水俣曼荼羅の町山智浩さんの解説レビュー
記事内に商品プロモーションを含む場合があります
映画評論家の町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』(https://www.tbsradio.jp/tama954/)で、『水俣曼荼羅』のネタバレなし解説を紹介されていましたので書き起こしします。
映画視聴前の前情報として、また、映画を見た後の解説や考察レビューとして是非ご参考ください。
町山さん『水俣曼荼羅』解説レビューの概要
①水俣曼荼羅は上映時間が○○○○!
②水俣曼荼羅は撮影に約○○年かかった水俣病についての映画
③「ニセ水俣病」と言われてしまった人達が認定を勝ち取ろうとする戦いを追った
④医学的な脳説・大脳皮質説VSそれを認めない県・国・チッソ
⑤水俣曼荼羅はテーマも重いし、見るのが疲れる?
⑥この映画はすごく元気な映画で見てて楽しい時とか笑う時とかいっぱいある映画
⑦登場人物の水俣病の患者さん達がみんな元気
⑧同じくドキュメンタリー映画の巨匠フレデリック・ワイズマン監督との違い
⑨これ全部○の話なんです
※○○の中に入る文章は、この記事の1番最後で公開しています。
TBSラジオたまむすびでラジオ音源を聞いて頂くか、書き起こし全文をご覧頂くか、この記事の1番最後を見て頂く事で判明します。
水俣曼荼羅は上映時間が6時間半!
(町山智浩)
今日はですね、6時間半の映画を紹介します!
(赤江珠緒)
いや6時間半って・・ねぇ?今山ちゃんと、そもそもそんなに長い間映画館にいた事がないねって。
(山里亮太)
すごいな。ないな〜。
(町山智浩)
えっ!そうですか?僕は、あの、そうですね、小学校5、6年の頃は映画を見に行ってその映画が好きだと、まぁ映画を見に行く時は封切日の土曜日の朝の1番から行くんですけど、その映画が好きだとその日の夜の最終回が終わる10時ぐらいまでずっと映画館にいましたよ。
(山里亮太)
えーー!
(赤江珠緒)
すごいな町山さん!あと”何本立て”とかでね、何本も見たりとかね、昔はね。
(町山智浩)
昔はね、入れ替えがなかったんですよ。
(山里亮太)
あーなるほど!
(町山智浩)
だからずっといっぱなしでいいんですよ。だからお弁当を持って行ってずーっといましたよね。5回ぐらい連続で見てました。
(山里亮太)
えーーー!
(赤江珠緒)
そっかぁ!
過去にオールナイトで5本立てを鑑賞した町山さん
(町山智浩)
あとオールナイトあったからね、昔ね。うん。5本立てとか見てましたよね。
(赤江珠緒)
5本立て!(笑)
(山里亮太)
えーー!
(町山智浩)
はい。そうですよ。朝、出ると明るくなってるんですよ、9時ぐらいから始まって。見てましたね。はい。で、これは6時間半ですよ。あ、映画のタイトルを言うの忘れちゃった!えっと『水俣曼荼羅』というタイトルの映画で。11月27日から公開なんですが、これはまぁ水俣病についての映画ですね。1950年代から熊本県でですね、チッソという工場が、プラスチックとかを作る時に出てくる有機水銀を海に流してて、それがまぁお魚の中で蓄積されて、それを食べた人達の体に手足のしびれとか、ひどくなると胎児性でお母さんのお腹の中にいた赤ちゃんとかはもう、歩く事もできない、しゃべる事もできないと。非常に重度の障害を負って生まれてくるという事件がありまして。それこそ1万人ぐらいの人達がですね、被害を訴えると。言ういう事があったんですが、それがまぁ現在も続いているんですね。で、これね、撮影だけで20年ぐらいかけてますね、この映画はね。
(山里亮太)
わ〜!
