アスの町山智浩さんの解説レビュー
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映画評論家の町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』(https://www.tbsradio.jp/tama954/)
で、ジョーダン・ピール監督の、世界中で公開されて2億ドル以上の大ヒットになっている『Us』(邦題:アス)のネタバレなし解説レビューを紹介されていましたので書き起こしします。
映画視聴前の前情報として、また、映画を見た後の解説や考察レビューとして是非ご参考ください。
町山さんアス『アス(Us)』解説レビューの概要
①ジョーダン・ピール監督が言うには、「とにかくこの映画は○○というものの怖さを描いているんだ」
②現在アメリカでは、富裕層上位1%がアメリカ全体の経済の富の○○%を独占している。
③世界規模で怒っている問題、格差社会を、この一つの家族の血みどろのホラーで描いていく
※○○の中に入る文章は、この記事の1番最後で公開しています。
TBSラジオたまむすびでラジオ音源を聞いて頂くか、書き起こし全文をご覧頂くか、この記事の1番最後を見て頂く事で判明します。
『アス(Us)』町山さんの評価とは
(町山智浩)
今日はですね、アメリカと、既に世界中で公開されて2億ドル以上の大ヒットになっている映画、『Us(アス)』という映画を紹介します。
(音楽)
♫♫♫
(赤江珠緒)
なんだこの曲・・。
(町山智浩)
はい。これがね、この『Us』(アス)っていう映画のテーマソングなんですよ。
これ何語で歌っているのか全然わからないんですよ。
(赤江珠緒)
確かにそうですね。
(町山智浩)
だからなんかすごい怖いんですよ。
(赤江珠緒)
なんかちょっと日本の童歌みたいにも聞こえるような。
『Us』(アス)のテーマソング
(町山智浩)
そうそうそう!
これ、「攻殻機動隊」っていうアニメの歌にすごく似てるんですよ。
あの、マキシマムザホルモンっていうバンドが時々、何語でもない歌を歌ってたりしますけども、なんかすごく不気味な感じなんですが。
この映画はですね、『Us』(アス)っていうのは「ゆーえす」と書きまして、英語で「私たち」ですね。
という意味なんですけれども、これは色んなホラーってかならず、なんていうか怪物が出てくるじゃないですか、モンスターが。ゾンビだったり、たとえば殺人鬼だったりね。
(赤江珠緒)
うんうん。
(町山智浩)
まあ、いろんなお化けが出てくるんですけども。
この映画で出てくる怪物は、ホラーなんですが、”私たち”なんですよ。
(赤江珠緒)
ん?私たち?
(町山智浩)
はい。どういう意味かはこれからご説明します、はい。
えっとこれ主人公はですね、女の人で30過ぎの女の人でアデレードという黒人女性です。
彼女は幸せな結婚をして、というかまぁ結構リッチな黒人家庭でですね、旦那さんもすごい優しい人で、子供もですね中学生の娘と小学生の息子がいて、幸せにリッチに暮らしているんですよ。
そのアデレードさんの家にですね、夜ですね、突然家の前に誰かが立っているんですよ。
(赤江珠緒)
うん。
(町山智浩)
で、それは、「だ、誰か4人ぐらい立ってるわ!家の前に・・!」って言うんですよ。
で、「誰なの?」って見てみると・・。覗き穴みたいのあるじゃないですか。
暗い中に家の前の街灯に照らされて立っているのは、「私たちよ!」って言うんですよ。
(赤江珠緒)
えっ?
(町山智浩)
そのアデレードさん一家と全く同じ顔をした、同じ姿をした4人家族が家の前に立っているんですよ。
(赤江珠緒)
ええーっ!うん。
(山里亮太)
ドッペルゲンガー的な?
映画で出てくる怪物は、”私たち”
(町山智浩)
そう。ドッペルゲンガー。
”自分に似ている人は世界に3人いる”とか言いますけども。
全く似た4人家族がいて、ただ赤い服を着ているという所だけが違うんですが。
彼らが家に入ってこようとするんですよ。
(山里亮太)
えっ、怖っ!
