哀れなるものたちの町山智浩さんの解説レビュー
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映画評論家の町山智浩さんがTBSラジオ『こねくと』(https://www.tbsradio.jp/cnt/)で、『哀れなるもの達』のネタバレなし解説を紹介されていましたので書き起こしします。
映画視聴前の前情報として、また、映画を見た後の解説や考察レビューとして是非ご参考ください。
町山さん『哀れなるもの達』解説レビューの概要
①フランケンシュタインの女性版
②エマ・ストーンが2度目のアカデミー賞を取ると言われている作品
③エマ・ストーンが演じるベラは人造人間で、脳みそには○○○○の脳が入っている
④ベラは熱心に勉強し家から出て世の中を見たいと思うように
⑤ベラはスケベなおじさんと駆け落ちしヨーロッパへ
⑥『フランケンシュタイン』を書いたメアリー・シェリーとベラを重ね合わせて描かれる
※○○の中に入る文章は、この記事の1番最後で公開しています。
TBSラジオたまむすびでラジオ音源を聞いて頂くか、書き起こし全文をご覧頂くか、この記事の1番最後を見て頂く事で判明します。
フランケンシュタインの女性版『哀れなるもの達』
(町山智浩)今日ちょっとお話したいのはこれも、一般公開が今週の金曜日からなる映画で。アカデミー賞のですね主演女優賞候補と言われてる映画です。はい。これは『哀れなるもの達』というね、『Poor Things』という原題なんですが。これね、フランケンシュタインの女性版です。
(でか美ちゃん)ほう!
(町山智浩)これね、エマ・ストーンという女優さんがいて、『ラ・ラ・ランド』でアカデミー主演女優賞を取った人ですね。同じぐらいの歳じゃないですか?石山さん達と。エマ・ストーンは。
(石山蓮華)私は・・エマ・ストーンさん、私が今年32なので3つ違いですかね。
(でか美ちゃん)そうですね私も3つ、4つ違いぐらい、同世代ですね。
(町山智浩)そうですね。まぁちょっと上ですけど彼女の方が。彼女がまた2回目のアカデミー賞を取るんじゃないかって言われてるんですよ。この『哀れなるもの達』っていう映画で。で、彼女が演じるのは人造人間です。で、『フランケンシュタイン』っていう元の話は、死体をですねフランケンシュタイン博士がくっつけてですね、蘇らせて、新しい命を作ったっていう話が『フランケンシュタイン』なんですけども。これはね、それが女性なんですよ。それがエマ・ストーンが演じるベラという人造人間で、脳のところに入ってるのは、赤ちゃんの脳みそが入ってるんです。
(でか美ちゃん)う〜ん。
エマ・ストーンが演じるのは人造人間
(町山智浩)30代の女性なんですが、心は赤ちゃんなんですね。で、その赤ちゃんの、その最初、歩き方なんですよ。歩き方さえもよくわからないから、よちよち歩きなんですね。で、言葉も最初はたどたどしくてですね、食べ物とかも初めて食べるものばっかりだからすごく嬉しくてしょうがないっていうね。赤ちゃんってね、最初ね、食べ物を食べる時超喜ぶんですよ。
(でか美ちゃん)はいはいはい。
(町山智浩)味というものを初めて体験するから。うわー!みたいな感じなんですけど、そういう感じでご飯を食べて、で、そのベラさんが成長していく物語なんですけども。彼女はですね、男の方のフランケンシュタインと同じで、すごく勉強するんですよ。『フランケンシュタイン』っていう原作は、そのフランケンシュタイン博士に作られた怪物がすごく読書家で、いっぱい本を読んで、ものすごく勉強するんですよ。それと同じで彼女も、すごく本を読んだり、色んな事をして勉強していくんですけど、そのうちに、お父さん代わりの博士の家から出たいって思うようになるんですよ。世の中を見たいって。
(町山智浩)ところが、お父さんは。ベラを作った科学者ですけど、ウィレム・デフォーが演じる博士なんですが。いや、世の中っていうのは酷い所だから外に出ない方がいいよって言うんですね。で箱入り娘みたいにして、かわいいかわいいって育てようとすると。ところが、彼女は、彼女に目をつけたですねスケベ親父がいまして。
(でか美ちゃん)あら!
