ナワリヌイの町山智浩さんの解説レビュー
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映画評論家の町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』(https://www.tbsradio.jp/tama954/)で、『ナワリヌイ』のネタバレなし解説を紹介されていましたので書き起こしします。
映画視聴前の前情報として、また、映画を見た後の解説や考察レビューとして是非ご参考ください。
町山さん『ナワリヌイ』解説レビューの概要
①映画の存在自体を隠されていた映画
②ロシアでプーチン大統領に逆らい続けている、政治運動家のアレクセイ・ナワリヌイさんの暗殺を巡るドキュメンタリー映画
③巨大な城をこっそり築いていた、プーチン御殿を暴いた
④プーチンが最も嫌っている男、ナワリヌイ
⑤大統領選に立候補しようとしたナワリヌイを逮捕
⑥2020年、ナワリヌイさんは飛行機で呼吸困難に
⑦ノビチョクという毒物を盛られたのが呼吸困難の原因だった
⑧ノビチョクが発見され、ナワリヌイさんは○○だ
※○○の中に入る文章は、この記事の1番最後で公開しています。
TBSラジオたまむすびでラジオ音源を聞いて頂くか、書き起こし全文をご覧頂くか、この記事の1番最後を見て頂く事で判明します。
町山さん『ナワリヌイ』の評価は
(町山智浩)で、今日紹介する映画はですね、この間まで映画の存在自体を隠されていた映画です!
(山里亮太)へぇ!
(赤江珠緒)ふーん。
えぇ、『ナワリヌイ』という映画で、6月17日から日本公開なんですけれども、これはロシアでプーチン大統領に逆らい続けている、政治運動家のアレクセイ・ナワリヌイさんの暗殺。を巡るドキュメンタリー映画なんですね。これね、この間までこの映画が存在する事自体、作ってる事自体秘密になってたんですよ。それバレると関係者が殺されるかもしれないからです。
(赤江珠緒)ほーう。
(山里亮太)そんな危険な・・。
映画の存在自体を隠されていた映画
(町山智浩)はい。で、ナワリヌイさんっていうのはどういう人かっていうと、この人は45歳で結構いい男ですね。はい。この人は元々投資家だった人なんですけど、投資をしようとしたらロシアの経済っていうのは、政府と完全に癒着してて、マトモな投資なんかできやしねぇよと。(笑)マトモな商取引とか、できないし株主も何にも保護されてないしこれ完全な資本主義がちゃんと動いてないって事で、ロシアの企業と政治家の汚職を暴く仕事に彼は変わっていったんですね、ナワリヌイさんは。こんな所じゃ投資なんかあり得ないだろうと。根本的に社会を直さなきゃなんないんだって事でね。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)で、最終的には大統領選で、プーチンに対抗して立候補するんじゃないかと言われるとこまで人気を集めていった人なんですよ。ただ彼がやってる事っていうのはプーチン周りの汚職の暴露なんですね。次々と色んな証拠を押さえてて、例えば国営の石油会社がどれだけヒドイ事をしてるかとか、最近すごく話題になったのはプーチン御殿を暴いたんですね。
(赤江珠緒)うんうん!
プーチン御殿を暴いた
(町山智浩)これは日本でも報道されたと思うんですけれども。黒海のですねリゾート地にですね。1400億円という価値のですね。巨大なお城をプーチンがこっそりと築いてたというのを暴きまして。国民の金を使って何をやってるんだと。いう事で、そういうのを暴き続けてるんで、プーチンが最も嫌っている男がナワリヌイさんなんですね。
(赤江珠緒)へ〜え。
(町山智浩)で、彼がですね。大統領選の前にモスクワ市長選に立候補しようとした時があって2013年に。この時はまぁ善戦したんですが落選したんですが。その時に立候補をしようとするのを妨害する為に詐欺で逮捕したんですよ。ナワリヌイを。この詐欺ってのが謎でね。フランスの化粧品会社の、イヴロシェという所からお金をパクッたっていう罪で逮捕したんですが、パクられたって言われている会社の方は「いや、うち別に金、取られてないですけど」って言ってんですよ。
(赤江珠緒)おかしな話じゃないですかあ!
(町山智浩)おかしな話なんですよ。で詐欺罪でパクッたんですね。その後も、まぁ大統領選に立候補しようとすると、彼を逮捕すると。いうのを繰り返して、とにかく選挙に出れないように逮捕するという事をずっとやってるんですが。この間もですね、3月22日に彼は9年の刑を受けましたね。
(赤江珠緒)えー!
