愛すべき夫妻の秘密の町山智浩さんの解説レビュー
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映画評論家の町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』（https://www.tbsradio.jp/tama954/）で、『愛すべき夫妻の秘密』のネタバレなし解説を紹介されていましたので書き起こしします。
映画視聴前の前情報として、また、映画を見た後の解説や考察レビューとして是非ご参考ください。
町山さん『愛すべき夫妻の秘密』解説レビューの概要
①アカデミー賞、主演女優賞候補の２作品
②非常によく似ている２作品なので、比べて見ると面白い
③２つとも美人女優なのに特殊メイクで美人でもなく本人とも似ていない顔にしている
④２つとも○○の○○夫婦の話で、国民的な人気○○
⑤『愛すべき夫妻の秘密』は『アイ・ラブ・ルーシー』という人気番組の二人が主演
⑥リアリティーテレビの元祖
⑦実際の家庭はめちゃくちゃだった
※○○の中に入る文章は、この記事の1番最後で公開しています。
TBSラジオたまむすびでラジオ音源を聞いて頂くか、書き起こし全文をご覧頂くか、この記事の1番最後を見て頂く事で判明します。
アカデミー賞主演女優賞候補の２作品、『愛すべき夫妻の秘密』『タミー・フェイの瞳』
（町山智浩）今日はですね、もうすぐ僕があの授賞式に出演してるんですけどもアメリカのアカデミー賞の発表があるんで、それで今回、主演女優賞候補になってる作品を2本まとめて紹介しようと思うんですね。1つはニコール・キッドマン主演の、『愛すべき夫妻の秘密』っていう日本語タイトルが付いてる映画で、もう1つはジェシカ・チャステインっていう女優さんが主演の『タミー・フェイの瞳』と2本の映画なんですが、この2本非常によく似てるんで、比べて見ると面白いんですよ。で、2つともですね、まず主演が2人とも美人女優なんですけれども、ものすごくメイクをして、あんまり美人じゃないし、本人ともまるで似てない顔にしちゃってるんですね、特殊メイクで。
（山里亮太）えぇ・・。
引用：IMDb.com2つの映画の共通点、似ている点
（町山智浩）で、これは両方とも夫婦の話で、実在の夫婦で。この両方の映画の夫婦はですね、両方ともアメリカのテレビで、大人気夫婦で国民的な人気夫婦だったんですよ。はい。ところが、実はその裏では色々あって・・というですね非常によく似た話がなぜか、殆ど同時に映画化されたんで比べてみるといいなと思いますが、日本でも両方とも配信で見れますので。
（赤江珠緒）そうですね。ディズニープラスで配信中。（2022年3月23日現在、『愛すべき夫妻の秘密』はAmazonプライムで定額配信中でした。ディズニープラスでは検索してもヒットしませんでした。）はい。
（町山智浩）でまずね、最初にあの・・すごい日本語タイトル覚えにくいんだけど、『愛すべき夫妻の秘密』という映画についてお話しします。これはね、アメリカですごく人気だった、すごいと言うか国民的人気だったですね、ルシル・ボールという女優さんがいまして、その人のやってたテレビ番組で『アイ・ラブ・ルーシー』という番組があります。これ音楽聞いてもらうと聞いた事があると思うんですよ。ちょっと聞いて・・。
（町山智浩）はい。これ、聞いた事あると思うんですよ、どっかで。
（山里亮太）あるかね？
（赤江珠緒）あるかな。なんかちょっと、古き良きアメリカみたいなね。
（町山智浩）そうなんですよ1950年代のテレビ番組なんですけどサンプリングされて日本の曲にも使われてるんで、結構。聞いた事があると思うんですね。これ『アイ・ラブ・ルーシー』という番組はご覧になった事ありますか？聞いた事はある？
（赤江珠緒）いや〜ないな・・。
（山里亮太）やってたんですか？日本で。
（町山智浩）日本でものすごい人気だった。
（赤江珠緒）え！日本でも！
（町山智浩）僕は子供の頃の夕方6時から放送してました。
（赤江珠緒）あっ！そうなんですか。
『アイ・ラブ・ルーシー』という日本でも人気だった1950年代のテレビ番組
（町山智浩）これはルシル・ボールっていう女優さん、まぁルーシーっていう愛称なんですけども、彼女と本物の旦那さんのですね、デジさんという人が夫婦で夫婦の役をやっていたんですよ。だから私生活とそのドラマの中が基本的に同じなんですね。で、ルーシーさんはすごくドジでですね、いつもドジばっかり踏んでるんですけど、で旦那さんはすごくハンサムでですね、ラテンバンドのコンガを叩いてるミュージシャンっていう設定で、キューバ人なんですね。
