オッペンハイマーの町山智浩さんの解説レビュー
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映画評論家の町山智浩さんがTBSラジオ『こねくと』(https://www.tbsradio.jp/cnt/)で、『オッペンハイマー』のネタバレなし解説を紹介されていましたので書き起こしします。
映画視聴前の前情報として、また、映画を見た後の解説や考察レビューとして是非ご参考ください。
町山さん『オッペンハイマー』解説レビューの概要
①アカデミー賞で作品賞、主演男優賞、助演男優賞、監督賞、作曲賞、撮影賞、編集賞を獲得
②オッペンハイマーという人は、○○を開発した男
③原爆の被害者である日本の人が見るべき映画
④どうして原爆が作られてしまったか
⑤核分裂などを○○で表現
⑥不器用な男オッペンハイマー
⑦原爆を使わないでという署名を受け取らないオッペンハイマー
⑧AIの問題も考えさせられる
※○○の中に入る文章は、この記事の1番最後で公開しています。
TBSラジオたまむすびでラジオ音源を聞いて頂くか、書き起こし全文をご覧頂くか、この記事の1番最後を見て頂く事で判明します。
『オッペンハイマー』町山さんの評価は
(町山智浩)今日、紹介する映画は結構ヘビーなので、もうアレなんですが、やっと『オッペンハイマー』という映画が日本で今週公開されます。
(でか美ちゃん)ついに。
(石山蓮華)ついにですね。
〜音楽〜
(町山智浩)『オッペンハイマー』はですね、アカデミー賞で作品賞・監督賞。他ですね、もう独占しましたけども。去年の7月に全世界で公開されて日本だけ公開がやっと今週になりました。どうしてそうなったかっていうとオッペンハイマーという人は、原爆を開発した男だからです。で、7月はちょっと8月の原爆投下の日に非常に近かったので公開が非常に難しかったんですけども、その後も非常に日本で映画を実際に見ていない人達や、見たんだけど理解していない人達によるネガティブな批評が飛び交ってですね公開できない状態になっていました。
映画公開が原爆投下日と近かった事などが理由で日本公開が遅れていた
でもやっと、アカデミー作品賞取ったので。あと世界で日本だけ公開されてないっていうのも大問題だし。1番大きいのは原爆の被害者である日本の人が見るべき映画なんですこれは。どうして原爆を彼らが作ってしまったのかという映画だからです。日本人こそ見なければならない映画なんですね。そんな誤解で公開が非常に遅れたのですが是非見ていただきたいんですが。
オッペンハイマーという人についてはあんまり知られてないと言えば知られてない感じがするんですが、この人はですね、一種の超人として描かれていますこの映画の中では。というのは、核爆弾というのは核分裂とかそういう現象を起こす訳ですね。そのものすごい微小な、原子のレベルで。それを彼は見てしまう男なんです。
(石山蓮華)ほう。
(町山智浩)というすごい描写で、核分裂であるとかブラックホールであるとか、そういったものをですね超感覚的に感じる男の物語として作られてるんよ。
(石山蓮華)でも、なんかその、超感覚というかSF的な描写って、なんかクリストファー・ノーラン監督っぽいような・・。しますね。
(町山智浩)そうですね。この分子レベルの現象を、普通だったらコンピュータグラフィックスで作るんですけど、クリストファー・ノーラン監督は携帯も持ってないほどコンピューターとかネットが嫌いなんで。
(でか美ちゃん)へ〜。
核分裂などを特撮で表現
(町山智浩)全て特撮で核分裂とかを表現してますけども。昔ながらの特撮ってやつですね。そこもすごいんですけれども、そのぐらいすごい一種の超人だったオッペンハイマーが、原爆を開発するんですが、決して天才としては描かれてないんです。彼が原爆を開発した事が問題ではないんですよ。問題は、日本に投下する事を彼が阻止しなかった事が問題なんです。開発した事自体は問題じゃないんですよ。使わなければよかっただけです。
(石山蓮華)はいはいはい。
