万引き家族の町山智浩さんの解説レビュー
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映画評論家の町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』(https://www.tbsradio.jp/tama954/)
で、是枝裕和監督の実際にあった家族の事件をもとにした映画『万引き家族』のネタバレなし解説レビューを紹介されていましたので書き起こしします。
映画視聴前の前情報として、また、映画を見た後の解説や考察レビューとして是非ご参考ください。
町山さん『万引き家族』解説レビューの概要
①『万引き家族』は落語の長屋落語に似ている?
②是枝監督の作品と落語の関係について
③本当の家族は血ではなく、◯◯◯で繋がっている
④『万引き家族』のような作品は、実は世界中にある?
※○○の中に入る文章は、この記事の1番最後で公開しています。
TBSラジオたまむすびでラジオ音源を聞いて頂くか、書き起こし全文をご覧頂くか、この記事の1番最後を見て頂く事で判明します。
『万引き家族』町山さんの評価とは?
(町山智浩)
でー、先週ですね。まぁうまくいかなかったので音声とか。
(山里亮太)
はい。
(赤江珠緒)
うん。
(町山智浩)
あのーちょっともう1回同じ映画の紹介になっちゃうんですけど・・。
(赤江珠緒)
いや、ぜひぜひ。
(山里亮太)
聞きたいっていう人多いですよ。
(赤江珠緒)
もう『万引き家族』ですから。
(町山智浩)
すいません。それでね、ちょっとやり直しになっちゃうんですけど。
(山里亮太)
(赤江珠緒)
はい。
(町山智浩)
まぁ『万引き家族』ですけど、あのー僕ね、あのーこれを見ていてですね。
(山里亮太)
(赤江珠緒)
はい。
(町山智浩)
すごくこの、是枝監督に質問したいことがあってですね、
(山里亮太)
はいはい。
(赤江珠緒)
えぇ、えぇ。
町山さんが、是枝監督に質問したいこと
(町山智浩)
それは何かっていうと、落語がすごい好きなんじゃないかって思っているんですよ。
(山里亮太)
えっ。
(赤江珠緒)
落語!?是枝さんが。
(山里亮太)
えーどういったところで?
(赤江珠緒)
えー?
(町山智浩)
落語、是枝さんが。あのね、僕ね、この『万引き家族』っていうタイトルで、でー主人公が、あのまぁ、リリー・フランキーさんが、あのまぁ鳶職みたいな、建築現場で働いていますよね。
(山里亮太)
(赤江珠緒)
はいはい。
(町山智浩)
でーまぁあの、まぁ奥さん・・あのー内縁の妻の安藤サクラさんがクリーニング店で働いていて。
でも、あんまり生活が、あのまぁ苦しくてですね、まぁ共同生活をしているわけですけども。
樹木希林さん扮するおばあちゃんとか、風俗で働いている・・えーと、松岡茉優ちゃんとか。
(山里亮太)
松岡茉優ちゃん、はい。
(町山智浩)
はい。それでーまぁ、その状況っていうのはですね。
非常にその、落語の長屋落語に似ている感じがしたんですよ。
(山里亮太)
(赤江珠緒)
はぁー!
家族構成などが、落語の長屋落語に似ている
(町山智浩)
ねぇ。長屋っていうのはまぁ、ひとつの家ではないんですけど、みんな家族みたいに暮らしているんですよね。
(山里亮太)
はい。
(町山智浩)
あの血がつながっていないんですけども。
(赤江珠緒)
そうか。大家といえば親みたいなねぇ?
(町山智浩)
そうそうそうそう。そういうセリフが全く出てきますけども。で、あと、ご隠居さんがいたりね。
でー特にあの、職業として大工さんとかいわゆる人足とか鳶の仕事をしている人が出てくるんですよね。
(赤江珠緒)
はいはい。
(山里亮太)
はい。
(町山智浩)
あとね、洗濯屋さんっていうのも出てくるんですよ、女の人で。
だから職業的にも非常に近いんですけど。あと、髪結いさんとかね。長屋に住んでいる人は。
(赤江珠緒)
はい。確かに。
(町山智浩)
で、それだけじゃなくてね僕ね、なんで落語が思いついたのかな?って思ったらですね、ネタが似ているやつがあったんですよ。
(山里亮太)
えっ。
(町山智浩)
それは「寄合酒」っていう落語のネタがありまして。
(山里亮太)
(赤江珠緒)
はい。
(町山智浩)
これがあのーみんなで、長屋のみんなであの、お酒を飲もうっていうことになって、そしたらみんな、あのーズルくて貧乏でセコいやつらばっかりだから長屋の住人は。あのー酒の肴をみんなね盗んでくるんですよ。
(赤江珠緒)
はぁー!うんうん。
(山里亮太)
うんうん。
(町山智浩)
万引きしてくるんです。はっきり言っていろんな方法で。
(山里亮太)
あっ。
(赤江珠緒)
えぇ。
色々な方法で万引きしてくるが・・?
