ロボット・ドリームズの町山智浩さんの解説レビュー
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映画評論家の町山智浩さんがTBSラジオ『こねくと』(https://www.tbsradio.jp/cnt/)で、『ロボット・ドリームズ』のネタバレなし解説を紹介されていましたので書き起こしします。
映画視聴前の前情報として、また、映画を見た後の解説や考察レビューとして是非ご参考ください。
町山さん『ロボット・ドリームズ』解説レビューの概要
①スペイン製のアニメ映画で、テーマ曲は「September」
②アカデミー賞の長編アニメーション賞の作品賞候補
③○○○がないので、どのようにも見れる
④1980年代のニューヨークを完璧に再現
⑤ニューヨークの街はこうしてカルチャーの街になった
⑥ワンちゃんがロボットを飼うことに
⑦ある事件が起きてこの2人は離れ離れに
⑧この映画を見た後にSeptember聞くと切ない気持ちになる
※○○の中に入る文章は、この記事の1番最後で公開しています。
TBSラジオたまむすびでラジオ音源を聞いて頂くか、書き起こし全文をご覧頂くか、この記事の1番最後を見て頂く事で判明します。
『ロボット・ドリームズ』町山さんの評価とは
(町山智浩)今日はですね本当にもう優しくてほのぼのとしてですね、本当にね心洗われる映画です。11月8日金曜日から日本公開になります、『ロボット・ドリームズ』というアニメ映画ですね。ちょっと音楽を聞いていただけますか?
(石山蓮華)これはずっと踊っちゃいますね
(でか美ちゃん)ずっと踊っちゃう。
(町山智浩)いい歌なんでね。ご存知ですかこの歌は。
(石山蓮華)もちろんでございます。
(町山智浩)そうですか。これはEarth, Wind & Fireというね、アメリカのファンクバンドのSeptemberという1978年かなのヒット曲なんですが、これがこの『ロボット・ドリームズ』というスペイン製のアニメ映画のテーマ曲です。本当にね、本当に楽しい曲なんですけど。この『ロボット・ドリームズ』というのは、アニメ映画なんですが、いわゆる日本のアニメってものすごく絵とかまぁ再現度がものすごく高度になってしまったんで、この『ロボット・ドリームズ』の絵を見ると、なんだこりゃ?と思う人も多いと思うんですよ。このロボットってこれブリキのおもちゃみたいなロボットですよ。
(石山蓮華)なんか絵本みたいな素朴な感じですね。
(町山智浩)昔はロボットってこんなもんだったんですけど。
(でか美ちゃん)確かに最近のロボットって全然こんなじゃないですね。
(町山智浩)ものすごい線が多いですよね。描くのが大変なんですけど。これはもう鉄人28号よりもね。鉄人28号って言ってもわからないと思いますが。
(石山蓮華)わかります!(笑)
(町山智浩)わかります?
(でか美ちゃん)まさにでもオモチャって言うかね、ロボットと言えばこういう。
(町山智浩)幼稚園児が描くロボットですね。のロボットと、隣にいるのはワンちゃんですね。の2人の愛の物語なんですよ。これね、今年のアカデミー賞の長編アニメーション賞の作品賞候補になった本当に傑作なんですけど、これワンちゃんがね1人暮らしなんですよ。ワンちゃんって言っても殆ど人間のように暮らしてるんですけど。
アカデミー賞の長編アニメーション賞の作品賞候補
(でか美ちゃん)二足歩行でね。
(町山智浩)二足歩行でそう。アニメだからね、これねセリフとか全然ない映画なんですよ。ただね、なんでも、もう本当に心が伝わってくるような素晴らしい映画なんですが、1人暮らししててアパートにね。でまぁテレビゲームをやっても、やる相手がいないから、1人で両方のコントローラーを持って戦ってるみたいな、まぁかなり悲惨な状況なんですね。
(石山蓮華)寂しいですね。
(町山智浩)寂しいんですよ。でね、棚見ると、ジグソーパズルがいっぱい棚に入ってるんですよ。それが1000ピースとか2000ピースとかのがたくさんあって、よっぽど友達いねぇなってやつなんですけど。(笑)で、あまりにも寂しくて辛いから、通販でロボットを買うんですよ。で組み立てて2人で暮らすんですけど、2人が、なんて言うのかな?友人になる?愛し合う? ちょっと分からないですね。っていうのは、セリフがないので。声が聞こえないから、このワンちゃんが男か女かわからないんです。でロボットももちろん男か女かわからないんですが。だからね、どのようにも見れるんですよ。
(石山蓮華)なるほど。
セリフがないので、どのようにも見れる
(町山智浩)ワンちゃんが女性で、ロボットが男性とかね。ロボットが・・その逆も見れるし。また両方とも女性としても見れるし、両方とも男性でもいいし。だからあらゆる人がこの『ロボット・ドリームズ』には感情移入できると思います。ただ、最も感情移入できるのは僕だと思います!
