ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODYの町山智浩さんの解説レビュー
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映画評論家の町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』(https://www.tbsradio.jp/tama954/)で、『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』のネタバレなし解説を紹介されていましたので書き起こしします。
映画視聴前の前情報として、また、映画を見た後の解説や考察レビューとして是非ご参考ください。
町山さん『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』解説レビューの概要
①歌手ホイットニー・ヒューストンの伝記映画
②亡くなってから10年、ボディーガード公開から30年
③シングルを7枚連続で全米ナンバー1にする快挙、誰にも破られていない
④ホイットニー・ヒューストンがどういう人か
⑤アメリカでは○○○○○ではないと言われていた
⑥実はホイットニーは作詞作曲もせず、歌っていたのはカバー曲ばかりだった
⑦彼女が歌うとどんな歌もアンセムになる
※○○の中に入る文章は、この記事の1番最後で公開しています。
TBSラジオたまむすびでラジオ音源を聞いて頂くか、書き起こし全文をご覧頂くか、この記事の1番最後を見て頂く事で判明します。
町山さん『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』評価は
(町山智浩)今日紹介する映画の話をします。『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』と言うタイトルの映画です。もうこれは公開されてると思います。日本では。先週からね。で、ホイットニー・ヒューストンと言うアメリカの歌手の伝記映画なんですけど、ちょうど彼女が亡くなってから10年なんですね。
(赤江珠緒)そうか。
(町山智浩)で、このホイットニー・ヒューストンの1番有名な映画、『ボディガード』公開からなんと30年目なんですよ。
(山里亮太)そうなんだ。
(町山智浩)これちょっとびっくりしたんです僕。
亡くなってから10年、ボディーガード公開から30年
(赤江珠緒)ねぇ。もう30年経ってるんだあれから。見ましたよ、大ヒットでしたもんね。
(山里亮太)ねぇ、見てますもんね。エンダーって。
(町山智浩)あれでも、赤江さんって30年前っていくつ?
(赤江珠緒)30年前は、学生でしたね一応ね。大学生って言う感じかな?うん。
(町山智浩)大学生って感じですね、うん。僕ね、30年ってどのぐらいの感覚なのかなと思ってこの間ね、ちょっと調べてみたら、ピンク・レディーとかサザンオールスターズとかが人気だった時が1978年ぐらいで。で、その30年前ってね、『リンゴの唄』とかね、『青い山脈』がヒットした時なんですよね。
(赤江珠緒)ほうほうほう。
(山里亮太)昔って感じ!
(町山智浩)1948年なんで、30年って言うのはそのくらいの差があるんですね。
(赤江珠緒)そっか、そうなんですよね。
(町山智浩)サザンオールスターズと『リンゴの唄』って全然違う訳ですよ。
(山里亮太)確かに。
(町山智浩)だからホイットニー・ヒューストンについて語るって言うのは、そのぐらいの昔の物なんだなと。
(赤江珠緒)そうか30年前のって言うのはね、今の人からしたら。
(町山智浩)だから今の人は全然わかんないんだろうなと思うんで。ちょっと話したいんですけど。僕にとっては社会に出た時にね、1985年に彼女のファーストアルバムが大ヒットしたんですよ。で、非常に覚えてるんですけど、バブル時代でしたからね。みんなすごい髪の毛を盛ってね、遊んでましたけど。その時に彼女はですね、22歳でデビューして、そこからですね、シングルを7枚連続で全米ナンバー1にすると言うですね、これ誰も破ってない記録なんじゃないかな? ビートルズよりも売れたんですね。
(赤江珠緒)へぇ〜!そうなんだ。
シングルを7枚連続で全米ナンバー1にする快挙、誰にも破られていない
(町山智浩)で、アルバム、まぁアルバムって言っても難しいか、もうアルバムって言うのもあんまり言わなくなった言葉ですね。
(山里亮太)あぁそっか。そうだCDでって言うのじゃなくなってきちゃったから。
(町山智浩)そう、CDを買わなくなっちゃったからね。アルバムのセールスだけで全世界で1億4000万枚なんです。ちょっと考えられない数字なんですよ。
(赤江珠緒)ちょっとすさまじいですね。本当。うん。
(町山智浩)すさまじい売れ行きだったんですね。でもこの人はどう言う人かってあんまり知られてないですよね。
(山里亮太)確かに。
ホイットニー・ヒューストンがどういう人か
(町山智浩)日本でもね。で、それがわかる伝記映画になってるんですけど。彼女はとにかくね、一種の歌手のエリートの家から出てきた人で、お母さんも歌手だったんですね。シシーさんって言う人がね。で、従兄弟はディオンヌ・ワーウィックと言うR&Bのですね、すごいシンガーで。お父さんも結構お金持ちで、お父さんはね、ニューアークと言う市のですね、政府の役員だった人ですね。そう言う結構いい家の子なんですけれども。しかもスタイルがめちゃくちゃよかったんで、八頭身ですよね、もう典型的なね。ホイットニー・ヒューストンは。だからね10代の頃からモデルとして結構人気だったんですよ。
(赤江珠緒)ふ〜ん!