水俣曼荼羅は撮影に約20年かかった水俣病についての映画
(町山智浩)
で、テーマはですね、水俣病ってその、1万人以上の人が「私は水俣病です」と申請してるんですけど、国に認定されてる人はまぁそんなに多くなくて、2000人かなんかしかいないんですよ。で、それ以外の人達は「ニセ水俣病」というような事を言われてちゃったりするんですよ。
(山里亮太)
へぇ〜〜。。
(赤江珠緒)
かぁ〜〜。。
(町山智浩)
で、それはどうしてそうなっちゃうのかっていう事でですね、この認定されてない人達が、認定を勝ち取ろうとする戦いをずっと追ってるのがこの『水俣曼荼羅』という映画なんですけれども。
(山里亮太)
はいはい。
「ニセ水俣病」と言われてしまった人達が認定を勝ち取ろうとする戦いを追った
(町山智浩)
これね、まぁすごく科学的な話になっちゃうんですけども、ずっとこの有機水銀が体の中で神経とかを侵して、手足がしびれたりするって言われてたんですけども、そうじゃないという学説が出てくるんですよ。この映画の中で。それは、実は大脳の大脳皮質の部分、中枢神経の部分を水俣の人達は破壊されてしまって、だからその感覚が鈍くなるというような事が起こると。手足のしびれとかは手足がしびれているんじゃなくて、脳の、その大脳の方の問題なんだっていう事を、まぁ新たな学説を唱える先生が熊本大学医学部の教授で浴野(えきの)教授という人が出てくるんですね。これ浴野って人、名字が「浴」って言うのがあの、浴槽の「浴」と書いて「えき」って読むんですね。
(赤江珠緒)
入浴の浴ですね。うん。
手足がしびれてるだけの人も実は水俣病なんだ
(町山智浩)
はい。解剖の先生なんですけども、そこからどうも、手足がしびれてるっていうだけの人も実は水俣病なんだって事になる訳ですよ、そうすると。で、脳の状況を見れば、CTスキャンとかMRIとかで。そうすると認定患者が増えてっちゃうんですよ、それだと。
(赤江珠緒)
うーん、うんうん。
(町山智浩)
そうすると賠償しなきゃなんなくなるんで、その人数をね。1万人以上の。だから、国とか県とかはそれを認めたくないと。言う事で戦いになっていく訳ですよ。その医学的な脳説、大脳皮質説と、それを認めない県とか国とかチッソとの戦いという事になりますね。この映画の基本的なストーリーはね。
(赤江珠緒)
そうですね。うん。
医学的な脳説・大脳皮質説VSそれを認めない県・国・チッソ
(町山智浩)
それで、これ監督は原一男監督という人でですね、この人は世界的なドキュメンタリーの巨匠で現在、76歳かな?はい。元々は田原総一朗さんと一緒にテレビ作ってた人なんですけども。
(赤江珠緒)
それはまたすごそう。
監督、原一男さんについて
(町山智浩)
すごそうですよね。(笑)で、1972年にですね、『さようならCP』というドキュメンタリーで世界的に注目されるんですね。CPって言うのは脳性麻痺の事なんですけども。で、脳性麻痺の人達が、あまり人目につかないように生活してた人達を、この原一男監督は表に引きずり出すんですよ。で、そんなんで別に恥ずかしい事じゃないんだ!と。自分が悪い訳じゃないんだからって言って、で、その人達がカメラに撮られるという事によって自分を解放していって、もう人がいっぱい歩いてる町の中に出てって、自分達の事を訴えるっていう映画が非常に強烈な映画で『さようならCP』なんですね。これで世界的に注目されて、あとその次に撮った『極私的エロス 恋歌1974』って1974年の映画は、これ原監督の元彼女が別の男の赤ちゃんを出産する、1人で出産する姿、自宅でね。それを原監督が撮ったという強烈な映画なんですよね、これもね。
(赤江珠緒)
えーーーっ!
原一男監督の代表作、ゆきゆきて、神軍
(町山智浩)
で、全世界的に興行的にも大当たりした衝撃作が、1987年の『ゆきゆきて、神軍』で。
(赤江珠緒)
あー!はい!