(でか美ちゃん)えっなんでですか?
(石山蓮華)どうしてですか?
(町山智浩)監督がね、パブロ・ベルヘルという人なんですが、1963年生まれなんですよ。で、この人が実はニューヨークで暮らした時の思い出を元にしていて、で、これワンちゃんとロボットが出てきて、それ以外のニューヨークに住んでる人達が全部、犬とかだけじゃなくて色んな動物なんですね、スカンクとか。でも全て、その当時の1980年代のニューヨークを完璧に再現してるんです。で、僕と同じ世代だから、なんというか大学に行った頃。監督はねスペイン人なんですけど、大学で留学してたんですねニューヨークに。で10年ぐらい暮らして、90年代ぐらいまで。で、僕もニューヨークに初めて行ったのが90年代だし、その頃のニューヨークの感じがものすごいリアルに出てるんですよ。どのくらいリアルに出てるかっていうと、このワンちゃんが、お役所に行って自分の住所を書くシーンがあるんですね。その住所をGoogleで検索すると、このワンちゃんが実際にこのアニメの中で住んでるアパートが出てきます。
(石山蓮華)今でもそれあるって事ですか?
1980年代のニューヨークを完璧に再現
(町山智浩)今でもあるんです。で、そこは実際に住んでたアパートなんですよ。そこまで忠実にやってどうするのって思うんですけど。でね、色んな動物はいるんですが、出てくる商品名は、全部実在する商品なんです。例えばアメを舐めるとチュッパチャップスなんですよ。それだけじゃなくて色んなジュースを買ったりとか冷凍食品を作ったりするんですけど全部実在の物で、それこそ僕がアメリカ住み始めた時に使ってたお世話になっていたものばっかりなんですよ。で、また音楽とかもそのレコードがチラチラっと見えるんですね、そのワンちゃんの家の。
コレクションが。すると、セックス・ピストルズみたいなものあるわけですよ、R.E.M.とか。その頃のものがね。世代が同じだから、持ってるものとか趣味とか同じなんで、すごいビンビンくるんですよこれを見てると。
(石山蓮華)懐かしさが止まらないですね。
(町山智浩)すごいんです。でね、色んな動物がいるんですけど、それはニューヨークって色んな人種の人がいるからそれを表現してるっていう事でもあるんですけども、実はその1980年代から1990年代にかけてこの『ロボット・ドリームズ』の舞台になるニューヨークっていうのは、ニューヨークが1番良かった時代なんですよ。っていうのは、ニューヨークって1970年代にものすごく荒廃して、犯罪都市って言われるぐらいもう非常に危険になるんですね。で、もう町中が荒れ放題で強盗をされたりね、してもう歩けないぐらいひどかったんですよ1970年代は。だからみんな逃げちゃったんですね郊外に。で、殆ど空き家になっちゃったんですよニューヨークって。で、そこにめちゃくちゃ安かったんでアーティストの人達ね、ミュージシャンとか絵描きとか漫画家とかね。コメディアンとか、そういう人達がみんな住んだんですよ。で、ニューヨークは80年代、90年代にものすごく面白いカルチャーの町になるんですよ。1番わかりやすいのは、ヒップホップはそこから生まれたんですよ。
ニューヨークの街はこうしてカルチャーの街になった
(でか美ちゃん)そうか元々安く住めるからそういう志を持った人達が集まって、そこから治安が安定してってっていう。そりゃそうかっていう歴史の流れがあるんですね。突然カルチャーの街はやっぱ生まれる訳じゃないんだやっぱり。
(町山智浩)そうなんです。安かったらからです。それでだからヒップホップとかラップとかもそうだし、パンクロックも出てきたし。あとあれですね、グラフィティアート。落書きアートですね。落書きをやってる人達がそのままアーティストになっていくと。ゲーリー・パンターとかですね、キース・ヘリングとかそういった人達がいて。今なんかすごくTシャツとかでまた復活してるみたいですけどキース・ヘリングとか。その頃、そこから出てきたんですよ。
(石山蓮華)そうなんだ。じゃぁアートの歴史をたどるような感覚でも見られそうですね。
(町山智浩)そうなんです。だからその頃の事を知ってる人だと画面にいっぱい落書きとか出てきて、あ、キース・ヘリングの落書きだとかすぐにわかると思います。もうそこら中ポスターがいっぱい貼ってあるんですけど、クラッシュのライブのポスターとかラモーンズのライブのポスターとかが出てくるんで、あぁあの時代だ!ってわかる人はかなりわかると思うんですけど。それだけじゃなくてね、もう1つ僕がすごく、あぁ!と思ったのは、このロボットと同棲する訳ですねこのワンちゃんが。で、ビデオを借りてくるんですレンタルビデオ。それにキムズビデオっていう近所のレンタル店の名前が書いてあるんですよ。それ僕行ってたですよ!