(町山智浩)だからもう見た目も何もかも揃ってると言うもう完璧なね、人だったんですね。で、めちゃくちゃ売れたんですが、逆に売れすぎたんですごく叩かれて。大変だったんですよアメリカでは。黒人の音楽ではないって言われたんですね。
(赤江珠緒)えっ。どうして?
アメリカでは黒人の音楽ではないと言われていた
(町山智浩)歌のこぶしの効かせ方とか、そう言うとこで黒人音楽風のファンキーな要素はないんですよね。で、人種を超えて全世界で売れたんですけど、あまりにも黒人っぽくないって言うのと、歌詞に黒人の問題みたいな物があまり語られてなかったので。だから”ホイットニー”ではなく”ホワイティー”ってねぇ、白っぽいみたいな事を言われて、結構ブラックミュージックの方からは叩かれたりもしてたんですけれどもね。ただね、彼女の特殊性って言うのは、この人ね、作詞もしないし作曲もしないんですよ。で、ある歌を歌うんですよ。最初からある歌を歌うんですよ。ところが、歌うとね、全然違う物になるんですよこの人。ホイットニー・ヒューストンが歌うと。この人の力って言うのはそこにあって。ちょっと聞いてもらうといいんですけれども。彼女の歌でかなり有名な歌で、『Greatest Love Of All』って歌があるんですね。これ僕何度も『たまむすび』で実はかけている歌なんですけども、元々はモハメド・アリの伝記映画の『アリ/ザ・グレーテスト』って言う映画の主題歌として作られた歌なんですよ。で、それはジョージ・ベンソンと言う人が歌っているんで、ちょっと聞いてもらえます?『Greatest Love Of All』。
(町山智浩)はい。この歌はね、元々そのモハメド・アリがね、自分の事をグレーテスト。最高に偉大だって言ってたんで、それを元にした歌で。そう、前も紹介したんですけど、『Greatest Love Of All』、この世で最も偉大な愛とは何かって言うと、それは自分自身を愛する事なんだと。言う歌なんですね。
(赤江珠緒)いい歌ですね。うん。
(町山智浩)はい。モハメド・アリの頃は黒人が差別されてたんで。自分をグレートだと言う所ら始まるんだと。俺達は偉大なんだ!と。俺は何でもできるんだ!と思わなければ何も始まらないんだって言う歌なんですけれども。この歌は、今聞いてもらうと非常にナチュラルに素朴に歌ってるでしょう、元歌って。ところがこれをホイットニー・ヒューストンが歌うとどうなるか聞いてください、はい。
(町山智浩)はい。すごいでしょう、元歌との差が。
(赤江珠緒)全然違う感じの曲に聞こえる!こう湧き上がる感じですね。
(町山智浩)ものすごくスケールが大きくなっちゃうんですよ歌い方が。これは彼女がすごく強弱の付け方がすごくて、すごく静かな低い所から、どんどん大きく上がってくんですよね。で、これどんどんどんどん歌が先にいくに従って、どんどんどんどん上昇してくと言うね。もう巨大なスケールの歌い方をする人なんですよ。
(赤江珠緒)そうですね、壮大な感じになりますね。
ホイットニーが歌うと巨大なスケールの歌になる
(町山智浩)はい。それがねホイットニー・ヒューストンと他のR&Bとか他の歌手の人達との決定的な違いなんですよ。もう決定的にそこが違うんですね、スケールがとにかくでかい。セリーヌ・ディオンが同じぐらいでかいかな?(笑)