(町山智浩)ただ、これは、作ってしまったらみんなが使うっていう、事を彼が予測しなかった事が問題なんです。
(でか美ちゃん)なるほど。
(町山智浩)どうしてそうなるかっていうと、この『オッペンハイマー』という映画はキリアン・マーフィーという人が演じてですね、主演男優賞を取っているんですが。まず最初に出てくるのは不器用な男として描かれるんです。実験をするんですが研究室で。実験が下手くそなんですよ。ガチャーンとか言って割っちゃったりするの。で、数学の能力も物理学者なんだから高いのかと思うんですけど、彼を指導してる指導員から”大した事ないよあいつ数学の能力もって言われちゃうんですよ。
(でか美ちゃん)なんか結構バカにされた感じの。
不器用な男オッペンハイマー
(町山智浩)はい。本人も過去を回想する形で、僕は非常にダメでしたって言っちゃうんですよ。コンプレックスの塊なんです。ところが彼には一種の超能力によってですね、この描写もなんだろなって思いますけど、その核反応とかを見る事ができるんですよ。
(でか美ちゃん)へ〜〜!なんか不思議なね感じがしますけど。
(石山蓮華)でもまさに映画だからって事なんですか。
(町山智浩)不思議な感じなんですけど。でも実験ができないっていうのは科学者としてかなり致命的なんですよ。
(でか美ちゃん)ですよね。
(石山蓮華)再現できない・・。
(町山智浩)理論だけなんです彼は。じゃあ一体どうすればいいか。彼はすごく世の中にいい事をしたいって思ってるんですよ。オッペンハイマーって人は。でも、どうも理論しか自分にはないと。そこに忍び寄ってくるのが軍隊なんですよ。
(でか美ちゃん)そっかー・・。
(町山智浩)君、原爆作ってみない?悪魔の誘惑ですよそれは。
(でか美ちゃん)そうか。利用されちゃう。
君、原爆作ってみない?
(町山智浩)利用されちゃうんですよ。で、彼自身がですね、じゃぁオッペンハイマーいなければ原爆というのは開発できなかったのかというと決してそんな事はないんです。『オッペンハイマー』というこの映画はですね、50人ぐらいの登場人物が出てきて、ほとんど説明がなかったり名前さえ呼ばれなかったりするんですが、
全員実在の人物なんですね。で、その人達の多くがノーベル賞を受賞しています。
(石山蓮華)じゃぁすごくこうできる人の中にいた人の弱さって事なんですか?
(町山智浩)すごいみんなすごい技術者ばっかり、それこそアインシュタインとかも出てきますけれども。出てくる人はみんな実は原爆を開発するための決定的な理論とかを持っていた人達なんですけど、オッペンハイマー自身は、ノーベル賞を受賞していません。画期的な理論の開発者ではなかったからなんですよ。彼が原爆を開発できたのは、そういった世界中の天才達を1ヶ所に集めてロスアラモスという研究所で研究させたから原爆が開発できたんですね。で、どうしてそれができたかっていうと、ほとんど開発に携わった物理学者達はユダヤ系でした。彼らの目的は、ナチスより、ドイツよりも先に原爆を開発する事だったんですよ。彼らの親戚は、ヨーロッパでナチスに殺されていて彼ら自身も殺される寸前で逃げてきた人達ばっかりなんですよ。で、ユダヤ人がナチスと戦うために作った原爆だったんですが。ナチスが先に滅んじゃうんですよ。じゃぁ使わなきゃいいじゃないですか。
(でか美ちゃん)そうですよね、だってもう目的が。開発はしたけれども、目的なくなったね。でよかったはずですよね。
(町山智浩)そう。で、開発に携わった科学者達はみんな、それを使わないでくれという署名にサインするんですよ。
(石山蓮華)ほぉ〜。
(でか美ちゃん)うんうん。
(町山智浩)で、使わせないようにしようと頑張るんですけども、オッペンハイマーはその署名を受け取らないんですよ。
(でか美ちゃん)へ〜。なぜって思ってしまうけどな。
原爆を使わないでという署名を受け取らないオッペンハイマー
(町山智浩)それがずーっと彼の罪になっていくんですね。彼はそれを背負う事になっていくっていう話がこの映画なんですよ。