(石山蓮華)わ〜〜それはテンション上がっちゃいますね!
(町山智浩)あぁキムズビデオだ!ってね。で、中原昌也くんっていうノイズアーティストがいるんですけどね。彼がニューヨークに来た時も一緒に行きましたよ。そこでね、『クレクレタコラ』のVHSレンタルを見つけたんですよ。
(石山蓮華)クレクレタコラーですか?すごい懐かしい。
(町山智浩)こんなものある訳ない!これは何なんだ?つって海賊版なんですよどう考えても。でだいぶ経ってからね、Dommuneの宇川直宏くんが勝手に作った海賊版だった事がわかって。
(石山蓮華)つながってるんですね。
(町山智浩)そういうヘンテコな店だったんですよ、キムズビデオって。で僕映画秘宝っていうね、ヘンテコな映画ばっかりを紹介する映画雑誌を創刊したんですけど、そのカルチャーって、キムズビデオから出てきたんですよ元々は。
(石山蓮華)ニューヨークのビデオ屋さんから。
(町山智浩)はい。もうないんですけどね。そこは要するに、売っちゃいけないようなものをいっぱい売ってて、とんでもなかったんですけど。この監督パブロ・ベルヘルはそこでバイトしてたんですよ!というね、ものすごいニアミスしたんじゃないかと思うような人なんですよこの人。
(石山蓮華)繋がってますね。
(でか美ちゃん)全然街ですれ違ってるかもっていうね。
(町山智浩)すれ違ってるかね、俺この人から買ってんじゃねぇかなって思ってビデオ。(笑)
(石山蓮華)ほんとですね。
(町山智浩)っていうところでね、すごくビンビン来たんですが。でもそうじゃない人でもやっぱりこのね映画は本当にセリフなしで心にガンガン来る映画で。このロボットとワンちゃんがね、セントラルパークでデートするんですよ。それでさっきの『September』で踊りながらデートしてね、海水浴に行ったりするんですけど、ある事件が起きてこの2人は離れ離れになっちゃうんですよ。
ある事件が起きてこの2人は離れ離れに
(でか美ちゃん)えーなに。。
(町山智浩)それ言えないんですけど。で2度と会えなくなっちゃうんですよ。
(石山蓮華)えーちょっと!犬で2度と会えないって本当に私聞いてるだけでキュッてなる。。
(町山智浩)そうでしょ?で、2人が互いの事を思いながら、色んな夢を見るんですよ。再会するための。だから『ロボット・ドリームズ』っていうタイトルなんですね。でね、それがまた切ない、何度も何度も切ない事が繰り返されてくんですよ。これでもかってぐらい続くんですけど。でもこれね、セリフがないからね。かえってその心を伝えるって事を徹底的にやってるんですよ。これはね、まぁあんまりアレなんですけど、言いにくいんですが。前に紹介した『パスト ライブス/再会』っていう映画があるんですけど。韓国で一緒に暮らして、それこそ将来を誓い合った男の子と女の子が、女の子だけニューヨークに親の都合で来てね、でそこで結婚して、それからそのイケメンの彼が韓国からやってくるって映画がありましたが。あれにちょっと近い感じです。
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(石山蓮華)せつないぞこれは。でも面白そうですね。
(町山智浩)すっげぇ切ない映画でね、うわーっと思ってね。これ監督自身がね、ニューヨークに住んでてなかなか友達とか彼女ができなくて。色んな別れを繰り返したり、出会いと別れを繰り返したりした経験から作ったって言ってるんですけど。で、やっぱりね寂しいからね、スキーツアーに行ったりするシーンがあるんですよ。で、スキーツアーに行けば彼女ができるんじゃないかとかさ、80年代ってそういうノリだったんですよ。
(石山蓮華)スキーに連れてってって事ですね。
(町山智浩)そうそう。ユーミンの曲を聞いたりね。で、その時に彼女ができなかった時の辛さ、みたいなね。(笑)そういうとこをガンガン攻めてくるんでね。これね、アニメですけど、こういうかわいい子供の絵本みたいな絵ですけど、もう本当にそれこそティーンエイジャーから60、70歳ぐらいの人までね、もう誰でも本当に感動する映画だと思いますよ。誰でもあった事だと思いますねそれぞれね。まぁあんまり僕はなかったりするんだけど。(笑)
(でか美ちゃん)あぁそうなんですか。
(町山智浩)俺カミさんと40年一緒にいるんですよ。
(石山蓮華)昨日はどうやってお誕生日をお祝いされたんですか?
