正欲の町山智浩さんの解説レビュー
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映画評論家の町山智浩さんがTBSラジオ『こねくと』(https://www.tbsradio.jp/cnt/)で、『正欲』のネタバレなし解説を紹介されていましたので書き起こしします。
映画視聴前の前情報として、また、映画を見た後の解説や考察レビューとして是非ご参考ください。
町山さん『正欲』解説レビューの概要
①ストーリーがトリッキーな映画、『正欲』
②正しい欲と正しくない欲はあるのか?
③正しい人を演じる稲垣吾郎さん
④正しくない人を演じるのは磯村勇斗さんと新垣結衣さん
⑤○○○事の目的がわからない
⑥原作と映画は物語の構成が完全に裏返っていて、ミステリー要素が映画版にはない
⑦『正欲』と『桐島、部活やめるってよ』の共通点
※○○の中に入る文章は、この記事の1番最後で公開しています。
TBSラジオたまむすびでラジオ音源を聞いて頂くか、書き起こし全文をご覧頂くか、この記事の1番最後を見て頂く事で判明します。
『正欲』と『桐島、部活やめるってよ』関連性とは?町山さんの解説
(町山智浩)先週ちょっとやろうと思った映画で『正欲』っていう映画なんですが日本の映画で。ちょっとね、トリッキーな映画なんでストーリーが。公開前にやるのは難しいなと思ったんですね。で、もう公開されてますんで今、映画館で。だからその、うまく説明する事が少ししやすくなるかなと思って今週に持ってきたんですが。
(でか美ちゃん)ちょっと踏み込んで話していいという。
(町山智浩)ご覧いただいたんですよね?
(でか美ちゃん)はい。蓮華ちゃんもでか美ちゃんも見まして。
(石山蓮華)見ました〜。
(でか美ちゃん)なので今日はちょっと内容にも踏み込んだ話をしていいという事で。
(町山智浩)これ、見てもらわないとこれについて語る場合に、内容を隠して語ると殆ど何を言ってるのかわからなくなるので。
(石山蓮華)そうですね。
(町山智浩)もうお忙しいところを申し訳ないんですが見ていただいて。すいません。
石山蓮華さんの『生欲』を見た感想
(石山蓮華)いやいや楽しく拝見しました。あの〜やっぱり私自身が電線が好き、無機物が大好きっていうところで、登場人物と近いものを感じる部分はあって。で、その、まぁちょっと、なんだろうな?どこまで言っていいのか。
(でか美ちゃん)ね!(笑)どこまで言っていいんだろうか。(笑)
(石山蓮華)私自身は、電線には性的興奮を覚えないんですよ。なんですけど、なんか個人的にその人間とか、人間の形をしたその物とかに、性的な欲求とか興奮をぶつける事に結構最近社会的な色々こう思って、しんどみみたいなのがこう高まっていて。で、そういうところでどこまで私は自分の性欲を人間とか。
(でか美ちゃん)他者にね。
(石山蓮華)人間の形をしたものにこうぶつけるんだろうってすごくこう考えている部分があるので。なんかそこで一歩、その踏み込んだところから、アンサーをもらったのかな〜と思いました。で、テーマ的に『TITANE/チタン』とか『クラッシュ』とか、自動車。えっとなんだっけ、消防車が好きな女の人。消防車と子供を作る女の人の映画で『TITANE/チタン』っていうのがあるんですけど。それとかに近いなっていうテーマもありながら、よりその日本のこの細かいコミュニティ?小さなコミュニティの中でどう生きるかっていうところにフォーカスされていたのが、なんかすごく、う〜んわかるような、わからないようなっていう。面白かったです。
でか美ちゃんの『生欲』を見た感想
(でか美ちゃん)だからそのやっぱり『正欲』、正しい欲と書いて『正欲』っていうのが本当に物語の肝というか。まぁどんな性的指向を持っていてもいいんだけど。とかある訳じゃないですか、社会的に許されないとか、変わった人扱いされちゃうとか、なんかこうねぇ。異性と婚姻関係を結んで暮らしていく事が当たり前とされている社会だったりとかっていう部分で、自分も、ね。やっぱりこうマジョリティー側の人間だとは思ってるんで自分自身で。なんか自分のふとした振る舞いとか一言とかで、身近な人を追い詰めてる事とかがあるかもしれないなとか、すごくこう考えましたし、その原作の朝井リョウさんが、趣味が一緒なんで趣味友達なんですけど。
(町山智浩)えっ?趣味ってなんですか?
