ウィキッド ふたりの魔女の町山智浩さんの解説レビュー
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映画評論家の町山智浩さんがTBSラジオ『こねくと』(https://www.tbsradio.jp/cnt/)で、『ウィキッド ふたりの魔女』のネタバレなし解説を紹介されていましたので書き起こしします。
映画視聴前の前情報として、また、映画を見た後の解説や考察レビューとして是非ご参考ください。
町山さん『ウィキッド ふたりの魔女』解説レビューの概要
①勇気ある作品のうちの1つ
②多様性を描く映画が作りづらい現代で意味のある公開
③『ウィキッド』の元になった『オズの魔法使い』
④『オズの魔法使い』の悪い魔女は本当に悪いのか?という視点で、悪い魔女の立場で物語を語り直したのが『ウィキッド』の原作本
⑤第1幕だけを映画化したのが今回の『ウィキッド ふたりの魔女』
⑥この悪い魔女と良い魔女は、実は若い頃○○だった
⑦グリンダは良い人だと思われるためならどんな悪い事でもする人
※○○の中に入る文章は、この記事の1番最後で公開しています。
TBSラジオたまむすびでラジオ音源を聞いて頂くか、書き起こし全文をご覧頂くか、この記事の1番最後を見て頂く事で判明します。
『ウィキッド ふたりの魔女』町山さんの評価とは
(石山蓮華)昨日はアカデミー賞の発表がありましたね。
(町山智浩)はい。このこねくとでも紹介させて頂いて今公開中のですね、『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』が、長編ドキュメンタリー映画賞を受賞しました。

(町山智浩)これはすごく大きな事だったと思いますねアメリカでね。これは映画の内容はイスラエルの中にあるパレスチナ人地区のですねヨルダン川西岸に住んでいる人達が、イスラエル軍によって家を破壊されて追い出されてるんですね。そこに住んでる若者がこの映画をずっと取り続けてるんですけども、それこそ銃で撃たれたりしながらね。途中からイスラエルの若者もそこに参加して、一緒にドキュメンタリーを作って行くんですよ。共同監督なんですけど、アカデミー賞の授賞式ではこのイスラエルの監督とパレスチナの監督2人共同監督がステージに並んで立ちました。これはすごい大きな事で、アメリカなんでね、アカデミー賞は。トランプ大統領がガザ地区というもう1つのパレスチナ人が住んでいる地区がありまして、そこはイスラエルの空爆によって5万人とか亡くなってるんですけど、そこの廃墟を片付けて高級リゾートを建てるって言い出してるんですね。あの、これもう信じられないですけどアメリカがそこを占領して高級リゾートを建てると。5万人死んでいる所にですよ。しかもそこにまだ少し、少しと言ったらあれですけど、まだ何万人ものパレスチナ人達が残ってるんでその人達を全部国外に追放すると。言ってる人が大統領のところでこの『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』がアカデミー賞とったというのは、これはすごく大きな事だったと思いますよ。
(石山蓮華)そうですね。
(でか美ちゃん)だし、こういう作品がノミネートされて受賞しているうちになんとかあげなきゃいけない声ってたくさんあるんだろうなと感じました。そういうのが作品も認められなくなっちゃったらどうしようというか。前まではそういう事考えてもなかったけど。ありうる未来と思っちゃうので、私は最近は。
(町山智浩)そう。その通りですね。作れなくなっちゃうかもしれないという事態になっちゃってるんですよ。これね日本であんまり伝わってないと思うんですけど、アメリカねテレビ局の中でいっぱいテレビ局がある訳ですけども、トランプ大統領に批判的だった人が次々とクビになっています。
(石山蓮華)え。
(町山智浩)キャスターとか。
(石山蓮華)あぁ。
トランプ大統領に批判的だった人が次々とクビに。
