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引用:IMDb.com

アイリッシュマンの町山智浩さんの解説レビュー

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2021年06月01日更新
非常にリアルなマフィア映画を作ってきた監督。命令通りに従った人生、歳を取って死ぬ時に思い返してみると、自分の人生は本当に俺の人生だったんだろうか?と。もう、みんなに見てほしいです、はい。(TBSラジオ「たまむすび」より)

映画評論家の町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』(https://www.tbsradio.jp/tama954/)
で、マーティン・スコセッシ監督の最新作『アイリッシュマン』のネタバレなし解説を紹介されていましたので書き起こしします。

映画視聴前の前情報として、また、映画を見た後の解説や考察レビューとして是非ご参考ください。

町山さん『アイリッシュマン』解説レビューの概要

①マーティン・スコセッシ監督は”子供の頃からマフィアの人達が隣のおじさん”等から、非常にリアルなマフィア映画を作ってきた監督。
②ロバート・デ・ニーロが演じる、アイリッシュマンと呼ばれた主人公「フランク・シーラン」が、死ぬ間際に告白したのは「ジミー・ホッファを殺したのは俺だ」。
③ジミー・ホッファは、○○○○と言われた男。
④マフィアの殺し屋の話だが、命令通りに生きてきた人生は本当に”自分の人生”だったのだろうかと、誰もが”自分の人生”について考えさせられる作品。
⑤CGを駆使しロバート・デ・ニーロ自身が75歳で30代の自分を演じている映像にも注目。

※○○の中に入る文章は、この記事の1番最後で公開しています。
TBSラジオたまむすびでラジオ音源を聞いて頂くか、書き起こし全文をご覧頂くか、この記事の1番最後を見て頂く事で判明します。

アカデミー賞にノミネートされそうな『アイリッシュマン』

(町山智浩)
今日はそろそろもうアカデミー賞にノミネートされそうな作品の季節になっているんですけど、はい。今回も候補にあがるだろうと思われている映画を紹介します!
これはマーティン・スコセッシ監督の『アイリッシュマン』という映画です。音楽どうぞ!

〜音楽♫〜

(町山智浩)

はい。これはマディ・ウォーターズという人の『Mannish Boy』という音楽なんですけども。今回のこのマーティン・スコセッシ監督の『アイリッシュマン』というのは、スコセッシという監督はずっとマフィア実録映画を作ってきた人なんですね?はい。というのはこの人ね、アメリカのマフィアの発祥の地であるニューヨークのリトル・イタリーで育った人なんですよ。

(赤江珠緒)
ふーん!うんうん。

引用:IMDb.com

スコセッシ監督は非常にリアルなマフィア映画を作ってきた人

(町山智浩)
で、もう体験的に子供の頃からマフィアの人達が隣のおじさんとか。学校の同級生がマフィアになったとか。そういう所で育った人なんで、非常にリアルなマフィア映画を作ってきた人です。で、この人の実録マフィア映画で有名なのは『グッドフェローズ』という映画があるんですけど、ご覧になっていますか?

(赤江珠緒)
いや、見ていないですね。。

(町山智浩)
あっ。この『グッドフェローズ』という映画はね、25年間ぐらいの実際にマフィアに入ってた、マフィアの下働きをしていた男のマフィア人生の回想なんですよ。

(赤江珠緒)
ふんふん。

実録マフィア映画『グッドフェローズ』

(町山智浩)
で、2時間ぐらいの映画なんですけど、25年間の悪い事を一杯したのをわずか2時間に詰め込んであるので、ものすごく面白い映画です。これは絶対に見てください。

(赤江珠緒)
へ〜〜!あぁそうですか!

(町山智浩)
で、その次に『カジノ』っていう映画を撮りまして、マーティン・スコセッシは。両方ともね、ロバート・デ・ニーロが主演なんですけども、ロバート・デ・ニーロもそういうところで育った人なんですよ。この人はイタリア人のお父さんと、お母さんはアイルランドかな?の混血なんですけども。ロバート・デ・ニーロは。で、『カジノ』という映画はこれ、ラスベガスのカジノっていうのはもともとマフィアが作ったものなんだっていう事をご存知ですか?

