この世界の片隅にの町山智浩さんの解説レビュー
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映画評論家の町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』(https://www.tbsradio.jp/tama954/)
で、片渕須直監督の『この世界の片隅に』のネタバレなし解説を紹介されていましたので書き起こしします。
映画視聴前の前情報として、また、映画を見た後の解説や考察レビューとして是非ご参考ください。
町山さん『この世界の片隅に』解説レビューの概要
①2016年、町山大賞として発表した『この世界の片隅に』。町山さん大絶賛。
②第二次大戦中の広島を舞台に、呉にお嫁に行った18才の女の子、「すずちゃん」の日常の物語。
③第1の魅力は”のん”さん演じる声の魅力。
④第2の魅力は風景の美しさ
⑤第3の魅力は、戦時中の食料が欠乏している生活を楽しそうに描いてる。
⑥虫を使った演出にも注目。砂糖がなくなったのに虫は甘い蜜を舐めている。戦争中だけど夏は来てるし自然は普通通りにやっている。
⑦兵器描写がリアルなので、「艦これ」や「ガルパン」等が好きな方にも見て頂きたい作品。
⑧○○○○に向かって突き進む話なんですよ。だから見ててものすごい、あの、見ている方だけサスペンス。本人達はあまり感じていない。
※○○の中に入る文章は、この記事の1番最後で公開しています。
TBSラジオたまむすびでラジオ音源を聞いて頂くか、書き起こし全文をご覧頂くか、この記事の1番最後を見て頂く事で判明します。
(町山智浩)
で、今日はですね、本年度、レコード大賞じゃなかったごめんなさい間違えた。(笑)町山大賞!町山大賞の発表です!
(赤江珠緒)
町山大賞?わぁーっ!
町山大賞受賞『この世界の片隅に』
(町山智浩)
『この世界の片隅に』アニメーション映画ですねっ。
(赤江珠緒)
ここに来て来ましたね!
(町山智浩)
はい。これはもう、1億円もらってもこれにあげたいという。よくわからないですけど。(笑)
(山里亮太)
どういうシステムかわからないですけども!
こうの史代さんという人の漫画の映画化
(町山智浩)
そういうシステムなんですけども。(笑)で、これはどういう映画か?といいますと、こうの史代さんという人の漫画の映画化なんですが。ざっと説明すると、第二次大戦中の広島を舞台に、こうのさん自身が広島の方なんですね。で、呉にお嫁に行った18才の女の子、すずちゃん。の、日常の物語、です。ただですね、この映画がすごいのはまずですね、普通のファンの人によって作られた映画なんですよ。『この世界の片隅に』って。
これ監督がですね、片渕須直さんという監督なんですか、この前に作った映画が『マイマイ新子と千年の魔法』というアニメーションで、そちらの方もね、殆どメディアで取り上げられなくて、それでまぁ、ひっそりと公開されたんですが、口コミで「いいよ!いいよ!」という感じで話題が拡がっていって、最終的にはカルトヒットで、かなりロングランになったというアニメーションで。で今回ですね、『この世界の片隅に』にもインターネットで「この映画を見たいという人、お金を寄付してください」っていうクラウドファンディングでお金を集めてですね、で、そのお金を使って短い短編のテストフィルムを作って、パイロットっていうんですが、そを作って、で、それを出資してくれる人に見せて出資を募ったと。
(赤江珠緒)
あっそうなんですね。じゃあ本当に草の根というか・・ねぇ。
手作り映画
(町山智浩)
草の根で作られた、本当にもう手作り映画なんですけれども。TBSラジオもその時にパイロットを見て出資しているんですね。で、この映画ですね、本当にすごいんです。
(山里亮太)
いやー、僕らも見ました。むっちゃくちゃよかったです!
(町山智浩)
ご覧になりました?
(赤江珠緒)
よかった。本当によかった。
(町山智浩)
涙ボロボロでした?
(赤江珠緒)
はい。もう泣きました。
本当に素晴らしい映画
(町山智浩)
ねぇ。本当に素晴らしい映画なんでね。で、町山大賞ってなんの権威もないです。(笑)
(赤江珠緒)
ふふ、なんて言うんだろう?やっぱり、ねぇ、戦争を題材にした映画とかアニメとか、色々とありますけども、ちょっとまたこう、一味違うというかね。
(町山智浩)
違うんですよ。普通に生きてた女の子の目から見ているんですね。で、この映画見てね、たぶんね、1番みんな気がついたのは、もんのすごいテンポがいい。
(山里亮太)
そう!
