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引用:IMDb.com

メッセージの町山智浩さんの解説レビュー

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2020年05月26日更新
これ、SF映画です。これはね、「ファーストコンタクトもの」と言われるジャンルの映画です。『スローターハウス5』のテーマと、ポール・リンクさんの奥さんが亡くなった時の話と、この音楽が、もう複雑に絡み合っている映画なんですよ。(TBSラジオ「たまむすび」より)

映画評論家の町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』(https://www.tbsradio.jp/tama954/) 
で、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督のアメリカ合衆国のSFドラマ映画『メッセージ』のネタバレなし解説レビューを紹介されていましたので書き起こしします。 

映画視聴前の前情報として、また、映画を見た後の解説や考察レビューとして是非ご参考ください。 

町山さん『メッセージ』解説レビューの概要

①「ファーストコンタクトもの」というジャンル

②過去・現在・未来のない宇宙人

③影響を受けたのはポール・リンクさんの◯◯◯◯
④込められたいくつものメッセージ
 
※○○の中に入る文章は、この記事の1番最後で公開しています。
TBSラジオたまむすびでラジオ音源を聞いて頂くか、書き起こし全文をご覧頂くか、この記事の1番最後を見て頂く事で判明します。 

映画『メッセージ』町山さんの評価とは

(赤江珠緒)
この時間は、映画評論家、町山智浩さんの『アメリカ流れ者』。
今日はバークレーにあるご自宅からお電話です。
町山さーん、こんにちは。

(山里亮太)
こんにちは。

(町山智浩)
はい、町山です。
よろしくお願いします。

(赤江珠緒)
お願いします。
あらっ?

(山里亮太)
なんか、どうしたんですか?町山さん。

(町山智浩)
聞こえます?

(山里亮太)
はい。ひそひそ声で誰かに聞かれちゃまずいみたいなテンションの。

(町山智浩)
いやいや、ちょっとオークランドで大変な火事がありまして。

(山里亮太)
えっ!?

(町山智浩)
大変な火事があって、ものすごい亡くなって。
知り合いの娘さんとかも亡くなって大変なことになってるんですね、ちょっと。

(山里亮太)
え!?

(赤江珠緒)
え!そうですかぁ。

(町山智浩)
えぇ、ちょっと。
あの、日本でも報道されていると思うんですけど、オークランドのですね、倉庫・・

(赤江珠緒)
あー!はいはい、ちょっと迷路みたいになってた。

引用:IMDb.com

オークランドの倉庫での火事について

(町山智浩)
あのーアーティストを住宅にしていったところで、ダンスパーティが行われたらそこで出火しまして。
全くその消防法とかのチェックを受けていないところだったんで、

(赤江珠緒)
ですってね。

(町山智浩)
あのー多くの方が逃げられずに亡くなりまして。
でーあのー・・・、知り合いの、うちの娘の学校の友達の同級生とか。

(赤江珠緒)
あぁーそうなんだぁ。

(町山智浩)
日本語学校の関係者のお子さんとかも亡くなって、大変なことになって。

(山里亮太)
(赤江珠緒)
えぇー。

(町山智浩)
あの、原因はサンフランシスコがIT系の人たち、要するにFacebookとかGoogleの社員で、目当てにそのどんどん値段を釣り上げているんですね、家賃の。

(山里亮太)
はいはい。

(町山智浩)
で、そのために今まで・・サンフランシスコっていうのは気楽に暮らしている。
要するに、家賃3万円とか4万円で共同生活しているアーティストの人たちがいっぱいいたんですよ。好きなことやって、音楽とか、芸術を作ってね。

(山里亮太)
(赤江珠緒)
うん。

(町山智浩)
で、そういう人たちが追い出されちゃって。イベントなくなっちゃったんですよ。

(赤江珠緒)
へぇー。えぇ。

(町山智浩)
で、うちの近所の湾を渡ったオークランドの方ってのは、結構、倉庫街とかあって港町なので。
えーと、そういうところと、あとまぁ非常にもう危険なところとかに、仕方なく集まって住み始めたんです引っ越して。

(山里亮太)
(赤江珠緒)
あぁ〜!

