スリー・ビルボードの町山智浩さんの解説レビュー
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映画評論家の町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』(https://www.tbsradio.jp/tama954/)
で、アカデミー主演女優賞、アカデミー助演男優賞を獲得したマーティン・マクドナー監督『スリー・ビルボード』のネタバレなし解説を紹介されて今したので書き起こしします。
映画視聴前の前情報として、また、映画を見た後の解説や考察レビューとして是非ご参考ください。
町山さん『スリー・ビルボード』解説レビューの概要
①直訳すると”3つの道路脇の立て看板”というタイトル。
②レイプされ焼き殺された娘を持つ母親が、犯人が捕まらず、「警察署長は一体何をしてるの?」という問いかけを立て看板に掲載する所から物語は始まる。
③事件を解決しに行くのかなと思わせるが、1分後には想像が覆されて、またその1分後には覆されてっていう感じで進む。
④この監督が作る作品は、非常に怖い暴力的な作品の中にコメディーの要素を含んでいる。この手法は○○○から学んだという。
⑤暴力爆笑ほのぼの心あたたまるハートウォーミング系。
※○○の中に入る文章は、この記事の1番最後で公開して今す。
TBSラジオたまむすびでラジオ音源を聞いて頂くか、書き起こし全文をご覧頂くか、この記事の1番最後を見て頂く事で判明します。
『ゲット・アウト』を見てきた山ちゃん
(山里亮太)
町山さん、あの私もついに『ゲット・アウト』を見てきまして。
(町山智浩)
あっ!そうですか!
(海保知里)
そうですよ。仲間が増えました。
(町山智浩)
どうでした?
(山里亮太)
すごい映画でしたよ、もう・・。でも、町山さん。あの映画を、見る前の人に説明するって、むちゃくちゃ難しい事を町山さんはやっていたんだなって思いながら見てました。
(町山智浩)
そうなんですよ。説明すると面白くなくなっちゃうんですよ。
(山里亮太)
そう。あれはだからね、すごいっすね、それが1番関心というか、すげぇ町山さん、俺これを人に説明する時どうやろう?と思いながら見てましたもん。
(町山智浩)
本当に苦労しますよ。(笑)で、今日紹介する映画、もっと難しいんですよ。
(山里亮太)
あら!!お願いしますよ・・!
(町山智浩)
これね、いい所を言おうとすると、ネタを割っちゃう映画なんですよ。
(山里亮太)
うわ、じゃぁ色んな仕掛けというか、結果が・・。
(町山智浩)
そうなんですよ。すっごい難しいんですけど、これはね、恐らく、もう予想しちゃっていいと思うんですけど、今度のアカデミー賞で脚本賞を取ると思います。
(海保知里)
おーっ!そうなんだ。
アカデミー賞脚本賞候補の『スリー・ビルボード』
(町山智浩)
はい。この映画は『スリー・ビルボード』という映画です。「3つのビルボード」っていうんですが、「ビルボード」っていうのはアメリカの道路沿いに自動車で通り過ぎる人のために立っている看板の事ですね。
(海保知里)
ふーん、うんうん。
(町山智浩)
”3つの道路脇の立て看板”っていうタイトルなんですけども。はい。これはミズーリというアメリカのド田舎の田舎道に、3つの立て看板が道路沿いに作られるんですね?
(山里亮太)
はい。
うちの娘はレイプされて焼き殺された
(町山智浩)
で、それの1枚目には「うちの娘はレイプされて焼き殺された」って書いてあるんですよ。でその次には、「でも犯人は全く捕まっていない」。で3つ目のビルボードには、「ここの警察署長は一体何をしてるの?」って書いてあるんですね?で、その広告を出したのは殺された娘さんのお母さん。で、ミルドレッドという役名のフランシス・マクドーマンドっていう女優さんが演じてます。この人は『ファーゴ』の主演女優ですね。
(海保知里)
ああ、どこかで見た事があると思ったら、あーそうなんだ!