(でか美ちゃん)アイドルとかオーディション番組が好きなんで、本当にほぼほぼ毎日、LINEでああだこうだと会議を重ねているんですけど。(笑)
(町山智浩)あぁそうなんですか。へ〜!
(でか美ちゃん)私は朝井さんの友人としての面の方を多く見てるんで、なんか不思議な気持ちになりますね、原作を見ても映画を見ても。なんか私にとってはただの友人の1人だからこそ、どういうタイミングでこういう事を考えてたのかなとか、なんでこれを作品にしようとしたのかなとか。なんか、ねぇ。朝井リョウ大先生なんですけど。あまりにも、友人と思いすぎてるあまり、なんかこう色んな意味でグッとくるものがありましたね。
(町山智浩)これ、『正欲』ってセックスの”性”じゃなくて”正しい欲”と書いてるんですけど、まぁテーマとして前面に出されてるのは正しい欲望、正しくない欲望っていうものは一体あるのかっていう。欲望に正しい正しくないがあるのかって事をタイトルは問いかけてるんですけど。で、登場人物としてはまず稲垣吾郎さんが、検察官、検事ですね。で、彼は非常に正しい人なんですよ。
(でか美ちゃん)正義感あふれる感じでね。
(町山智浩)そう。ね。いい大学出て、おそらく東大とか出て、検事になって。で、奥さんがいて。子供もいて。すごく本当に正しい道を進んでて。で、それに対して、逆にそういったものとうまく、まぁこういう社会の基本的なものとうまくいかない2人が出てくるんですね。それが新垣結衣さんと磯村さん。この人あれですね。ジルベールやってた人ですね。『きのう何食べた?』でね。
(でか美ちゃん)はいはい。磯村さん本当にいい俳優さんですよね。
(町山智浩)磯村勇斗(ゆうと)さんですね。
(でか美ちゃん)あ、磯村勇斗(はやと)さんですね。”はやと”って読むんですね。
(町山智浩)え?あぁ、はやとさんって読むんですね。ごめんなさい。僕ジルベールって呼んでたんで名前を呼ぶの今始めてだったんです。(笑)
(でか美ちゃん)はははは!そのあまりにも役柄がよくてね。ハマり役すぎて呼んじゃうんですね。
正しくない人を演じるのは磯村勇斗さんと新垣結衣さん
(町山智浩)あのジルベールって呼んでいたんで。すいません。(笑)で、ジルベールは飄々(ひょうひょう)とした人なんですけども、この映画の中では磯村さんは、全く生きる目的が見つからない人なんですよね。で何で生きていけるかわからなくて。それで明日生きる理由が見つからないって事で日々が非常につらい生活を送ってると。で、その高校の時の友達が新垣結衣さんで。新垣結衣さんは、今あれはなんていうか田舎って言っていいと思うんですけど。ショッピングセンターで店員をしてるんですね。で、もう友達とかはみんな結婚して子供がいるんですよね。
(でか美ちゃん)ね、地元同士で付き合って結婚してる感じとかね。お!お!っていうね。
(町山智浩)で、子供連れた同級生とかが来るんですよね、売り場にね。
(でか美ちゃん)ショッピングモールに来て。
(町山智浩)ね。で、あなた、まだなの?とか言われたりね。あと、お父さんお母さんがね、お母さんがテレビでね、はじめてのおつかいを見ながらね。かわいいわね!孫まだかしら?とか言ってプレッシャーかけてくるんですよね。でも、彼女はやっぱり普通に恋愛して結婚して子供を産んでという事に全然価値観を見出せないっていうか、それをしたくないんですね。したいと思えない。だからもう本当に孤独で孤立してるんですね、世界の中で。またジルベールって言いそうになった、磯村さんと新垣さんはね。世界の中で孤立してるんですよ。生きる事の目的がわからないんですよ。ところが段々話がひっくり返っていくんですよね。こういうと、ストーリーはわかんないでしょう?(笑)
(石山蓮華)そうなんですよね!難しいんですよね。
