わたしは金正男を殺してないの町山智浩さんの解説レビュー
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映画評論家の町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』(https://www.tbsradio.jp/tama954/)で、『わたしは金正男を殺してない』のネタバレなし解説を紹介されていましたので書き起こしします。
映画視聴前の前情報として、また、映画を見た後の解説や考察レビューとして是非ご参考ください。
町山さん『わたしは金正男を殺してない』解説レビューの概要
①2017年2月13日にあったキム・ジョンナム(金正男)の暗殺事件が題材
②猛毒の神経毒、VXが使われた所までニュースになったが、その後は・・
③実行犯はなぜこの事件に関わったのかを描いたドキュメンタリー映画
④2人に○○はなかった
⑤実行犯の2人の女性は、自分達がやっている事は○○○○○○○だと思っていた
※○○の中に入る文章は、この記事の1番最後で公開しています。
TBSラジオたまむすびでラジオ音源を聞いて頂くか、書き起こし全文をご覧頂くか、この記事の1番最後を見て頂く事で判明します。
(町山智浩)
それで今日、紹介する映画はですね、もう既に公開が先週から始まっているんですが『わたしは金正男を殺してない』っていう、あの、不思議なタイトルの映画なんですが。これは2017年2月13日にあったキム・ジョンナム(金正男)の暗殺事件って覚えてます?
(赤江珠緒)はい。覚えてます。
2017年2月13日キム・ジョンナム(金正男)暗殺事件
(町山智浩)
はい。北朝鮮の最高指導者の、キム・ジョンウン(金正恩)の腹違いの兄のキム・ジョンナム(金正男)さんが、マレーシアのクアラルンプール空港で女の子2人に・・若い女性2人に顔を触られて、空港の中で突然。で、その直後に死んだという事件ですね。
(赤江珠緒)
そう。防犯カメラにその映像が残ってましたから。
(山里亮太)
不思議だったよね、なんか。
(赤江珠緒)
それまで普通に旅をしてるような感じだったのが・・という事でしたもんね。
![](https://eiga-pop.com/files/image/26057/image_26057_i61bc8bb56fd1b.jpg)
猛毒の神経毒のVX
(町山智浩)そうなんです。でね、これまぁ猛毒の神経毒のVXっていうのを塗られて、それで目の中から入って、目隠しをされたんでね。それで亡くなったんですけど、その後どうなったかってみんな、あんまり関心ないから知らないでしょう?
(山里亮太)
確かに!ニュースにもならなかったしね。
(町山智浩)
そうなんですよ。この映画はその後、あの2人は・・実行犯はどうなったかっていう話なんですよ。で、あの実行犯はどうしてこの事件に関わったかっていう事を描いたドキュメンタリー映画なんですよ。アメリカ映画ですよこれ。監督はアメリカ人で。で、実行犯の1人はインドネシア人のシティ・アイシャという人で、もう1人がベトナム人のドアン・ティ・フオンという人で2人とも20代なんですね。で2人とも1回も、その時まで1会った事がないんですよ。
(赤江珠緒)
あっ、この2人も面識ないんですか?
2人に面識はなかった
(町山智浩)
面識ないんです!別々にスカウトされて。で北朝鮮のその暗殺団によってスカウトされたんですけれども、それがものすごい長い期間にわたって訓練を受けてて。ずっと彼女達2人はYoutuberだと思ってたんです、自分達のやっている事は。
(赤江珠緒)
はー!
![](https://eiga-pop.com/files/image/26057/image_26057_i61bc8b94cc2ec.jpg)
Youtuberだと信じて実行していた
(町山智浩)
はい。YouTuberのイタズラビデオを、日本の業者の為に撮ってるって言われて、それを信じていて。しかも本当にこのキム・ジョンナム暗殺の前に、YouTuberのイタズラビデオを実際に撮って、ネットにあげてるんですよ。
(山里亮太)
えーー!!
