Black Box Diariesの町山智浩さんの解説レビュー
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映画評論家の町山智浩さんがTBSラジオ『こねくと』(https://www.tbsradio.jp/cnt/)で、『ブラック・ボックス・ダイアリーズ(Black Box Diaries)』のネタバレなし解説を紹介されていましたので書き起こしします。
映画視聴前の前情報として、また、映画を見た後の解説や考察レビューとして是非ご参考ください。
町山さん『ブラック・ボックス・ダイアリーズ(Black Box Diaries)』解説レビューの概要
①伊藤詩織さんというジャーナリストが監督
②2015年に監督自身が遭った性被害の民事裁判に寄り添った形で撮られたドキュメンタリー
③レイプ被害者自身が記録し映画として完成させたのは映画史上初では
④ブラック・ボックス・ダイアリーズは日本で公開される予定がない
⑤作中には山口敬之が無理やり引きずり出す映像も
⑥法律が変わる前だった為、○○が成立しなかった
⑦日本公開が難しい理由
※○○の中に入る文章は、この記事の1番最後で公開しています。
TBSラジオたまむすびでラジオ音源を聞いて頂くか、書き起こし全文をご覧頂くか、この記事の1番最後を見て頂く事で判明します。
『ブラック・ボックス・ダイアリーズ(Black Box Diaries)』日本公開は
(町山智浩)それがね、『小学校』という映画で。すぐ見れるんすけど短編で20分なんでね、ぜひ見ていただきたいんですが。同じ山崎エマさんがもう1本の映画の方ではプロデュースと編集をしてるんですね。その映画が、長編ドキュメンタリー賞にノミネートされてて、おそらく獲るだろうと僕は思ってるんですけども、これが伊藤詩織監督の『ブラック・ボックス・ダイアリーズ』という映画なんですが、ちょっと音楽をお願いします。
(町山智浩)ディスコの名曲なんですけども、グロリア・ゲイナーの『I Will Survive』、日本タイトル『恋のサバイバル』という曲がですね、この『ブラック・ボックス・ダイアリーズ』のテーマソングとして使われてまして。この歌はですね、最初にそれが起こった時、私は凍りついてもう死んでしまおうと思ったっていうところから始まるんですよ。でもそれでもやっぱり生きてかなきゃいけないのっていう歌がこれなんですが。この映画はですね、2015年にこの伊藤詩織さんというジャーナリストが、TBSテレビのプロデューサーにレイプされまして。それを、民事訴訟で損害賠償を訴えたという件があって、それの民事裁判に寄り添った形で撮られたドキュメンタリーなんですね。この映画が僕は、非常にアカデミー賞を獲るんじゃないかと思ってるのは、これね。性被害。特にそのレイプを実際にされてしまった女性が自分自身でそれを記録して映画として完成させたというのはたぶん映画史上ないと思います。
(石山蓮華)ほんとにその伊藤詩織さんの勇気というか行動には本当にこう、やっぱり日本の社会を変える力を感じてますし、すごく見たい映画だなと思っています。
(町山智浩)はい。ただ日本では公開される予定がありません。
(でか美ちゃん)そうですよね。
ブラック・ボックス・ダイアリーズは日本で公開される予定がない
(町山智浩)これは色んな事で大問題になってるんですけどもアメリカでは既に配信されていて、みんな見れるんですけれども。日本ではいまだ公開する事ができない状態になっていると。いう事です。でその辺を詳しく説明したいんですけど、ちょっと僕言うの、事前に言うの忘れたんですが、これはまぁ強烈な性加害の現実を描いているので、そういった問題を聞きたくないという人は、ちょっとラジオはつけたまま、ちょっとどこかにご飯を食べに行ったりとかした方がいいと思うんですけれども。
(石山蓮華)そうですね、1回ボリュームを変えるとか、ちょっと。。そうですね離れて、また20分後くらいに戻ってきて頂けたらちょうどいいかなと。
(町山智浩)で、この映画の頭にもそういう警告文が出ます。伊藤詩織監督自身の声と、手書きの彼女の警告文が最初に出るんですけれども。最初に川に桜の花びらが流れてるところから始まるんですよ。それは彼女が被害に遭ったのが4月だったんですね4月の初めだったんですよ。だから桜が満開だったので、もう彼女は桜を見る事もできなくなっちゃうんですよ。