大統領選に立候補しようとしたナワリヌイを逮捕
(町山智浩)で、この9年の刑とは一体何なのかっていうと、彼がやっていた反汚職団体の反汚職財団が、テロ組織に認定されたんですよ。
(赤江珠緒)ええっ?
(町山智浩)プーチン政権によって。で、彼はテロリストという事になってしまって、それでテロリストと取引をしてたって事で逮捕なんですね。
(山里亮太)えーっ!
(赤江珠緒)そんな、何とでもできちゃいますねこれは。
(町山智浩)何とでもできるんですよ自分に気に食わない事があれば「あれはテロリスト団体なんだ」と。認定をすればいいだけなんで。まぁそういう事がずっと行われているんですが、とにかくプーチンはナワリヌイが悔しくてしょうがない訳ですよ。自分のお金関係の汚い事ばっかりを暴いていく訳で。で、2020年に彼がシベリアの方に仕事で行った時にですね、帰りの飛行機で突然、ナワリヌイさんが呼吸困難に陥って、殆ど死にかけたんですね。
(赤江珠緒)あー!これはニュースでもありましたね。あの方ね、ナワリヌイさん。はい。
2020年、飛行機で呼吸困難に
(町山智浩)はい。飛行機に乗ってる最中にね。で、途中で飛行機が緊急着陸をして、病院に担ぎ込んでですね、まぁ彼は助かったんですけれども。その原因は一体何なのか、なんでそんなんになったのかっていう事で、ちゃんとした調査をしてほしいと言ったんですが、まぁロシア国内ではそんな調査は、まぁされない訳ですよ。で彼は、ドイツに行きまして。ドイツでちゃんと体の検査をしてもらったら、体内からある毒物が発見されたんですね。それが”ノビチョク”という物質なんですよ。
(赤江珠緒)はい。
(町山智浩)で、このノビチョクっていうのはロシアが開発した特殊な神経毒なんですね。
(赤江珠緒)えー・・!
(町山智浩)で、これをやられると、呼吸困難とかになって自然死のように死ぬんで、証拠が出ないという物なんですが。体内からその痕跡が発見されて、ノビチョクによって彼が死にそうになった事がわかるんですよ。それを知った時にね、死のギリギリの所まで追い詰められたそのナワリヌイさんがね、「なんだ!」って喜ぶんですよ。
(赤江珠緒)えっ!?
(町山智浩)この映画の中で。
(赤江珠緒)どうして?
(町山智浩)バッカだなー!って。こんなの使ったらプーチンがやったってバレちゃうじゃないかって。
(赤江珠緒)まぁそうか。
毒物ノビチョクで暗殺されそうになり、喜ぶナワリヌイさん
(町山智浩)ピストルで撃てばよかったのに!って言うんですよ。
(山里亮太)うわっ!すごいな!
(赤江珠緒)すごいですね、このナワリヌイさん。
(町山智浩)この人ね、ちょっとね、度胸も据わってるしユーモアがあるんですよ。
(赤江珠緒)へ〜!そんな肝が据わってる。
(町山智浩)そう。でも確かにそうで。ノビチョクって今までプーチンしか使ってないので。
(山里亮太)はえー!
プーチンしか使っていないノビチョク
(町山智浩)それで証拠になっちゃうんですね。2018年に、ロシアのスパイがロシアを裏切って、イギリスに亡命した事があって。それをイギリス国内で殺そうとしたんですよ、ロシアのスパイが。で、その時にノビチョクの存在がですね、証拠が見つかったんですね。イギリス政府によって。だからノビチョク使ったら、プーチンがやったに決まってる訳で。何やってんだー!って笑っちゃうんですけど、ナワリヌイさんが。このドキュメンタリーはそういうね、なんかナワリヌイさんのね、度胸の据わった所がよくわかって面白いですね。で、奥さんとね、娘さんと息子さんと4人で非常に仲良くして、4人で家族で戦ってるんですよ。
(山里亮太)へぇ〜!
(赤江珠緒)すごい事ですね!
家族総出でプーチンと戦う
(町山智浩)奥さんもね泣いたりしてるんですけど、やっぱりこんな事ばっかりあるからね。でも息子さんもね、ブロガーとしてロシア政府と戦ってるし、娘さんもね、TikTok動画を使ってですね、やってるしね。家族全員で仲良くプーチンと戦ってるんですけども。で、ベルリンにいる訳ですね、そのドイツのね、体の検査の為に。で、そこでこの監督と会うんですよ。この映画のドキュメンタリーの監督はダニエル・ロアーっていう人なんですが、この人はカナダ人で。元々、べリングキャットという団体のドキュメンタリーを撮ろうとしてベルリンに行ってたんですね。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)で、そこにたまたまナワリヌイさんが来たんで映画になっちゃったっていう展開なんですが。このべリングキャットっていうのはね、世界中に色々ある嘘の情報を暴いていく、なんて言うかネットでみんなの知恵を借りて暴いていくオープンソースジャーナリズムというのをやってる所なんですね。べリングキャットの”べリング”っていうのは”ベル”。”ベルを付ける”っていう意味ですね。
(赤江珠緒)あ〜はい。じゃあ猫に鈴を付ける?