(赤江珠緒)
ふんふん、赤い服で?
(町山智浩)
赤い服で。てか、自分たちと全く同じ顔、形をしている4人の家族がね。
で、入ってこられちゃって。抵抗をするんですけど。
で、アデレードさん達を縛り上げて。
「このあなたたちの生活を、私たちが乗っ取るから」って言われるんですよ。
(赤江珠緒)
(山里亮太)
うっわ〜怖っ!
(町山智浩)
で、血みどろの戦いになっていくというホラー映画なんですね。
そう。だから『Us』(アス)って言うんですけど、”私たち”というタイトルなんですが、
これ、監督はジョーダン・ピールという人で、この前に『ゲット・アウト』という映画でアカデミー賞を取った人ですね。
(山里亮太)
はいはい。
いや怖かったですもん、『ゲット・アウト』も。
前作、『ゲット・アウト』
(町山智浩)
ゲット・アウト。はい。あれでね、アカデミー脚本賞を取ったんですが、
あれは黒人の青年が婚約者の白人女性の実家に行くと、なんかすごいチヤホヤされるんですよね。
で、なんでだろう?って思ったら、その白人のまぁ村というか街の人達は、黒人の男性の体を奪い取って、これはオチになっちゃうからアレなんですけども、大変な事をしているという事がわかっていくというホラー映画だったんですけれども。
えぇ今回はですね、もっと、その、あれ(ゲット・アウト)は黒人にとってのホラーっていう形なんですが、今回はまぁ結構誰にでも怖い事を目指したと言ってるんですね。
(赤江珠緒)
うん。
(町山智浩)
で、この監督はまず、いちばん最初に怖かったのは、昔子供の頃に見た『トワイライトゾーン』という日本だと『ミステリーゾーン』というタイトルでやっていたテレビドラマシリーズがあるんですよ。
それが発想の元になっているらしいんですけども。
それがね、1960年代のモノクロ30分ドラマで日本のタモリさんがやっていた『世にも奇妙な物語』とかの元になってる、はいドラマなんですね。一話完結なんですが。
その中でこういう話があったんですよ。
これ僕も子供の頃に見ているんですけども。
あの、働いている女の人が、独身のね。面接かなんかに行くんで、長距離バスに乗って旅をしなきゃなんないんですが、で、なかなかバスが来ないんで、バス乗り場の係員の人に「ねえバスいつになったら来るの?」って聞くと、「何言ってんだ?あんた、さっきもそれを聞いたじゃないか」って言われるんですよ。
(赤江珠緒)
えっ?
(山里亮太)
ぅわ。。怖い話だ・・うん。
監督が子供の頃に見た『トワイライトゾーン』
(町山智浩)
で、「えっ?」って言って。
今度トイレに行くと、トイレを掃除しているおばさんに「あなた、なんか体の具合悪いの?」って言われるんですよ。「なんでそんな事を聞くの?」「さっきトイレ来たばっかりじゃないの」って言われるんですよ。
(赤江珠緒)
あらら?
(町山智浩)
で、「えっ?」って振り返ると、そのバスが来ちゃってですね、
そのバスに自分とそっくりの人が乗って行っちゃうんですよ。
(山里亮太)
っあーうわぁー!
(町山智浩)
自分は乗り遅れちゃうんですけど、バスに。
バスに乗り遅れてしまって。彼女はそうやって自分の仕事先に行って、彼女の仕事を乗っ取っちゃうわけですよ、もう1人の自分が。
その時に彼女はこう言うんですよ。「世の中には似ている人がいるんだ。」と。で、「いつかその人に突然、のっとられてしまうかもしれない。」って言うんですよ。
自分の持っているものを。仕事だったり家族だったり地位だったり。
っていう話なんですね。その『トワイライトゾーン』っていう話って。
(赤江珠緒)
はー!