(町山智浩)
ね、でも大抵マヌケだから失敗したりですね。
あと貧乏すぎて数の子を盗んでくるんですけど、どうやって食べていいのかわからなくて煮てダメにしちゃうとかね。
(山里亮太)
(赤江珠緒)
はぁー!
(町山智浩)
確かそういうギャグなんです。
で、すごく似ているんですよ。
(赤江珠緒)
うん。
(町山智浩)
それと、長屋の落語の基本は、子供が利口なんです。
(山里亮太)
あぁー!たしかに、うん。
(赤江珠緒)
あぁ、そうですね。だいたいそうですね。
(町山智浩)
そう。子供は利口で「父ちゃん、ダメだよこんなことしちゃ」とか「バカじゃないの」って言うんですよ。
(山里亮太)
(赤江珠緒)
うんうん。
(町山智浩)
で、「うるせぇな、おめぇ」っていうのが落語の基本なんで、非常に落語的なんですよ。
(赤江珠緒)
はぁー!そういう見方、言われるとそうですね。
(山里亮太)
はーそう言われたら、確かに。
(町山智浩)
それでね、是枝監督は実際にその「長屋の花見」を元にした映画も撮っているんですね。
(赤江珠緒)
ふぅ〜ん!
(山里亮太)
へぇ。
是枝監督は、「長屋の花見」を元にした『花よりもなほ』という映画も撮っている
(町山智浩)
『花よりもなほ』っていう映画なんですけども。
(赤江珠緒)
あっそうなんですね!
(町山智浩)
俺はね「この人は落語が原点なのかな?」って思って聞きたいんですけども。
あと、落語って基本的に詐欺の話が多いんですよ。
(山里亮太)
はいはいはい。
(町山智浩)
「時そば」ってそうじゃないですか。
(山里亮太)
そうですね。
(赤江珠緒)
あぁーそうだ。
(町山智浩)
ねぇ。
あのーおそばをタダであのー無銭飲食しようとするっていう話ですけど。
(山里亮太)
ちょっとね、割引させようとしてね。
(赤江珠緒)
うん。そうそうそうそう。
(山里亮太)
数えている最中。
(町山智浩)
そうそう、だからもう、そうそう。
だからみんなその、まぁ職業はそれぞれあるんだけど、貧乏なんだけど、それ以上に何ていうかケチでズルいからなんか悪いこと、ズルいことをしようとするんだけど、上手くいかないっていうお笑いですよね。
(山里亮太)
はいはい
(赤江珠緒)
う〜ん!
いかにもリリー・フランキー
(町山智浩)
で、いかにもリリー・フランキーがまぁ長屋に住んでいる、そのまま着物を着て出てきそうな感じじゃないですか。
(山里亮太)
あぁーわかります!
(赤江珠緒)
そ〜ですね!
あー本当だ、うん。
(山里亮太)
言われてみたらすごくその映像にぴったりだと思う。
(町山智浩)
あれが福山雅治だったら全然おかしな映画になるわけじゃないですか。
(山里亮太)
ははは(笑)
また違う映画になってきちゃう。
(赤江珠緒)
そうかそうかぁ。
リリーさんもなんかそこまで悲壮感がないっていうかね。
(町山智浩)
落語、あの人、べらんめえでしゃべっているでしょう?
あの人、本当は福岡の人なのに。
(赤江珠緒)
そうですねぇ。
(山里亮太)
あっそう。
(町山智浩)
落語を狙っているんだと思ったんですよ、あの。江戸っ子弁っぽいしゃべり方が。
(山里亮太)
あ、なるほど。
(赤江珠緒)
あー!なんか苦しい状況でもなんかちょっと飄々とね。
(山里亮太)
江戸落語だ。
(町山智浩)
そう。でね、またいっぱいね、落語じゃないか説っていうのはね、これね。あのーまた他にも続くんですけど。
(山里亮太)
(赤江珠緒)
はい。
(町山智浩)
まあ、そういう映画を作っていまして。
(赤江珠緒)
うん。
(町山智浩)
えーこの前にね『海よりもまだ深く』っていう映画を是枝監督が撮っているんですけど、これ見ました?