仕方なくオークランドに引っ越した方々が

(町山智浩)
サンフランシスコ。
で、そういう人たちの集まったところだったんですよ。

(赤江珠緒)
あぁ。

(町山智浩)
で、いまもうサンフランシスコ市内ってのはもう、それこそ、あのー、なんというかワンベットルームの・・1LDKのコンドミニアムが1億とか、とっても信じられない値段にあげられちゃったんですね。

(赤江珠緒)
そんなに?

(町山智浩)
FacebookとかGoogle、Twitterの社員によって。

(山里亮太)
(赤江珠緒)
うんうん。

(町山智浩)
こっちくると500ドル、だから5万円か6万円くらいで住めるところを提供している人たちがいて、ただそれはもう完全に法律違反で貸していたんですよ。

(山里亮太)
うーん。

(町山智浩)
で、ぐちゃぐちゃで。倉庫を勝手に住居として貸してて。
中、迷路みたいになってて。

(赤江珠緒)
ねぇ?迷路みたいとは、報道されてます、うん

引用:IMDb.com

迷路みたいな住居

(町山智浩)
みんなが住って暮らしてて。
そこで出火して、それで電気とかもめちゃくちゃで配線しているから出火しやすかったんですね。

(赤江珠緒)
あぁー!

(町山智浩)
はい。そこでまぁちょっとした、ま、50人かそこらのパーティがあったらしいんですけど何らかの理由で出火して。
もうみんな逃げられなかったんで、大変なことになっていますね。

(赤江珠緒)
はぁーそれは痛ましいですね。
ちょっと・・・。

(山里亮太)
そうなんだぁ。

(町山智浩)
これはねぇ、すごく複雑なそのなんていうか、社会的要因っていうか、そのIT部分の影で。
その、今まで本当にみんな、僕の友達のパトリックとか僕が会った頃は、家賃その、月に4万円とかしか払っていなくても暮らせたんですよ。

(山里亮太)
うんうん。

(町山智浩)
でもってもう、本当にもうなんていうか、好きなことだけやっている奴らがだらだらと仕事もろくにしないで一緒に生活してたんですけど、そういう人たちが住めなくなっちゃっているんですよ。

(山里亮太)
(赤江珠緒)
ふぅ〜ん。

(町山智浩)
もう、今だってラーメンが1700円ですからね。

(山里亮太)
物価も上がっているんですか。

ラーメンが1700円!

(町山智浩)
物価も異常に上がっているんですよ。
もう普通の人は住めない。ギャングもみんないなくなっちゃいましたよ。

(山里亮太)
(赤江珠緒)
へぇー!

(町山智浩)
住めなくて。家賃が高くて。

(赤江珠緒)
うん。

(町山智浩)
今まですごく苦労していたんですけど、そのギャングには。

(山里亮太)
うん。

(町山智浩)
ギャングも壊滅しましたね、家賃によって。

(山里亮太)
そんな形の壊滅の仕方。

(赤江珠緒)
そんな急騰したんですね。

(町山智浩)
「経済」っていうのは恐ろしいですね、この格差というかね。
で、みんな避難していたんですけど。やっぱり非常に危険でしたね。

(赤江珠緒)
そうですかぁ。

(山里亮太)
へぇ。

(町山智浩)
はい。

(赤江珠緒)
やっぱりね、消防法違反している建物とかね、火事が出るともうねぇ。

(山里亮太)
大変なことになっちゃう。

(赤江珠緒)
ねぇ。

(町山智浩)
すごいことになってますねぇ。

(赤江珠緒)
そうですかぁ。

(町山智浩)
うちの近所の方はやっぱりすごくギャングとかが多いので、非常に危険なところはあったんで。
そういうところにあえてみんな引っ越して住み始めたんですよ、アート系の人たちが。
ニューヨークもそうなってて、ブルックリンにみんな逃げてるんですけどね。

(山里亮太)
(赤江珠緒)
あぁー!