(町山智浩)
はい。『ファーゴ』でミネソタのサウスダコタの田舎の女性保安官を演じてアカデミー主演女優賞をとった人です。また田舎のお母さんの役なんですけども。(笑)この人は『ファーゴ』の監督のジョエル・コーエンの奥さんなんですよ。
(山里亮太)
あーそうなんですね。
主演はアカデミー賞女優、フランシス・マクドーマンド
(町山智浩)
はい。で、この人が、また田舎の事件を解決しに行くのかなと思わせるんですが、この映画ね、もう最初に言っておくと、思った事が「こういう話になるのかな?」って思うと1分後には覆されて、またその1分後には覆されてっていう感じで。
(山里亮太)
えーー!!
『七人のサイコパス』
(町山智浩)
訳の分からない方向にどんどん転がっていく映画なんですよ。だからすごく説明が難しいんですけど、すごく苦労して組み立てましたので、あの説明の仕方を。(笑)今回。で、これね、監督はマーティン・マクドナーっていう人で、この人はイギリス人ですね、アイルランド系の。で、この人この前に撮った映画は『セブン・サイコパス』っていうタイトルの映画なんですよ。それは「7人のサイコパス」だから、こう、放送できないんですが。(笑)
(海保知里)
あぁまぁそうですね、言っちゃいけませんね?うんうん。
(町山智浩)
ま、「おかしな人達」ですね。「おかしい」って、笑える方じゃない方の「おかしい」人達ですね、壊れている方の人達、が7人集まって。でも、これねぇ、ハリウッドの脚本家が主人公で。『七人の侍』とか『荒野の七人』とかがあるから、じゃあ『七人のサイコパス』っていう話があってもいいじゃないかっていう事でタイトルだけ考えるんですよ。
(山里亮太)
えっ?あぁそこから!?
(町山智浩)
そうなんです。ただねアイデアが全く無い脚本家で、どうしたらいいのかわからない。で困っていると、非常に怪しげな男が来まして、それはサム・ロックウェルっていう俳優さんが演じているんですけども。「アイデアがないんだったら、じゃあ新聞で広告を出せばいいじゃないか」って、広告出して、「サイコパスのみなさん、身の回りにあった、あなたが体験した面白い事を教えて下さい。」って新聞広告を出しちゃうんですよ。
(海保知里)
おーっ・・すごい。
(町山智浩)
で、その脚本家のところに次々とサイコパスの人が来て大変な事になるっていう話なんですよ。
(海保知里)
はははははは。(笑)
(山里亮太)
わー、面白そう!
(町山智浩)
面白そうでしょう?で、タイトル通り「七人のナントカ」って言ったら7人集まった人が正義のために戦う話じゃないですか。でも、集まったのがサイコパスなんで、さぁどうなる?っていう話なんですよ。(笑)
(山里亮太)
うわーっ!想像もつかない!(笑)
マーティン・マクドナー監督は北野武さんの映画から学んだ!
(町山智浩)
すごいでしょう?この監督はね、こういうなんというか、非常に怖い、暴力的ですごく怖いんだけど、コメディーじゃないですか、これ。どこからそれを学んだか?っていうと、北野武さんの映画から学んだんですって。
(山里亮太)
えーーーー!!
(町山智浩)
たけしさんの映画って、そうじゃないですか。『アウトレイジ』なんかものすごく怖いんだけど、笑うでしょ?あれ。(笑)特に西田敏行さんとか、ピエール瀧とか。
(山里亮太)
瀧さんもね、今回の最終章ですごかったですからね。
(町山智浩)
すごかったでしょう?笑かそうとするじゃないですか、怖い暴力的なヤクザの話なのに。バイオレントなのに、笑うしかないじゃないですか観客は。あの感覚をこのマーティン・マクドナー監督はたけしさんから学んでて。オマージュでその『セブン・サイコパス』の中ではたけしさんの『その男、凶暴につき』をちゃんと映画館の中で流したりしているんですよ。
(海保知里)
そこまで!
(山里亮太)
へーーっ!見るシーンみたいなのを?
ミルドレッドは、思ったようないい母親ではない
(町山智浩)
そうなんです。だからね、そういう感じの映画なんですよ。ね。で最初その娘を殺されたお母さんが復讐の為に色々と捜査をしたりする話なのかなと思ってると、このお母さんがねぇ、だんだん・・まぁ言えないんですけど、思ったようにいいお母さんじゃない事がわかってくるんですよ。
(海保知里)
「思ったようないいお母さんじゃない」と・・。
(町山智浩)
ない。まぁとにかく、娘の復讐の為だったらなんでもする、マッドママなんですよ。で、ちょっとこのお母さんのテーマ曲があるんでちょと聞いてもらえますか?
