スパイの妻の町山智浩さんの解説レビュー
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映画評論家の町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』(https://www.tbsradio.jp/tama954/)で、『スパイの妻』のネタバレなし解説を紹介されていましたので書き起こしします。
映画視聴前の前情報として、また、映画を見た後の解説や考察レビューとして是非ご参考ください。
町山さん『スパイの妻』解説レビューの概要
①戦争映画の枠組みではない、夫婦の話
②上流階級の、○○が言えない夫婦の話
③秘密を共有する事で本当の夫婦になれるチャンス
④夫婦のチェス、心の読み合い
※○○の中に入る文章は、この記事の1番最後で公開しています。
TBSラジオたまむすびでラジオ音源を聞いて頂くか、書き起こし全文をご覧頂くか、この記事の1番最後を見て頂く事で判明します。
(町山智浩)
『スパイの妻』って結局ご覧になったんですか?赤江さんは。
(赤江珠緒)
はい!私は見ました。
(町山智浩)
あぁそうなんですか。であの、山ちゃんは?
(山里亮太)
公開が16日からなんで、まだ映画館で見れてないんですよ。僕、映画館で見ようと思ってまして、はい。
南海キャンディーズ山ちゃんも奥さん蒼井優の映画を映画館で見る予定!
(町山智浩)
あーそうですね、これね、夫婦についての話です。
(山里亮太)
はいはい、そうなんですよね!
(町山智浩)
一応、舞台は第二次大戦前の日本なんですけれども。それで高橋一生さんが、商社マンをやっていて、その奥さんが、奥さんですね!(笑 山里さんの)蒼井優さんですね。ただ、その彼が満州に行った時に、そこでその頃日本軍がやっていたひどい残虐行為を目撃してしまうんですが・・という話で、それを海外に告発するかどうかみたいな話になってくるんで、その奥さんの立場から『スパイの妻』っていうタイトルになっているんですが。どうでした?
戦争映画ではなく、夫婦の話
(赤江珠緒)
なんかちょっとね、展開が読めなくて、ミステリーみたいな・・ミステリー小説のように「あれ、こっちなの?え、これ騙し合っているの?どうなの?」みたいな、そういうところもあったりして。あの戦争映画っていう枠組みじゃないような面白さもありましたね。
(町山智浩)
はい。ミステリーですよこれ。(笑)
(赤江珠緒)
ミステリーですもんね。完全にね。
(町山智浩)
はい。ただミステリーの主題がこの機密みたいなね、国家機密みたいなものをどうするかって事はどうでもいいんですよ、この映画は。
(山里亮太)
ええっ!?あっそうなんですか!
スパイだのなんだの、私にはどうでもいいの
(町山智浩)
どうでもいいんです。中で蒼井優さんがはっきりと「スパイだのなんだの、それは本当は私にはどうでもいいの。」ってハッキリとセリフで言っていますよ。
(山里亮太)
えー!!
(赤江珠緒)
うんうん。
(町山智浩)
ねぇ、覚えてます?
(赤江珠緒)
はい。うん。
上流階級の本音が言えない夫婦の話
(町山智浩)
ねぇ。これあの、戦前の上流階級の夫婦で。要するに旦那様に対してですね、「旦那様、あなたは、何をお考えになってらっしゃるの?」とかしか喋らない家庭ですよね。
(赤江珠緒)
すごいもうね、会話も美しいもう、調度品なんかも美しい感じでね。上流階級のね。
(町山智浩)
映像もきれいなんですけども。で、ただこれはカメラワークを見ても分かるように全くアップにならないんですね。遠くから見てて、表情が分からないんです。よく。つまりこれはこの夫婦の関係も意味してて、要するにまぁ形式張っていて、本当の意味で心をぶつけあったりしてない夫婦なんですよ。
当時はみんなそういう家庭が多かったんでしょうね、上流階級はね。あの庶民は違いますけどね、庶民は「アンタうるさいよ!」とか言ってやってますけど、上流階級はそうな訳なんですね。要するにまぁ本音が出ないと。
カメラワークも敢えてアップにしない
だからその中で、彼は日本軍の秘密を暴こうとしていて、1人で戦い始めるんですけど、奥さんに対しては、「君は知らなくていいんだよ。君の知ることじゃないんだよ。」ってもう全然こう、何も打ち明けないんですね。
(赤江珠緒)
うん。
(町山智浩)
だからこのミステリーの第一段階は夫の秘密を暴こうとするミステリーなんですよまずは。で第二段階から、真ん中から話がですね、それが日本軍の残虐行為だという事が分かるんですけども、その時から彼女はどういう事をするかっていうと、これはつまり彼の秘密を握った訳だから。初めて共犯になれるんですよ。本当の夫婦になれるチャンスになるんですよ。
(山里亮太)
あぁ心から繋がることができると!秘密を共有する事で。
ロマンチックなこと
(町山智浩)
そう。しかもその敵は国家ですよ。たった2人で国家と戦う、こんなにロマンチックなことはないでしょ?