で、この映画の非常に問題になっている部分と、この映画を見なければならない理由というのがありまして。要するに彼女は、最初、刑事さんに訴えて、警察に届けてですね。事件の証拠をね。その犯人に対して逮捕状が出て逮捕寸前までいったんですけども、途中で上の方からやめろと言われて逮捕ができなくなって、起訴もされなくなってしまったと。で彼女は仕方なく民事で訴えるという形で表に出た訳ですけども、その後もですね、嘘つきだとか売名行為だとかいう非常に激しい攻撃がされて、で犯人の方も、加害者の方も同意があったという風にですね反論をして裁判になった訳ですが。この作品が決定的なのは、彼女に全く意識がなかった事がわかる映像が使われています。これは裁判で証拠として採用された、証拠として提出された映像なんですけども、加害者のホテルにですねタクシーが止まって、ホテルの入口の監視カメラが撮影したもので、立つ事もできないこの伊藤さんを、これ名前出した方がいいですね、山口敬之が無理やり引きずり出す映像がちゃんと入ってます。
作中には山口敬之が無理やり引きずり出す映像も
で、これは本当に決定的なものだと思います。もう1つは、タクシーの運転手さんに後からインタビューをして、その時に乗せたタクシーの運転手さんの証言が入っています。それは、どこに行きますか?と言って、そうするとその山口敬之がホテルへと言ったら、その伊藤詩織さんが、いや、どこかの駅に降ろしてくださいと。言って、ホテルに行くのを非常にはっきりと拒否してる、それを繰り返していたという風にタクシーの運転手さんが証言している映像が入っています。
そこから始まるんで、決定的な同意がなかった。事の証拠なんですよ。ところが、この2つの映像が非常に問題になって、今回日本公開が非常にできない状態になっています。という事なんですね。
で、もう1つはですね、この最初、伊藤詩織さんが警察に届けた後、その担当した刑事の人が、あ、そうそう、この映画のタイトル『ブラック・ボックス・ダイアリーズ』ってなってるんですけど、”ブラックボックス”っていうのはその刑事さんが言った言葉なんですね。
それは、あなたは加害者とお酒を飲んでて、そのお店で記憶を失ってしまったと。で気がついたら被害に遭ってたと。そうするともう、何があったかという事に関してはわからないと。だからブラックボックスなんですよって言われたと。で非常に難しいと。これはですね、法律が実は変わったんですよ。で不起訴処分になってしまって、その後の検察の審議会でも不起訴適当という風にされてしまったんですけど、これ当時は同意がない行為であっても、被害者が徹底的に抵抗しない限りは強姦として認められなかったんですね。
でこれその後、法律変わりましたね。これは伊藤詩織さんの力も大きかったと思うんですよ。ただこの時はそうじゃないんで、要するに意識を失っていたんで。なんで意識を失っていたかに関しては非常に議論を呼んでるとこなんですけど。伊藤さんは、デートレイプ剤を飲まされたんじゃないかという風に疑ったんですが裁判ではそれは認められなかったんですね。ただまぁ意識を失ってたんで、そうすると抵抗してないから、強姦が成立しなかったんですよ。
強姦が成立しなかった
(でか美ちゃん)抵抗ができない状態にしてるのに、抵抗ができないから成立しませんっていうもうめちゃくちゃですよね、被害者からしたら。
(町山智浩)めちゃくちゃなんです。今は違うんですね、同意がなければダメなんで、これダメなんですけど。これですね、それでもね警察は逮捕してくれようとしたんですよ。まぁ容疑者ですね、加害者を逮捕しようとして逮捕状まで出て、逮捕直前まで行ったんですけどストップがかかったと。それに関しては最初わからなかったんですね、どうして逮捕されなかったのか。したら、その刑事さんが担当を外されてしまって、何者かの力によって。ところが、非常にひどい事になったと思って、個人的に伊藤さんに同情して電話をかけてきてるんですよ。で、そこで、実は上の方からストップがかかったんですとはっきり言ってる電話をかけている映像もこの映画の中にはあります。もうすごいんですよ、証拠がはっきりといくつもいくつもあって。で、どうしてストップがかかったかというと、その加害者、山口敬之がその当時の総理大臣、安倍晋三に最も近い男と言われていたので。そこを通して圧力がかかったのではないかという事で国会でも質問がありました。というまぁ大変な事件なんですね。
つまりもう国家全体を巻き込んでいる事件なんですけれども。で、ただ、そういう風に聞いていくと、この1つの事件を中心とした、この伊藤詩織さんの戦いの映画なんだと。いう風にまぁ思えるかもしれないんですけど、これはダイアリーなんですよ。
(石山蓮華)日記って事ですか?