(赤江珠緒)
いや、これは、はい。
(山里亮太)
いえ、拝見してないです。
是枝監督の『海よりもまだ深く』
(赤江珠緒)
阿部寛さんと、これも樹木希林さんが出られていて。
(町山智浩)
阿部寛さん。そうなんです。
こっちもね、完全にね長屋みたいな話で団地の話なんですけども。狭い狭い団地のね。
(山里亮太)
はい。
(赤江珠緒)
うん。
(町山智浩)
これに出てくるね、阿部ちゃんがまた最低の男なんですよ。
(赤江珠緒)
あぁそう、うん。うん。
(町山智浩)
あのね、なんかね私立探偵をやっているんですけど。
(赤江珠緒)
はい。
(町山智浩)
男子高校生がガールフレンドじゃない子と浮気しているのを写真に撮ってですね、カツアゲして3万円とったりしているようなやつなんですよ(笑)
(赤江珠緒)
うわー(笑)
(山里亮太)
最低だ(笑)
(町山智浩)
で、あと息子に靴を買ってあげる時に、わざとその靴屋で靴を汚して。
「ここ汚れているじゃねえか。安くしてくれねぇか?」って安くしてもらうとかですね。
(赤江珠緒)
あ、それも落語にありますね!
(町山智浩)
落語なんですよ!!
(赤江珠緒)
『初天神』とかでね。
(町山智浩)
完全に落語なんですよ!
(赤江珠緒)
みたらし団子の汁をちょっと舐めて、くれ!とかいうのがね。
(町山智浩)
そうそう。「是枝落語説」っていうのをね、いま考えているんですけども。
はい。そう、だからそういう証拠がいっぱいあるんですが。ねぇ。
そう聞いているとなんか、そういう人だと全然知らない人は勘違いしちゃうんで、
(山里亮太)
ははは(笑)
(町山智浩)
真面目な話をします、ここからね。
是枝監督はもともとテレビの、まぁドキュメンタリーを撮っていた人なんですよ。
(山里亮太)
(赤江珠緒)
はい。
是枝監督は元々、テレビのドキュメンタリーを撮っていた
(町山智浩)
で、事実関係を非常に調べて調査して、まぁそれをまぁ暴いていくというまぁ調査報道系の人なんですね。
(山里亮太)
はい。
(赤江珠緒)
うん。
(町山智浩)
はい。
で、この人が20代の終わりに作ったーそのドキュメンタリーが、福祉切り捨ての中で死んでいった人たちのまぁ実態を追いかけていくというものなんですよ。
(赤江珠緒)
ふ〜ん!
(山里亮太)
はいはい。
(町山智浩)
もうこの人、テーマがそこからずーっと変わっていないんですよ。
(赤江珠緒)
そうですね。20代の時から。
はぁー!
(町山智浩)
そう。20代の時から一貫して、
だからあのーこの映画に関して、その、現在のまぁ政治的な部分を批評しているという風に言わることもあるんですが、
(山里亮太)
(赤江珠緒)
はい。
(町山智浩)
だって、20代からやっているんだもん。
(赤江珠緒)
そうか、もう91年?1991年。
(町山智浩)
そう、そうなんですよ。政権は関係ないんですね。
ずーっといま起こっていることなんですよ、この福祉切り捨てという問題は。
(山里亮太)
(赤江珠緒)
うん。
(町山智浩)
その中で死んでいく人たちがいると。
(赤江珠緒)
はい。
(町山智浩)
で、まぁ是枝監督のまぁ非常にそのまぁ大成功した作品でですね、初期のその『誰も知らない』っていう映画がありまして、2004年の。
(山里亮太)
はい。柳楽優弥くんの。
是枝監督の『誰も知らない』
(町山智浩)
そうそう。
あれは実は『万引き家族』とほとんど同じような話なんですよ。
(山里亮太)
あーはぁはぁ。
(赤江珠緒)
ふ〜ん!