(町山智浩)
パッパッパッパッパッパッと進んでいくんですよ。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』タイプの編集ですよね。で、今までだったらゆったりゆったり行くと思うんですけど、すごいスピードで話が進んでいくんですけど、ゆったりしているんです。
(山里亮太)
そう!なんでなんですかね?あれね。なんか・・
(赤江珠緒)
ね!登場人物のすずちゃんがちょっとおっとりしててね。
トロくせえな、このアマ
(町山智浩)
おっとりした、本当にトロい、「トロくせえな、このアマ」っていう感じの女の子なんですけども。(笑)
(赤江珠緒)
そこまで言わんでも。(笑)
(山里亮太)
でもそれがまたいいのよ!
(赤江珠緒)
ちょっと夢見がちなね、すずちゃん。
(町山智浩)
ホワーっとして、フンワカしててね、ホワーッとふんわりと笑っているんですよね。
(赤江珠緒)
絵を描くのが好きなのーっていうね。
(山里亮太)
その子がね、時折っていうかね、パッと見せるすごい所とかが、もう・・
「ありゃ~」って顔
(町山智浩)
そうなんです。で、失敗するじゃないですか。このすずちゃんが。失敗する時、「ありゃ~」って顔をするでしょう?あの、「ありゃ~」顔!僕、今絵に描けるんですが!
(山里亮太)
絵に描いてますよ!
(町山智浩)
絵に描けるんですけども。この顔!「ありゃ~」顔! これテレビじゃなくてすいません。全くラジオで意味のない。(笑)「ありゃ~」顔がもうかわいいんですよ!このすずちゃんの。ねぇ。このフワフワの女の子の声を入れてるのが、吹き替えているのが、能年玲奈ちゃん。今「能年玲奈」ちゃんって言っちゃいけない。
(赤江珠緒)
改め、のんちゃんですね!
(町山智浩)
『千と千尋』状態になっていますけども。(笑)もう本当に一体となっているんですよ。2人が。
(赤江珠緒)
そうそうそう!
(山里亮太)
ピッタリ!
(町山智浩)
ピッタリ!本人が出ているような感じですよ、本当に。
(赤江珠緒)
で、あの言葉も広島弁なんだけど、すっごくお上手で。
(山里亮太)
わかんないよね!
(町山智浩)
すごく自然。ホワホワ、フワフワしたね。
(赤江珠緒)
そう柔らか〜い感じのね。
第一の魅力は声の魅力
(町山智浩)
すごく困ることがあっても、「困ったなあ~」って言って笑っているんですよね。それがまたいいんです。まぁ第一の魅力はその声の魅力ですね。魅力がいっぱいある映画で、それを順番に言っていきますと。
(山里亮太)
はい!
(町山智浩)
まず、このすずちゃんは15才の時1941年に太平洋戦争が始まるんですよ。で1944年に18才になって会った事もない男の子と結婚をすることになるんですね。
(赤江珠緒)
見初められて。
自分が嫁入りする嫁入り先の名字も覚えていない
(町山智浩)
見初められて。自分は覚えていないんですけど「一目惚れした」っていう男の子の所で。それが広島からちょっと離れたところにある街で、呉という街で、呉市にお嫁入りに行くんですけど。またこの子、すずちゃんがもう本当にボケてて、自分が嫁入りする嫁入り先の名字も覚えていない。(笑)自分がどこの家にお嫁に行くのかがわかっていない。(笑)
(赤江珠緒)
そうそう、住所も「ええと、こちらのお宅は住所なんでしたっけ?」みたいな。(笑)
(町山智浩)
そうそうそう。で自分が誰に結婚を申し込まれているかもわかっていないのに行くんですよ。とにかく逆らわないんですよ。すずちゃん。で、にこにこと「はは~」とか言いながら、「困ったなあ~」って言いながらどんどん状況に流されていく子なんですけども。それでまぁ、呉っていう所がね、海軍の街なんですよね。で、海軍の基地もあるし、工場があって、軍港もあって、戦艦大和もそこで作った所なんですね。で、そこで働いているんですね、旦那さんが。で、その呉の風景がですね、呉と瀬戸内。広島出身なんですよこの女の子は。で最初に住んでいる広島の海とか、もう瀬戸内の風景がすーっごいきれい。
(赤江珠緒)
そうですね・・!