で、この2人のなんかまぁ色々あって、勘違いして、旦那が浮気してるんじゃないかと思うとそうじゃなかったみたいなのを毎週毎週やってる30分番組だったんですよ。で、この『アイ・ラブ・ルーシー』がどのくらい人気かっていうと、アメリカはその当時ですね夜9時から放送だったんですけども、夜9時にみんなが家でテレビを見れるようにって事でもって、全てのいろんなお店とかが結構夜遅くまでやるレストランとかまで、8時までに店閉めるっていうぐらいだったんですよ。
（赤江珠緒）あっはっはっは！
（山里亮太）ええーっ！
（赤江珠緒）そんなに？
（町山智浩）そうしないと従業員が怒っちゃうから。
（赤江珠緒）へ〜！ああ従業員が怒っちゃうから！？
（町山智浩）怒っちゃう。見れねーじゃねーか！って事で。本っ当に国民的番組で。視聴率は60パーセントを超えちゃうという、すごい状況になったんですよ。60パーセントを超えるって大変な事ですよこれ。
（山里亮太）いーやすごい！
（町山智浩）レギュラー番組ですよ。紅白とかじゃないんですよ。
（赤江珠緒）ねぇ！すごいですよね。
（町山智浩）すざまじい番組だったんですよ。で、この番組がなぜ、そんなに視聴率が良かったかというと、本当の芸能人夫婦がそのまま夫婦を演じて、で、途中でこの奥さんのルーシーさんは妊娠するんですよ。本当に妊娠するんです。そうすると、本当にそのドラマの中でも、ドラマっていうかコメディなんですけど、妊娠して、どんどんお腹が大きくなってくんですよ。本当なんです、これは。
（赤江珠緒）あぁちゃんとリンクして、コントとしてやっていく？
（町山智浩）そう。で、産むとこまで全部やっちゃうんですよ。
（赤江珠緒）えー！
引用：IMDb.comリアリティーテレビの元祖
（町山智浩）産むとこって言うか出産シーンを見せる訳じゃないですけど、ちゃんとコメディの中でも生まれて、ちゃんと赤ちゃんができてっていう風になって。だから、人の家の家庭を覗き込むという、一種のリアリティーテレビの元祖みたいな所があったんですよね。ただ、そうなると、この2人は私生活がなくなっちゃうんですよね。
（山里亮太）あぁまぁそうですよね。
（赤江珠緒）そういう事かぁ、うん。
（町山智浩）で、大変な事になった訳ですけども、その中で視聴率60パーセントの中でスキャンダルが起こるんですね。この『愛すべき夫妻の秘密』っていう映画の中では。それは1つはまぁよくある話で、この旦那のデジさんが浮気した写真を撮られて、それがまぁタブロイド紙に出ちゃうんですね。もう1つはこのルーシーさんが、若い頃に共産党に入っていた事が発覚するんですよ。
（赤江珠緒）ほうほう。
（町山智浩）これはね、1950年代に”赤狩り”というのがありまして。かつて、共産党に関わった人達を次々と政府が摘発して、議会に呼んで、テレビで放送しながら彼らを糾弾するという事がずっと行われてたんですね。で、しかもその仲間を、共産党に入っていた仲間の名前を言えという風に密告をさせて、密告しない場合は刑務所にぶちこむという事をやっていたんですね。で、その対象になっちゃうんですよ、彼女が。
（赤江珠緒）ほう！
（町山智浩）で、昔1930年代ぐらいと言うのが、彼女が共産党に関わった時なんですけど、その頃は共産党は普通の存在だったのでアメリカでは。労働組合に関わってたおじいさんに誘われて共産党に一時的に入ったんですけど、その後は何もしなかったんですね。ところがそれをほじくり返されて、大変なスキャンダルになって、アメリカのその頃の大統領のですね就任式とかよりも視聴率が高かったので！
（赤江珠緒）うわすごい・・うんうん。
（町山智浩）凄まじい状況だったので、この番組はどうなるかと。言う一種のサスペンスみたいな事がこの映画、『愛すべき夫妻の秘密』の中で非常に大きなポイントになってるんですけども。これね、こういう夫婦って結構いるじゃないですか。要するに夫婦である事自体を芸能人としてのセールスポイントにしてる夫婦。
（山里亮太）はいはいはい。
（町山智浩）この夫妻は実は奥さんの方は売れない女優だったし、旦那の方は結構人気のミュージシャンだったんですけれども、ルンバとかマンボがちょっと流行らなくなってきたのと、彼自身がイケメンだったんですが40代になってちょっと容姿が衰えてきて人気が下降線だったんですよ。