(赤江珠緒)
んー、でもそう言われると、そうか。

引用:IMDb.com

ラスベガスのカジノは元々マフィアが作った

(町山智浩)
あれ、砂漠のど真ん中にマフィアがお金を儲けられないかと思って作ったのが始まりで、そこから色んな会社が入っていって観光地になったんですけども、元々はヤクザが作ったものなんですよ。

(赤江珠緒)
そうーーですか、うん。

(町山智浩)
しかも最初のホテル作ったのは殺し屋の人が作ったんですよ。ラスベガスってそういう所なんです。その歴史を見ていくのがその『カジノ』っていう映画だったんですね?はい。今回はその実録マフィア映画三部作の三作目っていう事になるんですけども、『アイリッシュマン』というのは、タイトルは「アイルランド人」っていう意味なんですよ。

(赤江珠緒)
うんうん。そうですね。

マフィアはイタリアのシチリア島出身の人しかなれない

(町山智浩)
これちょっと変なのは、マフィアはイタリアのシチリア島出身の人しかなれないんですよ、マフィアに。

(赤江珠緒)
あぁそうですか。イタリアっていうイメージはありますねぇ。正式構成員はイタリア・・へぇシチリアの人!

(町山智浩)
マフィアにはなれないんです。シチリアの人しかなれないんですよ。だからアイルランド系の人とかユダヤ系の人達はそのマフィアの周辺にして下働きとか会計とかそういう仕事をするんですよ。はい。この今回の作品はロバート・デ・ニーロが主演なんですけども、彼はアイルランド人だから「アイリッシュマン」という呼ばれているんですね、あだ名で。で、彼のやっていた仕事は「ソルジャー」っていう仕事をしていたんですよ。マフィアにおけるソルジャーっていうのは兵隊の事なんですね。でマフィアっていうのは自分では人を殺さないんですよ。

(赤江珠緒)
えっそうなの?

引用:IMDb.com

アイリッシュマンの本名、フランク・シーラン

(町山智浩)
全部そういうソルジャーとかにやらせるんです。で、彼が、そのアイリッシュマンの本名はですね、フランク・シーランという人なんですけど。この人は1950年代からずっと30年以上に渡ってマフィアのソルジャーとして殺しや脅しや放火や破壊工作とか誘拐とかそういう事をずっとしてきたと。言うのを告白した本がありまして、それが原作なんですよ。

(赤江珠緒)
あっ・・このフランク・シーランは実在の人物?

(町山智浩)
実在の人物です。はい。で、この映画は老人ホームから始まって、その80歳ぐらいになったフランク・シーランが、過去を回想していくという形式になっています。で、この映画がアメリカにとってものすごく大騒ぎになって大論争が起こっているんですよ。何故なら、このフランク・シーランという人は大した人ではないんですよ。30人ぐらい殺していますけども人生の中で。でも、彼が死ぬ間際に告白したのは、「ジミー・ホッファを殺したのは俺だ」って告白したので大問題になったんですよ。

(山里亮太)
ジミー・ホッファ?

「ジミー・ホッファを殺したのは俺だ」

(町山智浩)
ジミー・ホッファは、”大統領の次に権力を持っている”と言われた男なんですよ。

(赤江珠緒)&(山里亮太)
えーーっ!?

(町山智浩)
でもこの人は1975年に行方不明になって、どこ行ったのか全くわからない、死体も出てない。で、誰が殺したのかもわからないので、アメリカ史の中でも歴史の謎と言われているのがそのジミー・ホッファがどうなったのか?っていう事なんですが、このフランク・シーランという人が「俺が殺した」っていう風に告白をしたんですね、1999年に。

(赤江珠緒)
うん!

引用:IMDb.com

アメリカで大問題に

(町山智浩)
で、すぐに亡くなったんですけども。本自体は2003年に出版されたんですが。それで「歴史の謎が解けた!」っていう風にも言われていて。でも、「これは嘘なんだ。彼が死ぬ間際に嘘をついたんだ」とも言われていて、今も論争が続いていて。アメリカでは大問題になっているんですよ。

(赤江珠緒)
へぇー!