(町山智浩)
だから彼女達、本当に信じたんですよ、それで。
(赤江珠緒)
はぁ〜・・。
金正男を殺害した理由
(町山智浩)
ものすごい用意周到な、長い期間をかけたトリックだったんですね、これが。でまぁ、殺した理由っていうのは、キム・ジョンナムは兄なので、まぁ何と言うか、後継者としてはね、北朝鮮の。地位があるんだけど、彼自身は政治から遠ざかりたいっていう事で中国に住んでたんですけれども。キム・ジョンウン、今のその最高指導者の方は、非常にその・・まぁ、身内を暗殺したりね、核ミサイル持ったりして手が付けられない人じゃないですか。とんでもない軍事独裁者なんで、中国としてはすごく扱いにくかったんですよ。で彼よりも、その兄の方が扱いやすい、常識人だから。っていうことで、このままだとキム・ジョンウンが思ったのは、このままだと私は中国によって排除されて、兄がすげ替えられる可能性があると思ったらしいんですよ。
![](https://eiga-pop.com/files/image/26057/image_26057_i5fca6d7d55dcd.jpg)
実行犯2人のバックグラウンド
(町山智浩)
だからその、後継者としての血を引く兄を殺害しようと考えたらしいんですけども。はい。でね、またこの実行犯の2人に戻るんですけど、2人がね、どういうバックグラウンドかっていうことはこの映画で初めて明らかにされるんですね。殆ど日本の人・・まぁアメリカでもほとんど知られてなかったんですけども。で、2人はね、貧しい田舎の出身なんですよ。
(赤江珠緒)
うーん。
(町山智浩)
で、都会に出て働いたんですけども、うまくいかなくて苦労してたんですね。で、このインドネシア人の方の女性の、シティさんっていう人は、いわゆるもう地獄のようなその・・縫製工場。あの洋服を作る工場、分かります?
(山里亮太)
はい!
子供を捨ててでも脱出したかった奴隷工場
(町山智浩)
あのインドネシアとか、あっちの方、パキスタンとかでは、もう本当に貧しい女性達がブランド品をいっぱい作ってるんですよ。日本とかアメリカのね。そこでもう奴隷のように働かされて、それでまぁ結婚して子供ができたんだけども、その奴隷工場から逃げられなくて。最終的には子供を捨てて脱出したっていう人なんですよね。
(赤江珠緒)
えー!!
(町山智浩)
でもう、どこにもインドネシアには居場所がないからっていう事でマレーシアに来てて。ところがマレーシアにはそういう人達が・・あそこイスラム国なので、そういう外国から来た非イスラム国の人達を、まぁ・・売春・・で働かせてたんですね。
(赤江珠緒)
うーん、うん。
(町山智浩)
そこでまぁ非常に底辺の売春をして働いてて。
![](https://eiga-pop.com/files/image/26057/image_26057_i61bc8bff5f96e.jpg)
ベトナム人のドアンさん
(町山智浩)
で、もう1人のベトナム人のドアンさんは、やっぱり都会ハノイ(ベトナムの首都)に出て、なんかまぁアイドルになろうとしていたらしいんですけども。まあアイドルオーディション番組とかにも出てて、うまくいかなくて。で、そこにスカウトに来た男がいまして。
(山里亮太)
あー・・っ!
(町山智浩)
そう、だから彼もスゴイのは、北朝鮮に雇われてるんですけどもベトナム語が喋れるんですね。で、日本から雇われてると言って。YouTuberとしてスターにしてやるぞ、と。で、やってたんですけど、これがとにかくすごいのは本当にそのイタズラビデオを作ってるんですよ。
(赤江珠緒)
事前に何回もそういう事があったっていう?