(町山智浩)
これは、あの4人の小学生の子供がね。あのーダメな母親に置き去りにされて、YOUさん演じているんですが。
(山里亮太)
YOUさんが。
(赤江珠緒)
はい。
(町山智浩)
その中でその長男がいちばんちっちゃい子を殺しちゃったっていう事件があったんですね。
あの、なんとか子供たちの面倒を見ていたんですけどその長男が。
(山里亮太)
(赤江珠緒)
はい。
(町山智浩)
で、ところがそのー。実際彼は犯罪なのか?っていうことを是枝監督が調べていくと、どうもそうではないと。
有罪か無罪かってことに2つに分けてしまうから、そのまぁ司法であったり行政であったりマスコミは。
(山里亮太)
(赤江珠緒)
うんうん。
(町山智浩)
ねぇ、でもその有罪か無罪かからこぼれ落ちてしまう現実っていうものが、実態があったはずなんだと。
(山里亮太)
(赤江珠緒)
うん。
(町山智浩)
たしかに殺してしまったのは悪いことだけども、じゃあ彼は悪人なのか?っていうとそうではないじゃないかと。
(赤江珠緒)
そっかぁ。
(町山智浩)
犯罪者はかならずしも悪人ではないということを、その事件の中に入っていくんですね。
だからドキュメンタリーと同じ手法で。それ、結局誰も知らないものを見ようとするんですよ、是枝監督は。
(赤江珠緒)
ふ〜ん!
犯罪者は必ずしも悪人ではない
(町山智浩)
だからもう『誰も知らない』っていうタイトルは今回の映画もそうですけど、全ての是枝監督のテーマになっているんです。
キーワードなんですね。
(山里亮太)
なるほどぉ。
(赤江珠緒)
あぁーそっかそっか。
(町山智浩)
で、その『誰も知らない』っていう映画ね、いま見るとすごいんですけど、カメラがね、ものすごく子供に近いんですよ。
(山里亮太)
ほー!
(赤江珠緒)
カメラワークが、うん。
(町山智浩)
そう。カメラの位置が、高さが。
すっごい近いところで、ほっぺたギリギリのところから撮影しているんですよ。
(山里亮太)
(赤江珠緒)
はぁー!
(町山智浩)
すごいのは、これ完全に子供の目線で撮っているんですよ。
(山里亮太)
なるほど。
(赤江珠緒)
そういうことですね。なるほど。
子供目線のカメラワーク
(町山智浩)
上から目線で「これは犯罪だ」とか「ひどいね、ひどい親だ」とかそんなのじゃなくて、
いや、そういうこと全部取っ払って子供の中に入ってみようっていうことなんですよ。
(山里亮太)
へぇー!なるほどー!
(赤江珠緒)
ふーん!
(町山智浩)
でね、この映画はアメリカでもすごくまぁあの注目をされたんですけど。
いま公開されて・・日本で公開されている映画で『フロリダ・プロジェクト』という映画があるんですね。
(山里亮太)
(赤江珠緒)
はい。
(町山智浩)
これ『たまむすび』でも紹介したんですけど。
フロリダの安モーテルで暮らしているダメな母親シングルマザーと、えーその娘の話なんですね。
(山里亮太)
はい。
(赤江珠緒)
うん。
(町山智浩)
で、それをカメラが娘の視線で撮っていくんですよ、その8才の。
(山里亮太)
あっはいはいはい。
(町山智浩)
これおそらく『誰も知らない』の影響を受けて撮られた映画だと思います。
アメリカ映画ですけど。
(山里亮太)
(赤江珠緒)
へぇー!!
(町山智浩)
ジャッジしないで、子供の目線で入ってくるんですよ。
(赤江珠緒)
はぁー!
子供の目線、大人の目線
(町山智浩)
でなおかつ、でも大人の目線があって。
その悲惨な子供たちをなんとかしてやりたいんだけど何もできない、っていうもどかしさがあるんですね。
(山里亮太)
うんうん。
(町山智浩)
これはその『フロリダ・プロジェクト』の中で悲惨なその親子を見ながら、血がつながっていないから何もできないあのーホテルの管理人さんの目線なんですよ。
是枝監督の目線は。
(赤江珠緒)
ふ〜ん!