(町山智浩)
で、それがすごく、このジョーダン・ピール監督の子供の頃ものすごく怖くて。
(赤江珠緒)
確かにじんわり怖くなる話ですね、それ。
ジョーダン・ピール監督の子供の頃
(町山智浩)
そうなんですよ。
それで彼はニューヨークに子供の頃、あの地下鉄で学校に通っていたらしいんですよ、結構いい家の子で。
その時に地下鉄のホームの向こう側のホームに自分とそっくりの少年が立ってて、ニヤリと笑う。とかそういう事を想像して怖くなったらしいんですよ。
で知らない間に自分の家族が乗っ取られちゃったりする訳ですよ。
その『トワイライトゾーン』の怖いのは、バスに乗って自分の仕事を乗っ取られてしまった後のその女性がですね、
「私とそっくりの人に乗っ取られたのよ!」みたいな事を言うんですけど、精神病院に入れられてしまうんですよ。
(赤江珠緒)
はぁーーー!
(町山智浩)
その頃1960年代のアメリカでは、非常にもう、精神病院に入ったらなかなかこう社会に復帰ができないんですよね。
だから本当に実際のそのそっくりさんに乗っ取られてしまいましたっていう終わりなんですよ。
(山里亮太)
えーーっ!
(赤江珠緒)
人生を奪われたという。
『トワイライトゾーン』を見た経験を活かし、ホラー映画を今作成
(町山智浩)
で、それを、いま、彼がですね、ホラー映画にしたんですけども。
もうひとつ彼が、怖かった理由というのは、彼は黒人なんですね。彼は豊かなんですよ。
でもニューヨークとかそういう所に行くと、ホームレスの人がいるわけですね。
特に彼が育った1990年代だと、ニューヨークの地下鉄ってものすごいホームレスがいたんですよ。
「Mole People」モグラ人間っていう言葉でも呼ばれてたんですけども、地下鉄の中に家族とかが住んでいたんですよ。
(赤江珠緒)
ふぅーん!
(町山智浩)
日本でも結構紹介をされたかもしれないんですけど、その地下鉄の中で本当に生活をしている人達がいたぐらいひどかったんですよね。でも、そこに自分と同じような顔をした男の子もいたでしょうね。
(山里亮太)
んーなるほど、そっか。そういう人と、ひょっとして・・。
(町山智浩)
そう。もし、ていうか、自分がたまたま豊かで恵まれているのは、たまたま、まぁいい家に生まれたから。
だけど、もしかしたら、あぁいうものすごい貧しい人達の家に生まれたかもしれないんですよ。
(赤江珠緒)
それはそうですね、うん。
特権の怖さを描いた
(町山智浩)
で、それは偶然でしかないんですよ。
能力と関係ないですからね、生まれっていうのは。
したら、僕が彼であって、彼が僕であるという事は容易に逆転してしまうんだという恐怖があったと思うんですね。
(赤江珠緒)
うーん!
(町山智浩)
で、これはジョーダン・ピール監督に僕が直接会って聞いたんですけども。
「とにかくこの映画はPrivilege(特権)というものの怖さを描いているんだ」って言ってるんですよ。
(赤江珠緒)
へぇ〜!
(町山智浩)
それは、「たまたま、人はみんな、どんな家に生まれたかでアメリカは大体、その後に人生って決まっちゃうじゃないか」と。
「貧しい所に生まれたら勉強とかさせてもらえないし。そうするといい学校にも行けないから、したら人生が貧しくなっちゃうか、下手すると犯罪者になっちゃうかもしれない。」と。
で、「自分がたまたまそうならなかったのは、たまたまなんだよ」って。
(赤江珠緒)
そうですね。その流れで言うと。
うんうん。
慈善活動「Hands Across America」とは
(町山智浩)
そうなんですよ、そういう怖さなんですよね。そう考え出すと、怖くてしょうがないって。
で、もうひとつ要素があってですね。この映画は1986年から始まるんですよ。話が。
で、1986年に、ジョーダン・ピール監督がひとつの事を覚えていて、子供の頃。
それは大きなイベントがアメリカであったんですね。それは「Hands Across America」っていう慈善運動で。
貧しい人たちを救う為に、寄付を集める為に、ハンド・イン・ハンドでアメリカ中の人達が手を繋いで、西海岸から東海岸までひとつの手を繋いだ列を作りましょうっていう運動だったんですよ。
(赤江珠緒)
えっ西海岸から東海岸まで!?