〜音楽♫〜
(町山智浩)
これ、なんの音楽だと思います?
(山里亮太)
すごくかっこいい音楽、西部劇とか?
(海保知里)
西部劇っぽいですよね。荒野の・・
マカロニ・ウェスタンの音楽
(町山智浩)
その通りです!西部劇の音楽なんですよ。これ、クリント・イーストウッドとかが主演した、マカロニ・ウェスタンの音楽じゃないですか。
(山里亮太)
お母さんのテーマって言われると、なんか違和感を感じますよね。
(海保知里)
それもマッドママなんですよね?
(町山智浩)
そう。このお母さんね、だからクリント・イーストウッドが女になったみたいな人なんですよ。
(山里亮太)
はははははは。(笑)
(町山智浩)
だからこの音楽でいつも登場して、決して笑わないし、で自分の邪魔をする奴は徹底的に叩き潰していくんですよ、あらゆる暴力で。
(海保知里)
えーーっ!!強いんだ。
クリント・イーストウッドが女になったみたい
(町山智浩)
だから最初、このお母さんが娘を殺されたんだから同情しているんですけど、だんだん同情する気持ちが失せていくんですよ。見ていると。(笑)
(海保知里)
そこまで・・!
(町山智浩)
すごすぎるんで。で、ところがですね、この警察署長ね、「何もしないじゃないか」って言われている警察署長が出てくるんですね?この警察署長を演じるのはウディ・ハレルソンっていう俳優なんですけど、『ハンガー・ゲーム』とかに出ている人ですね。この人が最初、ウィロビーっていう警察署長なんですけども、怠慢でお役所仕事でね、ダメな警察署長なのかなって思うんですけど。ところがですね、この人のテーマソングをかけてもらえますか?
〜音楽♫〜
(町山智浩)
この歌は神様の事を歌ってるんです。
(山里亮太)
賛美歌・・?
警察署長ウィロビー
(町山智浩)
賛美歌的なものなんですね。ミズーリという非常に田舎の素朴なフォークミュージックで神を歌っているんですけど、この警察署長はすごくいい人で、
(山里亮太)
えっ・・!
(町山智浩)
まぁ神様を信じて、実はすごくいい人だという事がわかって、怠慢じゃなかったんですね。その事件の捜査をできていない事が。実は、どうしても言えない理由があるんです。それどころじゃない、大変な事が彼には起こっているんですよ、実は。
(海保知里)
ええっ!
次々とひっくり返っていく映画
(町山智浩)
この歌がヒントになるんですけど、それは映画を見てのお楽しみなんですが。だから、「この人はダメなんだ」とか思うとそうじゃなくて、「この人はいい人だ」って思うとそうじゃなくてって、次々とひっくり返していくんですね、この映画は。だからね、クリント・イーストウッドがアカデミー賞をとった映画で『許されざる者』っていう映画があるんですよ。それはウエスタンなんですけども、最初に悪いやつだと思っていた人がいい人で、いい人だと思っていた人が悪い人でってどんどんひっくり返していくんですよ。観客のキャラクターに対する先入観を。それに近い映画なんで。だから説明しにくいんですよ。(笑)
(山里亮太)
そ〜うですね、それは難しいですね!(笑)
(町山智浩)
ものすごい説明しにくいんですよ。はい。ただね、全体をね、支配しているのはね、このミズーリという田舎の風土なんですね。ここはね、映画ではね、『ウィンターズ・ボーン』っていう映画がこれを舞台にしているんですけども。
(海保知里)
うーん見ました!
ミズーリという田舎の風土
(町山智浩)
見ました?あれ、とんでもない話でしょう?
(海保知里)
とんでもないお話でしたし、ものすごい田舎でしたね。
(町山智浩)
そう。すごい田舎で、貧乏でリスとか食べているんですけど。
(海保知里)
えっリス?