（赤江珠緒）うん。
（町山智浩）で、このちょっと人気がなくなってきた夫婦が2人とも40代で、で、この番組でいきなりもうアメリカ人が1番なんか・・愛する夫婦になったんですよね。そうすると、まぁこれ、息子さんとかがですね、その後インタビューとかで答えてるんですけど。逆に家庭はめちゃくちゃだったって言ってるんですよ。
（赤江珠緒）えーー！！
実際の家庭はめちゃくちゃだった
（町山智浩）これね、プロデューサーもやってるんですよ2人は。で、要するに毎週毎週話考えなきゃなんないんですよ。
（赤江珠緒）そっかぁ・・！じゃぁビジネス上の夫婦としての物語の方が進んでいっちゃって、本当の方はしっちゃかめっちゃかになる。
（町山智浩）本当の方は、彼自身に私生活がなくなってプライバシーがなくなっちゃうから、旦那さんは家に帰んなくなっちゃうんですよ。1人の時間が欲しいみたいな事で。で、実は旦那はすごく女好きだったりした事もあったんですけども、逆にその奥さんのルーシーさんの方が、この番組を作る事によって24時間旦那を離さないでいられるから。
（山里亮太）ほお！
（町山智浩）それで旦那を出演させたんですけど、最初はすごく大きい問題になって、その頃のアメリカのテレビって言うのは、キューバ人である旦那さんを主役にするって事は絶対に許されなかったんですよ。
（赤江珠緒）あっ・・。そうか、うん。
（町山智浩）白人でなければいけなかったんですよ。主人公達は。で、黒人の主人公って言うのは当時50年代いなかったし、名前がリチャードとかスミスとかの、WASP系。つまりイギリス系の人以外は基本的に主役はできなくて、ユダヤ系の人とかイタリア系の人もそういう名前に変更しなきゃならなかったですよ、芸名を。
そういう状況の中でキューバ人の彼を主役に持ってくるって言うんでテレビ局も大反対したんですけど、彼女が旦那じゃなきゃ嫌だって言って出したら大成功したんですね。すごくラテン系のイケメンな感じなんで奥さん達も好きだったんですよ。
（山里亮太）なるほどなるほど。
（町山智浩）ね、濃い感じでね。ところがもう1つ問題があって今度は妊娠した事なんですね。アメリカの当時のテレビでは、妊婦の人、お腹が大きい人は絶対にテレビに出してはいけなかったんですよ。
（山里亮太）へー！
（赤江珠緒）出してはいけない？ほう。
（町山智浩）出してはいけなかったんです。その頃のアメリカのテレビはキリスト教原理主義的な決まりに縛られていて、で、お腹が大きくなって子供が生まれるって言うのは、じゃぁ赤ちゃんはどうやってできるのって事になっちゃうから。今は時間帯ごとに規制が違うんですがアメリカでは。日本もそうですよね。その頃はそれがなかったんで、子供が赤ちゃんを作る事に対して疑問を持つような描写、性とかセックスを感じさせるものは一切テレビに出していけなかったんですよ当時。
（赤江珠緒）は〜〜〜アメリカ・・！
（町山智浩）夫婦の寝室もベッドが離れて部屋の左と右に分かれて置かれてたんですよ当時のテレビでは。
（赤江珠緒）え〜〜！！
引用：IMDb.com画期的なテレビ番組だった
（町山智浩）どんな夫婦だよ、それじゃ子供できねえだろって言うね。でもそういう時に、いや、お腹が大きくなっていくのを全部見せさせてくれと。言ってそれを通したりして、非常に画期的なテレビ番組だったんですよ当時。ところが、さっき言ったようなスキャンダルで果たしてこの番組を維持できるかと。言う話なんですが、これそのルーシーさんを演じてるのはニコール・キッドマンで。
（赤江珠緒）ニコール・キッドマン！確かに全然見えないですね。
（町山智浩）これメイクめちゃくちゃで。これルーシーさんというのは目がものすごく大きいギョロッとした人なんですけど、ニコールさんはそうじゃないんですよね。
（赤江珠緒）そうですね。
引用：IMDB.com（町山智浩）ものすごく目を見開いてますよね。これメイクでね。
（赤江珠緒）本当だ、二重というかなんかね、全然違う目の形になって。
（町山智浩）ギョロ目にしてるんですよねメイクで。まぁとんでもないね、特殊メイクでやってて、すごく頑張ってるんで、アカデミー主演女優賞候補になってますけど。すでにゴールデングローブでは賞を取ってるんですね。
（赤江珠緒）ふーん！
（町山智浩）で、今の話と非常によく似た話がもう1本の方なんですけれども。
→もう1本の方、タミー・フェイの瞳の町山智浩さんの解説レビュー
○○に入る言葉のこたえ
④２つとも実在の夫婦の話で、国民的な人気夫婦