(町山智浩)
というのはこのジミー・ホッファという男はものすごい人だったんですよ。で、しかもこのフランク・シーランは、「ジミー・ホッファを殺した」って言っているんですけども、実はジミー・ホッファのボディガードだったんですよ。

(赤江珠緒)
えっ?そんな近しい人だったの?

フランク・シーランはジミー・ホッファのボディガードだった

(町山智浩)
最も近い人だったんですよ。1番近い人だったんですよ。で、まずこのジミー・ホッファという人の話をしますと、この人は、アメリカの全米トラック運転手組合の委員長だった人です。なんでそんな人が大統領の次ぐらいに権力を持っているんだろう?って思うでしょう。アメリカの労働組合は、縦割りじゃなくて横割りなんですよ。だから、すべてのトラック運転手が全部この組合に入ってるんです。もし彼らがストライキをしたらどうなるか?アメリカが止まっちゃうんですよ。

(赤江珠緒)
あ、流通をすべて握っている?

引用:IMDb.com

ジミー・ホッファが物流を握っている

(町山智浩)
そう。物流を全部握っているんです。だからそれこそエネルギー、石油とかそういった物から、鉄鋼とかそういった物も運ぶ為に必要だし、商品も農業も、それでスーパーマーケットに食品を送るのも、何もかもをアメリカはトラックに頼っているんですね、アメリカは。

(赤江珠緒)
まぁそうですよね、あれだけの国土だし。うん。

(町山智浩)
そう。その運転手全員仕切ってるのがこのジミー・ホッファだったんですよ。

(赤江珠緒)
へぇー!

(町山智浩)
だから、大統領の選挙なんかにも影響を与えるような人物だったんですね?

(赤江珠緒)
あーっ!そうか。票田にもなったりするのか。

ジミー・ホッファ次第で200万の票が動く

(町山智浩)
そうそうそう、その通りなんですよ。この人がトラック運転手に「誰に投票しろ」って言ったら全員が動くんですよ。200万人ぐらいが。はい。で、この映画の中ではそれを演じているのはアル・パチーノです。

(赤江珠緒)
ああ、アル・パチーノがね、うん!

(町山智浩)
アル・パチーノは『ゴッドファーザー』から出てきた人ですね?だからずっとマフィアをやってる人ですよ。(笑)

(赤江珠緒)
そうですね、こっちもね。へぇー・・。

(町山智浩)
ロバート・デ・ニーロも『ゴッドファーザー Part2』でアル・パチーノのお父さんの役をやって出てきたんですよ。歳は同じぐらいなんです。だから2人ともマフィア俳優人生の総括としてこの映画に出てます。

(赤江珠緒)
ふふふ、すごい、はい。

引用:IMDb.com

ジミー・ホッファの生い立ち

(町山智浩)
で、このジミー・ホッファという人はね、ただの倉庫係だったんですけど元々。荷物の積み下ろしをしていたんですけども、自分達の要求を通すのにすごく組合闘争をするという度胸があった人なんで、トラックを運転した事もないのに、トラック運転手組合の委員長に抜擢されたっていう人なんですよ。

(赤江珠緒)
へーえ!うん!

(町山智浩)
で、この人がすごかったのは、どんな組合のストライキでも、まぁ日本も昔はそうだったんですが、必ずヤクザが潰しに来るんですよ。ストライキをしていると経営者がヤクザを雇って、「そのストライキをやめろ!」って来るんですよ。ね?日本でもそうでしたよ。ところが、このジミー・ホッファはヤクザが来ようがマフィアが来ようが、もう殴られようが刺されようが全然平気だったんですよ。

(赤江珠緒)
えー!うん。ひるまない?

ひるまずマフィアと癒着していった

(町山智浩)
ヤクザより強い男だったんですよ。そう、ひるまない。だから、組合の委員長になっただけではなくて、マフィアからも一目置かれるようになったんですよ。つまり、くじけない訳だから、マフィアとしても彼と取引をするしかない訳ですよ。そこからマフィアと癒着していったんですよ、ジミー・ホッファは。

(赤江珠緒)
おーっ!

(町山智浩)
だからストライキをやると、潰しに来ると、マフィアにお金を出したり、その逆があったり。要するにマフィアからお金をもらってストライキ辞めたり。癒着をしていったんですよ。

(赤江珠緒)
はぁー!

