この映画「ジャガー・ノート」は、豪華客船に仕掛けられた時限爆弾の処理に、才智と勇気をかけて挑む男を描いたスリリングなサスペンス映画の傑作 だと思います。
この映画は、1970年代の世界的なオカルト映画とパニック映画の二大ブームだった頃、そのムーブメントの中で製作された、パニック映画の系譜の1本で、北大西洋上に浮かぶ豪華客船ブリタニック号を舞台にした、スリリングなサスペンス映画の傑作です。
「この船に7個の時限爆弾を仕掛けた」と、"ジャガーノート"と名乗る男から脅迫電話がかかって来ます。
そのメガトン級の爆弾が20数時間後に爆発すれば、乗客1,200人の命が危険にさらされます。
そこで、海軍から爆薬専門のオーソリティ、ファロン中佐(リチャード・ハリス)を班長とする7名の爆薬処理班が、悪天候を衝いて、パラシュートでブリタニック号に送り込まれます。
そして、この映画はファロン中佐の大胆不敵とも思われる勇気ある行動を、ハラハラ、ドキドキのサスペンス溢れるタッチで描いていきます。
残された時間はわずか数時間。この時間内に爆弾7個を処理しなければならず、刻一刻と迫りくる危機に挑む爆薬処理班の男たち。
偉大なる才人監督、リチャード・レスター監督の、スリリングに緊張感を盛り上げていく演出が見事です。
ファロン中佐は、爆弾が仕掛けられた緑色のドラム缶に立ち向かいます。
自分で自分を励ましながら、静かにネジを回し、線を切り、慎重に爆弾の解体作業にとりかかるのです。
その後の、この爆弾処理を扱った映画のお約束事となった、残された2本の線のどちらか1本を切れば解除、間違えば爆発という、映画好きにとっては伝説となった有名な場面も登場して来ます。
この緊迫した場面は、リチャード・ハリスの張りつめた演技が緊張感をみなぎらせ、息づまるような迫力の盛り上がりを見せてくれます。
このファロン中佐は、一見するとタフで豪放な人物のようで、1,200人の生命を守るために才智と勇気をかけて爆弾に挑戦したわけですが、心の底では彼自身も恐怖を感じていたというのがわかります。
というのは、この映画のラスト近くで、彼は海軍省対策本部に接続されているスピーカーを通して、真犯人に向って、「俺は君より若いし、爆薬処理も下手だ。俺は怖い」と、つぶやくのです。
このように、ファロン中佐をありきたりのスーパーマン型のヒーローにせず、あくまでも、普通の生身の人間として描き、恐怖心を抱きながら危険な作業に取り組む彼の勇気を、クローズアップして描いたところが、この作品を面白くした要因のひとつだと思います。