(でか美ちゃん)あぁなるほど。
(町山智浩)だからすごく今、世間で言われてるような間違った解釈でその原爆を開発したオッペンハイマーを英雄として描いてるって事はなくて、英雄ではなく罪人として描いてるんです。
(石山蓮華)じゃぁ真逆ですね。
(町山智浩)真逆なんです、世間でそういう批判してる人達はね。
(でか美ちゃん)むしろ、そのサインをしなかった事で全部背負っちゃう事になった訳ですよね。全員の。
(町山智浩)全部背負う事になるんです。で、これねものすごく微妙な映画になってるんですね。っていうのは、オッペンハイマーがどうして原爆を投下された人達の事を想像して、それを止める事ができなかったかっていう理由が、非常に微妙な心理描写で描かれてるんですよ。オッペンハイマーは、一種なんていうか人の心は想像できない人として描かれてるんですね。
人の心が想像できない人
(でか美ちゃん)まぁなんか言っちゃアレですけどゆえの天才とかもあったのかもしれないですよね。才能がそこが秀でてるっていうのは。
(町山智浩)そう。ものすごく研究熱心だったり、夢中な事には夢中になるんだけれども。例えばね、自分の弟が、結婚するんだ、婚約者なんだって連れてくるんですね女性を。したら、その女性は自分に関係ないと思ったオッペンハイマーは全く無視します。その人を。で、無視された方の女性は。だって普通はおめでとう!いい奥さんだねとか言うじゃないですか。素敵な女性だねとか。自分の弟の婚約者ですよ?・・全く言わないんですよ。見もしない。で、その描写がなぜここにあるかって言うと、この映画の前半にあるかっていうと、それが拡大されて、どんどんひどい事になっていく訳ですよ。
(でか美ちゃん)そっか。こういう些細な事がきっかけというか、こういうような事の大きい版がちょっとずつちょっとずつ起きていって。
(町山智浩)そうなんですよ。で、この映画もう1人主人公がいるんですね。それはアカデミー助演男優賞を取ったロバート・ダウニーJr.が演じる、ストロースというね。原子力委員会という原爆とかそういったものを管理する政府組織のリーダーなんですけれども、その人が、オッペンハイマーを密かに憎んで、彼をソ連のスパイという濡れ衣を着せて公職追放をしようとするんですよ。で、そのストロースのドラマと、オッペンハイマーの原爆開発のドラマが並行して進みますこの映画。それが互いに絡み合いながら進むんでものすごく複雑なんですよ。時間軸が2つあるんです。
(でか美ちゃん)はいはいはいはい。
時間軸が2つ
(町山智浩)で一応、ストロースの方のドラマは白黒で撮ってあって、オッペンハイマーのドラマはカラーで撮ってあるっていうふうに色で見分けができるんですけども、それが一体何年に起こった事なのかという事はいちいち字幕で何年って入らないんですよ。しかもオッペンハイマーの時間軸はオッペンハイマーが、そのストロースのせいでソ連のスパイ容疑によって聴聞会というのにかけられるんですが、それが起こってその中でオッペンハイマーが質問されて回想していく中でオッペンハイマーの人生を順番に描いていくっていうすごいやり方をするんですよ。
(石山蓮華)じゃぁ、えっと・・語っている時間がまずあって。語られている時間がもうひとつあって。さらにもうひとつ、ストロースの?
(でか美ちゃん)わー。ね。
(町山智浩)で、ストロースの方はストロースでその後1950年代にアイゼンハワー大統領によって、商務長官という閣僚に任命されて、その承認が行われていて。承認のための審問がね。それと、オッペンハイマーがソ連のスパイとして色んな質問されてるのが同時進行するというね。
(石山蓮華)うわっー!ノーランっぽい!
(町山智浩)ものすごい複雑なんですよ。
(でか美ちゃん)これ、映画館で絶対できないけど、相関図とか時間軸とか見ながら見たいって思っちゃうタイプのやつですね。結構混乱しそう。
(町山智浩)ものすごい混乱します。実は僕、5回見てます!
(石山蓮華)そうですか!町山さんが5回見て、どれぐらいわかるんですか?