引用:IMDb.com

住宅が高騰化

(町山智浩)
高くて、もう、まぁそんな感じで。「ジェントリフィケーション」というんですけど、「高級化」というもので。
ロサンゼルスでも同じことが起こってて、ロフトとか住んでいる人たちはみんな追い出されて、カメラマンとか知り合いにいっぱいいたんですけど。

(山里亮太)
へぇー。

(赤江珠緒)
うん。

(町山智浩)
ロフトをコンドミニアムに仕切り直して売るからって言って、「出てけ」みたいな。

(山里亮太)
へぇー!

(町山智浩)
そういうことで、結構大変なことになって。

(山里亮太)
とんでもない格差がね、もう広がり続けているって。
もうどんどんどんどん広がっていっていますよね今。

(赤江珠緒)
そうですねぇ。

(町山智浩)
都会だって訳のわからない人がいっぱいいたんですよ、日本にも下北沢とか行くといっぱいいましたけど。

(山里亮太)
サブカルチャーの、はい。

(赤江珠緒)
うん。

(町山智浩)
そう、あの吉祥寺とかね。

(山里亮太)
はいはい。

(赤江珠緒)
うん。

(町山智浩)
そういったものがね、アメリカ各地で潰されつつある状況の一つですね。

(山里亮太)
へぇ。

(赤江珠緒)
そっかぁ。

(山里亮太)
それが経済的理由っていうのがね、そうなんだーって思いますねぇ。

(町山智浩)
そうなんですよ。経済はどんどん上がっているんですけど。
ラーメン1700円って、「誰が食うんだバカヤロー」と思いますけど。

(山里亮太)
確かにおかしな話だ。

(町山智浩)
まぁそれでそういう感じなんですが、はい。

(赤江珠緒)
そっかそっかぁ。

(町山智浩)
はい。ただラーメン屋さんものすごく儲かってますね、日本の人たちが経営しているところは。
ものすごく儲かりすぎて多分税務署がチェックしていると思いますが(笑)

(山里亮太)
あらっ?

(町山智浩)
だって原価いくらだよってね。

(山里亮太)
そうですよねぇ、ラーメン。

(町山智浩)
ふざけんなと思いますけど、はい。

本題、映画『メッセージ』について

(町山智浩)
まぁいいや、はい。
今日、ご紹介する映画はですね『メッセージ』という映画で、これ、アカデミー賞に引っかかってくるだろうと言われている映画です。
日本ではね、4月か5月ぐらいに公開ですごく先なんですけども、すでに東京国際映画祭で上映したんで、ご紹介します。

(山里亮太)
(赤江珠緒)
はい。

(町山智浩)
これ、SF映画です。
これはね、「ファーストコンタクトもの」と言われるジャンルの映画です。

(山里亮太)
ファーストコンタクトもの?

(町山智浩)
ファーストコンタクトものっていうのは、地球の外にいる、地球外知的生命と地球人とのはじめての出会いを描いた映画のことです。

(赤江珠緒)
1回、町山さんがご紹介してくださって。
ポスターの宇宙船が「ばかうけ」にそっくりって・・おっしゃっていたやつですよね?

引用:IMDb.com

映画「メッセージ」のポスターは「ばかうけ」そっくり

(町山智浩)
そうなんです。
巨大なばかうけが・・全長何キロもあるばかうけが宇宙からなんか下りてくるっていう映画ですね(笑)
で、それがすごく高度な宇宙人の来訪なんですね。

これ、映画の原題は『Arrival』といいまして。「来訪」とか「到着」っていう意味なんですが、宇宙人がやってくるという話です。
で、この監督がですね、カナダ出身のドゥニ・ヴィルヌーヴという監督なんですが、この人はいまものすごく注目されている監督なんですよ。

(山里亮太)
ほう。

(赤江珠緒)
はい。

(町山智浩)
はい、どういうことか?といいますとですね。
なんとあの『ブレードランナー』の続編を今作っています。

(山里亮太)
(赤江珠緒)
へぇー!