(町山智浩)
リスを食べているシーンがあったじゃないですか。
(海保知里)
はい。ありました、ありました。
(町山智浩)
それだけじゃなくて復讐が支配している世界なんですね。現代なのに、要するに身内の人がなんとかされたとか掟を破られたっていうと、銃を持っていきなり殺しに行ったりするわけですよ。
(海保知里)
ごめんなさい。「絶対にここには住みたくない」っていう所でした。
復讐が支配する世界
(町山智浩)
いや、でもいい所もあるんですけど。素朴で人は。で、みんな神様を信じて、信心深くて、それでまぁ地元の人達の繋がりは密接でいい人達なんですけど、突然、暴力的で。いきなり「ぶっ殺す!」みたいな世界でもあるんですね?
(山里亮太)
ほぉ〜。。
(町山智浩)
これたぶんね、今ねちょうど公開してる『全員死刑』っていう映画、日本の映画なんですけど。(笑)
(山里亮太)
見ましたよ!
(町山智浩)
あ、見ました?
(山里亮太)
見ました!町山さんが仰る通り、怖いけど見て笑っちゃうっていう。
(町山智浩)
笑っちゃうでしょう?でもなんか素朴なんですよね。
(山里亮太)
はい。そうですそうです。
(海保知里)
素朴なんだ・・。
(山里亮太)
なまりがあってね、なんかね。
(町山智浩)
そうそう。田舎ののんびりした感じと、ものすごい突発的な暴力が同居してて笑っちゃう世界なんですよ。
(山里亮太)
そう。あれすごかったなー!
田舎ののんびりした感じと、ものすごい突発的な暴力が同居
(町山智浩)
怖いんですけどね。それに非常に近い映画ですね、この『スリー・ビルボード』っていう映画は。
(山里亮太)
なるほど!
(町山智浩)
でね、ミズーリっていうのはただね、ものすごく差別的な所なんですよ。今1番アメリカで問題になっている黒人の、まぁ武器とか持っていない何もしていない人を白人警官がいきなり射殺する事件がアメリカでは次々と起こってるんですけども。それがまず始まったのがミズーリからなんですよ。
(海保知里)
わぁー・・そっかぁ・・。
(町山智浩)
まあ、ミズーリで、セントルイスという街の近くでそういう事が起こって。そこから全体に広がっているんですけども、ミズーリってのはそういう所でもあるんですね。で、これでこの警察署長の下にいるですね、警察官が出てくるんですよ、この『スリー・ビルボード』で3人目のキャラクターなんですけども。それがディクソンという名前の、さっき言ったサム・ロックウェルが演じているんですけども。警察官がいてですね、この警察官がね、ものすごい暴力的なんですよ。
(海保知里)
おー・・そうなんですか。
ディクソンという警察官
(町山智浩)
で、とにかく自分が気に食わないやつとか、警察をバカにしたやつとか、警察署長をバカにしたやつを片っ端から警棒でボコボコに殴る暴力警官なんですね。
(山里亮太)
やばい奴だ。
(海保知里)
まーなんという・・ね、やばい奴。
(町山智浩)
で、差別的なだけじゃなくて、もうすごく頭が悪くて。
(山里亮太)
わータチわる。
(町山智浩)
例えば「この男たちは軍隊に行っていたんだけども、どこ行ってたかは国家機密だから言えない」って言われるんですね、ある人から。ただ「砂がいっぱいある所だよ」って言われるんですよ。「わかるだろ?」って言われて、「わからない」って言っちゃうんですよ、このディクソンっていう人は。(笑)それイラクに決まってるんですけど。(笑)今、アメリカ軍が行っている所は。
(山里亮太)
砂がある所ね。(笑)
ディクソンVSミルドレッド
(町山智浩)
バカだから何もわからないんですね?で、この警官がビルボードに警察署長を侮辱する広告を出されたんで、徹底的にこのミルドレッドっていうお母さんに邪魔をしてくんですよ。そのビルボードを出した広告代理店に殴り込みに行って、その広告代理店のお兄ちゃんをボコボコに殴ったりするんですね、半殺しにしたりするんですよ。
(海保知里)
へへっ。。
(町山智浩)
で、ものすごい凶悪な差別的な警官なんですけども。この人のテーマソングを聞いてもらえますか?