(町山智浩)5回見たら大体わかります。
(石山蓮華)あ、5回見たらわかる・・。
(町山智浩)でも1回見ただけじゃわからなかった。
5回見たらわかる複雑さ
(でか美ちゃん)しかもそもそもこう歴史に基づいた知識とか、ある程度たぶん知ってないと、説明がね。あえてしてないところとかもありそうだから。
(町山智浩)さっき言った署名を渡すところでも、書面を渡した人が誰なのかって説明がないんですよ。それはシラードっていう有名な物理学者なんですけども、わからないですよ普通。何も何も見ないで、知らないって行ったら。で、さっき言ったそのパーティーで弟に婚約者を紹介されるシーンっていうのの意味は、2回目に見た時に初めてわかりますよ。そのぐらいものすごく複雑な事をやってるんですよこの映画。で、今すごく問題になってる原爆の被害を直接この映画は描いてないって言われてるのもちょっと嘘で。直接ではないんですけれども、色んな形で描いています。まずオッペンハイマーはさっき言ったみたいに核反応とかを超感覚的に見てしまう人として描かれてると言ったんですが、だから彼は広島で起こった事を見てしまうんですよ。それで原爆投下に喜ぶ技術者達が、浮かれている技術者達が原爆の炎で焼き尽くされるのを見てしまうんですよ。そういう形では描いてるんですが、その原爆の被害を直接撮った写真を見せられると、下向いちゃうんですよ。申し訳ないと思ってるからですよオッペンハイマーは。見れないんです。
(石山蓮華)うん。
(町山智浩)で、オッペンハイマーは何度もこの映画の中ではっきり言うと、2度、原爆の炎で焼かれるんですよ。これは、広島。長崎と2発の原爆と相当するんですよ。彼が2度焼かれるのは。ていう、それ以上言うとあれなんですけども。だからこの映画は許せない!とか言ってる人がいるんですが、これはまさにオッペンハイマーを罰する映画なんですよ。ただそれを開発した人が罰せられると。それも一種の自己罰的に罰せられていくんですけども、それだけで原爆投下を許せるのかっていう人もいますが、そういう問題ではないんですね。落としたのはオッペンハイマーじゃないんですから実際には。
(でか美ちゃん)そうですね。
(町山智浩)で、この映画で1番大きい問題というのは、科学者とかそういった人達はそれが実際にどういった結果を及ぼすのかという事を考えないで、それが技術的に可能であるならば作ってしまうっていう事なんですよ。
(でか美ちゃん)その専門職みたいなところがあるから、できるならやってしまうという事ですもんねオッペンハイマーの話もだし。
AIの問題にも関係がある映画
(町山智浩)そういう事なんです。でなぜ今この映画が作られたかっていうと、もちろん核兵器の事も、今非常に危険な状態で。はっきり言ってロシアがいつ使うかわからない状態にありますけども、もう1つ、今たとえばAIが進んでますけど、AIがどういう事んなっちゃうかっていう事を、みんなわかってるのかなって事ですね。今、AIは色んなものに置き換わってますけども、AIが危険になったら止めればいいって思ってる人が多いんですけども、止められないAIが出てくる可能性があるんですよ。
つまりコンピュータネットワークとかそういったものをAIが自己制御した場合に、キルスイッチは効かなくなるんですね。
(石山蓮華)ん〜。
(町山智浩)それが軍事に関わったらどうなるかっていう事ですね。
(石山蓮華)そうか。。
(町山智浩)核ミサイル発射する事も可能なんですよAIは。AIには自己保存本能はあっても、人間を保存する本能はないので。
(石山蓮華)そうですよね。
(町山智浩)という事までを延長して考えるべき映画なんですよ。それでもね、さらに複雑なね、トリックをいっぱい仕掛けてる映画でもあります。はい。オッペンハイマー自身の恋愛とか結婚が、すごく彼がした、原爆開発という事と複雑に絡んでくるんで、一瞬一瞬のカットに仕掛けがあるんですよ。
(石山蓮華)うわーっ!これは、何回見たらわかるかなあ?
(でか美ちゃん)そうか。『TENET テネット』の人か。
(町山智浩)『TENET テネット』の人なので。
(でか美ちゃん)そーりゃ!そりゃって言うか見る前から言うのは失礼ですけど、そりゃわかりづらそうだなと思っちゃいますね。
(町山智浩)たとえばお風呂の絵があって、そこに女の人の髪の毛が浮いててそこに黒い手がっていうシーンがあるんですけど、ほんのコンマ1秒入るんですけど、それは一体何なのかとかって。
(石山蓮華)うー!うー!うー!
(町山智浩)そういう事をしまくってる映画なんで、まあ〜3回は必用かな?見るのが。
(石山蓮華)3回・・!
