アリー/ スター誕生の町山智浩さんの解説レビュー
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映画評論家の町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』(https://www.tbsradio.jp/tama954/)
で、ブラッドリー・クーパー監督作品、『アリー/スター誕生』のネタバレなし解説を紹介されていましたので書き起こしします。
映画視聴前の前情報として、また、映画を見た後の解説や考察レビューとして是非ご参考ください。
町山さんアリー/スター誕生、解説レビューの概要
①ブラッドリー・クーパーの泥酔の演技は見もの!実はこれ、全て○○で演じている!
②ブラッドリー・クーパーとレディ・ガガ非常に近いカメラワークで、恋している2人のすぐ横で鑑賞しているような世界に引きずり込まれる。
③殆どがアドリブで撮影されている為、一般的な映画では見られないシーンが頻出する。
※○○の中に入る文章は、この記事の1番最後で公開しています。
TBSラジオたまむすびでラジオ音源を聞いて頂くか、書き起こし全文をご覧頂くか、この記事の1番最後を見て頂く事で判明します。
(町山智浩)
はい、町山です。どうもです。よろしくお願いします。
(赤江珠緒)
お願いします〜。
クリント・イーストウッドのニュース
(町山智浩)
さっきクリント・イーストウッドに会ってきたんですけど。
(山里亮太)
えぇっ!!!
(町山智浩)
インタビューですよ、新作なんで。(笑)88歳か。で、新作映画で、『運び屋』っていう映画なんですけど、セックスシーンありました!
(赤江珠緒)
うぇ〜!
(山里亮太)
ははっ!(笑)最初の報告がそれじゃないと思うんですが。(笑)
(町山智浩)
セックスシーンありました!88歳!ピチピチのセクシー美女2人と同時!でした!
(山里亮太)
ほー!
(町山智浩)
誰が見たいか?とか色々問題がありますが。(笑)それでですね。
(山里亮太)
それでですねじゃないですよ町山さん!(笑)
今回紹介する映画『アリー/スター誕生』
(町山智浩)
へへっ。(笑)その時にね、今回紹介する映画『アリー/スター誕生』の話をしたんですよ。で、それは監督・主演・脚本がですね、ブラッドリー・クーパーっていう、『アメリカン・スナイパー』に主演したクリント・イーストウッドのなんて言うか、まぁ、お弟子さんなんですね。で、元々イーストウッドが『スター誕生』を撮るはずだったんですよ。で、それを譲ったんですね、お弟子さんのブラッドリー・クーパーに。
(赤江珠緒)
あぁそうなんですか。
元々イーストウッドが監督する予定だった
(町山智浩)
そう。そしたら、彼は、主演女優をレディ・ガガさんにしたいと。言って、イーストウッド御大はその時、「やめとけ」って言ったらしいんですよ。
(赤江珠緒)
えっ? 元々じゃあ、クリント・イーストウッドさんは誰で撮るつもりだったんですか?
(町山智浩)
ビヨンセさんで撮るはずでした。
(山里亮太)
へーえ!!
(町山智浩)
で、まあ『スター誕生』が出来上がったのを見たら、「俺のアドバイスは間違っていた」って言っていましたね。
(赤江珠緒)
えーー!!ガガさんは、演技とかっていうのは結構されているんですか?
レディー・ガガは名門縁起学校で勉強していた
(町山智浩)
あのね、クリント・イーストウッドは知らなかったんですよ。彼女は実は、歌手として知られているんですけど、実はですね、ニューヨークの名門演技学校の、養成所のですねアクターズスタジオっていう所でちゃんと勉強している人だったんですよ。
(赤江珠緒)
あ、そうなのねー!!