(町山智浩)
これは太平洋戦争中にニューギニア戦線に出ていた奥崎謙三という人がですね、そこであった非常に残虐な事件を調査していくんですね。で、まぁ日本兵達が飢餓のあまり仲間とかを殺して食べていた事実であるとか、部下をですね、上官が射殺するとか色んなまぁ酷い事件があったんで、それを奥崎謙三さんもその部隊にいた人なんですけども、それを追求していくのをずっと追っかけるんですよ、原一男監督が。ところが、そのうちの奥崎謙三さんは拳銃を持って、その上官を射殺しに行くという展開になってるんですね。
(赤江珠緒)
これは・・。
(町山智浩)
で、息子さんを逆に撃っちゃって、殺人未遂で逮捕されてって言うすごい強烈な映画ですよ。
(赤江珠緒)
そうですね。
水俣曼荼羅はテーマも重いし、見るのが疲れる?
(町山智浩)
それが『ゆきゆきて、神軍』という、まぁそういうのを撮ってきた人が原一男監督ですね。で、その人が水俣病について6時間半の映画を撮ったって聞くと、これは重いだろうと思いません?
(赤江珠緒)
うん、うん。しかも20年もかけていってね。
(町山智浩)
そう。これテーマも重いし、時間も長いし、これ見るの?って思わない?
(赤江珠緒)
思います。
(山里亮太)
さすがに。
(町山智浩)
キツくね?って思うんですよね、これね。
(赤江珠緒)
ちょっと凄まじい物になってるんではないかと。
(町山智浩)
ねぇ!金くれんだった見るよっていう人もいるかもしれないですね。
(山里亮太)
6時間半!拘束するから!(笑)
(町山智浩)
6時間半ですよ。水俣病について6時間半ですよ。この映画はね、すごく元気な映画でね、見てて楽しい時とか笑う時とか、いっぱいある映画なんですよ。
(赤江珠緒)
えーー・・。
この映画はすごく元気な映画で見てて楽しい時とか笑う時とかいっぱいある映画
(町山智浩)
全く飽きないんですよ。
(山里亮太)
6時間半・・!
(町山智浩)
はい。これね、出てくる人達はまぁ水俣病の患者さん達なんですけども、まずね、出てくる人がみんな元気。病気ですよ、水俣病ですよ。元気って、おかしいだろって思ったでしょ、本当は。これね、70過ぎた生駒さんっていう人が出てくるんですね。この人は15歳で魚を食べた為に水俣病が発病してしまって、手足がしびれて、もうブルブルブルブル震え続けて、もうしゃべる事もなかなか難しい人なんですけども。この人がすごいのは、自分の意志の力でものすごく頑張って、普通に働いて、30何年働いて子供2人を育て上げて。定年まで勤め上げて、今は自分で船買ったのかな?それで漁船で働いているというものすごいポジティブな人なんですよ。
(赤江珠緒)
えーー!今の症状を伺ってそんな・・!ねぇ。
登場人物の水俣病の患者さん達がみんな元気
(町山智浩)
で、この生駒さんって明るいの。そう。もう明るくて、楽しくて、そういう人なんですよ。患者なんですけども。本当に重い障害が出ている事が後で分かってくるんですけども、それを、なんていうか、明るさと強い意志で乗り切ってしまうっていう人なんですよ。
(赤江珠緒)
ふーん!
(町山智浩)
で、こういう人が次々と出てくるんですね。例えばその2009年に、210万円をあげるから、認定とかを求めないでくれっていう和解案を出されるんですね、患者さん達が。この210万円をかなりの人が受け取って、認定されないままその訴えを取り下げるっていう事が起こるんですね。で、その時にですね、90歳の川上さんという人が「こんなもんでは妥協できない!」って言って、戦い続けるんですよ。で、その時にね、原一男監督の声が聞こえるんですけど、撮影してる。すげぇ嬉しそうに、「いやー戦うんですね、よかったですね!僕もみんなが和解しちゃったから本当、悔しかったんですよ!」っていう原監督の声が聞こえてくるんですけど。
同じくドキュメンタリー映画の巨匠フレデリック・ワイズマン監督との違い
これね、前に紹介した、『ボストン市庁舎』っていう映画の監督の・・4時間半ありましたからねあれもね。フレデリック・ワイズマン監督は全く自分の気配を消して、インタビューもしないで、その彼が撮ってるっていう事を完全に消して撮る人なんですよね。
でも原一男監督はものすごくもう声が聞こえてくるんですよ。バンバン。で、原監督のこのね、元気さというか、それがすごくよくわかるのは、その有機水銀をね、水俣の海でね、今どうしてるのかって言うと、全部その海底から吸い上げてですね、陸上にあげて、その上に土を盛って埋め立てちゃってるんですね。で海岸の所にそのすごい危険な有機水銀を全部埋めて、それをまぁ海岸にあたる部分の所にはまぁ金属の板を水深10メートルぐらいの所まで立てて、それで海にそれが流れ出さないようにしてるんですよ。
(赤江珠緒)
ほー・・うん。
(町山智浩)
ただ、それ危険ですよね?そもそもね。金属が腐食したりするからね。
(赤江珠緒)
確かに、はい。
(町山智浩)
で、それを原監督は自分でタンクしょって、水中撮影してずっとその海底まで撮影しに行くんですよ。
(赤江珠緒)
えー!潜って、自分で。
(町山智浩)
76歳ですよ。なんて元気なんだこの人って思ったんですよ。
(赤江珠緒)
ほんとですね!
