関心領域の町山智浩さんの解説レビュー
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映画評論家の町山智浩さんがTBSラジオ『こねくと』(https://www.tbsradio.jp/cnt/)で、『関心領域』のネタバレなし解説を紹介されていましたので書き起こしします。
映画視聴前の前情報として、また、映画を見た後の解説や考察レビューとして是非ご参考ください。
町山さん『関心領域』解説レビューの概要
①”関心領域”とは、これにしか関心がないというその領域以外のものは何も聞こえないし気にならない
②優雅に暮らしてるドイツ人の家族を隠しカメラで撮り続けているという映画
③よく聞くと不思議な音が聞こえる
④場所はポーランドのアウシュビッツだった
⑤ナチス・ドイツがユダヤ人を何百万人も殺した場所
⑥関心領域以外の事が入ってこないSNS時代
⑦収容所に入れたユダヤ人を皆殺しにする事に決めたキッカケがすごい
⑧○○シーンは一切ない
※○○の中に入る文章は、この記事の1番最後で公開しています。
TBSラジオたまむすびでラジオ音源を聞いて頂くか、書き起こし全文をご覧頂くか、この記事の1番最後を見て頂く事で判明します。
『関心領域』町山さんの評価とは
(町山智浩)今日紹介する映画は『関心領域』というタイトルで、これは5月24日から公開の映画なんですけれども。『関心領域』っていうのは、その自分はこれにしか関心がないというその領域以外のものは何も聞こえないし気にならないというね、事を意味してますけど、この映画はね、おそらく国際長編映画賞は確実に獲ります。はい。で、それ以外も作品賞、監督賞、脚色賞、音響賞の5部門にノミネートされてるんですけども、まぁどういう映画かというと、ドイツ人のすごく金持ちそうな家族がですね、ずっと豪邸で、庭付きのすごい綺麗な豪邸で、ずっと優雅な生活をしているのを隠しカメラで撮り続けてるという映画です。
(石山蓮華)はぁ〜。はい。
(町山智浩)で、撮られてる方は全く演技もしてないし、カメラも動かないんです。ただこれ劇映画なんで、俳優達がやってるんですね、実際は。ただ本当に優雅に暮らしてるドイツ人の家族なんですけど、よ〜く聞くと、不思議な音が聞こえるんですよ。小さく。パンッとかドキューン!とかね。ギャーッ!!っていう声が聞こえたりするんですけども。
(石山蓮華)ちょっと物騒な。
(石山蓮華)物騒ですね。
優雅に暮らしてるドイツ人の家族、よく聞くと不思議な音が
(町山智浩)見ている人は何が起こってるんだろうって思うんですけど、その豪邸の綺麗なお庭には有刺鉄線が付いてる高い壁があるんですよ。一面に。かたっぽ側にね。で一体ここはどこなんだろう? 何の音が聞こえるんだろう?と思ってずっと見てると、この家族のお父さんとお母さんの会話から、そこがアウシュビッツだ。という事がわかるんですよ。ポーランドのアウシュビッツですね。第二次大戦の時にナチス・ドイツがユダヤ人を何百万人も殺した場所なんですよ。で、このお父さんとお母さんは一体誰だろうと思って見てると、お父さんが制服を着るんですね、軍服を。すると軍服の襟にドクロのマークが付いてるんですよ。ナチスの親衛隊なんですよ。で、会話の中から、そのお父さんがアウシュビッツの所長である事がわかるんですよ。
(石山蓮華)お〜隣に住んでるんですね。
ナチス・ドイツがユダヤ人を何百万人も殺した場所
(町山智浩)隣に住んでたんですよ。ねー!壁1枚隔てて隣に住んでて。この映画ねただね、その壁の向こう側、収容所側は一切映さないんです。一瞬だけ映すシーンがあるんだけど、それも、所長ヘスっていう所長なんですけども、ルドルフ・ヘスという所長の顔しか映さないんですよ。壁の中に入った時は。それ以外はずーっと、このお屋敷の中だけを撮り続けるんですよ。
(石山蓮華)なんかこう、タイトルの『関心領域』っていうのがすごくゾクッと来ますね。