(町山智浩)
そうです。ものすごい距離ですよ、日本の何倍もの距離。
で、それを可能にする事で、その時にお金を集めて、それを貧困層救済に使おうというキャンペーンだったんですよ。
(山里亮太)
うんうん。
(町山智浩)
で、その手繋ぎ自体は、実際にできたんですよ。
(山里亮太)
すごい。
(町山智浩)
ところが、寄付は集まらなかったんですよ。
(赤江珠緒)
えっ?なんで?
相当な人が来たでしょうに。
(町山智浩)
そう。でも目標額に達しなかったんですよ。
それだけじゃなくて、「なんで1986年なんですか?」って僕が聞いたら、「そのあたりから、ものすごく貧しい人がどんどん増えていった。」ってジョーダン・ピール監督が言うんですよ。「あれが分岐点だったような気がする」って。
(赤江珠緒)
ふーん!
アメリカの格差社会
(町山智浩)
で、これ数値的に正しいんですね言ってる事が。
アメリカってその彼が子供の頃、1980年代のはじめで、アメリカの1番金持ちの、1番最高に金持ちの1%は、アメリカ全体の経済の富の11%しか持っていなかったんですけども、現在、20%以上を彼らが独占していて。
(赤江珠緒)
1%の人が?えぇーっ。
(町山智浩)
たった1%の人が。
それで、アメリカの真ん中から下の人達。
だから半分の、真ん中から下の、まぁ貧しいって訳じゃないですよ、ちょうど中間の人から下、ですね。
アメリカの人口の半分がですね、その当時、1980年代当時は20%くらいの富を所有の20%していたんですけど、現在13%以下に落ちているんですよ。
(赤江珠緒)
はー、下がりましたね。
(町山智浩)
だから富がものすごいお金持ちの所に集中するという形で格差が異常に進んだんですね。その原因ははっきり言うと、その80年代からレーガン政権が始めたお金持ちに対する減税。が、ずーっとその後も共和党政権になる度に「金持ち減税、金持ち減税」って続けてきているから、結果としてこうなっちゃったんですよ。
(赤江珠緒)
うーん。
(町山智浩)
あとまぁあの、法人税の減税ですね。
(赤江珠緒)
そっちばかりを優遇して。
ホラー映画でも、込められた意味
(町山智浩)
そうなんですよ。それで福祉とかを減らしていったから、でまた学校の学費がどんどんと上がっていったんで、結果的にこうなってしまったと。
という部分が、この『Us(アス)』という映画では、はっきり、何もそれは言っていないんですが、「Hands Across America」っというイベントを出す事で、「あの頃はみんなで貧しい人を救おうとしたじゃないか。」と。「でもその後にどうなった?もっとひどくなったね」と。
(赤江珠緒)
えぇー。ホラー映画でそういう事が込められているんだ!
(町山智浩)
この人はそういう事をやったんですね、ジョーダン・ピール監督は。っていうのは、この人は元々コメディアンで、お笑いの人なんですよ。キー&ピールっていう漫才コンビです。で、コント番組をずっと作っていたんですよこの人。2人で。
(赤江珠緒)
へー、そうなんですね。
(町山智浩)
『マッドTV』っていう番組からその『キー&ピール』っていう番組で、ずっとコントのほとんどが人種問題だったんですよ。
(赤江珠緒)
ふーん!
(山里亮太)
へえーっ!