(町山智浩)という映画で。1回見ただけで、こりゃダメだわかんねえよって言ってる人は・・1回見ただけでわかる人なんて誰もいませんから。
(石山蓮華)そうか、じゃまず3回・・。
(町山智浩)来週までに3回見るの難しいですけ。(笑)
(でか美ちゃん)でもこの解説を、町山さんの解説聞いた上だと、その聞かずにの1度目よりは大分わかる感じしますよね、最初にやっぱり兄弟の妻を無視してしまうとかも何気なく見過ごしちゃうかもしれないけど。
(石山蓮華)あとはその時間軸と、白黒カラーの違いとか。
(町山智浩)怖いのはこれだけその精神的に弱い男が原爆を作ってしまうという事の怖さでもありますね。立派な人が作った訳じゃないんですよ。
(でか美ちゃん)やっぱり見ないとわからないという事で、その原爆ももちろんですけど戦争というものも、体験してない訳じゃないですか、蓮華ちゃんとでか美はね。で、前の『福田村事件』の時にも町山さんがおっしゃっててハッとしたのが、町山さんが物心ついた時の戦後っていうのはまだ生々しい時代だったっていう。私ら世代はやっぱりちょっと昔の事って思ったりしたから。ちょっと難解かもしれないけど『オッペンハイマー』見るべきですね。
(石山蓮華)そうですね、見て考えたい映画ですね。
(町山智浩)とにかくその、世界を滅ぼすような兵器が、すごく精神の弱い人によって作られたという事の怖さですね。
(石山蓮華)なんか精神の弱い人に権力を与えてしまうシステムって何だろうっていうのも、すごく考えたいなと思います。今日は今週29日金曜日に公開になる映画、『オッペンハイマー』をご紹介いただきました。町山さん、ありがとうございました。
(でか美ちゃん)ありがとうございました。
(町山智浩)どもでした!
■後日談
(石山蓮華)先週は原爆の父と呼ばれた物理学者、ロバート・オッペンハイマーについて描いた映画、『オッペンハイマー』をご紹介いただきました。でか美ちゃんも石山も見てまいりまして。
(町山智浩)3時間大変でしたね。
(でか美ちゃん)いや、でもね!
(石山蓮華)私、石山は、ちょっとお昼寝から起きてすぐの眠いタイミングで見に行ったんですよ。
(でか美ちゃん)危ないタイミングだな。(笑)
(石山蓮華)なんか『オッペンハイマー』を見るのには1番適したコンディションではない時に見に行ったんですが。見始めたら本当にしっかり覚醒して、3時間があっという間に感じました。
(町山智浩)あぁそうですか。ほんとに。
(石山蓮華)おもしろかったです。
(でか美ちゃん)私でか美もですね、町山さんの解説を聞いておいて本当に良かったというのが鑑賞後の1番の感想で。
(町山智浩)あぁどのへんですか?
(でか美ちゃん)これは何も知らずに見てたら、そのモノクロになった演出とか、バーッと原子が動いて見えるような演出とかの意味を。
(町山智浩)なんだろうこれはとか思いますよね。
(でか美ちゃん)あまりわからずに、半分も理解できてなかったかも。と思いつつ、なんかこう人間模様みたいな部分とかオッペンハイマーがどう苦悩して、すごい私が作品から感じたのは戦争というものが始まっちゃうと、みんながその空気に呑まれていくっていう、恐ろしさみたいなのは、結構そういう部分はわかりやすく描かれてたのかなと思って。なんで、うわぁクリストファー・ノーランか、3時間かって思わずに見に行ってもらえたらなとは思ったんですが。ちょっと理解とかが、こうなんだろな、ハードルが高いと思う方は、ぜひその先週のね、3月末分の町山さんの回聞いてから見に行ったら、かなり理解できるかなと思いました。
(町山智浩)僕も何回も見てね、全体がだんだんわかってくるというぐらい複雑な映画なんですけどね。やっぱり僕はすごくオッペンハイマーという人について、人間としては知らなかったので、原爆を作った人ってどんな人だろう思いますよね普通ね。
(石山蓮華)そうですね。
(町山智浩)この映画で描かれるオッペンハイマーっていうのは、常に精神が不安定で、おどおどしていて、奥さんと前の彼女の間でフラフラ、どっちつかずで。で、友達の科学者達の奥さんとも関係を結んでしまって。デタラメで。しかも、自分の弟に婚約者を紹介されても無視したりね。で、家を建てたらキッチンを作り忘れたりね!