水俣病の坂本しのぶさん
(町山智浩)
すごいなと思ってね。でね、出てくる人がみんなね、原監督は元気だからなのか原監督が元気な人が大好きなのか、ちょっとあれなんですけども、みんなね、非常にポジティブなんですよ。でね、すごくね、重度の障害を持った坂本さんという人が出てるんですね。坂本しのぶさんって人、現在65歳なんですけど女性でね。で、ものすごく重くて、ちゃんとしゃべれないんですよもう殆ど。何を言ってるかも普通に聞き取れないし、体もすごく変形してしまっているんですけども。彼女がそのチッソとか県とか戦う時に1番、前面に出てくるんですよ。で、彼らと戦う時に1番前に出て行って、その権利を訴えるっていう女性がいるんですね。で、彼女は結構ドキュメンタリーとか、色んなのに出てるんで結構有名な人なんですけども、その坂本しのぶさんはですね、今まですごく色んな人達、たくさんの人達、男性達を次々に好きになる、なんて言うか恋多き女性なんですよ。
(赤江珠緒)
あーうんうん。
恋多き女性
(町山智浩)
で、彼女の周りに支援団体の人とかいっぱいいるじゃないですか。そういう人達が、次々とこの映画にも出てくるんですけども、まぁ結構いい男なんですけどどれも。すぐ惚れちゃう人なんですね。元気なんですよ。彼女も。で、この脳の研究をしてて、実は水俣病っていうのは脳に直接ね、障害を与えるんだっていう事を探求している、その浴野教授。これもねぇ。彼もものすごい元気なんですよ。で、実際のその水俣秒患者の脳を解剖したいっていうのが彼の気持ちなんですね。それで証明したいんだと。脳がやられるって恐ろしい事なんだと。水俣病というのは。で、やっと患者の方が亡くなる時にですね、私の脳を検体しますと。解剖して皆さんの認定を広げる為に役立てて下さいっていう事で彼に託すんですよ。脳みそを。亡くなった時に。すると、その脳をもらって、箱に入れて電車に乗る浴野教授がね、もうね、ワクワクするう!!みたいな感じなんですよ。
(赤江珠緒)
いやなんかちょっとなんか状況と、そうか、そういう感じになるのか。
テンションが上がる浴野教授
(町山智浩)
ときめくう!みたいな感じなんですよ。でね、それがね、やっぱりちょっとできなくなったりするんですけども、その後ね、また新しく水俣病患者の前田さんという方がやっぱり出てきて、私の脳を研究に使って、他の患者さん達を助けて下さいって言うシーンがあるんですね。そうすると、その場でね、私の脳を預けますって言ったその本人の前で、浴野教授はね、「いやぁ〜〜〜楽しみですねー!」って言うんですよ。
(赤江珠緒)
えーー!(笑)うわ〜すごいですね。
(町山智浩)
すごいですよ。「いや〜あなたの脳を解剖するの楽しみだぁ〜〜!」って言うんですよ。
(赤江珠緒)
まぁ心から本当に思ってらっしゃる事だし、そうだけど・・そうかぁ。
(町山智浩)
でも研究者ってそういうものですよね。でもこの人はいい事をする為にやってる訳ですよ、もちろん。
(赤江珠緒)
そうですね!