(町山智浩)
だからこれ、たぶんね、影響を受けているんですね。
で、もうひとつテーマとして、さっき有罪か無罪かで2つに分けちゃうっていうのが司法であり、その行政で、えーマスコミだって言ったんですけども。
(山里亮太)
(赤江珠緒)
はい。
(町山智浩)
これ、この前の前ぐらいに撮った『三度目の殺人』っていう映画はそういう話でしたよね。
(赤江珠緒)
ふーん!
(町山智浩)
これは見ました?
(赤江珠緒)
『三度目の殺人』はい。
是枝監督『三度目の殺人』
(町山智浩)
あれがあのー弁護士が福山さんで。
で、最初は上から目線で事件を担当していくと、どんどん、どんどん本当の事件の実態が見えなくなってくるんですよ。
だからまさに有罪か無罪かでわけられないものが見えてくるということで。もう、これも同じテーマですよね。
(赤江珠緒)
あ、是枝監督は本当にそのテーマが一貫されているんですね。
(山里亮太)
変わっていないんだ。
(町山智浩)
すっごい一貫しているんですよ。
『万引き家族』はでも、いままでの過去の作品全部の集大成的なところがあって。
(山里亮太)
(赤江珠緒)
うーん!
(町山智浩)
あの、だからね、これだけあのーすごく成功しているんだと思うんですよ。
さっき言った落語的要素・・リリー・フランキー的な要素?あの、セックスした後に背中にラーメンのスープについていたネギがついていてそれをなめる的な要素、みたいなのもあるんですけど(笑)
(山里亮太)
あはは(笑)
(赤江珠緒)
んー!
(町山智浩)
『誰も知らない』は結構ヒリヒリするようなドキュメンタリー要素なんですよ。
(山里亮太)
はぁー!
(町山智浩)
それは、別々なんだ、落語とドキュメンタリー要素は別々だったんですけど、その『万引き家族』ではくっついているんですよね。
(山里亮太)
うん。
(赤江珠緒)
あぁ、そうだ。
(町山智浩)
笑えるところとくっついてるんで。あの、残酷なドキュメント要素と。
だからこれは集大成なんだと思うんですよ。
『万引き家族』は是枝監督の集大成
(赤江珠緒)
そっか『万引き家族』は本当に同時にいろんなものが存在していますもんね。
(町山智浩)
そうなんです。ただ、全て過去の作品にあったものなんですよ、全て。
(赤江珠緒)
はぁー!
(山里亮太)
あ、なるほど・・。
(町山智浩)
っていうのは『誰も知らない』の中にね、すでに「パチンコ屋の駐車場の自動車の中に置き去りにされている幼児」っていうモチーフは出てきているんですよ。
(赤江珠緒)
あぁ、そうですか。
(山里亮太)
あぁー。
(町山智浩)
そう。
だからそこのまぁ、たぶん放っておいたらそのまま子供は死んでしまうかもしれないんですけど、そこにリリー扮する車上荒らしが来れば助かるかもしれないわけですよ。
(山里亮太)
(赤江珠緒)
う〜ん!
(町山智浩)
そういう話ですよね。だから『万引き家族』っていうのは実際は、その、えーまぁおばあちゃんが死んだのに、それを隠して年金を受け取り続けていた家族、という事件が実際にあって。
(山里亮太)
(赤江珠緒)
はい。
(町山智浩)
それともうひとつ、そのーまぁ親子で、まぁ釣具屋で、まぁ釣り竿を万引きした家族がいて。
その2つの実際にあった事件を元にしてはいるんですけども、その中に、その車上荒らしで、そのパチンコ屋に置き去りの子供を救うっていう形で『誰も知らない』でちょっとだけ触っていたところがグッと押し出されて来てるんですよ、今回。
(赤江珠緒)
ふ〜ん!
(町山智浩)
で、もうひとつは、あのー『そして父になる』っていう映画ですよね。
(赤江珠緒)
はいはい。
『そして父になる』
(町山智浩)
あれはその、あれもだから実際にあった、子ども、赤ん坊の入れ替え事件を元にしていて。
(赤江珠緒)
病院で取り違えられてね。
(町山智浩)
病院で取り違えられて。で、1人のお父さんは福山くん演じるエリートのまぁ建築家で。
で、もう1人はリリー扮する貧乏な(笑)ね、お父さん。
(山里亮太)
はい。
(町山智浩)
で、子供は入れ違っていたからじゃあ元に戻そうとするんですけど。
それで実の親のところに子供が来るわけですけど、福山くんのところにね。
でも、子供はリリーの方を選ぶんですね。
(赤江珠緒)
うん、そうですね。
(町山智浩)
ごちそうも食べられて、おもちゃもなんでも買ってもらえて。で、いい家に住めるんだけど、それを子供は求めないと。
で、血がつながっていないリリーの方を求めるという話があのー『そして父になる』で。
あれはテーマは、あのこの今回の『万引き家族』の中でもセリフで出てきているんですけどね。
(山里亮太)
あぁ〜!