(山里亮太)
確かに!より強く絆が・・。
(町山智浩)
その通りなんですよ。だから、その事を考えた時に、蒼井優さんは、恍惚とするんですよ。本当にこの夫が私の物になるチャンスなんだっていう事で、うっとりするんです。
(山里亮太)
はー!あ、そういう話なんだ。
(町山智浩)
そういう話ですよ。夫婦の話なんですよ。
(山里亮太)
あ、そうなんですねぇ!
チェスが肝
(町山智浩)
でも、夫は、高橋一生さんは、それでも、本当に奥さんに対して心を開こうとしているのかどうかわからないんですよ。だから、これは、チェス盤が出てくるじゃないですか。
(赤江珠緒)
はい。結構重要な場面で出てきますね。
(町山智浩)
あれはこの物語の象徴なんですよ。
(赤江珠緒)
はーーぁ!
(町山智浩)
夫婦の心の読み合いなんですよ。
(赤江珠緒)
あ〜〜〜〜なるほど!
(町山智浩)
これは、夫婦のチェスなんです。
夫婦のチェス、心の読み合い
(赤江珠緒)
あーーー夫婦のチェス。うん。駆け引きみたいなのがずっと出てきますもんね、心理戦で。
(町山智浩)
夫を本当に自分の物にしたい妻と、本当は何を考えてるかがわからない夫のチェスなんですよ、この話は。
(山里亮太)
なるほど!
(町山智浩)
でまぁどっちが勝つかっていう話は映画館でご覧になって下さい!
(山里亮太)
あぁ〜そういう事なんだこれ。あっ戦争を題材にしたその、映画かと思ってたら、そうじゃないんですね!
(町山智浩)
そう。だから反戦的なテーマではないです!どうでもいいんです。本当にヒロインが言う通り、どうでもいいんです。(笑)
(赤江珠緒)
ははは。
(山里亮太)
あぁそうだったんだ。
絶妙な心情
(町山智浩)
そう。今はね、みんな心をぶつけ合って、それこそ喧嘩するような世の中ですけど、当時はそうじゃなかった訳ですよね。
(山里亮太)
そうか。そのなんか、絶妙な心情っていうのを、黒沢監督ならではの撮り方で魅せていくっていう感じなんですか?
(町山智浩)
そうなんです。横から撮ってて、人の顔をはっきりと見ないんですよ。だから映画におけるクローズアップっていうのは、要するに顔をでっかく撮るっていうのは、真正面から。その人の心の中に入っていこうとする動きなんですよね、映画自体が。で、観客にその人の心が伝わるように撮るんですけど、それがあるシーンっていうのは数箇所の重要なシーンしかないんですよ、この映画には。
(山里亮太)
へーえ!
(町山智浩)
この『スパイの妻』という映画には。そういう映画なんですよ。
(赤江珠緒)
なるほどー!うん。
銀獅子賞
(山里亮太)
だからそういう撮り方とかも含めての銀獅子賞!撮り方とか見せ方も。
(町山智浩)
そうですね。で、この『スパイの妻』で1番重要なのは、1番ラストに出てくる字幕なんですよ。
(山里亮太)
字幕?
(赤江珠緒)
うん!うん!そうですね。
(町山智浩)
そうなんです。果たしてこの夫婦のチェスはどっちが勝つのかっていう話ですね。という話で、まぁご覧になって下さい。
後日談
(山里亮太)
僕はね、『スパイの妻』見てきました!
(町山智浩)
あら!あれ?奥さんと?
