RUN/ランの町山智浩さんの解説レビュー
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映画評論家の町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』(https://www.tbsradio.jp/tama954/)で、『RUN/ラン』のネタバレなし解説を紹介されていましたので書き起こしします。
映画視聴前の前情報として、また、映画を見た後の解説や考察レビューとして是非ご参考ください。
町山さん『RUN/ラン』解説レビューの概要
①「RUN」は「走れ」という訳になるが、英語だと「逃げろ」という意味。
②体に障害のある少女、クロエが主人公
③愛情深いお母さんに育てられる
④観客全員が感じる違和感、それは薬に書いてあるはずの○○○○○がない。
⑤クロエは腰から下が動かない設定で、これを演じる女優さんも本当に足が動かない人
⑥「ディーディー・ブランチャード殺害事件」という事件が元になっている
⑦元の事件では、障害者に仕立て上げられた娘が母親を殺害する
※○○の中に入る文章は、この記事の1番最後で公開しています。
TBSラジオたまむすびでラジオ音源を聞いて頂くか、書き起こし全文をご覧頂くか、この記事の1番最後を見て頂く事で判明します。
アメリカのロックダウン中、配信で大ヒットした映画『RUN/ラン』
(町山智浩)
今日紹介する映画はね、結構アメリカではこのロックダウンされてる時に公開されて、劇場では入らなかったんですけども、劇場が閉まってたんですね、完全にね。配信ですごい大ヒットした映画で『RUN/ラン』っていうね、映画なんですが。「逃げろ!」っていう意味ですね。「RUN」って「走れ」なんですけど、英語だと「逃げろ」っていう意味なんですよ。
(赤江珠緒)
ほうほうほう。
未熟児で生まれ体に障害がある少女が主人公
(町山智浩)
これはね、主人公は未熟児で生まれた少女で、17歳になるんですけど、体中に障害があって、ずっと家に閉じ込められた大きくなった女の子なんですね。心臓とか喘息とか糖尿病とか、あと腰から下が動かないんで車椅子なんですけども。で、その子がですね、外部と接触しないまま母親と2人暮らしなんですけれども、なんとかそこから出て行きたいと思って、大学に願書を送り続けるんですよ。
ところが、なかなか受理されないで、まぁ非常に悩んでいると。ただそのお母さんはすごくいいお母さんで、もうすごく子供をかわいがってくれて、すごく信頼関係はあるんですけど、でも大量の薬を毎日飲まなきゃならないんですよ、その女の子は。クロエっていう子なんですけれども。で、その薬を飲むシーンを見ると、観客はみんな”アレッ?”って思うんですよ。
(赤江珠緒)
ん?うん。。
(町山智浩)
それはね、薬に書いてあるはずの識別コードが書いてないんですよ。
(赤江珠緒)
ほうほう・・。
識別コードのない薬
(町山智浩)
母親が娘に渡す薬には何故か、番号とか識別コードは書いてないんですよ。
(赤江珠緒)
は〜〜あ。あっ識別コードってありますね、番号ね。
(町山智浩)
そう。処方薬だとあるんですよ。医者が処方した薬だと。・・おかしいんですよ。
で、疑惑を持ち始めるんですよ、クロエちゃんが。私の飲まされてる薬、一体何かしら。でインターネットで調べようとするとインターネットが切断されちゃうんですよ。
(赤江珠緒)
えっ?うん。。
遮断されるインターネット回線
(町山智浩)
回線が。で、その薬は一体何?っていう話なんですよ。子供の頃から飲まされてるその薬の正体は一体何?・・っていう事なんですね。という怖い話で、まぁこれは言っちゃうと・・あの、難しいな、コレどこまで話したらいいの!?!?(笑)
(山里亮太)
結構キーですもんね!なんか今、感じ的に!
(町山智浩)
そう。で、とにかくこのクロエちゃんがこの家から脱出しなきゃならないという状況になるんですよ、母親の元から。
(赤江珠緒)
へぇ〜〜!