(町山智浩)
で、マフィアも「こいつはヤクザじゃないけども、ヤクザ以上になかなか度胸があるやつだ」っていう事で付き合うようになっていって、もうズルズルの関係になったんですね。で、1番ひどかったのは、トラック運転手達の老後の年金をみんなから集めたその年金のお金をヤクザに運営させてたんですよ。

(山里亮太)
えーっ?

引用:IMDb.com

年金の資金をヤクザに運営させる

(町山智浩)
そう。それでラスベガスにホテルを建てたりしてたんですよ。トラック運転手の年金で。でも、そんなに悪い奴でも手が出せないんですよ。アメリカの産業の1番重要なところを握っちゃっているから。で、ケネディ大統領はものすごくこのジミー・ホッファを潰さなければいけないっていう事で、弟のロバート・ケネディ司法長官と一緒に彼を徹底的に調査して、年金不正を発見して、裁判にかけて有罪にして1971年に刑務所にぶち込んでいるんですよ。

(山里亮太)
へーーっ!

ジミー・ホッファとマフィアの間にいたのがフランク・シーラン

(町山智浩)
はい。で、そのジミー・ホッファとマフィアの間にいたのがこのアイリッシュマン、ロバート・デ・ニーロ扮するフランク・シーランなんですね?彼も元々トラック運転手だったんですけども、途中からマフィアと付き合ってですね、そのマフィアの殺し屋をやるようになったんですね、ソルジャーを。で、その時にね、「ジミー・ホッファっていうやつがいるんだけども、彼の下でボディガードをやれ」ってマフィアの親分から言われて、で、するようになったんですよ。そしたら、ジミー・ホッファはとんでもない男だけどものすごい男気の塊のような人なんですね?で、男が男に惚れちゃうんですよ。

(赤江珠緒)
カリスマ性もあったんでしょうなぁ。

引用:IMDb.com

ヤクザもコントロールできなかった

(町山智浩)
そうなんですよ。で、カリスマ性があるからもう、すごいんですよ。アル・パチーノだし。で、家族付き合いをして兄弟仁義みたいになっちゃうんですけども。ところがこのジミー・ホッファが、ケネディによって逮捕されたから。で、マフィアの方としては「じゃあ、他の体制にしていこう」っていう事になったんですね。というのは、ジミー・ホッファはあまりにも度胸がありすぎて、ヤクザも彼をコントロールする事ができなかったんですよ。

(赤江珠緒)
はー!すごいっ!

(町山智浩)
だってマフィアの人と待ち合わせをした時にマフィアが遅れてくると、ジミー・ホッファはこう言うんですよ。「俺を待たせたのはお前が初めてだぜ」って。

(赤江珠緒)
はははははは。(笑)

(山里亮太)
すごいな。(笑)

(町山智浩)
マフィアに対して言うんですよ。「落とし前をつけてもらおうじゃねえか」って言うんですよ。

(山里亮太)
どっちがマフィアだっていう。(笑)

ニクソン大統領に賄賂を積んで釈放

(町山智浩)
で、マフィアもビビっちゃうんですよ、あまりにも度胸がいいから。でも全く操れなくなっちゃうんですよ。で、刑務所に入ったからまあ良かったと思って、違う委員長を代わりにしてね。「こいつだったらコントロールできる」と思っていたら、なんとこのジミー・ホッファはニクソン大統領に賄賂を積んで釈放をされちゃうんですよ。

(赤江珠緒)
えーっ!?

(町山智浩)
ニクソンっていう人はマフィアとゴルフをやっていたような人なんですよ大統領だけど。それで釈放をされて出てきて、「俺はまた組合の委員長になる!」って言い出すんですね、ジミー・ホッファが。ただ、マフィアの方は「お前はコントロールできないからもう辞めてほしいよ」って言うわけですけども。「関係ない。俺はやる!」と。「マフィアのやつら、お前らに言っておくけども、これ以上俺の邪魔をするならば、お前らが年金でひどい事をやった事も全部ばらして、全員刑務所行きだから。」と。それでマフィアを脅し始めたんですよ。

(赤江珠緒)
あらあら。はい!