(町山智浩)マーク・ラファロ演じるですねスケベなおっさんに見初められて。2人で駆け落ちしてヨーロッパに行って、色んな冒険をするという話なんですね。で、これがねちょっと面白いのはね。『フランケンシュタイン』という小説を書いた人がいまして。メアリー・シェリーという女性なんですけど。18歳の時に書いたんですよ、あの小説を。
(でか美ちゃん)えー!
(町山智浩)まぁ天才少女だったんですけど。その彼女の、お父さんがウィリアム・ゴドウィンという人なんですね。メアリー・シェリーの。で、この映画のベラを作る科学者の名前がゴドウィンで同じ名前になってるんですよ。だからこれは、『哀れなるもの達』における人造人間ベラは、『フランケンシュタイン』の原作者メアリー・シェリーの人生と重ね合わされてるんですね。で、彼女もすごい箱入り娘として育てられたんですけど、シェリーというちょっとイケメンの詩人と駆け落ちして家を飛び出しちゃったんですよ。
(でか美ちゃん)へ〜。まんまだ。本当に。
『フランケンシュタイン』の原作者メアリー・シェリーの人生と重ね合わされている
(町山智浩)まんまなんですよ。それでヨーロッパで色々な体験をして、その中でフランケンシュタインの城というのが実際にありまして、そこに行って『フランケンシュタイン』っていう話を思いつくんですけど。このメアリー・シェリーという人は世界最初のいわゆるサイエンスフィクション、SF映画を書いた1人なんですけど、『フランケンシュタイン』がそうですね。このねお父さんのウィリアム・ゴドウィンって人は、アナーキーとか、アナキズムって言われる、無政府主義というのを最初に考えついた人なんですよ。
(でか美ちゃん)へ〜!なんかすごい親子ですね。
(石山蓮華)ほんとですね。
(町山智浩)すごい親子なんですよ。政府というものがあると、どうしてもそれは腐敗して悪い事をするから、権力者というのは。政府なんてない方がいいから、政府のない社会っていうものは作れないだろうかっていう事を考えた人がウィリアム・ゴドウィンなんですね。しかもね、このメアリー・シェリーのお母さんという人がいまして、このお母さんはメアリー・シェリーを産んですぐ亡くなっちゃうんですけど、メアリー・ウルストンクラフトという人で。この人はフェミニズムの創始者と言われている人です。
(でか美ちゃん)うわ〜すごっ!
メアリー・シェリーの両親がすごい
(町山智浩)この人が書いた本は、『女性の権利の擁護』という女性の権利についての殆ど初めての本なんですよ。だから『フランケンシュタイン』を作ったメアリー・シェリーは、アナキズムの元祖とフェミニズムの元祖との間に生まれてるんです。
(でか美ちゃん)いや、とんでもない家族だ。すごい。色んなものを世に生み出して。
(町山智浩)特にね、お母さんのメアリー・ウルストンクラフトという人は貧しい人達の権利っていうものがその当時はまだなかった時代で。フランス革命が起こって、貧しい人達が立ち上がったという事を知って、彼女はイギリス人だったんですけど、ものすごく興奮して、フランス革命に参加しなきゃって言って、フランスに行ってるんですよ。で、その頃ね、またすごいのは。このメアリー・シェリーさんは結婚というものはくだらないんだって言って、結婚の外の恋愛っていうものを試してみようっていう事で。『哀れなるもの達』のベラは、スケベ親父に連れられてヨーロッパに行くんですけれども、そのスケベ親父よりもどんどん頭がよくなっちゃって。彼女は彼を捨てるんですよ。で、そこからね。自由恋愛というか、自由セックスというかですね。そういったものを試していくんですよ。その辺がね、すごく今、この映画に関して論争があって。その部分というのは一体本当に女性の自由なのかどうかという事で、この映画に関してですね、アメリカでも議論を呼んでるんですけども。その部分はまた別の小説を元にしてるんですよ。それはね、1748年にイギリスで出版された『ファニー・ヒル』という小説がありまして。その部分を、今度は後半は『ファニー・ヒル』になってくんですけども。
後半はファニー・ヒルという小説を元に描かれていく