(でか美ちゃん)なんて言ったらいいんだろうな〜。
生きる事の目的がわからない
(町山智浩)そう。ストーリーをね明らかにしないようにしゃべろうとしてるんですけど僕。(笑)
(石山蓮華)ネタバレをせず。
(町山智浩)あのね、これね原作を読んでから映画見ると面白いんですよ。原作と物語の構成が完全に裏返ってるんですよね、映画。
(でか美ちゃん)そうですよね。あと、ここ描かないんだとかも正直私は結構あって。でもだからこその映画という1時間とか2時間の中で描ききるテンポとして素晴らしいなと思いました。映画は映画で好きだなって私は思ったんですけど。
(町山智浩)あのね、原作はミステリー仕立てになってるんですよ。だから最初に事件があって、この事件の真相は一体なんなのかっていう、まぁ推理物ですよね、ミステリーの構成になってるんですけど。映画はそれやめちゃって、最初から主人公達の物語を語ってくというやり方になってて。これね、ディカプリオの『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』もそうなんですよ。
(でか美ちゃん)そっか。原作というか事実があった上でちょっと逆転的な事ですもんね。
(町山智浩)そうそう。原作の方はまず事件があって殺人事件があって。その犯人は誰なのかっていう展開なんですよ。ところが映画版のディカプリオの方は、もう最初からその主人公達の生活を描いていくんですよ。だからすごくね、同じような脚色をやってて、ミステリーである事を両方とも捨ててるんですよ。そこがね面白いなと思ったのと。あと一見その、セックスとか欲望。要するにまぁなんていうか、人間生活ってはっきり言うとセックスを基本に作られてるでしょう?
(でか美ちゃん)そうですよね。恋愛とかそういうものがあってしかるべきみたいな風潮がね、あるというかね。
(町山智浩)ねぇ。で、社会全体の基盤になってるし家族を作って、それで子供を作って未来に繋いでくっていう事で、歴史的にも社会的にも基礎にあるのはセックスじゃないですか。そうするとそこの中にいられない人っていうのは本当に居場所がない訳ですよ。
(石山蓮華)大人になると感じるシーン増えますね。
(でか美ちゃん)そうですね特にね。
(町山智浩)これ1番すごいシーンはそのショッピングモールの所で、新垣結衣さんが働いてるところに同級生がプレッシャーをかけに来た時の新垣さんのクローズアップがすごいんですよ!
(石山蓮華)うーん!
(でか美ちゃん)なんかその、いい意味でその新垣さんの、なんかやっぱり新垣さんに対して”ガッキー”みたいな、ねぇ。『逃げ恥』とか、ポッキーのCMとか。本当に正統派・清純派女優をずっとやられててって中の、めちゃめちゃ新垣さんっぽくない役どころを完璧に演じきってるすごさみたいなのは、特にそのショッピングモールのシーンで私も感じましたね。
(石山蓮華)立ち方が良かったですね。棒立ちっていう感じで。
新垣さんっぽくない役どころを完璧に演じきっている
(町山智浩)でもこの映画、その性の事を描いてるのかっていうと、実はそのリッシンベンの方の”性”ではなくてセックスの性ではなくて、実は生きるの方の”生”に原作者の朝井リョウさんが、実はその事を言いたい物語だと思うんですね。というのは、彼の作品で『死にがいを求めて生きているの』っていう本があるんですけど。それはまさに、何のために人は生きてるのかっていう事を問いかけてるタイトルなんですけども。で、この磯村さんは明日生きる理由が見つからないっていう事で苦しんでるじゃないですか。で多くの人にとってはそれは恋愛だったり仕事だったり色々する訳ですけども。じゃぁそれがないと人は生きられない訳じゃないですか。ご飯食べてただそのまま生きていける訳じゃない訳じゃないですか。で、そこで、何言ってんだと。普通に生きりゃいいじゃねねぇかって言ってるのは稲垣さんなんですよ。で、ここでガッキー対決になっていく訳ですね。稲垣対新垣の。