物語は母親からの脱出へ
(町山智浩)
したら母親は鍵かけちゃって、階段も降りられないようにしちゃうんですねぇ。で、しかも彼女はクロエは糖尿病なんで、過激な運動をすると心臓がバクバクなっちゃうんですよ。しかも腰から下は動かないんですねぇ。これね、これを演じている女優さん自身が本当に足が動かない人なんですよ。
(赤江珠緒)
へぇー!うん。
(町山智浩)
で、そこからどうやって脱出するかっていうその、その母親との知恵比べ映画になってきます、後半は。
(山里亮太)
へぇ・・。母親から逃げる・・。
前作『search/サーチ』
(町山智浩)
これね監督はね、前に紹介した『search/サーチ』っていう映画の監督なんですね。
(赤江珠緒)
『search/サーチ』。うん。
(町山智浩)
これね、娘が行方不明になってしまって、そのお父さんが韓国系の一家でね、娘が残したパソコンのデータを探って、娘が一体誰と接触をしてて、誰が誘拐したのか、誰の所に逃げたのかっていう事をどんどん探っていくというのをパソコンの画面だけで映画にしたのが『search/サーチ』だったんですよ。それの監督のインド系の人で、アニーシュ・チャガンティっていう人が監督なんですね。今回の『RUN/ラン』も。
で、前回は全部インターネットの中だけで話を進めたので。今回、一切インターネットが出てこないです。
(赤江珠緒)
えっ!そうなんですねぇ。。面白い・・!
(町山智浩)
インターネットを使えない状態にされているから。携帯も何も使えないと。それで、どうやってその例えばその薬の正体を調べるか。どうやって助けを求めるかっていうサスペンスになっています。
(赤江珠緒)
わーー。そうね究極にアナログだね、そうなるとね。
『RUN/ラン』は実話を元にしている映画
(町山智浩)
そう。究極にアナログで、じゃぁどうやってるのか?っていう事なんですよね。
でね、やっぱりアメリカはずっとみんな家に閉じこもってた状態で出られない状態でしたので、この映画が公開された時は。誰でも非常に共感して、この映画がですね、配信でヒットしたんですけども。ただね、この話ってね、実話を元にしてるんですよ。
(山里亮太)
えっ・・今のが?
「ディーディー・ブランチャード殺害事件」が元になっている
(町山智浩)
そう。これね2015年に起こった事件でね、「ディーディー・ブランチャード殺害事件」というのがあったんですね。これね結構日本でもね、『アンビリバボー』とかのテレビで、あと僕がやっていた『世界法廷ミステリー』とかそういった番組でね、さんざん取り上げた事件なんですよ。すごい有名な事件で。これね、ディーディー・ブランチャードという名前の、シングルマザーがいまして。その人が何者かに殺されたんですね、もう全身十何箇所も刺された状態で。
で、そのディーディー・ブランチャードと2人で暮らしてた娘さんが行方不明になったんですよ。でこの娘さんはジプシー・ローズという名前なんですけども、体中に色んな病気を抱えて、成長が遅れて、で歩けなくて、で、知能も低いと言われていて、で、あまりにもかわいそうだという事でテレビにすごい出てたんですね。
(赤江珠緒)
ふーん、うんうん。
全米で大捜査に
(町山智浩)
はい。で全米から寄付を集めてたりしてたのがこのお母さんなんですよ。で、この娘さんというのは、まぁ実際はその・・本当はある程度の年齢にいってるはずなのに、体中の病気で成長が遅れてるとかね。で、かわいそうだ、みたいな感じでね、非常に有名な娘さんだったんですけれども。でこの娘さんが行方不明になってると。誘拐じゃないかと。母親を殺して誘拐した人がいるんじゃないかっていう事でもって、全米で大捜査になったんですね。
(赤江珠緒)
はい。
(町山智浩)
ところがですね、犯人は、ジプシー・ローズだったんですよ。
(赤江珠緒)
えっ、娘?
(山里亮太)
うーん!
犯人は娘、ジプシー・ローズだった
(町山智浩)
娘だったんです。実は、母親に幼い頃から色んな薬を盛られて、障害者にされたんです。で、障害が出るような手術も受けました。
(赤江珠緒)
ええっ!!
(山里亮太)
なっ・・!なんの為に・・!
(町山智浩)
しかも全く知的障害がなく、本当は頭が良かったんです。
(赤江珠緒)
えー!!それは、母の動機は何ですか?