(町山智浩)そう、猫に鈴を付ける仕事なんで、べリングキャット(bellingcat)って言っているんですよ。
(赤江珠緒)なるほど!
世界中に色々ある嘘の情報を暴いていく集団、べリングキャット
(町山智浩)普通、猫に鈴を付けるのは誰なんだよって言われますけど。お前やれよみたいな。いや、やだよっていうね。でも「俺達がやるよ」っていう団体なんですよ。で、今までにいくつもの嘘を暴いてきて、例えばシリアの空爆にロシアが参加した時に、色んな使っちゃいけない武器をいっぱい使ったんですね。クラスター爆弾だの、いろんなリン剤とか、そういうのを全部暴いたりね。してるんですけど。ネットに寄せられる色んな情報から、科学者とか専門家の知識とか、あとコンピュータの詳しい人とかから、偽情報とか、あと作られたフェイクニュースっていっぱいありますよね。
(赤江珠緒)そっか。うん。
(町山智浩)それを暴いたりする、プロフェッショナルのエキスパートの力を借りてね。それがべリングキャットという団体で。最近はですね、ウクライナ戦争でね劇場に逃げ込んで行って避難してた人達がいる所をロシアが空爆して皆殺しにした事件がありましたけど。
(山里亮太)はいはいはい。
(町山智浩)あれはロシア側が、「いや、そんな事うちはやってないよ。あれはウクライナ側の自作自演だろう」って言ってたんですけど、それはロシアが実際にやった事だと暴いたりね。
(山里亮太)えーっ!
(町山智浩)このべリングキャットがね。あの、産院ね。産婦人科の病院ですね。を、ロシアが空爆した事件。これもロシアが「いや、こんな事うちやってないから。ウクライナのニセのプロパガンダじゃね?」とか言ってたんですけど、それも実際にロシアがやったっていう事を暴いたりね。
(赤江珠緒)へぇ〜・・!
2014年のマレーシア旅客機墜落事件も
(町山智浩)すごくてね。この人達、すごいのはね、2014年にウクライナにロシアが攻め込んだ時に、その上空を飛んでいたマレーシアの旅客機が墜落した事件がありましたよね。あの時にあの、ロシアは「ウクライナ側が地対空ミサイルを撃って、誤射して、マレーシアの旅客機を撃墜しちゃったんだ」っていうふうにロシアが主張したんですが。「いやそうじゃない。」と。その近くのロシアの基地からミサイルが発射されてるデータを持ってますって言ってべリングキャットが暴いたんですよ。
(赤江珠緒)へぇ〜〜!
(町山智浩)で、今回もすごくてですね。ナワリヌイさんが、シベリアの方に行った時に、そっち方向に行ったらしいロシアの秘密警察があるんですね。昔KGB(カーゲーベー)って言ってたんですけど、今も存在するんですKGBは。名前だけ変えただけでFSBっていう団体になってるんですけど、KGBなんですよ。ロシアの秘密警察だった所が。で、FSBの関係者の中に5人の殺しのプロがいて、その5人がこれに関係してるらしいって事をハッキングとか色んな事して暴いちゃうんですよ、このべリングキャットが。ただ、5人のうち誰がやったのかがわからないと。どうしようっていう事で、5人の携帯の電話番号も手に入れたって言うんですよベリングキャット。
(赤江珠緒)すごいなべリングキャット。
(町山智浩)そうなんですよ。で、電話しましょうって話になって。どうやって毒を盛られたかわかんないんですよ、このナワリヌイさんは。何も飲んだ覚えがないしね。で、電話をしちゃうんですよ。本人が。ナワリヌイさんが。
(赤江珠緒)えっ!ナワリヌイさんが!?