(町山智浩)
この映画の魅力の2つ目は風景の美しさです。
(山里亮太)
表現の仕方がいいんですよね!また景色の。
(赤江珠緒)
当時の広島って、こんな感じなんだっとかいうのが・・
この映画の魅力の2つ目は風景の美しさ
(町山智浩)
そうそう、デパートがあってサンタさんがいて、オモチャがあってお菓子があって本当に今と全く変わらない広島なんですよね、戦前の広島はね。それも綺麗だし、あ、そうそう。広島の街とか呉の街は、実際に写真を撮ったものを元にしただけじゃなくて、そこに住んでいた人とかにインタビューをしていて、全部本当にあった通りに再現しているらしいんですよ、監督が。
(赤江珠緒)
なんかやっぱり広島は焼けた物が殆どだから、写真とかもなかなか残っていない中で、ね。色んな方の話を聞きながら再現されたそうですね。
(町山智浩)
あのね、道を普通に歩いている人とかも、全部、特定しているらしいんですよ。
(山里亮太)
えぇっ!!
(赤江珠緒)
あ、このお店にこういう人たちがいて・・。
水彩画のようなね
(町山智浩)
そうなんですよ。存命している人たちにインタビューしていって、ただのモブじゃない、群衆じゃないらしいんですよ。これはまあ、片渕監督がすごいこだわりの人なんで。で、またその風景がすごく綺麗なのは、すずちゃんは水彩画を描くのが大好きなんですよ。絵を描くのが大好きで。で、彼女が瀬戸内の風景を描いた絵のまんまのような風景なんですね。この映画の風景が。水彩画のようなね。それがまたほんわかと淡い色で。で、線も柔らかいですね。人の体の。
(赤江珠緒)
そうですね。
(町山智浩)
で、その柔らかい、あわ〜い感じがすごい綺麗なんですよ。
(赤江珠緒)
うん。でね、瀬戸内、私も兵庫県なんで瀬戸内の方ですけど、瀬戸内の海の色合いってあんな感じなんですよ。夕焼けとか夕陽がかかると、あのあたりやっぱり穏やかなので、同じ海でも全然違ってあの色合いなんですよ。本当に。
(町山智浩)
あれ、でも濃い青ですよね?かなりね。
(赤江珠緒)
うん。で、そこにオレンジがファーッとかかったような、あの柔らかい色合いなんですよ、海が。
虫がすごくいっぱい出てきたの気がつきました?
(町山智浩)
はいはい。あーー。その海と空とね、青い空とね、白い雲の風景がすごく綺麗で。あと、すごく動物とかね、ヒバリが鳴きながら空を飛んでいったり、白鷺がね、いたり。あと、虫がすごくいっぱい出てきたの気がつきました?
(山里亮太)
あのアリンコ?
(赤江珠緒)
そうね、アリンコね。
(町山智浩)
アリンコ!アリンコのシーンも笑うんですけど。あとトンボ。ねぇ、ミツバチ。で、チョウチョ。あとカブトムシとか出てくるんですけど、それがね、全部演出で、そのシーンの裏の意味をこう描いているんですよ、よく見ると。この映画ね、すごいのはね、僕3回見直したんですけど、3回ごとに新しい発見があるんですよ。
(山里亮太)
えぇっ!
(赤江珠緒)
そうですか。
新しい発見がある
(町山智浩)
で、例えば砂糖がなくなっちゃうシーンてのがあるんですけど、ネタバレしないように言いますけども。そうするとその時にその甘い木の蜜を吸っているカブトムシが一瞬映るんですよ。カブトムシは甘い蜜を舐めているのに、なぜ人間が砂糖も食べられない状況なの?戦争ですけども。
(赤江珠緒)
ああーっ!そっかー!