(町山智浩)
何回もやってるんですよ。何回も何回もやってるんで、完全に信じてたんですね。
(赤江珠緒)
わぁ・・巧妙だな。うん。
彼女たちは何も知らなかった
(町山智浩)
巧妙なんですよ。で、VXを彼に塗った後も、全然その、彼が死んだって事も知らなかったんですよ、彼女達は。
(赤江珠緒)
まぁ確かに。あの防犯カメラの映像見ても悪びれる風もなく、何を殺害したんだこの2人はっていう感じでしたもんね。
(山里亮太)
そうそう。キャッキャキャッキャしてましたもんね、ブワーッと行って。
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マレーシア語がわからない2人
(町山智浩)
そうそう。死んだ事も知らなくて、逮捕されてから、あなたは人を殺したんですよって言われたんですよ、この2人は。全然知らなかった。というのは、2人ともマレーシアに入ってたでしょう?2人ともマレーシア語がわからないから、テレビとか新聞を見ないんですよ。
(赤江珠緒)
あーー!!うん。
(町山智浩)
だから騒ぎになってても殆ど何だかわからなかったんですね。
(山里亮太)
えーっ!
指示役はすぐに国外へ
(町山智浩)
まさか自分が殺したなんて思ってなかったんですよ。で!ところがそのマレーシアにいた実行犯を周りでコントロールしてた北朝鮮の工作員達はすぐにその場で空港から飛行機に乗って国外に出ちゃっているんですね。
(赤江珠緒)
逃げましたね、はい。
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VXガス自体を作った科学者はまだマレーシアにいたが・・
(町山智浩)
ところがそれ以外に、そのVXガス自体を作った科学者とか、は、まだマレーシアにいたんですよ。で、4人マレーシアで逮捕しているんですよ、警察が。それなのに彼らは、北朝鮮に返されるんですよ。
(赤江珠緒)
えっ?
(町山智浩)
主犯なのに。彼らは。どうしたかと、思ったら、北朝鮮にあったマレーシア大使館を北朝鮮が襲って、大使達4人を人質にしたんです。
(山里亮太)
はーーあ・・・。
(町山智浩)
ね。でマレーシア大使を返して欲しければ、逮捕したその北朝鮮人を釈放しろと。北朝鮮に返せって言って、交渉してマレーシアは負けて、首謀者たちを返しちゃってるんですよ。
(赤江珠緒)
そこまでしたんですね、北朝鮮は。うん。
マレーシア政府はメンツを立たせる為、実行役の2人を死刑にしようとする
(町山智浩)
まぁ最初から計画通りだと思うんですけどね、それも。はい。で、メンツが立たなくなっちゃったんですよ。全世界が注目してたでしょう?マレーシアは。政府に対して。だったら、この2人が最初から殺人の意思があったっていう事で裁判にかければ、一応形だけは保てるじゃないですか。誰も・・要するに罰せないという訳にはいかない訳だから。で彼女達2人を有罪にしようとするんですよ。
(赤江珠緒)
うん!
(町山智浩)
でも、マレーシアって非常に厳しくて。この場合、殺人罪は死刑なんですよ。
(赤江珠緒)
わ〜・・!!
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インドネシア、ベトナム、マレーシアの関係
(町山智浩)
で彼女達は死刑になりそうになるんですよ。という恐ろしい話なんですよこれ。で、2人とも貧しいから、親は弁護士代なんか払えないんですよ。あとインドネシアと、そのマレーシア。そのベトナムとマレーシアっていう本国同士の関係も非常に微妙なんですね。
(赤江珠緒)
ふーん!
(町山智浩)
はい。で、特にベトナムは北朝鮮と仲が良いんですよ。
(赤江珠緒)
あぁそっか・・。
(町山智浩)
そう。だから北朝鮮と戦うために自分達の国民を守ろうとするかって言うと、そこは非常に微妙なんですね。で、この田舎から出てきた何も分からない2人の若い女性は、国際的な、その政治的な関係性の真っ只中に巻き込まれていくんですよ。
で、またスゴイのはね、北朝鮮の犯人達は、この貧しい女の人達は、別に捨て石で、死んでしまえばそれでいいんだと思ってた、鬼のような奴らなんですよ。
(赤江珠緒)
まぁそうでしょう、だってそもそもその・・言わずにVXを使わせていたっていう事ですもんね。
捨て石
(町山智浩)
そうなんです。だからその言わずにやってたし、それも彼女たち自身が死ぬ可能性もあったんですよ。
(赤江珠緒)
そうでしょうね。
(町山智浩)
そう。でも死んでもいいと思っていた訳ですよ。
(山里亮太)
そうか・・コマだから・・!