(石山蓮華)いや、びっくりしましたねあのシーン。
(町山智浩)どんだけダメな人間なんだって思いましたよ。で、さっき戦争に流されてくっていう話が出たんですけれども、だからってこの人オッペンハイマーってなんか軍服着ちゃうんですね。
(石山蓮華)いや結構びっくりしましたよね。
(でか美ちゃん)そう、で結構仲間にね、ちゃんと咎めてくれる人とかがいたりしてね。
(町山智浩)そうなんですよ。他の科学者が、お前軍人でもないのに何をいい気になって軍服を着てるんだバカか!って言われるんですけど、そういう、まぁなんていうか非常にダメな、子供大人みたいな人なんですよね。で奥さんにいつも叱られてるしね。
(石山蓮華)そうですねぇ。
(町山智浩)それで子育てが面倒くさくなっちゃって、近所の人に、この子あげるよって言うんですよねオッペンハイマー。
(でか美ちゃん)いやぁ、とんでもないけどそのなんか、本当にね、その科学とかが最優先の人ってこうなっちゃうんだっていう。じゃぁ作るなよとは思いましたけど。
(町山智浩)ねぇ。そう思いますよねあのシーン。びっくりしましたけどあれ実話なんですよ。
(でか美ちゃん)あ、そうなんだ。
(町山智浩)人としてかなり壊れてる人で、そういう人が原爆を作ってしまうというね。で、やっぱりそれで死んでいく人の事まで想像ができてないんですね最初の段階では。だって近所の人の気持ちとか自分の弟の奥さんの気持ちもわからない人ですから。それは、その海の向こうの爆弾を落とされる人の気持ちなんてわかる訳ない訳ですよ。でも、逆にこの人はある一種の超能力者として。これ変なんですけど、映画としてね。その、原子の核分裂とかまで見えてしまう超能力を持っているので、その広島で死んでいく人達を見ちゃうんですよね。で、そこから悩み始めるんですけど。まぁなんというか、人間だからみんなやっぱりダメなとこはあるじゃないですか。そんなダメな人が原爆作っちゃダメだよね。
(石山蓮華)まぁそうですね。なんかその、オッペンハイマーが、私最初にイメージしてたよりも、自分に近いところがあるというか。
(町山智浩)えっ!
(石山蓮華)こういうダメさって、多かれ少なかれ色んな人が色んなところで持ってるよなっていう、その権力に近付くと、自分もそちらに染まってしまう部分があったりとか、なんかその人の権威を自分の物のように感じて振舞ってしまうところって多かれ少なかれ誰でもあると思うので、やっぱりなんか、そういう事が、その平凡さが戦争を生むのかなっていうのをすごく感じました。
(でか美ちゃん)で結構、広島と長崎の事を描いてないのがどうなんだみたいな意見もあったじゃないですか。実際にそのシーンはもちろん描かれてないんですけど。描かれてたとしてもちょっとショッキングすぎるかなとは私は思ったんですが。でも、ちゃんと描かれていましたよね。その直接的な表現じゃなく、ものすごいね、やっぱ日本人だしって言ったらあれだけど、どんどん刻一刻と、もう止められないものとして進んでいく様っていう、なんかそっちの原爆を落としてしまうまでの描き方の方が結構なんかね、重たい気持ちにはなりましたね。
(石山蓮華)かなりその演出としても重みを持って描いているんだなと私は感じました。
(でか美ちゃん)完全に反戦映画だとは思いました。私は。
(町山智浩)あの原爆を投下した事に喜んでいるその原爆開発チームが、オッペンハイマーの心の中で原爆の炎に焼かれるんですよね。で、その、もうドロドロに焼けたただれた女性ってクリストファー・ノーラン監督の娘さんなんですよ。そういうところにクリストファー・ノーランの覚悟みたいなものがね、描かれてると思います。ということで『オッペンハイマー』、3時間の長丁場ですが、見ておくべき映画だと思います。はい。
※書き起こし終わり
○○に入る言葉のこたえ
②オッペンハイマーという人は、原爆を開発した男
⑤核分裂などを特撮で表現