(赤江珠緒)
うんうん。
「親になる」とは
(町山智浩)
「産んだからって親になれるわけじゃないんだよ」って。「親になるっていうのは単に血がつながっているってということではないんじゃないか?」っていう。
(赤江珠緒)
はぁ〜!
(町山智浩)
あの、セリフの中でいまその通り、出てきますけども。
ねぇ。あと実の親ってなに?っていう。産んだけれども虐めたり、育児放棄したり、パチンコ屋の駐車場に置き去りにする親と、その全然血がつながっていないんだけども大事にする親と、どっちが実の親なの?
(赤江珠緒)
そうなんですよねぇ。
(町山智浩)
ねぇ。でもそれは『誰も知らない』でも描かれていることで、親っていうのは意識してならないとなれないものなんだよっていうことですよね。
(赤江珠緒)
はぁ〜!
(町山智浩)
で、それともうひとつ、エリート問題があるんですよ。
(山里亮太)
エリート問題?
(町山智浩)
あのね『そして父になる』の福山くんを見ていると本当にムカムカするんですよエリートで。
(赤江珠緒)
うん。
(町山智浩)
人の心がわからなくて。で、途中でもってリリーに説教されるシーンがあるんですけども(笑)
それって今回も同じことをやっていますよね。
(山里亮太)
今回で言うと・・?
『そして父になる』と『万引き家族』の同じようなシーン
(町山智浩)
あの緒形直人さん扮する松岡茉優ちゃんの本当の父親のところ。
(赤江珠緒)
あぁ〜!
(山里亮太)
はいはいはい。
(町山智浩)
すっげーいい家に住んでいて、金持ちで、超気取っているんだけど、絶対にこっから逃げ出したい理由があるわけじゃないですか、だから茉優ちゃんが。
嫌な家だったわけですよ。
(山里亮太)
うんうん。
(町山智浩)
で、貧乏なゴミ溜めみたいなところでも、そっちの方が幸せだったわけじゃないですか。
(山里亮太)
(赤江珠緒)
うん。
(町山智浩)
それって『そして父になる』と全く同じことをやっているんですよ。
(赤江珠緒)
そうかぁー。
(山里亮太)
はぁ〜!
(町山智浩)
そう。金じゃないんだよっていうね。
(赤江珠緒)うんうん。
(町山智浩)
だからごちそうを食べるよりも、それこそ90円のコロッケを食べている方が、本当に好きな人と食べていればどんな安いものでも美味しいですよね。
(山里亮太)
(赤江珠緒)
うん。
(町山智浩)
で、ムカつくやつと飯食っている時はどんな高級な料理でもクソマズいじゃないですか。
(山里亮太)
まずい。
(町山智浩)
人間ってご飯って味で食べているんじゃないですよね、実際は。
(赤江珠緒)
あぁーそういうことですね。
(山里亮太)
確かに。うん。
「お金で繋がっているんじゃないの人は」
(町山智浩)
ね、だからお金でもないし、また、結構セリフでここで言っているんですけども「お金でつながっているんじゃないの人は」みたいな話があって。「じゃあ、血でつながっているの?」みたいな話があると、リリーが胸をポーンと叩いて「ここでつながってるんだよ」って言うんですよね。
(山里亮太)
(赤江珠緒)
う〜ん!
(町山智浩)
「ハートでつながっているんだよ」って言うんですよ。
ねぇ。でも、ハートでつながっていると法律的に全く何の保証もないんですよ。
(赤江珠緒)
たしかにそうですね、現実にはね。
(町山智浩)
だからこの悲惨な状況を見て、そこに司法とか行政が入ってくれば助けられるんじゃないか?っていう風に思っちゃう人がいるでしょう。
(赤江珠緒)
うん。
(山里亮太)
はい。
(町山智浩)
この映画はこうした福祉というものを強化した方がいい、っていう主張なんだ、みたいにとらえる人もいるでしょうね。
(山里亮太)
う〜ん、なるほど。
(町山智浩)
でもここで実際、途中で福祉の人たちが入ってきて、行政が入ってくるとどうなるかっていうと、このハートだけでつながっている家族はバラバラにされちゃうんですよ、誰も守らないから。
結婚もしていないし彼らは。子供も血がつながっていないし、おばあちゃんとも。
だから法律でも血でもつながっていないとこれは、政府だったり法律だったり行政はそういった人たちを守るようにはできていないんですよ。
(山里亮太)
うん。
(赤江珠緒)
たしかに。
(町山智浩)
だから行政が入ればいいって問題じゃないでしょ?