代理ミュンヒハウゼン症候群という障害
(町山智浩)
母の動機はこれはですね、代理ミュンヒハウゼン症候群と言われている、一種の障害なんですね。ミュンヒハウゼン症候群というのは、周囲の関心とか同情を引くために、要するに悲劇のヒロインになるために、病気を装う事を言うんですよ。
で自分の体を傷つけたりね、被害者とか悲劇のヒロインになろうとする病気をミュンヒハウゼン症候群と言いまして、これは、ミュンヒハウゼンっていうのはミュンヒハウゼン男爵という、「ホラ男爵」という有名な嘘つきがいまして、物語に出てくる。(笑)
(赤江珠緒)
そうですね、うん。
(町山智浩)
その名前から取ってるんですけど、代理ミュンヒハウゼンっていうのは自分じゃなくて、自分の子供にそれを負わせる事なんです。
(赤江珠緒)
うーわ。。
『シックス・センス』でも代理ミュンヒハウゼン症候群の母親が登場
(町山智浩)
はい。でこれね、『シックス・センス』っていう映画が昔あったじゃないですか。あれで、子供のお葬式に行くシーンがあるんですよね。霊としゃべる事ができる男の子が。そうすると、女の子の霊が出てくるんですよ。で、その女の子の霊が、口からなんかゲロ吐いてるんですけど、実はその女の子は母親から少しずつ洗剤を飲まされて死んだっていう事なんですね、あれは。
(赤江珠緒)
あー・・、そうか・・。
(町山智浩)
そう。それを主人公の霊と話せる男の子が暴くっていうシーンがあるんですけど、あの母親が代理ミュンヒハウゼン症候群なんですよ。
で、『シックス・センス』は1999年ぐらいの映画だったんですけれども、だから結構昔からあるんですね。それで日本にもあるんですよ。
(赤江珠緒)
あるんですね・・。
日本でも同じような事件がある
(町山智浩)
例えば自分の娘が誘拐されたって言って、世間の同情を買うんだけど、その母親が同情を買う為に娘を殺してた事件がありましたね。そういう事があって、それでさっきのジプシー・ローズの話に戻るんですけど。そのジプシー・ローズちゃんはそれで母親に障害者に無理やりさせられてしまったので、復讐を考えていて。あと脱出を考えていて。インターネットが何かを使って、自分の境遇をある人に知らせまして。男性に。
で、その彼と恋愛状態になって、駆け落ちをしたんですよ。その時に、恨みのある母親をめった刺しにして殺したんですね。
(赤江珠緒)
ははぁ〜・・。
母親は娘を愛していた
(町山智浩)
そういう事件があって。まぁ結構そこら中で起こっている事件ではあるんですけども。ただね、この映画ね、じゃぁ恐ろしいだけで我々に関係ない映画なのかっていうと、そうでもないんですよ。これね、この母親が、毎日毎晩クロエちゃんが1番かわいかった頃の3、4歳の頃に撮ったビデオをいつも見てるんですよ。
(赤江珠緒)
うーん。うん、うん。
(町山智浩)
かわいい〜!とか言いながら。
(赤江珠緒)
じゃぁ愛情はあるんだ、すごい。
(町山智浩)
愛情はあるんだけど娘が大学に願書を出して、家を手ようとしたから暴走していくんですよ。
(山里亮太)
え、うわぁー!
子供の親離れ
(町山智浩)
自分の元から離れていっちゃうから。これは結構、誰でもあるんじゃないですかね。
(赤江珠緒)
そうですね。それはね、多かれ少なかれというかね、まぁここまで極端なのはアレですけどもねー。
(町山智浩)
そう。という映画がこの『RUN/ラン』という映画でね。さらにもう2回ぐらいどんでん返しがあります。
(赤江珠緒)
えー!!
(町山智浩)
という事で、まぁすごい面白い映画でしたけれども。
(赤江珠緒)
ねぇ!これはちょっと見応えありそうですね。
(町山智浩)
色々と身につまされる内容でもありました。はい。6月18日(金)、日本公開です。子供は旅立っていくものなので・・巣立っていくものなので。
(赤江珠緒)
そうですねぇ。親としてのねぇ、その切なさはあるけどねぇ、なるほどな。町山さん、ありがとうございました!
(山里亮太)
ありしたーっ!
(町山智浩)
どうもでした。
※書き起こし終わり
○○に入る言葉のこたえ
④観客全員が感じる違和感、それは薬に書いてあるはずの識別コードがない。