(町山智浩)
このジョーダン・ピールっていう人とキーガン=マイケル・キーっていう相棒はお父さんとお母さんが白人と黒人なんですよ。
(赤江珠緒)
うんうん。
お父さんとお母さんが白人と黒人
(町山智浩)
で、どっちにも入れないで、ずっと両方から差別されて、色々と悩んできた男の子なんですよ、2人とも。
だから道を歩いていると突然、彼らは結構いい家の子なんで白人ばっかりの住宅街を夜歩いているとするじゃないですか。そうすると、「お前なんだ?」っていう感じで警察官に突然こう職質されて、「怪しいんじゃないか?」みたいな事やられるわけですよ。そこに自分の家があるのに。
(赤江珠緒)
うん。
(町山智浩)
そこは中産階級の住宅街だから黒人がいちゃはおかしい。いるんだったら泥棒だろうっていう風な考え方なんですね、警官は。それって、『ゲット・アウト』の1番最初で出てくるシーンなんですよ。『ゲット・アウト』の1番最初はある黒人の青年が、夜ですね、白人ばっかりの高級な中産階級の住宅街を歩いている時に「しまった!こんな所に俺がここで歩いていたら大変な事になる!」っていう所から始まるんですよ。
(赤江珠緒)
へぇぇ。。
(町山智浩)
見てるとわからないんですよ。なんで彼がそんなに怖がっているのか。
黒人が1人で中産階級の住宅街を夜歩いていたら、泥棒扱いされて撃たれるか逮捕されるんですよ。
(赤江珠緒)
ひどいな、うん。
(町山智浩)
実際アメリカはそういう事が次々と起こっているわけじゃないですか。それを彼は恐怖だったんですね。ジョーダン・ピール監督は。そういった所からホラー映画を作っていく人なので、非常にその、なんというかですね。
社会的な問題とリンクしているんですね、恐怖が。
(赤江珠緒)
そういう事か、うん。
『Us(アス)』の怖さ
(町山智浩)
ただ、この『Us(アス)』が怖いのは、この主人公のアデレードっいうお母さんが、自分の家族を守る為に、自分にそっくりな家族と血みどろの戦いをするわけですよ。ところがその敵は、自分の息子と娘とそっくりなんですよ。それをぶち殺すんですよ!
(山里亮太)
うわあ、すっげえなこれ!
(赤江珠緒)
あーーーっそう言われたら、それ、やりづらいですね!
(町山智浩)
地獄ですよこれ。という、恐ろしい話になっているんですよ。
(赤江珠緒)
うわっ、敵ってわかっててても、そうね。家族の姿をしているんだもんね。
(町山智浩)
そう。だからこれ、ホラーっていう事で、モンスターっていう事ですけども、ねぇ。
誰でも、例えば家の前に、僕なんかでもそうですけど、誰でもそうですけど。”トントン”ってドアをノックされて、ドアの外を見たら、すごいボロボロの貧しい人がいて、「入れてくれ」って言ってきたらどうしますか?
(赤江珠緒)
いや、それは。。。
(山里亮太)
それ絶対もう、入れらんないです。
(町山智浩)
入れられないでしょう?で、警察を呼ぶとかなんかするじゃないですか。
ねぇ。でもそれでも入って来たら?入ってこようとしたら?
(山里亮太)
いや、それはもう・・戦うしかないのかな?
(町山智浩)
という事になってくるじゃないですか。あっちの方が暴力とか振るったりした場合にね。で、それが自分だったら?っていう事なんですよ。
(山里亮太)
はーーーーー、こっわっ!
どっちがモンスター?
(町山智浩)
怖いんですよ、これ。ものすごく怖くて。で、じゃあこの場合どっちがモンスターなのか?っていう事になってくるんですよ。自分の家族を守る為に他の人の家族を殺す主人公はモンスターじゃないの?自分の幸せを守る為に、他の家族の不幸に目をつぶるのって、同じじゃないの?っていう事なんですよ。「そんな事言われても、困るよ!」っていうような質問というかですね。疑問を投げかけてくる恐ろしい映画なんですよ。
(赤江珠緒)
うーん!
