グリーンブックの町山智浩さんの解説レビュー
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映画評論家の町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』(https://www.tbsradio.jp/tama954/)
で、2019年のアカデミー賞を振り返り、『グリーンブック』等のネタバレなし解説を紹介されていましたので書き起こしします。
映画視聴前の前情報として、また、映画を見た後の解説や考察レビューとして是非ご参考ください。
アカデミー賞作品賞受賞『グリーンブック』
(赤江珠緒)
もうアカデミー賞中継から始まってずっとお忙しかったですもんね。
(町山智浩)
えー昨日ですね、やってたのは。で、まあ今回作品賞を取った映画が『グリーンブック』と。いう映画で。これが今週公開なんだな。
(山里亮太)
そうですね。3月1日からです!
(赤江珠緒)
おおー!ちょうどですね。
(町山智浩)
なのでぜひ見に行っていただきたいですね。
(赤江珠緒)
ね、町山さんも仰ってましたよね、『グリーンブック』が来るだろうねってね。
『グリーンブック』鑑賞した人がボロボロ泣いていた
(町山智浩)
そう。僕これ最初見たのトロント映画祭っていうとこで見て9月に。で、全く注目されていない作品だったんですけども、もうどうも『グリーンブック』ってすごい映画だよ。感動した!とか、泣いた!とか言っていて。で、誘われて見に行ってみたらもう本当にボロボロなんですよ、もう見ている人たちが。で、これはまあ1960年代の前半にアメリカで非常にひどい人種差別があった時に、特にそのアメリカの南部では黒人にまだ人権がなくて、ホテルとかレストランとかも黒人用と白人用に分かれていた時に、黒人用のホテルやレストランガイドをまとめたのがそのグリーンブックというドライブガイドだったんですね?はい。
(赤江珠緒)
うん。
黒人にまだ人権がない1960年代の話
(町山智浩)
で、それを持ってですね、南部に旅をするのが主人公で、ヴィゴ・モーテンセンさんが演じるトニーというマフィアの用心棒。実在の人物です。はい。で、その人が頼まれて、マフィアの親分から、「ある黒人の博士を南部の音楽ツアーに連れて行ってやってくれて。お前は用心棒をやれ。」と言われて行くと、そのドン・シャーリーという実在のピアニストで、天才ピアニストでジャマイカ系の黒人なんですけれども、小学校の頃に天才的ピアニストとしてソ連で英才教育を受けて、でアメリカに帰ってきたから本当に貴族的な人で。差別も知らなければ黒人の文化も知らないと。いう人を連れて、ひっどい差別の、黒人と見ればぶん殴るような南部に向かってツアーに行くと。非常にその最初のトニーはですね、黒人の人というだけで差別をして、黒人の人が口をつけたコップを捨てるみたいな、ものすごい差別的な人間なんですよ。それが2人で仕事で珍道中をしなければならないというコメディーでした。
(赤江珠緒)
ねえ!それがコメディーになっているというね。
(町山智浩)
コメディーなんですよ。
(赤江珠緒)
ふぇ〜『グリーンブック』。
山田洋次監督に日本でリメイクして欲しい
(町山智浩)
そうなんですよ。だからもう本当に山田洋次監督とかが、日本でね、それこそ非常に差別的ななんか右翼かなんかのオヤジがヤクザに頼まれて、それでもって日本のまぁ演歌歌手可なんかね、朝鮮・韓国の血が流れている演歌歌手かなんかをツアーに連れていくみたいな話にして、日本でリメイクすべきだと思いますけど。やっぱり松竹映画ってバーン!って富士山の画が出てくるとすごいいいなと思うんですけど。ね。
(赤江珠緒)
あーっ。
山田洋次監督はロードムービーがお好き
(町山智浩)
ねえ。山田洋次監督は本当にこういうそのドライブしていってっていうのが好きなんですよ。アメリカ映画にすごく影響をされているから、山田洋次監督はロードムービーといわれる旅の映画がすごい好きなんですよ。
(赤江珠緒)
そうか、だから寅さんだって旅情感があって色んなところに行くっていう。あーっ
(町山智浩)
そうそうそう。あれは実は日本的だと思うかもしれないですけど、ものすごくアメリカ映画なんですよ。
(赤江珠緒)
そうか!
寅さんもロードムービー
(町山智浩)
西部劇の世界なんですよね。だから本当にね、そういう映画を日本でも作ればいいと思うんですよ。ものすごく右翼で差別的なやつが、仕事で仕方なく、自分がいちばん嫌いな韓国とか朝鮮とかの人を連れてツアーをしなければならないっていう、いい話ができると思うんだよなー。
(山里亮太)
それで今の問題を気づいてって、「あれ?自分がこうおかしいんじゃないか?」ってなっていって?