(町山智浩)それはレストランでね、ごはんを食べて。1人暮らしを俺した事がない。。
(でか美ちゃん)あら素敵。じゃぁワンちゃんと真逆の。
(町山智浩)だから申し訳ないんですけどね、見てて。
(でか美ちゃん)別にパートナーがいても孤独はあるしねとか思いますけど。
(町山智浩)俺の周り大変ですよ、みんな熟年離婚しそうでね。家庭内別居状態になってたりとかで結構みんな大変なんですけどね。今名前出しそうになりましたけどね。(笑)
(石山蓮華)それはやめてください。(笑)
(町山智浩)でか美ちゃんも知ってる人ですよ!はい!
(でか美ちゃん)やめてやめて。(笑)でもね友達のパートナー側はねすげぇスッキリした顔とかしてんすよね、ほんでね。自分の友達はへこんでるんだけど、向こう側はすげぇスッキリしてるとか見るとなかなかなんとも言えない。
(町山智浩)なんとも言えないですね。そういうねちょっと大人の映画ですよこれは。この『ロボット・ドリームズ』。
(石山蓮華)楽しみですね。
(でか美ちゃん)なんか時代背景とかは私達の世代とはやっぱちょっと違いますけど、でもそういう孤独感とか1人で寂しいとか、あとロボット飼うとかって別に観葉植物に話しかけるとかの延長線上にあると思うんですよ。
(町山智浩)わっやばい。
(でか美ちゃん)私も1人暮らしの時まぁまぁデカイぬいぐるみに結構話しかけてて。
(町山智浩)わぁ、ぬい活だ!
(でか美ちゃん)ぬい活。ぬい活とかが出る前から、やっぱりこう何かを誰かに共有したいけど、誰もいないから・・とかやってた経験あるんで。
(町山智浩)わぁ。。
(でか美ちゃん)なんなんだろう親和性高いのかな、パズルゲームやってたんですよその時。
(石山蓮華)人はというか犬も寂しいとパズルをやるんですかね。
(町山智浩)やるんですね。
(でか美ちゃん)時間溶けるのよ都合よく。
(町山智浩)まだねファミコンが出てくる直前の時代なんですよ。ファミコンは85年ぐらいからアメリカで出てくるんでね、その前後なんですけども。でもこの映画ね最後にもう1回Septemberがかかるんですよ。さっきの非常にノリノリの楽しい曲なんですけど。あれ、Septemberっていう曲は、最初は楽しい曲だなと思ってるんですけど歌詞をよく聞くと、覚えてるかい?9月に僕達は愛し合ってたよねと。僕達は一緒に踊ったよねって言ってるんですけど、これ全部過去形なんですよ。
(でか美ちゃん)おお〜そうなんだ。
(石山蓮華)もう私の情緒が揺れ始める。
(町山智浩)よく聞くとね、覚えてる?あの9月に僕達はって言ってるんで、じゃぁ今はどうなの?っていう事なんですよ。
(でか美ちゃん)わざわざSeptemberってタイトルにするって事はよっぽど心に残ってるって事ですもんねその出来事。。
(町山智浩)そうなんです、この映画ロボットとワンちゃんが9月に最高に盛り上がるんですけど、9月に別れちゃうんですね。
(石山蓮華)え!ちょっとちょっと〜!
(町山智浩)だからね、この映画を見た後にSeptember聞くと、今まで楽しかったのにすごい切ない気持ちになっちゃいますね、これからは。はい。
※書き起こし終わり
○○に入る言葉のこたえ
③セリフがないので、どのようにも見れる