(町山智浩)
そう。人間がひどいことをやっていると、楽しくチョウチョとかトンボが飛んでいるんですよ。
(赤江珠緒)
あっ、そうだ!そう。で、今戦争中だけど、夏はきているし、本当に普通の生活っていうか、自然は普通通りにやっているのにみたいな。
(町山智浩)
そう!そう!そう!自然は関係ないよっていうね、まぁ色んな意味が虫に込められているんで、虫ファンは!違うか。(笑)
(山里亮太)
虫ファンいますよ!ここに。
(赤江珠緒)
うん、わかるわかる。
戦時中の食料が欠乏している生活を楽しそうに描いてる
(町山智浩)
もうひとつね、魅力はね、これね、戦時中の食料が欠乏している生活なんですけども、楽しそうに描いてるんですよ。
(赤江珠緒)
そうですね、うん。
(山里亮太)
笑える所ありますもんね、食事の・・
(町山智浩)
そうそう、もう食べ物は本当になんにもないから、途中から道端に生えているタンポポを抜いて、それを料理にしなきゃなんないような状況になるんですけども。でも、その時に、すごく楽しそうに工夫して、どんな料理作ろうかしら?って、このすずちゃんは。で、まな板をね、顎の下に入れてバイオリンを弾くようにして、トントントントン!って切って、ちょっと音楽を奏でてるような遊びをしながら切っていく所とか。本当は食べ物は全くなくて、もう飢えているにもかかわらず、そこの所で楽しもうとするんですよ。すずちゃんは。
(赤江珠緒)
はーっ。そうだ。。
(山里亮太)
戦争を描いているのに、「うわっ、悲しいな、やっぱ戦争って怖いな」という印象をあんまりこう、押しつけてこないんですよね。
楽しく生きよう
(町山智浩)
それは、本人達がそう思わないようにしているからなんですよキャラクター達が。そう思ったらおしまいじゃないですか。だから楽しく生きようとしてて、だってその時に食べてるのって道端のタンポポと、大根の皮と、梅干しの種ですよ。
(山里亮太)
そうだ。
(赤江珠緒)
で、なんかスミレをお味噌汁に入れて〜みたいな。
(町山智浩)
そうそうそう。スミレの花もお味噌汁に入れて、お味噌汁に紫の花が浮かんでいるんですよ。で、考えてみたらこれ地獄の飢餓状態なんだけども、それを楽しそうに切り抜けようとするんですよ。
(赤江珠緒)
そうですよね。だからねこの映画を見てて、自分のおじいさんおばあさん、祖父母も、こういう生活をしていたんだろうな、場所は違えど。あの時代の人達ってこうだったんだなって。
事実をすっごい調べた
(町山智浩)
あっすっごい調べたらしいんですよ。これは原作者のこうのさんが調べたらしいんですけど、ただこれ、あの『暮しの手帖』・・『とと姉ちゃん』の中に出てきた『暮しの手帖』で戦時中の暮しの手帖っていうのが出たじゃないですか、色んな人の声を集めた。たぶんああいったものがね、残っているんで、それがたぶん反映されていると思うんですけど。あと僕がすごく1番泣けたのはね、スイカやキャラメルが要するに贅沢品として禁じられているじゃないですか。スイカなんてそこら辺に植えればいいのに。要するに贅沢品だから植えちゃいけないんですよ。だからね、スイカやキャラメルを絵に描くんですよ、すずちゃんが。絵が上手なんで、絵が大好きなので。と、彼女はなんでも辛いことは絵にしていく事でその辛さを乗り越えていくんですよね。で、それを見るとみんな、「美味しそうだね」ってその絵を見て我慢するっていう所が泣けるんですよ!
(赤江珠緒)
あーー・・ねぇ!
(町山智浩)
ただその絵を描いていると、その憲兵が、「スパイだろ!?」って来るんですよ。
(赤江珠緒)
そうそうそう。
(山里亮太)
で、その後のやり取りも、「スパイだろ!?」ってなった後のやり取りも、すごいんですよね。
「戦争良くない!」がない映画
(町山智浩)
そうそう、いいんですよ。まぁ、あんまり言えない、あんまり言えないんですが。(笑)ね、一生懸命、絵を描く事しか楽しみがないのに、「それスパイだろ!?」って来る所とかね、怖いんですけど、ただ怖いだけじゃなくて、それでNHKの朝ドラだと、「戦争って、いけないんです!」とか言うじゃない?後知恵で。戦争がいけないっていう事になった後の戦後民主主義の後知恵で「戦争っていうのはよくないね!」とか言ったりする。ねぇ、ヒロインがねぇ、「そんなことは、よくないと思います!」とか言ったりするんだけど、それはない、この映画では。
(赤江珠緒)
ないですね!