これ要するに自分自身を愛する事なんだって言ってる事がですね、モハメド・アリの非常に個人的な事だったのが、彼女が歌うともう全人類に対して歌ってるメッセージソングなってくんですよ、強烈な。これね、アンセムって言う言葉があって英語では。アンセムって言うのは”讃歌”とかですね。そう言う意味で。応援歌とかね。ナショナルアンセムって言うと国歌の事なんですけども。彼女が歌うとなんでもアンセムになっちゃうんすよ。
(赤江珠緒)確かに、こう鼓舞される感じがありますもんね。
(町山智浩)すごいですよ。上がってくんですよ。クラシックに近い感じですね、だからね。クラシックって言うのは元々神を称える為に始まった物なので。すごくどんどん上がってく所がある訳ですね。賛美歌とかね。それに近い、元々ゴスペルって言う黒人の賛美歌から始まった事なんで、そう言う能力を持ってるんですけども。1番すごいのはね、『ボディーガード』で人気になった『I Will Always Love You』って言う歌がありましたよね。あれの元歌をちょっと聞いてほしいんですけど。
(赤江珠緒)えっ、元・・?はい。
(町山智浩)ドリー・パートンの『I Will Always Love You』。これが元歌です。どうぞ。
(赤江珠緒)えっ?
(山里亮太)はぁ〜〜。
(町山智浩)これが元歌なんです。
(赤江珠緒)なんかね街角で1人で歌ってるような、これはこれでいいですけど。さりげないですもんね。
(町山智浩)素朴なんですよ。あんまり力も抜いててね。これはドリー・パートンが自分で作詞作曲した歌で、彼女はカントリー歌手なんですよ。で、『テキサス1の赤いバラ』って言うあんまりヒットしなかった恋愛映画がありまして。それの主題歌で、ひっそりと素朴に歌うんです、その映画の中でも。愛するバート・レイノルズに対して歌う歌なんですけども。これを、今と全く同じ曲をですね、ホイットニー・ヒューストンが歌うとこうなっちゃうんですね。どうぞ。
(山里亮太)全っ然違うなぁ〜〜!
(赤江珠緒)すごい。
(町山智浩)こうなると、もうラブソングですらなくなっちゃうと言うね。1人の誰かに対して歌ってるって言うよりも全人類に対して、愛してるわ!って言う風に歌ってるように聞こえるんですよね。
(赤江珠緒)確かに。そうですよね。
(町山智浩)スケール100万倍ぐらいになってるんですけど。(笑)
(赤江珠緒)そうね。見えてる景色がなんか本当、地球のこう水平線に向かってるような。(笑)広大な歌になる。
国民レベルの歌に
(町山智浩)これね、南アフリカでずっとアパルトヘイトって言う人差別が続いてて、ところがそこで革命が起こってですね、アパルトヘイトが撤廃されて。ネルソン・マンデラ氏が大統領になった時に、このホイットニー・ヒューストンが呼ばれてですね。南アフリカの人民に対してこれを歌ったんですよ。渡しはずっとこれからもあなた達を愛し続けますよと。もう本当にだからね。国民レベルの歌になっちゃうんですよ。彼女が歌うと。で、これすごいのは歌詞とか彼女は書いてないんだけど本当に声の出し方。それだけで歌に巨大なメッセージを込めていくと言うね。
(赤江珠緒)そうですよね!自分が書いた曲じゃないんですもんね。
(町山智浩)書いた曲じゃないし歌詞の目的も違うんですよ。
(赤江珠緒)そうかぁ!