(町山智浩)これすごい事態になってるんで、どうしてそうなっちゃったかというとね、日本と違って・・日本と違うのかな同じなのかな、わからないけどテレビ局って後ろにその大きい企業チームがある訳ですよ。そこがやっぱりね、トランプと大統領とぶつかると非常にまずいところがあるんですね。企業体が。例えばディズニーなんですよ。ディズニーはずっと、DEIと言われる多様性を推進するような会社の内部の雇用とかのシステムもそうだし、映画の内容もそうですよね。ところがトランプ大統領の就任してすぐに出した大統領令は、DEIを撲滅するっていう。(笑)多様性をこの世から滅ぼすというですね、すごい大統領令出しましたんで。そうするとディズニーの方針とぶつかっちゃう訳ですけど、でもディズニーみたいな規模の会社だとすごく政府との仕事とか多いですよね。ディズニーランドとかディズニーワールドとか色々あるから。そうすると、対立できない訳ですよ。そうすると、ABCテレビというテレビ局がディズニーの主体にあるんですが、そこであんまりトランプを批判しないようにという形になる訳ですよ。それはすべてのテレビ局にあって、やっぱり1つじゃなくてみんな色々な企業体の中のテレビ部門なんで。なんらかの形でやっぱり、政府はテレビに関しては許認可権持ってるしね。
(でか美ちゃん)そうですね。
(町山智浩)だからすごくやりにくくて。しょうがないからあんまり、トランプ大統領を批判する人には辞めてもらおうという形になっていると。これほんとすごい状況で。今年のアカデミー賞はまだああいった作品がドキュメンタリー部分でとったりとかしましたけど、今後作る事自体が非常に難しくなったり、配給できなくなったりする可能性も非常にあって、もう本当に怖い時なんですけど、こんな時にですね、今日紹介する映画は勇気ある作品のうちの1つなんですが、『ウィキッド ふたりの魔女』というね映画をちょっと紹介させていただきたいんですが。
(町山智浩)これ『オズの魔法使い』の主題歌ですね。虹の彼方にというねジュディ・ガーランドの歌で、このアカデミー賞でもね、この『ウィキッド』の主演女優のアリアナ・グランデが見事なね、声を聞かせてくれたんですけども。『ウィキッド』は日本で劇団四季がずっとミュージカルで舞台でやってるから結構ご存知じゃないかと思うんですかどうですか?
(石山蓮華)私はこの・・お話自体はあるのは知ってるんですけど見た事がないんです。
(でか美ちゃん)私もです。
(町山智浩)あぁそうですか。この元になった、『ウィキッド』の元になった『オズの魔法使い』の方はどうですか?
(石山蓮華)『オズの魔法使い』は映画とか本とかで読んだ事があります。
(でか美ちゃん)でも私小さい時の記憶だと結構なんかファンタジーと見せかけてちょと怖かった印象ありますね。
『ウィキッド』の元になった『オズの魔法使い』
(町山智浩)怖いんですよ。後半ものすごく怖いんです。後半は、緑色の肌をしたですね悪い魔女が、翼が生えた猿軍団で襲ってくるんですよ。
(でか美ちゃん)そうそう、結構ね、なんかトラウマまでいかなかったけど、なんかその子供向けっぽく見せてくんじゃねぇと思った記憶が。(笑)あります子供の時。
(町山智浩)そう。ものすごい怖いんですよ。僕も子供の頃怖かったです。『オズの魔法使い』の後半はね。最初の方は楽しいですけど。あの映画驚くのがね、86年も前の映画なんです。すごいですよ。オールカラーで。1939年ですよ。第二次戦前ですよ。でものすごい特撮で撮ってて超大作で。今見ても全然、最近の映画に見えますからね。そのぐらいすごい大作が『オズの魔法使い』なんですけど。この『ウィキッド』というのはさっき言ったその緑色の肌のですね、悪い魔女が主役です。悪い魔女はね、英語で「Wicked Witch」って言うんですね。で、その『Wicked』から取ってるんですけど、”悪い”っていうような意味ですけど。で、これね、『オズの魔法使い』のすごいファンの原作者が書いた小説が元になってて。彼は、この悪い魔女って言われてるけど本当に悪いんだろうかって考えたんですよ。で、このオズの国という国をね、猿の軍団で襲ってる悪い魔女なんですけど、これ本当に悪いのかなと。なんで襲ってるのかなという事を考えたんですよ。で、彼女の立場で物語を語り直したのがこの『ウィキッド』の原作本なんですね。それがブロードウェイミュージカル化されてですね、それの第1幕だけを映画化したのが今回の『ウィキッド ふたりの魔女』なんですよ。
(石山蓮華)へ〜じゃぁ第2幕以降もあるって事なんですね。
悪い魔女の立場で物語を語り直した
(町山智浩)今作ってますね。全世界でもうこの『ウィキッド』の1作目が大ヒットしたんで。で、これはですね。『オズの魔法使い』の中にいるその緑の肌の悪い魔女と、もう1人いい魔女っていうのが出てくるんですよ。ピンクの魔女です。グリンダっていう名前なんですけれども、ドロシーって主人公の味方をしてくれるピンクの魔女が出てきて。ところがこの『ウィキッド』は、この悪い魔女と良い魔女は、実は若い頃親友だったっていう話なんですよ。