(町山智浩)
ものすごい苦労人なんですよ、あの人。だからイーストウッド御大がね、「ああ、失敗した」って言っていましたよ。「ブラッドリー・クーパーでよかった。」って言っていましたね。はい。自分じゃなくて。
(赤江珠緒)
そんなに成功した映画なんだ。
アカデミー賞総ナメ
(町山智浩)
今ね、この『アリー/スター誕生』っていう映画は今アカデミー賞のノミネートが発表になりますけども。おそらく最優秀作品賞、監督賞、主演男優賞、主演女優賞、主題歌賞のノミネートは確実だろうと言われています。
(赤江珠緒)
おぉーっ!結構総ナメですよ。
(町山智浩)
総ナメになるだろうと。まあ、ノミネートですけどね。受賞するかどうかは置いといて。で、まあその映画『アリー/スター誕生』について話したいんですけども。これね、もう4度目の映画化なんですよ。
(赤江珠緒)
うん。
『アリー/スター誕生』は4度目の映画化
(町山智浩)
はい。一作目は1937年。で、それが最初の『スター誕生』なんですけども、お話はね、田舎出身の女優になりたい女の子が、ちょっと年上のハリウッドの既にスターになっている男性の俳優に見出されて、発見されて。だから『マイ・フェア・レディ』みたいな感じですね。はい。で映画スターと2人で恋に落ちて結婚して、で彼女は映画スターとして成功をしていくんですけども、奥さんが映画スターとして成功をすればするほど旦那の方はどんどん落ち目になって酒に溺れて滅んでいくっていう話なんですよ。
(赤江珠緒)
ええーーっはいはい。
(町山智浩)
あの結構キツい話なんですけども。はい。でね、2回目の映画化は1957年で、これ主演のスターになるのは『オズの魔法使い』のドロシーを演じた、ジュディー・ガーランドさんですね。はい。彼女は歌手だったんで、ここからミュージカル映画に変わってくるんですよ。『スター誕生』シリーズっていうのは。シリーズじゃねぇけど。(笑)
(赤江珠緒)
ふふふ、うん。
(町山智浩)
でね、3回目の映画化は1976年で、これ僕はリアルタイムで見ていますけども、主演はバーブラ・ストライサンド。で、これはね、ロックの話です、ロックシンガーの話です。基本的にはね、さっき言ったストーリーのままなんです4本とも。今回のも含めて。
(赤江珠緒)
なるほど。じゃぁストーリーとしてはみんなわかっているあらすじだから。
描かれているテーマが昔からまるで変わっていない
(町山智浩)
みんな知ってる!誰でも知っている話なの。でも何度も何度もこれがなんでそんなに映画化されるのかっていうと、そこに描かれている問題っていうかテーマが昔からまるで変わっていないからなんですね。
(町山智浩)
それは夫婦の問題だったりいろいろとあるんですけども。だからね、この『スター誕生』っていう映画の中でもセリフで出てくるんですけど、「ひとつの歌はいろんな歌手に歌い継がれていくだろう」と。まあ、そういった映画なんですね。
(赤江珠緒)
うん。
(町山智浩)
名曲はいろんな歌手に歌い継がれていくと。『スター誕生』もまたそうであると。
(赤江珠緒)
あぁそういう事か。
監督・脚本・制作・主演を1人で全部やったブラッドリー・クーパー
(町山智浩)
はい。でね、今回まずすごいのは、この監督・脚本・制作・主演を1人で全部やったブラッドリー・クーパーさんなんですよ。二枚目俳優なんで、『ハングオーバー!』なんかでコメディーをやっていたりした人なんですけど。『ハングオーバー!』までは全く売れなくて苦労していた人なんですよ。で、今回はこれ、彼、ロックミュージシャンの役で、パールジャムのエディ・ヴェダーみたいなキャラクターなんですけどブルース・ロックをやるんですが、彼これまで歌った事もギターを弾いた事もなかったんですね。ブラッドリー・クーパーは。
(赤江珠緒)
えぇっ!
(町山智浩)
で、この映画をどうしても映画化したいっていう事で3年間ですね、毎日4時間から5時間ずつ毎日練習したんですよ。
(赤江珠緒)
えっ!そんなに時間をかけて!?まぁ、そうしないと、そうかー・・!
ギターを練習したブラッドリー・クーパー
(町山智浩)
そう!すごいんですよ!あと声がすごいんですね。ブラッドリー・クーパー僕は会った事があるんですけど、普通にしゃべると普通なんですけども、今回の『スター誕生』ではあの、カウボーイの酒でボロボロのロックミュージシャンの声を出すためにですね、全然違う声を出していました。「I know you man!」とかそういう声なんですよ。「I know bad.」とか言う声なんですね。で声を完全に作っていますよ。それがすごいんですよ。サム・エリオットっていうテキサス生まれのカウボーイ俳優の人がいて、その人と兄弟の役なんですよ。で、兄弟なのに声が違いすぎるとおかしいっていう事で、サム・エリオットの声に合わせたって言っているけど、そういう役作りなんだっていう。(笑)
(山里亮太)
はー!