〜音楽♫〜
(山里亮太)
いや、おかしいでしょ。(笑)合っていないでしょ、ボコボコにする人と・・。
ABBA『Chiquitita』
(町山智浩)
はい。これ、ABBAの、アバっていう昔流行ったスウェーデンのグループの『Chiquitita』ですね?これ、この暴力景観、差別的な暴力警官の大好きな歌なんです。
(山里亮太)
えーっ!!暴力とはかけ離れた歌だけど。。ぜんっぜん想像つかない。(笑)
(町山智浩)
想像がつかないでしょう?これね、彼はこっそりヘッドホンで聞いているんですよ。
(山里亮太)
でもやってる事はもうめちゃくちゃ・・。
(町山智浩)
聞かれたら困るんですよ、これを聞いている事を。それが、この人の秘密なんです。
(山里亮太)
えっ!?ささやかな秘密。(笑)
ディクソン警察官の秘密
(町山智浩)
この警官の秘密なんです。それしか言えないんですけど。
(山里亮太)
なーんすかそれ、面白そう・・!
(町山智浩)
で、とにかくこいつが悪いやつでもう、本当にもう暴力振るって、権力をもう無茶苦茶に使ってですね、この捜査を邪魔してっていう風にやっていくんですけど。っていう話なんですね?
ところがね、この映画3人が・・最初はこのお母さんが主人公かと思うと、話がどんどん警察署長の話になっていくんですよ。で、警察署長の話かなと思ってると、このサム・ロックウェル扮するディクソンっていうバカ警官の話になっていくんですよ。誰が主人公かが変わっていくんですよ。
(海保知里)
へぇー!目線が変わるんだ。
主人公がかわっていく
(町山智浩)
そう。だから『スリー・ビルボード』っていう「3つの看板」っていうのにそれが象徴されているんですよ。
(海保知里)
あー!
(町山智浩)
で、この3つの看板がそれぞれのこの3人のキャラクターだとすると、看板は最初わかるんですよ。こういう人だっていう事は。だから「いいお母さん」であったり、「不真面目な警察署長」と「暴力的なバカ警官」っていうのは看板の表側なんですね。ただ裏側って、看板の裏側ってみんな見ないでしょう?看板の裏側があっと驚くものなんですよ、みんな。
(山里亮太)
わーっ!見たい・・。
(海保知里)
えーっ!なんて書いてあるんだろう?何があるんだろう?えーーっ!
(町山智浩)
そうなんですよ。これはだから本当によくできた話でね、これだからアカデミー脚本賞をとるだろうと僕思うんですよ。人は見た目とか言動だけじゃ判断できないんだよっていう事なんですね。暴力的な警官が『Chiquitita』を聞いてるんですよ。(笑)
(海保知里)
ふふふ、もう全然ピンと来ない。(笑)
人は見た目とか言動だけじゃ判断できないんだよ
(町山智浩)
そう。でね、ヒントがね、1つあってですね。これ、この警官、ウィロビーっていう警官(警察署長)がいつも読んでいる本があるんですね。それがね、「フラナリー・オコナー」という南部の作家の『善人はなかなかいない』っていう本を読んでいるんですよ。これね、フラナリー・オコナーっていう人はジョージアなんですけど、やっぱり南部の人たちの生活を描いてきた人なんですね?で、もう1つ『善人はなかなかいない』という短編集の中に『田舎の善人』っていうタイトルの小説も入っているんですよ。全くその通りでアメリカの南部の田舎の善人たちの生活を描いてきた作家なんです、フラナリー・オコナーっていう人は。1964年ぐらいに39才で亡くなった女性なんですけども。田舎の善人の生活を描きながら、必ずものすごい暴力が入ってくるんですよ。
(海保知里)
えー・・そうなんですか。
(町山智浩)
突然、突拍子もない暴力が入ってくるんですよ、この人の小説は。でも、ほのぼのとしてるんですよ。で、おかしいんですよ。
(山里亮太)
ええっ?共存できるのかな。。
(海保知里)
ねぇ。成立するのかな。
(町山智浩)