(町山智浩)
それは後知恵ですよ。その時はそんな事みんな思ってなくて、なんとかその状況を、なんとか生きようとしていたと思うんですよ。だからそれがリアルなんですよ、この映画は。
(赤江珠緒)
そうですね、なんとか普段の生活をしようとする。そこですもんね?
なんとか普段の生活をしようとする姿
(町山智浩)
そうそうそう。だからリアルさで言うとね、これね、さっきから聞いている人で、例えばスタローンの映画とか好きな人とか「関係ねえや!」とか、ガンダム好きな人とか「関係ねえや!」って思うかもしれないですけど。この映画はガンダム好きな人は絶対に見るべき映画なんですよ!『艦これ』見る人も、見るべきなんですよ。ガルパンとか好きな人も、見た方がいいですよ。
(山里亮太)
あー!兵器!出てきますもんね。
(町山智浩)
兵器描写が超リアル!すっごいですよ。
(山里亮太)
大和とか!むっちゃくちゃ・・
兵器描写がリアル
(町山智浩)
大和とかもリアルだし、すっごいきっちり描き込んである上に、描写がリアルで、米軍機が空襲しに来るんですよね?で、それをまぁ、こっちから高射砲で、高角砲っていうので撃ち落とそうとするんですけども、空中で爆発するんですよ砲弾が。その破片でその敵機を落とそうとするんですけど、その破片が地面に降ってくる感じがすーっごいリアルで、ビャビャビャビャビャッ!!って降ってきて、瓦とかを打ち破ったりとか、あとそのB29爆撃機が飛んでくる時にB29っていうのはものすごい高い空を飛んでくるんですよ。で、あまりにも高すぎて日本軍はそこまで上がれないんですよ。だからもうどうしようもないんですけど、すごく高いから、らしいんですけど、ターボプロップエンジンっていうエンジンの独特の飛行機雲が出ているんですよ。
(山里亮太)
あ!
(町山智浩)
だからあのシーンで、「あれは初めて見る!」って言うんですよ。
(山里亮太)
言ってました言ってました!
(赤江珠緒)
あー!そうなんだ。
監督の片渕さんが『魔女の宅急便』のスタッフだった
(町山智浩)
すっごいそういう所がすごくて、いちいち、これはね、監督の片渕さんが元々そういう人なんですよ。この人は『魔女の宅急便』のスタッフだったし、そういうメルヘンチックな映画も得意なんですけども、その一方で『BLACK LAGOON』(ブラックラグーン)っていうものすごいリアルな銃撃戦アニメも監督してて。しかも『エースコンバット』っていうですね、戦闘機の空中戦ゲームのアニメの監督もしている人で、この人航空マニアで。すっごいマニアなんですよ。だから戦闘シーン超リアルなんですよ!
(赤江珠緒)
たしかに!そうねぇ。
(山里亮太)
いや確かにそうだった。
(町山智浩)
機銃掃射のシーンとか、すごいリアルで。「甘く見ちゃいけない!」っていう感じになっているんですよ。
(赤江珠緒)
いやー、そうか。すずさんの義理のお父さんがね、「日本のエンジンがいい」みたいなね!?
空襲の状況は全部事実通り
(町山智浩)
あっまぁ!あ、そうそう。今ネタバレをするのかと思って俺はすごくビビりましたが!(笑)はい。で、どんどんどんどん戦争がひどくなってって、追い詰められていくんですね。っていうのは呉は軍港だから、ものすごい量の爆撃なんですよ。あれ見ると、毎日のように爆撃されて、あの爆撃の日にちとか、空襲の状況は全部事実通りなんですって、天候の状況から、全部。
(赤江珠緒)
寝てられないぐらいね、もう最後の方ね。
(町山智浩)
そう。だから、焼夷弾じゃないんですよ。ものすごい何トン級の爆弾をバンバン打ち込んでくるんですよ。戦艦を壊すためだから。でもう、おかしくなっちゃうわけですよ、それがずーっと続くから。で、こう言われるんですよね、「呉はもうこんなに爆撃されて大変だ。」と。「実家のある広島に帰った方がいいよ。」と。「8月6日はお祭りだから」って言うんですよ。
(赤江珠緒)
そうそう。そうですね。これがもう、うん。うん。
(町山智浩)
8月6日ですよ?