レディー・ガガは本格的な歌手で本格的な女優であるという事を見せる映画
(町山智浩)
だからこれ、兄弟2人で「I know you man!」とかって言ってるんですよ。そこもおかしいんですが。で、あとね、レディ・ガガはとにかくね、今回は彼女本格的な歌手で、本格的な女優なんだっていう事を徹底的に見せる映画になっているんですね。
(赤江珠緒)
ふーん!
(町山智浩)
今までは生肉ドレスとかね、あの素っ頓狂な格好をしてたんで。
(赤江珠緒)
そっちで話題になりましたもんね。
レディ・ガガはほぼスッピン
(町山智浩)
そう。あとはメイクがすごいですよね。で、今回はもう殆どすっぴん。すごいですよ。ステージのシーン以外はほとんどすっぴんですね。だから本当に生のレディ・ガガを見せるっていう映画になっていますけど。とにかくね、ありとあらゆる点がね、生々しい映画でね。まずこのブラッドリー・クーパー演じるジャクソンっていうロックシンガーの演奏シーンから始まるんですけど。いきなりなんかね、ボリボリとヤバい薬を飲む所から始まって、でね、これ演奏をちょっと聞いてもらいましょう。『Black Eyes』という曲で、彼自身が歌っています。
(町山智浩)
はい。これ、今まで歌った事のなかった人の歌に聞こえないですね。
(赤江珠緒)
すんごいですね本当!これを役作りのために?
(町山智浩)
そうなんですよ。低い声をですね、本人の声じゃない低い声を出しているんですけれども、ボイストレーニングで。で、ただね、これ演奏をしている間も客の方を全く見ないんですよ。で曲が終わるとラッパ飲みしてるんですね酒を。もうボロボロなんですよ、酒とドラッグで。で、さまようようにしてですね、バーに入るんですけど、そのバーがね、いわゆるドラッグバーっていう女装バーなんですよ。そこでレディ・ガガさん演じるアリーが歌っているんですね。
(赤江珠緒)
うん。
『バラ色の人生』『La vie en rose』
(町山智浩)
で、エディット・ピアフのシャンソンの『バラ色の人生』っていう有名な『La vie en rose』っていうのを歌ってるんですけども、あまりにもその歌の表現力がすごいんで、ジャクソンは一発で「これはすごい!この人スターだ!」って思うんですよ。
(赤江珠緒)
うん。
(町山智浩)
でも「なんでこんな30過ぎまでこんな所で埋もれているの?」って聞くと、そのレディ・ガガ扮するアリーは「私、”あんまりかわいくないから”って言われてデビューできないの」って言うんですね。
(赤江珠緒)
ふーん!
事実の話も練り込んでいる
(町山智浩)
でね、「なぜ?」って言うと、「”鼻がデカすぎる”って言われるのよ」って言うんですよ。でね、これは実際にレディ・ガガが言われたんですって。「君、その鼻を手術して低くしたらデビューさせてやるよ」とか言われたらしいんです。
(赤江珠緒)
そうですか、そんなリアルな話を盛り込んでいるんですか?
(町山智浩)
はい。で、本当に手術する直前まで行ってたんですけど、やめたらしいんですけど、友達に止められて。でね、これ70年代版の『スター誕生』の主演だったバーブラ・ストライサンドもまったく同じ事を言われているんですよレコード会社から。
(赤江珠緒)
えっっ?
(町山智浩)
この人も鼻がデカいんですね?
(赤江珠緒)
はー!
歌と演技の才能で成功
(町山智浩)
「君は鼻がデカいからスターになれないよ」って言われているんですよ。でも彼女も、バーブラ・ストライサンドも手術を拒否して。それでも歌と演技の才能で成功したんですよ。
(赤江珠緒)
ふーん!
(町山智浩)
ただね、これ、男だったら言いますかね?「君、鼻がデカいからデビューできないよ」って男のミュージシャンとか俳優に言わないでしょう?
(山里亮太)
言わないですね。
(赤江珠緒)
確かにね。
(町山智浩)
これ完全な差別なんですよ。そこから始まるんですよ、この話は。『スター誕生』は。で、そのジャクソンはアリーが「私、鼻が大きいから」って言ったら、「いや、僕は君の鼻は最高に美しいと思うよ。好きだぜ」って言うんですよ。
(赤江珠緒)
ほう!