(町山智浩)
そう!でもそれが完全にコメディーで、やり取りはもう本当にもう色んな掛け合いがあって笑わせて泣かせてっていうね。これは日本映画こそやらなきゃいけない事だと思いますね。
(山里亮太)
あの寅さんの世界観の掛け合いみたいなの、絶対に面白いですもんね?
(赤江珠緒)
設定がそんな感じなのに、そこに笑いあり涙ありってなると。。
(町山智浩)
そうそう。笑いあり、涙あり、感動ありなんですよ。
(赤江珠緒)
あぁ、いいですねぇ。
(町山智浩)
そういうのができるなって思うんだけどね、誰かやらないかなって思いますが。
※書き起こしおわり
=======別日の解説も書き起こします========
アバラマから
(町山智浩)
今、アラバマという所にいるんですけれども、ご存知でしょうか?
(赤江珠緒)
アラバマ!アラバマといえばなんでしょうかね?
(町山智浩)
ふふふ、全然ない?
(山里亮太)
引き出しが全然出てこないです。。
(町山智浩)
あぁ、そう。(笑)わかりました。取材に来ているのはですね、1965年にマーティン・ルーサー・キング牧師が行った、セルマという街からアラバマの州都モンゴメリーまでの行進があるんですね。それは『Selma』という映画。日本だと『グローリー/明日への行進』っていうタイトルで公開されたんですが。
(赤江珠緒)
ね、町山さんにもご紹介いただきました!
(町山智浩)
はいはい。それをね、毎年再現しているんですよ、橋の所で。で、みんなでその橋を行進するんですけども、実際はその時警官隊が殴り込みをかけて「血の日曜日」という大変な大惨事になったんですけどね。
(赤江珠緒)
ええ。
マーティン・ルーサー・キングの行進
(町山智浩)
その頃、黒人には、アメリカ南部の黒人には投票権が、選挙権がなかったので、その権利をですね、奪い返すためにまあキング牧師が行進をすると。それに対して警官隊は騎馬警官が橋の上で徹底的に弾圧を加えた事件がありまして。
(赤江珠緒)
あの有名なスピーチをされた時ですか?
(町山智浩)
んーと、スピーチじゃないんですけども。。
(赤江珠緒)
あ、違うんですか?
(町山智浩)
はい。違います。キング牧師はその時に現場にはいなかったんですよ、その大事件があった時には。だからスピーチはしていないんですけども。まぁ大変な。ケガ人が出たり死者も出ています。何人も殺されているんですよ、警官たちに。射殺されたり、その行進って結局あの州都まで4日かけて歩いて。で、90キロぐらい離れているんですよね。で、州都の前でキング牧師が「我々に投票権を返してください」という風に州知事がいる州議会に対して訴えたんですけど、その後そこに来た行進をした人たちはその90キロをまた歩いて帰らんなきゃなんないじゃないですか。
(山里亮太)
はい。
(町山智浩)
だから、これはあまりにも大変だということで、白人黒人関係無くその運動を支援している人たちが車を出してピストン運動で帰るのを手伝ってあげていたんですよ。
(山里亮太)
はいはいはい。
KKKという白人至上主義が起こした事件
(町山智浩)
車に乗せて、自家用車にね。そしたらイタリア系の白人の女性がそれにボランティアとして参加したら、「白人のくせに黒人に味方しやがって!」つってKKKという白人至上主義のやつらが3人で車に乗って、その女性の載っている、黒人を乗せている女性の車に並走して、走っている彼女を銃撃しまして殺したっていう事件があって。
(赤江珠緒)
ええっ?ひっどい。。
(町山智浩)
そういうようなことがあった土地なんですよ。まぁひどいんですよ。で、まあ僕がそれに参加したらですね、大変な嵐になったんですよ。(笑)で、嵐で竜巻も発生して、20人以上死んだりする事態になりましてこの辺は。
(山里亮太)
そういえば今ニュースになっていますね!そうだ!
(町山智浩)
その現場にいましたよ。(笑)
(山里亮太)
えっ!!大丈夫でしたか!?
(町山智浩)
大丈夫じゃないですよ!ビショビショですよ頭のてっぺんからつま先まで!大変でした。あまりにも頭に来たんでその現場をツイートしていますけども。そこから。(笑)
(山里亮太)
あ、その写真とか撮って?