(町山智浩)日記なんです。で、伊藤さんは記者会見でも非常に毅然とした態度で、それこそ、涙を見せたり、うわずったり、感情的になる事なく、非常にはっきりと事実関係を表明するという記者会見を行ったんですね。その時、どうなったかっていうと、被害者らしくないって言われたんですよ。
(石山蓮華)本当に最悪ですよね。マジで最悪!
被害者らしい態度を求められる
(町山智浩)被害者だったらもっと泣いてるはずだろうと。表になんか出てこれる訳ないじゃないかと。
(でか美ちゃん)泣いてたら泣いてたでヒステリックとか言うんですけどね、そういう人は。
(町山智浩)言うんですよ。ある種なんていうか非常に事務的というか淡々と記者会見を行ったり、常にその伊藤詩織さんはシャキッとした態度で表には出てるんですね。その度に、あんなの被害者な訳ないよと。被害者だったら泣いてるはずだって言われ続けたんですけど、この映画はダイアリーなんで。彼女が自分の自宅でスマホで自撮りして、1人っきりで撮影してる映像がたくさん出てくるんです。今日何があったって話をしてるんです。泣いてますよ。
(でか美ちゃん)そりゃそうですよね。
(町山智浩)決して見せなかったんですよそれを表では。でもそれはこの映画の中でわかります。あとね、彼女はご両親からもね、こんな事したら恥ずかしいじゃないのやめなさいって言われるんですよ。
(でか美ちゃん)あー・・。そうか、まぁ1番味方してほしいですけどね。
(町山智浩)そうなんですよ。本当に孤立無援で戦っていく感じなんですね。で、彼女を応援してるっていう人達も出てくるんですけど、そうすると今度は、これね彼女がいないところでカメラ回ってて。あの人が強姦された人よとか言われるんですよ。
(でか美ちゃん)ひーどいな。
(石山蓮華)それはもう、セカンドレイプ発言ですよね。
(でか美ちゃん)というか、好奇の目に晒されちゃうというね。
(町山智浩)でも、それを言ったおばさんは全然なんていうか悪気がなくて、非難しているというよりは、ただのゴシップっぽく言ってるんですね。かわいそうねっていうぐらいの気持ちで言ってるんです。
(でか美ちゃん)最低ですけど、代名詞的な感じで使っちゃってたんですね、たぶんすごいナチュラルに。
(町山智浩)そうなんです。でも伊藤さん自身はそうなる事を覚悟でやったんですね。ただ、覚悟はしててもやっぱり人間ですから。何度もくじけてね、何度も泣くシーンが出てきますけど、今まで絶対に見せなかった姿なんですよ。それを見せたらほら、喜ぶやつらがいるでしょう。
(でか美ちゃん)そうですね。
(町山智浩)実際に伊藤さんに対してね、色んな形で非常に攻撃してきた人達がいて、それに対しても全部訴訟を起こして戦ってるんですよね、伊藤さんは。これもね、すごい苦しい戦いだった事はこの映画を見るとよくわかるんですよ。で、これね、逆に笑うところもあります。
(でか美ちゃん)へ〜全然想像つかないけど。
(町山智浩)やっぱ生きてんだもん。ね、友達と笑ったりお酒を飲んだりするとこもありますよ。でもそうすると今度は、被害者のくせに笑ってるって言うやつがいるんだよな。
(石山蓮華)そのどういう事が起きても、人は人じゃないですか。だからその感情っていうのはあるし。笑う事だって泣く事だって怒る事だってあるし。それは、そうじゃない人と同じです。
(町山智浩)だからフジテレビのあの問題で被害を受けた人がね。
(でか美ちゃん)とされている方ですね。
被害者のくせに
(町山智浩)はい。がね、写真集出したっていうと、被害者のくせにって言ってる人がいて、全く同じ事が繰り返されてるんですけど、じゃぁ死ねばいいのかよって事になっちゃうんですよ。ふざけんなと思いますけど。ただ、1つこの映画が公開されない理由というのは、先ほど言った3つの非常に重要な証拠の映像に関して、これは裁判で使用するという事で借りたものなんですね。取ったものなんですよ。だからそれを映画に使ったっていう事で、伊藤詩織さんの弁護士であったり、一緒に戦ったんでその証拠映像を入手した人達ですね、これはちょっと困ると。で、もしこれがあると、今後こういった証拠映像を貸してもらえなくなってしまうと。