そこはかとなくね、この人の小説はおかしいんですよ。だから例えば、『善人はなかなかいない』というのは、あるおばあちゃんが旅をしている最中に、脱走犯の3人に拉致されちゃう話なんですよ。家族と一緒に車で旅をしてると、まぁ誘拐されちゃうんですよ。で3人の凶悪犯が1人1人を殺していくんですね、森の中で。そのおばあちゃんの家族達をね。それでもおばあちゃんは、「まぁこの人たちも悪い人じゃないんだから」みたいな感じなんですよ、ずっと。
(海保知里)
よくわからない・・。
(町山智浩)
おかしいんですよ、ちょっと。
(海保知里)
えーっ・・その感覚がわからない。
そこはかとないおかしさと暴力
(町山智浩)
非常にそこはかとないおかしさと暴力が同居しているというのを書いていた人がフラナリー・オコナーで、その人の本を読んでるんですね、この署長は。その感じなんですよ、この映画って。
(山里亮太)
へー。。面白そう。。
(町山智浩)
でね、これはね、日本でも本がね、みんな絶版になっちゃってて、フラナリー・オコナーってなかなか読めないんだけど、『田舎の善人』っていう話とかも本当にずっと読んでると、最後の1ページでド暴力が突然爆発するっていう、とんでもないですよ。
(海保知里)
へぇ〜。
(町山智浩)
それでいてね、そこの部分はやってて「善人はなかなかいないね」っていう話なんですけど、「でも善人はいるよ」っていう話でもあるんです、この『スリー・ビルボード』っていう映画は。で、そのなかなかいない善人を発見した時に、「えっ、そこにいたのか!」って感じなんですよ。
(山里亮太)
わー・・面白そう!
(海保知里)
わー、もう、見たくなる!
恐らく今年の映画の中で、もっとも心温まる瞬間
(町山智浩)
すごいですよ、これ。で、恐らく今年の映画の中で、もっとも心温まる瞬間があるんですよ、この映画の中に。
(海保知里)
あったまる、瞬間が?
(町山智浩)
あの、すごいあったまるね、オレンジジュースのシーンっていうのがありましてね。オレンジジュースでここまで泣かせるか!っていうシーンがあるんですけど。
(海保知里)
ね。冷たいのにね?
オレンジジュースのシーン
(町山智浩)
冷たいのにね。(笑)でね、これすごいですよ。だから笑いあり、暴力あり、あっと驚く展開あり、ほのぼの泣かせる所ありというね。これちょっとすごい映画になってますね。で最後は今アメリカ全体を支配している、ものすごいはっきり言って女性に対する暴力、レイプ、そういった事に対するものすごい静かな怒りみたいな物が、アメリカ世界全体に対して向けられていって終わるんですよ。
(海保知里)
ふーん。
(町山智浩)
ちょっとすごいですよこれ。これはもう、日本公開は2月1日かな?
(山里亮太)
よかった、やってくれるんだ。
(海保知里)
やるんですね来年!えぇ。
(町山智浩)
アカデミー脚本賞はまぁ絶対に行くだろうなと思いますね、今のところ。
(海保知里)
もう見たくて見たくて仕方がない!暴力爆笑系っていうのがすごいですね。
(町山智浩)
暴力爆笑ほのぼの心あたたまるハートウォーミング系ですよ。
(海保知里)
はははははは。
(山里亮太)
いやぁ、共存しないんだよなぁどう考えても。
暴力爆笑ほのぼの心あたたまるハートウォーミング系
(町山智浩)
共存するんですよ、それが!今そういう時代なんです、もう。(笑)
(海保知里)
時代なんですか?(笑)
(町山智浩)
「全部入れろ!」っていうねっ。(笑)
(山里亮太)
全部乗せで。(笑)
(町山智浩)
はい。全部乗せの世界ですから今。はい。
(海保知里)
じゃぁ贅沢な感じで。今日は『スリー・ビルボード』を紹介して頂きました!町山さん、どうもありがとうございました!
(山里亮太)
ありしたー!
(町山智浩)
どもでした。
※書き起こし終わり
○○に入る言葉のこたえ
④この監督が作る作品は、非常に怖い暴力的な作品の中にコメディーの要素を含んでいる。この手法は北野武から学んだという。