行政が入ればいいって問題じゃない
(赤江珠緒)
「正しい」っていうのは、結局なにが正しいのか分からないですね。
そう言われるとね。
(町山智浩)
てか高良くんが、すごく上から目線で話して出てくるじゃないですか、高良健吾くんが。
ね?あのー役所の人としてね。
(山里亮太)
はいはいはい。
(町山智浩)
ね、役者の人としてね。で、彼が言うのはは全部正論なんだけど、でもそうじゃないじゃないですか。
その正論からこぼれる、その有罪か無罪からこぼれる部分というところに人情があるんですよね。
(山里亮太)
(赤江珠緒)
う〜ん。
(町山智浩)
人情なんですよ実は。ねぇ。
で、落語なんだと思うんですよ、僕。
(赤江珠緒)
なるほどー。
(山里亮太)
へぇー!
(町山智浩)
落語って、まあ江戸時代の長屋を描いたり、そのまぁ明治とか昭和の初期の長屋を描いたような落語っていうのは聞いているとわかるんですけど、ものすごく養子の話が多いんですよ。
(赤江珠緒)
多いですね。
(山里亮太)
うん。
(町山智浩)
はい、そうでしょう?
(赤江珠緒)
うん。
あと、みなし子になっちゃったりしたような子供は全体で、長屋で育てるみたいな。
(町山智浩)
そうそう。長屋全体で引き取ったりね。
(赤江珠緒)
うん。
(町山智浩)
それこそ泥棒に入ったらその泥棒に入った家が火事になっちゃって、そこに取り残されていた子供をさらってきて育てるとか。
(赤江珠緒)
う〜ん!
『人情八百屋』
(町山智浩)
あとね、もっと『人情八百屋』っていう有名な落語があるんですけども。
これは、あのーまぁちょっと悲惨なんですけど、借金で家賃が払えなくなって、えー心中しちゃった夫婦に残された子供を八百屋さんが引き取る話なんですよ。
(山里亮太)
(赤江珠緒)
ふ〜ん!
(町山智浩)
ほとんど、だから『万引き家族』って落語のモチーフでしょ?
(山里亮太)
本当だ。そう言われたら
(赤江珠緒)
そうだ、うん。
(町山智浩)
ねぇ。で「俺みたいな貧乏でこんなもうヤクザ者が子供なんか育てられるのかな」って言いながら育てようとするんですけど、
お客さんはそれ観てて「いや、金じゃねえし!あんたのその気持ちがあれば育てられるよ」っていう気持ちでその落語を聞くんですよ。
(山里亮太)
はぁ〜うんうん。
(赤江珠緒)
うんうん。
(町山智浩)
で、そのーまぁ長屋というのは長屋全体でもってひとつの家族みたいになっているからいいんですけど、えーこのー是枝監督の映画っていうのは、やたらと安アパートとか団地が出てくるんですね。貧乏団地が。でーそれはまぁ彼自身が団地にずっと住んでいたかららしいんですけど、東京の。あ、清瀬か。
(赤江珠緒)
えぇ。
(町山智浩)
ねぇ。
でも、団地は長屋のようになっていないんですよ。
(山里亮太)
(赤江珠緒)
う〜ん!