(町山智浩)殺し屋に。
(山里亮太)殺し屋に。(笑)
犯人にナワリヌイさんが直接電話する展開に
(町山智浩)殺し屋の携帯に。(笑)でね、「私はFSBのナントカ部のナントカ室長なんだけども、ナワリヌイの暗殺に失敗したそうじゃないか」と。「どうして失敗したか、ちゃんと説明してくれないか。」と。「調書を作らなきゃなんないんだ、上司に報告しなきゃなんないんだ」って芝居をするんですよ。「どうして君は失敗したんだね」って言ってね。で、そこで、そのコンスタンティン・クドリャフツェフっていう化学の専門のスパイというか、FSBの職員がですね、「いやいやちゃんとやったつもりなんですけども。飛行機で途中で降りられちゃって、それで治療を受けたんで生き延びちゃったんで。あれがもうちょっとね、タイミングが合ってれば殺せたはずなんです」っていう風にしゃべっちゃってんですよ。
(赤江珠緒)ええっ・・。嘘のような・・なんて言うんでしょうそう言うの。。映画っていうか作った話みたいな。でもドキュメンタリーですもんね、これ。
(町山智浩)ドキュメンタリーなんですけどね。そう。で、「これ書類を作らなきゃなんないんで、どうやって彼に毒を吸わせたのかね、ちゃんと報告してくれないか」って聞いたら、ホテルに忍び込んで、要するに政府の役人だっていう事でもってホテルに入って、彼の着替えのパンツの縫い目の所に毒を染み込ませたって彼しゃべっちゃうんですよ。
(赤江珠緒)ええっ!あぁ、飲ませたんじゃなくて?
(町山智浩)飲ませたんじゃなかったんですよ。パンツに毒が染み込んでたんです。
(赤江珠緒)えーー!
(町山智浩)というね、すごい展開になってくんですけども。
(赤江珠緒)手口を犯人が本人にしゃべったの?
(町山智浩)殺し屋本人が、殺そうとした相手にしゃべっちゃう。
(赤江珠緒)なんという。。
(町山智浩)そんな事ってないですよね、普通ね。
(赤江珠緒)そうですよね。考えられない事だらけですね。
すごい展開に
(町山智浩)殺されそうになった本人が聞いてんですよ。ふーん、そうなんだぁ。そうやったんだとか言って。すごい展開になってるのがこのドキュメンタリー『ナワリヌイ』なんですけども。で、こういう自分が殺されるっていう事になっているにも関わらずですね。国に帰るんですよ、ナワリヌイさんは。
(赤江珠緒)ええー!もう亡命した方が。。
(町山智浩)亡命した方がいいと思うんだけど、まぁそれじゃダメなんだって事であえて帰るんですけども。刑務所に入れられて、今ね、9年の刑を受けてますけど。
(赤江珠緒)わっ・・。その禁錮9年の刑は確定して、刑務所に入ってる?心配になりますよ、それ。
(町山智浩)まぁ勇気ある人ですね。奥さんもそれを受け入れてるんですよ。理解ある奥さんですけどね。とにかくね、勇気ある人なんですが、非常にユーモアがあるんですよね。そういう点で。ちょっとふざけてるように見えるとこがすごいんですね。
(山里亮太)このテーマで?(笑)
(町山智浩)そう。「パンツに入ってたんだってよ〜!」みたいな事言ったりしてるんですよ。(笑)それでまたその、電話をYouTubeに流しちゃったんですけど。そのおかげで、うっかりしゃべっちゃったクドリャフツェフさんは今、行方不明ですよ。
(赤江珠緒)もう。。まぁそれはそれで怖い話が。。あらぁ。。
(町山智浩)恐ろしい。なんでもアリだなプーチンっていうね。まぁすごい話で。それが『ナワリヌイ』というドキュメンタリーで、もうすぐ公開ですね。日本で6月・・?
(赤江珠緒)はい。6月17日から、新宿ピカデリー他で公開スタートという事で。
(町山智浩)だから本当にね、パンツは気をつけた方がいいですよ。
(赤江珠緒)(笑)
(町山智浩)昔、勝新太郎さんはもう2度とパンツは履かないって言ってましたよ、薬が入ってるかもしんないからって言ってね。
(赤江珠緒)ありましたけど。(笑)
(山里亮太)伝説の会見ね。(笑)
(赤江珠緒)いやでもこれ、今まさに起きている事とは思えないね。なんなんでしょうこれは。この世界は。
(町山智浩)これが現実なんですね、ロシアの。はい。『ナワリヌイ』でした。
(赤江珠緒)はい!6月17日から公開でございます。町山さん、ありがとうございました!
(山里亮太)ありしたーっ!
(町山智浩)どもでした!
※書き起こし終わり
○○に入る言葉のこたえ
⑧ノビチョクが発見され、ナワリヌイさんは喜んだ