(でか美ちゃん)もう切ない。早くてすいません。
(町山智浩)これね演じるね女優さん達が超大物でね。この悪い魔女はエルファバというのが本名なんですけども、それを演じるのはシンシア・エリヴォさんというですね、ナイジェリア系イギリス人の女優さんですね。彼女はナイジェリア難民の娘さんですね。で、グリンダ。これ若い頃はガリンダっていう名前なんですけど、これを演じるのはイタリア系アメリカ人のアリアナ・グランデさん。で、この2人がダブル主役に近いんですけど。もうめちゃくちゃ歌える2人なんで。もうすごいです。歌の力が。でね、このエルファバというね悪い魔女に将来なる娘さんはですね、緑の肌で生まれたっていう事と、もう1つ、お母さんが不義の関係で産んだ子なんで、父親からものすごく憎まれるんですよ。ちっちゃい頃から。で、それだけじゃなくて、超能力があって。感情がこう高ぶったりすると、物を動かしたり壊したりしちゃうんですよ。だから人に嫌われないように感情を高ぶらせないように。目立たないようにずっと生きてきた子なんですね。で、それに対してその良い魔女になるですね、グリンダ。ガリンダという幼名なんですが、逆にちょっと小金持ちのお嬢なんですよ。で、ちやほやされて。いつも陽気でおしゃれで、ピンクの服を着てね。で友達も多くて社交的で、全く逆なんですねエルファバと。で、いつも取り巻きをぞろぞろ連れて歩いてて、周囲の注目を集める事がもう1番大事みたいな人なんですよ。で、この全く性格の違う2人が大学でルームメイトになっちゃうっていう話なんですよ。
(石山蓮華)なんかここまで聞くと、The青春映画っていう感じがしますね。
(町山智浩)学園物かよと思いましたよね。でも性格が違うから、もう互いを嫌うっていうか憎むというか大変な事態になってくんですよ。
で、特にそのエルファバは超能力があるから。魔法の才能があるって事で、大学の学長から特待生として大学に迎えられるんですよ。しかもそのハンサムな転校生が来るんですが、なぜかね、エルファバと仲良くなっちゃうんですね。で、いつもお姫様でいつも女王様だったグリンダはもうイライライライラする訳ですよ。で、いじめが始まる訳ですよ。この辺は結構きついです見てて。で、じゃぁどうやってこの2人が親友になったのっていう話なんですよ。
(でか美ちゃん)いやそうですよね。自分がエルファバだったら許さないけどな、今のところ。(笑)
(町山智浩)ね。すっごいきついシーンがあって、マンチキンというね差別されている民族がいるんですねオズの国には。で、その男の子がこのグリンダを好きになって、告白すると、彼女はそれを振ったりして冷たくすると、冷たい子だって噂が出ちゃうから、お友達ならお付き合いするわって言って受け入れるんですよ。で、このエルファバには下半身が不自由で、車椅子に乗ってる妹がいるんですね。で、パーティーがあっても誰も誘ってくれない寂しい子なんで、私の事好きなら、彼女をパーティーに誘ってあげてっていう風にその自分に告白した男の子に言うんですよ。それっていい人なの?要するに、なんていうのかな。このガリンダ、グリンダはね。良い人だと思われるためならどんな悪い事でもする人です。
(でか美ちゃん)なーるほど。
グリンダは良い人だと思われるためならどんな悪い事でもする人
(石山蓮華)なんか、一見すごく優しくて親切だけど、本当に倫理的かって言うとウーンっていうところがどんどん出てくる。
(町山智浩)しかもね、悪意が全然ないんですよ。この性格の違う2人がね、大学に行くと、その大学の教授がですね、ヤギなんですよ。これね、オズの国には色んな民族、体の形とかが違う民族もいるんですが、動物もいて、普通に人間としゃべってですね。動物の権利が人間の権利と同じになってるんですよ。で、差別はあるんですけど、権利はみんな平等に認められてるんですね。ところがね、突然このヤギの教授が檻に入れられちゃうんですよ。要するに、これからは動物は差別するからってなっちゃうんですよオズの国では。で、これを今このアメリカで公開するっていうのは大変な事なんですよ。
トランプ大統領になってからね、本当にこれが現実になってますから、学校に通ってた子とかいきなり逮捕されちゃうんですよ。移民だ、難民だって事で。で、それだけじゃなくてさっき言ったね、DEI。多様性を禁止するという大統領令が出てるんで、例えばですね、アメリカ軍で1番偉い人は統合参謀本部長って言うんですけども、が黒人だっていう事でクビになりました。信じられない時代になってますよこれ。何もミスも何もしてないんですよ。非常に優秀な空軍のジェットパイロットだった人ですけど。