(町山智浩)
もう嵐がばーッと来たんでビデオを撮って。そしたら電話がいきなりビービーッ!って鳴り始めて、なんだろうと思ったら竜巻発生警報って出てきて。そう。大変でしたけど。でね、なんで竜巻が起こったかっていうとものすごい寒波が北極の方から来ているんですよ、南部の方に向かって。でそうすると南部って基本的には暖かいじゃないですか。で、暖かい空気のところにものすごい冷たい空気が流れ込んできたので、その零下の空気が。そうすると、冷たい空気は暖かい空気の下になだれ込もうとするんですよ。ぶつかったところで。
(赤江珠緒)
うん。
(町山智浩)
そうすると渦になるんですよ。下に入ろう、下に入ろうとするから。で、竜巻が発生するんですよ。
(山里亮太)
はーなるほど。そうなんだ。。
(町山智浩)
で、結局今、寒い寒波が勝ちまして、ここアラバマは今零下なんですよ外は。南部なのに。(笑)
(赤江珠緒)
いやちょっともう気候が。アメリカも大変な事になっている。
(町山智浩)
僕南部に行くって思ってたんで、全然あたたかい服を持ってこなかったんですよ。(笑)だから今死にそうに寒いんですけども。
(山里亮太)
お体に気をつけて。。でもね、それこそ今ね、南部にいらっしゃるということで。あの僕、昨日町山さんに教えてもらった『グリーンブック』を見てきまして。まさにね、さっき仰ったような事もたくさんあったじゃないですか、あの映画の中に。
『グリーンブック』は黒人のジャズミュージシャンがツアーに行く話
(町山智浩)
そうそう。『グリーンブック』っていう映画はその差別がひどかった60年代前半の南部に、黒人のジャズミュージシャンがツアーに行くっていう話ですよね?あの中ひどいでしょう?黒人のミュージシャンでコンサートに呼ばれていくのに、コンサート会場にも入れないとかね。(笑)
(赤江珠緒)
めちゃくちゃですよね、そんな!?
(山里亮太)
ご飯も食べさせてくれないんだよ。
(町山智浩)
そう。呼んでるんですよ、演奏家としてその場所に。
(赤江珠緒)
そういうこと?
(山里亮太)
「しきたりなんで」って断られるんですよね?
コンサートに呼ばれたのに入れない
(町山智浩)
そうなんですよ。で控室も白人用なんで。っていうことで、とんでもない所に入れられたりとか。
(山里亮太)
そんなことがあったんだ実際っていう。
(赤江珠緒)
ねえ。『グリーンブック』日本でもすごいお客さんが入っているみたいですね。
(町山智浩)
あぁ『グリーンブック』、いい映画ですよ本当に。
(山里亮太)
いい映画でした本当に見て。
パーティーピザを丸めて一気に食べる
(町山智浩)
あのマフィアの用心棒の人がピザを一気に食べるじゃないですか。あのパーティーピザを丸めて一気に食べるっていうシーンがあってワンカットで撮っているんですけど、役者って大変だなと思いましたね。(笑)
(山里亮太)
すごいですよね。あと、めちゃくちゃケンタッキー食べたくなるねすよね。(笑)
(町山智浩)
ケンタッキー、食べたくなる!ただね、ここも、アラバマもね、フライドチキンの本場なんですよ。フライドチキンってあの映画の中では説明してななかったけど、元々白人はフォークとナイフでしかご飯をその当時、食べなかったんですねごはんを。その当時。南部の。だからモモとか骨が多い所、アバラの所とかは捨ててたと言うか、奴隷にあげてたんですよ。だからフライドチキンっていうのはフォークとナイフで食べれない骨の近くの部分を奴隷に対してあげていたという所から、奴隷の人たちが作り上げた料理なんですよ。
フライドチキンは奴隷の人たちが作り上げた料理
(山里亮太)
あっ!だからか。すごいね、すごいそこが立っているシーンがあって。「なんでなんだろう?」っていうのがいまので解明されました。あーそういう事だったんだ!
(町山智浩)
そうなんですよ。そう、だから「黒人なのにフライドチキンを食べたことがないのか?」っていうようなシーンがあって。それは実はそういう背景があって、まぁカーネル・サンダースが有名なんでケンタッキー・フライドチキンって白人のイメージがあるんですけど、あれこそまさに文化盗用というね、黒人が作り上げた文化を白人が奪い取った典型なので。
(赤江珠緒)
そうかー!
(山里亮太)
ああ、あのシーンがそうだったんだ。ははー!
(町山智浩)
そうなんですよ。でも今はね、アラバマの高級レストランでのメインディッシュがフライドチキンになっていますけどね。(笑)
(赤江珠緒)
はははっ。
(町山智浩)
そう。そういう時代なんです。
※書き起こし終わり