引用:IMDb.com

Please take careの意味

(町山智浩)
で、マフィアのボスがアイリッシュマン、フランク・シーランに言う訳ですよ。「とっても困った事になった。頼むよ。」って。ヤクザにおいて、マフィアにおいて「なんとかしてくれ」とか「頼むよ」って言うのは「Take Care」って言うんですよ。「Please take care」って言うんですよ。「面倒を見てやってくれ」みたいな意味なんですけど。「殺せ」っていう事ですよ。

(赤江珠緒)
うわぁ。。

(町山智浩)
でも、アイリッシュマンは、フランク・シーランは、もう兄貴のようにジミー・ホッファを慕っている訳ですよね?という話なんですよ。

(赤江珠緒)
へぇ〜!

(町山智浩)
で、ずっとジミー・ホッファを殺した人は、ずーっともう1975年から、まぁ彼は行方不明になっていて死んだかどうかもわからなくなくて、「誰がやったんだろう?」って言われてたんですけども、この彼が、1999年に告白をしたんですよね、フランク・シーランが。という話なんですよ。

(赤江珠緒)
はー・・なんと。はいう。

殺し屋のイメージ

(町山智浩)
これね、アメリカがとんでもないな!っていうね、すごい話なんですけども。ただね、なんでこんなにね、たくさん、30人ぐらい殺しているんですよこのフランク・シーランは。アイリッシュマンは。でもね、「殺し屋」っていうとものすごい怖い人を想像しません?

(赤江珠緒)
思います、悪行三昧ですよこれ。

(町山智浩)
ね、すごく怖くて、「オラァァァ!」みたいな感じで、で、サングラスかけて黒いスーツを着ていたりする感じを想像するじゃないですか?全然違うんですよ、このフランク・シーランって。普通の人なんです。

(赤江珠緒)
わー、確かにね。

引用:IMDb.com

フランク・シーランは普通の人

(町山智浩)
すごい普通の人で、普通にお家があって、奥さんがいて子供がいて。っていう人なんですよ。で、殺しに行く時も、「あの、お父さん、出張だから」とかって言って人を殺しに行くんですよ。

(赤江珠緒)
うわあ、怖い、余計に怖い。

(町山智浩)
で、「ただいまー」つって帰ってくるんです。すっごいサラリーマンみたいなんですよ。で、なんでそんな人がたくさん殺せるんだろう?っていうのにもちゃんと説明があって。彼は第二次大戦の時に、兵隊に行って、ドイツの捕虜とかを自分の部隊が抱えた時に、隊長から「その捕虜、なんとかしとけ」って言われたんですって。

(山里亮太)
えぇっ?(笑)

第二次世界大戦で麻痺

(町山智浩)
で殺しちゃったんですよ。で、それを繰り返していくうちに麻痺してきたって言ってるんですね。で、マフィアに入った時も、「これは軍隊と同じなんだ。」と。「ただ、私は命令に従えばそれでいいんだ。」と。「そうすれば出世ができる」と。

(赤江珠緒)
で、言われたことはできちゃうんだ。えーっ。

(町山智浩)
そう。そういう事でやっていたんですよ。だから30人も殺しても精神的におかしくならないのは、「俺はこの人となんの関わりもない、ただ仕事だからって事でやってるんだ」って。で、逮捕されない理由もそれで、被害者との間に彼は全く関係性がないから、捜査線上にあがってこないんですよ。

(赤江珠緒)
へー!

(町山智浩)
大抵は殺し屋ってこういうタイプらしいんですね、実際は。

(赤江珠緒)
あー・・そうか。ただ、今回は、ジミー・ホッファでしょう?思い入れもあるんでしょう?