(赤江珠緒)
続編を。

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は今注目されている監督

(町山智浩)
SF映画史上のカルト映画として有名なあの『ブレードランナー』の続きの話を今監督している人で、今すごく注目されている人です。
で、この映画はですね、主演がエイミー・アダムスという女優さんで。この人は『マン・オブ・スティール』とかでスーパーマンの彼女の役をやっていた人ですね。

(赤江珠緒)
うんうん。

(町山智浩)
はい。で、もう1人共演するのはこの間、東京コミコンにも来ていたジェレミー・レナーという俳優さんで。
この人は『アベンジャーズ』シリーズで唯一のまともな人間である・・・ねぇ(笑)
あの、弓矢を射つ人・・名前が出てこない。

(山里亮太)
ホークアイですね。

(町山智浩)
ホークアイを演じていた人ですね、はい。
この人は「そして殺す」というミームでも有名な人ですけども。それはいいや(笑)

この2人が科学者を演じまして、エイミー・アダムスさんの方は言語学者です。
なぜ言語学者が呼ばれたかっていうと、この宇宙人の地球に来た目的を知るためには、彼らの言葉を知らなければならないんでね。
彼らの通訳として雇われます、アメリカ軍から。で、アメリカだけじゃなくて、ロシアとか中国とか世界各地に宇宙船がやってきて、それぞれの国がそれぞれの国ごとに情報を共有しながらも遮断しながら、どこの国が先に宇宙人とコンタクトが取れるか、みたいな競争みたいになっています。

(山里亮太)
(赤江珠緒)
ふーん!

(赤江珠緒)
あちこちに宇宙船が来るんですね。

引用:IMDb.com

あちこちに同時に宇宙船が現れる

(町山智浩)
あちこちに同時に来るんですよ、はい。
で、やっぱりそれぞれの国の思惑があるんで、どこが先に宇宙人の言葉を解読するかっていう話になるんですね。
この宇宙人の言葉はね・・なんか炭で書いたみたいな字なんですよ。丸いんですね。

(赤江珠緒)
あ、なんか煙みたいにプワーっと。

(山里亮太)
なんかね、一応写真を見たらそうみえますけど、はい。

(町山智浩)
そうそうそう。
具体的にはね、コーヒーのカップをテーブルとかに置いた時に、シミができるじゃないですか、丸いシミ。

(山里亮太)
はいはい。

(赤江珠緒)
輪ジミみたいのが、はい。

(町山智浩)
あんな感じの字なんですよ、宇宙人の字が。

(山里亮太)
はいはい。

宇宙人の字が○の意味

(町山智浩)
で、言葉はほとんど聞き取れないので、字を解読しようとするんですね、このエイミー・アダムスさんは、言語学者は。
ところが、この丸いのは「字」じゃなくて「行」なんですよ。

(山里亮太)
行?

(町山智浩)
行。だから、文章の「行」なんですね。

(赤江珠緒)
ほうほう。

(町山智浩)
だからこれ、始めも終わりもないんですよ、丸くなっているから。
グルグル回っていて。

(山里亮太)
はぁ。

(赤江珠緒)
えっ?

(町山智浩)
ね。で、どうしてだろう?っていうことで解読していくんですけども・・・えー、これね、ものすごくネタバレになっちゃうんで難しいんですけども。
この宇宙人ね、タコみたいな宇宙人なんですよ形が。タコって体にちょこっとだけど目がいくつかあるんですね。タコは2つしか目はないんですけども、いくつもある宇宙人なんですよ。
そうすると、体に前とか後ろがないんですよ。

(赤江珠緒)
あぁー、まぁそうか。
目がたくさんあったら、はい。

(町山智浩)
そう。前とか後ろがない生物は「前進」っていう概念がないんですね。

(赤江珠緒)
うんうんうん。

(町山智浩)
前進とか後退っていう概念がないんですが、で、さらにこの宇宙人は文章でわかるように、グルグル回っていますからひとつの行が。
始まりも終わりもなくて、過去・現在・未来っていう時間軸が存在しない宇宙人なんですよ。

(山里亮太)
んんー?