出会って2分で恋に落ちる
(町山智浩)
出会って2分ぐらいです、はい。(笑)これでもう2人はもう恋に落ちちゃうんですね。はい。でね、またこのブラッドリー・クーパーもね、さっきレディ・ガガのキャラクターが本人をもとにしているって言いましたけど、その女装バーで歌っていたっていうのも本当なんですね。はい。彼女はすごくドラァグクイーンとかにすごく人気があるんですけど、元々そういう所から出てきた人なんですよ。で、あのファッションとかもそういう人たちから学んだんですよ、あの化粧も。
(赤江珠緒)
なるほどなるほど。
(町山智浩)
その彼女に色々と教えてくれた、そのドラァグクイーンの人も出てます!今回の映画に。
(赤江珠緒)
へぇー!
ブラッドリー・クーパーはアルコール中毒だった
(町山智浩)
師匠なんで。でね、ブラッドリー・クーパーの酔っぱらい演技もすごくて本当に酔っぱらっているようにしか見えないんですけど、彼一滴も飲んでいないですよ、この映画の最中に。彼アルコール中毒だったんですよ。
(赤江珠緒)
えっ。元々ですか?
(町山智浩)
そう。『ハングオーバー!』っていうアルコールで酔っ払った二日酔いの映画に出てスターになるまで、彼売れなくて。なかなかね、その前も少しずつは売れてたんですけど売れない期間が長くて、その時にアルコール依存症になっているんですよ彼。
(赤江珠緒)
へぇー!
一滴も酒を飲まずに演技をしている
(町山智浩)
だから、一切飲めないんです。もう。小田嶋さんとかもそうですけど、依存症に1回なった人はその後もう飲めないんですよね一生ね。だから彼は一滴も飲めないんだけど、過去になった時の記憶で演技をしているんですよ。
(赤江珠緒)
演技してる!
(山里亮太)
ほぉ、その引き出しで。
(町山智浩)
そう。すごいですよ。本当に酔っぱらいにしか見えないですよ。すごいんですけど。で、こんなにね、ひどい酔っぱらいになってて、なんでこんなになったのか?っていう話を会ったその日に、打ち明け話をするんですけども。このジャクソンがね、アリーに。で、「実は父親もアルコール依存症で、ひどい目にあった上にその両親共に僕が子供の頃に死んでしまった。だから歌しか助けがなかったんだ、それで歌うようになったんだ」って言うんですね。
それを聞いて、そのアリーは「このジャクソンという彼は心の中にすごい空っぽがあるんだ」という事を理解して彼のために歌を作るんですね。それがね、『Shallow』っていう歌なんですけど、ちょっと聞いていただけますか?
〜音楽〜
『Shallow』
(町山智浩)
はい。えっとこれはね、このアリーがジャクソンのために作った歌で。彼とアリーのデュエットなんですけど、お互いにね、「この世の中で私たちはどうも居場所がないじゃないか。だからお互いに何かを探しているのよね」っていう歌なんですよ。
(赤江珠緒)
ふーん。
(町山智浩)
で、この「Shallow」っていうのは「浅い所」っていう意味なんですけど、具体的にはプールの浅くて足が立つ所の事を「Shallow」って言うんですよ。でも、「もう私たちは出会ってしまって、お互いの求めているものを知ってしまったから、私たちはもう足がつかない深みに来ちゃったのよ」っていう歌なんですよ。
(赤江珠緒)
へぇー!
(町山智浩)
だからこれでもう2人は今まで求めていたけども世の中に求め切れないものをお互いの中に見つけて、この会ったその日に完全に恋に落ちて、パズルが合体するみたいになったのがこの歌なんですよ。
(赤江珠緒)
じゃぁもう本当に出会うべくして運命の人に出会ったみたいな?
『Shallow』を作っていく過程
(町山智浩)
そうなんですよ。これで彼も助かるのかな?って思わせるんですね。ここの所、この歌を作っていく過程が1番泣かせるんですけども。で、これ撮影がすごくて、このあたりの撮影がね。これ前も話したんですけど、この映画ですね、ずーっとカメラがその2人からですね、離れないんですよ。
(赤江珠緒)
えっ?
(町山智浩)
50センチぐらいの距離で撮影し続けているんですよ。
(赤江珠緒)
へぇー!