それはね、その頃の18世紀のイギリスっていうのは女性っていうのは性において完全に客体として受動的な存在として見られてたんですよ。あと、仕事は女性には主婦以外には殆どなくて。結婚できなかったら娼婦になるしかなかったんですね当時は。まぁそれぐらいひどい時代だったんですけども。その中でファニー・ヒルという貧しい女の子が孤児で。娼婦のところに売られちゃうんですね。
ところが、そこで本当だったら男性達にひどい搾取を受けるんですけど彼女はものすごく頭が良くて。元気で明るいので、その男達の陰謀を次々と覆してですね、どんどんどんどん彼女はですね幸せになってくっていう話なんですよ。で、最後は本当に愛する人と結ばれて、幸せな家庭を築くというですね、そんな話になるのっていうね、すごいヘンテコな話が『ファニー・ヒル』で。これはね、当時もう発禁になってですね。大変なセンセーションになったんですね。こんな本は許されないと。女性が自由に生を謳歌するなんて、許されないっていう時代だったんですよ。それを現代に甦らせたのが今回のですね、『哀れなるもの達』という映画で。まぁね、聞くと『フランケンシュタイン』で、しかもフリーセックス?とんでもない映画だ!って思うんですけど、ものすごくかわいい映画になってるんですよ。
(石山蓮華)なんかビジュアルもすごく素敵ですね。
(町山智浩)そうなんですよ。一応舞台は19世紀ヨーロッパってなってるんですけど、実際の19世紀ヨーロッパじゃなくて、スチームパンクと言われる、その蒸気機関が現在のテクノロジーまで発達したような、ありえない世界になってて。おとぎ話みたいですよ。
(でか美ちゃん)なんか色んなところ、原作というか『フランケンシュタイン』だったり『ファニー・ヒル』元にしつつ、やっぱちゃんとフィクションとして見やすくしてくれてるんでしょうね。色んな部分を。
(町山智浩)そうなんですけど、それはそうなんですが、エマ・ストーンが丸出しで頑張ってるんで。ここまでやらなくてもいいのにと思いましたよ。
(でか美ちゃん)えー。だって結構日本でCMが流れてるんですよ、この映画の。めちゃくちゃおしゃれ映画の感じで流してますよ。
(町山智浩)あっ。それがね、本当におしゃれでかわいいんだけど、丸出しなんですよ。
(でか美ちゃん)へー。ちょっと楽しみだな。
(石山蓮華)これはすごい見たいですね。
エマ・ストーンの丸出し
(でか美ちゃん)解説を聞いて、全くイメージ変わりましたもん、CMで見てたイメージと。
(町山智浩)あ〜そうですか。これねCMで見ていくとね、えっここまで見せちゃうのっていうね。結構、みんなびっくりすると思いますよ。
(石山蓮華)なんかイメージとして、『ニンフォマニアック』とか、ああいう・・。
(町山智浩)あそこまですごくないです。(笑)あそこまでひどくはないですけど、それは安心してください。あんなにひどくはないです。
(石山蓮華)そうですか、じゃぁ安心して見られる。(笑)
(町山智浩)是非ね、論争になってて、これはいいのか悪いのかってもう本当に真っ2つに分かれてるんで、ベラの冒険に関してですね。是非ご感想を聞きたいと思います。
(石山蓮華)今日は今週26日金曜日から公開される映画、『哀れなるもの達』をご紹介いただきました。町山さん、本当にありがとうございました。
(でか美ちゃん)ありがとうございました!
(町山智浩)どうもありがとうございました!
■後日談
(石山蓮華)町山さんにご紹介いただきました『哀れなるもの達』、早速私石山もでか美ちゃんも見てまいりました。こちらの作品は、自ら命を絶ったベラという女性が、ある天才外科医によって蘇生され、女性として成長する姿を描いた作品でしたが、あぁ本当に衣装も美術も素晴らしいですし、どこからこの感想を言っていいんだろうっていうのを迷っちゃうぐらい私はよかったです。
(町山智浩)あぁ、そうですか。
(でか美ちゃん)私も大好きな作品でした。
(石山蓮華)で、あの・・熱烈ジャンプっていう言葉が、出て。翻訳版だとなんだろうな、性交渉の事を熱烈ジャンプって。
(でか美ちゃん)ベラがね、まだ性交渉というものが何かを理解しきれてない。なんか快楽が得られる、ちょっとしちゃいけない事かもしれない、わかんない。みたいなのが翻訳だと”熱烈ジャンプ”って出てました。
(石山蓮華)これ、英語版だと・・?