(赤江珠緒)
そうなんですよ今、わかっている人からしたら、その、広島。。
「8月6日はお祭りだから」
(町山智浩)
ゾーーッとするでしょ、それを聞いた瞬間に。だからその、能年ちゃんの『あまちゃん』は、3月11日に向かって突き進む話だったんですよ。で、この『この世界の片隅に』は、8月6日に向かって突き進む話なんですよ。だから見ててものすごい、あの、見ている方だけサスペンス。本人達はあまり感じていない。
(赤江珠緒)
そうそうそう。当時の人たちはね「呉は大変だ」っていう話で。
(町山智浩)
そう。だからもう、言いたくなりますよ!「すずちゃん、ダメだよ!」って!
(山里亮太)
「志村、後ろ!」みたいな感じで。(笑)
(赤江珠緒)
そうそうそう、みんなそうですよね。(笑)
(山里亮太)
みんな思ってましたもん、あの時ね、「ダメ!」って。
(赤江珠緒)
今帰っちゃダメ!みたいなね。
戦争に行く兵隊さんに、「バンザイ!」
(町山智浩)
そうなんです、色々ね、言いたくなるんですよ画面を見てると。例えば戦争に行く事になった兵隊さんに対して、みんなが「おめでとう!」って言うんですよね。「バンザイ!」って言うんですよ。「バンザイじゃねえだろ、この野郎!」っていう。(笑)「おめでとうじゃねえだろ、だって死にに行くんだよ!」っていう。でもみんなわかっているんですよ。わかっているんだけど、その嘘、インチキの中で生きているんですよね。わかりつつも。逆らったってしょうがない。人前で泣くシーンがないんですよねこの映画、。
(赤江珠緒)
あー・・。そっか。畑で1人でとかだ。
(町山智浩)
泣けないんです。戦争とかで人が死んだ時に泣くっていうことは反戦だから!人前で泣く事は許さなかったんです、戦争に反対している、戦争のことを嫌がっているの?って言う事になるから、だから、身内が殺されても影で、誰もいない所でしか泣けないんですよ。
(赤江珠緒)
これはひどい。。
(山里亮太)
そういうリアル。
(赤江珠緒)
それもリアルか。。
誰もいない所でしか泣けないリアル
(町山智浩)
あんまりひどいから、すずちゃんて最初はほわ〜っとしてて、ポワーッとしていたのに、だんだんだんだん笑顔がなくなっていくんですよ。で、とうとう最後の方でもう、これは、だからネタバレでもなんでもないから言いますけども。ずーっとほんわかポワーッと笑っている子でいたかったよって。。
(山里亮太)
そうだ!
(赤江珠緒)
はー・・そうね、そうね!これ、ちょっと見た我々も「ううっ。」ってなりますよね、ここね。
(町山智浩)
もうなんにも逆らわない、世の中に逆らわない子だったのに「なぜこんな暴力に屈しなきゃいけないの!」って。そこまで、言わせるかと、この子に。すごいですよこれ。でね、ちょっと主題歌、もうかかってますか?ちょっとオンしてもらえますか?
〜音楽♫〜
(町山智浩)
この歌、元歌は1968年のフォーク・クルセダーズっていうフォークバンドが作った歌なんですけども、これ元々は最初『イムジン河』という歌を出すはずだったのが、代わりに作った歌なんですよ。どうしてかっていうと、『イムジン河』っていうのは北朝鮮の歌なんですよ。で北朝鮮を流れる川なんですよね。その歌詞の中で「誰が祖国を2つにわけてしまったの?」ていう歌詞が出てくるんで、南北朝鮮の分断について歌っているという事で、レコード会社が「これは非常に政治的な論争を呼ぶから危険だから出すのをやめよう」って急遽発売中止にして、すぐその場で曲を作れと言われて。(笑)これはこの、ヒロインの心の叫びですよね、この映画のね。
(赤江珠緒)
そうですねー。。
箱の片隅に小さな希望が残っている
(町山智浩)
そう聞くと、まあとんでもない映画のような気がするかもしれないんですけど。「パンドラの箱」という話があるじゃないですか。あらゆる不幸がパンドラの箱から出ていった後に箱の片隅にちっちゃな希望が残っているっていう。そういう映画ですよ、この映画は。
(赤江珠緒)
そうですね。だからすずちゃんが、タンポポの話がちょっと出てくるじゃないですか。だから綿毛みたいに、本当に流されてどこに行くかわからないんだけど。
(町山智浩)
そう!綿毛みたいな子ですよね。
(赤江珠緒)
ね。で、最後でもちゃんとどこか地について、そこで根を張って、ちゃんと生きていくっていう。
(町山智浩)
だから、『この世界の片隅に』っていうタイトルは、この世界の片隅で、ほんのちっちゃな居場所があればいいんだよと。だけどその居場所を奪おうとするやつがいっぱい出てくるわけですよ、このアンフェアワールドでね?そう。で、彼女はその中で絵を描ければ幸せだったんですよ。まぁみんなそうですよね。歌が歌えれば幸せだし、演技ができれば幸せなんだけど。そういうちっちゃい居場所さえ奪おうとする、そういう映画で、そういうタイトルなんですよ。
(赤江珠緒)
そうなんですよねー!