(赤江珠緒)
はーー!面白い!
なんか設定が面白いですね。

引用:IMDb.com

過去・現在・未来っていう時間軸が存在しない宇宙人

(町山智浩)
はい。で、「いったいこの宇宙人はなにしに来たんだろう」っていう話なんですけども。
これ面白いのは、この原作者はテッド・チャンっていう中国系のアメリカ人なんですよ。たぶんこの不思議な文字っていうのは中国語の漢字とかの概念が元になっているんですね。

(赤江珠緒)
うんうん。

(町山智浩)
漢字って音を意味するよりも、意味を意味しているじゃないですか。

(赤江珠緒)
あぁ、はい。

(山里亮太)
うん。

(町山智浩)
英語は音でしょう?英語とかローマ字は音なんですよ。
ひらがなも音なんですけど、漢字は意味だから韓国でも中国でも日本でも同じ漢字を使うんですね。
で、意味はわかるんですよ。

(赤江珠緒)
そうですね、はい。
看板見てなんとなく分かってる。

(町山智浩)
昔の韓国の新聞とかを読むと、いまでも読めますよ。
でも、読み方はそれぞれバラバラなんですよ。それと同じような言葉だから、意味がわかるはずだっていうことで解読しようとするわけですね。

(赤江珠緒)
はぁー!

(町山智浩)
たとえば、歩いているところを見せて、「歩くっていうのはこういう字だ」ってむこうが書いてくれれば、「歩く」っていう意味だってわかるじゃないですか。
だから漢字的なんですよ。

(山里亮太)
はぁー!なるほどなるほど。

(町山智浩)
だから、漢字って「足」は足の形しているとかあるじゃないですか。で、だんだんわかってくるじゃないですか。
すると、漢字がズラーッと並んでいると、中国語の新聞とか、特に台湾系の新聞って日本人も意味が読めるでしょう?意味が。

(赤江珠緒)
うんうん。

言語と身体性っていうのは考え方とかをコントロールすると言われている

(町山智浩)
それと同じようなことなんで、これはテッド・チャンっていう人が中国系だからたぶんこの話を考えついたんですね、はい。
それと、言語と身体性っていうのは考え方とかをコントロールすると言われているんですよ。

(山里亮太)
(赤江珠緒)
うん。

(町山智浩)
これ、難しい言い方ですけども。
日本語と韓国語だけ他の外国語に比べてすごく特殊なのが、述語が最後に来るんですよ。

(赤江珠緒)
そうですね。主語、述語の述語が、はい。

(町山智浩)
はい。英語だと、たとえば「I hate you」って言うんですよ、「あなたが嫌いです」と。で、「Because」って理由を言っていくんですよ。
ところが日本語と韓国語は「私は、あなたはいつもそういうことをやっていて、私を苛立たせるから嫌いです」って「嫌いです」が最後に来るんですよ。
そうすると、考え方とかも英語とかと日本語・韓国語は違ってくるんですね。

(赤江珠緒)
うんうん。

引用:IMDb.com

英語と、日本語・韓国語で違ってくる考え方

(町山智浩)
まず先に理由を言いますんで、結論は後から考えることができるんですよ。
結論を変えてもいいし。

(赤江珠緒)
言いながらね、そうですね。

(町山智浩)
ねえ。「あなたは○○で○○だから、好き」って言うかもしれないわけですよ、言いながら。ね?
だから、優柔不断でいいんですよ。あと、結論を言わなくてもいいんですよ。
理由を全部言えば「わかりますよね?」で終わってもいいんですよ。日本語や韓国語は。

(赤江珠緒)
うんうん。

(町山智浩)
ところが、英語は絶対にそれができないんですよ。英語とかフランス語は。

(赤江珠緒)
まず結論を言い切らないと。

(町山智浩)
先に結論を言わなきゃならないので。
「あなたが嫌いです」って先に言わなきゃいけないんですよ。
そうすると、考え方とか心のあり方は決定的に違ってきますよね。