(でか美ちゃん)誰も稲垣さんのことをガッキーとは呼んでないんですが!(笑)Wガッキー対決として。
(石山蓮華)でも見る時やっぱ、あっ!ガッキー対決のシーンだ!って思っちゃいました。(笑)
(町山智浩)ねぇ。で、この対決は実は、朝井リョウさんの別の映画化作品の『桐島、部活やめるってよ』における、神木隆之介くんと東出昌大さんの対決シーンと共鳴してるんですよ。
(町山智浩)というのは、『桐島、部活やめるってよ』っていう映画は、高校を舞台にして。あるスポーツ部のその桐島っていう人が辞めたために、東出さんが、生きる目的が見えなくなるっていう話だったんですよ。で、その時に桐島というのは映画に出てこないんですけども、おそらく生きる理由とか神とか、そういったものを象徴しているメタファーとして出てくるんですよ。だからこの映画における性欲とかまぁある特殊な性欲が出てくるんですけど、それもメタファーなんですよね。
(石山蓮華)うん、そうですね。
(町山智浩)実際の事ではないんですよ。生きる理由みたいなものなんですよ。それはきらめきみたいなもので、その神木くんは映画オタクで映画を撮り続けてるんですね、ゾンビ映画を。ところが東出くんはスポーツもできて勉強もできて顔もよくて背も高くて何でもできるんですけど。何をしたらいいかわからないしなんにも楽しくないんですよ。で、なんかよくわかんないけどいじめられながら映画を撮ってる神木くんと最後対決する訳ですよ本当に。向かい合って。クライマックスでは。で、どっちが勝つかっていうシーンがあるんですね。それと今回の最後のガッキー対決は明らかに共鳴してるんですよ。
(石山蓮華)なるほど!
『桐島、部活やめるってよ』と『生欲』の共鳴シーン
(町山智浩)それは、どっちが本当に生きてるのかって事なんですよね。それはもう本当に、稲垣吾郎さんはこれが正しい生き方だと思ってたんですけど、この映画の中では。それが本当に正しいのかっていう事なんで。これはね、実は『桐島』のその神木対東出っていう対決は原作の方にはないんですよ。
(でか美ちゃん)あぁそれもわかりやすくなってたんですね、映像として。
(町山智浩)映像として。で、そのガッキー対決は原作にあるんですが、原作には2人の表情は描かれてないんです。映画では、その2人の表情がテーマになってるんですよ。果たしてガッキーどっちが笑うか!最後に笑うのは誰か!?
(でか美ちゃん)はは、ガッキー対決(笑)
(石山蓮華)いや〜なんか町山さんのこの解説を見たらもう1回見返したくなりました。
(町山智浩)これね、両方見てもらうといいと思うんですよ。『桐島』と『性欲』は。
(石山蓮華)『桐島』も見たんですけど、公開当時だったんでだいぶ前なので、もう1回両方見直したい!
(町山智浩)クライマックス両方ともこの2人の対決になってるんですよどちらも。最後に笑う者は誰かなんですよ。
(でか美ちゃん)その上でどっちが正しいとかはやっぱりないんじゃないかっていうね。
(町山智浩)正しいっていうのはないと思います。ただやっぱり笑えて生きる方が本当に生きてるんですよね。
(石山蓮華)いや〜面白いです。
(でか美ちゃん)是非見てほしいです。
(石山蓮華)いや、すいません。しみじみ、もう1回見ようと思いました。
(でか美ちゃん)もう1回見たい。うん。
(石山蓮華)という事で今日は、公開中の映画『正欲』をご紹介いただきました。町山さんありがとうございました。
(でか美ちゃん)ありがとうございました!
(町山智浩)どうもでした。
※書き起こし終わり
○○に入る言葉のこたえ
⑤生きる事の目的がわからない