(町山智浩)そうなんです。その家族は、壁の向こう側で何が起こってるかっていう事にほとんど関心がないんですよ。
(でか美ちゃん)そっか。
(町山智浩)だから最初はわからないんですけど、途中でこのお父さんがね、所長がね、何か設計図を見てるんですよ。それはよく見ると、焼却炉なんですよ。
(でか美ちゃん)うわぁ。。
(町山智浩)で、その後にその壁の向こうの煙突から、黒い煙がもくもく見えるんですね。まぁユダヤ人を虐殺して、どんどん焼却してるんですよね。であとこの奥さんね、ヘス所長の奥さん。あ、この人演じるのはね、『落下の解剖学』って前紹介しましたが、あれでお母さんの役をやっていた、ザンドラ・ヒュラーさんです。
(石山蓮華)あぁそうなんですね。キリッとした。えぇ。
(町山智浩)あのお母さんは結構見てる人の共感を呼ぶ、非常にエモーショナルなお母さんでしたけど。こっちのね、ヘス所長の奥さん役はね、もう何というかですね。例えばね、すごい素敵なね毛皮のコートを着てね。あ、これ素敵ね〜とか言って、鏡の前でなんかこうポーズを取ったりするシーンがあるんですよ。その毛皮のコート誰のだよって話ですよ。
(石山蓮華)うわぁ〜。。
(町山智浩)ユダヤ系の人達はナチスが政権を取る前は結構お金持ちの人とかもいて。それで着の身着のままで収容所に入れられたんですけども、結構ちゃんと自分の大事な宝石とか、毛皮とか持ってきた人がいっぱいいた訳ですよね。・・全部取っちゃったんですよね。殺す前にね。で、こうやって着てるんですよこの人。奥さん。きつい役だなって思いましたけども。
(石山蓮華)たしかに。
(町山智浩)本当にねぇ。はい。
(でか美ちゃん)普通の感覚で言ったら、父親が所長で隣に住んでて。気にならない訳がないだろうって今の自分とか今の時代だと思っちゃうけど。いや〜。
(石山蓮華)ただその、今起こってる色んな戦争に対して、自分がどれぐらいのこう関心を持ってどんな行動に繋げられているのかっていう事を、何もやってない訳ではないとは言いたいけど、でも。できてない事もすごくたくさんあるなって毎日こう考える中で、その関心領域は、私の関心領域はどこなんだろうっていうのをこの、ね。
(でか美ちゃん)ね。この解説を聞くだけでも、すごく。
(石山蓮華)すごい考えるべき映画だなと思いますね。
関心領域以外の事が入ってこないSNS時代
(町山智浩)今テレビ見てない人とかテレビを持ってない人とか多いですよね。若い人達でね。で、ネットで自分の好きなインスタとかだけを見てると、たぶん戦争で何が起こって、今どのくらいの人が殺されてるかとか全然わかんないと思いますよ。
(石山蓮華)そのやり方も本当にひどいなっていうのを思うし、今止めてほしいなっていうのをすごく思うんですけどね。
(町山智浩)そうなんですけど。ニュースサイトを見たり、あとはSNS見ても、関心のあるものしかSNSって送ってこないようになってますから。
(でか美ちゃん)そうですね。
(町山智浩)”関心領域”しか、送ってこない訳ですよ。だから、世界の情勢とか戦争に興味ない人のとこには一切そういうニュースが届かない世の中になっているんですよ現在。だからまさに壁の中にいる状態に近い。壁の中じゃないか、壁越しになっちゃってるんですよね。向こう側見えないんですね。でね、この映画がまた1つ面白いのはこのヘス所長って実在の人物なんですけども、すごく気が弱そうなんですよ。で、細い声でしゃべってて、奥さんの方が強くて。奥さんはね、ここの家はね本当に私の夢なのよと。綺麗な庭があって。優雅な生活ができて、本当にここが好きなの!とか言ったりすんですけど、大丈夫かおい!とか思うんですけど。
(でか美ちゃん)怖いな〜。
(石山蓮華)見えてるとこだけを切り取れば、本当に理想の、なんか、芝生が綺麗で花があって、大きな犬がいてみたいな。
最も恐ろしいのは・・