(赤江珠緒)
そっか、うん。

(町山智浩)
決断的になってきますよね、英語とかは。日本語や韓国語は曖昧ですよね。
だから、言葉っていうのは、考え方から生まれてくるのか、逆かもしれないですが、とにかく考え方と言葉はものすごく密接に関係しているんですよ。
で、この宇宙人は過去・現在・未来っていう時間の進行がないんですよ。

(赤江珠緒)
ないのかぁ!ないものと・・コミュニケーション取るの難しいですね。

(町山智浩)
はい。全部同時に存在するんですよ、はい。
で、すごい話で、これ以上説明できないんですけど。難しい映画だな(笑)
実はこういう宇宙人っていうのは、初めてじゃないんですよ。

(山里亮太)
ん?

同じように過去・現在・未来のない宇宙人が登場する有名SF小説

(町山智浩)
これがね、過去にすごく有名なSF小説がありまして、そこに出てくるんですね。
全く同じように過去・現在・未来のない宇宙人が。

(赤江珠緒)
うんうん。

(町山智浩)
これ、ものすごく有名な小説なんですが、カート・ヴォネガットという作家の『スローターハウス5』という小説です。
これは村上春樹さんも影響を受けているのでものすごく有名な小説なんですけども。
ここに出てくるトラルファマドール星人というのは過去・現在・未来がなくて、常に全部、すべての時間軸を同時に存在しながら同時に考えているっていう宇宙人なんですよ。

(山里亮太)
(赤江珠緒)
うーん?

(町山智浩)
難しいんですけど。これ、どういうことかっていうと、主人公がカート・ヴォネガット自身の人生、作家自身の人生とかぶっているんですけども。
途中で宇宙人にさらわれてしまうんですね、人生の終わりの方で。で、その宇宙人の動物園に地球人のサンプルとして飼われるっていう話なんですよ。

(赤江珠緒)
うんうん。

(町山智浩)
で、自分の人生をそこからですね・・要するに過去・現在・未来がなくなるから、その星に行くと。
要するに子供の頃から最近のことから、人生のすべてがごちゃごちゃに出てくるんですよ。

(赤江珠緒)
頭の中で?

(町山智浩)
頭の中で、その小説の中で。

(赤江珠緒)
うんうん。

(町山智浩)
子供の頃があったと思ったら、じいさんになったり、若い頃になったり。
むちゃくちゃにランダムに並べられるんですね、彼の人生が。その小説は。

(山里亮太)
はぁー!

(赤江珠緒)
えぇ。

(町山智浩)
はい。で、なんでそんなことになったのか?っていうと、実はこれはカート・ヴォネガット自身の体験なんですよ。

(山里亮太)
(赤江珠緒)
うん。

引用:IMDb.com

カート・ヴォネガット自身の体験

(町山智浩)
彼は第二次世界大戦で青年時代に、ドイツに戦争に行くんですね、アメリカ兵として。
そこで捕虜になって、ドレスデンという街に連れて行かれます。ところがそのドレスデンっていうのは安全だと言われていたんですね、全く軍事的拠点じゃなくて。
そこには女、子どもしか住んでいなくて、全く安全なところだと思っていたら、そこにイギリス軍とアメリカ軍が猛爆撃をしたんですよ。
要するに、彼は味方に爆撃されたんですよ。

(赤江珠緒)
はぁー。うん。

(町山智浩)
で、1300機の重爆撃機が合計3900トンの爆弾をそこに投下したんですよ。
10万人を超える人が死んだと言われているんですね。あまりにも徹底的に破壊しつくされたんで、東京大空襲と同じで正確な死者はわからないぐらい殺されているんですよ。

(山里亮太)
ふぅーん。

(赤江珠緒)
えぇー。

(町山智浩)
で、これはひどいのは「ドレスデン」で調べるとわかるんですが、防空壕があって、防空壕に入っていたんですね。
ものすごい炎で焼き尽くされて、女性とか子どもとか、そこでみんな燻製になっちゃったんですよ。

(山里亮太)
へぇー!