(町山智浩)
そう。たまたま生きていただけなんです、この2人は。
(山里亮太)
うわ〜・・。スゴイ事させるな。。
(町山智浩)
そう。手が気持ち悪いって言ってスグに洗ったんで大丈夫だったんですけども、別にそうしろとも言われてなかったんですよ。
(赤江珠緒)
うわぁ〜そうなんだ!
(町山智浩)
そう!で彼女達を派遣した後、すぐにその(彼女達を)行かせた奴らは飛行機に乗っちゃってるんですよ。だから彼女達が死ぬのは、ある程度前提だったみたいです。
(赤江珠緒)
完全に捨て駒だ・・うーん。
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マレーシアの弁護士がこの2人を助けようとする
(町山智浩)
恐ろしいんですけども。で本当にね、このひどい・・誰も彼もがひどいっていう、この2人はね、もう全く天涯孤独で刑務所に入れられて、言葉もわからないし。誰も助けに来てくれないっていう状態の中で、マレーシアの弁護士がこの2人を助けようとするんですよ。
(赤江珠緒)
うん!
(町山智浩)
この弁護士達がすごいんですよ。全く何の得にもならない事なんですよ。
(赤江珠緒)
そうですね!うん。
一生懸命に彼女達の為に戦う
(町山智浩)
そう。彼女達は自分の国民でもないしお金も出ないし。それでもやっぱりこういうこの国策によって、政治的な理由によって何も知らなかった女性が死刑になるっていう事は絶対に許せないという事で、この弁護士2人がですね、一生懸命に彼女達の為に戦うのはね、素晴らしいんですけどね。
でもこれ恐ろしいのは、誰でもこの実行犯達のような目に遭う可能性があるという事ですよ。
(赤江珠緒)
いや、本当ですね。なんか人としての希望がそのマレーシアの弁護士の人達しかいないですもんね。怖いな・・。
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言葉が通じない中、友達になっていく
(町山智浩)
そうなんですよ。怖いんですよ。で、この2人独房に入れられて言葉が全く通じ合わないんですけれども、2人、お互いしかいないから、そこでその顔も見れないんですけど、刑務所の中で、全く言葉が通じないのに何とか会話をして、友達になっていくあたりとかもやっぱり人間ってすごいなと思うんですけどね。
(赤江珠緒)
へぇ〜・・!
(町山智浩)
はい。というね、国際的な謀略の話でもあるんですけど、その・・人間とは何かとか、人間の良心とは何かとか、色々考えさせられる話で。しかもこの2人がネットで叩かれるんですよ!本国で!
(山里亮太)
わー・・!
人間とは何か
(町山智浩)
彼女達は完全に犠牲者なのに、その、ベトナムで「バカじゃねーの?」って。「自業自得だよ!」とかで。。これ日本でも絶対同じ事が起こったら、なりますね。
(赤江珠緒)
えぇ。。
(町山智浩)
本当に人間ってなんだろうと。色んなことを考えさせられる、映画でしたね。
(赤江珠緒)
そうかぁ。。『わたしは金正男を殺してない』は10月10日からシアターイメージフォーラムほか、全国順次ロードショーとなっています。
(町山智浩)
はい。もう公開中です
(赤江珠緒)
え。じゃぁこの2人はでも・・今も?今も?
(町山智浩)
や、まぁご覧ください、映画を。
(赤江珠緒)
あぁそうかー!
(山里亮太)
それをやっているんですから。
(赤江珠緒)
あー、気になってしょうがないねぇ。
(町山智浩)
はい。映画をご覧ください。
(赤江珠緒)
町山さん、ありがとうございました。
(山里亮太)
ありしたーっ!
(町山智浩)
どうもでした。
※書き起こし終わり
○○に入る言葉のこたえ
④2人に面識はなかった
⑤実行犯の2人の女性は、自分達がやっている事はYoutuberだと思っていた