カメラが近い
(町山智浩)
ひどい時は20センチぐらいまで寄っていますね。すごいですよ。これ、撮影のメイキングを見てもカメラがずっと2人の横にくっついて撮っていますから。
(赤江珠緒)
ここで演技をするって。「近い、近い、近い!」とか思いそうですけどね。
(町山智浩)
そう。これね、マシュー・リバティークっていう撮影監督なんですけども。このオッサンがすぐ横にいる所でキスしたり大変だろうなって思いましたよ。(笑)
(赤江珠緒)
ねぇ!!
(町山智浩)
だって「愛しているわ」とか言う所カメラに向って言っているわけでね、このオッサンに向かって言っている訳ですからね、このリバティークっていう人にね。(笑)名カメラマンですけども。(笑)
(赤江珠緒)
これ演技力が本当求められますね。
観客に向かって「愛しているわ」と言っているように感じる
(町山智浩)
そう。その目の前にはレンズしかないんですからね、実際は。(笑)でもこれね、だから観客に向かって言っているように聞こえますよ、「愛している」っていうのが。「愛しているわ」って。で、2人がこう、キスしたりする所とかも、本当にもう横から割り込んで見ている感じなんですよ。(笑)
(赤江珠緒)
ははははっ!!
(町山智浩)
自分もしちゃう感じです。(笑)
(赤江珠緒)
そんなに近い感じ、へぇ〜!
(町山智浩)
ものすごい近い。これもすごくて、だからお互いカメラがですね、すごくピントが浅いレンズで撮っているんですよ。だからお互いの顔以外が全然見えないんですよ。
(山里亮太)
あ〜なるほど。
(赤江珠緒)
ふーん!
2人の世界
(町山智浩)
要するに2人の世界に入っちゃう。で他はみんなボケボケ。
(赤江珠緒)
あ〜そういう事か。
(町山智浩)
だからね、本当に恋している2人の気持ちに観客を無理やり引きずり込むんですよ、カメラワークが。でね、しかもこれ、ブラッドリー・クーパーの演出なんですけども、殆どがアドリブで撮っているんですね。殆どアドリブで撮っているから、言い間違いとかが多いんですよ。言い間違いとか聞き直しとか、あとはセリフがかぶっちゃうのが多いんですよ。
(赤江珠緒)
へぇー!
(町山智浩)
そう。あとね、思わず笑っちゃったり。あと、ぶつけたりね、角とか。物を落としたりするシーンもすごく多いです。
(赤江珠緒)
それを自然に使っているんですか、もう。
リアルなシーン
(町山智浩)
そうなんですよ。普通それって、映画とか演劇だと絶対に見せないものですよね。でもそうじゃなくて、その本当にリアルな失敗したり噛んだりしている所とかも全部そのまま使っているんで。ドキュメンタリーみたいです。
(山里亮太)
はー確かにな〜。
(町山智浩)
だから本当にこの2人が俳優じゃなくて、そのアリーとジャクソンっていうのがいるような気持ちになってくるんですよ、見ていると。
(赤江珠緒)
へぇーー!
(町山智浩)
この人たちの友達になったみたいな感じになってくるんですよ。
(赤江珠緒)
はーーなるほど・・。
(町山智浩)
3P感覚ですね、はい!
(赤江珠緒)
いやいやいやいや。(笑)
(山里亮太)
友達で伝わってましたって、町山さん!(笑)
アリーは大スターに
(町山智浩)
すいません、違いました?(笑)ただね、これで2人がこの歌を作って完全に一致するわけですね。2人で合作をするわけですから、一緒の歌を歌って。ところがですね、アリーはそこからもう大スターになっていくんですよ、どんどんどんどん。すると、めちゃくちゃ忙しくなってきますよね?すると、せっかく見つけたアリーが手の届かない所にどんどん行っちゃうんですよ、ジャクソンにとっては。
(赤江珠緒)
うん。
(町山智浩)
で、取り残されてまた酒とドラッグに溺れていくんですよ。
(赤江珠緒)
あらあらぁ・・。
(町山智浩)
で、繋ぎ止めようとして結婚をするんだけど、アニーの人気上昇は止まらないんで。するとね、嫉妬をし始めるんですね、奥さんに。
(赤江珠緒)
ええっ、自分が見出したのに?
(町山智浩)
そう!