(赤江珠緒)
うわぁ。

(町山智浩)
その燻製の写真もありますね。で、その死体処理をヴォネガットは捕虜としてやらされたんですね。
それ以来、国とか戦争とかも一切信じなくなったんですよ。味方に攻撃されたし、女、子どもを殺すのを彼は目の前で見たんで。

(赤江珠緒)
それはそうですね、うん。

(町山智浩)
で、一切の正義とかを信じなくなったんですけど。
ただ、彼はその後にずっと戦後を生きていく間、何度もその恐怖がフラッシュバックするわけですよ。
普通に生きていても、その過去がどんどん蘇ってくるんですね、ランダムに。これ要するに、PTSDですね。

(赤江珠緒)
あぁー。

『スローターハウス5』

(町山智浩)
それをタイムスリップとして描いたのがヴォネガットの『スローターハウス5』っていう小説なんですよ。

(山里亮太)
はぁー!

(赤江珠緒)
うわぁー。そんな重い経験が元になっていたんですか。
へぇ。

(町山智浩)
はい。要するに、宇宙人によってタイムスリップ能力みたいなものを身につけたっていうことになっているんですけど、実際は彼自身がそういう悪夢に苦しめられていたんですね。蘇る過去に。で、過去・現在・未来っていうのを見ると、もうこれはどうしようもないことなんだ、もう逃げられないことなんだ、諦めるんだっていうことを彼が自分を癒すために描きたくて、その『スローターハウス5』を描いたんですが。テッド・チャンはそれを指摘されて「『スローターハウス5』の真似じゃないか」って言われた時に「いや、違う」って言っているんですよ。この原作者は。

(赤江珠緒)
うん。

(町山智浩)
この『メッセージ』の原作者は。
そうじゃなくて、別のですね、まったく違うポール・リンクという売れない俳優がやった一人芝居の、『君が生きている間、時はあっという間にすぎた』っていうのをテレビで見て、それに影響されたんだって言っているんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)
それはね、昔日本のテレビでやっていた『白バイ野郎ジョン&パンチ』っていうテレビドラマの脇役俳優だったポール・リンクというあんまり売れてない俳優さんがですね、1人でトークショーをするんですけど、奥さんとのその、数年間の結婚生活がランダムに、彼が思いついたままにこう、並べられるっていう一人芝居なんですよ。

(山里亮太)
うんうん。

(町山智浩)
一人芝居っていうか、まあ一人喋りですよね。
でも、それってみんなそうじゃないですか。思い出ってバラバラに出てくるじゃないですか。
「そういえば君と出会った時はあぁだったね」「君とケンカした時はこうだった」「子供が生まれた時はそうで」とかもう、順番はバラバラじゃないですか。

(赤江珠緒)
必ず時系列通りじゃないですもんね。

引用:IMDb.com

余命宣告された奥さんと彼が決めた「子供を作ろう」

(町山智浩)
そうなんですよ。だからそれに影響をされたと言っているんですが、もうひとつ、実はそのポール・リンクさんはなぜそのトークショーをやったか?っていうと、彼の奥さんはですね、ガンで亡くなったんですね。で、「1年以内に亡くなります」という風に宣告されたんですが、その時奥さんと彼が決めたのは「子供を作ろう」っていうことだったんですよ。

(赤江珠緒)
宣告されても?うん。

(町山智浩)
宣告されて。で、もう余命との競争になったんですね。子供が先か、命が尽きるのが先かと。
で、その時に周りの人はみんな「なんでそんなことをするんだ?その子はお母さんを失っちゃうじゃないか。もっと悲しいことになるじゃないか」と言われたんですけど、彼と彼の奥さんはそこで子供を作ることに決めた。どうしてか?という話をしていくのがそのトークショーなんですよ。ポール・リンクさんの。

(赤江珠緒)
うーん・・・。

(町山智浩)
で、これがすごく大きなテーマとして『メッセージ』の1番大きなテーマなんですよ。
要するに、死ぬっていうことはわかっていて、じゃあどうするのか?逃げられない、避けられない運命があるとした場合に、人はどうするのか?っていうことなんですね。

(赤江珠緒)
はぁー!