(町山智浩)普通の英語だったと思いますけど。
(でか美ちゃん)そうなんですか。
(町山智浩)脳が子供なんですよね。その時ね、ベラちゃんはね。子供なのにセックスの悦びを覚えちゃうっていうね、話なんですけど。
(石山蓮華)そのベラちゃんが、どんどんどんどん成長していく過程を見ている中で、私自身も、あぁこういう事あったな、多かれ少なかれ、あったな〜っていう事を思い出して、私はベラの成長曲線で言うと今何号目まで今来てるのかなっていうのを考えながら、見ました。
(町山智浩)あ、どの辺ですか?(笑)
(でか美ちゃん)確かに。結果どの辺だったんだろう。(笑)
(石山蓮華)どの辺ていうのは今?
(でか美ちゃん)何合目かなって事。
(石山蓮華)え、あ、え。そうですね。まぁ、ハチャメチャな前半のところを抜け、まぁ自我が芽生えて、ただ、そうですね〜。
(でか美ちゃん)何を山頂とするかもあるもんね。
(石山蓮華)今私はたぶん船に乗って、色んな価値観を持つ人と出会い、哲学とか議論の面白さを理解するところまできて、で印象的だったのがアレクサンドリアっていう章で、主人公のベラちゃんが貧富の差というものを初めて知るシーンがあって、あそこってベラは高いところから、引きの絵でお金がなくてひどい目に遭っている状況の人達を見るじゃないですか。あの引きの感じが、なんかSNS的だなという風に私は感じました、見た後に。
(町山智浩)あぁなるほどね。あのね、ヨーロッパってね、昔なんですけど貴族の人達って、要するにもう貧しさとか全然知らないじゃないですか。だからそのまま領主になると非常に危険だから、領主になる前につまり青春時代にただの人として外国を旅するという、なんていうか決まりがあったんですよ。
(でか美ちゃん)修行みたいな期間が。
(町山智浩)そうそうそう。日本も企業なんかでトップのお坊ちゃまは対立企業で下っ端から働かされるっていう伝統があるんですけど、ヨーロッパにはグランツアーって言ってですね、貴族は必ずただの人として、色んなものを見て貧しさとかそういったものを経験するっていう義務みたいなものがあるんですよね。ベラはたぶんそれをしたんですよ。
(でか美ちゃん)なるほど。それ比喩的なワンシーンだったって事なんですね。
(町山智浩)そうですね。でか美さんはどうでした?
(でか美ちゃん)いや私もう本当にこの作品刺さりまくりまして。女性の自由が性一辺倒なのかって事に関しては色々思う部分はもちろんあったんですけど。特に、ダンスシーン。役名を忘れちゃった。連れ出してくれたスケベ親父とのダンスシーン中に。
(町山智浩)マーク・ラファロですね。
(でか美ちゃん)ベラが自由に踊り出したら、男性も一緒に踊り出す。で、そこでちょっと、なんだろうな。奔放なのでベラが。自分の思った通りに踊ってくれないみたいなのがあるじゃないですか。なんか、あの自由に生きててほしい、歌い踊る奔放な女が好きなくせに、思ったように踊ってほしい、目の届く範囲で自由にいてほしいっていうのが、めっちゃむかつきましたね!身に覚えがありすぎて。じゃぁ自由にしてていいとか言うなよ、みたいな。
(石山蓮華)ねぇ、お前の言う自由ってなんだよ。
(町山智浩)ダンスっていうのは男性がリードするものだから。勝手に色んな踊りするから怒っちゃうんですよね。
(でか美ちゃん)あれもなんか、すごい色んな皮肉とか意味を込めたシーンだなと思いましたし、私はラストシーンで『哀れなるもの達』っていう日本のタイトル。すごく全てが回収されていった感じがして、見ててめちゃめちゃ気持ち良かったです。
(町山智浩)そうですね。あれでスカッとした終わり方で終わるというのがね。
(でか美ちゃん)そう。スカッともしたし、なんかベラが哀れじゃないかと言ったらそうじゃないというか。なんか、色々こう反省もしながら見たし。なんか身に覚えがあるなもあったし。大好きな映画の1つになりました。
(町山智浩)そうですね。ネタバレになるとアレなんですけど。最後のところは、あの世界以外の、外の世界全部はやっぱりまた、なんていうか父権主義のですね、男性主義の世界がまだ続いてるんですよね。だから『バービー』のバービーランドと同じなんですよねラストはね。だからその辺もねまた皮肉が効いてるなと思いましたね。
※書き起こし終わり
○○に入る言葉のこたえ
③エマ・ストーンが演じるベラは人造人間で、脳みそには赤ちゃんの脳が入っている