(町山智浩)
他の患者の人達を救う為なんですけど、もう超嬉しそうでね。もう出てくる人みんなね元気なんですよ、すごく。そこがね面白いんですけども。でね、さっき言ったすごく精神の力で、意志の力で、その障害を克服している生駒さんっていう人。の所にちゃんと・・さっき「子供が2人いる」って言ったんですけど、お嫁さんが来るんですね。でも、昔は水俣病っていうのは、すごく誤解があったり、差別があったり、偏見があってね。伝染るとか言われてて、人が近寄らなかったりしたんですよ。でも、そこにお嫁さんが来てくれたんですよ。だから本当にもう自分が結婚できるとは思わなかったからほんと嬉しかったみたいな話をするんですけど、そうするとね、原監督はね、そのインタビューの最中にね、「ねね!ね!初夜はどうでした?初夜は?」って聞くんですよ。
(赤江珠緒)
そこを聞いていく!?ほぉ〜。
原監督のインタビュー
(町山智浩)
もう、俺も爆笑しましたけどね本当に。(笑)なんなんだこの映画はと思いましたけど。するとね、その生駒さんは「いや、そんな。もうね、初めて女の人と一緒に寝るんだから緊張してそんなそんな・・そんな気持ちになりませんよ。」とか言うと、「そんなの嘘でしょう?嘘でしょう?」とか言うんですよ原監督は。「女の人が体をくっつけて横で寝てるんですよ、本当に緊張して?」とか言って。なんなんだこのやり取りは?って言うね。(笑)
(赤江珠緒)
ほんとだ。ちょっと想像したのと違う。
(町山智浩)
全然違うんですよこれ。
(山里亮太)
20年かけて撮ってるから、そういうのが許される時も?
原監督の人懐っこさ
(町山智浩)
そう。で、これ原監督のね、この何?人懐っこさ?みたいな物がすごくこの映画の前面に出てくるんですよ。明るさ、ポジティブな原監督自身の人柄が、本当にね映画にじみ出ていて。僕も何回かお会いしたんですけども、本当にそういう人なんですよ。本当に元気な人なんですよ。だから、『さようならCP』、さっき言った脳性麻痺の人の映画もそうなんですけども、『さようならCP』も、その彼に撮られてるうちに、俺も出ていくぜ!表に!っていう風になってくんですよね。撮られてる人が。
(赤江珠緒)
ふーん!うん!
(町山智浩)
その面白さがまず、あるんですよね。だから元気になる感じがあるんですよ。でね、もう1つはね、その原監督のね興味がね、「初夜はどうでした?」って言ってね、「じゃぁ、もうお子さんも大きくなった事だしね、もう1回新婚旅行に行きましょう!」って言って2人を新婚旅行に連れて行くんですよ、生駒さん夫婦を。そこがすごく、原監督のもう1つのテーマで、愛・恋愛みたいな物をものすごくね、他の人がやっぱり、水俣病とかいう事になると、病気の大変さみたいな事ばっかりになるんですけど、でもそうじゃなくて原さんは「で、愛の方はどうなってるの?」って聞いてくんですよ。そこがね、すごくこの監督独特の所でね。
(赤江珠緒)
あー・・そうですね。
「で、愛の方はどうなってるの?」
(町山智浩)
さっき言った坂本しのぶさんっていうのはまぁ非常にメディアにもよく出てくる人なんですよ。でも、本当は恋多き女性だみたいな所を原さんが掴むとですね、「今までどういう人が好きになりました?」「こういう人とこういう人とこういう人と」「じゃぁそれ全部会いに行こうよ!」って言って。
(赤江珠緒)
ははははは!