(町山智浩)
でもみんなそうじゃないですか。アメリカだと本当にホームレスの人がいっぱいいて、子供と一緒に道に座っていたりするんですよね。その人の横を子供を連れて通り過ぎる時の感じって、ものすごい感じですよ。
(赤江珠緒)
はぁーそうかそうか。心理的なね。。
(町山智浩)
そこで、まあお金は渡しますけども。でも、そのちっちゃい男の子に対して、女の子に対して何もしてやれない親っていう姿を自分の子供に見せるわけですよそれは、その瞬間。
(赤江珠緒)
そういう事ですよね。
(町山智浩)
その罪悪感というかですね、それが最大の恐怖になってるんですよ、この『Us(アス)』という映画は。どこにも行けない感じなんですよ。
(赤江珠緒)
怖さの根源が今回、すごい、難しいですね。
(町山智浩)
そうなんですよ。しかも、ジョーダン・ピール監督は、こう言うんですよ。「これは一つの家の物語にしているけども、これ国家規模で起こってるからね?」って。
(赤江珠緒)
そうそう、それは思った、今。本当、まさに。
これは一つの家の物語にしているけども、これ国家規模で起こってるからね?
(町山智浩)
今アメリカだとその中米の、前も話したんですけど、中米のギャング国家、で、殺されちゃってどうしようもないから、子供を逃がすためにわざわざアメリカに来る人達がいる訳ですよね、難民として。
ところがドナルド・トランプは入れない訳ですよ。壁を作って。「あんなやつらは叩き出す!入れない!」と。
それは、アメリカの平和と富を守るためなんだと。でもやってる事は、貧しい男の子や女の子が家に入って来ようとしてる、ねぇ、「ご飯を食べさせて」って言っている子達を叩き出しているのと同じ事なんですよね。
(赤江珠緒)
うーん。
(町山智浩)
で、ヨーロッパでも同じ事が起こっていますよね。「シリアとかの難民を叩き出せ!」みたいな運動があったり。
(赤江珠緒)
うん。
(町山智浩)
それをこの一つの家族の血みどろのホラーで描いていくという、すごい映画でしたよ。
(赤江珠緒)
血みどろかぁ、そうかー。結末が本当、ちょっと読めないですね。今お話を聞いても。
(町山智浩)
うん。結末ね、結末というかこれは後半からあっと驚く展開になっていくんですけど。ただ、これがね、アメリカで大大大ヒットしたという事は、やっぱりアメリカ人みんなの恐怖のツボをついていたんだと思うんですよ。
(赤江珠緒)
ふーん!
(町山智浩)
というね、映画で。もちろん日本も全然、こう格差社会も進んでますしね、難民問題もこれからありますから。全然他人事ではないですよね。
(赤江珠緒)
深いし壮大なテーマのホラーだったんですね。『Us(アス)』。
(町山智浩)
そうなんですよ。本当にイヤーなイヤーなイヤーな気持ちになる映画ですけども。(笑)
(赤江珠緒)
3回言いましたね。町山さん(笑)
(町山智浩)
はい。すっげー嫌な気持ちになりますよ!まあ、言えないですけども。
(赤江珠緒)
へぇ〜!『Us(アス)』は日本では、夏頃公開予定という事だそうでございます。
家の前に赤い服の自分が・・怖い!
(町山智浩)
そう。ちっちゃい子もいるんですよ。
(赤江珠緒)
赤い服の上に、山ちゃんは赤いメガネだからね。(笑)
(山里亮太)
そうね、やだぁー!(笑)
(赤江珠緒)
はい。町山さんありがとうございました。
(町山智浩)どうもでした。
<書き起こしおわり>
○○に入る言葉のこたえ
①ジョーダン・ピール監督「とにかくこの映画はPrivilege(特権)というものの怖さを描いているんだ」
②現在アメリカでは、富裕層上位1%がアメリカ全体の経済の富の20%を独占している。