(町山智浩)これすごいんですよ。関係ないけど、ドリー・パートンはこの歌が大ヒットしたおかげで、作詞・作曲者としてものすごくお金儲かったと思いますよ。(笑)
(赤江珠緒)そうでしょうね!(笑)
(町山智浩)自分が歌ったように売れたから悔しいとは思いますが。だってこれ今インターネットで、YouTubeで再生回数、『I Will Always Love You』って6億回とかですよ。(※2023/02/10時点で13億回)
(赤江珠緒)うーわ!
アメリカ国歌も
(町山智浩)もう人類規模の人なんですよ。このホイットニー・ヒューストンて。すごいんです。で、そのなんでもアンセムにしちゃうって言う能力と言うものがですね、最大限に発揮されたのが、スーパーボウルって言うね。アメリカンフットボールの最大の大会があるんですが、それで1991年に彼女はアメリカ国歌を歌ったんですよ。で、これがあまりにもすごかったんで、その後シングルとして発売されたぐらいすごかったんですけど、アメリカの国家。
(赤江珠緒)ええ!国歌が?
(町山智浩)国家が発売されたんです、あまりにもすごかったんで。これを超える歌はないと言われてます、今も。アメリカ史上ずっと色んな人が国歌を歌ってきたんですけど、ホイットニー・ヒューストン以上の国歌は誰も歌えないって言われてるんで、ちょっと今聞いて頂けますか?
(赤江珠緒)はっ。のびやか・・!
(町山智浩)まぁちょっとすさまじいんですよ。
(赤江珠緒)すごい!これはすごい!ほんと1人の人の声でこんなにって言うね。
(町山智浩)これほどすごかった人が実はその後、破産して。って言うか、借金20億円ぐらい。で、そのままドラッグ中毒の果てにお風呂で溺死と言うすごい死に方をするんですよ。
(赤江珠緒)あ〜・・そうだ。。
ホイットニー・ヒューストンの最期
(町山智浩)もう、亡くなる直前は、もう生活がめちゃくちゃでお金もなくて。
(赤江珠緒)えぇ・・。
(町山智浩)どうしてそんな事になってしまったのかと言うね。
(赤江珠緒)ね。こんなにも天賦の恵まれた声を持ってる方が。
(町山智浩)そう。もう人類の遺産みたいなものだったのに。それを全く失ってしまうと言うね。何が起こったかは、この映画の中で描かれてますけど。まぁ本当にひどい事が起こったんですね。旦那の事とか、家族もひどいしね。ちょっと信じられないような悲劇を彼女が襲っていくんですけれども。それもね、殆ど知ってる人はいないと思いますよ日本でも。
(赤江珠緒)あぁそうですか。
(町山智浩)殆どね、亡くなる直前の10年ぐらいは、本当にひどかったんで。いなくなってた形なんですよね。
(赤江珠緒)そうか。だから本当に急に、えっ?ホイットニー・ヒューストンが亡くなった?みたいな、突然のニュースでしたもんね。
(町山智浩)はい。それもちゃんとこの映画の中で描かれてますんで。本当にもう、人類史上の比類なき才能だったんで。その人を巡る悲劇をね、是非この映画でご覧なって頂きたいと思います。
(赤江珠緒)はい。『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』は、現在全国公開中でございます。いやーこの歌声は改めてすごいですね。
(町山智浩)はい。この映画の中では本物の彼女の歌が全部使われてますんで。すさまじい迫力です。
(赤江珠緒)はい。わかりました。町山さん、今年も1年、ありがとうございました!
(山里亮太)ありがとうございました!
(町山智浩)はい。また来年もよろしくお願いします! どうもありがとうございました。
(赤江珠緒)よいお年を!
※書き起こし終わり
○○に入る言葉のこたえ
⑤アメリカでは黒人の音楽ではないと言われていた