(町山智浩)
そうなんですよ!そう!だって自分の娘とかも、おじさんのように面倒を見てくれていた男なんですよ、ジミー・ホッファ。それを殺すという、初めて彼がそのモラルと格闘する事になるんですよね?という映画なんですけれど。これ、話を聞いているとおかしいなと思いませんか?ロバート・デ・ニーロって現在、75歳なんですよ。でもこれ、1950年代からだから30代からの役を誰がやっているのか?っていう事になるんですよ。

(赤江珠緒)
うんうん、そうですね。

ロバート・デ・ニーロが75歳で30代の役を演じる

(町山智浩)
ロバート・デ・ニーロ自身が75歳で30代の自分を演じているんですよ。

(赤江珠緒)
できます?30代、できます?(笑)

(町山智浩)
あのね、一応特殊メイクをして、CGで顔を加工しているんですけども。ただね、やっぱり75歳のおじいさんの動きなんですよ完全に。(笑)

(赤江珠緒)
ははは、そうか、動きはちょっとそうか。

仁義は守る

(町山智浩)
これ、歳取ってくると歩幅とか狭くなるんでね、それはコンピューターとかでは変えられなかったらしいんですけど。ただね、この75歳のロバート・デ・ニーロ。で、監督とかアル・パチーノもみんな80近いんですよ。その人たちの視点から、この映画が作られているというのは非常に重要で。これはだから、アイリッシュマンにとっては、もうすぐ死んでししまうから、老人ホームでね。一種のその”終活”として告白をしたらしいんですね。つまり罪悪感をずっと抱えたまま生きていって、もうすぐ天国に行く事ができないからですね?
で、彼もカトリックなんで、神父に懺悔をするようにしてこの話を回想しているんですよ。で、ここですごく面白いのは、ヤクザって正義はないですよね?法律を破っている訳だから。でも彼らは仁義は守るんですよ。つまり仲間は裏切らないと。正義じゃなくて仁義に生きている人だったのに、仁義すらもなくなっていくという。じゃあ、あとは何が残るのか?そう。もうなんも残らない訳ですよ。でもう、本当にただ虚しい、砂漠のような人生だったという事を回想していくっていう話になっていますね。

(赤江珠緒)
うわー・・そういう話?

(町山智浩)
そう。そういう厳しい話なんですけども、ただね、『グッドフェローズ』はものすごいテンポが良くてロックンロールみたいな感じでその25年間の殺しと爆破とですね、暴力を2時間で見せるっていうすごいスピード感のある映画だったんですけども、今回は3時間以上あります!

(赤江珠緒)
わっ!大作ですね!

演者も監督もおじいちゃんなので、映画のテンポはゆっくり

(町山智浩)
これね、やっぱりおじいさんのリズムになっています、映画が。ゆっくりしてます。(笑)やっぱり老人の感覚になっているんですけど、出ている人も監督もそうなんで。ただね、やっぱりこれはヤクザの話として見るだけじゃなくて、人生の話なんですよね。彼はだって、言われた通りにやってきたら、何もない人生が残っちゃったって事なんですよ。それってサラリーマンだったり、官僚の人だったり組織に入っている人はみんな、やってしまいがちなことですよね?組織の中で優等生である為に。だから何も考えないで従ってきたと。

(赤江珠緒)
うん。受け身の人生で。

(町山智浩)
で、命令だから全然自分の中にモラルとの葛藤はなかったんだけども、歳を取って死ぬ時に思い返してみると、自分の人生は本当に俺の人生だったんだろうか?と。上から言われた通り公文書を偽造したりね、してきたけども、じゃあそれを子供に誇れるのか、それをもってあの世に行けるのか、神様に会えるのか?っていう話なんですよ。自分として判断をしなかっただろう、個人として、何も!っていう話ですよ。

(赤江珠緒)
突きつけられますね!

(町山智浩)
という話ですよ。もう、みんなに見てほしいです、はい。

アル・パチーノとロバート・デ・ニーロ

(赤江珠緒)
これ、アル・パチーノとロバート・デ・ニーロが、またここで両雄並び立つみたいなマフィア映画としても、また味がありそうですね。

(町山智浩)
そう。盟友同士の。で彼らの、マフィア俳優人生の総括みたいな映画です。

(赤江珠緒)
そうなりますね!!『アイリッシュマン』は11月27日にNetflixで配信されます。また配信に先立って11月15日から、一部劇場でも上映が始まっているという事だそうです。実話という・・わぁ〜そうですか。

(町山智浩)
まあ、みんな、身につまされる内容だと思います。

(赤江珠緒)
そうなんだ・・。町山さん、ありがとうございました。

(町山智浩)
どもでした!

※書き起こし終わり


○○に入る言葉のこたえ

③ジミー・ホッファは、”大統領の次に権力を持っている”と言われた男。

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