もうこれはこのヤギの教授がヤギだっていうだけで逮捕されるんで。日本だと感覚としてわからないかもしれないけどアメリカ人にとってはものすごいショッキングな事ですね。これがまさに起こっている事なんで。で、こういう映画がさっきね、でか美ちゃんが言ってたように作られにくくなっているのが今のアメリカなんですよね。これが怖い感じでね。でね、このシンシア・エリボさんもさっき言ったみたいにナイジェリア難民の人だし、バイセクシャルなんですよ。だから当事者なんですねこういった問題に関してはね。
(町山智浩)あ、これ1番いい歌です、映画の中で、ウィキッドの中で。重力に逆らって。『Defying Gravity』っていう歌なんですが。でね、そういう状況なんでオズの国って全然よかった国なんですけど、だんだん悪くなっていくんですね。で、このエルファバは肌が緑でね、差別されてる側なんで、最終的に権力に立ち向かう事になってくんですよ。で、もう今まで引っ込み思案でね、ずっと内気でね、コソコソと生きてきた彼女が、全部そういったね自分を縛ってたものを断ち切ってね、魔女になるんですよ。
(でか美ちゃん)それじゃぁ悪い魔女なのかって思いますね確かに。
(町山智浩)そうなんですよ。
(石山蓮華)誰から見て悪いのかというね。
(町山智浩)そうなんですよ。で悪い国と戦ってる人っていうのは、その国からすれば反政府側っていう事になるんですけども、でもこの映画ではそっち側の立場で、魔女の立場で見てるんで、まぁすごい事になってます。なんていうか、あんまりオチに突っ込みそうになったぞ。(笑)
(でか美ちゃん)危ない危ない。(笑)
(町山智浩)あぁ、危なかった。まぁちょっとすごい意外な展開になるので、話全然知らない人はね、この『ウィキッド』は後半の方でね、えっ?っていうところになってきますからね。
(でか美ちゃん)そっかあくまでパート1なんですもんね。
(町山智浩)パート1なんですよ。でもね、パート1だとじゃぁ話終わってないのかっていうと、すっごい盛り上がります。最後は。あっ言いそうになってんな俺。(笑)
(でか美ちゃん)危ない危ない。(笑)
(町山智浩)もう号泣している人とかいましたよ。
(石山蓮華)でも、なんかまず女性2人の友情ものっていうところで私はすごく気になってるので。でも結局仲違いしちゃうんですよね?
(でか美ちゃん)という事かなぁ。仲良くなるキッカケも今のとこまだわかんないから、ちょっとこれ見てみないとですよね。
(町山智浩)これものすごい複雑な心理なんで、これは見ていただくしかないですね。
(でか美ちゃん)だしこういう作品が、オープニングでも話しましたけど受賞したりとか、アリアナ・グランデさんみたいなちゃんとこう若者に影響力のある歌手の方がね、出てるっていうのがすごいいいですよね。
(町山智浩)もう本当にちっちゃい子まで大人気なんでね、アリアナ・グランデがね。うちの娘とかはもうアリアナ・グランデがすごく若い頃から、出てきてる時から追っかけてて、そういう子達がいっぱいいる訳ですよ、女の子達で。で、楽しそうなミュージカルだからって見に行くんですけども、もっとすごく強いメッセージをね、くれる映画なんで。で、この『重力に逆らって』っていう歌がね、歌詞がまたすごい強くて。他人のルールに従って生きるのはもうやめたわっていう歌ですから。『Let It Go』ですよこれ。
(石山蓮華)ほんとですね。
(町山智浩)だから『Frozen』のあの歌がすごい流行ったですよね、日本で。

(町山智浩)アナ雪か日本では。これもね、そのパワーがあって。どっちも元の歌をブロードウェイミュージカルで歌ってる人がね、同じ歌手なんですけど。
(でか美ちゃん)ヒットメーカーというかね、すごい。
(町山智浩)これはね、すごい事になると思います。日本では吹替版でやる映画館もあるみたいですけどね。高畑充希さんが歌らしいですね。
(でか美ちゃん)うわじゃぁ絶対いいじゃん。
(石山蓮華)高畑さん舞台で歌ってる歌もすごい素敵ですもんね。納得のキャスティングだ。
(町山智浩)いやもう本当ね、このクライマックスはすごいんで。是非ご覧になっていただきたいと思います。
※書き起こし終わり
○○に入る言葉のこたえ
⑥この悪い魔女と良い魔女は、実は若い頃親友だった