(町山智浩)
彼女が今まで好きになった男性の所に全部、会いに行くんですよ。(笑)
(赤江珠緒)
その発想がね。その偏見とか差別とかじゃなくても、そこまで全ての人にフラットな状況で感情を持てるっていうのはすごいですね、原さんね。
(町山智浩)
すごいんですよ。で、すると行くでしょう?すると、彼氏がね、やっぱり困った感じなんですけど。原監督は「でも彼女の気持ちに気付いてたでしょう!」とか言うんですよ。
(赤江珠緒)
小学生じゃないんだからって。(笑)
(町山智浩)
これ困るよね?次々に会いに行くんですよ。
(山里亮太)
へ〜え!(笑)
坂本さんの非常にロマンチックな恋の歌
(町山智浩)
これもすごいんですけど。でまた、坂本さんっていう人は非常にロマンチックな人で、恋の歌をね、ラブソングを作ったりしてるんですけども、それがまた非常に泣ける歌でね。「私もいつか、1人でアパートに住んでみたいな。」とかね。要する介護なしには生きられない人なんで。「私は今までいっぱい色んな人を好きになったけれども、1回も実りませんでした。」みたいな歌をね、歌うんですけども。その辺のね、普通のドキュメンタリーとかで突っ込まないその、愛とか恋に原監督はグイグイ突っ込んでいくんですよ。
(赤江珠緒)
そういう事か。
(町山智浩)
そう。あとね、イサヤマさんという女性がいて、この人はものすごく重くて、もう殆ど動けないんですよ。ただディズニーが好きで、そのディズニーのアニメとかをずっと、たくさん見てるんですね、この人が。で、そこで原監督は「一体何が好きなの?ディズニーの。」って聞くと、「シンデレラ」って言うんですね彼女が。で、「シンデレラのどこがいいの?」って言うと、「王子様が来て結婚してくれるから。」って言うんですよ。
(赤江珠緒)
わぁ〜。。
最後まで戦い抜く
(町山智浩)
あとさっきの川上さんっていうその・・「最後まで戦い抜く」って言った90歳の患者さんにね、「なんで戦うんですか?」って言うと、「女房も水俣病で亡くなったんです。」と。「実は私と彼女は駆け落ち同然で結婚して、あのカミさんに愛されなければ、私という人生はなかった。彼女のために戦うんです。」って言うんですよ。
(山里亮太)
ほぉ〜。。
(町山智浩)
だからね、これ全部ね、愛の話なんですよ。さっきの浴野教授もそうだけれども、とにかく脳を解剖するのが好きでしょうがないって言うね。だからこれ、何かを好きな人達の、ものすごいエネルギーとかパワーとか、そういった物に原さんはすごく吸い寄せられていく人なんですね。だから、この映画は水俣病についての映画でもあるんですけれども、これは、すごく人間讃歌で、「人間って素晴らしい」っていう映画でもあるんですね。
(赤江珠緒)
ほんとですね。
全部愛の話
(町山智浩)
はい。ただね、水俣病っていうのは水俣だけで起こってる事だと思ったら大間違いで、有機水銀って今世界中に広がってますからね。お子さんを妊娠された方だったらわかるんですけど。魚食べれないんですよね、子供ができると。だからこれは全ての人にとっての問題でもあるので、有機水銀の問題というのは。
(赤江珠緒)
そうですか。
(町山智浩)
だからそういう意味でも非常に全ての人が見るべき映画だろうと思います。はい。
(赤江珠緒)
ねぇ。6時間半を超えるのも、それはもう、やむなしっていう濃厚な映画ですねこれは。
(町山智浩)
はい。でもやっぱり人って素晴らしいなっていうね。本当に原一男監督の人柄がよく出た映画だと思いました。
(赤江珠緒)
ふーん!『水俣曼荼羅』は11月27日から渋谷シアター・イメージフォーラムほか、全国順次公開です。6時間30分だけに、お値段も少しは高めにはなってるんですね。前売りが3600円、当日3900円となっております。
(町山智浩)
2回、休憩があります途中に。
(赤江珠緒)
2回、休憩入りますか!
(町山智浩)
おしっこしないとなんないからね。(笑)
(赤江珠緒)
そうですね!はい。(笑)町山さん、ありがとうございました。
(山里亮太)
ありした!
(町山智浩)
どうもでした。
※書き起こし終わり
○○に入る言葉のこたえ
①水俣曼荼羅は上映時間が6時間半!
②水俣曼荼羅は撮影に約20年かかった水俣病についての映画
⑨これ全部愛の話なんです