(町山智浩)
隣に誰が住んでいるのかもわからないんですよ。
マンションとか。
(赤江珠緒)
うんうんうん。
(町山智浩)
だから『誰も知らない』みたいな子供たち4人でもって置き去りでも誰も気がつかないっていう状況が起こるんですよ。
(山里亮太)
う〜ん。
(赤江珠緒)
そうなんですよねぇ。
(町山智浩)
そう。だから、それに対するアンチテーゼがこの『万引き家族』で。
彼らはまるで長屋のように、血がつながっていなくても家族を形成して、子供たちを守っているんですよね。
(赤江珠緒)
うん。
各国に、是枝監督のような映画が存在
(町山智浩)
そう。だから、あのー実はね、この前、あの僕が「是枝監督みたいな映画っていうのはイギリスでも同時に作られていたんだ」って言って『わたしは、ダニエル・ブレイク』っていう福祉から取り残されてた子供のいない老人と、えーシングルマザーが家族として暮らしていく話を例に挙げたんですが。
(山里亮太)
はい。
(町山智浩)
実はベルギーにもそっくりな映画があるんですよ。
ダルデンヌ兄弟っていう人たちが作っている映画でですね『少年と自転車』っていう映画があって。
それが貧困の中でそのー捨てられた息子が、えー父親から拒否されるんだけどもそれを拾ったあのー女性に子供として育てられるっていう話なんですよ。
それと、そういう映画を作っているんですね、そのベルギーでも。
だから、これは日本の現実を描いたというんじゃなくて、実は世界中で起こっていることなんです。
(山里亮太)
うーん!
(町山智浩)
アメリカでも『フロリダ・プロジェクト』で起こっていて。
で、それはどの国にも福祉というものはあるんですけど、どうしても福祉からこぼれるものがあるんです。
システムからこぼれるものを救うのは、その人情による擬似家族なんじゃないかっていうことなんだと思うんですよね。
(赤江珠緒)
ほー!
(町山智浩)
で、まさしくどれもそういう話で。それが世界で同時に作られているということは非常に大きな問題で。
ただ、是枝監督っていうのはまたすごく大事で、落語と決定的に違うのは落語は言葉で語るんですけど、彼は言葉は使わないんですよ。
(赤江珠緒)
うんうんうん。そうですね。
(町山智浩)
1番この映画で重要なシーンは、あの樹木希林さんが海水浴に行って、そのーまぁ擬似家族、偽の家族たちがあのー海水浴で楽しくしているところを見ながら口をパクパクパクって動かすんですよ。
(山里亮太)
はい。
(赤江珠緒)
あぁ、ありましたね。うん。
樹木希林さんが海水浴のシーンで口パクで言った言葉とは
(町山智浩)
気がつきました?
あれ、なんて言っていると思います?
(赤江珠緒)
えぇーっ?
(山里亮太)
なんて言っていたんだろう?
(町山智浩)
わからない?
それはわからないですけど、僕はたぶん「私には家族はいませんでした。子供もいませんでした。でも、死ぬ前にこんなに素晴らしい本当の家族をくれてありがとう」って言っているんだと思うんですよ。
(赤江珠緒)
ふーん!
(山里亮太)
はー!「ありがとう」なんだそこは。
(町山智浩)
じゃないかなと僕は思うんですけどね。
(赤江珠緒)
なるほど〜!
そっか。それは言葉なしですね、たしかにあのシーンはね。
(町山智浩)
そうなんですよ。『コンフィデンスマンJP』でも同じ話をやっていてびっくりしましたけどね、家族編で。
(赤江珠緒)
あぁ、ありましたね!大富豪がね。
(町山智浩)
たぶん偶然ですよね、同時なので。うん。
ということでね、まあ本当に泣ける映画ですけどね。
(赤江珠緒)
ねぇ。
(山里亮太)
落語!
(町山智浩)
落語だなと僕は思ってるんですよ。
(赤江珠緒)
本当ですね。
(町山智浩)
どんなにシステムや、あのー行政が進んでも助けられないものがあって。
それを救うのはやっぱり人情しかないんじゃないかなと。
(山里亮太)
うーん。
(赤江珠緒)
ねぇ。あの花火のシーンとか花火映らないんですけど、なんか美しいんですよね。
(町山智浩)
そうなんですよ。花火っていうのは彼らの心の中にあるんですよ。
僕らの心の中にあるんです。
(赤江珠緒)
えー『万引き家族』現在公開中、ということで。
ぜひご覧になっていただきたいと思います。
今日は是枝監督の『万引き家族』ご紹介いただきました。
町山さん、ありがとうございました。
(山里亮太)
ありがとうございました。
(町山智浩)
どうもでした。
<書き起こし終わり>
○○に入る言葉のこたえ
③本当の家族は血ではなく、ハートで繋がっている
是枝監督の過去作品を紐解きながら語っていく町山さんのトークが面白いので是非聞いてみて下さい!