(山里亮太)
わかるよ・・。
嫉妬が始まる
(町山智浩)
で、「お前はあんなエレクトロ・ポップなんか歌いやがって、商業主義に身を売りやがったな!」とか言ったりで。
(赤江珠緒)
えぇーっそういうもん?えぇっ!?
(町山智浩)
そう。あとね、「本当の事を言うとね、お前はブサイクだと思うよ」とか言っちゃうの。
(赤江珠緒)
うわっ!えぇーっ!さっきまでの恋のロマンチックなあの感じはどうだったの?えぇーっ!
似たような実話がたくさんある
(町山智浩)
そう。だからグチャグチャになっていくんですけど。これね、最初の第一作の1937年の段階でこれ元々本当の話を元にしているんですよ。で、これはバーバラ・スタンウィックっていう女優さんとフランク・フェイっていうコメディアンの夫婦がいて。そのバーバラ・スタンウィックが大スターになるにつれて、その夫の方はどんどんアルコール依存症に落ちていって滅んでいったっていう実話がありまして。で、似たような実話がたくさんハリウッドにあるんで、この『スター誕生』っていう映画が作られたんですね。
(赤江珠緒)
そうかぁー。
(町山智浩)
そう。ただね、奥さんの方が稼ぎがいいとかで夫が嫉妬でおかしくなるっていうの、その逆っていうのはないでしょう?
(赤江珠緒)
あんまり聞かないですね。
(町山智浩)
ねえ。
〜音楽〜
あ、これは今最後の曲がかかっていますけども。
男と女の問題
(町山智浩)
結局ね、これも男と女の問題なんですよね。奥さんが仕事で忙しいと夫は構ってもらえないとか言って駄々をこねたりするって、おかしいですよね?
(赤江珠緒)
本当ですねーっ。。
(町山智浩)
だからこれ、ハリウッドの話なんですけど、どの夫婦にも当てはまるんですよね。あとね、アルコール依存症もひどいんですよ。だって最近ね、ブラッド・ピットが離婚されましたからね、アルコールが原因で、アンジェリーナ・ジョリーに。
(赤江珠緒)
そっかぁ・・・
ハリウッドに蔓延している問題
(町山智浩)
ねえ。これもハリウッドに蔓延している問題で。まぁ、だから依存症だったり女性が働く夫婦の話だったり、色々とですね、今言ったような3つの問題は今も昔も変わらないので、それこそが問題だと。この映画が作られ続ける限り、その問題は消えていないんだっていう事なんですよ。
(山里亮太)
なるほどぉ〜!!
(赤江珠緒)
そういう事ですね。これが認められて普遍的なテーマになっちゃっているという所ですね。
(町山智浩)
だからここを乗り越えられないと世の中は変わらないんだろうなと。これはだから、ハリウッドだけじゃなくて大ヒットしているという事を考えると、そこらじゅうで起こっている事ですよね。
(赤江珠緒)
はー・・そうかぁ。。はい。
(町山智浩)
ねえ。だからね、これを不滅の問題にすべきではないと思うんですけど。
(赤江珠緒)
そうですね。日本でも間もなく公開です。『アリー/スター誕生』は2018年12月21日公開です。
(町山智浩)
ただね、この歌がですね、非常に素晴らしい歌なんですけど、このスター自体、スターが本当に誕生するのは彼女が本当に何もかも、その愛する人を失った時なんですよ。だからこういう悲劇はなくなった方がいいんだけれども、こういう悲劇とか愛する人を失う経験こそが本当の芸術家を作るんですよね。スターが完成するのはまさに、彼女が大事なものを失った瞬間なんですよ。
(赤江珠緒)
はぁー・・・。
スターが完成するのはまさに、彼女が大事なものを失った瞬間
(町山智浩)
だからそこも芸能の皮肉なんですよね。
(赤江珠緒)
なるほど・・。じゃあ今日はこの曲を聞きながらね、町山さん。お別れになります。
(町山智浩)
はい。これはですね、最後にかかる『I’ll Never Love Again』というレディ・ガガの歌です。歌は全部レディ・ガガが作詞・作曲していますね今回ね。
(赤江珠緒)
今日は『アリー/スター誕生』を紹介してもらいました。町山さん、ありがとうございました。
(山里亮太)
ありがとうございました。
(町山智浩)
どうもでした。
※書き起こし終わり
○○に入る言葉のこたえ
①ブラッドリー・クーパーの泥酔の演技は見もの!実はこれ、全て一滴もアルコールを飲まずに演じている!