(山里亮太)
いや奥さんが一緒に行くのはちょっと恥ずかしいっていう事で、1人で!(笑)
(町山智浩)
ははは!そうですよね。(笑)どうでした?
至極わかりやすい夫婦のストーリー
(山里亮太)
でも町山さんのご説明を聞いて、これ戦争映画とかじゃなくて、夫婦の心がこう、どう繋がるキッカケは何であれ、繋がっていった時の夫婦の、こう、それを表情で見せてくれるとか、愛情表現の仕方だったり。戦争がこう背景にあるから難しいかなと思ったら、いやいや、至極わかりやすい!
(町山智浩)
そうですね。でもあの蒼井優さん扮する奥さん、怖い奥さんですよ、あの人。
(山里亮太)
いやそうですね、聡子さん。
旦那の心を掴む為
(町山智浩)
ねぇ。高橋一生さん扮する旦那の心を掴む為に、それで被害を受ける人が他にいても別に構わないっていうあの態度!ねぇ。
(山里亮太)
その被害を受ける人の、被害の受け方が尋常じゃないんですよね。(笑)
(赤江珠緒)
そうですね!そうですね!
(町山智浩)
「多少の犠牲はしょうがないわね。」とか言うんですよね。(笑)
多少の犠牲はしょうがないわね。
(山里亮太)
それをだから・・あの犠牲を”多少”って言うあたりの狂気みたいなのはありましたよね、そういうシーンとかもあるんですけど、これは。
(赤江珠緒)
愛情の狂気みたいなのは感じますね、全体にね。
(町山智浩)
そうなんですよ。でも、あれでもうスパイの妻っていう事になって、あの嬉しそうなこと!デートする時の。
(山里亮太)
そうそうそう、キャッキャするっていう。
(町山智浩)
もう全世界を敵に回してね、「2人の愛が」みたいになっちゃっている所のね・・それをまたひっくり返していくんですけどね。
(赤江珠緒)
うん。面白いですね。
(山里亮太)
そういう映画なんですよね、だからね。それも見てほしいなって言って、こうなんとか、今、映画館でやっている所も少ないけど、なんとかして見て頂ければって・・。
(赤江珠緒)
そうなんですよね。
高橋一生さんはスパイでビジネスマン、同時に映画監督
(町山智浩)
そうですね。あの映画で僕ね、不思議だなと思うのは、高橋一生さんはスパイでビジネスマンなんだけど、同時に映画監督でもあるでしょう?
(山里亮太)
はいはいはい!
(町山智浩)
ね。で、あの映画自体は黒沢清監督が殆どその蒼井優さんのアップも撮らないで、誰の表情もまぁはっきり撮らないという・・ロングで撮ってるんですけど、高橋一生さんがその映画の中で撮っている映画は、昔風のメロドラマなんですよ。ノワール系の。そこでその、蒼井優さんの素晴らしいアップがあるんですよ。
(山里亮太)
あー!ありますね!
(赤江珠緒)
あぁそうですね!
(町山智浩)
そう。それを見た時に思わずその映画の中の人達もみんな「オーッ!」って言うんですよ。でも自分はやらないとかね、黒沢清監督は。(笑)
(赤江珠緒)
映画の中で彼女を・・そうだなぁ。
映画内の映画にも意味がある
(町山智浩)
で、あの高橋一生扮する旦那はね、奥さんを愛してるかどうか非常によく分からないんだけど、あの映画を見ると、あぁ愛しているんだな〜と思うから、そのへんがまた不思議なんですよ。
(赤江珠緒)
あの映画にも意味があるんですね。
(山里亮太)
そっか・・感情とかの見せ方が、あぁここでそういう表現なんだっていう。
(町山智浩)
そうそうそう。だから全く感情が分からないように本編を撮っているんだけど、その映画内映画ではものすごいメロドラマをやってるんですよ。そのへんのすごいね、何と言うか、ひねくれた所が面白いですよね。
だから、たぶん蒼井優さんは、この人私を愛してるか愛してないかわからないと思いながらも、あの映画を見ると、こんなに私が美しく撮れてる!絶対にこの人は私を愛してる!って思ってるんですよ。
(赤江珠緒)
そういう事だ!あぁ〜なるほど!
(町山智浩)
そうドラマですよ。
※書き起こし終わり
○○に入る言葉のこたえ
②上流階級の、本音が言えない夫婦の話