(でか美ちゃん)そうですよね。私も日本で公開されないんだ、見たかったけどなと思いながらこう情報を追ってた時に、この映像の許可を取っていなかったっていう情報に当たって、うーんこれはかなり私の感覚では厳しいなと思ったというか、それこそ外された警察の方とかは、なんか、伊藤さんに歩み寄る事、自分が管轄外になって歩み寄る事自体が、電話1本がものすごくその人の人生にとっては恐怖と戦いながらやった取材協力かもしれない中でなんで、なんかちょっと取材というものの根幹がどうなっちゃうんだろうって。もちろん私は伊藤さんのなんだろうな、寄り添いたい気持ちはあるんですけど。
日本公開が難しい理由
(町山智浩)これすごい難しい問題なんで、ここでハッキリ結論出す事ができないんで無理しなくていいですこれは。僕もすごく難しい問題だと思ってます。でも、この映像がなければこの映画は成立しないし、この映像がなければ、彼女はいつまでも叩かれ続けるんですよ。嘘だって言うやつがいるんですよ。だからこれは使わざるをえないんです。ただ、使う際にホテルの監視カメラとかはやっぱ許可出さないですよね。だからすごく難しい問題なんで、今ここで結論を出す事はできないんですよ。ただ、やはりこれは、なんというか加工してあるんですよ。結構。わからないように。限界まで加工をして、その妥協点を見つけ出して日本公開するしかないんだろうなと僕は思ってますけど。ただ、これほど叩かれてると。つまりもう、叩かれてるとかじゃないですよ、日本の国家権力が潰そうとした事ですからね。で、その国家権力の周りにいた人達が一斉に彼女を叩いてる訳ですよ。これと戦うにはそれこそ、こういった映像は絶対に必要なので。これ本当に難しい問題なんですけど、ただこれは、おそらくアカデミー賞を取るだろうと僕は思ってるんですよ。というのは今現在、アカデミー賞に投票する人の多くがアメリカ人ですよね。トランプ大統領は、実際に性加害で民事で、それを認められているんですよ。全く同じ件ですよ。伊藤詩織さんの件と。それが大統領になっちゃってるんですよ。しかもこないだ国防長官をね、要するに軍事とかを全部司って世界最大の軍隊であるアメリカ軍を指揮する国防長官に任命されたピート・ヘグセスという男は、人妻に薬を盛ってレイプをした事で警察に通報されている男です。しかも被害者と示談してるんです。それが国防長官ですよ?核ミサイル使うんですよ、この2人が。もうこれはどうしようもない世の中になってるんですよ今。だからたぶんアカデミー賞でも抗議するためにね、この映画、投票する人は多いんじゃないかなと僕は思ってるんですけど。非常に今大変な世の中になってますよ。アメリカも、日本も。
(石山蓮華)でもその中でも伊藤詩織さんが映画を撮って、この作品とかジャーナリズムの力で世界を変えようとしてるっていうのは、個人的にすごく勇気をもらいます。
(町山智浩)はい。実際だから彼女の告発がなければ、それこそその後の色んな告発も出てこなかったと思いますよ。
私もすいません、さっきのがトーン・ポリシングっぽく聞こえてたらちょっと嫌だなと思うんで一言いいたいんですけど、こういうやり方をとらざるを得なかくなったという事をちゃんと考えたいと思います。町山さんもおっしゃってましたけど。
(石山蓮華)映像の件。
(町山智浩)全くその通りですよ。これを出すしかない状態まで追い込まれたんだって事をちょっと考えてほしいなと思います。という事でまぁ日本公開を望みますね。日本公開のために何とかそういった問題もクリアして、日本公開してほしいと思います。
(石山蓮華)私もそう思います。
※書き起こし終わり
○○に入る言葉のこたえ
⑥法律が変わる前だった為、強姦が成立しなかった