(町山智浩)しかも最も恐ろしいのは、ナチス・ドイツは最終的に・・こういう収容所がヨーロッパ中にたくさんあったんですね。たくさんあったんですけども、その収容所に入れてたユダヤ人達をどうするかって事を決めてなかったんですけども、最終的に全部皆殺しにする事に決めたんですね。この映画は、その前に始まってて、最も恐ろしい事っていうのはこの映画の中で、あるキッカケで起こるんですけども、まぁちょっと見ていただきたいなと。えっ!そういう事で皆殺しにしちゃうの?って。
(石山蓮華)覚悟がいるけど、見なくちゃいけないな〜。
(町山智浩)一切でも残酷シーンは出てこない。画面には。だからこの映画はなんにもナチスがやった事について知らないと、何が起こってるか全くわからないです。
(でか美ちゃん)何の知識もなしに、あなんか、たぶんアカデミー賞獲るだろうって事で、アカデミー賞獲ったんだ!見に行こう〜で見に行っても、な〜んか静かな映画だなみたいな感じになっちゃうかもしんないですよね。
(町山智浩)わからないですよ。だって一切残酷シーンはないし、例えばある、この主人公達の子供が、ある物で遊んでるんですけどベッドの上で。その物が何だかもたぶん、前提となる知識がないとわからないんですよ。この人達家族は川で遊ぶんですけど川で遊んでる時に、川である物を拾ってビックリするんですけども、それもその川で何をしてたかを知らないとわからないんですよ。
(でか美ちゃん)でも『関心領域』をそれこそ、ね。自分が狭いかもって思ったら、こう広げた上でやっぱ見に行かないと。
(町山智浩)そうなんですよね。で、この映画の作った制作者達は、映画賞を獲ってるんですけど、各地で。その受賞の時に言ったのは、今これは、イスラエルのガザで起こってる事ですと言ってます、はっきり。
(石山蓮華)うんうん。そうですね。
(町山智浩)今、ガザでは本当に壁の中で閉じ込められたパレスチナの人達が、イスラエル軍に殺されてる状態なんで。その歴史的皮肉ね。この時はユダヤの人達が壁の内側で殺されてたのに。だからもう、本当に今見なきゃなんない映画がこの『関心領域』ですね。はい。
■後日談
(石山蓮華)『関心領域』が10日に、先行上映っていうのが1日あって。
(町山智浩)おぉ、そうなんですか。
(石山蓮華)そのタイミングで私ちょうど見られたので見てきたんですけど。いや、本当にこう怖い映画でした。なんか、あの〜・・そうですね、その。アウシュビッツの隣にあるお家の、豪邸の中の話なんですけど、この無関心が何よりもこう恐ろしくて、強い大きい力を持ってるんだなっていうのをこう本当に自分の中からその気づきをこうグッと掴んで引っ張り出してくれるような、映画としては本当にこう力強い、淡々としてる不思議な感じもあるけど、いい映画でした。
(町山智浩)今回あのアカデミー賞でね、音響賞取ったんですよ。『関心領域』が。それは映画の最初のとこでびっくりすると思うんですけど。
(石山蓮華)びっくりしましたね。
(町山智浩)ヴヴヴヴヴヴヴっていう音がずっと続いてるんですよ。何、この音って思うんですけど、映画が始まってからもしばらくこの音が聞こえてて、あちこちで。あれは、ユダヤ人の人を殺した後に焼却する焼却炉の音だっていう事が途中でわかるんですけど。あれ音の映画なんですよね。
(石山蓮華)本当にでもその音が、色んな音が聞こえるんですけど。見終わった後全く頭から離れずに、ちょっと胃が痛くなりました。
(町山智浩)音ってすごくこう強く出してね、印象付けるものなんですけど、あの『関心領域』っていうのは低くずっと流れてるとか、ちっちゃく聞こえるんですよ子供の声とかが。ちっちゃい音で恐怖を表現するというね、普通と逆の事をやってて。だから珍しいよ、音がちっちゃいって事で音響賞を獲るというね、非常に珍しい映画になってましたね。
※書き起こし終わり
○○に入る言葉のこたえ
⑧残酷シーンは一切ない