(町山智浩)
まぁ今は戦時中じゃないんだからね、暴力に屈しちゃいけないと思いますよ。
(赤江珠緒)
そうですね。
(山里亮太)
これまた漫画もいいんだけど、漫画と映画のいい所がもう見事にこう・・!
妹さんの腕にアザができる意味
(町山智浩)
そう。あと、たぶんね、今の僕の世代でもぎりぎり全部の意味がわかるっていう感じなんですよ。たぶんわからない人は一杯いると思って、この妹さんの腕にアザができる意味がわからないっていう人もいるでしょう?たぶん。なんの説明もないですよ。
(赤江珠緒)
あーっ!(説明が)ない、ない。
(町山智浩)
あと、途中で廓(くるわ)っていうか遊郭が出てくるんですよ。あれの意味もわからないですよね?
(赤江珠緒)
あー・・説明はしないですよね?
この映画、裏の意味、裏の意味がある
(町山智浩)
原作の中では遊郭の意味はもっと深く出てきます。あと一杯ね、この映画、裏の意味、裏の意味があるんで、何度も何度も見たり、あと世代の違う人と一緒に見て話し合いをしたりする中でわかってくる映画です。
(赤江珠緒)
だってあの、すずちゃんの夫婦の恋愛観ですら、もう、我々世代とは違うんですね。
(町山智浩)
だいぶ違うんですよ。
(山里亮太)
あの、あのジョークもそうですよね、おばあちゃんが教えたやつが、ちょっとこう。
(町山智浩)
あ、そうそうそう。(笑)初夜のたしなみですね。この映画ね、エロチックなんです。もう1つの売りはエロチックなんです。
もう1つの売りはエロチック
(赤江珠緒)
そうなんですよね。そうなんです。その恋愛的な所が。旦那さんがまた”周作、いいな”みたいになる所があるんですよ。
(町山智浩)
そうそう。あとほら、初恋の男の子が周作のあの。あの、もう微妙なエロチシズムとかね。すごいですよこれ。
(山里亮太)
ドキドキしますもんね?
(町山智浩)
ドキドキしますよ。あれ見ているとね!
(山里亮太)
ああああっ!って。(笑)
(赤江珠緒)
そうですよね。
(町山智浩)
そうなんですよ。そういうね、すごい映画ですよ、これは。
(赤江珠緒)
ふんわりして見えて、人間の生々しさみたいな・・。
(町山智浩)
見えて、実はその奥にどんどん深い所があるんで。まぁ1回見て、わからない所は何回も何回も見るといいと思います。
(赤江珠緒)
はい。いやーこれはやっぱ来ましたか、町山賞。
(町山智浩)
はい!はい!町山賞!はい!
(山里亮太)
受賞おめでとうございます!
(町山智浩)
1億円です!はい!持っていません!はい。(笑)『この世界の片隅に』11月12日から公開です。
(赤江珠緒)
はい!今日は改めて言いますが町山さんに11月12日から全国で公開されるアニメーション映画、『この世界の片隅に』紹介していただきました。本当に、泣きました。
(山里亮太)
ほんといいです・・!
(町山智浩)
皆さん、必ず、ご家族で!
(赤江珠緒)
ぜひ、これは、見るべき映画。町山さん、ありがとうございました。
(町山智浩)
どうもでした。
※書き起こし終わり
○○に入る言葉のこたえ
⑧8月6日に向かって突き進む話なんですよ。だから見ててものすごい、あの、見ている方だけサスペンス。本人達はあまり感じていない。