(町山智浩)
だからこの『メッセージ』っていう映画はSFとして宇宙人がやってきてどうこう、っていうことだったらアカデミー賞には引っかかってこないんですけども。
これ、原作のタイトルは『あなたの人生の物語(Story of Your Life)』というタイトルなんですよ。

(山里亮太)
(赤江珠緒)
うん。

原作のタイトルは『あなたの人生の物語(Story of Your Life)』

(町山智浩)
で、この映画はいちばん最初に「あなた」っていう風に呼びかけられているこのエイミー・アダムスさん演じる言語学者の娘さんが出てくるんですね。
で、その娘さんが生まれてからのこととか、このドラマに回想としてランダムに入ってくるんですよ、デタラメに。で、その意味はなにかが最後にわかるんですよ。

(赤江珠緒)
はー!ものすごい深い。

(山里亮太)
なんか深い・・。

(町山智浩)
ものすごい映画です、これ。
ものすごい複雑な映画で、原作も複雑なんですけど、さらに複雑にしていますね。

(赤江珠緒)
へぇー!

(町山智浩)
で、しかもテーマはそういう非常に個人的な、誰にでもあること。
親子の問題であったり、結婚とか恋愛のことなんですよ。人生のことなんですよ。

(山里亮太)
へぇー。
「宇宙人が攻めてきた!」とかじゃないんだね。

(赤江珠緒)
ねぇ。ちょっと面白いですね、その・・。

(町山智浩)
宇宙人のことを通して、人生のことを語っている話なんですよ。

(山里亮太)
(赤江珠緒)
へぇー!

(山里亮太)
すごっ!

(町山智浩)
で、いまずっと後ろでかかっている音楽はこのテーマなんですね、『メッセージ』の。
これ、ずっと同じところを繰り返しているじゃないですか。

(山里亮太)
はい。行。

引用:IMDb.com

メッセージの音楽『On the Nature of Daylight』

(町山智浩)
グルグルグルグル繰り返している音楽で。
これはマックス・リヒターっていう人が作った曲なんですけども。えー『On the Nature of Daylight』っていう曲なんですが。
これが、イラク戦争の時に、それに非常に怒ったマックスさんが心を落ち着かせるために作った曲なんですね。

(赤江珠緒)
ふーん!

(町山智浩)
で、そのイラク戦争とか戦争に対する深いメッセージも込められているんですよ。この映画は。

(赤江珠緒)
えぇー!いろんなものがちょっと込められているみたいで。

(山里亮太)
へぇー!

(町山智浩)
そうなんです。

(山里亮太)
なんのメッセージを届けようとしたのか?とかも気になるしね。
むこうの。

(町山智浩)
はい。いま言った『スローターハウス5』のテーマと、ポール・リンクさんの奥さんが亡くなった時の話と、この音楽が、もう複雑に絡み合っている映画なんですよ。

(赤江珠緒)
あぁ~!
見たくなりますね、これは。

(町山智浩)
でしょう?でも、日本公開は春なんで。
そうなんです(笑)

(山里亮太)
「ばかうけ」としてね、1回話題になったのに。

(赤江珠緒)
そうそうそう(笑)

(町山智浩)
非常に申し訳ないですが、はい。
という映画が『メッセージ』で。みなさん、楽しみにしてくださいって、なんなんだ?っていう、はい。
生殺しのような話ですいませんでした。

(赤江珠緒)
でも、アカデミー賞を獲っちゃうかもしれない?

(町山智浩)
獲るかも・・これ、脚色賞はとりそうですね。あと、監督賞も引っかかると思います。

(赤江珠緒)
そうですかぁー。
わかりました。今日は映画『メッセージ』を町山さんに紹介していただきました。
日本では来年5月に公開予定です。

<書き起こし終わり>


○○に入る言葉のこたえ

③影響を受けたのはポール・リンクさんの一人芝居
映画に込められたいくつものメッセージを紐解く町山さんのトークが面白いので、是非聞いてみて下さい!

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