬とかサプリとかを作っている会社は広告費すごい使ってますからね。そうすると、彼らを批判できないっていう状態になるんですよ。薬はすごいんですよ〜CM、日本でも。本当に。アメリカでもすごいんですが。(笑)
という、広告から離れて売り上げだけで、部数だけで成り立つジャーナリズムにならない限り、なかなか難しいんだというね、事もわかります。はい。
(赤江珠緒)
これは考えさせられますね。
(山里亮太)
いや〜見たい!
(町山智浩)
これはねもう是非見ていただきたいと思います。強烈な映画『コレクティブ』で、日本公開は今年(2021年)の秋です!
(赤江珠緒)
本当ですよね。もう忖度という言葉が流行ってる場合じゃないと思いますね!
(町山智浩)
そうなんですよ。(笑)
(赤江珠緒)
町山さん、ありがとうございました。
(山里亮太)
ありした!
(町山智浩)
どうもでした。
※書き起こし終わり
○○に入る言葉のこたえ
⑤軽い火傷だった人達がルーマニアの病院で次々と亡くなる
⑨ダン・コンドリアが証言する直前に突然死